宇宙のグランドロン決戦~三つ巴の中の選択肢

作者:カンナミユ

 ヘリポート内は慌ただしい様子を見せていた。
 スタッフがひっきりなしに行き交い、ヘリオンも出発の為の準備が着々と進められている。
「『暗夜の宝石』攻略戦では良く戦ってくれた」
 スタッフの間をぬってやって来たザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)はケルベロス達の前に立ち、そうねぎらいの言葉をかけてくる。
 『暗夜の宝石』攻略戦。
 マスター・ビーストを滅ぼす事に成功したこの作戦は参加したケルベロス達も多いだろう。そんな中でのねぎらいだが、ヘリオライダーの言葉には得たばかりの情報が続いていた。
 それは月面での戦争である『暗夜の宝石』攻略戦で生き延びた、マスター・ビースト残党達の動きを掴む事が出来たというものである。
「神造レプリゼンタ3体を中心としたマスター・ビースト残党軍は、遺棄されていたソフィステギアのグランドロンを改修し、マスター・ビーストの遺産を運び出して地球へと向かっているらしい。残党達は地球上の希少動物を絶滅させ神造レプリゼンタを産み出す計画を実行しようとしているらしく、彼らが地球に到達する前に撃破する必要がある」
 希少動物を絶滅させるような計画など、絶対に阻止せねばならない。決意と共に聞くケルベロス達だが、なにやら問題があるようだ。
 ザイフリートによればマスター・ビースト残党を降伏させて傘下に加えようと、大阪のユグドラシル勢力からレプリゼンタ・ロキとジュモー・エレクトリシアンが、グランドロンを利用して宇宙に向かっているようなのだ。
「マスター・ビースト残党は首魁であるマスター・ビーストを失った事で士気が低下している。戦力差が大きければ、戦わずにレプリゼンタ・ロキに降伏して傘下に入ってしまうと予測されている」
 その言葉にケルベロスの脳裏にユグドラシル勢力にマスター・ビースト残党が加わった光景が浮かび上がる。
 神造レプリゼンタを産み出す計画は絶対に阻止せねばならないし、マスター・ビースト残党をユグドラシル勢力に加わらせる訳にもいかない。
「『暗夜の宝石』攻略戦後、ヘリオンの宇宙装備は調整の為NASAに運び込まれており、すぐに動かせる数には限りがある。また、『磨羯宮ブレイザブリク』の利用も行えない為、今回は少数精鋭での阻止作戦を行わなければならない」
 少数精鋭での作戦を成功に導く為、先制攻撃と交渉により敵軍の合流を防ぎ、三つ巴の戦いへと持ち込むことになる。
「お前達には先制攻撃と交渉に成功したという前提で、三つ巴の戦いを勝利に導くべく作戦行動を行って欲しい」
 少数精鋭――説明を聞くケルベロス達を前にザイフリートは資料をめくり、作戦について話しだす。

「今回は前提となる作戦が成功していれば、戦いは三つ巴の状態になっている筈だ。お前達にはユグドラシル勢力かマスター・ビースト残党軍のいずれかに対して攻撃を仕掛け、どのような目標の達成を目指すかを考えて作戦を練って欲しい」
 前提となる作戦――先制攻撃と交渉であるが、万が一にもその作戦が失敗したらと考える者は少なからずいたようである。
 それに気付いたザイフリートはふんと鼻を鳴らし、
「先制攻撃と軍使による交渉が失敗した場合は、攻撃は行われず撤退する事になる。つまり、先制攻撃と交渉が成功した状況の実を考えて作戦を練るのが正解だろう」
 要は『先制攻撃と交渉が失敗した場合の事は考える必要はない』と、いう事のようだ。
「地球の動物種を滅ぼすという計画を阻止する必要があるので最低限、『戦争の残党戦力の撃破』もしくは『グランドロン(改修)の破壊または奪取』を行う必要がある。これが実現できれば、最大の危機を回避する事が可能だ。その上で『神造レプリゼンタの撃破』『ジュモー・エレクトリシアンの撃破』『レプリゼンタ・ロキの撃破』『ジュモーのグランドロンの撃破或いは奪取』などが行えれば、最良の結果となるだろう」

