宇宙のグランドロン決戦~原初の『輝き』

作者:朱乃天

 月面で行われた戦争『暗夜の宝石』攻略戦で生き延びた、マスター・ビースト残党たちの動きを掴めたと、玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)がケルベロスたちに話を切り出す。
「神造レプリゼンタ3体を中心とした残党軍が、遺棄されていたソフィステギアのグランドロンを改修し、マスター・ビーストの遺産を運び出して地球に向かっているみたいなんだ」
 マスター・ビーストの残党たちは、地球上の希少動物を絶滅させて、神造レプリゼンタを産み出す計画を実行しようとしているらしい。その計画を阻止する為に、彼らが地球に到達するより前に撃破する必要があるだろう。
 しかし、今回は更に新たな問題が発生している。
 大阪のユグドラシル勢力から、レプリゼンタ・ロキと、ジュモー・エレクトリシアンが、マスター・ビースト残党を降伏させて傘下に加えようと、グランドロンを利用して宇宙に向かっているようなのだ。
 マスター・ビースト残党は、首魁であるマスター・ビーストを失った事で士気が低下しており、戦力差が大きく勝算なしと判断すれば、戦わずにレプリゼンタ・ロキに降伏して傘下に入ってしまうと予測されている。
 『暗夜の宝石』攻略戦後、ヘリオンの宇宙装備は調整の為、NASAに運び込まれているのですぐに動かせる数には限りがある。
 また、『磨羯宮ブレイザブリク』の利用も行えない為、今回は少数精鋭での阻止作戦を行わなければならない。
 マスター・ビースト残党軍が、もしもユグドラシル勢力に降伏し、傘下に入ってしまうと戦力的に阻止することが難しくなるだろう。
「そこでキミたちには、両勢力が合流するより前にユグドラシル勢力のグランドロンに強襲を仕掛け、迎撃に出てきたダモクレスの軍勢を撃破して欲しいんだ」
 奇襲によってダモクレスの軍勢を壊滅させれば、ユグドラシルの軍勢とマスター・ビースト残党軍との戦力差が縮まる為、戦わずに降伏する事態は避けられるだろう。

 今回行われる強襲作戦は、宇宙用ヘリオンを使用することになる。
 まずヘリオンで接近し、グランドロンから迎撃の軍勢が出てきたところを、ケルベロスがヘリオンから出撃して迎え撃つのが、この作戦の一連の流れだ。
 ちなみに宇宙用ヘリオンは、戦闘が始まる前に戦場から一旦離脱。戦闘後に再び合流し、改めて撤退することになる。
 作戦の概要を伝えるシュリは、引き続き、戦う敵に関する情報の説明をする。
「キミたちは、以前にクリスマスで戦った『輝き』シリーズのことを覚えているかな?」
 クリスマスを楽しむ一般人を捕らえて、グラディウスの封印を企んだダモクレスの部隊。
 その『輝き』シリーズは、ケルベロスたちの活躍によって壊滅されたはずであったが――どうやらジュモー・エレクトリシアンが、密かに復活させていたようである。
「この作戦でキミたちに戦ってもらうのは、『輝き』シリーズの原型機とも言える機体で、周囲には量産型の配下が配備されてるよ」
 原型機の方は光の翼を生やした女性の上半身に、巨大な口の不気味なダモクレスが繋がっているような外見だ。
 敵の攻撃方法は、その巨大な口で噛み砕いたり、あらゆる力を無にする光を放ち、思考を狂わす音波を発生させたりするらしい。
 一方、量産型は頭部に羽根を生やし、口に目玉を埋め込まれたような見た目をしている。
 こちらは銃を乱射したり、目から発する閃光で、相手の視界を眩ます攻撃をする。
 量産機は数は多いが、戦闘能力自体は高くない。従って、適度に量産機を蹴散らしながら原型機を狙っていくのが良いだろう。

 ――この先制攻撃は、全体の成否を決める重要な作戦だ。
 もし失敗し、両勢力が合流する事態になってしまうと、続く作戦は実行不可能になって、全軍撤退に追い込まれることになり兼ねない。
 しかも敵はダモクレスの精鋭部隊であり、油断できる相手などでは決してない。
 だがこれまで数々の戦いを勝ち抜いてきたケルベロスなら、この戦いも、必ず勝利を収めてくれるだろうと、シュリは願う。
 彼らに希望を託し、ヘリオンは、陰謀渦巻く宇宙に向かって、飛び立っていく――。


