城ヶ島制圧戦~耐え忍ぶと言う戦い

作者:陸野蛍

●ヘリオライダー大淀雄大の報告
「みんな、早速で悪いけど説明させてもらうな」
 大淀・雄大(オラトリオのヘリオライダー・en0056)が挨拶もそこそこに今回の任務について説明を始める。
「先日の城ヶ島の強行調査によって、城ヶ島に『固定化された魔空回廊』が存在することが判明したんだ」
 ドラゴン勢力に支配されている城ヶ島。
 偵察任務も容易ではなかったようだが、戦果としてかなりの情報がケルベロス達の下にもたらされる結果となった。
 その中でも最も大きな情報となったのが『固定化された魔空回廊』の存在である。
「この固定化された魔空回廊に侵入し、内部を突破する事ができれば、ドラゴン達が使用する『ゲート』の位置を特定する事が可能となるはずなんだ。『ゲート』の位置さえ判明すれば、その地域の調査を行った上で、ケルベロス・ウォーを発令することで『ゲート』の破壊を試すこともできるらしい」
 ケルベロス達の脳裏に先のケルベロス・ウォー『鎌倉奪還戦』が蘇る。
「『ゲート』を破壊する事ができたら、ドラゴン勢力は、新たな地球侵攻を行う事ができなくなる。つまり、城ヶ島を制圧し、固定化された魔空回廊を確保する事ができれば、ドラゴン勢力の急所を押さえる事ができるってわけだ」
 デウスエクスの中でも最強と言われる、ドラゴン勢力の急所を潰すことが出来ると言うのは、ケルベロスそして地球にとって、かなり大きなメリットと言える。
「強行調査の結果、ドラゴン達は、固定された魔空回廊の破壊は、最後の手段であると考えているみたいだから、電撃戦で城ヶ島を制圧し、魔空回廊を奪取する事は、決して不可能ではないはずなんだ。ドラゴン勢力の、これ以上の侵略を阻止する為にも、皆の力を貸してもらいたいんだ」
 雄大がいつもと違うピリリとした空気を纏わせ、ケルベロス達に依頼する。

●竜牙兵継続戦闘特別指令
「今回の作戦は、警戒の薄い城ヶ島の西部から、水陸両用車部隊が侵攻、市街地のオークを制圧して橋頭堡を確保した後、本隊が、島の西側から、固定化した魔空回廊のある島の東側、城ヶ島公園の白龍神社に攻め寄せる手はずなっているんだけど……」
 雄大は厳しい顔を見せるも、一度顔をぴしゃりと叩くと気合いを入れ直して説明を続ける。
「この作戦を成功させる為には、解決しなければならない問題がある。それは、三崎工場に集められている、竜牙兵の大群なんだ。強行偵察の結果、この竜牙兵は『島への侵入者に反応して自動的に迎撃する』行動をするらしくて、その総戦力はかなりのものとなっているみたいだ」
 調査でも正確な数は分かりかねるとのことだ。
「そこで、みんなには、城ヶ島大橋から城ヶ島へ進軍し、この竜牙兵の攻撃を引き受けてもらいたい。城ヶ島大橋は、大して広くない戦場だから、2チームが隣り合って戦闘をすれば、竜牙兵を抑える事ができるはずなんだ。竜牙兵は倒しても倒しても後続が現れるから、敵を倒すことよりも、出来るだけ長時間戦いを継続する事を目指してほしい」
 竜牙兵の殲滅では無く、継続戦闘の維持、つまり時間稼ぎが目的と言うことだ。
「左右の戦場に、それぞれ、第一陣、第二陣、第三陣のチームを配置するから、それぞれ30分、合計で1時間30分の間、竜牙兵の攻撃を支える事ができれば問題ない」
 そこまで言って、雄大は一度汗を拭う。
「城ヶ島大橋は片側1車線の比較的狭い橋だから、2チーム隣り合って戦線を維持できれば、竜牙兵の進行を止められるはずだ」
 言いかえれば、左右片方のチームの戦線維持が出来なければ、残りの片方のチームだけでは進行を止められないと言うことにもなる。
「皆にお願いしたいのは、右手側戦場の第一陣だ。戦場の広さが大して広くないこと、2チームが隣り合って戦うことから、一度に戦う事になる竜牙兵の数は5体ですむけど、竜牙兵は倒しても次の竜牙兵に入れ替わるだけだから、敵陣の戦力は低下しない」
 倒れた竜牙兵を踏み越えて無傷の竜牙兵に入れ替わる、それが繰り返されると言う。
「だから、どうやって戦闘を長引かせるか、どの状況で第二陣にバトンタッチするか、入れ替わる際の手筈、それら諸々を考える必要があるんだ」
 自分達の戦闘に加え、チームとの連携も大きく戦線維持に関わってくる、作戦の連携が鍵になるとも雄大は付け加える。
「あとな、戦闘で押されて、三浦半島側に押し込まれた場合、後続の竜牙兵の一部が、城ヶ島公園方面に移動してしまう可能性があるから、そうならないように戦う必要性もあるんだ」
 作戦の難易度から雄大の眉間にしわが寄る。
「今回の任務は、ただ、デウスエクスを倒すというものじゃない。もっと言うなら、倒す竜牙兵の数はさして問題じゃない。チーム全体で1時間30分何としても耐えてほしい」
 雄大はケルベロス達を真摯な瞳で見つめると。
「皆にお願いする任務は、今回の作戦の屋台骨と言ってもいい。ここが崩れたら今回の作戦自体が崩壊しかねない。それ程、重要な任務を俺は皆にお願いしている。だから……」
 雄大はそこで言葉を切ると。
「何としても成功させてほしい。みんなならきっと出来るって俺、信じてるから。頼むな!」
 雄大は最後に笑顔を見せると、ヘリオン操縦室へ向かった。


