宇宙のグランドロン決戦~機天使の帰還

作者:白石小梅

●最終生存体の帰還
 望月・小夜がスクリーンを展開して番犬たちを迎える。
「お疲れ様です。早速ですが、月面戦争『暗夜の宝石』攻略戦を生き延びた、マスター・ビースト残党が動こうとしております」
 狂える月の主は、滅び去った。神造レプリゼンタ3体を中心とする残党は、月面に取り残されているはずだ。
「はい。ですが連中、遺棄されていたソフィステギアのグランドロンを改修してマスター・ビーストの遺産を月から運び出したようなのです。目指す先は、無論……」
 ……地球。そういうことか。
「残党軍は地球の希少動物を絶滅させ、神造レプリゼンタを増やす計画を目論んでいるようです。地球に到達して生態系への大規模破壊を行う前に撃破しなければなりません」
 頷いて意気込む番犬たち。しかし小夜は、問題はまだあると言う。
「ここで更に、マスター・ビースト残党軍を降伏させて傘下に加えようとする勢力が絡んで来ることがわかりました。大阪のユグドラシル勢力です」
 動いたのは『レプリゼンタ・ロキ』、そして『ジュモー・エレクトリシアン』。二人は手勢を率い、ジュモーの保持するグランドロンで宇宙に向かうという。
「ロキは真のレプリゼンタたる己が強大な軍事力で威圧すれば、神造レプリゼンタたちを従えられると見ています。ジュモーは恐らく残党勢力の確保しているグランドロンとその技術辺りを見返りに手を組んでいるのでしょう」
 なるほど。珍しい組み合わせだが、利害が一致したわけだ。
「事実、マスター・ビースト残党は首魁を喪って士気が低下しております。戦力差が大きければ抗戦を諦め、ロキに降伏してその傘下に収まると予知されました」
 敵戦力の統合を看過はできない。
 だが『暗夜の宝石』攻略戦後、ヘリオン宇宙装備は調整の為にNASAに運び込まれており、動かせる数には限りがある。『磨羯宮ブレイザブリク』の利用も、今回は無理だ。
「つまり即時動員出来る少数精鋭で、敵の作戦を阻止しなければならないのですが……戦力が限られる関係上、残党軍がユグドラシル傘下に加わってしまえば、勝ち目はありません」
 そこで今回は作戦を三段階に分けて、二勢力の統合を阻止することになる。
「まず二勢力が合流する前にジュモーのグランドロンに先制攻撃を仕掛けます。迎撃に出てくる敵部隊を壊滅させることで、残党軍とユグドラシル間の戦力差を縮めるのです」
 なるほど。マスター・ビースト残党は、実力差があればロキに従う。逆に言えば。
「そう。彼らは勝ち目があるなら抗います。これは、残党どもとユグドラシル側を争わせるための策略です」
 更に次陣として両勢力に軍使を送り込むという。状況をこちらに有利なように混乱させ、三つ巴の乱戦状態を作り出すためだ。
 そして最後にこちらの主力が三つ巴になった戦場に雪崩れ込み、状況に応じて弱った敵勢を討つ。混乱に紛れ、妖精八種族グランドロンにも接触出来るかもしれない。
 それが今回の作戦の全貌だ。
「尤も、皆さんの役割は単純明快。先制攻撃でユグドラシル側の戦力を削ぐ先陣です。皆さんが敵勢を削りきれなければ、残党軍はユグドラシル側に併呑され、その後の小細工は通用しなくなります。責任重大ですよ」
 そう言って、小夜は頷く。