「どうやらグランドロンは妖精8種族グランドロンが姿を変えたものであるらしい。彼らに呼び掛ける事ができれば、グランドロンを仲間にする事も不可能では無いかもしれない」
 そう口にし、ザイフリートは開いていた資料をぱたんと閉じる。
 どうやら説明はここまでのようだ。
「今回の作戦は少数精鋭で行う為、全ての敵を撃破するのは難しいかもしれない。何を優先するべきかを考え、戦力を投入する事が必要になるだろう」
 資料を閉じたザイフリートはケルベロス達へ視線を向け、言葉を続けた。
「お前達なら最善の選択を取り、最良の結果を導きだす事が出来るだろう。信じているぞ、頑張ってくれ」


参加者
フラジール・ハウライト(仮面屋・e00139)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
ラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)
皇・絶華(影月・e04491)
新城・瑠璃音(相反協奏曲・e44613)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)
大紫・アゲハ(セラータファルファッラ・e61407)
ヴァイスハイト・エーレンフリート(死を恐れぬ魔術師・e62872)

■リプレイ


 漆黒の空間に輝きが爆ぜる。
「あれは……」
 その輝きを目にラインハルト・リッチモンド(紅の餓狼・e00956)は呟き、じっと見つめた。
 星々が煌めく中に生まれ光彩を放つ、一度見れば忘れる事はないだろうその瞬き。
 残党勢力のグランドロンが発した――コギトエルゴスム化した光。
「マスター・ビースト残党軍がいるあたりですね」
 輝きは徐々に小さくなり、消えてしまう。仲間たち共に見る新城・瑠璃音(相反協奏曲・e44613)が視線を向けると、自分たちと同様にユグドラシル勢力へと向かうチームの姿があった。
 マスター・ビースト残党軍とダモクレスへ交渉し、うまくいけば三つ巴の戦いとなる筈だった。それなのに三つ巴の戦いとなる前に残党勢力のグランドロンがコギトエルゴスム化した。これはいったいどうした事か。
 交渉に向かった仲間達はどうなったのだろう。そして結果はどうなったのか。
 通信手段もなく、他のチームの動きは分からない。だが、これはチャンスかもしれない。
「みんな、作戦通りグランドロンへ行くよ!」
 シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)に仲間達は頷くと、ケルベロス達は戦場へと躍り出る――!
「よもや、この短期間に二度も宇宙絡みの戦いへ赴く事になろうとはね」
 身を隠すように黒い布を纏う九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)は呟き、敵に気づかれないようふわりと進む。
 『暗夜の宝石』攻略戦からそう間もあけず、戦いの舞台は再び宇宙、しかも相手はあのロキである。
「挑むからには全力で臨ませてもらおう」
「アゲハも頑張るよっ」
 握る如意棒へ視線を落とすフラジール・ハウライト(仮面屋・e00139)に続く大紫・アゲハ(セラータファルファッラ・e61407)はふわりとスカートを揺らし、宙を蹴る。
 おそらく如意棒はレプリゼンタ・ロキ――裏切りの邪猿に対し何らかの効力があるだろう。
 今は想定していた状況とは異なる戦況。だが、どんなに想定外であろうとも、戦う覚悟はできている。
「頑張ろうな、シル」
「うん、頑張ろう」
 皇・絶華(影月・e04491)に力強く頷くシルだが、ふと視界の片隅でグランドロンへ向かうチームの一人、レベッカ・ハイドンがエールを送るようにバスターライフルの銃口を上にして、くるりと大きく回してみせた。
 互いに健闘を! 声は届かずともエールは十分こちらに伝わった。青空のような色を持つ如意棒をくるりと大きく回してシルもエールを返し、仲間達は作戦を開始する。
 ヴァイスハイト・エーレンフリート(死を恐れぬ魔術師・e62872)も仲間達の後に続いた。


