城ヶ島制圧戦~礼節の老竜

作者:雪見進

「城ヶ島の強行調査により、城ヶ島に『固定化された魔空回廊』が存在することが判明したっす」
 そう少し興奮気味に説明をするのはダンテ。この固定化された魔空回廊に侵入し、内部を突破する事ができれば、ドラゴン達が使用する『ゲート』の位置を特定する事が可能となるだろう。
 さらに、『ゲート』の位置さえ判明すれば、その地域の調査を行った上で、ケルベロス・ウォーにより『ゲート』の破壊を試みることもできるだろう。
「『ゲート』を破壊する事ができれば、ドラゴン勢力は、新たな地球侵攻を行う事ができなくなるっす」
 つまり、城ヶ島を制圧し、固定された魔空回廊を確保する事ができれば、ドラゴン勢力の急所を押さえる事ができるのだ。
 強行調査の結果、ドラゴン達は、固定された魔空回廊の破壊は、最後の手段であると考えているようなので、電撃戦で城ヶ島を制圧し、魔空回廊を奪取する事は、決して不可能ではないのだ。
「ドラゴン勢力の、これ以上の侵略を阻止する為にも、皆の力を貸してもらいたいっす」
 そうダンテは説明するのだった。
「今回の作戦は、仲間の築いてくれた橋頭堡から、ドラゴンの巣窟である城ヶ島公園に向けて進軍する事になるっす」
 進軍の経路などは全て、ヘリオライダーの予知によって割り出しているので、その通りに移動して欲しいとの事。そうでないと、どうなるか分からないだけでなく、他の部隊を危険に晒すかもしれない。
「固定化された魔空回廊を奪取するには、ドラゴンの戦力を大きく削ぐ必要があるっす」
 そう言って、倒さねばならないドラゴンについての説明に移るのだった。
「皆さんに相手して欲しいのは、この老竜っす」
 そう言ってダンテが説明するのは、ドラゴンとしては多少、戦闘力の劣る老竜。生真面目な性格らしく、戦い前の礼を欠かさない事から、礼節の老竜の異名があるらしい。
「この老竜には弱点があるっす」
 どうやら、この老龍には、活動限界があるようなのだ。それが老いた為なのかは不明だが、長時間活動限界していると、身体に異常が発生するらしい。
「だから、皆さんには長時間の戦闘を目指して欲しいっす」
 ドラゴン相手に簡単に言ってくれるものだ。しかし、強力なドラゴン相手に策を使わなければ敗北は必至だろう。
「敗北すれば、魔空回廊の奪取作戦を断念する場合もありえるっす。作戦の成功は皆さんの力にかかってるっす」
 そう言ってダンテは後を託すのだった。


参加者
ラトウィッジ・ザクサー(悪夢喰らい・e00136)
フィーア・フリート(レプリカントのウィッチドクター・e00315)
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)
アレン・シャドウドレイク(気紛れな黒龍・e00590)
吉柳・泰明(青嵐・e01433)
内牧・ルチル(忍剣・e03643)
浅儀・織(空間忍術・e06748)
高辻・玲(花酔・e13363)

■リプレイ


「ドラゴン……8月に封印から解かれたばかりのものを相手にして以来ですね」
 以前の戦いを振り返るのはギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)。
「そのお相手が老竜殿というわけでありますな」
 これから相対するであろう老竜について考えているフィーア・フリート(レプリカントのウィッチドクター・e00315)。
「それが礼節を重んじる竜か……紳士的だな、嫌いじゃない」
「敵とはいえど、何処か親近感や敬意の念も湧く」
 そんな老竜に好感を抱く浅儀・織(空間忍術・e06748)と吉柳・泰明(青嵐・e01433)。
「少し複雑だわ」
 反対に少し複雑な想いを抱くのはラトウィッジ・ザクサー(悪夢喰らい・e00136)。今回、倒すべき相手はドラゴンにして礼節を重んじる性格なのだとか。
「デウスエクスとはいえど礼をもって戦いに臨むならば、こちらも礼をもって戦い、勝ちましょう」
 ギルボークは答える。たとえ相手が礼をもっていようが、そこは戦いである。勝敗に雑念は不要だろう。
「敵として対するのが、少々惜しい相手だね」
 そんな事を高辻・玲(花酔・e13363)は考えていた。こんな形でなければ、或いは気が合ったかもしれない……。
 もしかしたら、そんな可能性があったかもしれないが、それはもう無理な話。
 そんな胸中を察したからなのか、泰明が玲に目配せを一つ。その目配せは別に心配という事はない。ただ、気持ちの確認。そんな視線に笑みを浮かべ返す玲。
 しかし、だからと言って成すべき事に変わりが無い事は自覚しているようだ。二人は無言で覚悟を決める。
「最悪の場合は……」
 そんな中で内牧・ルチル(忍剣・e03643)は最後の作戦確認をしている念の入れようだ。
「持てる全てを賭して挑むと誓おう」
「死力を尽くして、必ず勝ちを得よう」
「出来る限りの策と力で挑みましょう」
 ケルベロスたちが気合いの言葉を紡ぐ。そして、目的の場所に到着するのだった。


