宇宙のグランドロン決戦~青き惑星は遠く

作者:坂本ピエロギ

「お疲れ様です。先程、マスター・ビースト残党軍に新たな動きがありました」
 ムッカ・フェローチェ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0293)はヘリポートに集ったケルベロス達にそう告げると、作戦の説明を始めた。
 『暗夜の宝石』攻略戦を生き延びた神造レプリゼンタ達を中心としたマスター・ビースト残党勢力が、遺棄されていたソフィステギアのグランドロンを改修、マスター・ビーストの遺産を運び出して地球へ向かっているというのだ。
「彼らの目的は、地球上の希少動物達を絶滅させ、新たな神造レプリゼンタを産み出す事だと思われます。皆さんにはこれから宇宙へ向かい、彼らの計画を阻止して欲しいのです」
 神造レプリゼンタ3体を除いた残党勢力を撃破するか、マスター・ビーストの遺産を積んでいると思しきグランドロンを破壊または奪取すること。これが作戦成功の最低条件だ。
「既に残党勢力はグランドロンと共に月を出発しています。皆さんには急ぎ、迎撃に向かって欲しいのですが――」
 ふたつの問題がある、とムッカは手短に告げた。
 ひとつは、ヘリオンの宇宙装備が準備を完全には終えていない事だ。
「今回の作戦では、地球と月の中間地点が戦場となります。ヘリオンの宇宙装備は調整の為にNASAへ運び込まれており、すぐに動かせる数は多くありません。戦場の性質上、磨羯宮の剣を飛ばす事も難しいでしょう。戦いには、少数精鋭で臨んでもらう事になります」
 そしてふたつめの問題は、
「レプリゼンタ・ロキが……大阪城のユグドラシル勢力が動き出しているのです」
 そう言って、ムッカは話を続ける。
「大阪城勢力は今回の事件に関する情報をどこからか入手し、ダモクレス勢力の指揮官であるジュモー・エレクトリシアンとその配下達と共にグランドロンで宇宙へ向かっています」
 ロキの狙いはマスター・ビースト残党軍、ジュモーの狙いは改修グランドロンとみられている。いずれも大阪城勢力に組み込まれれば、敵がますます力を得る事は想像に難くない。
「残党軍は、彼らの首魁を失った事で士気が低下しており、戦力差が大きければ、戦わずにロキに降伏して傘下に入ってしまう事が予測されています。それだけは何としても防がねばなりません」
 二勢力を相手取っての戦いを成功に導く為、本作戦は「先制攻撃」と「交渉」により、敵軍の合流を防ぎ、然る後の「三つ巴の戦い」へと持ち込むことになる。
 ムッカが担当するのは「三つ巴の戦い」。先制攻撃と交渉に失敗した場合、作戦は中止となるが、皆には、それらに成功したという前提で作戦に臨んで欲しい――ムッカはそう言ってケルベロスを見回した。

 三つ巴の戦いでは、残党軍とレプリゼンタ勢力の合計7つの攻撃目標を、ケルベロス側の8チームが選んで攻撃する事となる。
「残党軍勢力は神造レプリゼンタ3体と、先の戦争の残党戦力、改修グランドロンの3つ。レプリゼンタと残党戦力は撃破、グランドロンは内部へ突入し、これを破壊または奪取する事で目標達成となります」
 神造レプリゼンタ3体は不死身に近い存在だが、改修グランドロンを他の勢力に制圧された状態で撃破されると、それ以上復活する事はできない。逆に言えば、改修グランドロンを制圧しなければ、彼らを撃破する事は絶対に不可能なのだ。
「レプリゼンタ勢力はロキとジュモー、ダモクレス軍勢、そしてグランドロンの4つ。このうちロキとジュモーとダモクレスは撃破、グランドロンは破壊または奪取で目標達成です。問題はロキなのですが……」
 レプリゼンタであるロキの撃破方法は、現時点では判明していない。
 だが、如意棒が撃破のカギを握っているのではないか、という情報がある事をムッカは付け加えた。ロキに挑む際、如意棒を装備していると『何か』が起こるかもしれない――と。
 そして最後に、両勢力のグランドロンについてだ。
 グランドロンは妖精8種族グランドロンが何かの技法によって要塞化されたものらしく、内部へと突入し、彼らに接触して呼び掛ける事が出来れば、仲間に加わってくれる可能性があるようだ。
 今回の作戦では、戦場に割ける戦力は決して多くない。
 どの目標を優先し、どの程度の戦力を投入するか、慎重に決める必要があるだろう。
「レプリゼンタ勢力、ロキ、ジュモー、そしてグランドロン……彼らとの因縁に決着がつけられる事を祈っています。皆さん、どうかご武運を」
 そうしてムッカは最後にケルベロスへ一礼し、作戦の説明を終えた。


