やったな! 待望のパンケーキメーカーがダモったぞ!

作者:星垣えん

●ぱんけーき
 どこまでも見通せるようなのどかな草原。
 そよそよと風が吹きゆくと、細い草たちが擦れて小さな歌を奏でる。
 そこに、奴はいた。
「パンケェェェーーーキ!!」
 魂の咆哮をあげながら駆け回る、ピンク色の巨大物体。
 横長の楕円形ボディに脚を生やしたそれは――台詞からわかるとおりパンケーキメーカーである。生地を中の型に流しこんで蓋する家庭用のアレである。
 料理下手な人でも綺麗にパンケーキを焼ける優れものグッズは、およそ流通販売できなさそうな姿となって秋の草原をあてどなくダッシュしていた。
 ええ、もちろんダモクレスさんが入りこんでいます。
 例によって超小型ダモクレスが、捨てられていたパンケーキメーカーをでうすえくすぱわーで大復活させてしまったのだった。サイズアップした甲斐あって一度にパンケーキの10枚や20枚は余裕だろう。
「パンケェェェーーーキ!!」
 その身に宿した有り余るエネルギーを発散するかのように、相も変わらず原っぱを走り回るパンケーキメーカーさんもといダモさん。
 が、重大な問題がひとつあった。
「パンケェキィ……」
 急に元気をなくし、へなへなとその場に崩れるダモさん。
 何を隠そう!
 生地が、なかった!

●丸くてふわふわのアレを食べに行こう
「みんな、パンケーキだよ」
 ダモクレスが現れた――という報に急いでやってきた猟犬たちを待っていたのは、何かもう喜びが滲み出た笑顔を浮かべるマヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)だった。
「ようやくパンケーキメーカーにダモクレスがくっついたの。だからね、みんなで倒しに……じゃなかった。食べに行こう?」
「マヒナ、何も間違ってませんよ。訂正する必要はありませんよ」
 ホットケーキミックスの袋を抱いてヘリオンを指差すマヒナに、そのヘリオンの主であるところのイマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は冷静にツッコんだ。
 そのやりとりを見ただけで、猟犬たちは理解した。
 どうやら今日はパンケーキを食べる仕事のようですね!
「ダモクレスは今は静かにしていますが、いつ悪さをするかわかりません。草原に留まっている今のうちに皆さんの手でこれを破壊してきて下さい」
 マヒナをどうにかするのを諦めたイマジネイターが、申し訳程度に猟犬たちへ真面目な説明をしてくれた。
 だが、あまりそれは猟犬たちの頭には入ってこなかった。
「パンケーキパーティー……何を持っていこう? ホイップクリームやバニラアイスはいるよね。あとはシロップ類とか粉砂糖とか……」
 イマジネイターの後ろのほうで、マヒナが大きな袋をがさごそやっていたからである。
 覗いてみれば中身はパンケーキのトッピングに使うものばかり。
 明らかに、パンケーキで楽しい時間を過ごす気満々だった。
 マヒナが準備に没頭していることに気づいたイマジネイターは、どうすべきか少し逡巡したが、やがて諦めた面持ちでホットケーキミックスを手に取る。
「ダモクレスは1度に何十枚とふわふわパンケーキを焼くことができますが……肝心の生地がないので意気消沈している状態です。ですから皆さんで生地を作り、内部に流しこんでやって下さい」
 そう言うなり、大量の粉袋と卵と牛乳とをヘリオンに積みこむイマジネイター。
 ヘリオライダーからのお墨付きをゲットしたぞ!
 猟犬たちは拳を天に突き上げた!!
「さ、みんなもぼーっとしてないで、荷物をヘリオンに搬入して! 急がないとパンケーキメーカーがどこかに行っちゃうかも!」
 せっせとトッピング類を運ぶマヒナに言われるまま、猟犬たちは全力で物資の搬入作業を行った。総動員、フル稼働。
 ふわっふわパンケーキが僕たち私たちを待っている――。
 そう知ってはね、皆も張りきるしかなかったんですよ。


