宇宙のグランドロン決戦~月面の三つ巴

作者:寅杜柳

「みんな! 『暗夜の宝石』攻略戦で生き延びたマスター・ビースト残党達の動きを掴む事が出来たよ!」
 雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)の告げた言葉に、ヘリポートのケルベロス達の空気に緊張が走る。
「生き延びた神造レプリゼンタ三体を中心とした残党軍は、遺棄されていたソフィステギアのグランドロンを改修してマスター・ビーストの遺産を運び出して地球へと向かっているみたいなんだ。奴らの狙いは地球上の希少動物を絶滅させて神造レプリゼンタを産み出す計画の実行のようで、それを阻止するには地球に到達する前に撃破しなくちゃいけない」
 けれど、と知香は一旦息を吐く。
「その残党を傘下に加えようと、レプリゼンタ・ロキと、ジュモー・エレクトリシアンの大阪ユグドラシル勢力がグランドロンで月に向かっているようなんだ。残党軍はマスター・ビーストを失った事で士気が低下していて、戦力差が大きければ戦わずに降伏して傘下に入ってしまうと予測されてる」
 それを阻止する為に宇宙に向かうにしても、ヘリオンの宇宙装備は調整の為すぐに動かせる数には限りがある。さらに『磨羯宮ブレイザブリク』も使えない為、今回は少数精鋭で阻止作戦を行わないとならない、そう白熊のヘリオライダーは言う。
「作戦を成功に導く為には、先制攻撃と交渉で敵軍の合流を防ぎ、そこから三つ巴の戦いへと持ち込むことになる。難しい作戦になるけれど……まずは予知できた状況をできるだけ説明するよ」
 そして、知香は作戦の詳細を資料を広げながら説明し始める。
「前提となる二つの作戦が成功しているなら戦いは残党軍、ユグドラシル軍、そしてケルベロス達の三つ巴の形になっているはずだ。今回皆にはどちらの勢力に攻撃を仕掛けてどのような目標を目指すかを決めて、作戦を練って欲しいんだ。先の作戦二つの推移を確認してから動ければいいんだが、その連絡を取れる確証がない。だから今回皆にはその二つが成功したという前提で動いてほしい」
 こちらの狙える目標は幾つかある、そう彼女は言う。
「残党軍の計画は地球の動物種を滅ぼすこと、それを阻止する必要があるから最低限『マスター・ビースト残党軍の持つ遺産の破壊あるいは奪取』を行う必要があるけれど、それだけでも出来れば最大の危機は回避できる。その上で『神造レプリゼンタの撃破』、『ジュモー・エレクトリシアンもしくはレプリゼンタ・ロキの撃破』、『ジュモーのグランドロンの撃破或いは奪取』等ができれば戦果としてはかなりいい感じになるだろうな」
 指折り数えながら言う知香は少し困ったように付け加える。
「これら全部を行えればいいんだけれども、今回月へと少数精鋭で向かう必要上、それは難しい。何を選び、どう行動するか……難しい判断をお願いする事になるけど、皆ならきっとうまくできると信じてる」
 そう言った知香はケルベロス達の表情を確認し、説明を締め括る。
「先制攻撃と軍使による交渉が失敗した場合は、攻撃は行われず撤退する事になる。だから、今回は先制攻撃と交渉が成功した状況のみを考えて作戦を練るのが正解だろう。どんな目標を掲げ、どう行動し、どんな戦果を勝ち取るかはアンタ達ケルベロス次第。どうか、頑張ってデウスエクス達の野望を砕いてきてくれ」


参加者
千手・明子(火焔の天稟・e02471)
因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145)
月杜・イサギ(蘭奢待・e13792)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)
比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)
ジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)

