城ヶ島制圧戦~死闘! 展望台裏のレッドドラゴン

作者:沙羅衝

「みんな、よう聞いてな」
 緊張した顔の宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)がケルベロスに言う。
「実はな、この前城ヶ島の強行調査が行われてんけど、そこに『固定化された魔空回廊』が発見されたんや」
 絹の話に、ケルベロス達はそれぞれの反応を見せていく。
「そんでや、この魔空回廊の内部を突破するという作戦が展開されたんよ。知ってるかもしれんけど、ここはドラゴンの本拠地や。その突破が出来たらドラゴンが使っている『ゲート』の位置が特定できる。せやから、その後の展開によっては、ケルベロス・ウォーから『ゲート』を破壊することも視野に入れることができるんや」
 ケルベロス達は、ごくりとつばを飲み込んだ。
「全体的には『ゲート』の破壊が最終的な目標や。それが出来たら、ドラゴンは新しく地球に来られへんようになる。いわばここはドラゴンの急所やな。絶好のチャンスっちゅうことや」
 強力なドラゴンを抑えることができるかもしれない。ケルベロス達はそれぞれの表情を浮かべ、絹の話に聞き入った。
「これも、強行調査のおかげやねんけど。魔空回廊を奪取する為の作戦ができた。要はそういうことやねんな。でも、ドラゴンはめっちゃ強い。生半可な作戦やったら勝たれへん。でも、勝機はきっとある。みんなの力、貸して欲しい。お願いや。」
 絹はそう言ってケルベロスに頭を下げ、作戦内容をいつもよりゆっくり、丁寧に話し始める。
「ほかの仲間が城ヶ島の西部に橋頭堡っちゅう砦を作ることになってて、そっからドラゴンの巣窟になってる城ヶ島公園に進軍することになるんやけど。うちらの作戦は、その進軍部隊の一つになるわ。道中の進軍はうちらヘリオライダーが予知して割り出してるから、その通りに移動して公園に乗り込むで。
 固定化された魔空回廊を奪取するためには、その他の周りのドラゴンを倒して、戦力を削る。一見地味やけど、かなり重要や。ここが失敗してしまうと、この魔空回廊奪取も失敗してしまう。全体にかかわる行動やから、必勝やで」
 全体行動の一つ。絹が言うとおり、自分たちの作戦は、はっきり言って主役ではない。しかし、大事な作戦の一つである。縁の下の力持ち、そう言った人間も必ず必要だ。ケルベロス達は絹の話す作戦に聞き入った。
「そんでな、うちらが戦うのは、この城ヶ島公園にある展望台裏のレッドドラゴンや。そこまではさっき言った通り、予知ですんなりいける。問題はここからや。このドラゴンを倒さなあかんねん。みんなできっちり連携せんな、ホンマに倒されへん。それどころか……」
 絹は少しうつむき、悲しげな顔をする。しかし、きっと顔をあげ、ケルベロスに作戦を伝える。
「でもな、みんなやったら、きっと勝てると思うねん。このレッドドラゴンは、展望台の裏にある磯場におる。足場はごつごつしてて動きにくいから、そんなにポジションを変えたりは出来へん。誰が回復して、誰が攻撃するのか。攻撃をどうやってしのぐかとか……決め打ちでいくことが重要や。良く話し合うてな。
 あと、このドラゴンは、レッドドラゴンの名前から想像できると思うけど、列攻撃である強力な炎のブレス。それと爪と尻尾で攻撃してくる。その対策も抜かりないように、準備するんやで」
 ドラゴンはかなりの強敵だ。ケルベロス達は周りの仲間を見渡し、うなずいた。
「せっかく強行調査で得た千載一遇のチャンスや。敗北してしまうと、魔空回廊の奪取作戦を断念することにもなりかねへん。気をつけては欲しいんやけど勝って欲しい。帰ってきたらご馳走するから、成功報告待ってるな!」
 絹の声に、ケルベロス達は気合を入れた。


参加者
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)
和泉・流麗(ドラゴントリガーハート・e00041)
シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
リノ・ツァイディン(旅の魔法蹴士・e00833)
皇・絶華(影月・e04491)
黒住・舞彩(ウェアライダー育ち・e04871)
風音・和奈(固定制圧砲台・e13744)

