ふかふかぬくぬくプリズン

作者:星垣えん

●大きくならないパターン
 風が吹けば、冷たさに体が縮む。
 11月の草原、それも夜の草原となれば、到底薄着では過ごせないほど寒かった。遮蔽物のない空間を吹き渡る風は、まるで魔法のように熱を奪い去ってゆく。
 ――そんな暗く冷え切った場所に、布団乾燥機はぽつんと捨て置かれていた。
 随分と汚れた乾燥機だった。きっと長く家庭の眠りを守ってきたのだろう、温風を送りだすノズルは所々破れ、ボタン類など文字が擦り切れてどれがどれやらわからない。
 だから、捨てられるのも仕方ない運命だったのである。
 あとは朽ち果てるのを待つばかり――と、布団乾燥機さんが「スヤァ」と瞼を閉じたときだった。(イメージ)
 空からひらひらと、光を照り返す極小の何かが降りてきたのだ。
 言わずもがな、ダモクレスさんである。
 超極小ダモクレスさんはひらりと草の上に降り立つと、一直線に布団乾燥機さんへと走り寄った。そしてボディの隙間からするっと自身を滑りこませる。
 その瞬間、運転中を示す布団乾燥機さんのランプが、強烈に輝いた!
「フカ……フカフカ!!」
 そしてぴょいーんと跳びあがった!
 ダモクレスと合体したことにより往年の輝きを取り戻した布団乾燥機さんは、にょきっと脚が生えていた!
 脚が生えただけだった!!
 ……いや本当に、脚が生えて、カタコトで喋りだすだけだった。
 巨大化とかそーゆー映える変形とかまるでなくて、至って普通の家庭用サイズだった。
「フカフカァ……フッカフカヤデェ……」
 ぺたぺた、と草原をどこかへと歩きだす布団乾燥機さん。
 これは湿気った布団を求めていますね。
 湿気った布団を乾燥させたがっていますね、間違いなくね。

●もうそろそろ布団の季節ですから
「みんな! 押し入れで眠っていたお布団は持ってきましたか!?」
「これから寒くなる時期に、チャンス到来ってやつだよ!」
 ヘリポートに足を運んでみたら、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)と御手塚・秋子(夏白菊・e33779)が布団一式を両腕に抱いていた。
 しばらく理由を考える猟犬一同。
 当然ですが、全然わかりませんでした。
「布団乾燥機が! ダモクレスになったんだよ!!」
 幼女がぬいぐるみでも抱えるみてーに布団を抱えている秋子が、くわっと放つ。
「ふっかふかの! ほっかほかなんです!!」
 大きな布団が抱えきれなくて端を引きずってしまっとるねむが、くわっと放つ。
 それで猟犬たちは察した。
 あーなるほどダモさんが電化製品にくっついたパターンですね、と。
「布団乾燥機が捨てられていた場所はひとけのない草原でしたが、いつグラビティ・チェインを求めて人里に下りるかわかりません!」
「だから被害が出る前に、布団を持っていかないと!」
 ねむの状況説明を補足するようで、意味不明なことを言いだす秋子。
 ――が、実はまるで的外れなことを言っているわけでもなかった。
「ダモクレスは布団乾燥機の心を受け継いでますから、湿気がたくさんの布団があったら乾かさずにはいられないんです! だからこう、布団をぽいっと出せばそっちに飛びついてくるはずです!」
「つまりふかふかおふとんなんだよ!!」
 なぜか拳を握るねむ&秋子。
「しかもダモクレスと合体したことで、布団乾燥機の乾燥能力は格段に上昇しています!」
「10枚や20枚、余裕の余裕でふかふかにしてくれるらしいよ! おまけについつい眠くなっちゃうフレグランスまでつけてくれるとか!」
 なぜかどんどん語気が強まるねむ&秋子。
「最近寒くなってきたしね。気温の低い日とかなかなか布団から脱出できない……」
「ねむもわかりますよ、秋子ちゃん!」
 なぜか朝の惰眠トークに花を咲かせるねむ&秋子。
 ここで猟犬たちはまたも察した。
 ダモクレスと合体した布団乾燥機のもとへ急行し、ジメジメっと湿気った布団をふかふかおふとぅんに変えてもらい、その中に滑りこんでぬくぬくする。
 それが本日のお仕事らしいですね。
「さあ、それじゃわかりましたね! わかったらすぐに出発です!」
「ただでさえ夜だから眠いのに……今日は大変な戦いになりそうだね!」
 わーわーと騒ぎつつヘリオンに走ってゆく2人(と布団)。
 かくして、猟犬たちは湿気でへたってきた布団を乾燥させに行くのだった。


