●神獣のビジョン
主なき敗残者たちが宇宙を行く。
ソフィステギアのグランドロンの残骸に乗って。
目指すは地球。
「我らが主たるマスター・ビーストが滅ぼされた以上、回収できた僅かな実験体を神造レプリゼンタ化し、戦力を整える必要があります」
兎型の神造レプリゼンタ・パントファルドスが理知的な赤い瞳を向けた先で――、
「そのためには、このグランドロンとやらで地球に向かい、動物種を絶滅させるんだろ。やるしかないなら、是非もない」
――ライオン型の神造レプリゼンタ・ジェイダリオンが牙を剥いて同意した。
彼らはグランドロンの残骸を改修し、こうして地球に向かわせることに成功した(ソフィステギアのグランドロンはマスター・ビーストを主として登録されていたため、マスター・ビーストの勢力である神造レプリゼンタたちの指示にも従うらしい)が、その改修は完全なものではない。戦闘力はほぼ失われている。
残党を取りまとめて一応は軍勢の形を整えたものの、一刻も早く神造レプリゼンタを増やさなければ、独自の勢力として生き延びることは不可能だろう。
「とはいえ、戦いはできるだけ避けるべきです。現在の我らの拠点はこのグランドロンのみ。これを失えば、我らといえども滅びは免れません」
「ヴォォォーン」
カイギュウ型神造レプリゼンタ・ギガトラルドンがパントファルドスに同意するように咆哮した。
彼らの敗残の道は、まだ始まったばかりである。
●音々子かく語りき
「マスター・ビースト勢の残党の動きを掴むことができましたー」
ヘリポートに召集されたケルベロスたちの前でヘリオライダーの根占・音々子が語り始めた。
「残党軍の中核を成しているのは、『暗夜の宝石』攻略戦を生き延びた三体の神造レプリゼンタ――パントファルドス、レプリゼンタ・ジェイダリオン、ギガトラルドンです。奴らは、遺棄されていたソフィステギアのグランドロンを改修し、この地球へと向かってるんです。どうやら、地球の希少動物を絶滅させて、神造レプリゼンタを生み出すつもりみたいですね」
新たな神造レプリゼンタを防ぐためにも、地球の動物たちを守るためにも、残党軍が地球に到着する前に撃破する必要がある。
だが、今回の敵は残党軍だけではない。
「大阪のユグドラシルの勢力も動き出しやがったんですよー。レプリゼンタ・ロキとジュモー・エレクトロシアンがグランドロンで宇宙に向かってるんです。まあ、残党軍とユグドラシルの連中が宇宙で潰し合ってくれたら、こちらとしてもありがたいのですが……そうは問屋が卸さないみたいなんですよねー」
首魁のマスター・ビーストを失ったことにより、残党軍の士気は低下している。しかも、相手は真のレプリゼンタたるロキ。勝ち目がないと悟れば、一戦も交えることなく降伏し、ロキの傘下に入るだろう。
「つまり、ケルベロスが介入しない限り、ユグドラシル勢に神造レプリゼンタという新たな兵力が加わってしまうということです。これは絶対に阻止しなくてはいけないですよね」
しかし、阻止作戦は少数精鋭でおこなわざるをえない。現在、ヘリオン用の宇宙装備の大半はNASAで調整中であり、すぐに動かせる数には限りがあるからだ。
「で、その少数でおこなう作戦の詳細ですが……まず、いくつかの部隊がユグドラシル軍のほうのグランドロンを先制攻撃します。それが成功すれば、敵の二勢力がすぐに合流することはないはずです。とはいえ、二勢力が共闘する危険性が消えたわけではありません。そこで、少しでもこちらが有利になるように――」
ケルベロスたちを指さす音々子。
「――残党軍側のグランドロンに軍使を派遣し、交渉します! その役目を皆さんに担っていただきたいのでーす!」
デウスエクスがケルベロスとの交渉を受け容れることなど(母島でのレリとの会見という前例があるとはいえ)普通なら考えられないが、今回は『普通』のケースではない。マスター・ビーストなき残党軍は滅亡の危機に瀕しているし、なによりもマスター・ビーストを倒したケルベロスを恐れている。強気に押せば、交渉の席に着かせることができるだろう。