参加者
ユージン・イークル(不動の星・e00277)
小日向・ハクィルゥ(はらぺこオートマトン・e00338)
神城・瑞樹(旅路の案内者・e01250)
ソフィア・エルダナーダ(ドラゴニアンの降魔拳士・e03146)
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)
黒宮・透(狂火・e09004)
プロデュー・マス(黒猫ピーやん・e13730)

■リプレイ

●狼煙が上がる時
「記録者名……YS-KS2127……ハクィルゥ。作戦名……城ヶ島大橋防衛戦……スタンバイ」
 小日向・ハクィルゥ(はらぺこオートマトン・e00338)が無機質な声で
 呟くようにケルベロス達に伝える。
「流石にちと緊張するな。他の所も頑張るはずだ。負けてられん。逆に押し込んだる!」
 神城・瑞樹(旅路の案内者・e01250)がゾディアックソードを抜き放ち気合いを入れる。
「強行偵察へ出向いた者、制圧戦へ出向いた者。そして、共にこの作戦に臨む者達。皆の思いを受け、支える大切なお仕事なのじゃ」
(「何としても成功させねばの……」)
 端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)は、皆を落ち着かせるように、そして自分達の役目を再認識するかのように口にする。
「ここが一番重要な所、か。が、頑張っていかないと……」
 緊張した面持ちで、 ソフィア・エルダナーダ(ドラゴニアンの降魔拳士・e03146)が身震いすると、その肩にプロデュー・マス(黒猫ピーやん・e13730)が手を置きソフィアを見つめ。
「大丈夫だ。仲間達もいる。……そして、私もいるのだから」
「フロデュー……」
(「そうよね、彼氏のフロデューと戦えるんから大丈夫。終わったらいっぱい甘えるんだから!」)
 プロデューの言葉に勇気づけられ、気合いを入れ直すソフィア。
「そこのお二人さん、愛が輝いているのはいいんだけど、お相手が来たようだよっ☆」
 ユージン・イークル(不動の星・e00277)がいつもの、明るい調子で竜牙兵の軍勢が現れたことを知らせる。
 しかし、ユージンの心中は決意に満ちていた。
「凌ぎきってみせなきゃ。竜達と戦う仲間の輝かしい勝利の為にねっ☆」)
「ねっ、ヤードさん☆」
 傍らに居るウイングキャットのヤードさんの頭を軽く撫でるユージン。
「いよいよだな。吾輩らに群がれ集まれ烏合の衆の雑兵共よ。やられはせぬし、逃がしもせぬ」
 その言葉と共にドローンを飛ばす、アスベル・エレティコス(残響・e03644)。
「暫く付き合うてもらうぞ。同胞が貴様等の住処への道筋を見つけるまでな」
 アスベルの長い三つ編みが風になびく。
「それでは、参りましょうか」
 黒宮・透(狂火・e09004)がゆったりと得物である無骨な鉄塊剣を構える。
「私、防衛戦はあまり好みではありませんが……」
 透の着物の裾がひらりとはためく。
「圧倒的な数の敵との戦いと言うのは面白くなりそうですね!」
 喜びを含んだ言葉を口にして、透は竜牙兵に斬りかかった。
 剣と剣がぶつかり合う音……それが開戦の狼煙となった。

