宇宙のグランドロン決戦~ZERO to ONE

作者:そうすけ


「どうやら、無事に大気圏を超える事ができたようですね」
「まぁ、ここまでは順調だな」
 漆黒の宇宙空間にただ一つ、小さな星がぽつんと浮かんでいる。
 グランドロンから見下す地球は、ほとんど目に見えない大気のベールに薄く覆われた、輝く青い大理石のようだ。
 レプリゼンタ・ロキとジュモー・エレクトリシアンは、地球が放つ青い光で満たされたフロアで、空中を漂う数え切れないほどの数のホログラムに囲まれながら、作戦の最後の詰めを行っていた。
「あとは、無事に合流できれば……。人造レプリゼンタが、戦わずとも、こちらの傘下に加わるという情報は確かなのでしょうね」
 ジュモーはロキに疑惑の眼差しを向ける。
「あぁ、俺が保証するぜ。奴らの考え方は、レプリゼンタの俺には丸わかりだからな」
 それもまた不確かなことだ。あくまでロキの主観で、数値化して共有することができない。それゆえ不安を感じるが……。
 ジュモーは冷静に計算を続ける。
 まあ、ロキの言い分は概ね信じてもよかろう。プログラムを狂わせるバグはケルベロスだけで十分だ。
 ロキはジュモーの沈黙を自分の都合のいいように解釈し、微笑むことはしなかったものの、心配するなと鷹揚に頷いて見せた。
 ホログラムの一つが揺らぎ、展開してダモクレス兵の姿となった。
 合成音(もともとそんな声なのかもしれない)で、間もなくマスター・ビースト残党軍との交戦空域に到達すると報告する。
「ふむ。いよいよだな。よし、最後に互いの立ち位置をもう一度確認しようじゃないか」
 ロキは、お先にどうぞ、と道化しぐさでジュモーに手を向ける。
「……。私が欲するのは、マスター・ビーストの知識。彼の知識があれば、グランドロンを取り込んで、ダモクレスは新たなステージに進化する事が出来るでしょう」
「俺の目的は『神造レプリゼンタ』を『コレクション』に加える事だから、競合はしないな」
「合理的に考えれば、その通りですね。あとは、ケルベロスの邪魔さえなければ……」
「ケルベロス共か」
 ロキは低く唸った。
「如意棒さえなければ恐れるに足らずだが、できれば、戦わずに済ませたいものだ」


 『暗夜の宝石』攻略戦、いわゆる月面戦争から数週間、ヘリオライダーたちは全力をあげて、マスター・ビースト残党軍を探していた。
「それでやっと……マスター・ビーストの残党たちの動きを掴む事が出来たんだ」
 ケルベロスたちを前に、緊張の面差しでゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は語り始める。
「まず作戦の前景から説明するね。
 神造レプリゼンタ三体を中心とした残党軍は、遺棄されていたソフィステギアのグランドロンを改修し、マスター・ビーストの遺産を運び出して地球に向かっている。その目的は……ずばり、『地球上の希少動物を絶滅させて、神造レプリゼンタを産みだす』こと」
 つまり、彼らが地球に到達する前に撃破する必要があるのだ。
 しかし、問題はそれだけではない。
「マスター・ビースト残党を降伏させて仲間に加えようと、大阪のユグドラシルから、レプリゼンタ・ロキとジュモー・エレクトリシアンが、グランドロンで向かおうとしているんだ。これも阻止しなくちゃいけない」
 マスター・ビースト残党は、首魁であるマスター・ビーストを失った事でいちじるしく士気が低下している。
 ユグドラシル勢力との戦力差が大きければ、戦わずにレプリゼンタ・ロキに降伏、傘下に入ってしまうだろう。
「つまりボクたちは、マスター・ビースト残党とユグドラシル勢力の両方を同時に相手にしなくちゃいけないってことさ」
 しかも――。
 『暗夜の宝石』攻略戦後、ヘリオンの宇宙装備は調整の為、NASAに運び込まれており、すぐに動かせる数には限りがあった。
 また、『磨羯宮ブレイザブリク』の利用もできない為、今回は少数精鋭での阻止作戦を行わなければならない。
 ゼノはため息をついた。
「だから……今回は非常にシビアな作戦をとらなくてはならないんだ」
 まず、別動隊がユグドラシル勢力を先制攻撃する。
 これによりすぐさまマスター・ビースト残党とユグドラシル勢力が合流する事は阻止できるが、双方がケルベロスを共通の敵として共闘する可能性が高い。
「ボクたちは少ない戦力で、それを阻止しなくちゃいけない」
 ユグドラシル勢力は『可能ならば、マスター・ビースト残党軍を吸収』したいと考えているが、自分たちの全滅と引き換えにしたいとまでは思っていないようだ。
「ユグドラシル勢力を説得して下がらせることができれば……これが突破口、作戦成功の鍵となるだろう。
 非常に危険な任務だけど、ここにいるみんなにお願いするよ。
 ジュモー・エレクトリシアンのグランドロンに軍使として赴き、口先三寸で敵の合流を防いでこちらに有利な状況を作り出して欲しい」
