城ヶ島制圧戦~白邪竜

作者:黄秦

「皆さん、城ヶ島の強行調査、お疲れ様でした」
 ケルベロスらを前に、セリカ・リュミエールはそう切り出した。


「今回の調査により、城ヶ島に『固定化された魔空回廊』が存在することが判明しました。
 この固定化された魔空回廊に侵入し、内部を突破する事ができれば、ドラゴン達が使用する『ゲート』の位置を特定する事が可能となります。
 位置さえ判れば、その地域の調査を行った上で、ケルベロス・ウォーにより、破壊を試みることもできるでしょう」
 首尾よく『ゲート』を破壊する事ができれば、ドラゴン勢力は、新たな地球侵攻を行う事ができなくなる。つまり、城ヶ島を制圧し、固定された魔空回廊を確保する事ができれば、ドラゴン勢力の急所を押さえる事ができるということだ。
「ドラゴン達は、固定された魔空回廊の破壊は最後の手段であると考えているようですから、電撃戦で城ヶ島を制圧し、魔空回廊を奪取する事は、決して不可能ではありません。
 ドラゴン勢力のこれ以上の侵略を阻止する為にも、どうか皆さんの力をお貸しください」
 今回の作戦は、仲間の築いてくれた橋頭堡から、ドラゴンの巣窟である城ヶ島公園に向けて進軍する事になる。
「進軍の経路などは全て、私たちヘリオライダーの予知によって割り出していますから、その通りに移動してください。固定化された魔空回廊を奪取するには、ドラゴンの戦力を大きく削ぐ必要があります。
 ドラゴンは強敵ではありますが、どうか、必勝の気概で挑んでいただきたいのです」
 決して楽な戦いではないと、セリカは告げていた。


「ドラゴンですが、基本的にはトカゲの身体に翼と言う、伝説やサーガなどでよく見かける姿です」
 そのほぼ全身は純白の獣毛で覆われており、頭部には金色の鬣が生えている。
 一部、背の部分辺りだけは毛色が黒く、翼に至っては完全な漆黒。蝙蝠よりは猛禽類の鳥を思わせる翼だと言う。
 先端に鋭い棘がびっしり生えた長く強靭な尾、前足は鋭く湾曲した鉤爪状になっている。
 さらに、毒のブレスを吐く。この毒が最も効果的に作用するポジションを選んで行動するようだ。
「常に相手を蔑み、じわじわと甚振る戦い方を好むようです。
 見た目は白雪のように美しいドラゴンですが、やはり性根は邪悪なデウスエクスと言う事でしょうか」

 デウスエクスの中でも強敵とされるドラゴンが相手だ。
 ここまでの説明を続けたセリカも、ずっと緊張で顔をこわばらせている。
 深く息を吐き、わずかな声の震えを消して、セリカはケルベロスたちへ言葉を続けた。
「万一敗北すれば、魔空回廊の奪取作戦を断念する場合もありえます。作戦の成功は皆さんの力にかかっているのです。
 強行調査で得た情報を無駄にしないためにも、この作戦を必ず成功させましょう」

 よろしくお願いしますとセリカは一礼し、ケルベロスたちをヘリオンへと誘うのだった。


参加者
風守・こぶし(風纏い・e00390)
八柳・蜂(械蜂・e00563)
ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)
白神・楓(魔術狩猟者・e01132)
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
フェリス・ジルヴィルト(白雪子狐の道標・e02395)
葛葉・影二(闇を駆ける者・e02830)
王生・雪(天花・e15842)