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
ステイン・カツオ(砕拳・e04948)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)
浜本・英世(ドクター風・e34862)

■リプレイ

●三つ巴の決戦、その先陣
 マスター・ビースト残党軍を取り込もうとするユグドラシルの軍勢に、強襲作戦を仕掛ける為にケルベロスたちは宇宙を目指す。
 専用装備に調整されたヘリオンが、大気圏を突破し地球を離れ、宇宙空間を移動する。
 小さく遠退く青い地球の姿を見つめつつ、宇宙服に着替えたケルベロスの面々が、作戦を実行すべく、それぞれ準備を整える。
 それから間もなく、ヘリオンがグランドロンの影を捉えて接近すると、気付いたダモクレスの軍勢が、ヘリオンを撃墜しようと飛び出してくる。
 敵が仕掛けてくるのを確認し、一行は、それらを迎え撃とうと出撃開始。
「――陰陽道四乃森流、四乃森沙雪。参ります」
 四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)は当主に代々受け継がれた霊剣、神霊剣・天の刀身を、印を結んだ指でなぞって武運を祈り、覚悟を決めてヘリオンを出る。
「わたしたちの作戦がうまく行かないと始まらない。より良き未来につないでくれると信じて、わたしにできることを精一杯します」
 今回の作戦の先陣を担うことの意味、後の仲間に繋げる為にもこの戦いは負けられない。折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)は回復役として、チームの仲間を支えてみせると自身の心を鼓舞させる。
 宇宙空間に配備された複数体の量産機。機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は片目に装着されたゴーグル越しに相手を見据え、開戦前の緊張感に、胸の鼓動が高鳴って、武器を持つ手に力が入る。
「――このまま戦闘に突入するのです」
 まずは先手を奪おうと、真理が高速移動で突撃しながら動力剣を振り回す。
 そうして敵を攪乱し、部隊の布陣を崩した隙を狙い、ケルベロスたちはこの機に乗じて、敵陣営に波状攻撃を仕掛けて攻め込んでいく。
「『輝き』シリーズ、全て倒しきったと思ってましけれども……ですがどれだけ居ようと、構いません」
 嘗て全滅させた敵の同系統がジュモーによって復活したのは、厄介事には違いない。が、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は動じることなく身構える。
「――凍てつく痛みを思い知れ」
 何故ならもう一度、この手で纏めて倒すだけ――ミリムが肉球付きのマジックハンドに氷の魔力を蓄積させて、頭上に翳せば無の空間に、華麗な氷の花が咲き乱れ、伸びる氷柱の槍で敵集団を貫き、穿つ。
「輝きシリーズとは……いつぞや、確かにお世話になったね。侮れる相手ではないが、ここは今回の開始点だ。墜とさせて頂くよ」
 戦う敵はダモクレスの精鋭部隊。浜本・英世(ドクター風・e34862)は慎重に戦力数を見極めながら、白銀のオウガメタルを身に纏い、全身からミサイル弾を一斉発射。輝きの眼の部隊に命中すると、暗い宇宙の空間に、炎が爆ぜる大きな音が轟き響く。
「ここを通せば先の勝利も薄れてしまう……。それぞれの思惑があるのだろうけど阻ませて貰うわ」
 生じる黒煙の中を突き抜けながら、ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)が敵集団の中心目指して猛加速。空を翔け、舞うかのように二本の魔動機刀を巧みに振るい、緋色と碧の斬撃が、破損している輝きの眼を真っ二つに断つ。
「レッツ、ロックンロール! ケルベロスライブ、スタートデス!」
 自称ロックなミュージシャン、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)が竜の翼を羽搏かせながらくるりと回転。脚に理力を込めて蹴り込むと、星のオーラが宇宙に煌き、敵機を新たに一体、撃ち落とす。
「――敵ハ、ケルベロスト認識シマシタ。コレヨリ迎撃モードニ移行シマス」
 輝きの眼の口に埋め込まれたモノアイが、首のマシンガンの銃口が、八人のケルベロスたちに向けられる。そして裁きの銃が火を吹いて、審判たる目が閃光を放ち、番犬たちに容赦なく襲い掛かる。
「何かあるとすぐに掠め取ろうとしやがるのでございますね、ダモクレス。どこと組んでいらっしゃっていても変わらない……ゲンナリしてしまいます」
 盾役を担うステイン・カツオ(砕拳・e04948)は敵の集中攻撃を浴びつつも、気力で防いで耐え凌ぎ、腕に螺旋の力を纏わせて、触れた相手をその衝撃で吹き飛ばす。
 多数の敵を前にしても尚、ケルベロスたちは怯むことなく敢然と、ダモクレスの精鋭部隊に立ち向かう。
 宇宙に渦巻くデウスエクスの陰謀を、阻止して必ずこの戦闘に勝利する。
 揺るがぬ決意を胸に秘め、今ここに、決戦のステージの幕が開く――。