参加者
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
マイ・カスタム(後期型・e00399)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
ユーシス・ボールドウィン(夜霧の竜語魔導士・e32288)
御手塚・秋子(夏白菊・e33779)
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)
長田・鏡花(アームドメイデン・e56547)

■リプレイ

●三千里でも行きますよ
 夜の草原。
 見通しも利かぬ暗さの中を、叢雲・蓮(無常迅速・e00144)と陽月・空(陽はまた昇る・e45009)はしかしずいずいと進んでいた。
「ふかふかのお布団……楽しみなのだよ~♪」
「早くフカフカのぬくぬくのお布団に入りたい……」
 どう見てもウキウキの2人。
 蓮はお休みセット一式(布団+毛布+ペンギンぬいぐるみ)を抱え、空は布団を詰めた収納袋2個を持ってパタパタと飛んでいる。
 明らかにケルベロスの仕事風景ではないと思う。
「何だかピクニックに来たみたいだね」
「確かにそう見えなくもないわね」
 小柳・玲央(剣扇・e26293)とユーシス・ボールドウィン(夜霧の竜語魔導士・e32288)が少年たちの背中を、保護者ばりの穏やかさで眺める。
 保護者ばりの穏やかさで、玲央はまんまる太った風呂敷を、ユーシスは無数の収納袋を抱えていた。
「寝心地アップは冬の準備に必須だよね♪」
「最近冷え込んできたし……布団をふかふかにする機会に恵まれてよかったわ」
「ベッドのマットレスなんかも持ってきたかったけど……それはさすがに無理だよね」
「どうかしら……乾燥云々の前に搬出搬入が大変かもしれないわね」
 家やら旅団やらで使っている布団を抱え、真剣に話す2人。
 完全に冬支度のことしか頭にない2人は、やはりダモを殺りにきた顔ではない。
 だが玲央とユーシスはまだ常識的なほうである。
 2人の後ろに形成された――布団山積みの壮大な車列に比べれば。
「ちょうど冬用の布団や炬燵を下ろそうと思っていた所だから助かるわ」
「同感です。近頃は部屋のお布団のメンテナンスが出来ていなかったので」
 大量の布団を搭載した台車、大八車を押して進むのはアウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)と長田・鏡花(アームドメイデン・e56547)である。
 アウレリアの台車の上にはパッキングされた冬用布団類と、洗濯済みの秋用布団類ががっつり縦積み。鏡花の大八車(調達元不明)にもビニールシートとカバーでくるまれて俵みたいになってる布団がどかっと積まれていた。
 そしてその後ろにさらに、2台のリヤカーががらがら。
「お布団ふかふかチャンスを逃すわけにはいかない! 夏に干しきれなかったお布団も、冬用お布団も枕も毛布も全部持ってきた!」
「……これもう仕事でも何でもないよね……私が言うのも何だけど……」
 御手塚・秋子(夏白菊・e33779)とマイ・カスタム(後期型・e00399)が、こんもり布団類が積まれたリヤカーをぐいぐいと引いて進む。
 故郷を追われた者たちが家財一式もって新天地を求めている。
 と言われればワンチャン信じられるぐらいクレイジーな隊列で、行軍する猟犬たち。
 すると。
「みんな、前」
 飛んでいた空が前方を指差した。
 そちらへ目を凝らす仲間たち。
「フッカフカァ……!」
 ダモさんがいた。
 円を描くようにぐるぐると、巨大な布団乾燥機が歩き回っていた。

