城ヶ島制圧戦~ただ一撃の禍に

作者:千咲

●城ヶ島制圧戦
「城ケ島強行調査で『固定化された魔空回廊』が存在することが分かったのは知ってるよね?」
 だから前置きの説明は不要だと思うけど……と赤井・陽乃鳥(オラトリオのヘリオライダー・en0110)が切り出した。
「この固定化された魔空回廊を突破する事ができれば、ドラゴン達が使用する『ゲート』の位置を特定する事ができるのよね。で、『ゲート』の位置さえ判明すれば、調査次第ではあるけど、ケルベロス・ウォーで『ゲート』の破壊を試みることもできると思うの」
 陽乃鳥が、作戦の先にある展望を語って聞かせる。
「ゲートを破壊することができれば、ドラゴン勢力は新たな地球侵攻ができなくなる――つまり、固定された魔空回廊を確保する事は、ドラゴン勢力の急所を押さえることになるの」
 と。
 幸い、先の強行調査によればドラゴン達は『魔空回廊の破壊』は最後の手段と考えているらしい。
「って言う事は、電撃戦で城ヶ島を制圧し、魔空回廊を奪取する事も不可能じゃないってことよね。ドラゴン勢力の侵略を阻止する為、あなたたちの力を貸してくれない?」
 続けて陽乃鳥は、作戦の概要とチームの役割について説明。
「今回の作戦は、仲間の築いてくれた橋頭堡から、ドラゴンの巣窟である城ヶ島公園に向けての進軍なの。そのための経路はもう割り出してあるわ」
 陽乃鳥は画面に地図を表示すると、タッチペンでルートをマークしてゆく。
「もちろん固定化された魔空回廊の奪取は一筋縄じゃいかないと思う。少なくとも途中に待ち受けているドラゴンを撃破する必要があるのね。ドラゴンが強敵であることは間違いないけど、あなたたちなら、きっと大丈夫だから」
 陽乃鳥は、にっこりと微笑んで見せた。
 
●ただ一撃の禍
「あなたたちの前に立ち塞がるドラゴンはね、格闘戦のプロフェッショナルみたいなの。とは言え、ブレスを吐けない訳じゃないみたい……戦いながら、息吹を放つための力を蓄えてるみたいなの」
 陽乃鳥は、そんな説明から始めた。
「カウンター、とも違うみたい……どちらかと言うと、野球で言うサヨナラ逆転満塁打、みたいな? 本当にピンチのときに使う大技『光の息吹』。その一撃にはドレイン効果があって、一気に回復してしまうらしいの」
 と言う事は、これがまともに決まれば勝負は一から仕切り直しとなってしまうということを意味している。
「だから……如何にこの被害を抑えられるかが勝負ね。それまでの戦いはそのための準備と言ってもいい。大袈裟かな!?」
 そんな敵の姿は、かなり白に近い黄色。そう、光の加減によっては金色と見紛うような……。
「でも、逆に言えばそれ以外に特筆すべき力はないってことになるわね。性格はともかく、決して愚かではないみたい。自分の能力が分かっているというか……だから、決してそれに負けないよう、周到に準備して臨んでね。作戦の立て方が勝負の分かれ目――もちろん大丈夫よね?」
 面倒な相手だけれど……と告げ、それからもう1つ、と話を続ける。
「これはチャンスなの。事前にここまでの方針が判明していることは珍しいから。だからこそ、強行調査の結果を無駄にしたくない」
 お願いね!? 陽乃鳥は笑顔を覗かせながら告げたのだった。


参加者
ミケ・ドール(黄金の薔薇と深灰魚・e00283)
月浪・光太郎(岩砕く一滴・e02318)
辻凪・示天(彼方の深淵・e03213)
リディ・ミスト(幸せを求める公園管理人・e03612)
リリィ・ヴェナバラム(星の輝きを手に・e12045)
リユゥ・ジィーン(空飛ぶ竜人降魔拳・e17102)
天月・一樹(虚構の白鴉・e18183)

