月無市場の夜~知香の誕生日

作者:寅杜柳

●月の見えない夜だから
 十一月某日。
 雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)は自宅で頭を抱えていた。
「よりによって新月……!」
 折角の誕生日、心ゆくまで月見を楽しもうとしていたのだが、生憎その日は月の見えない日。その事に直前になって気づいたのだ。
「あー……星見は去年行ったし他に何かよさそうな……」
 月見ではなくともなにか良さそうなイベントがないかと、山積みになった書類だのをごそごそと探し、ついに一枚のパンフレットを手に取る。
「……夜市ねえ」
 その内容に少し頭を捻り、思案し、よし! と白熊は手を打った。

「神戸の方で月無市場って夜市が開かれるみたいなんだけど、一緒にどうだい?」
 白熊の女が持ってきたパンフレットを見れば、賑やかそうな日中の市場の写真と『つきない市場』の文字。
「大昔にデウスエクスの襲撃から復興するために開かれた、小さな秋の市が始まりだと言われてるみたいでね。襲撃の傷跡はやがて薄れ、時代は移り変わったけれども、人々の何かを求める心はいつの時代も変わらない。毎年の秋の終わりに求める人が集まり、互いに物や金を交換し続けて、やがて大きな商いの市場となっていた……そんな感じだね」
 ぺらぺらと頁を捲りつつ、知香が成り立ちを読み上げる。
「それで人が尽きない、物が尽きない、興味が尽きない。そんな願いを込めていつしか呼ばれるようになった名は『つきない』市場。その名前にかけて、新月とその前後の計三日に開かれるときは『月無』市場と名を変えるんだ。日中もとても賑やかなんだけど、夜はそれにも増して盛り上がる。月の光のない寂しさを忘れるようにね」
 場所は中華街、寒い夜に暖まるのにいい感じの料理の屋台も並んでいるから雰囲気としては祭りに近いかも、と白熊は言う。
「市場といってもまあ、便利な現代だから極端に珍しいものはないけれども、ランプなんかの硝子細工は工夫されたのが多いみたいで、探したら気に入るものもあるかもしれないよ」
 冬に近い秋の夜は少し寒いけども月のない日のお祭りを楽しんでみないか、そう知香は笑いかけた。


■リプレイ

●月無市場の星々
 月の姿はなく、黒玻璃の空はどこまでも澄んだ闇を地上に降り注がせる。そして、それらを退けるような市場の灯りと人々の喧騒が、中華風の街並みに溢れていた。
 市場には様々な品物が並んでいる。日用品、あまり見ない調味料や食材、よく分からない奇妙なもの、そして硝子細工。混沌とした様々な品が、そこに在って当然というかのようで、それを求める人々も様々。
 ここは月無市場。連綿と続いていた市場は、月がその意味を変えても変わらず尽きず。屋台と人々の賑わいはとてもまぶしく、闇を打ち払うかのように月のない夜に輝いていた。

 きらきらと輝く硝子細工を中心に探しながら、ラウル・フェルディナンド(e01243)は燈・シズネ(e01386)と共に市場を歩いていく。
 空を見上げてみても、星は一際明るいもの以外は良く見えない。月の代わりに市場の明るさが空の灯火を隠してしまっているのだ。
 代わりにか、市場に並ぶ硝子細工はまるで星々が空から降りてきて瞬いているかのように輝いている。
 そんな輝きの中の店の一つに二人は興味を惹かれ歩み寄る。
 蜂蜜のラペルピンに六花の舞う真白なタンブラー、どれも優しい彩で、手に取ったラウルの気持ちもほんのりと温かくなる。
「どれも綺羅星のように煌いてるね」
 そんあ穏やかな心境を表すように柔らかく笑む白金の髪の青年に、
「ホンモノの星が混ざってるかもしれねぇぞ」
 にやりと揶揄うように、シズネは笑んで返した。

