城ヶ島制圧戦~牙城の六花

作者:銀條彦

●牙城
 三浦半島南端の城ヶ島での強行調査の結果、ドラゴン達によって固定化された魔空回廊が存在することが判明したのだと黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004) は告げた。
「つまり、この固定化された魔空回廊の内部へ侵入して突破できればドラゴン達の使用する『ゲート』の位置も特定できるってワケっす。『ゲート』情報さえ手に入れられれば追加調査を行った上でのケルベロス・ウォーで『ゲート』破壊だってきっと可能っす!」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は興奮気味だが無理もない。
 それらの達成はデウスエクス勢力の一つに対しての大いなる勝利を意味するのだから。
 仲間の戦果と朗報に湧き立つケルベロス達に対して、ヘリオライダーは電撃戦での城ヶ島制圧作戦を提案した。
「これも調査で判明した事っすが、ヤツラは固定化された魔空回廊の破壊は最後の手段と考えてるらしいっす。だからそれに乗じてドラゴンが最終手段に踏み切るより前にケルベロスで城ヶ島を制圧して回廊を奪取してしまえばいいっす」
 それはやがてはドラゴン勢力の侵略阻止へと繋がるはずだ。その為にも皆さんの力を是非貸して欲しいのだとダンテはまず訴えた。

●六花
 今作戦は、仲間が築いてくれた橋頭堡からドラゴンの巣窟である城ヶ島公園に向けて進軍し、迎撃に出てきたドラゴン戦力を削ぐべく一隊一殺を目指す意図のものだとダンテは説明する。固定化された魔空回廊を奪取するには、敵軍がケルベロス側の意図を察知した後にも回廊へ迎撃戦力を殺到させないことが肝要なのだ。
「皆さんにこれから撃破して来てもらいたいのは外洋に面した断崖を眼下に見下ろすピクニック用の広場に陣取っていたドラゴン1体っす。白く透き通った目立つ巨体してるんですぐに見つけられると思うっす」
 先の強行調査以降、常に外敵に備え、敵襲あれば攻防に隙無くバランスの取れた態勢のまま冷静に対処するであろうそのドラゴンは氷雪のブレスを得意とする強敵らしい。

「もしも……いやっ、あくまでももしもの話っすよ! もしも対ドラゴンに向かう皆さんの敗北が重なるような事態になれば魔空回廊の奪取作戦は断念するしか無いっす。つまり今回の作戦の成否は皆さんの双肩にかかってると言えるっす!」
 敵は強大。だが地獄の――地球の番犬たるケルベロスにとっては今こそ正念場と奮い立つは旅立つ者も送り出す者もまた同じ。
 吉報待ってるっすと全幅の信頼と祈りとをこめて激励するダンテの声を背に。
 戦士達は竜伐の牙剥き戦地へと赴くのであった。


参加者
祁答院・大和(不動絶刀・e01382)
ツヴァイ・バーデ(マルチエンド・e01661)
メリチェル・エストレーヤ(黒き鳥籠より羽ばたく眠り姫・e02688)
天津・総一郎(クリップラー・e03243)
イルヴァ・セリアン(紅玉雪花・e04389)
須々木・輪夏(シャドウエルフの刀剣士・e04836)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・e15276)

■リプレイ

●厳然たる牙城
 広大な芝地の方々に茂る濃緑は松並木。
 戦場に広場を選んだケルベロスは物影伝いに注意深く公園敷地内を侵入してゆく。 
(「先手打たれないように注意しなきゃだもんね!」)
 双眼鏡を覗きこむ饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・e15276)が一行に合図し、指さした先。
 ヘリオライダーの言葉通りに『それ』は遠目からでも発見は容易であった。
 林立する水晶柱を思わせる巨躯は透き通り、それ自体から朧に白光放たれている様にも映る。冷ややかな眼差しの双瞳に曲線を描く水晶角、そして両翼にそれぞれ浮き上がる紋様のいずれもが深紫色。
 雪を想わせる姿や能力だけでなくその容貌からも又『六花』の名を冠したくなると、仰ぎ見たメリチェル・エストレーヤ(黒き鳥籠より羽ばたく眠り姫・e02688)は離れても伝わるその存在感を前に全神経を尚いっそう張り詰めさせる。