■リプレイ

●ドラゴンズブレス
「あいつ……だな」
 皇・絶華(影月・e04491)は、展望台の裏から見える磯場に、どっかりと居座る巨大な赤銅色の塊を発見して言った。手に持った双眼鏡を使う程でもなく、はっきりと分かるその姿に、唾を飲み込む。
 ここ、城ヶ島公園にたどり着いた一行は、絹に言われた道をたどり、すんなりと展望台までやって来ていた。周囲では他の戦闘が開始され、剣を交える音や、ケルベロス達の咆哮、そしてドラゴン達の攻撃の音が混ざっていた。
「では、私達も行きましょう。この竜を倒し、更なる高みへ……」
 幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)はシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)とリノ・ツァイディン(旅の魔法蹴士・e00833)と顔を合わせ、うなずく。
「ここが作戦の場所……。でもこのぶんじゃ、奇襲は無理そうだね。一気に行こうか。託されたバトンを後の希望につなげるよ……!」
 風音・和奈(固定制圧砲台・e13744)はそう言って、展望台裏から磯場につながる崖にできた階段を駆け下りていく。彼女の地獄化された左の翼がその動きに合わせて上下に揺らめいた。
「一人ではないのだから。必ず勝つわよ。宮元のご馳走も待っているし……なんてね?」
 黒住・舞彩(ウェアライダー育ち・e04871)も和奈に続いて走り出す。
 ケルベロス達は一気に階段を下り、磯場にたどり着いた。そこはゴツゴツした岩場が連なり、かなり動きづらい。しかし、それは相手も同じこと。その為に作戦を練ってきたのだ。
 駆け下りてきた崖を背にし、海の方向を確認する。波が岩に当たり、しぶきを上げる。そして目の前に巨大なドラゴンの姿が見えた。
「オレの相手はお前達か……。虫けらだな」
 ドラゴンは島の異変に気がつき、自分の所へもケルベロス達が降りてくるのが分かっていたのだろう。既にその目は覚醒し、太い首をケルベロス達に向けていた。
「……本当に大きいですわ」
 シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)が、展望台裏から見えていた姿で、ある程度の大きさは分かっていたつもりだったが、いざ対峙すると、その巨大さに息をのんだ。少し腰が引けるシエルの前に、和泉・流麗(ドラゴントリガーハート・e00041)が立つ。
「……でも、絶対に引けないね」
 流麗はそう言いながらアームドフォートを構えた。ケルベロス達は、ドラゴンを取り囲むように広がっていく。絶華を中心に、流麗と舞彩が少し後ろに続く。シルと鳳琴は少し下がりながら位置を取り、全体的に円形に散らばった。
「行くぞ!」
 絶華の声を合図に、リノが詠唱を開始し、リノのボクスドラゴン『オロシ』が絶華に力を注いでいく。
『光よ――癒しの雨となれ』
 シルと鳳琴に対し、空中に展開させた魔法円から光の雨が降り注ぐ。
 光を受けたシルと鳳琴は互いにタイミングを合わせ、絶華と共にドラゴンに突っ込んでいく。
「おおおおお……!」
 絶華のナイフがドラゴンを捕らえる。しかし、その硬い鱗に阻まれ、ナイフは弾き返された。
「鳳琴さん、合わせてっ!!」
「了解。今日、私は神を超える!」
 シルと鳳琴の飛び蹴りが、同時にドラゴンの首に突き刺さった、ように見えた。しかし実態は、その鱗に傷を残すことが出来ず、何事も無かったかの様に、同じ体勢のままたたずむドラゴンの姿だったのだ。
「かゆいな……」
 ドラゴンはそう言い、口から熱を溜めていく。
「シル、幸、下がって!」
「ボク達に任せて!」
 舞彩と流麗が二人と入れ替わるように前に出たと同時に、ドラゴンの口から炎が吐き出された。