●剣戟が響く時
 戦いとは数である。
 アスベルはガドリングから炎の弾丸を連射しながら、いつ聞いたかも忘れてしまった、その言葉を思い出していた。
(「中々に厳しいかもしれぬな」)
 第一陣の編成は前衛全員がディフェンダーである。
 耐えることは十分に出来るが、竜牙兵に大きなダメージを与えることが出来ないのだ。
 その上、竜牙兵は倒した所で次がいる。
 それぞれの竜牙兵はドラゴンの命のまま、防御を捨てて攻撃に専念している。
「簡単に落ちてはくれんのう。殲滅力と時間から見て15分での交代は可能そうかのう?」
 弾丸をばらまきながら括がハクィルウに尋ねる。
「敵ダメージ。こちら陣営消耗率。その他アクシデントを計算に入れると余裕はありません」
 こちらも弾丸をばらまきながら、ハクィルウが無機質に答える。
「そうか、了解じゃ」
(「甘く見ていた訳ではないが、厳しい30分になりそうじゃな。じゃが、何を恐れることがあろう。守護して見せるのじゃ」)
 括の瞳に更に闘志の炎が灯った。
「竜牙兵を甘く見る訳にはいかないようだね。30分、何としても耐えきろう☆」
 ユージンはそう言うと一瞬攻撃の手を止め、スモークボールを空に投げる。
 スモークボールは空中で青い煙を撒き散らす・
 自分達が30分耐えきると言う後陣への合図だ。
「中々硬いのね、こいつら」
 オーラの一撃を放ちながら、ソフィアは隣でガドリングの連射を止めないプロデューに、話しかける。
「どちらにしても、私達でくい止めないとな」
 プロデューのガドリングが竜牙兵の装甲を削っていく。
「そうよね。こいつらはドラゴンに連なってるんだから、死すべし、だね」
 恋人の言葉に一層気合いが入るソフィア。
「いくら斬っても、敵が出てくるなら、全て切り裂くのみです!」
 狂気にも似た笑みを湛えながら巨大な鉄塊剣を軽々と振り回し舞い踊るように、透が一体の竜牙兵を斬り伏せる。
 倒れた竜牙兵を踏み越えて鎌を携えた次の竜牙兵が前に進み出て、その鎌で透を切り裂く。
 それでもなお、透の表情から笑みは消えない。
(「もっとです。もっと! 戦うことが私の喜び。あなた達がそれを満たしてくれるんですから!」)
 透の左目からは更に地獄の炎が燃え始めていた。
 その時、ケルベロス達の後ろから爆風が起こる。
 瑞樹は、爆破スイッチを握りしめ、後方で戦況を確認していた。
 表情こそいつもと変わらないが、心の中はクレバーだった。
(「竜牙兵の殲滅率……こっちの疲弊率……ヒール能力。……30分ギリギリかもな。押し返すより押し込まれないように立ち振舞うのが利口か? あー! もう考えても仕方ねえ。戦線を安定させるのがメディックの役目だろ。やってやるぜ!」)
 瑞樹は次のヒールのタイミングを逃さないようにと戦線を見つめる。
「グラビティ。バレットストームに変更します」
 ハクィルゥは、静かに言うと嵐のような勢いの弾丸を撃ち放つ。
(「竜牙兵の動きが鈍れば、優勢に転じる可能性もありますね。私の役目としてそれを果たしましょう」)
 表情こそ変わらないが、自身はプログラムだと思っているハクィルゥの心は、確かに静かに燃えていた。
「吾輩の力は、まだまだ衰えんぞ!」
 御霊殲滅砲の巨大なオーラが竜牙兵達を直撃するが、竜牙兵達の攻撃の手は衰えない。
 それどころかすぐに、アスベルをオーラの一撃が腹に直撃し、アスベルは思わず膝をつく。
「雑兵と侮っていたのは詫びよう。だが吾輩たちは、負けん!」
 言葉と共にまた攻撃態勢を整える、アスベル。
「紙兵よ、ボク達にきらめきという護りを☆」
 ユージンの言葉と共に守護の紙兵達が現れるが、ユージンは心の中で多少の焦りを感じていた。
(「予想以上に押されてる。攻めた方が? いや、まずは戦線を維持することを考えよう!」)
 後ろからの仲間の援護の音を聞きながら、ユージンは冷静になり、気持ちで負けられないと、笑みを作った。
「ひとふたみぃよぉいつむぅなな。七生心に報いて根国の縁をひとくくり。さて、おぬしの御魂は此方側かの彼方側かの?」
 その真言と共に括は6発の弾丸を放つ。
 弾丸は分身となって、括と共に竜牙兵を集中射撃する。
「お主らを押し通すわけにはいかぬのでな」
 最後に一発、竜牙兵の眉間にズドンと銃弾を撃ち込むと括の分身は消え、銃口から煙を吐き出した。
「やれやれ、本当にキリがないんじゃのう」
 群れとなして現れる、竜牙兵を横目で見て括はガドリングガンを竜牙兵に向けた。
 …………戦線は少しずつ、だが確実に後ろに下がっていた。