 須々木・輪夏(シャドウエルフの刀剣士・e04836)は無言のまま同族であるイルヴァ・セリアン(紅玉雪花・e04389)と目配せし合った後すぅと呼吸を整える。
(「城ケ島……この作戦は成功させなきゃ」)
 かすかな潮の香。大洋広がるパノラマな風景は輪夏にとっては先の強行偵察での苦い撤退の記憶を想起させた。だが無闇に思い詰めるのではなく……。
(「それに……クリスマスにも約束あるから、ちゃんと帰らなきゃ、ね」) 
 今度こそと、凛と前を向かせる新たな決意に繋がったのはきっとそのお蔭。
 イルヴァもまた同様に、恐怖を知らぬのではなく正面から向かい合い乗り越えた者だけが持てる覚悟一つを携えて今、死闘へと身を投じようとしていた。
 シャドウエルフの少女達それぞれから2人の人派ドラゴニアンのスナイパーに向けて魔法の葉が注がれたのを合図代わりに。
「溶けない雪はありません。今すぐここで六花を倒して色彩豊かで暖かな春を迎え入れましょう」
 メリチェルはビハインドのノイエを傍らに疾駆し、掲げた掌中から幻想の飛竜を一気に解き放つ。祁答院・大和(不動絶刀・e01382)も馳せ、空高く跳躍した。
「気合いれていっちょやってやんぜ。不動四神流――祁答院・大和、推して参る……!」
 堂々たる名乗りと共に抜刀した少年はドラゴンの胸部めがけ鋭月を刷く剣閃を放つ。
 しかし先手こそ許した敵ドラゴンだったが慌てる様子も無く、ただ泰然と、我が身に降り注ぐケルベロスからの攻撃の一つ一つを見定めことごとくを回避してゆく。
「今度こそ存分に暴れさせてもらうっすよ」
 構えた大鉄塊の柄に絡まる黒鎖がひとりでに解け、渦巻く軌跡でツヴァイ・バーデ(マルチエンド・e01661)の闘気に応えて鎖縛の技を為す。固い戒めは左前肢をじゃらりと撫ぜ挽き幾片もの水晶を散らしたが捕縛を完成させるには到らず。
 だが、待ち望んだ竜との戦いはやはり容易ならざるものと為るとの確信は彼を大いに昂揚させてくれた。先の偵察では成果を上げるも戦闘といえばホテル内で出くわした螺旋忍軍との交戦のみだった事が戦闘狂にはいささか不満だったのだ。
「さて、やりますか」
 小春日和の如き温みを湛えたマイペースは崩さぬままに、カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)は舞踏の始まりにも似た軽やかさで芝地を蹴り一筋の流星と化す。
 方々からの波状攻撃の後に狙い済まし繰り出された蹴撃の前にはさしものドラゴンも直撃を喰らい、巨躯に重力の枷が一つ架せられる。
「よそ見するんじゃあねーぜ、テメーの相手はこの俺だ!」
 虎視眈々と其の隙を窺っていた天津・総一郎(クリップラー・e03243)は盾役としては前のめり過ぎるとも思える突貫からの跳躍で右前肢に拳を振り下ろす――と見せ掛けて。
 直前で指を揃えて伸ばしそのまま手首を打ち据えた。フェイントに挑発を織り交ぜたそれはいわゆるしっぺ返しの動作に酷似していた。
 にやりと悪戯っ子の笑顔を浮かべた少年は本命の肘打ちを叩き込んだがダメージは軽微、氷の心噴き立たせるには到らず冷静は依然保たれたままであった。
 開かれた竜顎から解き放たれた吹雪のブレスは総一郎の頭越し、後衛列めがけて荒れ狂い視界を白と冷気とで染め上げる。
「毛皮あっても流石に吹雪は厳しそうだね……!」
 間一髪でエンの赤黒鱗に庇われ難を逃れた樹斉のつぶらな黒瞳は、ブレス攻撃の威力やその前後の挙動を頭に刻み込み、自陣の被害すべてを漏らさず把握し切っていた。
「ははっ、流石に一筋縄じゃいかねーっす」
 より狂おしく闘いを貪り尽くすを望むが果てに備わった冷徹。
 己が『同類』を前に、赤き竜人の内では覆う白氷でも消せぬ『煉獄』が脈打ち、其の灼熱を最高潮に燃やしつつあった。

