城ヶ島制圧戦~古きを識る者

作者:雨乃香

 城ケ島強行調査により持ち帰られた情報により、ケルベロス達はは次なる作戦に向け動き出していた。
 ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)の前にも今回の作戦の結果を受けて数人のケルベロス達が集められていた。
「皆さんお集まりいただいてありがとうございます。城ケ島の強行調査により城ケ島内に固定化された魔空回廊が存在することが発覚しました。これを利用すればドラゴン達が使用するゲートの位置を特定することができるでしょう」
 ニアは早口になる説明を一度止め、その胸に手を当て一つ深呼吸をすると再び口を開きゆっくりと言葉を並べていく。
「ゲートの位置さえ判明すればその周辺地域の調査を行った上でケルベロス・ウォーを発動しゲートの破壊を試みることも可能でしょう。そうなればドラゴン勢力は新たな増援を行うことができなくなります。
 デウスエクスの脅威の内の一つを無力化できるかもしれない、言うまでもなくこれはとても重要なことです。
 この城ケ島の制圧作戦で魔空回廊を確保できるかどうかは今後のケルベロス、いえ、世界に多大な影響のある作戦といえます」
 抑揚を抑え、ゆっくりと喋ることを意識しても、ニアの興奮と緊張はその表情から見て取れる。この場にいるだれもがそれは同じ気持ちであろう。
「この魔空回廊はドラゴン達にとっても重要な移動の要ですから破壊するのは最後の手段と考えているようです。その甘い考えにつけこんで電撃作戦で魔空回廊を奪取し制圧することは十分可能でしょう、そのために皆さんの力を貸してほしいのです」
 深く頭を下げたニアは顔をあげると、真剣な面持ちで作戦の全容を話しはじめる。
「今作戦では他のケルベロスさんたちが築いてくれた橋前の前線基地からドラゴンが根城とする城ケ島公園へ向けて進軍することとなります」
 口で説明しながら二アはケルベロス達の端末へと行軍予定のルートを提示する。ヘリオライダーの予知によって割り出されたルートのため、くれぐれもこの道を外れることの無いようにとねんを押してから彼女は続ける。
「魔空回廊を奪取し制圧するためには当然ですが敵勢力を排除する必要があります。つまり、ドラゴンとの戦闘は避けられません。撤退では魔空回廊を破壊される可能性があります、迅速かつ確実にドラゴンを殲滅してください。強敵故難しいかもしれませんがこれは皆さんにしかできない事です」
 ケルベロス達に視線を向けると彼らは小さく頷き、ニアもまた信頼の眼差しを向けて頷き返す。
「皆さんの相手となるドラゴンは過去に沢山の強敵と仕合い、勝ちづづけて力を得てきたドラゴンのようですね。表皮には古い傷をいくつも残し、背には歴戦の中突き刺さったままの武器がいくつも残されています。
 強者との戦いを好み、認めた者に対しては全身全霊を持ってぶつかってきます。そのため、選別とでもいいますか、必ず初撃にその力を試すように炎の吐息による攻撃を仕掛けてきます。強烈な攻撃ですがこれに耐えられなければ勝つことは難しいでしょう。その後は絶対の自信をもつ自らの爪と尾による攻撃を織り交ぜ全力で攻撃を仕掛けてきます。どちらも過去糧としてきた戦士たちの力で磨かれた強烈な一撃です、まともに受けることはできないと思ってください。
 相手は知恵も回る古竜です、脆い部分、要となる部分、それらを狙って攻撃してくることも考えれれます、対策は万全にしておきましょう」
 話すべきことを話し終えると彼女は背筋を伸ばし、額に手を当て敬礼する。
「ニアからお伝えできることはこれが全てです。ニアに他にできることはありません、この作戦の結果は全て皆さんの力にかかっています。どうか、ご武運を」


参加者
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)
リンネ・マッキリー(瞬華終刀・e06436)
幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515)
安岐・孝太郎(仮想理力炉・e09320)
玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)
イリア・アプルプシオ(機械仕掛けの旋律・e11990)
ルア・シルファリア(レプリカントの鎧装騎兵・e12220)
大原・大地(元守兵のチビデブドラゴニアン・e12427)