参加者
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
リィナ・アイリス(もふきゅばす・e28939)
東堂・アナスタシア(キティアサルト・e34355)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)
クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)
那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)
ブレア・ルナメール(魔術師見習い・e67443)

■リプレイ

●待ってたぜ、このときを
 和やかな自然の中に佇む巨大パンケーキメーカー。
 リィナ・アイリス(もふきゅばす・e28939)は、遠く見えるそれをジーッ。
「……久しぶりの、お仕事、頑張る……頑張るっ!」
 控えめに握り拳を作るリィナ。
 キリッと表情を作ったまま、ゆるふわサキュバスは後ろを振り向く。
 そこには、霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)とブレア・ルナメール(魔術師見習い・e67443)が立っていた。
「……別に、パンケーキに、釣られてきたわけじゃ、ないよ……?」
「わかっていますよ」
「みなまで言わずともです、リィナ様」
 にっこり微笑んで頷く2人。
「ぱんけーきを楽しんでダモクレスを倒す。……おいしい任務、というやつでしょうか」
「いったいどれほどふわふわなのか、気になりますね……」
「……ち、違うの……全然わかってないの……!」
 和希とブレアにわたわた手を振って駆け寄るリィナ。
 ちくしょう、わかられていた。
 しかしわかられるのも無理はない。
 この場にパンケーキ目当てでない者がいるわけがないのだ。
 那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)は鼻の長いアイツのせいで重傷を負った体から、ばさっと包帯を取り払う!
「女の子は糖分で出来ている!! つまり怪我を治すにも糖分が必要!! なんてね♪」
 てへっ、と指で頬をかく摩琴。
 東堂・アナスタシア(キティアサルト・e34355)と遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)は黙って摩琴の肩に手を置き、頷いた。
「わかるわ。パンケーキだもの」
「パンケーキって素敵よね」
 共感していた。
 むしろ共感しかなかった。
「ふわっふわスフレパンケーキ、食べないとね!」
「今日は一杯食べちゃうわよー!」
「うん、食べよ食べよー♪」
 きゃいきゃいはしゃぐ3人。
 総員、覚悟はできている。
 生地の詰まったボウル(ヘリオンの中で拵えた)を胸に抱いて、マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)は手を振った。
「おいでー! こっちに生地あるよー!」
「パンケェキ!?」
 項垂れていたダモさんがびくんと反応。
 クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)は、泡立て器を取り出す。
「いくよ! ワカクサ!」
 主の号令を受けて、折り紙で形作られた小竜――ワカクサが両前脚でボウルを掲げる。
 中身はミックス粉、牛乳、卵、その他!
 そしてそのボウルに泡立て器を突っこみ、前腕をドリル回転させるクロウ!
「ふふふ! これで電動並みの回転だー!」
 ぶぃぃぃん、とスパイラルアームの要領で回る泡立て器。この子も鼻の長いアイツとの壮絶な死闘で重傷を負っているはずなのだが、爛々と生地を混ぜる姿からは元気しか感じられません。
 マヒナは生地の入ったボウルを胸に抱いたまま、じぃんと感じ入る。
「この時をずっと待ってた……! 嬉しすぎてワタシ舞い上がりそう!」
 わくわくと心を浮き立たせるマヒナ。
 というか実際に浮く。翼パタパタさせて天に召されるかのように舞い上がっていった。
 なおその後ちゃんと降りてきたので安心して下さい。