 ジュモー・エレクトリシアンは合理的な思考を行う為、軍使であるケルベロスを殺害する危険性を考え、交渉に応じてくる可能性は十分ある。
 ロキもまた、好奇心から交渉に応じるはずだ。
 短絡的で、感情的な性質ではあるが、それゆえに思考を誘導できるかもしれない。
 デウスエクスは自分に都合の良い嘘をつくだろうし、約束を守る信義なども持ち合わせていないが、信頼できない交渉相手である事を忘れなければ、有利な状況を導き出せるだろう。
「ジュモーとロキは互いの目的の為に利用し合っているので、その間隙を突く事ができれば、有利に交渉できるかもしれないね」
 とはいえ、納得させなければならないのはロキではなくグランドロンを動かせるジュモーの方だ。
 ジュモーに、マスター・ビースト残党軍と合流してケルベロスと戦う事は合理的では無いと考えるような情報を提示することができれば、交渉は成功する。
「ああ、そうだ。一つ気をつけて欲しいことがある。
 ジュモーが軍使であるみんなを殺すとは思えないんだけど……全くないとは言い切れない。言動に気をつけて、くれぐれも慎重にね」


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858)
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
副島・二郎(不屈の破片・e56537)
クロエ・ルフィール(けもみみ魔術士・e62957)
狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)

■リプレイ


 宇宙の荒涼たる空域に、狂乱した白熱の大閃光がまたたいた。
 グランドロン付近の宇宙空間が、目もくらむような紫色の光と金属の破片でみたされる。
 ジュモー・エレクトリシアンはレプリゼンタ・ロキとともに艦橋にいて、冷静に戦況を注視していた。
「へっ、派手にやられちまったな」
 ジュモーはロキの挑発に乗らず、指揮ステーションのコンソールを操作する。
「――左舷下部L2Eのハッチを開放、回収スピードを上げなさい」
「で、ジュモーよ、この後はどう動く? まさかこのまま……って、なんだ、ありゃ?」
 スクリーンの上隅に、白旗を掲げた八人のケルベロスが映っていた。グランドロンに向かっている。
「私たちと話し合いたいことがあるようですね。右舷下部の格納庫ブロックに迎え入れましょう。話はそこで聞きます。いいですね、ロキ」
 まじかよ、とロキがうきうきした様子で呟く。
 この異常事態を楽しんでいるようだ。
 ジュモーは冷たい視線でロキを一瞥すると、テキパキと使者の受け入れに動いた。
「――本艦に非武装のケルベロスが八名、向かってきています。右舷下部に誘導灯をつけて、R2Dハッチを開きなさい。稼働可能状態にあるものはすべてのR2D格納庫へ急行するように。ケルベロスたちが乗艦する前に配備を終えること。以上」
 グランドロンの艦内がにわかに騒がしくなる。
「行きますよ、ロキ?」
「よろこんでお供しよう」


 宇宙の闇のずっと先でハッチが開いていて、細長い光が登ってくる。ケルベロスたちは誘導灯に導かれてグランドロンの内部に入った。
 背後のハッチが閉じる。緑のパトライトが点滅を始めて、空気の吹き込みを知らせた。
 ここは格納庫か。ソコソコ広さがある空間の左右に、ダモクレスたちが二重三重に並んで通路を作っている。
 とても歓迎されている雰囲気じゃない。
 そんな中でも狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)は平常運転だ。肝が太い。
「OK、まずは無事に乗り込めたな。さて……人機和平交渉と行こうぜ」
 針一つ落ちても響くような静寂の中、ケルベロスたちは二列になって敵兵の間を進んで行く。静かに、しかし毅然として。
 通路の先に見えている扉は固く閉ざされており、その手前に盾を装備したダモクレスが四体立っていた。
(「ふむ。どうやらわしらを艦橋に招くつもりはないようじゃな」)
 この塩対応に、端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)は苦笑する。
 立場が違えば自分もやはり同じ判断をしただろう。非武装といっても油断ならぬ相手、交戦中の敵なのだ。艦の中枢部で大暴れされてはかなわないといったところか。
(「しかし、絶対に。絶対に失敗するわけには、いかぬ。なんとしても、このあとの戦いに繋げなくては、の」)
 指示に従って通路の途中で立ち止まる。ケルベロスたちは横に広がった。
 息のつまるような沈黙。ダモクレスたちから放たれる敵意の波動が、ケルベロスコートを突き抜けて、肌にはっきりと感じられる。
 もし、いまここで襲われたら?