■リプレイ


 ドラゴンにより占拠された城ケ島に存在するという魔空回廊。ドラゴンの保有するゲートへと続くそれを確保するため、ケルベロス達は城ケ島の奪還作戦を行うこととなった。
 敵の戦力を削るため、殲滅戦を仕掛けるべくいくつかの班が島の各地へと赴き、竜の各個撃破を命じられていた。
 そのうちの一班はヘリオライダーの予知した通りの道を辿り、予知の通りそれと遭遇した。
 赤茶けた肌のは錆びた鉄を思わせる色、細い体躯の背中には一対の羽。首の付け根から尾にかけての広い背中にはいくつもの武器が朽ちることなく突き立ち、彼の戦いの歴史を物語っていた。
 その古き竜はケルベロス達の存在に気付くと気だるげに首を持ち上げ、視線をケルベロス達へと向ける。
「我が前に立つその勇は見上げたものだ小さき者達よ」
 しゃがれた声はしかし、力強く、聞く者の体を震わせる迫力がある。
「よぉ、真っ向勝負の古竜さん。喧嘩売りに来たぜ。今日は一時、仲良くやろうや?」
 挨拶代わりに軽口を叩くのは幌々町・九助(御襤褸鴉の薬箱・e08515)。
 己を鼓舞し、余計な気持ちを払わねば勝てぬ相手、それはこの場にいるケルベロス達誰もが知っていることだ。その隣では、安岐・孝太郎(仮想理力炉・e09320)が、一人言葉を連ね、精神を集中させている。
「その傷、一体どれだけの人数とやり合って来たの? もし、私たちが勝ったらその人たちよりも強いってことだね?」
 リンネ・マッキリー(瞬華終刀・e06436)もまた、軽快な口調で竜へと話しかける。
「強さとは数で測れるものではない。小さき者達よ、貴様ら一人一人では我には遠く及ばぬことは理解しておろう。強さとは他と比べねば測れぬものだが、それが全てでもない。ただ、強くありたければ負けぬことだ。強者とは負けぬ者の事だ」
「それが、長年戦場で生き続けてきたあなたの強さ、なのですか」
 大原・大地(元守兵のチビデブドラゴニアン・e12427)の問いに、竜は瞼を閉じ、頷きの代わりにその答えを返し、再び瞳を開くと、力強く立ち上がり、翼を広げる。
「我らの間にあるのもそれだけであろう。なればこれ以上時を重ねるのも無為。まずはこの一撃耐えて見せよ」
 周囲の木々がざわめき、砂埃が舞う。周囲の空気を取り込む、それだけの行動で、地が震える。
「来るぞ……!」
 コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)が仲間達に声を駆けながらドラゴンへと向けて走り、自らへと攻撃を誘導しようとする。
 それに合わせてイリア・アプルプシオ(機械仕掛けの旋律・e11990)と九助の二人が詠唱を開始。
 イリアが地に描いた守護星座が光り輝き、仲間達を包み込み仲間達に守りの加護を与え、同時に九助の展開した黒い鎖がその守護星座に絡むように地を走り、さらなる複雑な魔方陣を描き上げ、二重の加護を与えるフィールドを形成する。
 取り入れた空気が竜の口内で熱をおび、周囲の景色が陽炎に揺らぎ、燃え盛る息がケルベロス達へと向けて放たれた。
 その威力を少しでも殺そうと、玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)は炎を吐き出すその口内へ魔法による爆発を放つが、竜は怯むことなく炎を吐き続ける。
 大地はなんとかその炎を遮ろうと盾を構えるが、燃え盛る炎を、防ぎきることはかなわない。
 事前にはられていた守護の力もあり、なんとか炎を凌ぎ切ったケルベロス達であったが、前衛の受けたダメージは相当なものだ。
「我、神魂気魄の閃撃を以って獣心を断つ――」
 そんな体の状態なと知らぬとばかりにコロッサスは剣を抜き放つ。黒煙の中から出でるその紅き鎧、その様は彼が抜くその剣と同じく夜明けを思わせる。
 その一撃がドラゴンの首元に確かな傷を負わせ、その後ろから飛び込んできた大地の体重を乗せた強烈な飛び蹴りが、ドラゴンの体を一歩退かせる。
 それに満足したようにドラゴンは虚空へ吠え、口を開く。
「よくぞ抗った小さき者よ、その力仕合うに足りる」
 満足そうな竜に対し、ルア・シルファリア(レプリカントの鎧装騎兵・e12220)は一歩進み出て、問いを投げかける。
「強き者よ仕合う前に、その名を聞いてもよろしいでしょうか」
 ルアの問いに竜は一瞬だけ動きを止めてから、名乗りをあげる。
「我が名はクローブ。手向けに受け取るがよい」
 その返答にルアは一つ頭を下げると武器を構える。竜がその名を問い返すことはない、小さき者、そう呼ぶように彼にとっては一人一人は取るに足らないもの、そう判断されているのだろう。
 だからこそ、ルアはその名を聞き返されるようにと強き思いを込めてトリガーを引く。