●経過も楽しいもんだ
「ふわっふわ……ふわっふわのパンケーキ!」
「ひとまずメープルシロップとバターをかけよう! 伝統のシンプルな味!」
 ダモさん謹製のふわふわパンケーキを口に入れ、ぱたぱた足踏みするマヒナとクロウ。
「ほら、アロアロも食べていいよ」
「ワカクサの分も取り分けてあげるね」
「「――!」」
 2人の言葉を聞くなり、歓喜して踊り出すアロアロ(シャーマンズゴースト)とワカクサ。
 怯えすぎて常に怯えてるアロアロも今日ばかりは目に見えてウキウキ。ワカクサも口もないのにどうしてかパンケーキを食い、バサバサと飛び回る。
 まさに至福のひと時。
 ――が、皆がそうではない。
「スフレパンケーキの生地は卵白を泡立てて入れるってのは聞いてきたけど、しっかりツノが立つまでって結構疲れるわね……クロウさんが羨ましいわ」
 ボウルでかちゃかちゃ泡立て器を回すアナスタシア。
「確かにあのスピードは人間離れしてるものね」
 買ってきたリコッタチーズを取り出す篠葉。
 そう、仲間たちは生地作りの真っ最中であった。
 その一環として、火にあてたボウルを真剣に見つめるブレア。ボウルの底部には水が敷かれていて、俄かに温まってきているのが目でもわかる。
「……」
「それは……湯煎ですか?」
「ええ。溶かしバターが必要かと思ったので」
 覗きこんできた和希に微笑んで答えると、ブレアはイエロ(テレビウム)に一回り小さなボウルとバターを持ってきてもらう。
 それを熱したボウルに入れ、ヘラでじっくりバターを混ぜれば――。
「砂糖を少し加えて、完成です」
「素晴らしいですね……少し貰っても?」
「……あ、バター……私も、いい、かなぁ……?」
「ええ。霧山様もリィナ様もどうぞ使って下さい。よければ皆様も」
 和希とリィナがおずおず出してきた生地に溶かしバターを投入するブレア。そのまま彼が仲間たちに配りに行く傍ら、和希たちは生地を持って正座待機中のダモさんのところへ。
「ダモさん、これを」
「……形、ウサギさんにしてくれたら、嬉しいのー……」
「ウサケェェキ!」
 生地の気配を感じるや立ち上がるダモさん。
 中の型に生地を流しこんで蓋を閉じる和希。横でわくわくするリィナ。
 そして、5秒。
「パンケェキ」
「す、すごいです!」
「……ウサギさん、なの……!」
 完成するパンケーキは均一な焼き色、注文通りのうさちゃんフォルムも出来上がっていた。
 するとそこへ、続々と仲間たちもやってくる。
「これってタイヤ型にも焼けるかな? こっちの抹茶生地はワカクサの形にお願い!」
「えぇと、ワタシは星の形にしてもらおうかな……?」
「ボクのは幅小さめの分厚いやつでお願い! 5枚ね♪」
「オッケェェェキ!!」
 だだだっと駆けてきたクロウとマヒナ、摩琴の注文も快諾するダモさん。
 そしてやはり所要時間5秒。
「ほらほらワカクサ! 同じ形だよ!」
「星型に焼くのけっこう難しいんだけど、さすがデウスエクスだね」
「よーしトッピングするぞー!」
 寸分の崩れもないパンケーキを持ち、歓喜する3人とワカクサ。特に摩琴はそのパンケーキを持ち帰るなり調理台(アロアロがどっからか持ってきた)でトッピング。
 苺やらベリー類を乗せ、ホイップクリームとチョコソースを盛りこむ。
 それを5枚作って重ねると――。
「パンケーキタワーの完成だー!」
「……パンケーキが、すごい高いの……!」
 満足げに自作のタワーを見上げる摩琴。の後ろで目を輝かせるリィナ。
「ダモクレスにも見せてあげよっと」
「……世の中には、すごい人がいる、の……」
「そうですね。ですが僕らは僕らで、出来る限りのことをするだけです」
 塔を持って走ってく摩琴を見送るリィナに、イイ顔でイイことを言う和希。ホイップクリームと各種ジャムを持っていなければ痺れるほど格好良かった。
「バターとメープルシロップ、そこにホイップとジャムを乗せて……」
「……じゃ、じゃあ私も……果物いっぱい持ってきたの、贅沢コースで、行くのっ!」
 和希に倣うように、うさちゃんパンケーキを飾りはじめるリィナ。バナナやリンゴ、パイナップル等々がこれでもかと乗っかってゆく。
 会心のスフレパンケーキを手にしたアナスタシアは、ふむと思案。
「私はどうしようかしら。バニラアイスと飾りのミントぐらいで、可愛らしく仕上げましょうか。あとホイップクリームね」
「あら、控えめね」
「あんまり乗せると失敗しそうで怖いし……そっちは?」
「私はこんな感じです」
 どどん、とリコッタチーズパンケーキを披露する篠葉。
 その彩りはまさに圧巻。ハニーコームバターとメープルシロップをベースに、上面はキャラメルリボンのバニラアイスとバナナ&イチゴが添えられ、その上から全体にキャラメルナッツが振りまかれている。
「す、すごいわ……ねえ、よかったら写真撮らせてちょうだい?」
「いいわよ。この角度とかどう?」
「最高ね!」
 嬉々として撮影を始めるアナスタシア。
 説明しよう! 彼女は割と『映え』を意識する人だった!