「さあやって来ました月無市場!」
 パンフレット片手に市場を見るのはミリム・ウィアテスト(e07815)。市場の熱気と光は月がなくとも賑やかに人々の営みを彩っている。そうなれば当然、彼女の旺盛な好奇心は抑えられない。
 あちこちに立ち上る香りの一つに雨河・知香(en0259)を引っ張るようにして突撃すれば、そこには中華まんがどっしりと構え、ほくほくと湯気を立ち昇らせていた。
 ちょっとだけお財布を軽くして、隣の知香と同時に其々の中華まんを齧ればはふっと柔らかな食感、さらに少し遅れて中身の味わいが口に広がる。そのしあわせな感覚も寒い冬の夜だからこそより強く。溢れる中華まんの熱さをほふほふ感じつつ隣の白熊をみれば、彼女の口元もはふはふと緩んでいて、つい笑顔になってしまう。
 そして肉まんを味わう二人に、二人の男女が歩み寄って声をかける。
「知香さんは素敵なお誘いをありがとう、そしてお誕生日おめでとう!」
 そう元気に祝ったのはローレライ・ウィッシュスター(e00352)。その隣にいる眼鏡の青年オイナス・リンヌンラータ(e04033)も同様に祝いの言葉を口にする。
 有難う、と威勢よく知香が返せば、二人は手を振り中華街の中心の方へと向かっていく。
「私達も行きましょう! 次は……」
 中華まんの熱さがお腹に落ち込んで、ミリムがパンフレットを捲り次に向かうお店を探し、そしてあるページで指を止める。
「最近流行と話題のジュースですね! 雨河さん、これも一緒に飲んでみましょう?」
 塩気のよく利いた後には甘いものが欲しくなるのはよくあること。銀の耳をピンと立て白熊の顔を見上げるミリムにいいねぇと応じ、二人は少し離れた所にあるらしいそのお店を目指し歩き出した。


 雑踏はどちらをどこを見まわしても、市場の熱に浮かれたような人々の表情に溢れている。
 そんな間を野良猫のようにすり抜けていく比嘉・アガサ(e16711)は空を見上げる。
 雲のない冬の夜空、だけれどもそこに輝くはずの金色は今日はなく、だからこその月無市場。
 月無、尽きない。物の流れも人の行き来も尽きない事を願い、そう呼ばれるようになった市場の一角に紛れるよう、彼女はいつもの愛想のない表情で歩いていく。

「美味しかったわ! オイナスさんお勧めだけあったわね」
 炒飯店から上機嫌で出てきたのはローレライとオイナス。オイナスは以前この神戸に来た事があり、その時にこのお店に訪れた事がある。だからこそ自信を持って勧めたのだ。
 二人は市場内の中華料理店の炒飯を食べ歩いていた。中華街もその近くに含む夜の市場は、パンフレットにあるだけでもかなりの数のお店が紹介されている。そんな店々の味を楽しみつつ、大食いであると自覚のあるローレライは、たまの休日を戦いを忘れてのんびり目いっぱい楽しむつもりであった。そして食べ終えた端から次の標的、屋台の肉まんへとその視線を向けていた。
(「それに、こうしてオイナスさんとゆっくりデートするのはいつぶりかしら」)
 最近は宇宙へ行ったり、月面で戦争したりと、バタバタ忙しい日々を過ごしていたローレライ。正直な所、忙しい中で彼と一緒に過ごせるという事の方が嬉しいのだけれど。
 一方、彼女のペースに付き合うオイナスは普段は少食。このお店はまだ序の口で、あと数件は中華料理のお店を回る予定で、同じペースで付き合い続けるのは普段ならちょっとばかり厳しいかもしれない。
(「今日はいつもよりは食べれるといいなぁ……」)
 だけれども、普段忙しい彼女と一緒に訪れる事の出来た今日という機会は彼の胃袋をも頑張らせる、はず。それに久しぶりのデート、エスコートする為に張り切って下調べしていた彼の備えは万全。主に箸休めのタイミングとそれに丁度良さそうなお店もだ。
「あのお店の硝子細工も奇麗との話なのです」
 肉まんの次にそちらに行きませんか、と彼が示す先には月無市場に合わせて煌びやかに飾られたお店が一つ。きらきらした硝子細工は夜の闇、そして人の作る明かりに照らされた個性的な輝きでその存在を主張していた。
 そして屋台の肉まんの味を堪能した後、二人は硝子細工店へと入っていく。
 二人は、そんな風に久しぶりの一緒の時間を楽しんでいた。