●六花染む濃墨
 もはやイニシアチブは完全に『六花』の側が握り、浴びせられた攻撃は今度は前衛列に向けて繰り返された竜の息吹。大きく隔たる実力差の前に多少の見切りは殆ど意味を成さなかった……だが。
「ぜったいに、あなたを倒します!」
 毅然とスカートを翻し、内腿に括り付けたベルトホルダーから愛用のナイフを取り出し構えたイルヴァは大和の絶空斬とのコンビネーションでジグザグスラッシュを決め、竜を捕らえんとする重力の枷はその大きさを増した。
「悪竜退治は浪漫だよねー。男の子の夢の一つ!」
「ああ、これでドラゴンを鏖殺すれば『ドラゴンスレイヤー』か」
 エンに自力回復の指示を出し、細やかに戦線維持を努めながらも元気いっぱい吐かれた樹斉の無邪気な子狐らしい大言に対して、鳴りをひそめつつあった大和の生来の明るさが大言を返させた。
 巨敵を前に誰もがギリギリいっぱいだったがそれは想定と覚悟の範囲内であり、闘いはまだ幕を開けたばかりだ。
「お願い。見えないもの、引き出す力を貸して」
 輪夏の周囲からは次々に風船唐綿の実がふわりと飛び立ち、仲間達の傷を癒し終えると同時に弾けて更なる力を付与した。
 吹雪の余波による足場悪化を心配した輪夏だったがブレスを浴びた地面は氷結を待たず真っ平らに抉られるばかりで、戦闘の支障とはならぬ範囲内。ただ、人工庭園の冬場の芝生とはいえど植物が無に帰す様は優しき少女の心を僅かに痛めさせた。

 白の鋭爪はただ一点、ただひとりの中衛のみを狙いすまし振り下ろされた。
「イルヴァ!」
 倒れる者を一人でも減らす為に全力を尽くすのだと樹斉は満月色の癒光を注ぎ込む。
 次いで輪夏も戦場取り巻く常緑の森に祈りを捧げれば、魔力帯びた葉は爪痕を覆いみるみると塞いでゆく。
『――矢張りか』
 鮮紅に染まる己が爪先だけを一瞥し、冴え冴えと凍てる呟きは唐突に。
 ゾクリと、其れを耳にした者の身をしらず震わせる威圧が其処には有った。
「成程」
 此処まで僅かなりと負わせた傷まわりを狙って破鎧衝を叩きこんだカルナは流水が如くの滑らかな脚運びでのヒットアンドアウェイでふんわりと再び充分な間合いを取る。そうしながら敵の此処までの攻撃と先の台詞の真意を推し量った。
 予知情報を余さず分析し対策し尽くした彼等は、サーヴァントを除けば全員が『六花』を討つに適した防具を完璧に揃えて戦いに臨んでいる。
 初撃の後衛へのブレス一発目での浅い手応えに即座に違和感を感じた竜は、まず前衛列へそして中衛へと探りを入れ、対『六花』の為だけの対策を打ってきた部隊である点に確証を得たのかもしれない。
(「だとしたら本格的な攻勢は、此処からか……」)
「美人さんかイケメンさんかはわかんないけども、姿も声も綺麗なドラゴンさんだねー」
 ぼんやりと懸念するカルナを他所に、樹斉は本心からの感嘆を事も無げに吐いた。それを聞いた仲間達の反応は様々だったが当のドラゴンからの反応は薄い。
 確かに素敵な水晶細工ねと、典雅に微笑したメリチェルだけが小さく頷き、だが容赦なく幻想の『竜』を喚び招き、紅蓮の息吹を浴びせ返した。
「この歌声とこの棘であなたを捕えて離さないから」
 眠り姫の台詞通りに『六花』を灼いた紅炎はその体躯へと留まり苛み続け、背後から忍び寄ったノイエは幽然とただ刃を振り下ろす。
 更に畳み掛けたツヴァイが鉄塊剣の刃無き大刃づたいに叩きつけた縛めの名は【白焔煉獄(ホロウケイジ)】。
「炎が弱点ってワケでもないみたいっすけど……アンタの罪を数えろ、って奴っすよ!」
「良いですね、楽しくなってきました」
 赤熱の檻に呼応しカルナもスターゲイザーで追撃するが此れは直撃とはならず。
 だが竜の少年の、先よりも大きな動作もくるりと華麗な円舞も、すべては次に――今度こそ、総一郎へと繋げる為の囮。
「頭の髄までカッチコチみてーだな。俺がもっと熱くしてやるぜ!」
 連携の末ようやく一筋ほどの隙といえる隙を見出しこじ開けた薄闇の闘気纏うもう1人の少年は見事に【誘引】を叩き込み、最強の戦闘種族が発する憤怒の的となるという地獄の釜の蓋を、自らの手で抉じ開けたのだった。