■リプレイ


 ヘリオライダーの予知通りに、ケルベロスたちは魔空回廊を進む。
 四方の壁はごつごつとして岩肌に似ていた。空気がねっとりと重く、纏わりつくようだった。
 じりじりとした心持ちでどれくらい進んだか、通路が不意に終わり、ぽっかりと大きく広けた空間に出る。
 天井は高く、見上げるあちこちに岩が出っ張り、あるいは横穴も見られるいかにも物語のドラゴンが住む洞窟といった雰囲気があった。
「ドラゴンはどこにいますですか?」
 フェリス・ジルヴィルト(白雪子狐の道標・e02395)は周囲をきょときょとと見回す。肝心の標的である白いドラゴンの姿が見当たらない。
「ここではないのでしょうか」
 王生・雪(天花・e15842)は不安の面持ちである。彼女のウィングキャット『絹』もパタパタと飛んで辺りを窺っていた。
「ここのはずだ」 
 ヘリオライダーの言う通りに進み、たどり着いたはずの場所だ。それに、葛葉・影二(闇を駆ける者・e02830)はさっきから首筋にチリチリとしたものを感じている。一度苦杯を舐めたがゆえの強い警戒心が、余計にその存在を感じているのかもしれない。
「私たちに恐れをなしたか?」
 どこかにいるだろうドラゴンに聞かせるように、風守・こぶし(風纏い・e00390)は挑発の言葉を投げてみる。決して気は緩めず、姿を見せない敵の襲撃に備えている。
「ああ、クッソ面倒くせェ! おいドラゴン! とっとと出てきやがれっ!」
 ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)が焦れて叫ぶ、その怒声が反響した。
 
「っ! 離れて!」
 最初にそれに気付いたセレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)が声を上げる。
 彼女の警戒を受け、一斉に避けたその場所に、毒の暴風が吹き荒れた。
 そして、ケルベロスたちの頭上を黒白の影が飛び越え、そのついでとばかり雪を前脚の爪で抉ろうとするのを、咄嗟にこぶしが庇った。
「あ、ありがとうございます」
 黒い翼をばさりと羽ばたかせ、白きドラゴンは着地する。
「やることが汚いじゃないか、白トカゲ」
 白神・楓(魔術狩猟者・e01132)が投げつける皮肉に、ドラゴンは何も答えない。
 ただケルベロスらの前に立ちはだかり、金の瞳にありありと嘲りの色を浮かべて睥睨する。
 大きく首をもたげて逸らし、すさまじい咆哮を浴びせる。痺れるほどの吠え猛るそれに毒気が混ざり、それだけで皮膚が焼ける気がした。