●コインランドリー的な
「フカフカァ!」
「なるほど。これが布団乾燥機ダモクレス」
「壮観と言ってもいいね」
 巨大家電ダモさんを見上げるマイ&玲央。
 とりあえず草の上にシートを敷き、そこへ布団を置く。するとダモさんのボディからしゅるしゅるとノズルが伸びて、迷いなく布団の中に差しこまれた。
「フカフカァ!」
 ノズルから大パワーの熱量が放出。
 内部が温まるのを確認して、マイたちはよしよしと笑った。
「これならすぐ布団もふかふかになりそうだ」
「よしどんどん乾かしていこう」
「これとこれと、あとこれも……」
「来客用の布団も頼もうかな。泊まる人に気持ちよく過ごしてもらえるといいよね」
 持参した布団を次々とダモさんに提供する2人。ノズルはどんどん布団や毛布に差しこまれ、旅団の備品は見る間に最高の状態に仕上げられてゆく。
「では私たちも布団をお願いしてみましょうか」
「うん! ふっかふかにしてもらうのだよ~!」
 マイたちに倣って動き出す蓮と鏡花も、抱え上げた布団をダモさんの前に下ろす。蓮のお休みセット一式、鏡花の大量の布団(友人たちからも預かってきた)にもすぐさまダモさんの熱気ノズルが入る。
 それを見て取ると、2人はダモさんにあるモノを掲げた。
「このぬいぐるみもふかふかにしてくれると嬉しいのだよ~!」
「……こたつ布団も預かっているのですが、これもお願いしても?」
 抱き枕ばりに大きなペンギンのぬいぐるみをフリフリする蓮。うかがうような上目遣いを送る鏡花が持つのは言葉どおりのこたつ布団だった。通常の布団乾燥機であれば適用外だ。
 しかし、ダモさんは仮にもデウスエクスなんだ!
「フカフカァ!」
「やったー! ありがとうなのだよ~!」
「助かります」
 快諾してくれたダモさんは、それ専用のノズルを作って伸ばしてくれました。
 布団のパッキングをほどいていたアウレリアは、きらりと目を光らせる。
「色々と乾燥させてくれるのね……なら持ってきておいて正解だったわね」
 夫のアルベルト(ビハインド)に頼み、台車から荷物を持ってきてもらうアウレリア。
 シートの上にどさどさと置かれたのは、家で使っているラグマットやクッションカバー。
「これの乾燥もお願い出来るかしら」
「フカァ!」
「あと犬と猫も使う物があるから、それは香り無しか控え目にして下さる?」
「フカァ!」
 ばっちこい、と言わんばかりのダモさん。専用ノズルを作るほどフレキシブルに対応してくれるダモさんにとっては朝飯前の注文だった。
 しかも、設定できるのは香りの有無だけではない。
「ダモさんダモさん。これはフローラル。こっちはシトラスに出来る?」
「フッカフカァ!」
 ダモさんの前に供えるみたいに並べた布団(家にあったもの全部)を指差しながら、細かな注文をつける秋子。その一つひとつにダモさんは的確な対応をしてみせて、各種安らぎのフレグランスが布団たちから香りだす。
 秋子は、軽く感動していた。
「なんて偉い子……3ヶ月ごとに出てきてくれないかな……」
「そうね。そうしたら大助かりよね」
 布団のお供えを済ませて仕上がりを待つばかりのユーシスが、秋子の言葉に頷く。猟犬たちが持ちこんだ大量の布団を張りきって乾かしてくれているダモさんを見る目は、なんかもうすごい穏やかである。
 ……たぶん、ヘッドフォンで音楽を聴いてるせいだと思う。
「仕上がるまではやることもないし、リラックスして待ちましょ」
「うん。人事を尽くして……だね」
 地面に敷いた広々シートにちょこんと座っていた空が、首肯する。
 せっかく乾燥させた布団が湿ってはいけない、という一心により、空はブルーシートの上に湿気取りシートを重ねて最高の環境づくりをすでに済ませていた。
 で、羽毛布団が仕上がるのを待ちわびていた。
「これでおやすみの準備は万全……早くぬくぬくしたい」
「寒いものね。おばちゃんも同じ気持ちよ」
 タコのごとくノズルを荒ぶらせて鋭意作業中のダモさんを見つめて、空とユーシスは肌寒い秋の空気にちょっとだけ体を震わせた。