●輝けるもの
「数が多いのは厄介ですね。まずは確実に、数を減らしていきましょう」
 量産型の戦闘力は高くはないが、それでも数で攻められたら苦戦は免れそうもない。
 できれば自分も前で戦いたい。茜はそうした心の葛藤を、必死に堪えて、せめて仲間の力となれるよう、星の力を宿した剣で星座を描き、加護の力を付与させる。
「ああ。敵の思惑は、とっとと打ち砕くに限る」
 量産機を優先的に倒すのは、この戦いにおけるケルベロスたちの共通認識だ。
 茜の言葉に沙雪が頷き、刀に念を送って霊気を集め、宇宙の虚ろな空間に、無数の剣が召喚されて、敵群目掛けて刃の雨が降り注ぐ。
「第二波が到来する前に、少しでも早く倒しましょう」
 沙雪の剣戟陣を逃れた敵を、ミリムが待ち受け、狙いを定める。
「援護、するですよ!」
 そこへミリムを支援すべく、真理がドローンの群れを周囲に展開。
 搭載されたAIが、敵のデータを即座に解析。導き出された情報を、伝達・共有させて、行動パターンの予測によって命中率を引き上げる。
 援護を受けて、ミリムの研ぎ澄まされた精神力が、滾る炎となって肉球の杖に乗り移り、紅蓮を纏った肉球パンチで、敵を一網打尽に焼き払う。
「さて……君達も私の記憶(コレクション)に加わって貰おう」
 英世がナノマシンを散布させ、輝きの眼の内部に潜り込ませると。禍々しい念波を放って呪文を詠唱。ナノマシンが念波を受信し、敵の回路を狂わせる。
「その無数の『眼』に映る事は虚構であろうとも、君達にとっては真実となる」
 敵の審判たる目に映るのは、今戦っているケルベロスたちでなく、英世が『暗夜の宝石』攻略戦で戦った、マスター・ビースト配下のデウスエクス達。
 それらは英世が視せる虚像の軍団。その幻影に囚われてしまった輝きの眼は、虚像によって内から機能を破壊され、戦力を徐々に削られていく――その状況に、英世は薄ら笑みを浮かべるのであった。
「宇宙にも、ボクのロックを響かせてやるのデスよ!」
 シィカも負けじと気合いを入れて、釘を生やしたバールで輝きの眼を滅多打ちにする。
 鈍い金属音の後に爆発音が派手に鳴り、シィカの心のビートを宇宙空間に刻み込む。
「……いつまで部下だけに戦わせるつもり? 高みの見物でもしているのかしら」
 華麗な剣技で、輝きの眼を撃墜していくヒメの戦いぶりを観察するかのように、不気味に佇む異質な機体が、そこにいる。
 量産機を斬り伏せながら、ヒメが赤い瞳で敵の姿を睨めつける、その相手こそ――全ての輝きシリーズの原型機。
 神々しささえ感じる天使のような女性のフォルムの上半身。だが下の部分は知性の欠片もなさそうな、奇怪な機体が天使の女性と一体化しているような外見だ。