参加者
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
レミリア・インタルジア(薔薇の蒼騎士・e22518)
葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)
オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)
グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)

■リプレイ

●一
 絶対零度の宇宙空間を、加速したヘリオンが突き抜ける。
 NASAの特殊装備を着けた機体から次々に出撃するのは、8名の番犬達。
 彼らの目的はただ一つ、マスター・ビースト残党勢力が居座るグランドロンの制圧だ。
(「あの船ね。急ぎましょう」)
 レミリア・インタルジア(薔薇の蒼騎士・e22518)は前方に目標を確認すると、宙を飛ぶ速度をいっそう上げた。
 船――グランドロンの周りには、既に展開を始めようとしている他のチームが見える。
 これから始めるのは敵勢力への偽装。船を取り囲み、ロキやジュモーらユグドラシル勢力からこの船を守るのだと、船内の神造レプリゼンタ達に誤解させるのだ。
(「ここまでの流れは順調か。しかし……」)
 船に接近した嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)は、他のチームと共に船を囲みながら、船の進路である地球の方角を暗視ゴーグル越しに睨む。
 先発部隊によるダモクレス達への先制攻撃は、既に行われた事だろう。残党勢力との合流を目論むユグドラシル側のグランドロンは未だ視認できないが、いつ此方に向かって来てもおかしくない。
(「向こうの工作が、上手くいく事を祈るしかない……か」)
(「ええ。せめて通信が取れれば良かったのですが」)
 葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)はそう言って、傍のグランドロンを振り返る。
 接近の際に迎撃を受けなかったのは幸いだった。交渉班の工作が上手くいったのだろう、後は彼らの脱出と同時に全員で突入するのみだ。
(「にしても凄ぇ人数だぜ。俺達含めて6チームだったか?」)
(「うむ。6チームの48名だな」)
 船を守るように展開する番犬達の数を指折り数える軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)へ、オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)が付け加えた、その時。
 空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)が注意を促す声で、地球の方を指さした。
(「皆。あれを見て」)
 つい先程までは黒一色だった空間に、小さな点のような何かが見える。
 宇宙用ヘリオンとは異なる巨大な飛行物体。ロキとジュモーのグランドロンだろう。招かれざる敵の出現に遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)はもだもだと悶える。
(「あああもう、来るのが早いのよ! 私の呪いで地球に引き返すのよ!」)
 松・竹・梅とフルコースの呪いも空しく、じわじわ接近してくるグランドロン。
 奴らがこのまま、マスター・ビーストの残党と合流したら――。
 番犬達の心に微かな焦燥が生じ始めた次の瞬間、グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)が合図を飛ばした。
(「みんなー! 仲間が出てきたぞー!」)
 吹き飛ぶグランドロンの外壁。そこから脱出してきたのは、交渉班の仲間達だ。
 突入の合図を受け取ると同時、グラニテ達のチームを最後尾に、6チームの番犬達が一斉に船めがけ突入していく。
 同じくして、前方を行く対残党チームからもサインが届く。戦闘時の前衛は引き受けた、船内の調査は任せる……という合図だ。
 ――了解、よろしく頼む。
 グラニテら8名はそう返し、グランドロンへと雪崩れ込んだ。