 自らの仕事は、守護に徹すること。八柳・蜂(械蜂・e00563)はそう思い定めてライトニングロッドを振るった。ジョーイの前に雷の壁を構築し、守護する。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名にかけて、貴殿を倒します!」
 不意を打つ相手にも、セレナは騎士たる態度で相対する。
 名乗りをあげ、真っ向から放つ達人の一撃が鋭くドラゴンを穿った。しかし、その攻撃も真摯な言葉も、ドラゴンにさほどの影響は与えていないようだった。
「『負けられない……絶対にッ!』」
 卑怯なドラゴンに憤り、不屈の闘志を滾らせるこぶし。その一方で、フェリスは狙い定めるに適した場所を探して走る。
「……忍の妙技、篤と御覧頂こう」
 影二が手にした鎌『猟鬼守』を投げれば、ドラゴンを白く覆う毛皮を切り裂いた。ダメージを与えているはずだが、思う以上に皮膚が厚いのか、手ごたえは薄い。
 楓は妖精弓を二つ重ね、巨大な漆黒の矢をつがえて引き絞る。
「受け止められるもんなら受けてみろ!」
 限界までの力を込めて引き絞られたそれは、恐ろしいまでの速度で飛び、ドラゴンの厚い皮膚をも破って突き立った。
 雪が追撃へ駆ける。日本刀が緩やかな弧を描き、鋭い斬撃でドラゴンを切り裂く。卑怯なるドラゴンと対照的な、直の一撃を受けて噴き出した体液が流れ落ちて白い毛皮を赤黒く染める。
 その心根までも毒に冒されているのだと知らしめるような色合いに、親しみは決して持てないと雪は感じていた。
「クッソ面倒くせェ事になる前に一気に片付けるぞ!」
 鬼神が如きオーラを身に纏い、ジョーイは冥刀を振りかぶった。叩きつけられる凄まじい斬撃を、ドラゴンは後ろに飛んで躱す。地に穴を穿つほどの衝撃が走り、当たればドラゴンと言えども痛手だっただろう。
 しかし、竜は金の鬣を揺らし、顎を大きく開いて笑いの形を作り、そんな程度かと嘲って見せた。
 大きく翼を広げ、巨体を浮かせる。飛び上がり旋回したかと見る間に急降下し、毒のブレスを吹き付けた。蜂、フェリス、雪が霧に包まれる。
「『癒しをもらたす光の雨よ』 」
 楓が即座に降らせた淡く暖かい光が雨の様に降り注ぎ、毒霧を散らして心身を癒した。
 セレナは彼女らとドラゴンとの間に割って入り、痛烈な一撃を見舞う。さしものドラゴンも怯んでか、一度間合いを離す。着地したその後脚にこぶしの投げたケルベロスチェインが絡みつく。
「お前の相手は私だ!」
 こぶしが鎖を引いて、ぎりりと締め上げる。
「……先日の強行調査でもドラゴンと戦いましたが 彼らの方がずっと手強かったですね」
 矛先を自分に向けようとセレナが挑発するが、ドラゴンはやはり何も答えを返さない。ただ、その眼に宿る光が剣呑さを増していた。
 フェリスはくるりと宙で回転すると、渾身の跳び蹴りをめり込ませた。うっとおしいと体を振って翼で撃ちすえようとするのを、ひょいと避けて逃げる。
「そんなの当たらないのですですよ!」
 フェリスに気を取られたドラゴンの隙に入り込み、ジョーイは卓越した絶技で斬り上げる。避けようとしても鎖が絡んで動作が遅れた。
 その一刀は今までのどの攻撃より重く深く肉に食い込んだ。
 影二が手裏剣を投げて畳みかける。毒が白い皮膚に浸透する。毒を得意とする竜が毒で攻撃されることは、屈辱には違いなかった。
「……白い方、お相手お願いします。『貴方に、花を』」
 蜂の投げた炎の花弁がはらはらと散って、落ちた所から燃え広がった。獣毛を黒く焼き焦がし、無数の黒の斑を作った。
「貴方の黒には、飲まれませんよ!」
 雪が舞う。幻惑する舞に惑わされ、懐に入るのを許してしまう。
「『良い夢を』」
 既に目前に立った少女の突きはあまりに真っ直ぐであった。
 小鳥と最も侮っていた侮った少女の一閃は想像以上に鋭く、その動きを止めてしまったと言う事実がドラゴンに怒りを覚えさせるには十分だった。 周囲を飛び回り、輪を投げつけて来るウィングキャットも酷くうっとおしい。
 狙いを定めて雪へと爪を振るうが、割って入るこぶしによって弾かれる。
「どうした?ケルベロスは私1人じゃないぞ」
 余裕をなくしつつあるらしいドラゴンの様子に、こぶしはニヤリと笑った。

 セレナの剣先は鋭くドラゴンに迫る。
「私の力は人々を守る為にあるもの、貴殿のようなただの暴力には決して屈しません!」
 ドラゴンの爪はこぶしの不屈の闘志を突き崩せない。
 フェリスのローラーダッシュで火花を起こし、炎を纏って激しく蹴る。
 ジョーイは痺れているところを狙ってチェンーソーで切り刻む。
「その爪、破壊させてもらう!」
 影二の投げた手裏剣が螺旋を描く。払おうとするその目前で軌道を変えてすりぬけ、爪の一本を砕いた。
 蜂の炎弾がドラゴンに食らいつき、その旺盛な生命力を貪り、啜る。
 金の鬣が苛立ちに揺れる。強力なドラゴンにとって一つ一つの傷は大したことはないはずであった。しかし、こうして粘られ、積み重なっていくのが愉快ではなかった。比喩でなく気分が悪い。まるで、ドラゴン自身が甚振られているようだ。
「白トカゲ、どっちの龍の力が強いか、力比べをしようじゃないか」
 その思いを知ってか挑発を重ねて、楓はドラゴンの幻影を放つ。炎を纏うドラゴンの姿をしたものと白いドラゴンが食いあう。
 白い小鳥と小さな猫はドラゴンの加虐心を酷く煽っていた。これをどうにかしてやりたいが、そうすれば別の奴が割って入る。
 この自分に対して毒で攻撃してくる猫もうるさい。爪を削られたことも業腹で、この辺りから始末しておこうとドラゴンは決めた。
 挑発に乗ってやる風で爪で引っ掛け投げ飛ばす。
 後ろに跳びのくと、翼を使い体を振って弾みをつけて、棘付きの尻尾で振り回し薙ぎ払う。
「っ!」
 楓と影二を狙う棘尾の一撃によって、その足を止められる。