「神造レプリゼンタはレプリゼンタに準じる不死性を持ちますが、元が動物さんですから、他のデウスエクスほどには邪悪じゃないというか……ちょっぴり騙されやすい傾向にあるようです。だからといって、なんにも考えていないわけではなく、生き延びられる可能性が少しでも高い行動を選ぼうとするでしょう。そのあたりのことを念頭に置いて交渉に臨むといいかもしれませんね」
交渉の正否にかかわらず、最終的に軍使たちは戦闘に巻き込まれる可能性が高い(8チームからなる攻撃部隊も作戦に参加しており、なおかつ作戦中は電波障害によって攻撃部隊とは連絡が取れないのだ)。よって、グランドロンからの脱出の手段等も練っておくべきだろう。
「非常に特殊な任務なので、いろいろと大変だとは思いますが――」
音々子はおなじみの言葉でケルベロスたちを励ました。
「――大丈夫です! 皆さんなら、できます!」
参加者 | |
---|---|
大弓・言葉(花冠に棘・e00431) |
新条・あかり(点灯夫・e04291) |
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753) |
千歳緑・豊(喜懼・e09097) |
南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831) |
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629) |
ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399) |
リリベル・ホワイトレイン(堕落天・e66820) |
●エデンの東の迷子たち
地球を目指して飛ぶグランドロン内の一室。
航行に必要な機器もなければ、乗員のための調度品もない、ただ広いだけの無味乾燥なその部屋で奇妙な会談が始まろうとしていた。
四方の壁には神造デウスエクスモドキたちが並び、警戒と憎悪と恐怖が入り交じった視線を部屋の中央に向けている。
そこに立っているのは、宇宙服のヘルメルットを脱いだ八人のケルベロス。
その前にいるのは、マスタービーストの残党軍の代表たる三体の神造レプリゼンタ。
「最初に断っておきますが――」
兎型の神造レプリゼンタのパントファルドスが口を開いた。
「――貴方たちを信用したわけではありませんよ」
「だろうね」
そっけなく答えたのはシャドウエルフの少女。チーム最年少の新条・あかり(点灯夫・e04291)。片手に持った棒には白い旗が巻かれている。それを振りながら、彼女たちはグランドロンに近付き、会見を求めたのだ。
「実を言うと、疑いよりも戸惑いのほうが大きいのですがね。有利な立場にある貴方たちが何故に軍使などを送ってきたのやら……」
パントファルドスは首をひねった。
「降伏勧告でもするつもりか?」
獅子型の神造レプリゼンタのジェイダリオンがケルベロスたちを睨みつける。
「ヴォォォーッ!」
カイギュウ型の神造レプリゼンタのギガトラルドンが威嚇するかのように吠える。
そんな二体の眼光と咆哮に臆することなく――、
「ううん。降伏勧告とかじゃなくて、もっとポジティブな話なのー」
――オラトリオの大弓・言葉(花冠に棘・e00431)がかぶりを振った。振り終えた後も微かに揺れているように見えるのは、ボクスドラゴンのぶーちゃんが頭にしがみついて震えているからだ。当初は余裕ある態度で臨んでいた(『交渉するだけなら、怖くないっス』と思っていたらしい)ぶーちゃんだが、デウスエクスモドキに囲まれた上に神造レプリゼンタたちに凄まれて、震えが止まらなくなったのである。
「単刀直入に言おう」
首をひねり続けているパントファルドスに向かって、人派ドラゴニアンのウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)が要望を告げた。
「俺たちと共闘してほしい」
●偽りの知恵の樹
「興味深い提案ですが……何者を討つために共闘するのですか?」
「もちろん、ユグドラシル連合軍だ」