■リプレイ

●グランドロン、潜入
 軍使達が内側から不意討ちで攻撃して生じた外壁の風穴から、ユグドラシル軍への迎撃の為に外に配備されていたケルベロス達が一斉に侵入する。
「月のレプリゼンタにカチコミだー!」
 味方であるはずの存在の裏切り、その動揺から立ち直る前に、白マフラーを靡かせ飛び込んだ因幡・白兎(因幡のゲス兎・e05145)は鋼の拳で手近な位置にいた異形の神造デウスエクスを殴り飛ばす。
「Je fais de mon mieux!」
 その言葉は日本語で言うなら『頑張る』、戦意を盛り上げるよう元気に主砲を一斉に放っているのはジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)。
 無手の千手・明子(火焔の天稟・e02471)が弓を引く仕草からグラビティの矢を放てば、それが当然の摂理であるかの如く異形の頭部を見事に撃ち抜き、その矢に合わせ蒼銀の髪のオラトリオが飛び込み日本刀を優美に振るう。
(「重力差はそれ程気にしなくても問題なさそうだな」)
 そう考える月杜・イサギ(蘭奢待・e13792)は刀に付着した血を軽く払い、残りの敵へと飛び込んでいく。
「任せるわ、氷の騎士様」
 白く輝く長い髪に美しい肌、それはまさしく伝承に謳われるサキュバスそのものの姿のプラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)が召喚した氷の騎士が惑う異形を蹴散らし、そして櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)の御業が炎弾で焼き払う。神造デウスエクスも反撃を行うが、それを受け止めた比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)が縛霊撃で殴り飛ばす。
 同時に飛び込んだ他班の戦力もあり、速やかに撃破は完了。
 カーキ色のロングコートの七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)は手早く治療を行う。
「……これ以上の破壊は避けたいな」
 周囲を見つつ、千梨が呟く。侵入時に既に破壊されているが、せめてこれ以上は。
「必ず解放する。こいつらを片付けるのにちょっとだけ暴れるけどごめん」
 アガサと千梨が周囲のグランドロンに語りかける。周囲に変化はないが、それでも想いは届いていると信じ、ケルベロス達は中枢を目指す。

 道中の戦闘は散発的、状況からして中に回すだけの兵力がないのかもしれない、と白兎は思う。
 とにかく敵を見極める事を白兎は意識している。強敵でも臆しては勝てるものも勝てない、かといって過小評価で油断など論外だ。
 軍使の班とは突入時に一瞬すれ違った程度。状況の変化から情報も役に立たない可能性もあった為、速やかな制圧を優先させている。
 黒豹にかけた言葉は届いただろうか、とイサギは思う。彼にとって戦場とは趣味と実益を兼ねた生活の為の場でしかない。
 ただ。
(「ここには『月の兎』がいる」)
 一言だけ告げた言葉は真。そんな事を考えているうちに、奥まった区域に辿り着いた。
 そこにいたのは、三体の怒れる神造レプリゼンタ。