 セレナとこぶしのガードを突き崩して、ドラゴンは突進しその棘尾を振るう。絹を薙ぎ払い、先端の棘が雪にまともに当たった。細い体が無情に吹き飛ばされる。
 ―ドラゴンとしても失策だった。もっと加減して甚振るはずが、思った以上の力が入ってしまったのだ。
 ここまでに消しきれなかったダメージもあって、雪は白の羽根を血だまりに染めて倒れる。よろよろと近寄って悲し気に顔を寄せる絹を、そっと撫でてやる。
「……帰ったら、炬燵でゆっくり休みましょう、ね」
 後を皆に託し、雪の意識は闇に呑まれた。
 ドラゴンが前脚で踏みつけようとするのを拳とセレナの二人が明かりで止める。その隙にフェリスと影二が2人を救い上げた。

「……くっ」
 セレナは唇をかんだ。守るのではなかったのかと、ドラゴンが笑っている。物は言わなくとも、細めて見下す眼が雄弁に語っていた。
「挑発に乗るな」
 駆けだしそうになる彼女を、こぶしがとどめた。彼女もまた悔しい気持ちをこらえている。
「倒しましょう」
 穏やかな蜂と言えども、思いは同じだ。今すべきはこの敵を倒すこと。後悔は全てが終わってからだ。
 白の邪竜は咆哮する。次はお前たちだと。だがドラゴンにも最早余裕はない。
 倒せるはずだと、確信めいたものを感じる。だから、まだ退くわけにはいかない。セレナは痛烈な一撃をドラゴンに与え、破壊していく。
 こぶしはその闘志を自分の拳に込めて、ドラゴンの魂を喰らう降魔の一撃を叩き込んだ。
「『籠目等角、呪術に似る。千古の織り目に其は宿る。金穂の可見、銀輪の日暈、重陽の菊其れ凡て黒陽の天恵也』」
 詠唱。フェリスの持つ銃『黒陽』の銃口の前に、三重の紋様が展開される。六芒星から放たれた砲撃がドラゴンの片翼を根元から射抜いた。半分が千切れ飛び、バランスを崩したドラゴンの巨体が傾ぐ。
「でりゃぁぁあああ!」
 気勢をあげてジョーイは鬼神の一太刀で斬りかかった。冥刀を叩きつけ、肩口からへし折る。だが、その攻撃を受けるドラゴンの振り回す爪がジョーイを捉えていた。
「クッソ……面倒くせぇ……」
 深く刺し貫かれ、血を噴き出しながら、なおも刀を押し込む。ゴリ、と音がして、ドラゴンの骨が折れる。だらりと前脚がぶら下がり、意識を失ったジョーイが崩れ落ちた。