 ルアとリンネ、九助のビハインドである八重子も加わり一斉に竜の頭部をめがけて攻撃を放つが、その攻撃は厚い表皮に弾かれ、ダメージを与えるまでには至らない。気にした様子もない竜は手近にいたユウマをめがけて自慢の爪を薙ぐ。
 回避など意味を成さないその攻撃範囲にユウマはとっさに鉄塊剣を盾に攻撃を受け止めるが、竜はそれを気にした様子もなく、ただ腕を振りぬくだけ。
 ユウマは受けきることが困難だと判断下すと、そのまま体を浮かし、自ら吹き飛ばされる事でなんとかダメージを殺す。
「Agnus Dei, qui tollis peccata mundi, miserere nobis.」
 イリアの詠唱とともにすぐさまユウマの傷が取り去られ、入れ替わるように孝太郎が地を蹴り一歩前へ進み出る。
「言葉遊びはもういいのか?」
「あぁ、十分だ」
 九助に軽口を背に受けながら、孝太郎が竜の死角へと潜り込み、その腹へ向けて下から突き上げるような蹴りを放つ。重力の力を宿したその一撃が、体格の差を超え、一瞬だけ竜をたじろかせる。
「前回しくったからって、思いつめんなよ? 可愛げ無え顔してんぞ」
 九助は孝太郎に言葉をかけながら、仲間達へと戦いを後押しする薬液を散布し、援護へとまわる。
 それを受けたコロッサスはすかさず前進、その後ろに身を隠すようにしながら大地も竜へと肉薄しその体をめがけ攻撃を繰り出すが、竜は身じろぎひとつせず、その攻撃を受け止め、体を振るいケルベロス達を弾き飛ばす。
 その隙に傷の癒えたユウマは竜の背後、その巨体を支える後ろ足へと近づき鉄塊剣を叩きつける。
 片腕での一撃とはいえ、十分に速度と威力の乗ったその一撃を、竜の表皮は易々と弾く。さらに続けてその腹に攻撃を繰り出そうとしたユウマへと向けて竜は軽くをその後ろ足を払う。何気ないそんな行動すら竜の巨体から繰り出されれば命を奪う一撃となる
 ユウマは逆にその一撃に対し蹴りを返しながら飛び退ることで回避するが、やはり竜に対してダメージを与えられた様子はない。
 受けた傷は多少ならば癒せるとはいえ、竜とケルベロス、どちらが有利であるかは火を見るより明らかであった。
 だがこの竜は戦いにおいて手を抜くなどということはしない。先ほどから前衛を回復し続けるイリアと周辺のケルベロス達を巻き込み、なぎ払うように、その尾を振るい地を抉る一撃を見舞う。
 体格差から繰り出される理不尽な攻撃にケルベロス達の体は弾き飛ばされ、地を転がる。
 何とか立ち上がったイリアがグラビティによる回復を試みるが、仲間達傷を癒しきるには足りない、大地がその体を引きずり、竜に決死の反撃を試みるが首元を狙ったその攻撃は竜の前足により弾かれてしまう。
 竜が爪を振り上げ、再度イリアへと狙いをつける。だが、そこへ割って入る人影があった。