 ――『≪The Shining one≫』

 真理がその名を、小さくぽつりと呟いた。
 彼女にとって『輝きの軍勢』という敵は、因縁浅からぬ関係がある。
 原型機の姿を目にした瞬間、脳裏には、今も消息不明の両親と、焦土と化した故郷の景色がフラッシュバック。忌まわしい過去の記憶が蘇り、瞳に殺意と憎悪の炎が灯る。
 そんな主の気持ちに同調したか、プライド・ワンのライトも赤く光って、威嚇するかのようにエンジン音を激しく唸らせ、ガトリング銃を乱射する。
 その直後――待機していた原型機が動き出し、輝く翼を大きく広げ、ケルベロスたちに向かって羽搏くと。発する光の波動の衝撃が、彼らに掛かった強化の力を打ち消してしまう。
「今までは小手調べ、ってわけですか。全く以て、気に食わないですね」
 ユグドラシルの勢力の、漁夫の利的な一連の行動も含め、ステインは敵の余裕めかした態度に苛立ちを隠せないでいた。
 言葉にできないもどかしさ、燻る怒りを魔力に転換。ステインの人差し指の一点に、黒い魔力が渦を巻く。
「――掬え!」
 人差し指を原型機に向けて突き出し、ステインが圧縮させた魔力を一気に射出。
 指先から撃ち込まれた悪意の弾が、一直線に天使の肩を射抜いて命中すると――黒い嵐が巻き起こり、敵の動きを抑え込む。
「その足――封じさせて貰うわ」
 ヒメもすかさず刃を抜いて反撃し、遠距離からの斬撃で、相手の次の一手を阻害する。
 戦場を見回せば、輝きの眼はここまで半数以上が駆逐され、原型機と戦う上での障害は、ほぼ排除されたと言って良い。
「ここからが本番ですね。気を引き締めて行きましょう」
 ミリムが狙いを切り替えて、原型機に攻撃しようと意識を集中。魔法によって錬成された球体状の塊が、虚無の時空を発生させて、機械天使の生命力を吸い込んでいく。
「今度は格上相手になるからね。一筋縄ではいかないだろう」
 本命となる敵と相対し、英世の眼鏡の奥の瞳が鋭く光る。
 禍々しく装飾された動力剣を駆動させると、餓えた獣の如き唸り声を上げ、振り払われた刃は獰猛に、牙で噛み切るように天使の機械の身体を斬りつける。
「――祓い給え、清め給え、光波斬撃、急急如律令」
 沙雪が素早く九字を切り、詠唱すると同時に力を高め、刀に宿す。
 霊気を纏った神霊剣を腰に当て、振り抜く居合いの光速一閃――奔る刃の一撃が、強固な鉄の機体に斬撃痕を刻み込む。
「仲間の命を預かる身である以上、誰も傷つけさせるわけにはいきません」
 前線で戦い続ける者たちを、茜は後方から見守りながら、彼らに助力しようと癒しの力を行使する。この戦線を維持することが、自身の役目と心得て、指輪に願いを込めると眩い光が溢れ出し、守りを固める盾と化す。
 その一方で、番犬たちは輝きの眼の大半を倒し、後は指揮官である原型機を残すのみ。
 互いの雌雄を決する戦いは、いよいよ佳境に入り、更に熾烈になっていく――。