「どの店も奇麗だな……」
 店々に並ぶ硝子細工を眺め、シズネが呟く。彼とラウル、二人は硝子細工の店達が立ち並ぶ区域をあちこちゆっくりと巡っていた。ティーセット、ランプ、置物。形も大きさも製法もバラバラだけれどどれも工夫を凝らして作られている事は見ただけでわかる。
 そして、何気なく視線を巡らせたラウルの目がある店で止まる。そのお店に並ぶのは動物の置物達、そして並んでいる小さな硝子の動物達の一角、そこはまるで硝子猫の集会といった風体で、色取り取りの愛らしいそれら――その中の一つに、彼の心はぐっと惹きつけられてしまったのだ。
「ねえ見てシズネ!この子、君の瞳と同じ彩りだよ」
 つい駆け寄って硝子猫に手を伸ばしてしまったのは、傍らの大好きな彩と同じ色の瞳だから。星砂を閉じ込めた黄昏の硝子猫を手に乗せ、振り返ったラウルの表情は眦も緩んでとても嬉しそう。
 黄昏の彩の硝子猫は内包する星屑を明かりに丁度良く煌めかせとても奇麗で、けれどシズネが惹きつけられたのはその向こうの縹色の瞳。二つの混ざった色合いはまるで本物の星のように見えて、思わず息を呑んだ。
「……昔はね、月のない夜は不安で、怖くて仕方がなかったんだ」
 そっと黄昏の硝子猫を愛おしむように触れながら、ラウルが言葉を紡ぐ。
 空はどこまでも澄み切った黒、形を変える空の金色は、今日はいない。
「でも、今はシズネが一緒だから何も怖くないよ」
 何気ない言葉、けれど込められた想いはとても強く。そんなラウルの言葉に、黄昏の瞳の青年は硝子猫を一匹手に取り黄昏色の猫の傍に乗せる。その色は薄縹――ラウルの瞳と同じ彩。
「頼りにしていいんだぜ?」
 月はなくとも黄昏は常に彼の傍に、これまでだけでなく、これからも。そう笑う黒猫の頬は地の星々に照らされているからか、それとも単に照れ臭いからか、仄かに赤。
 そしてラウルはこの市場の成り立ちをふと思い出す。
(「幸せも、笑顔も……『つきない』ね」)
 シズネとラウル、二人が過ごしこれまでに得てきた道程の喜びと楽しみ、そして幸福が尽きずにずっとあるように。そう願い二人は笑い合った。


 日もすっかり落ちて夜は一層深くなる。けれど市場の賑わいは衰えることなく、増してくる冬の寒さも気にさせない程。
 石像がいくつか並ぶ広場の休憩場、雑踏を歩き回っていたアガサは一休憩でその場に留まっていた。彼女の前を歩く尽きない人々の群――それを見て彼女は、指に光るシルバーリングに視線を落とす。それは彼女の手に残った唯一の形見、思い出されるのは家と家族を失った頃。
 あの頃は他にも何もすることがなかったから、街角で人の行き来を眺めていた。
 何も思わない、そんなことはない。あの時に感じていたのは自分の境遇のみじめさと、そして行きかう人々への憎悪にすら似た感情。
 だけれども、今はそうではない。ふ、とアガサは白い息を吐く。
 あの頃の幼い視界は狭くて、なぜ自分だけがと思っていた。だけれど、今は行き交う人々にもそれぞれの暮らしが、悲喜交々の人生がある事を知ることができた。だからこそ彼女はこんな風に、かつて憎んだ尽きない流れの中で立っていることもできるのだ。
 ふいに視線を正面に向ければタピオカミルクティーの出店。たまにはこんな流行に乗るのもいいだろう。
「へぇ、ホットもあるんだ」
 近づいてメニューに並ぶ文字に小さく呟く。冷たい夜の空気にはもってこいだろう。そして店員にひとつ、と言いかけてふたつ、と言い直す。雑踏を歩いてこちらに向かってくるヘリオライダーの姿が見えたから。
 代金を渡して温かなカップを受け取ると、アガサは白熊に声をかけた。
「グットタイミング、知香」
 カップを二つ持ったアガサが声をかける。
「よかったらこれ。誕生日おめでとう」
 ぶっきらぼうな調子で差し出された温かなタピオカティーを知香は有難うと受け取った。
「むむむ……中々飲み方のコツが……」
 丁度列も捌けた屋台に向かい、タピオカジュースを買ってきたミリムは癖のあるタピオカに苦戦中。吸い過ぎないよう、慣れない感覚に馴染んでいくにも少し時間がかかりそうだ。
 こんな日があっても悪くはない。タピオカティーを飲みながら、アガサはほんの僅かに表情を緩めた。