「己が爪撃に絶対の自信があるようだが……瀕死の相手にトドメは刺せても、我が金剛不壊の守りを砕くに能わず」
 仲間を守るため傷だらけの体のコロッサスが竜を挑発する。それは一か八かの賭け。
 まともに受けることもかなわぬ攻撃、それを今この慢心相違の状態で受けることができるかどうか、それは彼自身にもわからないこと。
 だが、ここで仲間を失うわけにはいかない。コロッサスは両の手をきつく握り締め、竜へとその視線を向け、覚悟を決める。
 一時その手を止めた竜は、挑発に乗るというよりも、そのコロッサスの戦士としての目を見、あえて攻撃の矛先を変えることを選んだ。
「よかろう小さき者よ、受けるがよい我が全身全霊の一撃を」
 咆哮と共に竜の足が地を薙ぎ払う。
 その爪撃は力だけによる乱雑な攻撃ではない。
 戦いの中磨かれ、吸収し、会得したその攻撃は空を裂き、呪すらも打ち払う絶対の一撃。
 コロッサスのその体へ攻撃が届くよりも早く、彼へとかけられた全ての加護が打ち砕かれる。
 それでも受けきらねば、コロッサスだけではなく、後ろで控えるイリアもろとも共倒れになってしまう。そうなればもはやケルベロス達に勝ち目はない。
 少しでも竜の勢いを逸らそうと、ルアが横合いからの援護射撃。首元に命中したそれに竜が一瞬だけ怯む。
 その好機を逃さぬとコロッサスは剣に力を込め、体への負担も顧みず裂帛の気合と共に竜の一撃を無理やりに弾き返す。
「なるほど、こういうことだな」
 言葉とともに孝太郎は体勢を崩した竜の懐へ潜り込む、その瞬間、九助へと視線を送り、フォローの要求をしつつ竜の腹の側、傷のないそこをめがけて鎌を投げつけると、まるで今までの表皮に弾かれた攻撃が嘘のように、その体を引き裂く。
 途端怒り狂ったように竜は暴れ、その行動に巻き込まれた孝太郎は弾き飛ばされるが、九助が事前に構えていたヒールにより、すぐさまその傷は癒される。
「おい、あんまり無茶するんじゃねぇぞ」
 心配するように声をかける九助をしり目に、孝太郎は気にした様子もなく、仲間達へと向けて言葉を紡ぐ。
「奴は人で言う背中側の表皮は硬いらしいが、腹の側はそうでもないようだ」
 彼の言うとおり、竜は頑丈な背側の皮膚に攻撃が当たる時は身動き一つ取らず攻撃を受けていた、それに対して、内の皮膚、比較的柔らかいこちらに攻撃を受けそうなときは、体を動かして、外皮で攻撃を受け止めていた。
 その言葉を受けて、すぐさまケルベロス達は戦い方を変える、大地がジンの回復を受けながら竜の足元へと飛び込み、その付け根に重い一撃を見舞う。たまらず竜の体が揺らぐ。
「もう負ける気はないわ」
 両の手に握る剣に力を込め、イリアが竜へと迫る。
 星座の力を宿した大振りの剣と短剣、それぞれが一閃。十字を描く斬撃が地を震わせ、竜の無防備にさらされた腹に大きな傷跡を残す。