 ジョーイが倒れた。
 だが、同時に戦いを大きくケルベロス側へ傾けた。ここまでの攻撃でダメージが重なったところへ、痛烈な一撃で脚を肩から持っていかれた。
 翼が折れ、脚も動かないドラゴンへも、セレナの猛攻はとどまるところを知らない。鋭い切先で斬り、貫く。
 こぶしのチェインが深く食い込みもがくドラゴンに、フェリスは再び炎の蹴りを叩き込んだ。
 影二の手裏剣によってもたらされた毒が徐々に侵食していく。
 今やその巨躯はどす黒い毒液交じりの己が血に塗れて汚れ、白とは到底言えなかったが漆黒にも遠く、みすぼらしい灰色に染まっている。
 ふう、ふうと荒く瘴気交じりの吐息を吐き出し、口元には泡を喰んでいる。
「五体滅却!」
 まだ来るのかと、牙をむくドラゴンに、影二は『葛葉流・螺旋散華火』を撃つ。迸る螺旋が火炎となってドラゴンの体内で爆ぜた。
 畳みかける攻撃と爆発はドラゴンの心に恐れを呼んだ。知らず後ずさる。
 まだ、ここで止めるわけにはいかない。苦し紛れに振り回す棘の尾をこぶしが体で受け止める。
 そのダメージも蜂のウィッチオペレーションで癒す。
「特別にその傷を抉ってやろう。なぁに、遠慮はするなよ?」
 斬霊刀を構える楓を今は憎々しげに睨むドラゴン。その眼を真っ向から受け止め、楓は刀を振るう。緩やかな弧を描いた斬撃は、毒と炎に爛れた肉に易々と食い込み、言葉通り深く傷を抉った。

 侮っていた。
 小さく脆い生き物が、ちょっとばかり力をつけて乗り込んできたものと、ドラゴンは侮っていた。
 小さく脆い、それは間違っていない。だが、彼らは決して身の程知らずではなかった。
 だが、それに気づくのがあまりに遅すぎた。
 もう容赦はしない、無慈悲に力の限り叩き潰そうとしても、体のどこにも力が入らない。
 既に脚を折られ、翼を折られ、侮った小娘に爪を砕かれている。
 影二の技に呼び起こされた恐れと言う名の毒がドラゴンを冒していく。
 倒したはずの小鳥が白刃の胡蝶となって舞う幻を見て、竜は戦慄していた。

 無理に片翼を羽ばたかせ、手負いのドラゴンは無様に旋回すると、棘の尾を振り回し叩きつける。
 弱まっているとはいえその破壊力は侮れず、蜂と影二を弾き飛ばした。
 楓の光の雨は降り続け、蜂の炎は味方には優しい癒しとなる。
「行きますですよ!」
 フェリスはルーンを発動させて光輝くアックスを振りあげた。高く跳んだ勢いを利用して、全身を使って叩き落とす。光輝と共に振り下ろされた切っ先が、尾に食い込み半ばまで先端の棘を切り飛ばした。
 螺旋を描いて飛び、刺さる手裏剣を、ドラゴンには避ける余裕もなかった。
 
 こぶしの拳が唸り、降魔の一撃がドラゴンに致命傷を与えると同時に、セレナのゾディアックソードを振るって喉笛を切り裂いた。

 ドラゴンはどうにか首を伸ばし、毒のブレスを吐き出そうと、力を込める。
 だが掻き斬られた喉から毒気がしゅうしゅうと漏れ、口からはぜいぜいとしゃがれた声が出るばかり。
 力を込めた自分自身を最早が支えきれず、毒の霧をまき散らしながら仰向き、横転した。
 最早、立ち上がる気力もないようだった。
 ひくひくと痙攣を繰り返し、恨めし気になお口を動かしては微かな吐息を吐き出していたが、それもやがて止んだ。

 ドラゴンが動かなくなっても、立っている者すべては武器を構え、暫くの間その骸を見守っていた。
 やがてその体から生気がすべて失われ、白も黒も曖昧な、骸と化したと確信する。
 はあ、と深く息を吐いてこぶしは座り込む。
 一服つける彼女を見て、やっと全員が力を抜いた。
「……討伐完了だ。」
 どこか深い感慨を込めて影二が宣言する。
 ケルベロスたちの勝利であった。

 主を失ったためか、魔空回廊は閉じ始める。 
「長居は無用だ」
「そうですね」
 急ぎ倒れた2人と一匹を抱え上げる。
「勝ちましたよ」
 意識の無い彼らに、蜂は囁く。全員の力あってこその、勝利だと。
 そうする間にも回廊は閉じていく。
 ケルベロスたちは急ぎ竜の巣穴を後にしたのだった。
 

作者:黄秦 重傷:ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706) 王生・雪(天花・e15842) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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