■リプレイ

●立ちはだかる金色
 ほんの少し前に示されただけのルートを思い浮かべながら、城ケ島公園へと続く道を着実に進むケルベロスたち。
「後に繋がるこの作戦、必ず成功させないと……っ!」
「ドラゴン、ですか……まぁ、敵が何であろうとも、退く訳にはいきません」
 これから対峙することになる強敵との邂逅を前に、自らを鼓舞するように決意を口にするリディ・ミスト(幸せを求める公園管理人・e03612)と天月・一樹(虚構の白鴉・e18183)。
「そろそろ、か……」
 改めて隊列を確認したリユゥ・ジィーン(空飛ぶ竜人降魔拳・e17102)が、再び前を向いて進もうとしたその時、上空から目映い輝きを放つ巨大な敵が舞い降りて来た。
 白に近い黄色――橙の髪のヘリオライダーはそう表していたが、実際に陽光を浴びて反射させている鱗の色はまさに黄金。
(「綺麗なドラゴンですの……」)
 リリィ・ヴェナバラム(星の輝きを手に・e12045)が、素直にその姿を評した。そしてミケ・ドール(黄金の薔薇と深灰魚・e00283)は、
「この金色……確かにとても綺麗だと、思う。でも、その輝きはspiacevole……」
 不快――それが正直な印象だった。
「何色だろうと関係ない。さあ、いざ一世一代の竜退治……冥利に尽きると言うものだ。禍上流殺法十四代伝承者、月浪光太郎……推して参る!」
 斯様に派手な敵を目の前にしても、月浪・光太郎(岩砕く一滴・e02318)には微塵も怯む様子はない。たとえ敵が最強種だろうとも……手を尽くし勝つ。いや、勝つまで手を尽くすだけなのだから。
 同様に、きわめて冷静に敵を観察していた辻凪・示天(彼方の深淵・e03213)は、初めて目にしたドラゴンとは言え、これまでに見てきた敵と大差なはい……そう判断し、すぐに手元の鎖で魔法陣を紡いでゆく。
 同じようにエルボレアス・ベアルカーティス(治療狂い・e01268)もまた、魔法陣を紡ぐ。
「格闘主体か……嫌いではないが、私の本職はあくまで治療……」
 戦闘スタイルは自分も同じ。だが、破壊しかもたらさぬ輩とは決して相容れない、と肌で感じていた。

 そんなドラゴンとの戦いは、舞い降りてすぐに繰り出してきた鋭い爪の一撃から始まった。金色の先にある白い爪が、一樹を襲う。しかしそれを一葉と呼ばれしビハインドがすかさず庇う。
 その伸びてきた敵の腕を踏み台にして、ミケが高々と跳躍。竜の鼻っ面に流星の如き蹴り――予測だにし得なかったその攻撃に、ドラゴンが怒りを覗かせる。
 が、その間に懐深くまで入り込んでいた光太郎が、携えた鉄塊剣を振り上げ、膂力に任せて叩き付けた。
「怒りを向ける相手が違うぞ。さぁ、こっちだ。自分を見ろ……この目障りな影を見ろ!」
 地獄化した顎に、たゆたう炎を纏わせて大声で叫ぶ。
 その声に乗せられて顔を向けたドラゴンに対し、その腕に装着した縛霊手を叩き付けるリディ。その手から、霊気で紡いだ糸が網状になって飛び、敵に絡みつく。
(「なんとなくシンパシーを感じぬでもないが……かと言って手加減する気はない!」)
 リユゥのテイルスイング。大きさだけなら、敵のそれとは比べるべくもないが、破壊力については十分。
 さらにそれに続いて、攻撃あるいは守護の詠唱が戦場に響き渡る。その意味でドラゴンとの戦いは、概ね順調な滑り出しと言えた……。