●抗えぬ魔力
 少し手で押しこめば、ふわふわの柔らか感触。
 ばっちり仕上がった布団を畳みながら、アウレリアはダモさんの仕事ぶりに感服した。
「やっぱりデウスエクスね。完璧だわ」
 パッと聞いただけでは意味わからんことを言いながら、布団を袋へ収納するアウレリア。
 秋用は圧縮して。冬用は密封するだけで。
 しかし量が多い。アウレリアとアルベルト、義妹、2頭の犬と3匹の猫の分とあるのですぐには終わりそうもない。アルベルトは手伝おうと近寄ってきた。
 が、アウレリアはそれを制止した。
「アルベルト、気持ちは嬉しいのだけれど二度手間になってしまうから……」
「……」
 かぶりを振るアウレリア(綺麗好き)。それを見てアルベルト(大雑把)はしょんぼりと引き下がり、妻が敷いてくれた布団にもぞもぞと入る。
 そんな家庭あるあるの一方。
 蓮はふかふかの布団の中でごろごろしていた。
「お外でおやすみするのなら……この必殺技を使うしかないのだよ!」
 カッ、と目を見開いた蓮が体に被せていた掛け布団を取り払う。
 するとその下には、毛布2枚でサンドされるというぬっくぬくの状態が!
「上と下の毛布でサンドイッチ! ふかふかのお布団にふかふかの毛布2枚に包まれれば、すぐ寝れちゃうのだよ……」
 大きなペンギンのぬいぐるみ(名付けてペンキング)を抱きこんだ蓮が、じんわり温かな感覚にうとうとと舟を漕ぐ。
 ――猟犬たちは、シートの上に並べた布団に揃って潜りこんでいた。
 いわく! 布団の仕上がりを確かめるために!
「フカフカとぬくぬくのお布団……良い匂いと……草原だから空が綺麗……」
「乾燥の完了した布団……これほどですか……」
 ふかふかお布団に首まで埋まり、ぼんやりと夜空を見上げる空と鏡花。
 露出した顔は秋の冷たい空気にさらされているが、それがまた体のぽかぽか具合といい対比になっていて、2人の瞼はどんどんと重くなってゆく。
「うん……これはもう……動きたくない……」
「……これはいけません、討伐対象を悪魔の機械と、認定……」
 スヤァ。
 猟犬が2人、1分と経たず寝落ちしていた。
「もう寝てしまったみたいだね」
「仕方ないよ。私もバニラアイスがなかったらどうなっていたか……!」
 沈黙した空と鏡花に、2人と同じく布団に潜る玲央が首を向ける。近くに寝ていた秋子は玲央の言葉に答えながら、買っておいたバニラアイスをぱくっと一口。
 寒い野外でぬくぬくの布団を被り、冷たいアイスを食べる。
 それは背徳というほかない甘美だった。
「お布団の中のバニラアイス最高ー♪」
「確かに、これはなかなか味わえない至福かも……」
 秋子から貰ったアイスをぱくっと食べて、やはり顔を綻ばせる玲央。
 秋子は横に向いていた体を仰向けにして、星の輝く空を見上げた。水着型のパジャマを着ているから幾分か肌の露出が多くて、それが直に温かい布団に当たるのは得も言われぬ気持ちよさである。
 急速に眠気が襲ってきて、秋子の瞼が蕩けだす。
「な、何て強さだ。しかし私は屈しない! まだごろごろしながらお菓子を食べ……」
「ふかふかお布団、とてもいいもの……だ……」
 寝た。
 秋子も玲央も、布団の魔力に抗えず寝た。
 高級セミダブル羽毛布団(私物)に埋もれていたマイが、焦燥に震える。
「くっ、御手塚さんと小柳さんまで……このダモクレス、無敵か……」
「恐るべしダモクレス。こうやって人々を堕落させる作戦に目覚めたのね……」
 ユーシスもダモさんの素晴らしい手際に舌を巻く。
 もちろん布団を被りながらである。
 声だけはそこそこキリッとしているが、顔にはアイマスクとヘッドフォンがついてるし、低反発枕に乗せられた頭はさっきからミリも動いてねえのである。
 布団チェックと称してから、もう何十分もこの体勢だった。
「体が重いわ……疲れてたのかしらね……」
「それはいけない。ケルベロスなら体調管理も仕事のうちだと思う。だからこう……もう……眠くてどうしようもないって時に眠っていいのって……最高に幸せだよね……」
 段々と言ってることの繋がりがバグってくるマイ。
 この依頼に赴く直前まで完徹ぎみに旅団業務に追われていたマイさんには、お布団の魔性から逃れる術などなかった。
 つまりユーシスもマイも寝落ちした。
 かくしてぐっすり御就寝する猟犬一同。
 布団を畳んで収納していたアウレリアもようやく作業を終えると、うーんと体を伸ばしてから、膝立ち歩きですすすっとアルベルトが待つ布団へ向かう。
「お待たせ、アルベルト。そんなに寂しそうな顔をしないで?」
「――」
 布団をひらいた夫の腕の中へ、その身を預ける妻。
 ――ちなみにロマンチックな展開とかゼロで、すぐさま眠りに落ちました。

