祈里の誕生日~きらきらの天然石

作者:狐路ユッカ


「うーん……うー……ん?」
 秦・祈里(豊饒祈るヘリオライダー・en0082)は、ビーズデザインボードに天然石を置いては取り、置いては取り……を繰り返して、唸っている。
「どうしたの? 祈里」
 エルヴィ・マグダレン(ドラゴニアンの降魔拳士・en0260)は、眉間にしわを寄せて唸っている祈里に問う。
「デザインが……決まんなくて」
 天然石のアクセサリーを作るのが趣味、という祈里に、エルヴィは身を乗り出してケースの中の石をのぞき込んだ。
「結構減ってるのね、そろそろ仕入れないとなんじゃない?」
「だよねぇ……買い足すにしてもどれにしようかなーって」
 あっ、とエルヴィは声を上げる。
「私、良い情報持ってるのよ」


「というわけでね、奇しくも祈里の誕生日とそのミネラルマーケットが被ってるのよ」
 エルヴィは一枚のチラシを取り出す。
「僕だけで考えてもなかなか良いアクセサリーができなくて……まあ、ネタ切れってやつなんだけど、もしよかったらそこで購入した石でみんなにアクセサリーを作らせてほしいんだよね」
 アドバイスをもらえたら助かるなぁ、と祈里は身に着けているアメシストを揺らす。
「マーケットでは、ブレスレットに加工できる丸石や加工用のルース、すでにアクセサリー加工されている天然石、原石やクラスタなんかも売っているわ。興味のある人は一緒に行かない?」
 きらきらしてとても綺麗よ、とエルヴィは笑う。
「天然石にちなんだドリンクやスイーツを出すカフェも開いているみたいだね。いつもお世話になってるみんなに、ぜひ楽しんでもらいたいな」
 そういうと、祈里はさっそくヘリオンへとケルベロスたちを案内するのであった。


■リプレイ


「なかなか面白い催しだったなぁ」
 アクレッサス・リュジー(葉不見花不見・e12802)は、十分にマーケットを見て回った後、恋人であるブラッドリー・クロス(鏡花水月・e02855)とともにカフェのソファにゆったりと腰かけた。
「ちょっとかっこいいタイピン見つけたんで買ってみたよ」
「わ、すごくきれいだね」
 アクレッサスが取り出したのは、金色のタイピン。そこには、ブラッドリーの瞳の色と同じ赤い天然石がついている。
(「もしかして、この色……」)
「ブラッドリーは何買ったんだ?」
 胸の奥がふわっと熱くなるのを感じながら、ブラッドリーも購入したものを取り出す。
「スファレライトみたいな、綺麗な黄色でしょう」
 色合いは、アクレッサスの瞳と同じ金色。
「この色合いは貴方のイメージ、新しいスーツも買ったし素敵でしょう」
 にこり、と微笑むと、アクレッサスも笑顔を返す。
「綺麗な色だ。ブラッドリーに良く似合いそうだ……」
 もちろん。だって、僕には『貴方』がよく似合うのだから。
「今度はスーツで出かけるのも楽しそうだな」
 いいね、と頷き、メニューに視線を移す。
「……よし、俺はルビーカクテルにしようかな」
「あ、それ、僕も飲みたいと思ってた!」
 決まりだな、と頷き、先にドリンクを注文する。
「あとは何か摘めるもの……この色んな鉱石に見立てたゼリー寄せとかサラダとか頼んでみようか。ブラッドリーはどうする?」
「……そうだな、ねぇみて、これ、ダイヤモンドを模したののっけたケーキだって」
「ダイヤのケーキか。綺麗でなんだか食べるのがもったいないな……写真に収めてから一緒に食べよう」
「うん」
 ――……知ってるかな、ダイヤモンドの石言葉。
(「アークと一緒に食べれたら、それが叶う気がして、なんて、ね?」)
 アクレッサスの傍らにいるボクスドラゴンが、二人の顔を見上げて嬉しそうに一つ声をあげる。
「はこも一緒に食べよう、きっと、おいしいよ」
 注文を終えると、ちょうどカクテルがやってきた。愛の象徴を関するその宝石を模したカクテルは、悠然とグラスの中できらめいている。
 グラス越しに、視線が合う。
「こうやって、一緒に過ごせて幸せだよ」
「こうやって二人で過ごせて幸せだ」
 二人同時に同じことを言って、少し、笑って。
 軽く、グラスを合わせる音を優しく響かせた。