●機天使の帰還
「今回の戦場は宇宙となります。先制攻撃班はそれぞれ、宇宙型ヘリオンでジュモーのグランドロンに接近。敵方が迎撃部隊を出した段階で出撃し、迎え撃ってください。皆さんが出撃するのに合わせて私は戦場より離脱し、戦闘後に合流して撤退いたします」
 その後の作戦は、後続の部隊次第。この班の役目は、全力で敵を殲滅するのみだ。
「皆さんが激突する敵部隊とそのリーダーはこちらです」
 そう言って、小夜はかつて怒濤のダモクレス軍団と呼ばれた軍勢との闘いを映し出した。クローズアップされるのは、戦場を舞う機械天使の群れだ。
「再びこの名を口にするとは思いませんでしたが。マザー・アイリスの遺した次世代量産機群の一角、識別コード『トランペッター・メイデン』シリーズです」
 かつてミッション地域での伏撃やドレッドノートの闘いにおいて、複数機種をシリーズ展開して番犬の前に立ちはだかった量産機。マザー・アイリスが倒れたことで、生産は停止したはずだが。
「ええ。しかしこのシリーズの戦術構想は、ジュモーが引き継いでいたようです。生産済みの機体パーツと戦闘データを元に、更なる調整を加えて完成度を高めてきました」
 映像が、切り替わる。トランペットを持った少女の姿から、武装した機械天使へ。
「こちらが少女型を率いる精鋭指揮官機として調整された『チャリオット・メイデン』です。敵部隊は、このチャリオット率いるトランペッターの群れとなります」
 精鋭型が無数の少女型を従える機天使部隊。恐らくこの運用こそ、トランペッターシリーズの完成形だ。
「試験的に単独で大量投入されていた前回とは質が違います。侮らず、全力で殲滅してください」
 小夜はそう念を押して、ブリーフィングを締めくくる。

「皆さんの闘いが、後の作戦全体を左右します。失敗すれば両勢力は合流し、以降の作戦は継続不可能。全軍撤退を余儀なくされるでしょう。その力を以って、希望を引き継いでください」
 小夜はそう言って、出撃準備を願うのだった。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)

■リプレイ


 無限の闇を進む四機のヘリオン。
 東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)のマカロンが、球状要塞の輝きを認めて主に向けて吠える。
「見えたよっ。また宇宙での戦いだけど、今までの闘いの経験を活かしてがんばろうっ」
「ええ。まずは機先を制す……ですネ。続く仲間の為、ひと踏ん張りしまショウ」
 優しく頷いたのは、エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)。
「しかし今回、基本、地面のない闘いだよな? 飛んでっちまったらどーなるんだ、コレ?」
 ぽつりと不安を漏らしたのは、ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)だ。
「頭上も足元も満天の星空……その只中に居ても、星に手は届かない……そのはずだ」
 それは、胸の内にざわめく想いを切り離していた、ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)の独り言。だが偶然にも、疑問への答えになっていた。
「つまり永遠に闇を漂う……あまり考えたくはありませんね。さあ皆さん、これを」
 レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)が、簡易推進器を身に纏う。最低限の宇宙戦装備は、ヘリオン宇宙兵装の一環だ。自前のスラスターを用意してきた面々は、それに更に装備を重ねて。
 その時、サイレンと共に警告灯が点った。
「時間ダ。皆、決してはぐれルな。ワタシ達で必ず道ヲ拓き、そして……」
 キリノにスラスターを渡しながら、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)が振り返る。にやりと笑って、己の胸を指したのは、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)。
「ああ。皆で一緒に帰るんだ。大丈夫だぜ。俺はもう、離れねえ」
 二人は目の端に微笑を湛えて、頷いた。
 カーゴ内の空気が轟音と共に吸い出され、ハッチがゆっくりと開き始める。僅かに残った空気は一瞬で煌いた霜となり、虚空へ散る。
 音の無い世界でヘリオンが旋回すると、敵要塞は眼前にあった。蜂のように湧き出る無数の煌きが、敵の迎撃部隊だ。四手に別れ、各ヘリオンへと向かって来る。
 そして伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)が、出撃のハンドサインを送る。
「なかよしはもちろん、もう誰もはなればなれに、しない……さあ。いく、よー」
 八人の番犬たちは、編隊を組んで迫る無数の機天使へ向けて、地を蹴った。
 無音の虚空の中で火砲を構え合い、その射程が重なる。
 瞬間、グラビティの衝撃と閃光が互いを包み込んだ。
 宇宙のグランドロン決戦は、こうしてその火蓋を切った。