●使命
「ぐ……!」
「くぅ……」
 近距離からの炎を受け、舞彩と流麗は後方まで吹き飛ばされ、二人の身体から炎があがる。
「わたくしにお任せ下さい!」
 シエルがそれを見て、癒しの歌を歌い上げる。舞彩と流麗の身体から炎が消え、傷が回復していった。
「シエル。助かった。まだまだ、これからだ」
 舞彩はシエルに礼を言い、再びドラゴンに向かっていく。
「ボクも、行くよ」
 流麗は翼を広げ、ドラゴンの周りを飛び回り始めた。
「小ざかしい……」
 ドラゴンはそう言って、流麗を叩き落そうと尻尾を振り上げた。しかし、その尻尾の動きを遮る様にドラゴンの周りに大量の弾丸が出現し、取り囲んだ。
『OverDose……手加減も調整もしないよ!』
 和奈の放った大量の弾丸が、和奈の言葉を合図にドラゴンの首へと降り注いだ。
 ドドドドドド……!
「いいの……? アタシを放置してさ……!」
 和奈はそう言い、ひらりと距離を取る。
「おのれ……虫けらの分際で」
 ドラゴンは自分攻撃が阻まれたことに苛立っている様だった。
「まだまだ、行きます。倒れるまで、何度でも! シルさん!」
「OK! いくよっ!」
 鳳琴が精神を集中し、ドラゴンの腹に爆破を行うと、シルが再びドラゴンに突っ込み、マインドリングから光の剣を具現化して首に切り付け、直ぐに距離を取る。
「おおおおおお!」
 そこに絶華が飛び込み、先程シルが与えた傷をえぐるようにナイフを刺し込み、切り上げた。ドラゴンの傷が深くえぐれていき、ドラゴンは咆哮した。
「キサマァ……!」
 ドラゴンは絶華を睨み、腕を振り下ろす。
 ドグッ!
 鈍い音と共に、絶華は地面の岩に叩きつけられた。
「ぐはっ!」
 絶華はもんどりうって倒れ込み、強烈な痛みに耐える。
「絶華! でも、ここが正念場だよ。働かせる様で悪いけど、力をあげる!」
 リノはそう言って、絶華に満月の力を注ぐ。絶華の傷が回復していき、更なる凶暴性が目覚め始めた。
「有難うリノ……。私は純粋に、打ち込んでいくのみ。我らが背にその災害を畏れる者達が居る限り、逃げる訳には行かぬ」
 絶華は膝を震わせながら、何とか立ち上がり、再びナイフを手に取り、構える。

●何度でも
「ここで踏ん張ることが未来に繋がるんだよ! 自由になんてさせるもんか!」
 和奈のガトリングガンが再び火を噴き、弾丸を嵐のようにばら撒いて撃ち出していく。その弾丸はドラゴンの全身にくまなく着弾し、その衝撃が巨大な身体を前後左右に動かす。和奈の攻撃を受け。ドラゴンの後ろ足は度々突っ張った様な姿のまま、動作し難くなっていることがケルベロス達には分かった。
「鳳琴さん、もういっかいいくよ!」
 和奈の攻撃に続き、シルと鳳琴が大きく飛び上がり、ドラゴンの両脚に重力の重みを加えた蹴りを同時に打ち下ろした。二人の蹴りが、ドラゴンの脚にめり込んでいく。
「グアアアア!」
 ドラゴンは先程までは無かった苦悶の表情が浮かび、その動きが徐々に鈍ってきていた。
 しかし、その苦痛を振り払うかの様に、尻尾をシルと鳳琴に叩きつける。
「させないわよ!」
「キミの動きはもう、見切ったよ!」
 シルと鳳琴に入れ替わり、舞彩と流麗がその尻尾の攻撃を二人で受け止めた。そこへ、リノのボクスドラゴンのオロシも加わる。1メートルほど後ろに後退しつつも、巨大な尻尾はその二人を吹き飛ばすことなく、完全に止まった。
「さて、こちらからも行くわよ」
 舞彩は右腕に仕込んだ長銃をその尻尾にぴたりとあてがい、エネルギー光弾を射出する。ゼロ距離で撃ち込まれた尻尾が、ドラゴンから引きちぎられんばかりに激しく跳ね上がった。
「ナイス、舞彩! よし、ネギ、シソ戦闘モードON!」
 リノはこちらの攻勢を見て、肩に乗せていた白毛のフェレットと白枯葉色のスピックコノハズクをロッドに変換させていく。
「弾丸モードシフト! シソ出番だ!」
 リノのロッドからスピックコノハズクのシソが魔法の力を纏いながら一筋の光となって撃ち放たれ、ドラゴンの尻尾の傷を深くえぐっていく。
「今度はボクの番だね!」
 流麗は上空に飛び上がり、氷結の螺旋を放つ。その氷が深い傷を負っている尻尾に直撃する。直撃と同時に、螺旋状の氷柱が出現し、尻尾をズタスタにしていった。
「ギャアアアアア!」
 何度も撃ち込まれるケルベロスからの攻撃に、怒りの咆哮を上げるレッドドラゴン。そしてその前に、絶華が再び対峙する。ドラゴンは絶華に炎を吐き出そうと口に熱を溜め始めようとした。しかし、その熱が分散していき、炎にすることが出来ない。
「そろそろ、終わりにさせてもらおう」
 絶華はそう言って、刃を静かにしまいこみ、目を閉じ、集中を開始した。