●二
 突入した外郭エリアは、乱戦の様相を呈していた。
 先行した4チームは、虚を突かれて混乱する残党の群れを瞬く間に蹴散らすと、一足先に神造レプリゼンタ達がいる艦橋を目指して進んでいった。
「私達も遅れてはいられませんね。さて……」
 かごめは周囲を見回した。
 外郭エリアには枝分かれした複数の通路と、それを閉ざす扉が見えるものの、中枢への道を示すような手がかりは見当たらない。
「……どこへ行けばいいんだ、こりゃあ?」
 仲間達の心を代弁するように、頭を抱えて双吉は唸った。
 ジュモーらを乗せたグランドロンは、着々とこちらへ迫っている。全ての部屋を当たっている時間はない。用意した地図用メモとスーパーGPSも、時間が押しているこの状況ではどこまで役に立つか。
「呼び掛けてみませんか? グランドロンに」
 かごめが仲間達に提案を申し出たのは、その時だった。
 中枢への手がかりは、ここにはない。だが『船そのもの』であるグランドロンに聞けば、あるいは。
「やる価値はありそうね。試してみましょう」
 出撃前に告げられた情報に従い、篠葉はヒールで修復した船の外壁にそっと触れる。
「グランドロン。私達の声が聞こえる?」
 対残党チームに護衛を任せ、グランドロンへ言葉を送り続ける篠葉達。
 そうして8人が語り掛けを続けて、1分ほど経った頃だった。
『警告……シス……』
『侵……グラ……』
 呼びかけを行っていた無月と槐の脳裏に、声なき声が届いたのは。
「今の声は……?」
「ああ、間違いなさそうだ」
 声は呼びかけを行った者の脳裏にのみ響くらしい。
 無月達は呼びかけを続けながら、グランドロンの声が聞こえる方角を探っていく。
「グランドロン。どうかわたし達に応えて欲しい」
『注……侵……』
『外郭ブロックに……侵入者を確認……』
「あの通路だな」
 囁くような小声に紛れ、ひとつだけ明瞭な返事が返ってきた通路を、槐は指さした。
 船の奥から漏れる声なき声、その源こそグランドロンの中枢に違いない。
 声に導かれながら、中枢へと急ぐ16名の番犬達。だが扉を開いた直後、彼らを妨害するように残党勢力の群れが襲い掛かってきた。
 猫に狼、それに得体のしれない獣達。マスタービースト残党軍の神造デウスエクスモドキの群れ。対残党チームだけで止められる数ではなさそうだ。槐はライドキャリバーの蒐と共にディフェンダーに立ち、己が身を盾と成す。
「中枢までは距離がありそうだな。長期戦を覚悟した方が良いかも知れない」
「グランドロンー、待っててなー!」
 前衛の網を突破した敵を押し止めながら、槐が拳で負傷を殴り飛ばして走る。食い下がる敵を月白絵具で描く雪で消滅させ、グラニテが通路の角を曲がる。
「敵は未だ混乱状態にあるよう、ね。動きに統率が見られない」
「戦力の逐次投入……こちらにとっては都合がいい」
 無月が具現化した『摩天槍楼』の槍襖が、レミリアの御業で鷲掴みにされた最後の敵を串刺しにした直後、一行はまたも枝分かれした道に出た。
「グランドロン、どこだー?」
「吾らに敵意はない。中枢への道を教えて欲しい」
 グラニテとオニキスの問いかけに、ほんの少しの間が空き、そして、
『マス……ビー……』
『侵入者あり……グランドロンは通告する……』
「右の通路だな。先程よりも声が大きくなっている」
 声を聴いては走り、走っては戦いを繰り返し、番犬達は残党を蹴散らして進んでいく。
「さあ、お望みの呪いは何かしら? 無重力で足がもつれて転ぶ呪い? それとも怨霊に取りつかれて迷子になる呪い?」
「何匹来ようが関係ない、叩き潰すだけよ!」
 なおも番犬達へ怒涛のように押し寄せるのは、ただひたすらに敵、敵、敵。
 そんな大群に向かって不敵に笑いながら、番犬鎖の陣で前衛を包む篠葉。エアシューズの車輪で火花を散らすオニキスが、流星蹴りで敵を粉砕しながら隔壁を潜り抜ける。
「やれやれ。残党どもだけ船外に叩き出してくれたら楽なんだがなぁ!?」
「容赦はしません、覚悟しなさい!」
 襲い来る残党を双吉がレゾナンスグリードで丸のみにし、かごめがスパイラルアームで敵もろともドアをぶち抜き、突っ切った。
 刃を振るい、牙と爪で負傷するのも構わず、中枢を目指してひたすらに走る番犬達。
 調査と戦闘を繰り返し、幾重もの扉を潜り抜け、そして――どのくらい駆けただろう。
『通告。通告。中枢エリアに侵入者の接近を確認』
「間違いねぇ、あの扉だ!」
 ついに双吉ら16名は辿り着いた。
 グランドロン中枢エリア。グラビティのトルク轟く、エンジンブロックへと――。