●耐え忍ぶ時
「……20分経過だな」
 プロデューが静かに言う。
 ケルベロス達は、既に四体の竜牙兵を倒していたが、プロデューの目算でも戦闘開始位置から80mは押されていると思われた。
「あと10分だ! 10分何としてもしのぎ切るぞ! これ以上押し込まれぬぞ!」
 そう言うアスベルの身体にもいくつもの傷が付いていた。
 耐久戦として臨んだが、ただ倒すだけよりもキリがないので疲労が貯まっていく。
 特にアスベルは、皆を引っ張るような戦い方をしている為、消耗も激しい。
 瑞樹の回復が追い付かない程の負傷率なのだ。
「吾輩はまだまだ負けんぞ!」
「危ない!」
 アスベルが自己回復に入ろうとした隙に、竜牙兵の剣がアスベルを袈裟切りにするように軌跡を描いた。
「ンニャ-ーーーーー!!」
 ヤードさんの嘆きの鳴き声が響く。
「ユージン! 吾輩を庇うなど」
「俺の分身! ユージンに力を与えてくれ!」
 瑞樹が自身の分身を発生させその力をユージンに分け与える。
「ありがとう。ボクは、大丈夫。すぐに戦線に戻らないと、透さんが……」
 ディフェンダーが透一人になっている為、後方支援を含めても戦線維持が厳しくなっている。
「けど、ヤードさんが心配してくれるなんて、かんげ……」
 ユージンが言い終わる前にヤードさんは、透の横に駆け寄り自分の役目を全うし始めた。
「たまには、デレてくれてもいいのに……」
 ユージンはしょぼくれながらも立ち上がりもう一度、縛霊手に力を込める。
「中々に手厳しいですけど、逆境って言うんですの? そう言う戦いも私好みですよ!」
 にんまりと笑いながら竜牙兵に炎の斬撃を加える透。
「私だって頑張るんだからー!」
 ソフィアが前衛の穴を埋めようと一気に前に出て拳を振るうが、竜牙兵にその腕を掴まれてしまう。
(「駄目! やられる!」)
 ソフィアがそう思った瞬間、ソフィアの頭上から爆撃音が聞こえる。
「ソフィア! 今のうちに下がるんだ!」
「プロデュー!」
 プロデューの放った炎が竜牙兵の頭部を焼き、竜牙兵の力が弱まった瞬間にソフィアは一気に距離をとる。
「ありがと。プロデュー。だいす……」
「そう言うのはあとで」
 プロデューはソフィアの言葉を遮るとガドリングガンを持ち直す。
「想定より敵撃破数は少ないですが、二陣との交代も視野に入れるべき時間です」
 機械的に弾丸をばら撒きながら、ハクィルゥが括に進言する。
「分かっておる。だがまだじゃ! 粘れるだけ粘って、竜牙兵を一匹でも多く倒してから次に託すのじゃ!」
 同じく弾丸をばら撒く括が、その外見からは想像も出来ないような強い意志を持って、ケルベロス達を鼓舞する。
「まだ、回復は飛ばせる! 最後まで! 最後まで安心してぶっ潰せ!」
 最後衛の回復の要、瑞樹が星の癒しを仲間達に与える
 彼らに課せられた時間は、あと数分になっていた。