 冗談じゃない。
 括はひとつひとつの言葉に重みをつけて、ゆっくりとしゃべる。
「我ら軍使が定刻に戻らぬ場合、集結したケルベロスの全戦力で以って攻撃を仕掛ける手筈じゃ。無用の争いを避けるための対話と理解してもらえるじゃろうか」
 ダモクレスたちに動きがないのを承諾の印と受けとって、副島・二郎(不屈の破片・e56537)が言葉を継ぐ。
「攻撃停止条件を、ダモクレスの指揮官に伝えに来た。会わせてくれ」
 僅かな起動音とともに電子ロックが解除され、ハッチが上下にスライドする。二体の……恐らくメディックを脇に従えて、ジュモーとロキが現れた。
 前にディフェンダー四体、横にメディック二体、そして両脇に数十体のダモクレス。くそ。万全の体制だ。数が多すぎる。せめて艦橋に上がれていたなら、これだけの数に一度に囲まれることはなかっただろう。
 ジグが唇をかむ。
 ジュモーが盾四体の向こう側で口を開いた。
「ようこそ、ケルベロス」
「さっそく聞かせてくれ。さぞかしいい話なんだろうな。楽しみだぜ」
 ロキの第一声は皮肉っぽい言葉だった。態度はおちゃらているが、目が笑っていない。
 クロエ・ルフィール(けもみみ魔術士・e62957)に抱かれて、シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858)が前に出る。
「Bonsoir……お久しぶりですの」
 お母様、と口だけを動かして、ジュモーの様子を窺う。
 情に訴えかける視線を向けられても、ダモクレス司令官は微動だにしない。
「Alertant……ロキに唆された様だけど考え直した方が良いですの」
「お? 当の本人を目の前にして、公然と仲間割れをそそのかしてきたか」
 ロキのニヤニヤ笑いが大きくなる。
 肝心のジュモーからは思わしい反応が得られないが、続けるしかない。
 シエナは心にじわりと広がる失望を感じつつ、震えだした手を背の後ろに隠した。
「Interrogeant……無断で貴重な戦力を動かす人を信じますの?」
 ジュモーの表情が初めて動いて、暗いまなざしがロキに向けられた。
 ロキが小さく肩をすくめてみせる。
「お忘れですの? 北海道は苫小牧市で『バレる覚悟で放出した』と言って、味方に無断で戦力を動かしていた事を」
 ロキは小指の爪を耳の穴に入れて、ほじくった。
「覚えちゃいねぇな」
 小指の先にふっと息を吹きかけて耳あかを飛ばす。せせら笑う赤い顔か憎たらしい。
 不発だ。
 クロエはシエナの肩を抱いた。
「シエナさん、一度下がりましょう」
 シエナはこくりと頷くと、クロエに付き添われ、不満を抱えて後ろへ下がった。
 次に手をあげたのは、相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)だ。折衝というよりも、ジュモーに芽生え始めたであろうロキへの不信を更に大きく、強くしていく。
「なあ、おとなしく手を引いちゃくれねえか。仮に無傷で俺たちを退けることができたとして……ロキ、果たしてレプリゼンタがアンタに従うかな?」
「俺には神造レプリゼンタどもの考え方が手に取るようにわかる。なんたって俺は正真正銘の『レプリゼンタ』なんだからな。保証するぜ」
 ケルベロスたちは知らぬことだが、艦橋でジュモーに言った事と内容はほぼ同じだ。つまり、ロキの思い込みに過ぎない。
 竜人はそこを突く。
「俺が保証するってのは随分な自信だな。それで押し通されると俺らとしても納得できねえんだが、もう少し証拠とかねえの?」
 金色の瞳に、一瞬、憤激の色がほとばしった。
「証拠だ? なんで俺がおまえたちに証明しなきゃなんねぇんだ。俺が絶対といったら絶対なんだよ」
 話にならない。まるで子供の屁理屈だ。駄々をこねる悪ガキそのものではないか。
 竜人は右手で頭をガシガシとかいた。白眼がちな目でジュモーをねめあげる。
 心の内ではロキのことでジュモーに同情しているが、いまはそんなことはおくびにも出さない。