●ストラテジー
 ドラゴンから見れば目の前に群がる敵たちなど極めて小さな存在。虫ケラを踏み潰すが如く蹂躙するだけのはずだったのに、何故にこれほど互角に戦い得るのか!?
 奴がそんな疑問を抱いたかは分からないが、目の前の敵を鬱陶しいと思ったのは事実のよう。振り向きざまに巨大な尾で辺り一帯を薙ぎ払った。
「……この方が楽だな。この先は間違いなく、来たるべき時のドレインを抑えることこそが鍵になる」
 まるでその瞬間が見えているかのように告げる示天。息吹を喰らうその時のために盾を付けようとしているのだが、ブレイクされては元も子もない。その意味で、爪を喰らうよりも単純なダメージでしかない尾の方が助かる。
「傷の処置は私に任せてもらおう」
 エルボレアスが薬液の雨を降らせながら告げる。
「ドラゴンは少しだけ怖いですけど……心強いですの」
 リリィのルーンアックスが、込められた呪力を解放し、輝きを増す。それを渾身の力を振り絞って叩きつける。
 続いて一樹が斬霊刀を構え、今しがた斧によって付けたばかりの傷痕を貫き、押し拡げる。同時に一葉はポルターガイストで手近な石を飛ばして攻撃。
 さらに他の面々の苛烈な攻撃が続く。
 相次ぐケルベロスたちの猛攻に、ついにドラゴンが叫ぶような声を発した。だが、それもほんの一瞬。
 輝ける竜は、僅かその一瞬で作戦を切り替えた。
 再び竜の爪が閃く。ターゲットは前衛のミケ。その華奢な身体に大きな爪痕が刻まれる。
「このくらい、どうと言う事もない……」
 攻撃手として、今、手を休める訳にはいかない。そんな想いでゾディアックソードに宿した力を解放――重力を乗せた長剣を、勢いのままに叩き付けた。
「貴様のその力は自分に向けてみろ! そして、できるものなら砕いてみろよ、その一撃で!」
 蹴りを繰り出しては下がり、さらなる挑発を重ねる光太郎。しかし、後衛からヒット&アウェイを重ねる彼を捉えるのは難しい。
(「……卑怯と言うなかれ。これぞ弱者の戦い方!」)
 こうして敵の気を引いている間に、エルボレアスが緊急手術と称して攻撃手の傷を癒す。足りない分は、攻撃をサーヴァントに任せ、示天が魔法陣による守護で補う。
 しかしながら、やはりドラゴンの攻撃は重い。
 その事実を痛感しつつも、負けられない戦いである以上、ギリギリまで全力を尽くすしかない。
「たとえ誰であろうとも、私の幸せ、奪わせない! 絶対!」
 感情を迸らせたリディの元から、激しい疾風と雷撃が起こり、光竜を襲う。
 皆と一緒に居られなくなる未来……そんな未来はあってはならないもの。そんな感情が爆発し、嵐を巻き起こしたのだった。
 しかし、敵の巨大な爪はその嵐すらも切り裂き、迫る。なおも一層猛る風。その自然の猛威が純然たる悪意を押し返した。
 その時、後方に回り込んで機を狙っていたのはリリィ。手にした無数の礫で竜を狙い撃つ。
 さらに一樹がその隙を縫って太刀を閃かせる。同時に一葉も金縛りで敵を押さえようと試みるが、そちらは、巨大過ぎる敵ゆえに効果のほどは定かではない。
 負けられないという想いは誰にとっても共通で、リユゥも指先に想いを同じくらい強力な力を集め、敵の気脈を断ちに掛かるも、効果のほどは自信が持てなかった。
(「やはり、ダメージソースが重要ね……」)
 ミケが改めて攻撃手の本分を果たすべく、再び、敵の目の前に躍り出る。
 他の面々もまた、それぞれのポジションで攻勢に出る。回復役は、エルボレアスに一任するような恰好。
 こうした戦況の変化とそれに合わせた対応により、始めはほぼ互角と思われた戦いは、次第にケルベロス側優位に傾いてきていた……。

●ただ一撃の禍
「いきますの……!」
 竜には竜を――リリィが竜語魔法を詠唱。呼び出されし竜の幻影が光竜に向かって炎を吐く。業火に包まれた怯む敵。だが、その直後、目の前の竜は大きく息を吸い込むように首を持ち上げた。
「例の一撃ですの!」
 仲間たちに、身構えるよう促す。
「まだだ……まだ手は打てる……」
 が、それを耳にしてもなお、示天は寸前まで手を尽くすべく、地面を這わせたチェインで幾度目かの守護魔法陣を展開。
 その直後、ドラゴンの顎が大きく開き、煌々と照らす目映ゆい光のような息吹が、ケルベロスたちの頭上に降り注いだ。
「くっ……」
 肉体的な苦痛はない。しかしリユゥの口からは意図せぬ苦悶の声が漏れる。
 ただ一撃――その為だけに力を溜め続けたドラゴンのその一撃は、一切の抵抗を許さぬかの如き強引さで、前衛の面々から力を奪い取っていった。
 ディフェンダーが威力を半減させたにも関わらず体力の半分以上を、クラッシャーに至っては、十分に残していた筈の体力の殆どを……。
「だが……勝てない相手じゃない……」
 ドレインによって奴が回復したダメージは、せいぜい2,000かそこら。総掛かりで攻撃すれば十分に取り戻せる程度のはず。
 わずかの間にそこまで計算してのけた示天の言葉を端に捉えながら、皆が辛うじて無事なことを確かめた一樹とリリィがそれぞれポジションを移す。一樹は攻撃偏重のスナイパーに、それに代わってリリィがディフェンダーに。
「はは、さすがは最強種だ、自分の攻撃など脆弱だろう、鬱陶しいだけだろうとも……だが、その弱者の一太刀、喰らってみろ!」
 上唇を吊り上げて、一瞬、狂気とも取られ兼ねない笑みを湛えながら、光太郎が光竜の翼の付け根に弧を描く斬撃を浴びせた。
「斯くなる上は……!」
 苦悶を声にした不明を恥じるかのように、自らが収めた八極拳の奥義を繰り出しつつ、ドラゴンの懐にブチかましを掛けるリユゥ。
「崑崙山にて得た竜人八極拳の真髄、とくと御覧じよ!!」
 頑丈な体躯に加え、翼が、尾がドラゴンを打ち、太刀傷を広げ鮮血を迸らせる。
 一見するとまだ十分に戦っていけそうに見えるが、残る面々は現状をより深刻に捉えていた。
「それでも私が治してみせる!」
 エルボレアスは、己の身が砕けようとも治療し続ける覚悟で臨み、今も薬液の雨を降りしきらせているものの、現実、癒しきれないと察していた。
(「今の私たちじゃ、治すよりも先に斃れる人が必ず出るよね。そうなったら……1人、また1人と……」)
 リディの瞼の内には、ジリ貧に追い込まれてゆく暗澹たる光景が浮かんでいた。その根拠は、効率的に敵を潰しに掛かるドラゴンの戦い方とその威力……。
 そしてそれは、ちょうど手応えと真逆の不安を感じていたミケも同様。
「私の……薔薇の泪を以てしても足りないのでは……?」と。
 下手をすれば、それよりも敵の攻撃力の方が上――奇しくもそれは、リディと同じ帰結に結び付く。
 だが、攻撃手として折れては剣にならないのは言うまでもない。
 ――暴走。
 2人は己が潜在能力を、限界を超えて解き放つ道を覚悟した。
「怒られちゃう、かな……」
 気が付けば、身につけた純白のストールの端を握りしめ、プレゼントしてくれた人のことを思い浮かべているリディ。
「ダメ。まだ諦めちゃ……」
「Io non cedo……」
 誰にともなく呟いた2人は同時に同じことを考えていた――『暴走』は、現実からの逃げでしかない、と。

