●紅に染まり
八王子焦土地帯に冬が訪れようとも、噎せ返る熱気が頬を焦がす。
そこここにある廃墟の一角で、隠れるように少女がうずくまっていた。
討ち倒さなければ。かの敵を。
混濁する意識のなか、ヴァルキュリアがケルベロスに囁く。
忘れるな。お前が果たすべき務めを。お前が倒すべき敵を。
「わたしの……倒すべき敵……」
倒さなければ。わたしはケルベロスだもの。
違うだろう?
「私の……倒すべき……敵は……」
呻く少女がまとうのは、シックな衣装ではない。
金に縁取られた赤いドレスのような鎧をまとい、頭には親しい相手から贈られたキャスケットと愛用しているゴーグルではなく、やはり赤いカチューシャを着けている。
銀の髪を彩る赤に、カチューシャの羽が揺れた。
倒さなければ。私はヴァルキュリアなのだ。
●銀を取り戻せ
「エマという娘を知っている者はいるか」
開口一番、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は集まったケルベロスたちに問うた。
エマ・ブラン(銀髪少女・e40314)。先の磨羯宮決戦にて蒼玉騎士団と渡り合い、仲間を守り逃がすためにその身を賭した。
「長らく待たせることとなったが、かの娘の行方が分かった。八王子焦土地帯の廃墟のひとつにいる」
敵を退けた後に、しばらく眠りについていたようだ。
暴走したケルベロスは彼女以前にもいる。その情報を得ている者にとっては、それがどういうことなのか理解できた。
ひとときの眠りは、人々の笑顔を守るケルベロスの少女を消し、敵を討ち滅ぼすヴァルキュリアとして目覚めるために。
ヴァルキュリアとして。それがただ種族としての立場ではないことを、この場に集まる者は言われずとも知る。
「かの娘は、アスガルドの敵を討ち果たさんと動こうとしている」
その戦いぶりは、一見すると近距離攻撃のように見えるが、暴走したことによる技量の上昇がその挙動を可能にする。
あっという間に間合いを詰めて攻撃を繰り出す彼女と対峙すれば、この戦場に安全な場所は存在しない。
そのような力を振るい、意識も暴走しているままにその目的を果たそうとすれば、好ましい結果が得られようはずもない。
普段の彼女を知る者たちの表情に、ザイフリートは静かに首を振り、それから告げた。
「まずは制圧し、正気に戻した上で連れ戻してほしい。だが、そのままではお前たちの手に余ろう」
そこで、彼女の弱みを突いて弱体化させることが推奨される。
ひとつは、後衛への攻撃誘引……後衛から執拗に挑発したり、怒りなどで注意を引きつけようとすること。
ただし、これを行った場合は後衛に向けての攻撃が優先される可能性が高いので、対応が必要だ。
もうひとつは、ショルダーシールドの左右いずれかのみを破壊すること。
重量バランスがおかしくなって動きが鈍くなるようなのだが、両方破壊すればバランスが戻ってしまうので、よく考慮して狙うべきだろう。
そしてもうひとつは、彼女の着けているカチューシャの羽を破壊すること。
「かの娘にとって、それはヴァルキュリアとしての誇りなのだ」
ザイフリートが言い添え、ケルベロスたちもまた真摯に頷く。
顔を半ばまで覆ったその表情ははっきりとは分からない。だが、その声には苦渋が滲んでいるように思えた。
これらの弱みを突かずとも、彼女と戦うことは可能だ。困難ではあろうが、決して不可能ではない。
どのような対峙をするか。
それは皆に任せると、ヘリオライダーは告げた。
戦場となるであろう廃墟は、八王子が焦土地帯になってから今に至るまで形を留めているだけあって、意図的に破壊するのでもなければ多少激しく戦っても崩れる心配はない。
懸念なく、全力で渡り合える。
「いずれにせよ、戦い続けなければならないのだろう」
ふと。ザイフリートは口にする。
エマ・ブランという娘の情報を得ていくうちに、様々な思いが去来したのだろう。
エインへリアルの王子としても、ヘリオライダーとしても。
「だが、己を見失ってなお戦うことが正しいとは、私には思えん。お前たちの手で目を覚まし、そして戻るべき場所に戻してやってくれ。ケルベロスたちよ」