 銀鎖に、水晶、サファイア……ブルームーンストーン。丸い石を繋いでいく。
 ――サファイアは、移り気な女が持つとその色を濁らせてしまうという言い伝えがある。御影・有理(灯影・e14635)の手の中のサファイアは、どこまでも澄んだ蒼だった。一途で誠実な愛を表すように、美しく煌めく。永遠の愛を意味するブルームーンストーンは、一見すると水晶のようにも見えるが、そこに青いシラーが入ることで角度によってさまざまな表情を見せてくれる。
(「いつも私を抱きしめてくれる彼の大きな手を取って、これからも傍に寄り添って、ずっと一緒に歩んでいけますように……」)
 願いを込め、そして、共に在るほどに深まっていく愛を伝えるために。
 集中してブレスレットを作っている彼女の傍らで、鉄・冬真(雪狼・e23499)もまた、石を繋いでいた。お互いに何を作っているのかは告げていない。
 細い銀鎖に雫型の天然石を繋げていく。大きく、アクセントとして入れるのはルビーだ。その燃えるような深い愛を表す赤、そして、傍らには柔らかな桃色のローズクオーツ。女性の美しさやパワーを引き出す石として有名である。そして、すべてを調和させる力を持つ水晶は小ぶりなものを選んだ。
 華奢な有理の手首にこれが煌めくのを想像して、満足げにため息を一つ。
 細く、柔らかな女性である彼女だけれど、その手に救われたことは一度や二度ではない。優しく、愛らしいだけではない、強く守っていてくれる――そんな妻への変わらない愛を込める。
(「喜んで貰えるといいな」)
 完成間近、冬真は有理の手元をのぞき込む。
「有理は何を作っているのかな?」
 そこには、ブレスレットが。
「!」
 振り向いた有理も、冬真の手元を見て微笑む。
「冬真もブレスレットを作ってくれてるの? ふふ、お揃いだね」
 同じ部位に着けるものを作っていたことに、なんだかうれしくなってしまう。
「ね、冬真はどんな石を選んだの?」
「僕が選んだ石? これだよ」
 取り付ける前の天然石を見せて、囁く。
「君を守ってくれますように、絆が深まるように……君との変わらぬ愛を願って」
「あ……」
 示し合わせたわけでもないし、石の色味も種類も違う。それでも、彼が選んでくれた暖かな色の天然石の数々には彼女と同じ思いが込められていた。
 ――今日も相思相愛、嬉しくてたまらない。
 漆黒の瞳を見つめれば、愛おしさが募ってゆく。冬真も、同じように彼女の琥珀色の瞳をのぞき込んだ。嬉しくて、たまらなくて、自然と笑みがこぼれる。
 気づけば、その唇を軽く重ねていた。
「これからもずっと、私は冬真の傍にいるよ」
 有理の誓いの言葉に、頷く。
「うん、これからも、よろしくね、有理」
 帰り道、繋ぐ手には優しく光るブレスレット。互いが互いを引き立てあうように、美しく。