 グランドロン向けてケルベロス達は進む。
 できるだけ余計な敵との接触をしないよう準備をしてきた事もあり、接敵する事なく順調に進んでいた。
 漂流物を避けて敵を遠巻きに回り込み、グランドロンへと進む。
 ロキの居場所は判明していないが、やはり大将首らしく自陣の奥地なのだろうか。気配を隠しつつ周囲を探る幻だが、落ち着いた表情とは裏腹に、強敵との戦いを前に闘志の炎が灯り始めている。
「皆、如意棒に反応はある?」
 シルの問いにフラジールは首を横に振り、瑠璃音と幻、絶華の表情も芳しくない。もちろん、シルの如意棒も反応を示さない。
「アゲハの如意棒もまだ反応はないよ」
 黒いコートがくるりと宙で回る。アゲハ含め如意棒が反応を示さないという事は、まだ距離があるというのか。
 懸念が不安に変わりかけたその時――不意に感じた気配にラインハルトの瞳が動く。
「来たか、ケルベロス……」
 突然の声にケルベロス達の足が止まると、漂流物の陰からヒトならざるモノが姿を現した。
「現れましたね、ロキ」
 瑠璃音が構えると同時に仲間達も武器を手に計画通り陣形をとる。レプリゼンタ・ロキは自分を取り囲む陣形となったケルベロス達をぐるり見渡してため息を一つ。
「この俺とした事が、とんだ貧乏くじを引いたものだ」
 グランドロンへたどり着くより前に現れたデウスエクスは、言いながら多数のケルベロスが手にした如意棒を見つつ、心底嫌そうな顔をした。
「本当に嫌な奴だな、そんなモノまで持ってきて」
 そんなモノ――如意棒を指さすロキだが、ケルベロス達は気が付いた。
 ロキほどのものなら配下を連れてもおかしくないというのに、ロキは単独で来たようだ。もしかすると交渉の結果だろうか。
 グランドロン内にいるであろうロキがここに現れたのも交渉の結果に違いない。
 探索に時間を割かれずに済んだ上に、数ならこちらが優位。
 だとすれば、これは好機。
「先行された皆さんの努力を無駄にはしません」
 瑠璃音の言う通り、先行し舌戦を繰り広げたであろう仲間達、先陣を切って道を拓いた仲間達の努力は無駄にすることはできない。
 ここで決着を。
「いくよっ!」
 宙を蹴るシルに絶華が続き、二人はロキめがけて一撃を叩きつける。
「くっ!」
「支えます。ここは譲りません」
 息の合った攻撃をロキは腕で受け、隙を与えず瑠璃音が紡ぐのは孤独なる永久姫の詩。
「不死の姫、出会う者に祝福を。何れの日には別れと知り得ても」
 ふわりと舞う詩を耳に幻はロキが苦手とするだろう武器を繰り出す。
 が、っ!
 渾身の強打に、やはり如意棒は苦手なのだろう顔をしかめるロキだが、
「こっちこっち♪」
「ん……?」
 甘い声に見れば、魅惑的な肢体が視界に飛び込んでくる。
「ほらほら、アゲハを見て♪」
 揺れる胸に際どいスカートからちらりと覗く太もも。思わず見てしまった一瞬をケルベロスが逃す訳がなかった。
「隙あり!」
「貴様はここで倒す!」
「っ、ぐ! はっ!」
 攻撃した手を即座に返し胴へ再び如意棒を叩きこむと、鬼気迫るフラジールの拳がめり込んだ。
「お前、よくも!」
「あっは♪」
 呻くロキへと笑むその顔はまさにサキュバスである。
 ひらひら、ちらりちらり。動くアゲハはメタリックバーストを展開させるとヴァイスハイトも動く。
「まったくとんだ蝶だな」
 胴へと叩き込まれた攻撃でせき込むロキだが、この程度では窮地にはなりえない。
 したたか打たれた箇所をさすりながら、にいと嗤う。
「じゃあこっちも反撃させてもらおうか」
 がっと大きく片手を広げ閃くと、一閃はケルベロスめがけて牙を剥く!
 だがその攻撃はディフェンダー二人によって阻まれ、幻もその身を宙へを滑らせた。
「言いましたよね? ここは譲りませんと」
「僕が立ち続けている限り、仲間を倒させはしません!」
 飛び避けた幻もすとんと着地。
 呪刀で受けた攻撃は強烈で握る手がびりびりと痺れる。その攻撃の強さはラインハルトにも十分伝わっている。
 さすがレプリゼンタである。だがこれはほんの小手調べに違いないだろう。
「シル!」
 絶華に呼応するシルとの二人の攻撃をロキはいなす。ラインハルトが受けた傷を癒す間に、瑠璃音と幻の攻撃を受けつつもフラジールのドラゴニックミラージュを耐えきった。
「アゲハが癒してあ・げ・る♪」
 なまめかしくアゲハが仲間達の傷を癒し、
 ぐ、おぉっ!!
「っ!」
 立ちふさがるラインハルトの腕に紅線が走る。つと血が流れ、痛みに眉をひそめるも一瞬。
「ありがとう」
 幻の礼に頷き応え、ラインハルトは刀を構え。
 まだだ、まだこれからだ。
 ケルベロス達は宙を蹴る。