彼女もまた、心優しきヴァルキュリアなのだから。
参加者 | |
---|---|
ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352) |
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815) |
宇原場・日出武(偽りの天才・e18180) |
御手塚・秋子(夏白菊・e33779) |
湊弐・響(真鍮の戦闘支援妖精・e37129) |
田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514) |
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102) |
フレデリ・アルフォンス(ウィッチ甲冑ドクター騎士・e69627) |
●
ぴりとした空気のなか、少女は近付く足音に顔を巡らせた。
「エマさん、やっと見つけた!」
オウガ粒子の煌めきをたゆたわせて叫ぶローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)の声に、彼女は応えない。
目的を果たすことを阻む者は討たねばならない。どこか深いところで何かがかすめたが、些末なことだ。
ぎっと睨みつけ、現れたケルベロスへ敵意をあらわにするヴァルキュリアに、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)はそっと息を吐いた。
「私が贈った帽子はどこにやら……」
輝く銀髪のうえにちょこんと乗ったキャスケット。そこに合わせたスチームパンク風のゴーグル。
ひらりスカートを翻して、レインボークォーツめいた瞳を輝かせて眩しいほどの笑顔で前を向く少女――エマ・ブラン(銀髪少女・e40314)。
だが今目の前にいる彼女は紅の鎧に身を包み、その手にはグレイブにキャノンを取り付けたガジェット「キャノングレイブ」を装着して、今にも攻撃を放とうとする様子に、その面影はかけらもない。
以前エマと行動を共にした少女からその真摯さを伝え聞いていた御手塚・秋子(夏白菊・e33779)が、きりと拳を握りしめる。
いや。あの時も今も、彼女は彼女のなすべきことを果たそうとしているのだ。ただそれが、今はケルベロスとしてではないだけで……。
無駄話をする暇はないとエマがキャノングレイブを構えようとするよりも速く、小柄な姿が飛び出して鋭い蹴りを放つ。攻撃の代わりに素早く蹴撃を受け流して襲撃者を睨んだ。
「やっと、エマ見つけたよ」
同じ旅団で、何度もお話してくれた。
攻撃を警戒しながら語りかけるリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)の言葉にも、エマは険しく鋭い表情を和らげない。
ううん、エマにはそんな表情似合わないよね。
「暴走してるなら……辛いけど殴ってでも連れて帰るよ!」
その笑顔を取り戻すために。
(「エマさん、ようやっと見つかったんですね」)
溢れそうな思いを胸に、田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)が渾身の力を込めてドラゴニックハンマーを振るった。
「皆さん貴方の華やぐ笑顔を待っとるんですよ。やから全力で元の貴方を取り戻します! きっとあなたの誇りは笑顔と共にあるはずやとうちはそう思いますから」
「エマ! ここにいるオレたちだけじゃない、大勢の人が、君の帰りといつもの笑顔を待ちわびてるんだからな!」
雷電を迸らせ、フレデリ・アルフォンス(ウィッチ甲冑ドクター騎士・e69627)もまた呼びかける。
だがやはり、応えはなく。
ケルベロスとしての思考はすでにないのか。心までも? いや、違うはずだ。
「仲間の為に頑張ったあなたを連れ返すには普段より多く面倒みないといけませんね」
溜息混じりにミリムが鞘から抜き放った大柄な大剣は、刀身に青い炎を纏う。