 赤、青、緑……美しい天然石が、光を受けてきらきらときらめいている。まるでそこは星空を零したかのような空間。
「わぁ……素敵……!」
 リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)は、大好きな天然石であふれるマーケットに興奮を隠せない様子で、傍らのウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)を見上げる。
(「大好きな天然石で溢れるマーケットで、大大好きな旦那様とおでーと……幸せっ」)
「ルルの好きそうなものが色々あるね」
 ウリルは、幸せそうな妻の顔に微笑み、絡められた腕のぬくもりを感じながら周囲を見渡した。
「ほら、カフェとか」
「カフェもあるの? 行く行く!」
 リュシエンヌは、カフェに向かってまっしぐら。
「へえ、アメシストゼリーというのもあるみたいだよ」
 席に着くと、ウリルはメニューを見てから、向かい合う妻の顔を覗き込んだ。その紫の瞳は、アメシストによく似ている。
「天然石のイメージのスイーツなの? どれも素敵で悩んじゃうけど……石を選んでお任せにする!」
 ウリルの誕生日石である、サンストーンを選び、注文する。
「誕生日の石?」
「そう、5月10日の石の中の一つはサンストーン。太陽の石なの」
「そうなのか、知らなかったな」
「すごく綺麗なの……うりるさんのイメージにもぴったりなの」
 だって、ルルの太陽だもん、と頬を赤らめる妻に、ウリルは、微笑む。メニュー表に載っていた天然石は綺麗だと思うけど、傍らに居る妻のように詳しくないのでよく判らない。
 ――でも、その言葉が嬉しい。
(「……俺の光は君なのにね」)
 その屈託のない笑顔が、どれだけ救いになるだろう。心の中でそっと思う。
 リュシエンヌは、自分のアメシストに彼が映るのを感じ、幸せに瞳を細めた。
「えと、うりるさんは何にするの?」
「じゃあ、ルルが選んで?」
「え?」
「運ばれてくるスイーツの半分は君のものになると思うから」
 揶揄うように笑む。その笑顔にさえ愛がこもっているのだから、リュシエンヌは素直にうなずいた。
「……じゃあ、クンツァイト!」
 何の日の石だと思う? と笑うと、ウリルは少し考えた後に答える。
「もしかして……」
 4月24日。
「うん」
「記念日の石か、素敵だね」
 運ばれてきたのは、サンストーンをイメージしたクラッシュゼリー。ブラッドオレンジとソーダのゼリーがきらきらと光っている。そして、クンツァイトの淡いラベンダーとレモンのゼリータルト。
「わあ、どっちもとってもきれい!」
 食べるのがもったいないほどだ、とリュシエンヌはうっとりする。けれど、甘くとろける香りには敵わず、ひとくち。
「ねね、次はアクセを見に行きたいな。うりるさんに似合いそうなイヤカフを見掛たの」
 いいよ、いこうか、と頷く。
「俺も何か選びたいな、君へ」
 互いに贈りあうプレゼントは、きっと何より輝くはずだ。


「あ!」
 天雨・なご(どっちかの夜は昼間・e40251)は、レヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)と共にこのマーケットにやってきた。そこで、秦・祈里を見つけたのだ。
「祈里は誕生日おめでとうね、お店教えてくれてありがとうね」
「なごくん、楽しんでいってね……って、主催者じゃないのに変だね。もしわからないことがあったら力になるよ」
「祈里、誕生日おめでとう!」
「レヴィンさん、ありがとう! なごくんと一緒なんだね」
「同居してるなごに『ブレスレット作りたいから手伝って』って言われたんだよなー」
「うん」
 にこ、と笑ったなごに、祈里はふんわりと笑みを返す。
「素敵なのができるといいね」
「うん、ありがとう!」
 一応いろいろ調べてきたから、まずは自分でやってみるよ、というなごを見送り、祈里は自分の石の買い付けへ向かう。

 一生懸命に石を繋ぐなご。その真剣な視線に、レヴィンは問う。
「ん、誰にあげるんだ?」
「えーと……内緒……」
 隠し事だなんて。レヴィンはちょっぴりショックなような、複雑な気持ちで、軽くからかってやった。
「あ、好きな女子か!? へぇー」
 にやにや、と笑いながら手元をのぞき込むと、そこには黒・赤・水色の石たち。
「ここ、どうしよう……」
「うーん、色の配置とか、どのサイズ使うか迷うなぁ……こんな感じか?」
 寒色と暖色が混ざる場合、水晶で調節するのが丁度いいとなごが持ってきた小さめの水晶を、合間に入れていく。少し大きめな黒い石はブラックオニキスだ。アクセントのように入るのがカーネリアン、ブラックオニキスに寄り添うように、アクアマリンが配置される。
「良い感じ、かな?」
「まぁ、こんなに一生懸命作ってるんだ、きっと喜んでくれるさ。オレが保証してやるよ!」
 な、と笑うレヴィンに、なごは頷く。しっかりとテグスを処理して、レヴィンの手元も確認して……できあがりだ。
「手、出して」
「お?」
 するり、とレヴィンの手首にブレスレットがはめられた。
「……と言うわけで、はい、あげる」
「え?」
「この前敵に襲われてたからお守りだよ」
 宿縁のことだ。すぐにわかった。あげる。もう一度言われて、
「ってなにぃ!? オレにくれるの!?」
「うん」
「涙腺がヤバい……。ありがとう、大切にするよ」
 今にもその瞳から涙がこぼれそうなレヴィン。なごは、少しはにかんだように笑いながら続ける。
「石言葉を調べてきたんだ。ブラックオニキスは、魔除け。カーネリアンは勝利……アクアマリンは、『円満』だよ。お嬢と、これからも仲良く出来るようにって意味も込めて」
「っていうかオレは10歳児に恋路も心配されていたのか……」
「やったね」
 これで安心だね、と笑うなごに、レヴィンはくしゃりと笑う。
(「ボクはキミから沢山楽しい時間を貰ってるから……だからキミも沢山幸せになれますように……。それから……お願いしていいなら、ボクもずっとキミと仲良くいられますように」)
 嬉しそうに何度も礼を言うレヴィンに、なごはそんな思いを抱いて淡く微笑む。その時だ。
「アクアマリン……『絆を深める』か」
「うん?」
 ぽん、となごの頭の上にレヴィンの大きな掌が触れた。
「もちろんお前ともな」
「あ」
「ありがとな、なご」
 その手は、優しくなごの頭を撫でる。楽しくて、嬉しくて。同じ思いで、よかった。
 ――これからも、よろしく、と顔を見合わせ、二人はまた笑った。