 遠方より閃光が瞬いた瞬間、レフィナードと苺は、躰を回転させるように隊列の前へ出た。大盾グレーターウォールが前面に展開し、爆熱と氷結の衝撃が二人を叩く。
「軽いっ。この程度、バンバン弾くよー! ……って、戦争並みに多いんだけど!」
「……敵の総数は二十ほど。この数は中々、護り手に厳しい戦場ですね……!」
 トランペットの音色は冷熱の衝撃と化して、前面の二人ごと布陣を呑み込む。だがその中、癒しの光が超新星の如く輝いて。
「ややこしいことは何もない。目の前に並ぶ玩具をガラクタにすればいいだけだ……確かにちょっと、多いけどね」
 ノチユのメタリックバーストが、前衛の傷を塞ぎながら敵勢を浮かび上がらせる。
 それを睨み、眸の放った無数の熱弾が冷熱のガスをぶち抜いた。
「予想以上の敵数ダ。厄介な配置の敵機を優先撃破しタ後、指揮官機を落とすぞ」
 爆発に打たれて回避飛行を始める敵群。だが外れた熱弾の破片を操り、キリノが敵を打ち据える。姿勢を崩した機天使に向け、蒼い炎が闇に幾何学模様を描きながら迫って。
「俺はやっぱ、壊すしか能がねえけどよ。量産型同士だからこそ全力だ。てめえらには壊されねえ」
 それは、広喜の炸ケ詠。相棒に合わせて乱れ飛び、爆発の衝撃に敵機は火柱を引きながら散開する。
「宇宙でダモクレスと戦う事になるとハ……不思議ですネ。かつての同胞達……申し訳ありませんガ、俺は闘いマス」
 前衛が散ったその隙に、エトヴァは大盾で敵の攻撃を次々弾く二人に向け、星辰の加護を星空へ描いた。
「ありがとーっ。まだまだ頑張るよっ。マカロン、行こう」
「助かります。主攻を支援し、数を減らしましょう」
 そして彼らもそれに続いて、加護の網を広げて行く。
 視線を合わせ、頷き合う番犬たち。無線妨害と真空の中、互いの声が届いているわけではないが、身振りや唇の動き、ハンドサインから意志疎通は出来ている。
(「そのなかで、ぼくが、気をつける、べきはー……」)
 激しい乱射戦の中、勇名のジト目がその機影を捉えた。瞬間的に動いた指先が、後方を舞う一群をロックオンする。
「後衛、すないぱーにちゃりちゃり、はっけん。ろっくおん完了。んうー……どかーん!」
 迸る、無数の閃光。同時に、敵後衛からも銀光が走り、こちらを斬り裂いた。
『構うな。迎撃包囲陣形を取れ』
 チャリオットメイデンはレーザーを盾で弾き、即座に姿勢を立て直す。指揮機の名に違わず、その実力は頭一つ抜けている。
『敵性個体は八体。解放固定グラビティが二体。敵は半数以下だ。殲滅せよ』
 その指揮が、重力波となって虚空に響く。トランぺッターたちが次々に炎熱と氷結のファンファーレを吹き上げながら、番犬たちを包囲するように球を描く。
 だが。
「ソイツが終末のラッパってヤツかい? 一つ言っておく。終わるのはテメエらだ! 覚悟しな!」
 飛び出したランドルフの蹴りが、一体の機天使の首を捥ぎ飛ばした。紫電を散らして爆散する機体を弾き、番犬たちは背を合わせる。
 敵は、圧倒的多数。だがこの後に希望を繋ぐために、必ずこの包囲を打ち破る。
 その決意が、恒星の如く燃え上がる。