●パーリィ
 真っ白なココナッツミルククリーム。
 それをたっぷりと纏ったパンケーキをナイフでカットし、口に運ぶマヒナ。ココナッツミルクの風味がふわふわで、そこにマカダミアナッツの食感も加わる。
 マヒナは、恍惚としていた。
「サム・オノ!」(とても美味しい)
 ふふふ、と顔を蕩けさせながら二口、三口と食べるマヒナ。
 盛大なパンケーキパーリィに突入した猟犬一同は、控えめに言っても天国にいる気分を味わっていました。
「ふわふわパンケーキにメイプルシロップが染み込んで……溶けたバターと蜂蜜の風味と混ざり合うとか最強すぎるでしょ」
「パンケーキ……どうしてこうもふわっふわなの!」
 それぞれリコッタチーズパンケーキとスフレパンケーキを味わい、震える篠葉とアナスタシア。噛めば消えてしまいそうな口当たりはもはや天使の羽根のよう。
 それほどふわふわだから、和希の手も止まらない。
「美味しい。美味しいですよ」
「……和希くん、止まらない、のー……」
 パンケーキの消えた紙皿を積み上げる和希に、ちょっと圧倒されてしまうリィナ。
 バターやらホイップやらジャム盛り盛りの高カロリーをマラソン選手のような一定ペースで食いつづけてるからね、仕方ないね。
「わ、私も……負けてられない、の……!」
「パンケーキ……ふわふわ……♪」
「……ブレアくん……?」
「あ、いえ」
 ナイフとフォークを握ってキリッ(当人比)としたリィナが、横にいるブレアの変調を感じ取って顔を向ける。だがブレアはリィナの視線を感じた瞬間、綻んでいた顔を引き締めた。
 彼は隠れスイーツ男子。
 目の前のパンケーキに最高にときめいてしまっているなどとは、絶対にバレるわけにはいかないのだ。じゃないと魔術師としてなんかこう、威厳ってものがね?
 だが、この場はブレアにとっては試練なのかもしれない。
「ワカクサはバニラアイスがおすすめなんだ? どれどれ」
(「あ、アイス乗っけ美味しそう……」)
「自分はこう、チョコとマシュマロを乗せて炙るのとかいいと思うな! スモア風!」
(「ああ、マシュマロがとろっと溶けていきます……!」)
 すぐそばで、クロウがワカクサと一緒にトッピングを試しまくっているからである。まるっとアイスが乗るのも良いし、とろりと溶けたチョコとマシュマロも見ているだけでお腹が鳴りそうで、ブレアはついつい目を奪われていた。
 他方、別の意味でピンチを迎える者もいて――。
「全ては一つ、一つは全て……やばっ、何か悟りそうになってた!」
 別で作っていたチョコパンケーキを頬張っていた篠葉が、ハッと我に返る。
 甘く温かなパンケーキにビターなチョコソースが甘さを、チョコアイスが冷たさを添えていて、相反する要素が一体となった奇跡に悟りをひらきかけていたらしい。
「危なかったわ……!」
「うんうん、美味しいもんね……これはいつビルシャナ化してもおかしくないよ!」
 5枚重ねの塔を崩し、はむっとパンケーキを口に放りこんだ摩琴が、頻りに頷く。
 美味いのだ。仕方ないのだ。
 そう思うからこそ、摩琴は皆を見渡して、言った。
「ねえ、どれも美味しそうだからさ……みんなでシェアしない?」
「シェア! いいと思う。皆が作ったのも食べてみたいな」
「自分ももちろん歓迎だよ! ほらほら、このワカクサケーキ食べてみて!」
 ガタッ、と立ち上がるマヒナとクロウ。
「僕も構いませんよ。ジャムも持ってきすぎて余ってますし……アイリスさんも、皆さんのぱんけーき食べてみたいですよね」
「……えっ、あっ、うん……食べたいかって、言われれば、食べてみたいの……」
「よーしそれじゃ交換こだー!」
 和希に促される形でリィナもこくりと頷くと、摩琴はぐっと天に拳を突き上げて、新たなパーリィの開始を宣言した。
 あっちからこっちへ、こっちからあっちへ。
 パンケーキが行き来するさまは、まさにパーリィ。
 そんな中、アナスタシアは思い出したように立ち上がる。
「こんな美味しいパンケーキ、画像を残さなきゃもったいないわ……さっき篠葉さんの分は撮らせてもらったんだけど、よかったら皆の分も撮っていいかしら?」
「あっ、ボクもみんなのパンケーキ撮りたいな~!」
「ワタシは、撮ってもいいよ?」
「私も、それほど凝ってはいませんが……よかったら」
 スマホを構えるアナスタシアと摩琴に、ぐいっとパンケーキの皿を押しだすマヒナ、ブレア。
 皆も快諾してくれた結果、2人のSNSはだいぶ映えることになりました。