 瑠璃音の頭上を蝶――アゲハが舞う。
 ポールダンスを舞うように、アゲハの肢体は蠱惑的に動く。
「あっは♪ アゲハとあっそびましょ?」
 唇からちらりと広がる羽がロキを誘い、
「何度来ようとあの世に叩き返してやる」
 幾度目かの拳をフラジールは叩きつける。
 流れる汗を払いのけ、旧知たるシルと絶華の息の合った攻撃に幻の如意直突きがロキを襲う。
「苦手だろう?」
「……っ」
 肉を打つ鈍い音を聞きながら聞けば、レプリゼンタはやはり嫌そうな顔をする。
「やはり苦手か」
 ぶおんと空をきり更なる一撃を加え、対峙するロキの様子を絶華は観察していた。
「スルトは一体何者なの? コレクションって一体?」
「さあ……なんだろうな」
 シルの問を攻撃と一緒にばしんとあしらい、
(「……ああいう臆病な輩こそ真の脅威と判断できる。何故なら相手を侮らないからな」)
 思案する間も攻撃をディフェンダー二人が身を挺して防ぎ、攻撃よりも仲間をも守る事を重視したラインハルトは受けた傷を癒すと、永久姫の詩を紡ぐ瑠璃音もまた守りを重視している。
「攻撃は僕が防ぐ」
「皆さんは攻撃を」
 二人の声に仲間達は更なる攻撃を重ねていく。
(「恐らくは冷徹に状況が把握できる猿だろう」)
 だからこそ恐ろしい。
 ごっ。
「っ、は! ……!」
 幻とフラジールの攻撃を正面から受けたロキはよろめきふらつくが、
「まだだ!」
「あぶない! っ!」
 アゲハめがけて襲い掛かる凶撃の前に、立ち塞がった瑠璃音の羽が散る。
「瑠璃音ちゃん大丈夫?」
「これくらい大丈夫……」
 きっと前を向けば、手に付着した羽を無関心に払い落とすロキがいる。
「――――」
 乾いた唇をぺろりとなめ、アゲハが如意棒を向けるとロキは眉を寄せ、
「本っ当に嫌な奴だな」
 立て続けの攻撃を捌くロキの体はだんと宙を跳ぶ。
 攻撃を防ぐラインハルトは、ロキがケルベロス達が持つ如意棒をわざとらしく指さしひーふーみーと口にし数えているのを見た。
「嫌な奴だ。その如意棒の数も、俺が怖いって事を知ってたから持ってきたんだろ?」
 フラジールの拳をばしんと弾いて幻の如意棒が頬をかすめ。生じた傷口から血がにじむ。
「まあ怖いっちゃ怖いが――」
 がづんと重い一撃を瑠璃音が受けて立つ中、ロキはぽつりと口にした。
「ま、その倍もあったらやばかったかもな」
「…………」
 それを聞き、シルはプロミスリングにそっと触れる。
 精霊の少女と龍の少女のコンビネーションはロキへダメージを与えたが、いいようのない不安が胸の中にもやとなる。
 ――そして。
「まったく、本当に貧乏くじを引いたもんだ」
 ロキの一撃にヴァイスハイトは動かなくなった。