●同胞に託す時
「私の炎が癒します。燃えましょう」
 透の左目から放たれた、炎が身を包むと、アスベルの身体が軽くなる。
「これで、終いにするがよい!」
 アスベルのガドリングガンから放たれた爆炎が竜牙兵を包み動きを止める。
「定刻三十秒前です……当機は最終攻撃に入ります。部隊交代の準備に入って下さい」
「分かった。こちら第一陣、最終攻撃の後、撤退を開始する」
 ハクィルゥの指示を受け、プロデューが第二陣のフィールに通信を入れる。
『ああ、了解した』
 プロデューの聴覚に第二陣の簡潔な了承の声が聞こえる。
 戦場の只中だ、必要事項さえ伝わればそれでいい。
「攻勢に出ます……システムチェンジ。モード・アクィラ起動。突貫します、周囲の味方は巻き込まれないよう退避を推奨致します」
 機械的に言葉を発すると、大きく翼を広げ高速で竜牙兵に突撃する。
 その翼の起こす風の刃で竜牙兵は切り裂かれる。
「残念だけど、ボク達はこれで撤退だ。お別れにこれをあげるよ☆ キミの輝きの原石、ボクに見せてよっ☆」
 ユージンがウインクをすると星型の光線が竜牙兵を貫き崩れ落ちた。
「まず、わし達は撤退じゃ。二陣が来たらすぐに撤退するのじゃぞ」
 括の指示で援護射撃をしながら瑞樹、括、ハクィルゥ、ソフィア、プロデューの順で戦線を離脱すると、それと入れ替わりで戦線を維持するディフェンダー達にも第二陣の姿が見える。
 最良のタイミングと言ってもいいだろう。
「よし、最後の踏ん張りどころであるぞ!」
 アスベルのガドリングガンが火を噴く。
「ヤードさん! すぐに下がるからね☆」
 ユージンがヤードさんにウインクしつつ戦線を支える。
「まだまだ、戦っていたいのですが、これもお役目。我慢いたしますわ」
 鉄塊剣を横薙ぎに払いながら、透が残念そうに言う。
 そこへ、援護するかのように後陣の雷光が飛び竜牙兵の隙を作る。
 ディフェンダー達が下がり始めると二陣前衛が入れ替わる為、前に駆けだす。
「あまり倒せませんでした。守りに入りすぎると苦しいかもしれません」
 透がそう伝えると、二陣の無骨な男が飲みかけの水のボトルを押し付けながら。
「おう、あとは任せろ!」
 男気を見せるように背中で語り、戦場に駆けて行く。
 完全撤退を始めた、第一陣のメンバー達の後ろから『気合い入れていくぞぉ!』と雄々しい声が響いた。
 戦線を最後まで抑えていた、ディフェンダー達が橋を戻り仲間達と合流すると、ハクィルゥが関節部から蒸気を噴きだしていた。
「大丈夫かい?」
 ユージンが心配そうに声をかけると、ヤードさんも心配そうにハクィルゥに近づき、心配そうな目を向ける。
「問題ありません。ただのオーバーヒートです。30分のグラビティ連続使用が原因かと思われます。それより……お腹がすきました」
 ヤードさんを優しく撫でながら、ハクィルゥが空腹を訴える。
「生憎と、俺のヒールグラビティじゃ空腹は満たされないんだよな。作戦が終わったら飯食いに行こうぜ」
 瑞樹が皆にヒールをかけながら、軽く言う。
「何とかなったかなー?」
 ソフィアが不安そうにプロデューに尋ねる。
「あとは他のケルベロス達に任せよう。二順目はさすがに無理そうだからな」
 考えていた以上に、竜牙兵の兵力が高かった為、もう一度戦うのは流石に無理そうだ。
 プロデュー自身も、恋人であるソフィアもヒールこそかけているが、随分消耗してしまった。
「目算で交代と合わせて、百と数メートルと言った所じゃな。大体三分の一押された結果となった訳じゃ。残りの班に重荷を背負わせる形になったじゃろうか?」
 戦闘音を遠くに聞きながら、括が気落ちした声を出す。
「他の班の者達がきっと、あと一時間抑えてくれるであろう。吾輩達が信じなくてどうする? 大橋の防衛も、魔空回廊を抑えに行った者達もきっと上手くやってくれるであろう。吾輩達は朗報を待ち、次の戦に備えなくてはな」
 アスベルが落ち着いた声で仲間達を諭す。
 まだ、自分達にはしなくてはならないことがあるのだから。
 その声を聞きながら透は燃える左目で大橋の方を見つめていた。
 その手には、交代の際に渡された水のボトルが握られていた。
「次の戦場ではもっと…………」
 透の言葉は戦闘の爆音で他の仲間達の耳には届かなかった。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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