●さらば
 ぺたっ。
 マヒナはダモさんのピンクボディにそっと手をあてた。
「イイ子だからレプリカントにならない?」
「パンケェキ?」
 勧誘していた。
 こんなダモさんを倒すのは惜しい……という一心で、猟犬たちはどうにかダモさんをレプリカントにできねえもんかと頑張っていた。
「こっちに来ればパンケーキ焼き放題だよ、どう?」
「破壊と収奪に明け暮れるよりも、美味しいぱんけーきで多くの人を幸せな気持ちに……あなたにはそんな存在になってほしいのです……!
 笑いかけるマヒナとともに、迫真の説得を試みる和希。
 その顔はガチだ。おそらくレプリカントになったらパンケーキメーカーとしてのスペックも落ちそうな気がするが、そんなことは関係ねえとばかりにガチだ。
 その後ろで、篠葉とリィナはひそひそと声を交わす。
「このダモクレス、パンケーキ屋に就職した方が幸せなんじゃない?」
「お店屋さんで、雇ってもらえば……パンケーキ、たくさん作れる、の……」
「パンケェキ?」
 なに、と言わんばかりにぴくっとするダモさん。
 パンケーキを焼ける。その事実に少し、心が傾いているのだろうか。
 今が好機かもしれない。
 アナスタシア、クロウ、摩琴はぐいっと迫って畳みかけた。
「これだけ人の心を動かしておいてそっちは心がないなんて、何かずるいじゃない」
「こんなに人を幸せにできる子がダモクレスで終わっちゃうなんてもったいないよ!」
「キミを必要とする人が大勢いるんだ! みんなに美味しいパンケーキを作って上げてくれないかな?」
「パ、パンケェキ……!」
 3人の熱意、というか圧にたじろぐダモさん。
 これはいける――猟犬たちは確かにそのとき、そう思った。

 しかし結果はダメだった。
 ダモさんはいくら訴えても「パンケェキ」と言うだけで、一向にレプリカント化の兆しはなかった。倒すしかなかった。
 大破したダモさん。
 その部品の前で、ブレアは手を合わせて頭を下げた。
「ごちそうさまでした」
 一言、美味しいパンケーキの感謝を添えて。

 そうして、猟犬たちは一抹の寂しさを抱きながら、帰路につくのだった。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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