●眩しい朝日
 数時間後。
 空には輝かしい太陽が昇っていた。
 その朝日に目を細めつつ、熱々のコーンスープを啜る空。
「ぬくぬくのお布団から草原で飲むスープって良い」
 キャンパー顔をした空が、ちぎったパンをコーンスープに浸して食べる。これは快適な睡眠で眠気ゼロになっちまいましたね、間違いありません。
 その後ろで、鏡花は静かに布団を畳んでいる。
「つい寝てしまいました……」
「いや仕方ないさ。あれは私たちが抗える力ではなかったよ」
「そうそう。体が欲することには正直でいるのが一番だと思う」
 やっちまった感に肩を落とす鏡花の背を、両サイドからぽむっと叩くのは玲央とマイ。
 温かな布団で一夜を越えた2人は、近年稀にみるぐらいスッキリとしております。
 だが誰もがそうシャッキリと起床できるわけではない。
 むっくりと毛布サンドイッチから上体を起こしている蓮は、ペンキングを両腕で抱いたままほけほけと左右に揺れていた。
「そろそろ起きないとダメよ?」
「んー……もうちょっと寝たいのだよママ……」
「ほらしっかり。私はママじゃないわよ。ママといえばママだけど」
 寝ぼけまくりの蓮の体を、ゆさゆさするユーシス(ホステス業)。布団と毛布を剥いで起きるよう促すが、目を離すとまた毛布サンドしてる蓮くんはなかなか活動状態にならなかった。
 そして、起きられないのはもう1人――。
「おふとぅんから出たくないぃ……」
「もう朝よ。それじゃダメ人間だわ」
 アウレリアに声をかけられても、頑として布団から出てきやがらない秋子。
 機転を利かせたアウレリアが冷たいバニラアイスを口元に差し出すまで、秋子さんは布団を抱きこんで亀のように縮こまっていたという。

●ホーム
 草原に風が吹くと、散らばっていた機械部品がころころと転がった。
「ふかふかをありがとうなのだよ~」
「ありがとうダモさん、気持ち良く寝れたよ」
 転がりゆく部品へ手を振る蓮と空。
 良き眠りをもたらしてくれたダモさんは、あっさりぶっ壊されていた。
 だってもう布団は乾燥させたし快眠もしちゃったからね、仕方ないね。
 大量の掛布団を包みなおしながら、玲央はくすりと笑った。
「今日は本当にいい日だったな♪」
「布団を部屋で使うのが楽しみです」
「キャンプもよかったけど、やっぱり家で寝るのが一番よね」
 鏡花とユーシスが揃って玲央の言葉に同調する。
 かたや両腕に収納袋を抱え、かたや大八車に布団類をどかっと乗せて、帰り支度は万端だ。
 ホームへ帰ろう。
 アウレリアはアルベルトと一緒に、台車の取っ手を握った。
「さ、行きましょう、アルベルト」
「これで旅団で過ごしやすくなるな。過ごしやすすぎかもしれないが……」
「いざ帰還! ……それにしても皆でやると完全に行軍だね!」
 歩き出したアウレリアたちに続き、がらがらとリヤカーを引いて出発するマイと秋子。

 帰ってゆく猟犬たちを、草をなでた風が追う。
 優しい香りが、一同の鼻をくすぐった。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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