 怒りを付与された後、『六花』は完全に前衛列ごと総一郎に狙いを絞って来た。
『……冷まし得ぬのであれば、火元諸共に、排除する迄』
 御せぬ狂乱に抗うのを早々に諦め、竜爪での集中攻撃に列攻撃を織り交ぜ積極的に総一郎を撃破すべく戦術を切り替えたらしい。
「数の有利を崩される訳にはいきませんからね――『時統べる意思よ、我と共に在れ』」
 時にカルナも『律刻凍絶陣(クロノ・アクセル)』で回復アシストを引き受け戦陣は保たれる。
(「強大なドラゴンが相手。そりゃ正直言って恐ろしい……でもここでビビっちゃ俺は『役目』を果たせねぇ!」)
 総一郎の側にはもはや攻撃に加勢する余力は残されておらず、仲間達の支援を受けても尚、『魔人』化し光盾とイルヴァからの魔法陣を使い潰しながらの防戦一方へと追い込まれていた。
「あらあら、とうとう私に魅了されてしまいました?」
 総一郎のカバーへと廻ろうとしたメリチェルの眼前で竜爪の一撃は空を掻き、大地のみを砕いた。
 他ならぬ、七花咲き誇る彼女の縛霊手が絡ませた網状の霊力に阻害された攻撃失敗を見下ろし、メリチェルは嫣然と微笑んで揶揄し蝶のチャームを揺らした。
「男でも女でも? 節操の無いこって」
 そう嘯きながら軽やかにケルベロスチェインを操るツヴァイギリギリと片翼を締め上げ更なる拘束を強いる。
「緒戦の僕らが勝たなきゃならないんだ……!」
 裂帛の気合と共に、大空の霊力帯びた横一文字の太刀筋を大和が浴びせれば、その刀疵から既に重なる状態異常はみるみると侵食を進めて巨躯から自慢の戦闘力を奪い続ける。
「大丈夫、今ならもう当てられるしかわせる!」
 ぴんと凛々しく両耳立てて味方を鼓舞する樹斉の足元からは守護星座の輝き。
 敵『六花』の弱体化と比例して総一郎に蓄積する回復不能ダメージは着実に彼の肉体を蝕みつつあった。
「『運命の女神は勇敢な者に微笑む』……師匠はそう教えてくれた。だから運命を引き寄せる為に、俺は、この一戦に全てを注ぐ!」
 巨大な水晶の尾が渾身の膂力と共に揮われるや此処まで懸命に盾役を務めたエンとノイエが纏めて薙倒された。そして、残された前衛陣に襲い掛かる更なるもう一閃。
「ッ!! ダブル……」