「いいでしょう! 敵と言うのであれば打ちのめして差し上げます!」
言い放ち、ざっと地面を強く踏み込み深く構えて切っ先を向ける。
親しいという表現では表せない相手に、エマは苛立たしげな様子で筒状の発射器と弾を生成し、狙いを定めた。
それは、彼女とともに戦ったことのある者にもまた見覚えがある武器……否、グラビティ。
素早く撃ち放たれた弾丸は直撃こそ免れたがその威力は脅威だ。かすめたと同時にばっと血がしぶき、押さえた指の間から滴り落ちる。
ああ、やはり彼女なのだ。皆はそう確信し、しかし放った彼女自身だけが動揺していた。
とても手に馴染んだ、しかし見覚えの無い武器に、何だ、この武器は……!? と。
暴走するなかに正気の彼女を見出し、湊弐・響(真鍮の戦闘支援妖精・e37129)が視線を落とした。
(「エマさんが暴走したのは、私たちの作戦の為。私たちがツグハを討つ為に、エマさんは陽動の任を担い、そして暴走なさったのです」)
つっと地面に星々を描いて、仲間たちへと星辰の力を導く。
「エマさんのお陰で、私はツグハの首級を挙げる事が出来ました。だから今度は、私がエマさんを救い出す番ですわ!」
その決意に呼応するかに、不意に視界が陰った。
はっと身構えたエマを狙い、宇原場・日出武(偽りの天才・e18180)が巨体ごとルーンアックスを叩き下ろす。
ずん……っと鈍い地響きをさせて繰り出した斬撃はかわされ、オウガメタルをまとい秋子が繰り出した拳打もまた受け流された。だが、動揺は消えていない。
「わたしはすばらしい村長なので村民を迎えに来ましたよホッホッホ」
どこか胡散臭く『すばらしい村長』と自分で言うスタイルで告げる日出武。
村長とは村がなければ存在できず、村には村民がいなければならない。すばらしい村長の元には当然、すばらしい村民がいなければ。
だから、彼は彼女を迎えに来た。少々手荒なのは致し方ない。
「とてもお世話になったって従妹のクリスティーナさんが言ってた。今遠くにいて間に合わないからお願いされて代わりにお迎えに来たの」
彼女の大切にしている刀を携えて、彼女のために心を尽くしてくれたひとを助けるために。
救い、ともに戻るために迎えに来た。
だがそれは、容易なことではない。
隙をつかれぬよう充分に距離を取っても、素早く間合いを詰められキャノングレイブが振るわれる。ならばその動きを鈍らせようとしても狙いは定まらず。
加えて、エマの放つ攻撃は激しく重い。
一方のショルダーシールドを狙って攻撃を放ちながら、マリアはポジションを見極めようとその挙動を注視し、クラッシャーだろうと判じた。
ローレライの構えたドラゴニックハンマーから撃ち出した砲弾が受け流され、隙を狙って飛びかかったシュテルネごとかわされる。
スナイパーの邪魔をしないよう注意深く位置取ったリリエッタがカスタマイズされた二丁拳銃を撃つ。放たれた弾丸はわずかな動作でかわされ、エマがぐっとキャノングレイブごと腕を引く。
穿ち、撃つ。攻撃を繰り出そうとした瞬間、廃墟の壁に当たって跳ね返った弾丸が、死角から彼女を狙う。
間一髪でかわしたところへ、ミリムは大胆に得物をグッと構え瞬時に間合いを詰めてキャノングレイブめがけて振り抜いた。
ガッ!! 互いの得物が激しくぶつかりあい、ぎりぎりと拮抗する。不吉な軋音が立ち、巨躯を躍らせた日出武の重厚な一閃が彼女たちの膠着を崩すように叩き下ろされた。
エマは鬱陶しげに得物を再度引いて構え薙ぎ振る。秋子がナイフを深く握り飛び込み刃を閃かせる間に、仲間たちへ響の治癒が飛ぶ。
マリアの狙撃とミリムの後衛からヒットアンドアウェイする戦い方に、エマの苛立ちが募るのが分かる。
迎えに来たのは、そんな表情の彼女ではなく。
「あの朗らかで仲間思いでしっかり者のエマがバーサーカーだなんて、オレは嫌だ」
フレデリが呻き、得物を構えて地面を蹴った。
「サンティアーグの騎士たちよ、オレに続け!」
疾駆し叫ぶと同時に彼の周囲に多数の騎士の魂が現れ、包囲して斬撃を畳み掛ける。
さしものエマもかわしきれず、その身を血に濡らしながら得物を振るって騎士たちを引き剥がした。
……今だ!