「なあ、コイツいつもこんな胡散くせえの? 逆に今まで何か確証ある話って聞けたことあるのかい」
 相棒の『マンデリン』も顔の表示を『?』に変えて、ジュモーのロキへの不信を煽る。
 ロキが不意に不機嫌な目になって竜人を睨む。
 格納庫の空気がピリピリと張りつめた。
 まだダモクレスたちに動きはないが、ジュモーが指一本動かしただけで、一斉に飛びかかってきそうだ。
「まあまあー」
 フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)が柔らかな声で、火花を散らす視線の間に割って入った。
 ここは一旦、追及を弛めたほうがいいだろう。
「ロキと『神造レプリゼンタ』、やはり同じならば分かるご様子ー。私たちがいかに否定しようとも、否定しきれるものではないでしょー」
 相手を持ち上げて緊張を和らげる。
 果たしてロキは、わかっているじぇねーか、とばかりに、口の端で咥えた煙管を上下に振った。どや顔をジュモーの横顔へ向けるが、これは無視される。
「ちっ……」
 どうやらこちらが疑惑を植え付けるまでもなく、二人の関係は冷え込んでいるようだ。すくなくともジュモーは敵を前にして、しかたなく組んでいる、といった雰囲気を隠そうとしていない。
 フラッタリーは無言を貫くジュモーをターゲットから外した。このままロキを揺さぶり続けていこう。そうすればロキが勝手に自爆してくれるはず。
「ときに、ロキ」
 フラッタリーは、暗夜の宝石でマスター・ビーストが聖王女の調査をしていたことを話して聞かせた。
「『巻き戻し』云々しかー、私は意味が分かりませんでしたけどー」
 ロキならば、マスター・ビーストが手に入れようとしていたものすべてを欲するに違いない。それは『神造レプリゼンタ』と比べてより魅力的に感じるだろう。
「興味を引かれたのでは?」
 いきなりロキが体を反らせ、腹の底から呵呵大笑した。
「貴重な情報ありがとうよ。マスター・ビーストの遺跡はそのうち行かなきゃなんねぇな、と思っていたんだ。そのうちな。だが、いまはやめておこう。ダモクレスと仲良く合同作戦中だ」
 勝手なマネはできねぇからな、と先ほどのシエナの発言に嫌味を乗せて返す。
 フラッタリーの企みも空振りに終わった。
 円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)が後を引き継ぐ。
 キアリは当初の作戦に立ち返り、ジュモーのロキへの不信を強めることにした。
「ジュモー、聞いて」
 理路整然と、『マスター・ビーストは最期に絶対制御コードを用い、神造レプリゼンタたちへ「誰のものにもならぬように」と命じた節がある』ことをジュモーに説く。
「なんだと!?」
 気色ばむロキを無視して話を続ける。
「……以上のことから、神造レプリゼンタたちをユグドラシル勢力へ取り込むこと、ロキのコレクションとすることは不可能に近いとわたしは考えています」
 ジュモーが眼鏡の奥で二度、三度と瞬いた。うっすらと唇が開く。
 が、その口から言葉が出てくる前にロキが遮った。
「マスター・ビーストの絶対制御コードだ? それこそ『誰のものにもならぬように』とマスター・ビーストが命じた証拠があるのかよ」
「節がある、といいました。たしかに、いまのはわたしの推測です。ですが――」
 確たる証拠を出せ、と言われれば口をつぐむしかない。
 しゅんと猫耳を倒した相棒の二の腕に、『アロン』が鼻先を押しつけて気遣う。
「話にならねぇ。なあ、ジュモー。こんな与太話、信じねえよな?」
「待ってください」
 クロエが前に進み出る。
「神造レプリゼンタたちがマスター・ビーストの遺産に執着しているように、マスター・ビーストもまた神造レプリゼンタに執着していた……感情的に、とても。だから、『誰のものにもなるな』って命じた可能性は十分あると思うの」
 ジュモーの冷たい目を真っ直ぐ覗き込む。そこにわずかでも温もりを与えたい、と願いながら。
「神造レプリゼンタにとってもマスター・ビーストの遺産は大事な形見なの。だから、簡単に手放せるものではないんだけども……ジュモーさんにも、そんな大切な形見があるの!」