 それは、空の色。
 セレスタイト、カバンサイト、ラピスラズリ、水晶を、銀のパーツで繋いで腕輪を作る。
「わあ、綺麗だね……」
 エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)の背後から、祈里は腕輪を覗き込んだ。
「ありがとうございマス、祈里殿。28歳のお誕生日おめでとうございマス」
「わ、ありがとう!」
「素晴らしき一年となりますように。ところで、お時間があれば一緒に喫茶店でも?」
 誘いに、祈里は目を細める。
「喜んで!」
 エトヴァは、ラピスラズリを模したセレスタイトを模したバタフライピーと、ラピスラズリ色のマカロンを注文する。祈里も同じものを頼んで、二人でゆるりとティータイムを始めた。
「……これは綺麗ですネ、石を味わっているみたいなのデス」
 銀の瞳に、青が映る。祈里は、紺色に金箔をちりばめたマカロンを口に運び、頷いた。
「不思議だよね、でも、甘くておいしいな」
「天然石を眺めたり、手に取ったりしているト……不思議ですネ、石が語りかけてくるみたいデス」
 しゃらり、と音を立て、先刻作ったブレスレットをライトに翳すエトヴァ。祈里も、それをうっとりと見つめている。
「祈里殿ハ、石やアクセサリー作りガ、お好きなのですネ」
「うん」
「どのような所に惹かれるのでショウ……お話、お伺いしても良いでショウカ?」
 そうだなあ、と祈里はいつも身に着けているアメシストのネックレスを指先で撫でながら答えた。
「僕もエトヴァさんに似た感覚かも。この石達ひとつひとつ、みんな性格が違うような……そんな感じがするんだ。同じ石でも、優しかったり、強かったり。僕が弱音を吐いたとき、このアメシストの場合は優しく背を押してくれるみたいに光るんだけど、家にあるクラスターは『負けるな! 立ち上がれ!』って強く応援してくるんだよ」
 なんていうと、不思議な子扱いされちゃうんだけどさ、と笑う祈里に、エトヴァはゆるりと首を横に振り、優しく返した。
「わかる気がしマス」
「あとは、そうだね、組み合わせ次第で変わるとこも好きだな」
 祈里の視線は、エトヴァのブレスレットに注がれている。
「空色の腕輪、とても綺麗だね。セレスタイトもカバンサイトも、空、宇宙の石だね」
 ラピスラズリは、幸運の石。そして、銀のプレートに刻まれたアイリスは良い便りを運ぶ花。
「ハイ、Sky blueの腕輪デス」
「きっと、エトヴァさんを守ってくれるね。大丈夫だよ、って言ってる」
 石が。
 そういった祈里と、視線がかち合う。二人は、同時に笑った。とても穏やかな時間を過ごした後、マスカットの香り漂うペリドットのケーキを土産にエトヴァはマーケットを後にする。
 見上げれば、ブレスレットと同じ快晴。行く末を、明るく照らすように。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月27日
難度:易しい
参加:9人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。