マリアの構えたバスターライフルから光の弾が撃ち出され、反応が遅れたエマを射抜く。いや、ピンポイントに射抜かれ破壊されたのは一方のショルダーシールドだ。
これ以降もう一方のショルダーシールドを狙わないようにと仲間たちに伝え反応を見る。
反撃に動こうとするエマは不自然な挙動をし、目を見開いた。
――体が、重い……!?
想定していなかったのだろう。重量バランスが崩れた違和感に動揺しているようだった。
ならばとミリムはぐっと地面を踏みしめて力強く跳躍すると、カチューシャめがけて一息に振り下ろす!
「っ…………!!」
ぱっと羽が散った。
美しく、誇り高い羽が。
――おのれ、よくも!
カチューシャを、ヴァルキュリアの誇りを傷つけられたエマは激昂し、即座に反撃に出る。だが激昂故に狙いが定まらず、その挙動も正確さに欠けていた。
キャノングレイブを掲げて、咆哮とともに砲弾をこれでもかと撃ちまくる。
「エマさんを取り戻して皆さんで帰るんです、負けるわけにはいかへん!」
雨のごとく降る砲弾のなか、光の麻酔弾を撃ち込みマリアが叫んだ。
「ヴァルキュリアの力言うんは敵を倒す程度のもんやったんですか、そないな力のために捨てるほど貴方はエマさんは安い存在やありません!」
その力は、その誇りは、強く美しいものだと誰もが知っている。
「はよ戻ってきてください! うちらはいつもの貴方を待ってます!」
何よりも笑顔の似合う、彼女を。
「さあ行きなさい。踊りなさい。私の奏でるワルツと共に!」
言葉とともに召喚された、緑色の燐光を放つ自律式空中砲台が皆を治癒し支援する。
「第九王子配下、ツグハは討たれましたわ。貴女の陽動のお陰です」
こんなことを言えば、彼女は違うと否定するだろう。自分だけのおかげじゃないと。
けれど、戦いはまだ終わっていない。
「作戦は貴女の帰還を以て完遂されます。共に、帰るべき場所へ帰りましょう」
響の呼びかけにリリエッタもうなずいた。
「旅団の、ベオウルフのみんなも待っているよ」
奇跡の村の皆も、ベオウルフの皆も、或いは彼女と縁があった相手は皆。だから。
「ルー、力を貸して!」
ルーシィド・マインドギアとお互いの魔力を循環させ、限界以上に荊棘の魔力を込め二丁拳銃から射出された弾丸は、狙い違わずエマを撃ち抜く。
かぶせるように、急所と思われる場所に拳やら指やらをテキトーに叩き込む連撃にエマは圧され気味になるが、攻撃が途切れた間を縫ってキャノングレイブを一息に薙ぎ払う。
ずあっと斬り裂かれた傷口からばっと血が溢れ、即座に治癒が飛んだ。
「村長さん、大丈夫!?」
「ノーダメージですよ。天才ですからねえ」
実際は超我慢しているが、それを周囲に悟らせはしない。もっとも、皆それに気づいているが指摘しなかった。
「奇跡の村には防御に絶対の自信を持つ村長を殴る場所がありまして」
徐々に威力が落ちているとはいえなお激しい攻撃を食らい、それでも日出武は膝を屈さずエマとまっすぐに対峙する。
「わたしのことを一番殴ってくれたのがエマだったんですよねえ」
よもやこんなところで、わたしが彼女を殴る側に回るとはねえ。
愛嬌たっぷりに笑いながら入れてくるパンチは、時に急所をクリティカルヒットすることもあったが、それとて微笑ましいものだ。
巨躯の陰から月光のごとく美しい弧を描いて一閃を放ったのは、『太刀 備前 紅桃』。これを携える優しい少女を、エマは知っているはずだった。
「クリスティーナさんから、預かってきたよ」
言葉を。想いを。
「家族に会いたいって言った時、会えるように作戦を考えてくれてとても嬉しかった。
一生懸命で優しいエマお姉さん。
戦うだけじゃなくて、穏やかに過ごしてほしい。
帰って来て、笑って」
自分の表現にしてはいるが、桜色の少女が心配していることを告げる。
彼女の夫の真幸も同じ時期にお世話になった。彼は他の人に譲ったけど来たかったはず。それに、同じ村民であり従妹のシアナも心配だと。
エマ・ブランという少女は、いつだってそうだった。
一生懸命で、誰かの願いを叶えようと心を砕き、けれどそれを悟らせない。明るく振る舞い場を賑やかにする彼女の真摯を垣間見た相手には、内緒だよ、と笑って。
連れて帰るよ。待ってて。
「私達はアスガルドの敵じゃないよ」
もしも彼女が敵と相対するのなら、彼女とともに敵を討とう。
「ヴァルキュリアの誇りも持って皆のとこ帰ろ。私は怖い顔の貴女より笑ってるとこ見たいよ」
――――…………!!