●潮の香り
『火よ、水よ、風よ、大地よ…。混じりて力となり、目の前の障害を撃ち砕けっ!!』
 シルがエネルギーを一点に収束させ、ドラゴンの羽根に着弾させた。ドラゴンの羽根がそのまま前に向かって垂れ下がる。
『この一撃で、貴方の全てを貫く――!勝負だっ!』
 鳳琴が、その垂れ下がった羽根に、グラビティを集中させた拳を、鋭い踏み込みと共に叩き込きこんだ。
 バキバキバキ……。
 鳳琴の拳は、ドラゴンの羽根を根元から砕き、羽根の折れる音が周囲に響き渡った。
「グオオオオオオ!!」
 ドラゴンは絶叫にも似た咆哮を上げる。
『妖精さん、そろそろご準備よろしいですか?』
 回復はもう不要と判断したシエルが、歌いながら小さな妖精を次々と召喚する。
「お願いします!」
 シエルの言葉を聞き、妖精たちは流れ星が降り注いでいるかの様に敵に襲い掛かかる。ドラゴンはその妖精たちの攻撃をまともに受けていく。
 そして、集中していた絶華が目を開ける。
「お前達で紡いだこの好機……絶対に活かしてみせるぞ!!!」
 絶華は今まで一緒に戦った仲間、酷く傷を負った者や、自分の無力さを思い出し、拳に力をこめる。
『我が身…唯一つの凶獣なり……四凶門…「窮奇」……開門…!…ぐ…ガァアアアアアア!!!!』
 絶華は絶叫し、魔獣の力をその身に宿していく。
「アアァァァァ……これで、終わりだァ!」
 刹那、絶華の姿がドラゴンの眼前から消えた。一瞬の静寂の後、絶華の姿はドラゴンの身体を駆け昇り、残像を残しながら刃を抜き、狂ったように何度も何度も切りつけていった。
 その攻撃を見ながら、舞彩はドラゴンに問いかける。
「……どうしてあなた達ほどの種族がこうなっていくか分かる? 私達との違いは、そう、一人では無いということ。そして、それはとてもかけがえのないこと。そして、それを知ってるという事が、こういう結果を生むのよ」
 絶華は最後にドラゴンの頭上に大きく飛び上がり、勢いをつけた刃をドラゴンの頭に叩き込みながら切り裂いていく。ドラゴンの身体はその刃を受け、二つになる。絶華は刃を切りつけながら、そのまま地まで到達した。
「奥義。窮奇……」
「ガ……!」
 ドラゴンはその大きな頭を天に向け、そのままどうっと倒れ、ゆっくりと消滅していった。
「終わった……か」
 絶華はそう言うと、膝をつきながら倒れこむ。
「絶華様!」
 シエルは近づき、傷の様子を確認する。しかし、傷はグラビティで回復して癒えている。どうやら相当のダメージが蓄積されているようだった。もう一度ダメージを受ければ、暫くの間動けないほどの傷となっていたかもしれない。
「大丈夫だ。動ける」
 絶華はそう言いながら、シエルを制し岩場に座り込んだ。
「どうやら、他の場所も上手くいったようだな。私達の、勝ちだ!」
 鳳琴はそう言って、公園の声を聞く。ケルベロス達の勝どきの声がどんどんと大きくなって行くのが分かった。
「援護とか要らないみたいだね」
「そう、みたいだね。後は本隊。中央だね」
 流麗の話に、シルが魔空回廊奪取作戦の本隊のことを想う。
「きっと、大丈夫。成功するよ」
 和奈はそう言いながら、他の仲間の成功を信じた。
「ま、とりあえず。絹のご馳走は、いただけそうだね!」
 リノの話に、絹が待っていてくれていることを思い出し、笑みがこぼれる一行。
「待ってくれている人が居る。先程のドラゴンには言いそびれたわね。フフフ……」
 舞彩はそう言いながら微笑んだ。
 ドラゴンとの戦いはまだ終わっていない。しかし、確かに彼らは勝利し、次への道をつないのだ。
 潮の香りを含んだ風が、ケルベロス達の勝利を祝っているかの様に優しく吹き抜ける。ケルベロス達は勝利の味をかみ締めながら、一歩一歩地を踏みしめ、戦いの場から自らの帰る場所へと足を向けた。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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