●分断作戦
 海牛型のギガトラルドンが他班の攻撃を受け突進。二体のレプリゼンタもそれを追おうとするが、
「動いてはいけないよ。すぐ、楽にしてあげるから」
 黒翼をはためかせ跳躍したイサギが鋭い剣気の雨を降らせる。驟雨の如き剣気は兎型をその場に釘付けにし、その隙に千梨と明子が立ち塞がる。兎型――パントファルドスが周囲を見れば、自身を包囲するように位置取ったケルベロス達。ギガトラルドンを惹きつけた二班から兎と獅子型を分断する作戦はここに成立した。
「御目にかかれて光栄だ」
 月には二度訪れた事はあるが、このレプリゼンタに会うのははじめて。丁寧な言葉とは裏腹、口調は軽薄に千梨が挨拶をする。
「……その位にやれるのなら卑劣な裏切りなど不要だったのではないか」
 レプリゼンタが咎めるように口を開く。
「たかがうさたんのくせに偉そうにふんぞり返ってんじゃないよ、バーカ」
「うさたん……? 私はパントファルドスだ」
 偉そうにふんぞり返りながら煽るアガサに、眉根に皺を寄せ、怪訝な顔をするパントファルドス。流石にそれは想定外だったらしい。
「ムッシュー……うさたん!」
「何故言い直す」
「いや舌噛みそうな名前やし」
 分かりやすさは大事さかい、とジジが仲間を見、同意する様子のケルベロス達に兎の仏頂面がほんの僅かに険しくなる。
 その間に千梨が御業にて長大な龍の形を招けば、降り注ぐ金の花弁の幕はしっかりと彼の周囲の仲間達を覆う。
「共に跳ね、踊ろう――うさたん」
「だからうさたんなどではないと言っている」
 裏切りに対してではない、別種の苛立ちを言葉に滲ませ兎型が吠える。月の魔力を乗せた咆哮、明子達に強烈な衝撃が走り、重圧が圧し掛かる。
「定命の者には永久の生命に理解不能の思考がある。私のそれは自己嫌悪と私怨と八つ当たりだが」
 イサギがゆくし丸を構え、
「――君を斬るには充分な理由だ」
 笑んだイサギは黒豹に告げた通り、兎型に驚くべき速度で斬りかかるも相手はそれ以上の速度で跳躍し回避。
「僕達ウェアライダーの力はマスタービーストに与えられたものだけど……」
 白兎は言う。創造主の命令に忠実な彼らはある意味では正しいのだろう。
 だけれどもウェアライダーは長い年月をかけ、道を別ったのだ。
「長い年月をかけて自分達のものにしてきたんだ。もう誰にも好きにはさせないよ!」
 銀の粒子が後衛のイサギやプラン達の周囲に展開し、その感覚を活性化させる。
「わたしをみて、めをはなさないで――どこをみたいの?」
 着地したレプリゼンタに蠱惑的なサキュバスの誘惑。視線を合わせた兎型は戦闘中にも拘わらず、足を一瞬止めてしまう。
「……何処見てるのかな? うさたんのえっち」
 一般的に語られる兎の性質を揶揄う様に、巫女服に手をかけてクスクスと笑うプラン。
「地球の動物を滅ぼさせる訳にはいかないね」
 その間にジジは様々な毒を持つ生物から作り出したお薬を瑪璃瑠に手渡す。一気に飲み干した瑪璃瑠は苦い顔をするが、その効果は覿面。癒し手としての能力が活性化する。
 一方、物質の時間を凍結させる弾丸をイサギが放つも、レプリゼンタは難なく躱す。
 得手とする能力が近しいからか、狙撃手の彼でも上手く捉えきれない事がある。
 しかし、もう少し重ねれば当てられると、距離を計りつつ次の機会を狙う。
 パントファルドスの天球儀が巡り、光の矢の雨がケルベロス達に降り注ぐ。狙いは後衛、即座に護り手達が庇うも、月の魔力宿すその矢を受けた途端に盾の加護が霧散する。
 だが明子は状態を確認しつつ怯まない。倒れたら守れなくなる、最後まで守り抜く事を定めた彼女だからそれはまずい。
 ここでこの兎を止める、自分と皆以上にもっと沢山の人を守るために。
 アガサの体の痛みもすぐに軽くなる。それは瑪璃瑠の大自然の護り、宇宙であっても治癒力に遜色はない。
「ありがと、リル」
 感謝の言葉はシンプルに、敵の次の攻撃へと盾の役割に尽力するアガサは縛霊手の祭壇から紙兵を散布、さらに千梨が舞を奉じ黄龍を招き護りを固めた。