●戦いの果て
 斯くして踏み留まった2人は己が存在を賭けドラゴンに突撃。持てる攻撃の最大を叩き付けた。
 そんな彼女たちの迷いを察しながらも、成り行きを見守ろうと決めていた示天は、決断がなされた今、改めて目の前の敵を倒すことに神経を集中し、輝く鱗の一部を爆破。
 続くリユゥは、博打じみているか……と思いつつも、氷結の螺旋を放つ。さらに一樹が、一葉の金縛りで動きがわずかに鈍った所に、『空』の霊力を込めた太刀を振るう。
 調子付いている――我に比べ遥かに小さな存在が。
 竜の怒りは頂点に達し、すべてを薙ぎ払うべく巨大な尾を振り回すと、前衛の面々ごと暴走者を押し返してのけた。
「必ず、倒してみせますの……!」
 負けられない……リリィは思いの丈を込め、光の盾を前衛に留まり続ける仲間の前へ。
 さらに全員で、止め処ない嵐の如く一気呵成に攻め立ててゆく。
 光竜は、そんな中に晒されていてもなお、最も弱っているはずのミケのところに突破口を見出し、反撃の凶爪を繰り出す。
「そうはさせん!」
 そこで決死の一撃を阻んだのはリユゥ……だが、それは想像を超えた破壊力でリユゥの腹部を突き破っていた……。
「ぐっ! こ、此処までか……」
 激しく鮮血を散らしつつ斃れ行く姿を見下ろす光竜――それは、ここまで着実な戦いを繰り広げてきた彼奴の、初めて見せた油断。そしてその油断は、残された者たちにとっては十分に付け入る隙となった。
「……我等、地獄の番犬から、逃れること能わず」
 死角を突いて電光石火の蹴りをドラゴンに浴びせる光太郎。そしてエルボレアスも、一か八かを賭け攻撃に移る。
「我が体内で生成せし、最強の毒をくれてやろう」
 尾の先を竜の首に突き刺す。腐食性の猛毒を分泌する死の棘を。
 竜の口から、再び苦痛に塗れた叫びが漏れる――そして。
 聡明にも自らの最期を察したであろうドラゴンに、トドメを刺したのは、最後まで決断を迷った2人……。
 高速で滑りながら飛び込み、炎を纏った蹴撃を浴びせるミケ。そして逃れるように暴れる竜の喉元に飛び込んでナイフを突き立てるリディ。
「「これで……終わり」」
 その台詞と共に、全身に光輝を纏いし竜の最期の咆哮が戦場を染めた。
 困憊し、声もなく息を整えつつ斃れる様を見やる面々。
「私たちが為すべきは、まだ終わっていない……そうだな」
 エルボレアスが告げると、皆、一様に頷く。まだ空気は重かったけれど、光太郎が息を吐きながら口を開いた。
「行くか……いずれにしても他の戦場の行方は気になる」
 次の戦場はすぐそこに在る。
 だが、並みいるケルベロスたちの前には、いずれ終わることだろう……。



作者:千咲 重傷:リユゥ・ジィーン(空飛ぶ竜人降魔拳・e17102) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。