パントファルドスの問いに答えたのは玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)。黒豹の獣人型ウェアライダーである。その頭にはウイングキャットが乗っているが、ぶーちゃんのように震えてはいない。それどころか、好奇心に目を輝かせて、周囲の神造デウスエクスモドキたちを見回している。
横にもサーヴァントがいた。ライドキャリバーのホワイトふぁんぐ。泰然自若と構え、微動だにしていない。
そのホワイトふぁんぐの主人であるオラトリオのリリベル・ホワイトレイン(堕落天・e66820)が――、
「ふっふっふ」
――不敵に笑ってみせた。実はぶーちゃんと同じくらいに怯え、緊張しているのだが。
「我々は既に連合運のグランドロンに先制攻撃を仕掛け、戦力を削ることに成功しているのだぁーっ!」
「そのとおり」
と、陣内が頷いた。
「思わぬ敵の登場で連中は浮き足立っている。先制攻撃が成功した今こそ、奴らを叩き潰す好機だ」
「なぜ、その好機をわざわざ共有する?」
眉間に皺を寄せてジェイダリオンが問いかけると、サキュバスの南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)が遠慮がちに話に加わった。
「勝利をより確実なものにしたいからです。三の力で二の敵にぶつかるよりも、敵を分断して取り込み、四の力で残りの一を蹴散らすほうがいいと思いませんか?」
「理由は他にもあるよ」
と、あかりが言った。
「僕たちは、暗夜の宝石についての情報が欲しいんだ。だから、秘密を墓場まで抱えていってもらっては少々困る」
「俺たちを墓場送りにできるかのような口振りだな」
牙を剥いて、あかりを見据えるジェイダリオン。
「できるよ。確実に。そして、簡単にね」
眉一つ動かさず、ジェイダリオンを見つめ返すあかり。
そんな両者の間に――、
「いやいやいやいや。できるからといって、それを実行に移したいわけじゃないよ。だからこそ、こうやって共闘を持ちかけているんだ」
――とりなすように割って入った者がいる。
チーム最年長の千歳緑・豊(喜懼・e09097)。元ダモクレスのレプリカントだ。
「共闘してくれるなら、私たちはそちらを攻撃しない。それに暗夜の宝石についての情報も今すぐに教えろとは言わないよ」
ポーカーフェイスのあかりと違って、豊はにこにこと笑っていた。敵意がないことを示すため……というわけではない。スリルに満ちたこの状況を本気で楽しんでいるのだ。
「しかし、貴方たちに協力しても――」
パントファルドスが肩をすくめてみせた。
「――私たちが報われる保証はありませんよねえ。いや、報われるどころか、『狡兎死して走狗烹らる』なんて結末が待っているかも」
「狡兎はおまえだろうが。はしっこいウサギ野郎め」
「ふふふ。確かに……」
「ヴォー?」
仏頂面のままで軽口を叩くジェイダリオン。首回りの豊かな飾り毛を揺らして笑うパントファルドス。『狡兎』の意味が判らないのか、大きな頭を傾げるギガトラルドン。ほんの一瞬だけ、和やかな空気が室内を満たした。
その一瞬が過ぎ去ると、パントファルドスはなにごともなかったかのような顔をして、狡猾な眼差しをケルベロスたちに向けた。
「もしかしたら、連合軍も我々に共闘を呼びかけてくるかもしれませんなぁ。貴方たちよりも好条件でね」
「好条件!? ないないなーい!」
リリベルが顔の前で手を何度も振った。
「あちらさんの労働環境は超絶ブラックよ。それこそ、走狗にされて美味しく煮られちゃうのがオチだって」
「私もそう思います」
と、同意を示したのはカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)。兎の獣人型ウェアライダーだが、外見の印象はパントファルドスのそれとは大きく異なる。
「連合軍の中でも特にロキは信用ならない。きっと、貴方たちを使い捨てにするでしょう。ケルベロスとの戦いの最前線に立たせるという形でね。つまり、貴方たちは我々の最初の標的になるということです」
更に言葉が追い打ちをかけた。
「たとえ使い捨てにされなかったとしても、ごった煮状態の連合軍に呑み込まれて、弱小派閥AもしくはB、ヘタしたらC以下に成り下がっちゃうわよ。それでいいの? 今回、貴方たちが動いたのは、独立勢力としての力を得るためでしょ?」