●三
 その部屋は、巨大な空間だった。
 静まり返った区画の中央に鎮座するのは、巨大なエンジン。
 船内にグラビティ・チェインを供給し続けるそれは幾本ものパイプに接続され、まるで生物の心臓のように規則的な鼓動を打ちながら、声なき声を発し続けている。
『不法侵入者あり。グランドロンは機体所有者に通告する。繰り返す……』
「大丈夫。敵の影は見当たらない」
「急いだ方が良さそうね。ユグドラシル勢力が到達する前に」
 レミリアは懐中時計をしまい、無月に頷きを返した。
 突入から既に20分。区画へと迫るデウスエクスモドキを対残党チームに任せると、8人は仰ぎ見るような巨大エンジンへ、次々に手を添えていく。
「こんにちは、グランドロン。……外壁を破壊しちゃって、ごめんなさいね」
 呼びかけは、篠葉のそんな一言から始まった。
「自由に動きたくはない? このままだとあなた達は、これからも戦争に巻き込まれるわ」
 自分達が船を訪れた理由を伝える篠葉。
 その言葉に耳を傾けるように、グランドロンからの声が止む。
「一緒に、地球に来て欲しいの。定命化するかは今決めなくてもいい、このままあなた達が傷つくのを見てはいられないから……お願い」
 篠葉の呼びかけに反応を示さないかに思われた矢先、ふと槐は、ある異変に気付いた。
 パイプ、遮蔽版、ランプ……エンジンブロックを構成するパーツが、次々に眩い光を発し始めたのだ。
(「あれは、一体……?」)
 その光景に、何か強い予感めいたものを感じながら、槐は静かに呼び掛ける。
「グランドロンよ。私達はあなた方を救いたい。あなた方を道具としか見ぬ者達から」
 強い意志を秘めた声で、槐は定命化したオウガ種族の事を話した。
 かつて自分達オウガが飢えに苦しみ地球を襲った時も、ケルベロスは、地球は、自分達を歓迎してくれた事を。
「今一度言う、私達と地球へ来ないか。そしてもし叶うなら、力を貸してほしい」
 槐の言葉に応えるように、光を放つパーツは更に増え、ブロック全体を覆い始める。
 無月はその眺めを仰ぎ、意を決して口を開く。
「あなた達は自分の意思で、今の姿に変わったのかもしれない。でも、それで本当に満足? 契約主でもない者達に使われて」
 そして告げる。自分達にはグランドロンの望みに応える意思があると。
「だから教えて。あなたの望みを」
 エンジンを照らす光が、共鳴するように振動を始めた。
 パイプが。隔壁が。船を構成する、ありとあらゆる部品が。番犬の呼びかけに応えるように、自らの姿を変えていく。
 淡い輝きを帯びた、コギトエルゴスムの結晶へと――。
「グランドロン……!」
「応えてくれたのだな。ありがとう」
 降り注ぐ結晶の雨を浴びながら、感謝の言葉を伝える篠葉と槐。
 番犬の言葉に感応したグランドロンは、今や次々とコギトエルゴスムに変じ始めていた。未だパーツの姿を保つグランドロンを見上げ、さらにオニキスが語り掛ける。
「妖精郷に住まう多くの者達が、吾らと共に戦ってくれている。それも、自分の意思でだ」
 シャドウエルフとヴァルキュリア。アイスエルフにタイタニア、そしてセントール。
 仲間となった妖精族の名を挙げながら、オニキスとレミリアは言う。
「吾らと共に、汝の道を選んでみぬか? それはきっと、とても楽しいぞ!」
「私からもお願いするわ。私たちは、あなた達に道具以外の生を送って欲しい。今はまだ、あなた達にしか手を差し伸べられないけれど……」
 いずれ必ず、大阪城にいる他の仲間達も一緒に。そう言って声を届けながら、レミリアは続ける。
「かつて敵であった者も、地球は受け入れてくれるわ。だからあなた達も、どうか共に」