 小さき薄墨の闘気をようやく血の海へと沈めたドラゴンの側にも悦びの色は全く無い。
「ラクに死ねると思うなよ! ドラゴン――!」
 自身も輪夏からの治癒を受けながら、懐にまで肉薄しての旋刃脚を炸裂させた大和は内心で敵の出方を窺っていた。もし【誘引】の効力から外れて尚、竜が総一郎への追い討ちを続けようとして隊の総力をあげても庇い切れぬ場合には暴走すら辞さないと少年は既に覚悟を決めていた。
 だが魔空回廊を守備する牙城の一たる『六花』にとっての急務は眼前のケルベロス全ての無力化もしくは撤退。
 故に、持ち前の冷静を惑乱させる『熱』にその判断力を捻じ曲げさせられ、複数のケルベロスを戦闘不能へ追い遣れ得た筈の攻撃リソースをたかだか1匹とサーヴァントのみに集中させられたなど『六花』にとっては不本意この上無い、敗北でしか無く。
 だがようやく平静を取り戻した竜にとって今、狙うべきは別の猟犬であった。

●散庭に翔ける
「絶対にこの戦いを制して、人々の明日を守る!」
 激化する戦いの中、イルヴァは攻守両面での味方支援に奔走しながらも察しつつあった。
 次はわたしだと。狩り易さと対効果において己こそ最も効率の良い標的である筈だと。
「とても強大な相手です、でも……」
 サーヴァントを含め半数を失った前衛守備を掻い潜り襲いかかる猛攻に晒されながら少女の心にもはや恐怖は無い。
 より凶悪に刃筋を変化させた黒影葬刃の一薙ぎ一突きが竜の四肢に踊る都度、味方が負わせた災厄はまた拡がってゆく。
「ただでは倒れない。それまでにその綺麗な鱗に、いくつもの傷を刻んでみせます!」
 ポニーテールを揺らし、黒刃を振るい、決して諦めない少女は総一郎同様に力尽きるその瞬間までひたすら敵を削ぎ、自軍を援けた。
 幸いというべきか彼女が受けた痛手は総一郎ほどでは無かった。其れは此処までに犠牲や消耗を重ねたのはケルベロスの側だけでなく『六花』も又同様だという何よりの証。
 粘り強い総力戦は、冬天の下の激闘下、結実の刻を迎えつつあった。

「ここは退きませんよ、絶対に、ね」
 銀の竜人は静かに魔導書を手繰り、古代語魔法の章で指を止め既に諳んじた語句を詠唱する。
 カルナから発せられた光線は狙い違わず『六花』の額を撃ち抜き、貫くと、呪力に囚われた紫水晶の右眼は急速にその色を濁らせ、覆う瞼ごと石柱へと封じ込める。
『――……っ!?』
 白水晶に咲く濃紫の六弁も巨敵を前に粘り強く抗い続けた猟犬達の牙の前に、今や、見る影も無い。 
「見切れるか、炎帝の軌跡を――! いざ、参る! 不動四神流肆ノ太刀『朱雀』!」
 必ずやこの一撃で決めてみせると、大和の、居合いにも似た抜刀術から放たれた全方位の尋常ならざる殺気と十六の剣閃、其の絢爛たる乱撃。
「堕ちろドラゴン! この僕の炎帝の羽撃きでなァ!」
 万全の態勢であれば、あるいは、此れすらも全て躱されていたのかもしれない。だが激闘の中で消耗を繰り返しもはや満身創痍の『六花』に『朱雀』から逃れる術は無い。
 ――其れは無念か、新たな憤怒か。
 理性的には程遠い獣じみた咆哮を断末魔に、『六花』の命は完全に絶たれたのだった。

 手分けして総一郎やサーヴァント達を抱え上げイルヴァに肩を貸した後、彼らは一時離脱を開始する。
 激闘冷めやらぬ、などといった興奮とはまったく無縁の極めて冷静な所作でポケットから携帯を取り出したツヴァイは仲間達を誘導し始める。
「これで終わりじゃないっすしね」
 穏やかな潮風が吹き抜ける広場には煌めく白と紫の残骸だけが山と残され。
 ――やがてそれらすべても、音もなく残雪よりも儚く、溶け失せるのだった。

作者:銀條彦 重傷:天津・総一郎(クリップラー・e03243) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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