 竜がこれほどの傷を受けたのは、この鎧のような表皮を手に入れるよりもずっと前のこと。
 久しく感じることの無かった自らが負けるかもしれないというその感情を打ち払うように竜は叫ぶ。
「見事だ小さき者よ、だがこの力の前に何ができる!」
 竜は大きく息を吸いながら飛び退る。竜が宙へととび、大きく息を吸い込む。その動きを察知したリンネがとっさに短刀から氷槍を打ち出し竜の翼を凍結させその動きを制限する。
 羽ばたきを阻害された竜は大きく後退するだけに留まるが、その炎の吐息までは止めることはできない。
 炎の奔流がケルベロス達を襲う。狙われたのは既に傷だらけの前衛ではなく、守られていた後衛だ。
 燃え盛る炎は地を焼き、ケルベロス達を飲み込み、その体を炎に包む。
 ルアのスポーツウェアが焼け、所々その白い肌が露わになるが彼女ははそんな事を気にした様子はない、見据えるのはただ目の前の敵。
「コア・ブラスターリミットカット……消し飛びなさい」
 微かに露わになった胸部に内蔵されたコア・ブラスターの出力制限を一時的に解除し、威力を向上させた一撃が竜の体を焼く。
 竜の顔が苦悶に歪み、その巨体が揺らぐ。
 ここにきて形勢は逆転し始めていた。戦いは単純な数では測れない。それは奇しくも竜が放った言葉。単純な回答一つで戦いの結果はいかようにも変わる。並みの相手であればたとえ弱点が判った所で竜が押される事はなかったであろう。コロッサス、ユウマ、イリア、大地、彼らが仲間を信じ前に立った事で、その弱点を突く事ができる仲間達が殆ど被害を受けずに戦うことが出来ていた。
 徐々に竜の動きが鈍くなる。ケルベロス達の振るう様々な攻撃がその力を奪い、封じ、無力化していく。
 だが竜とて、そうやすやすとは負けられない。彼には誇りがある。自らより、弱い者達になど負けられるわけがない。体を奮い立たせ竜は爪を振るい、孝太郎に狙いを定める。
「ここで倒れるわけにはいきません!」
 しかし竜の決死の攻撃は孝太郎へ届くより早く、ユウマがしっかりと受け止めている。万全の状態であれば吹き飛ばされていた攻撃。
 だが竜の動きは封じられ、加えて、自らの張り巡らせた防護膜による力をもってして、ユウマは竜の誇る必殺の一撃を完璧に防いで見せた。
「結局のところ、一番効く薬ってぇのは、いつだって己の内側だ。この世界を愛したんなら生き晒せ!!」
 九助が叫びとともに再び薬を散布し仲間達のリミッターを外し、その力を限界まで引き出させる。
 孝太郎の詠唱する魔術が、竜の足を石化させ、その動きを奪い、大地が竜の首元へと接近、表皮の薄いそこへ強烈な一撃を見舞う。
「大丈夫。マタタキする間にオワってるから」
 リンネの握る紅色の長刀が一閃、大地のつけた傷を抉るようにその喉を切り裂く、切り付けられた傷口は熱を持ち、その血液を煮えたぎらせる。
「あなたの命はここで終わり。だけど、あなたの強さは誰も忘れないよ」
 その言葉に竜はその口の間から血を流し、声を震わせながら答える。
「我が慰められる日が来ようとは……誇るがいい小さき者達よ……」
 目を閉じた竜にリンネは黒き短刀を振るう。
 竜の巨体が地に沈み、大きな音と共に地を揺らす。
 凍てついたかのように硬直したその体が、再び動き出すことはなかった。


 彼らの戦いは終着した、だがこの城ケ島における作戦が終了したわけではない。
 ヒールにより傷を回復し、息を整え、まだ戦える者達は仲間の援護へ向かうために立ち上がる。
 八重子の肩を借りながら立ち上がった九助は孝太郎と共に、先へと進む。
 その後に続こうとした大地は、竜の躯の前で一度足を止めると、小さく呟く。
「戦いだけの生で、彼は幸せだったのでしょうか……?」
 その疑問に確かな答えを返せるものは誰一人いない。
 静寂の中、未だ癒えぬ傷の多いコロッサスが、静かに口を開く。
「この者にとってどうだったかはわからぬが、俺はこの場に居合わせれたことは僥倖だったとそう思う」
 多くの傷を受け死にかけながらもこの戦いには意味があった。それに異を唱える者は誰一人いなかった。経験は蓄積され、彼らの糧となる。
 かの竜がそうしてたくさんの戦場を渡り歩いたように。
 ケルベロス達は目を伏せ黙祷を捧げると、新たな戦いへと向けて文字通り一歩を踏み出した。

作者:雨乃香 重傷:コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986) 玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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