「しかし……」
と、パントファルドスは反駁しかけたが、カロンがそれを遮った。
愛らしい兎の姿にそぐわぬ力強い叫びで。
「貴方たちは悔しくないんですか!」
その足下ではミミックのフォーマルハウトが口(蓋)を開閉している。物言えぬ身でありながら、主人とともに叫ぶかのように。
「抗おうとは思わないんですか!」
カロンの二度目の叫びに合わせて、ホワイトふぁんぐが排気音を響かせた。
「あのいけすかないロキに一泡吹かせてみたくはないんですか!」
「ロキなど、どうでもいい!」
と、三度目の叫びに答えたのはジェイダリオンだ。
「『悔しくないか』と訊いたな? ああ、悔しいとも! だが、俺たちの悔しさや苛立ちや怒りはロキではなく、おまえらに対するものだ。マスターを殺したのは、おまえらなのだからな!」
ケルベロスに憤りをぶつけるかのような発言ではあるが、表情と声音からは迷いが感じられる。
それを見逃すことなく、陣内が揺さぶりをかけた。
「そのマスタービーストの……いや、創造主の意志を尊重するのなら、真のレプリゼンタを気取るロキなんぞにつくべきじゃない。創造主は最後に言った。『誰のものにもなるな』と。神造レプリゼンタたるおまえたちに向けてな」
マスタービーストをあえて『創造主』と呼んだのは、ウェアライダーである自分もまた彼の創造物であり、神造レプリゼンタの兄弟とも言える存在だということを強調するためだ。
●獣の数字は人にこそ
「誰のものにもなるな、か……」
ジェイダリオンが呟いた。
そして、大きく息を吐いた。溜息かもしれない。
「まあ、いいだろう。おまえたちの話に乗ってやる。他の選択肢よりはマシに思えるからな」
「賢明だね」
あかりが小さく頷いた。ポーカーフェイスを維持しているが、内心では賢明ならざるジェイダリオンに哀れみを覚えている。
哀れな獅子から目を反らして、あかりは他の二体に問いかけた。
「君たちはどうする?」
「まだ迷っています」
「右に同じ」
と、ギガトラルドンが初めて人語を発した。
「マスターを滅ぼしたほどのおまえらが、敗残軍に過ぎぬ我らを倒すために手の込んだ騙し討ちをするとは思えんが……どうにも信用できん。ヴォォォーッ!」
「信用はできなくても、利用はできるだろう?」
と、ウリルが言った。
「利用したその力で他の勢力を潰せるのなら、悪くない話じゃないか。損か得か、シンプルで判りやすい」
「戦いの結果もシンプルだよ。百パー、絶対、間違いなく、こっちの勝ち!」
リリベルが断言した。
「なぜなら! 私たちには、ロキが最も恐れる手札――」
「――如意棒があるんだから!」
と、言葉が後を引き取った。
「そして、陣内君も言ったように今こそが好機! 乗っかれる機には乗っかることをお勧めするのー!」
「ここを逃すと、二度と乗れない!」
ショッピング番組のMCのように売り込みをかける二人。
その迫力に少しばかり鼻白む様子を見せながら、パントファルドスは新たな問題を口にした。
「共闘の結果、勝利を収めることができたとして……その後はどうするのですか? 情報収集能力に長けた貴方たちは既に御存知でしょうが、我々は地球上のいくつかの希少動物を滅ぼすつもりでいるんですよ」
「そのへんのことは話し合いで適当な落としどころを見つけるしかないんじゃないかな」
豊が答えた。あいかわらず、笑みを浮かべている。
「まあ、人類も多くの種を絶滅させてきたから、偉そうなことは言えないんだけどね。きっと、天国にいるケープライオンやエゾオオカミやリョコウバトの群れはデウスエクスを応援しているよ」
「なんにせよ、悪いようにはしない」
と、陣内が『兄弟』たる神造レプリゼンタたちに語りかけた。
「おまえたちを受け入れてくれるよう、俺が他の奴らを説得する。その点は任せろ。だから、安心して地球へ帰ってくるといい」
「地球の皆さんは寛容だよ。元ダモクレスとして、いろいろやってきた私も――」
豊が両腕を広げてみせた。
「――ほら、この通り。存外、殺されたり、憎まれたりはしないものさ」
「ふむ……」
パントファルドスは顎の飾り毛に手をやり、暫し黙考した後、意味ありげな視線を同士たちに送った。
「……」