 パンフレットにも載っている硝子細工のお店は右に左に、並べられた細工達は色とりどりの硬質な輝きを市場を歩く人々の瞳にはね返す。そんな市場を歩いていく三人の男女。
 前を行くロコ・エピカ(e39654)と夜光・海斗(e71950)、二人をホリィ・グリーン(e61747)がちょっと体を縮こまらせながら追いかけるような形になっている。
「人と物と興味が尽きない――市の由来がとても良いね。新月合わせも洒落ている」
 ロコが機嫌よく云う姿に、出不精のエピカが少しだけ柔軟になっている。そんな事をホリィは思う。
 先日会った海斗の探し物、ガラスのティーポットを探す手伝いに来たホリィだけれども、どうにも人込みは少々苦手。それを意識しないよう細工の方へと視線を向ける。
「硝子のティーポット……はっ、あっちに星のオーナメントが」
 その星型が自分を見てとでも言うかのようにキラリと輝きを投げかければ引っ込み思案なホリィも思わずふらふらとそちらへと歩み寄ろうとし。
「はぐれないよう気をつけ……言ってる傍から寄り道しないの」
 そんなホリィの背中にロコが声をかければ、はっと気づいたホリィはささっと竜人の青年の側へと駆け寄る。
「迷子は駄目です、ちゃんとポットを探します」
 誘惑の多い月無市場、それらに負けぬよう自分に言い聞かせるホリィに、ロコと海斗は苦笑い。
「あ、ねぇヤコウ、あれは結構凝っていそう」
 そして一軒の店に目を止めたロコが示した先には、ダイクロガラスの細工が並んでいた。ティーセット、ポット、このお店なら気にいる物もあるかもしれないと、三人はその店へと近づいて、硝子細工の品々を見定めていく。
 ロコはふむ、と一つのポットを側方から覗き込む。色取り取りの細かなダイクロガラスが砂のように底へ溜まったポット、紅茶を淹れればさながら海中の星々のように光るだろう。
「……色々な形が、ありますね。どれも星を散りばめた様です」
 少し背の低い、魔法のランプにも似た形のポットを眺めるホリィは、その取っ手の色硝子の落ち着いた色合いに感心している。
「それにこちらの南瓜みたいなポットも流星のように煌めいていて……」
 その隣にあった童話から抜け出してきたようなデザインの硝子細工を見ながら考え込むホリィ。
 そんな二人がともに来てくれているから海斗はとても心強く思っていた。ガラスの表面に金属片を吹き付けたダイクロガラス、それを見るのも初めてな位の彼は、
「すごく綺麗だ」
 思わず感想が零してしまう、深い海の底のような青色の硝子に市場の明かりを反射する金属片はまるでマリンスノー、海の中の幻想的な光景を連想する。
 同時に、それとは別のある事に似ているような気がして、彼は嬉しくなる。
「ああ、シンプルなのも使いやすそうだし、あれも良いな……」
 その嬉しさを心の裡に秘めたまま、海斗はロコが次々に示すポットの数々へと視線を巡らせていく。その素敵なガラスの数々は目を奪われうっとりとしてしまう程に魅力的。それこそこの中からどれか一つを選ぶのは難しい、と言う程に。
「エピカさん、おすすめし過ぎ、なのでは……?」
 夜光さんが、悩んでいます、とホリィが控えめに突っ込めば、ロコもおっとやり過ぎた、といった表情で、
「ホリィのおすすめも綺麗だよ」
 はぐらかすようにホリィの示したポットへと話題を移す。
 魔法のランプにシンデレラの馬車。童話の世界から抜け出してきたようなそれらは夢がある。海斗にとっては少々乙女趣味だけれども、ホリィにはとてもよく似合って見えて、ほっこりとする。
「さて、気に入ったものはあったかな」
「好きなポット、見つかりましたか?」
 二人の竜人の言葉に海斗は考え込む。
「……しかしどれも素敵だな」
 決めるとなれば、数々のポットの魅力は逆に難しくなってしまう。甲乙つけ難い魅力にうんうん迷い始めるヤコウの様子をつい、面白いとロコは思ってしまう。
 そして暫く考え込んだ後、海斗は意を決したように頷いてポットを手に取る。海斗が選んだのは三つ、底に星砂を沈めたものと、ランプ型、南瓜の馬車型。つまり、二人が勧めてくれた硝子のポットたち。
 その三つを購入した三人は、店を後にする。
「二人とも今日はありがとう。良いものが買えて嬉しい」
 それに、と海斗が続ける。
 ――とても楽しかった。
「こちらこそ、ご一緒できて、楽しかったです」
 その言葉に返すホリィの言葉も偽りなく。
「今度それで茶を淹れてね」
 軽く云うロコの言葉は、またの茶会を期待するもの。
 そうして三人は、このポット達での茶会を楽しみにしながら市場の大通りをゆっくりと歩いて行った。