 そして戦闘開始から十分以上が経過。
 パントファルドスの動きは恐ろしく早いが、重ねた呪縛により徐々に捉え切れる速度になってきている。
 だが、ジジは焦らない。ここで焦れば水の泡。
「焦らんと粘って粘って勝って、“皆”で!」
 自身の役割を果たすことが地球に無事に帰る為に必要だと認識しているのだから。彼女は落ち着き光の矢により崩された幻影の加護を再度イサギへとかけ直す。
 さらにアガサがカラフルな爆発で後衛を鼓舞すれば、プランの流星の飛び蹴りが命中。
「踏んであげる。悦んでいいよ?」
 黒い革製のブーツがぐりぐりと兎の頭部を踏みにじる。兎型は無表情に天球儀を回転させ、頭上の空間を歪める。術が速く、回避も間に合わない。捻られるような痛みが走るが、即座に彼女の輪郭にちらつく幻影が浮かび上がる。白兎の展開した分身の術だ。
 妨害手二人は強化を高速で掛ける為、加護砕きの光線を受けてもすぐに再度付与し、攻防の隙を最小限に抑えている。
 同時、千梨が伽羅久梨匣の精巧な絡繰りを精確に組み替え、蝶の幻影をオラトリオへと纏わせると、納刀状態でイサギが飛び込み抜刀、『嘘』の名を与えられた日本刀が兎の首元を通過、鮮血が飛沫く。
 やったか、と思うが即座にレプリゼンタの傷口は高速で塞がっていき、同時に天球儀が回転、周囲に光の矢をまき散らした。

●レプリゼンタ
「我らはレプリゼンタだ。忘れたのか?」
 報告にあった異常な速度の治癒。治癒し辛いはずの傷も構う事無く修復されていくその様子に、これはヒールとはまた違う機構なのかもしれないと、矢から明子を庇った千梨は推測する。
 砕かれた加護を補うよう明子の水引の指輪から生じた光盾が追撃を防ぐ様に間に割り込ませる。
 護り手としての誇り――命にかけて皆を無事に返すと決めたのは彼女の意地だ。だからこそ明子達は互いに倒れぬよう、庇いあう。
「いくらやろうと無駄だ」
 だが兎のレプリゼンタは容赦なく月の咆哮を放ち、後衛を薙ぎ払う。後方の攻撃手二人に幻影での支援を行い続けていたジジは再度秘薬を瑪璃瑠に差し出し、戦線を維持する助けとする。
 対抗するようプランが氷の騎士のエネルギー体をけしかければ、さらにアガサの縛霊手による一撃が兎型を殴り飛ばす。
「地球上の動物達もあたし達もあんたらの玩具じゃない」
 絶滅危惧種のウェアライダーである彼女は、わざと種族最後の一体を作り出そうとする敵に、きっぱりとそう告げる。
 そして入れ替わり、切り込むイサギを見送る瑪璃瑠は思う。
 夢は泡沫、現は刹那。本当の姿を幻に隠されていたこの月は、レプリゼンタの見せていたうたかたで。
(「けれども“わたし”はあの日、月を見上げていたから月より美しいヒトに出会えた」)
「なら、月は確かにそこに在った」
 それが瑪璃瑠の答えだ。
 一方のイサギもかつて初めて出会った時の瑪璃瑠の姿が頭を過っていた。月を見上げていた少女、兎の耳は今の彼女よりもずっと長く、まるで巫女のよう。
 愛しい義妹、そして悪友。出会いの夜は、どちらも月が美しく輝いていた。イサギにとって、それらはたった二つの『救われた』夜の記憶。
 イサギは世界だとかそういう事には関心はない。ただ、それを巡る近しい人の因縁にはその限りでなく、悪しき因縁を断ち切るためにここにいる。
「パントファルドス」
 明子の凛とした強い声。その黒瞳は的に集中する時以上に真っ直ぐレプリゼンタを見つめ。
「あなたの関係したことで、たまぇさんも、その身の回りの人も、わたくしの友達も、弟分も、あんなにも美しい月を恨んで暮らし、ずいぶん苦しめられてきた」
「それが何だと?」
「つまりわたくしも苦しめられたということよ!!」
 明子が激昂したように叫ぶ。多くの人々が背負わされた狂月病、それに関わるこのデウスエクスに対する怒りは確かにある。
 けれど、今となっては彼を、その長き孤独の末路をただ、ただ可哀想に思う。
 だからこそ、明子は真っ向から向かう。精一杯の真心で立ち向かう事が、彼女にできる唯一だ。
 これ以上話す事はないとでもいうように、兎の天球儀が回転、ケルベロス達は先の見えぬ戦いに再び挑んでいく。