ギガトラルドンがなにも言わずに頭を上下に動かした。
「……」
ジェイダリオンもまた無言で頷いた。
当人たちはアイコンタクトで密かに意を伝え合っているつもりなのだろうが、彼らの考えていることがウリルには手に取るように判った。
(「ケルベロスと連合軍との戦闘が始まれば、さっさと戦線を離脱して地球に向かえばいい――そう思っているんだな」)
それを口に出して指摘することはなかったが。
ややあって、パントファルドスはケルベロスたちに向き直った。
「判りました。私もギガトラルドンも貴方たちの提案に乗りましょう。ただし、条件があります。我々を使い捨てにしないことを証明するため、戦闘の際にはケルベロスが前線に立ってください」
「もとよりそのつもりです」
と、夢姫が静かに答えた。
その対応にパントファルドスは拍子抜けしたような顔を見せたが――、
「ふふふ。掌の上で踊らされている感が拭えませんねぇ」
――すぐに自嘲的な笑顔に変えた。
「しかし、これが貴方たちの罠だったとしても、我々は最終的に一矢報いることができるはずです」
「……一矢報いる?」
夢姫が思わず聞き返すと、兎型の神造レプリゼンタは笑みを消して答えた。
「ええ。貴方たちの心に罪悪感を植え付けるという形でね」
この時点で既に何人かのケルベロスは罪悪感を抱いていた。
本当は神造レプリゼンタたちと共闘するつもりなどないし、彼らを地球に迎え入れるつもりもないのだから。
●カインの末裔は生き続ける
ケルベロスたちは数体の神造デウスエクスモドキたちとともに外部ハッチに向かっていた。
交戦しながら撤退することも覚悟していた(実際、そのような事態になる可能性が高かった)のだが、敵が共闘を承諾したために会談は平和裏に終わり、『戦闘準備のために戻らせてもらいます』という夢姫の一言であっさりと帰還を許されたのだ。
しかし、なにもせずに帰るわけにはいかない。
攻撃チームがここに向かっているのだから。
「……ごめんね」
ハッチの前に到着すると、デウスエクスモドキたちに向かって、あかりがぽつりと呟いた。
そして、微塵も躊躇することなく、グラビティをぶつけた。
他のケルベロスたちも次々とグラビティを発動させ、デウスエクスモドキを仕留めていく。
たちまちのうちにデウスエクスモドキは全滅。
皆は宇宙服のヘルメットを被り、今度はハッチめがけてグラビティを撃ち始めた。攻撃チームを招き入れるために。
「後味が悪いねー」
ハッチを破壊しながら、リリベルがぼやいた。
「そうね」
と、言葉が溜息混じりに同意した。
「できれば、あの三人にも定命化してほしかったんだけど……まあ、しかたないよね」
「うん、しかたないよ。猟師は獣を罠にかけるのが仕事だから」
自称『猟師』の豊は割り切った顔をしていた。さすがにもう笑ってはいないが。
夢姫も笑ってはいなかった。
「パントファルドスさんが仰っていたように、罪悪感で一矢報いられたのは確かですね」
「どんなに後味が悪かろうと、罪悪感に苛まされようと、奴らを見過ごすことはできない」
と、自分に言い聞かせるように呟いたのはウリル。
心の中で彼は付け加えた。
(「俺にも守りたいものがあるからな……」)
「一歩、間違っていたら――」
敗残者たる『兄弟』たちのことを思いながら、ウェアライダーのカロンがケルベロスチェインをハッチに叩きつけた。
「――私も彼らと同じようになっていたのでしょうか?」
その一撃でハッチは破壊され、皆の眼前に宇宙が広がった。ただし、『皆』の中にカロンは含まれていない。思わず振り返ってしまったからだ。『兄弟』がそこにいるはずもないのに。
「帰るぞ」
もう一人の『兄弟』である陣内にそう告げられ、カロンはハッチの外に目を向けた。
ハッチはグランドロンの前部に設けられていたため、進行方向にある青い星が見える。
ケルベロスたちが帰る星。
神造レプリゼンタたちが帰れない星。
作者:土師三良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2019年11月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|