 タピオカを楽しみアガサと別れ、その後も市場のお店を巡るうちに夜も深くなって。とある硝子細工のお店でミリムと知香は細工の数々を見繕っていた。
「お誕生日おめでとうございます!」
 店で小物を買い、店を出たタイミングでミリムが元気に差し出した箱の中身は小さなランプ。星明りのように細かな光を硝子の裡に閉じ込めたそれは、月無い宵でも輝く星々のようで、それは道標にもなる。
「大切にするよ、有難う」
 受け取った知香は礼を言うと、大切にしまい込んだ。

 箸休めを挟みつつ、中華料理の数々を堪能し満足した様子のローレライとややお腹がいっぱいいっぱいな様子のオイナスは干支の動物、そしてパンダの石像達のいる広場へと辿り着いた。
 食べて歩いて楽しんで。夜も深くなってきた頃合いで、誂えたかのように通る人の数が減っていたこのタイミングはきっと、うってつけ。そう思いオイナスはラッピングされた箱を取り出すと、ローレライに手渡す為に差し出した。
「プ、プレゼントなのです……」
 けれどローレライはあっ、と驚いた表情。何か間違ったか、少々不安になるオイナスに、そろりとエルフが取り出したのは飾り付けられた箱。大きさは違うけれども、それはオイナスと同じような意図で用意されたのは明白。
 顔を見合わせ、そして二人は破顔する。照れくささか、似たような事を考えていたからか。月は太陽に心配をかけたお詫びに、太陽は忙しい月を労う為に、互いにこっそりと準備していたプレゼント。
 そして少し落ち着いた二人はそのプレゼントを交換する。
 開けてみて、と促されたエルフが中を見れば、それは緑硝子のネックレス。箸休めの間に入ったお店で目を付けてこっそり購入していたらしいそれを、赤い月の飾りのチョーカーの上にかける。胸元に輝くその硝子はきらきらと騎士の少女によく似合っていた。
 それは例え離れていても、心は一緒に居る。そんな願いが込められた贈り物。
 そしてローレライもオイナスに中を見てと促せば、その中には水色硝子のキャンドルホルダー。それは、もしも離れていても思い出せるようにとの願いを込めたもの。
 忙しさに共にある時間は減っていたけれど、それでも二人の想いは変わらない。たとえ戦いが厳しくなってもお互いに忘れずともに在り続ける――願う二人は再び市場へと歩み出していった。

 そうして月のない夜の市場は賑やかに、人々の営みと変わらずに続いていく。
 きっと、空の月が形を変えてもそこに在り続けるように。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年1月11日
難度:易しい
参加:9人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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