 球を描くように飛びながら、虚空に無数の衝撃を走らせる機天使たち。
 だが、番犬たちが渾身の火力を解き放つ度、敵は一機、また一機と爆散する。
「幾ばくか減りましたが……敵の半数は前衛です。大半を盾役にし、主攻は狙撃手という布陣でしょう……!」
 敵は無能ではない。こちらとの実力差をよく理解し、量産機を活かして来ている。レフィナードはそう分析しながら氷結を弾き、殺戮の気炎を解き放つ。
 それを身に受け、ノチユはくるりと身を舞わせて両手に焔を灯した。
「レプリゼンタもユグドラシルも、いのちを弄ぶつもりなんだろ。それが許せないから、此処に居るんだ。悼む焔で、全て燃えろ」
 爆ぜた炎は白く輝き、同型を庇いに出た天使たちを焼いていく。その炎は星の如き輝きとなって、数体の天使が爆散する。
「宇宙でも消えない火。熱弾誘導には、いい目印だ。この闇の中でも……ああ。聞こえてるぜ。みんなの声が」
 更に弾け飛ぶのは、広喜の小熱弾。無数の爆発が次々に前衛の天使たちの機体を四散させていく。
「広喜に合わせルぞ、キリノ。これで敵の盾を掃ウ。次に狙うべきは、奥の指揮官機ダ」
 辛うじて身をかわした天使たちも、その隣から飛び込んだ眸が見逃さない。
 キリノがデブリを弾丸に敵を押さえ、眸の手刀が撥ねる。その一撃が天使の胴体を貫き、割れ広がる傷口は敵を砕き散らした。
「ええ。全てを正面から相手していてハ、持ちませン……俺ハ、必ずこの星ト、人々を守りマス。仲間たちと共に」
 エトヴァは力を漲らせ、苺の背を押す。その身に絡みついていた炎と氷が、その気迫に消し飛んで。
「うんっ。ボスを倒せば、きっと指揮が乱れるはず……さあ前に、出るよっ」
 押し返そうと降り注ぐ火焔を薙ぎ払う中、その背に向けて銀槍が閃いた。咄嗟に飛び出したマカロンの身を、貫通して。
「マカロンっ……!」
 砕け散るようにその姿が消える。愛竜の稼いだ一瞬で、苺は癒しの花を散らす。
『解放固定グラビティ反応、沈黙。包囲攻撃を継続せよ』
「チッ! コッチの傷も増え始めたな……! そろそろ出番だぜシルヴァリオン! 耳障りな音色ごとブチ砕けッ!」
 ランドルフの拳が、割り込んできた機天使を爆裂させた。しかし、虚空へ消える敵の破片に紛れるように指揮官機は後方へ跳び、射程から逃れる。
 が、その時。
『……!』
 雨の如く降り注いだ槍が戦天使の装甲を斬り裂いた。火花を散らし、戦天使は舌を打つように盾で身を守る。
「ラッパが、へってきた……もう、とどく、ね。ちゃりちゃり。相手は、ぼくだよ」
 戦天使と睨み合うのは、槍を周囲に展開した、勇名。
 瞬間的にブーストし、両者の槍が馳せ合って。
 敵は次々落ちるが、高温と低温の火傷はじわじわと身を蝕みつつある。
 先に擦り切れるのは、どちらの布陣か。
 星空の根競べは、佳境へ突入する……。


 機天使たちは、半数を切った。
 戦天使は降り注ぐ音色に紛れて番犬たちの布陣を幾度も裂き、対する番犬たちの火砲は護衛を巻き込んで戦天使の装甲を削る。
 一進一退を繰り返す、天翔けるいくさ場で。
『一斉攻撃、開始』
 戦天使は残りの手勢に号令をかけ、翼をブーストさせる。
「一気に勝負を決める気ですか。狙いは……私ですね。受けて立ちます」
 反射するように跳ねながら迫る、戦天使。すでに、穴と歪みだらけの盾を背に掃い、レフィナードはその手に地獄を燃え立たせる。
「下がって……! 私が行くよっ」
 苺が叫ぶも、彼は振り返って首を振った。護り手は互いに血と火傷に塗れ、身を奮い立たせるのもやっと。彼は最後の瞬間まで仲間を庇うべく、戦天使に突貫する。
『目標、損傷中。撃破し、突破する。続け……!』
「後に続く仲間の為にも。地球にいる友の為にも。ここから先、通しはしません……!」
 それは誰への言葉だったか。レフィナードの拳が、炎を吹いて激突する。渾身の打撃が敵の盾をひしゃげさせるものの、返した槍がその肩口を貫いていた。
 血飛沫が真空へ舞い、遂に護り手の一翼は陥落する。
 だが。
「やったなぁーっ! これ以上は、させないんだからー!」
 彼が止めた突撃の脇から、苺が蹴り込む。流れ星の如き一閃は、身を退こうとした戦天使の盾を砕いて、その身を真空に回転させた。
『装甲被弾。救援せよ……!』
 機天使たちが、指揮官を守るべく一斉に前へ出る。しかしその眼前にはすでに、小さな熱弾が白銀の尾を引いて飛び出して。
「仲間のこじ開けた隙を見逃すほド、番犬は甘くありまセン。マナ、ヒロキ。行きマスよ、一斉攻撃デス」
 それはエトヴァ。癒し手に徹し、警戒の薄かった彼は、それを利用して布陣の背後に回り熱弾を解き放ったのだ。至近で小爆発を起こされ、敵の足並みが一気に乱れる。
 指揮官機に向かう眸と広喜の射線に、ただ一機となった前衛が割り込もうとするも。
「させねえよ。創造主(オヤ)の因果が子に報い、ってな。安心しろ。心なき機械(テメエラ)は地獄にすら行けやしねえ……詠え優曇華! 歪んだ忠義に、引導をッ!」
 刹那の斬撃が、闇に舞う。回転を止めたのはランドルフの背後で、機天使の機体が無数に断たれ、爆散する。
「今だぜ! 突っ込めぇ!」
「任せロ。すでに捉えタ。苺とレフィナードが、我々を庇イ続けた意味を……番犬の執念を知ルがいい」
「ああ。俺たちは地球に帰る。絶対に誰も置いていかねえ。あの星を護る気持ちは、皆同じだぜ……!」
 眸の胸元が煌いて、広喜の手から特殊警棒が伸びあがる。笑みを交わした二人の放つ、二本の直線。
 それは身を捻った戦天使の胴体を貫通し、その肢体を両断する。
『ッ……! ダメージコントロール臨界点……! 増援を要請する。残存機体は、本機の撤退を援護せよ』
(「何……っ! 上体だけで!」)
 戦天使は爆発する下半身を捨て、翼を翻した。
 敵は一時撤退し、後続と合流して戦力を再編成するつもりだ。その証拠に、すでにその要請に従い、後方の敵要塞から、第二陣が出撃を始めていた。
 番犬たちが後を追うも、僅かに残った機天使たちが組み付いてそれを阻む。
「くっ……!」
 だが戦天使がブーストを掛ける瞬間、弾丸の嵐がその翼を斬り裂いた。
『主翼、出力低下……!』
「悪いね。続く人達が後ろで待ってる。僕はただ、道を拓く役目を、果たすだけ……爆ぜる弾雨で、ね」
 敵群の隙間を滑り込んだのは、ノチユの弾丸。慌てるように戦天使が、槍を輝かせた時。その後頭部を、とん、と、指が小突いた。
『!?』
「うごくなー……ん、やっぱり、うごいても、いいかな。ここなら、はずさないし、ね」
 一瞬の、間。そして勇名は一言、呟く。
「ずどん」
 槍を振りかぶった戦天使の背を、一発の熱弾が貫いた。
 意識を引き千切られる電子の悲鳴が虚空にこだまし、カラフルな爆炎がその機体を呑み込んで、宇宙の塵へと還元する。
『……データリンク途絶。別動隊に合流し、リンク再構築を開始』
 瞬間、組み付いてきていた機天使たちが、一斉に離れた。
「あ、にげた」
「よしっ。追撃する間も、増援が来る前にヒールしてる暇もないね。こっちも、全速撤退だよっ」
 苺が合図を送る。エトヴァがレフィナードに手を貸し、番犬たちは一斉に身を翻した。
 ……闘いは、終わったのだ。