 戦いは続いたが、徐々にケルベロス達は押されていく。
 ロキの一撃はどれも重く、いくら守りに厚いディフェンダーであろうとも、攻撃を受け続けるのは徐々に難しくなってくる。
「アゲハ、頼む」
「オッケー♪」
 絶華の一言でメディックであるアゲハには伝わったのだろう。
 仲間の傷や妨害を癒すその動きはついにロキの目についた。
「綺麗な薔薇ならぬ蝶か。厄介だな」
 攻撃を受け流すロキは、幻の一撃を弾くと回復に徹するアゲハの前へ。
「厄介な蝶はここで仕留めるかな……!」
「させません!!」
 傷は癒えきっていない。でも――!
 瑠璃音は全力で駆け、立ち塞がった。
「……っ!」
「瑠璃音ちゃん」
 デルフィニウムの花びらがはらりと落ちる。血を流し膝つく瑠璃音はそのまま倒れ意識を失った。
 1チームで戦っていても互角とはいいがたい状況での戦いの中、二人が倒れてしまった。
「アゲハも頑張るから、皆も頑張ろっ♪」
 くるりとアゲハは舞うように仲間を癒し続けるが、それも長くは続かない。
 ラインハルトの守りをかいくぐった一撃はアゲハを撃ち、蝶ははらりと崩れ落ちる。
「アゲハさん!」
「ごめん……」
 ぎゅっと握る拳を見つめるシルはプロミスリングへと瞳を落とす。
 これがあるから、わたしはどんなところでも勇気を持って戦える。地球と月で離れていても、いつでも一緒だと。
 ああ、いとしい人よ。
 ぶんと迫る攻撃をかわす幻も、その微笑は遂にふつりと消える。
 強敵との戦いに拳を打ち、胴を打ち。
「捉えたぞ」
「いい一撃だ。けど、ここまでだ……!」
 気を込めた拳打を正面から受けたロキは耐えきると、正面から攻撃を叩きつける。
「っは……っ!」
 吹っ飛ばされた幻は踏みとどまろうとするが、ここまでのようだ。悔しさを滲ませる呟きをこぼして崩れ落ちた。
「攻撃は僕が防いでみせる、頼む!」
 ついに3人目が倒れ、険しい表情をするラインハルトは仲間に託す。
「中々忙しそうだが……シル……手伝って貰うぞ!!」
 残る時間はそう多くないだろう。ならば、少しでもダメージを与えよう。
「我が武技と精霊魔導の競演……特と味わい散るがいい」
 絶華は身体能力を向上させる魔法少女の衣装へと転身すると同時に精霊魔法を使う魔法少女の武力支援を受け、雷光の如き猛攻を仕掛けると、
「あなたにはわからない、絆の力を見せてあげるっ!」
 プロミスリングに触れるシルの脳裏の大切な人の笑顔がよぎる。
「わたし達の絆の力、今こそ見せてあげるっ! ……さぁ、勝負だっ!」
「ここで貴様を叩きのめす!」
 精霊の少女と龍の少女との息の合ったコンビネーションにフラジールの拳が後に続き。
「怖すぎるぜケルベロス……」
 渾身の攻撃を、ロキは口元を歪めながらすべて受けてみせた。
 ダメージを受け血が流れ、毛は乱れるが――、
「だが、ここまでだな」
 レプリゼンタの一撃は、4人目の戦闘不能者を出す一撃となった。


 戦闘不能となったシルは、絶華に支えられ意識を失った。
 8名のうちの半数が戦闘不能となったこの状況。
 まだ戦える。まだ、戦えるのに。
 だが――ここまでだ。
「どうした、こないのか? 俺は構わないが……っ!?」
 構えたままロキは問い、ケルベロス達も構えたまま仲間たちと視線を交わすと絶華が蹴りロキの元へ一気に肉薄し拳を叩きつけた。恐ろしいほどの連撃と猛攻。
「行け!」
 戦いながらの声を耳に血がにじむ拳を握りしめ、幻はアゲハと瑠璃音を担ぐとヴァイスハイトを抱えたラインハルトも続いて後退する。
 どれほどの覚悟とともに戦ったとしても、それに見合う結果を出すことはもはや不可能だろう。
 拳を叩きつけ、カウンターを受け、払い。
「絶華さん」
 フラジールの声。どうやら仲間が無事に撤退できたらしい。
「このっ!」
「くっ」
 ひときわ強烈な蹴りで吹き飛ばし、絶華もシルを背負い撤退する。
 撤退していくケルベロスをロキは追撃しない。互いの攻撃が届かない距離が空くと、すいと踵を返し悠々とグランドロンへ帰還していく。殿を務めるフラジールはちらりとロキの姿を目で追うが、こちらに振り返ることもなくグランドロンへと向かい、消えていった。
「グランドロンが地球へ戻っていく……」
 ラインハルトの視界の先をグランドロンが進んでいく。
 グランドロンへ向かった仲間達は大丈夫だろうか。不安はよぎるがヘリオンに戻るまでは情報を得ることはできない。
 きっと大丈夫だろう。大丈夫に違いない。
「お前は自由だ」
 その呟きだけでもせめて届けば。フラジールは歯噛みしつつも戦場を後にし、ケルベロス達はヘリオンへと戻っていった。

 こうしてロキとの戦いはひとたび幕を閉じる。
 だが、いずれまた必ず決着をつける日は来るだろう。

作者:カンナミユ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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