咆哮。
キャノングレイブを振り上げ、エマは跳躍して渾身の一撃を繰り出す。
前へ飛び出したフレデリが抱きとめる形で攻撃ごと彼女を受け止め、動きを封じる形になったところへローレライが刃を閃かせた。
戻ってきて。祈るような呟きと同時に、紅のヴァルキュリアの身体から力が抜ける。
「エマさん……!」
駆け寄った響は素早く容態を確認し、気を失っているが大事には至っていないと診て取り、安堵しながら手早くヒールと応急処置を施した。
エマを抱いたまま同じようにヒールを受けながら、フレデリが名誉の負傷だと笑う。
そして、誰からともなく、「おかえりなさい」と口にした。
●
あたたかい。それに、優しく揺られている。
重たいまぶたをそっと開けると、視界に緩やかなウェーブを描く藍色が揺れていた。
何か言おうとするけれどまだ不明瞭な頭では言葉を紡げず、自分が背負われていることだけは分かる。
大切なものを傷付けないように。丁寧に座らせると、マリアは抑え込んでいた想いを吐き出した。
「ようやっと、言えますね。お帰りなさい、エマさん。よう頑張りましたね」
そばに膝をついた響がエマの手に触れ、ありがとうとおかえりなさいを伝える。
応えようとしたところにローレライとフレデリもおかえり、と。
「うちの家主もお隣さんもエマと一緒に戦って、助けてもらったんだ。だから今回は、何がなんでも助けて来いと喝を入れられたよ」
入れられるまでもなく、オレは元からそのつもりだがな。
笑う彼に、笑って返す。
ミリムは微笑んで呼びかけようとし、ふと思い直す。あなたではなく久々に名を呼びましょう。
「おかえりエマちゃん」
「エマ、おかえりなさいだよ」
表情に出さずとも優しく、リリエッタが声をかけた。
口々に向けられる「おかえり」に、嬉しさと、照れくささとで胸がいっぱいになって。
彼女が言うべき言葉は、決まっていた。
「ただいまなんだよっ!」
「アバーッ!?」
朗らかな笑顔で、日出武の腹めがけてパンチを入れた。
彼は自分の防御に絶対の自信を持っていてノーダメージと自称しているが、実際にはノーダメージというわけではない。そして暴走したエマの攻撃を食らう時も、超我慢していたのだ。
緊張が切れた今、不意打ちで食らった一撃は――切ない。
「村長さーんっ!」
ドシャアッと倒れた日出武に悲鳴が上がる。
気絶しているだけと診て安堵の溜息がこぼれ、それから、誰からともなく笑いがこぼれた。
笑うエマを、秋子が優しく呼ぶ。
そちらに向いた彼女へそっと腕を伸ばし、優しく抱きしめた。今はここにいないクリスティーナの代わりに、二人分の心を込めて。
「エマさん、頑張ったね」
ゆっくり休んで。
お帰りなさい。
作者:鈴木リョウジ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年12月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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