●誓いを胸に
 相手は精鋭部隊の指揮官級だけあって、攻略するのは容易でない。
 しかしケルベロスたちは臆することなく、闘志を奮い立たせて攻勢を掛ける。
「お前は……お前だけは、私は絶対赦さない!」
 今も真理の瞳に焼き付いている、あの時、全てを奪った劫火が彼女の心の中で燃え盛る。
 誰も救えなかった己の弱さに対する後悔と、怨嗟の心をアームドフォートに込めながら、宿敵たる原型機にレーザービームを撃ち放つ。
「我が身に纏う虚無と絶望で、その機械の身体を染め上げてしまいましょう」
 ミリムの身体を覆う黒い残滓が、彼女の手元に集められ、それは一振りの槍と化す。
 喰らい蓄え、凝縮させた『絶望』を帯びた影の刃で、原型機の鋼の身体を突き刺して――生じた亀裂に、残滓の呪いの力を浸食させて、鉄を腐らせ、蝕んでいく。
「その僅かな綻びが、何れ致命傷にもなるのだよ」
 今度は英世が裂けた箇所を狙って、特殊合金製のメスを刺す。
 超高速で振動する刃は切れ味鋭く、傷口を更に斬り広げて汚染の速度を進行させる。
 ケルベロスたちは得意の連携力を活かして手数を重ね、敵の力を殺いでいく。
 数で力を補う番犬たちに、ダモクレスの指揮官たる原初の天使は、脳を揺さぶる音波を発して、彼らの思考を狂わせる。
 どれだけ耳を塞いでも、機械天使の幻想的な歌声が、脳に直接響いて伝わり――汝の隣人を、殺せと囁く声に、精神までも支配されてしまう。
 天使の歌の力に魅了され、抗うことのできない番犬たちが、仲間に刃を向けようと――。
「目を覚ますのデス! ボクの歌声を、ミンナの心に届けてみせるデス!!」
 心の無いダモクレスの歌に惑わされてはいけないと、シィカが思いの丈を込めながら、尊い生命の旋律を、声高らかに力強く歌う。
 更にシィカの歌に合わせるように、茜が息を大きく吸い込むと、喉が裂けんばかりに声を叫ぶ。
「Ahaaaaaaaaaa――ッ!」
 二人の魂篭った祈りの声が、仲間の心に届いたか――機械天使の破滅の音を掻き消して、彼らは再び正気に戻る。

 ――幾度も敵の攻撃を耐え抜きながら、ケルベロスたちは火力を集めて機を窺う。
 その結果、手数で勝る番犬たちがダモクレスの防御を上回り、次第に流れを手繰り寄せ、戦いを優位に進めて、機械仕掛けの天使を追い詰めていく。
「そろそろこれで、決着を付ける!」
 このまま一気に畳み掛けようと、真理がアームドフォートを構えるが――しかしそうはさせじと、後がない手負いの天使は最後の力を振り絞り、異形の口を大きく開き、死に物狂いで喰らい掛かってくる。
 油液を唾液のように滴らせ、巨大な機械の口が、レプリカントの少女を丸呑みしようと迫り来る――その時、一台の一輪バイクが少女を押し退け、主を守る盾となり、攻撃を受け止めたかと思ったが。
 捨て身の死をも厭わぬ執念に、プライド・ワンは抵抗敵わず力に屈し、醜悪な口に無惨に噛み砕かれて、散ってしまう。
「…………ッ!?」
 自分の代わりに犠牲になって、非情な結果を目の前にして――真理は思わず言葉を失い、身体を震わせ、怒りを堪えるように拳を握る。
「コイツは百倍返しだ。ヒトの底意地、テメェが味わうにはもったいねえってんだよ!!」
 仲間の心の痛みを代弁し、ステインが螺旋の力に冷気を纏わせ、放った凍てつく螺旋が機械天使の半身の、暴食の口を氷の檻に閉じ込める。
「その目障りな口、叩き斬らせてもらう」
 この好機を逃しはしまいと、沙雪の霊剣が、空の霊力帯びて、刀身が青白く輝き始める。
 柄を握り締める手に、力を込めて、高く掲げた刃を真一文字に振り下ろし――異貌の口を一刀両断。
「悪いけど、もうそろそろ終わりにするわ」
 ヒメが続いて瞬時に距離を詰めながら、天使と口を繋げる、脈打つコードの束を、雷纏った鋭利な刃で斬り払い。目にも止まらぬ一太刀に、天使の上半身が切り離される。
「……もう二度と、私の大事なものを、奪わせない」
 真理の手に、輝く電磁の剣が具現化し、全ての力を光の刃に注ぎ込み、止めを刺すべく、天使の胸に突き立てる。
 失くしたものへの償いを、捧げるように誓いを込めて。偽りの天使に、終焉を――。

 斯くしてダモクレスの軍勢を、見事に討ち倒して勝利を収めたケルベロスたち。
 まだ残存している僅かな数の輝きの眼も、グランドロンに撤退して行き、番犬たちは安堵するのも束の間に、急いでヘリオンに戻り、この戦場から離脱する。
 先陣としての役目は十全に果たした。後は次のチームに託しつつ、彼らは暫しの勝利の余韻に浸るのだった――。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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