 シエラを振り返る。
「だって、ここに拒絶されても尚、母と慕い心配する子がいるから……」
「解るでしょ、と言いたいようですが――」
 ジュモーの表情が動いて暗いまなざしがクロエに向けられた。
「生憎、そこの『ケルベロス』に母と呼ばれる覚えはありません」
 ジュモーの口調には、有無を言わせぬ響きがこもっていた。
 うっ、と零して顔を伏せたシエナの頭を、二郎がポンポンと優しく叩く。
「話が逸れたな。先程のキアリの話はつまり、いろいろ考えて、『神造レプリゼンタ』と合流・共闘は合理的ではない、と言いたかったんだ」
「何が合理的でないのか。ここまで話を聞いていても、いま一つ理解できませんでしたが」
 ジュモーがぴしゃりと跳ねつける。
「なあ、おまえたち。本当に何しに来たんだ? もう少しマシな話を聞かせろや」
「ならば、この話はどうだ?」
 ロキの苛ついた口調に、二郎は表情を消した。
 ジュモーに顔を向ける。
「ケルベロスは『神造レプリゼンタ』に便乗し、この機にロキ打倒の為戦力を派遣中だ。ダモクレスがあくまでロキにつくなら全面衝突だが、味方しないのならその理由はない」
 二郎は、賢明な判断を、と慇懃に頭を下げて後退した。
「あんたらも無駄に争って無駄に消耗したくねぇだろうし、俺らも避けられる怪我は出来る限りの避けたい」
 ジグがダモクレスたちを睨めまわす。
「ああ、俺たちはあんたにとってプログラムのバグに過ぎない。だが……」
 不敵に微笑みながら、竜の凶手をジュモーに見せつける。
「プログラムを腐るほど見てるあんたなら分かるだろ。バグは時に理解不能なイレギュラーになるってよ」
 心のなかの怒りが、ジグの口調を自然と乱暴なものにしていた。
 交渉決裂、ならばただでは済まないぞ、と敵に圧をかける。
 挑発を受け、武器を展開したダモクレスたちが一歩前に進み出た。
 ケルベロスたちも瞬時に戦闘態勢に入る。
「待て、待て」
 一足即発の事態に括が声を張った。
「我らは死ぬためではなく、皆を活かすために来たのじゃから。我らも、きちんと生きて帰らねば」
 括は怒りに満ちた顔で、諭すように語り出す。
「最初にも言うたが、これは無用の争いを避けるための対話じゃ。のう、ジュモー。のう、ロキ。矛を収めてもらえんじゃろか」
 ジュモーが静かに片腕をあげた。
 覚悟を決めた刹那、ダモクレスたちが武器を収めて下がった。
「ケルベロスがロキだけを狙うというのならば、その戦いには介入を控えましょう。ロキも、それで良いですよね?」
「それは、まぁ、しょうがないだろうな。了解だ」
 ハッチが開き、格納庫を満たしていた空気が漆黒の宇宙空間に吸いだされていく。
「じゃあな、ケルベロス。さっさと出て行け」
 ジュモーとロキが、ケルベロスに背を向けて歩きだす。
「まて、ロキ。答えねえでもいいが一個聞かせろ。磨羯宮の戦いで一人ケルベロスが戻ってきてねえんだが……あんた、心当たりねえか?」
 ロキは立ち止まらない。
 竜人を振り返ることなく、ただあげた右腕を振る。
 バイバイ――。
 どこまでも人を食った猿、いやレプリゼンタだ。
「ロキ、クルウルクの最期をカンギたちにも伝言をお願い」
 キアリは急いで伝え聞いたクルウルクの最期を語った。他にも伝えたいことがあったのが、ロキもジュモーもさっさと去ってしまった。
「ジュモーから未介入をとりつけただけでもよしとせねばの。さあ、長居は無用じゃ」
 括は仲間に撤退を促した。
 開いたハッチから次々とヘリオンに向かって宇宙空間に飛び出す。
「……それにしても、何とも宇宙というは心もとない場所じゃのぅ。故郷が、我が子らが、あんなに遠い」
 足元に見るは、生命に満ちあふれる青き星、地球。

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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