 残存戦力を迎え入れて迫る第二陣を突き放し、番犬たちはヘリオンへ滑り込む。
 全速で離脱していく中、カーゴ内には蒸気のように空気が噴き出した。
 肺を満たす甘い気体を、ランドルフが深く吸い込んで。
「……っ、はあー! 無事帰るまでが任務ってね……全く、当分宇宙は懲り懲りだぜ。ちゃんと全員いるか?」
「ふう……大丈夫デス。八人全員、帰還しましタ。ヒールをしますカラ、動かないでくださいネ」
 穏やかに頷いたのは、エトヴァ。その気力を分け与えられつつ、レフィナードが笑って親指を立てる。
「少々喰らいましたが……傷は深くはありません。指揮官の撃破をお任せしてしまいましたね。追ってきた敵は……?」
「大丈夫。なんとか振り切ったみたいだ。一斉に引き上げて行く。戦果は、どうだろう。少し取り逃がしたけど、十分だったかな」
 ノチユが、窓から振り返る。
「あの数は、盾役にはきつかったよな。ありがたかったぜ。おかげで……あー……俺たち、何機やっつけたんだ?」
「……ちゃりちゃりは1機。らっぱは……だいたい……たくさん。えと……じゅう……いち、に、さん……」
 指折り数えて混乱する広喜と勇名。眸は、二人に微笑みかけて。
「最初は20機いた。最後に逃げたのは4機ダった……指揮官機含め、16機を落としタことになルな」
「つまり、四分の三以上。敵は後退して再編成したわけだし、十分に敵を全滅させたと言っていい戦果だよっ」
 苺がそう結んだ時。
 彼らの上下を、別のヘリオンが交差するように掠め飛んでいった。
「作戦継続か……」
 それは敵要塞へ向かう、後続の仲間たち。
 希望は、繋がったのだ。

 こうして、宇宙での前哨戦は幕を閉じる。
 番犬たちが神造レプリゼンタの滅びと、彼らの擁したグランドロンの確保を、耳にするのは、もう少し後の話であった……。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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