 降り注ぐ光の雨が勢いを増すと共に、船の機能を停止していくグランドロン。
 それでも番犬達は、語り掛けることを止めない。双吉は骨ばった手をエンジンに添えて、さらに声を紡ぐ。
「大坂城の奴等は一枚岩じゃねぇ。このままじゃ、船になったお前ら同士で争う未来が来てもおかしくねぇぜ?」
 そんな未来を、グランドロンに迎えさせたくはない。
 双吉も、ここに集う仲間達も、彼らを討つ未来を望みはしない。
 だから――。
「グランドロン。大坂の奴等も解放して、一緒に地球で暮らしてみねぇか?」
 双吉の言葉に、光は更に強さを増す。
 パーツが、床が、壁が、天井が、視界に納まる全てがコギトエルゴスムへ変じ、船は静かに崩壊していく。
 この光が艦橋の仲間にも届いている事を願いながら、かごめが語り掛けた。
「私からも提案します。あなた達の同胞を、皆で救出に行きませんか?」
 かつて地球で回収したグランドロンの事を、かごめは用意した資料と共に伝える。
 日輪、月輪、そしてクレイドール・クレイドル。ジュモーの実験材料とされ、かごめ達が救出したグランドロンのこと。彼らの無事が目の前の同胞達に届いて欲しいと、その事だけを願いながら。
「彼らは私達が丁重に保護しています。だからどうか、あなた達も……」
 かごめの言葉に応えるように、エンジンと船内を接続するパイプがコギトエルゴスムへと変じた。そしてグラニテはエンジンに手を添え、口を開いた。
「グランドロン。妖精郷を追われて、こんな暗いところにひとりぼっちで、ほんとにほんとに辛かったろうなー」
 でも、もう大丈夫だとグラニテは言った。
「地球はいい星だぞー。わたしたちアイスエルフも、はじめは敵対してたけどー……仲間を助けてくれたり、行動でも証明してくれてなー?」
 だから、とグラニテは言う。
 今度は自分達も、グランドロンを受け入れる側に立ちたいと。
 かつて敵対していたアイスエルフを、地球が受け入れてくれたように。
「グランドロンー、一緒に生きていこー! きらきらな世界を、営みを、きみたちと一緒に過ごして、見ていきたいんだー!」
 その一言を最後に、船の全てがコギトエルゴスムへと変じ――。
 グランドロンは光に包まれ消滅した。

●四
(「コギトエルゴスムはこれで全部かしら?」)
(「そうだな。こちらも回収完了だ」)
 篠葉と槐は頷きを交し合い、ぱんぱんに膨れたアイテムポケットを押さえた。
 グランドロン消滅から数分。神造レプリゼンタや残党を撃破した5チームと合流した篠葉らは、いま他チームと協力してコギトエルゴスムの回収を終えたばかりだった。
(「マスター・ビースト勢力も、これで終わりね」)
(「ああ。今度こそ、奴らも安らかに眠れるといいがなぁ」)
 レミリアと双吉が神造レプリゼンタ達に黙祷を捧げると、彼方から光を灯したヘリオンが向かって来るのが見えた。
(「迎えが来たようですね」)
(「重畳。この『ふわふわ』とも、ようやくお別れだ!」)
(「帰りは随分、賑やかになりそう」)
 ヘリオンに向かって手を振るかごめとオニキス、そして無月。
 その傍で、グラニテは地球に重ね合わせたコギトエルゴスムを、優しく掌で包む。
(「ありがと、グランドロン。一緒に帰ろうなー」)
 第二の故郷、地球。
 その惑星は静かに、青い輝きを湛えていた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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