 そして更に戦いは続く。
「『――リミッター限定解除! 廻れ、廻れ、夢現よ廻れ!』」
 さらに瑪璃瑠の声が二重になり、緋眼と金眼の二人の瑪璃瑠に分身。さらに敵の与えた悪夢のような現実を只の夢へと改竄し、傷をなかった事にする。
 何としても皆を生かし、生きる。それが瑪璃瑠の、『ボクたち』の全てだった。
 回復の要である彼女と護り手達の献身により、戦闘開始から三十分経とうとする現在でも誰も地に伏してはいない。
 だが、癒しきれぬ負傷は重なっていく。このままではジリ貧、そんな考えがケルベロス達の頭を過り始めたその時。
「グランドロンが……コギトエルゴスムに?」
 千梨の口を衝いて出た言葉は正にその通り、壁が、天井が宝石を零れ落ちさせ船の形を別の在り方へと変えていく。
 他の潜入班がやってくれたのだ、それを確信したケルベロスは、その光景に呆然とするパントファルドスに一斉攻撃を仕掛ける。
 ジジの主砲に合わせる形で白兎が懐に飛び込み、秘薬をその傷口に塗りつける。
「この薬は傷にとっても効くのさ!」
 言葉とは裏腹、傷口に海水を浴びせられたような激痛が走ったレプリゼンタの無表情が一瞬崩れる。
「いやぁ、まさかうさぎ相手にこの攻撃するとは思ってもみなかったよ!」
 あっけらかんと笑顔で言う白兎、それに苛立った兎型のレプリゼンタは天球儀を回転させ空間を歪めようとするが、千梨が防ぐ。
 ひらひらと手を振り問題ないと示すけれども、限界は近い。けれどまだ、倒れる訳にはいかないと魂が肉体を奮い立たせている。
(「地球の種を守る為に別の種の最後の命を滅ぼすか」)
 少しだけ思う所もある、けれど千梨は決意しているのだ。全てを背負うとまでは言えないが忘れはしない、と。
 そこに、雨が降る。
「悪足掻きなんてみっともないよ」
 ――さっさとマスター・ビーストの元へ行ったらいい、冷徹なアガサの言葉と共に、グランドロンの中に激しく降る石礫のような雨は兎型の逃げ道を塞げば、
「馬鹿げた因縁もこれまでだ」
 告げたイサギが乱れた体勢にダメ押しするかの如く緩やかな円弧を描く斬撃でその腿を深く深く斬り裂く。
 更に千梨の放った半透明の御業が敵の身体をしっかりと捕え、同時に腰の大脇差を抜いた明子が飛び込み、変形させた刃は鋭く兎の衣と肉を鮮血と共に切り裂いた。
 さらにプランの超高速で振動する刀がレプリゼンタを貫く。ここが正念場、力を注がれ出力を引き上げられたそれは、柄まで深く、深く。
「刻み込んであげる」
 まるで恋人の逢瀬のような距離、刻み込まれたのは致命の傷。最早再生能力も機能しない種族最後の一体はその体を崩壊させていく。
「レプリゼンタ……最後の、一人ぼっちの兎さん。君は何を想っているの?」
 瑪璃瑠の問いに、最早答える時間もないのかその姿は崩れ去り、あとには何も残らなかった。
 まるで、うたかたのように。

●戦い終わって
 プランとイサギが周囲を見れば、他のレプリゼンタ達もほぼ同時に撃破したようだ。その事に安堵しつつ、瑪璃瑠とジジは手早く負傷の治療を行っていく。
 以前、タイタニアの王はケルベロス達に『賭けた』と言って共に来た。そんな風にグランドロンも何かを、未来を選び取ってくれたのだろうか、傷を治療しながら千梨は思う。
「他の二班はどうしているのかな?」
「そうだね。他の班も気になるし合流しよう」
 白兎に返すアガサの言葉に明子も同意、ケルベロス達は合流すべく、変化するグランドロンへと足を踏み出す。

 最後に千梨が一度振り向き、祈った。
 ここで滅びた種の最後の命への、鎮魂を。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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