「来たか……」
 そこで待っていたのは老竜。その名の通り竜の身体に白眉と呼ぶのがふさわしそうな眉、そして見事は白髭が『老』を感じさせる。その老竜は静かに座してケルベロスを待っているようだった。
「僕の名はアレン! 我々はお主を討伐せんがために来たケルベロス。その命、もらい受けるのじゃ」
 そんな老竜に真っ先に名乗りを上げたのはアレン・シャドウドレイク(気紛れな黒龍・e00590)。同時に正々堂々とした宣戦布告。
「堂々たる宣言感服する。ならば答えよう。我の名はガジェッツォ・ガルガオ。我らドラゴン軍は、貴様等ケルベロスの討伐を返り討ちにしようぞ」
 アレンの名乗りに律儀に答える老竜ガルガオ。そんな律儀な様子に、思わず問いかけてしまうのはラトウィッジ。
「わかってるだろうけど。アタシ達アナタを殺しに来たの」
「うむ、故に我は貴様等を殺す」
 あまりに律儀な返答に、思わず言葉がこぼれてしまうラトウィッジ。そんな言葉に素直な殺意で返す老竜。それは純粋すぎる殺意というべきだろうか。長い間戦いに身を置いた結果だろうか。
 そんな様子を見ながら小さい声で呟くフィーア。
「なかなかに興味深い相手でありますな」
 そんな小さい言葉も老竜の耳に届いたようで、フィーアに視線を向け、静かに顎を動かす。
「興味という意味では、我も貴様等が興味深いがな」
 静かに老竜は顎髭を揺らしながら答える。
「小さき身体ながら多数は勇猛果敢。しかし、怠惰脱力かつ臆病な者、無策無謀な者もいる。賢者博識な者もいれば無垢無知な者もいる。細かいのはともかく、大きく指揮を取る者も見えない。それなのに、我の首を狙い名乗りを上げる。誠に興味深い」
 敬意なのか挑発なのか判断に困る老竜の言葉。実際に多種多様なのはケルベロスの特徴だろう。
「だけど、不法侵入、不法占拠には違いないでありますなー。こちらとしては良い迷惑故、ここで退場願いたい所であります」
「ふふふ」
 そんなフィーアの意見に分かりやすく笑う。それは哀れみとそして羨望が込められた笑い。
「何がおかしいのですかな?」
 さすがのフィーアも意味が分からず聞き返す。
「なに……羨ましいのよ」
 聞こえるか聞こえないかの声で呟くと同時に、自虐の言葉に重ねるように、覇気を込め告げる。
「弱者の法に何の意味があるか!」
 軽口とはいえ、不法を語るフィーアをあえて罵倒するように告げる老竜。
「貴様等の法で語るならば、我の法で返答しよう。我らドラゴン勢力にとってはすべて我らの物。すべての者は首を垂れ全てを差し出すべきなのだ」
 並の人であれば、それだけで気絶しそうな気迫。その言葉は礼節を語るモノとは思えない理論。
「……という事になる」
 しかし、次の瞬間にはその気迫を収める。そんな禅問答のような問いかけは、まるで何かを教えようとするかのようだった。
 さきほどの聞こえるか聞こえないかの言葉は、そんな法で身が守れるほど平和であった事を羨む言葉なのかもしれない。
「ガルガオさん、貴方の蓄えた経験と力に敬意を表して、私も出来る限りの策と力で挑ませていただきますね」
 ルチルの言葉に髭を揺らしながら答える老竜。
「うむ、我も貴様等を返り討ちとし、今後の戦いへの経験とさせてもらおう」
 老いてもまだ学び強くなるつもりの様子なのが少し恐ろしいと共に、玲は見習いたいと想っているようでもあった。
「良い相手と巡り合え、戦う事が出来て、光栄だよ」
「それは我にとっても同じ事だ」
 そんな玲の言葉にやはり笑みを浮かべる。
「俺の名は浅儀織、螺旋忍術を使う」
「律儀に技能まで宣言するか、いや忍術というならそれも策か?」
 織の見つめる視線に真正面から応える。
「さあ、そろそろ来るがよい!」
 言葉を交わす事が嫌いでないようだったが、いつまでも話をしていられる関係ではない。
「いざ、参る!」
 その言葉に答えたのは泰明。気合いの声と同時に戦いの火蓋は切って落とされた!


「受けよ、竜の咆哮を!」
 叫ぶと同時に口を開き、放つのは雷撃のブレス。それを前衛のギルボークたちへ放つ。
「くっ!」
 放たれた雷撃に対して、すぐに防御の姿勢。ラトウィッジが黄金のリンゴを召喚し、ルチルは分身の術を使用。
 仲間たちが戦いの姿勢を整える中で突撃したのはフィーア。高速回転する腕で老竜を打ち抜く。
「……まあ、一筋縄ではいかないんでありましょうな」
 高速回転する腕と衝突し火花を散らしたのは、硬化した竜の爪。
「そこじゃ!」
 そんな停止した場所へアレンがアームドフォートの一斉射を叩き込む。
「個性豊かなれど、連携は見事」
 攻撃に耐えながらアレンへブレスを放つ。さらにそこへあえて老竜の真正面に立つ玲。そして御業を使役し、老竜を鷲掴みにする。
「真正面に立つは貴様の覚悟か」
 楽しそうに笑う老竜。そこへ、さらにギルボークがマグマを召喚し泰明がケルベロスの鎖で縛る。
「ぬぅ!」
 様々な束縛を受けた老竜へ距離を詰め織が放つのは刃の蹴り。それを真正面から受ける。
「やるのう!」
 そんな連携にブレスで返答。同時に上がる土煙。
 しかし、その煙の中から放たれたのは地獄の番犬を縛る鎖。
「ぬぬ、さらに鎖か……」
 分身した状態でルチルが放つケルベロスチェインが老竜をさらに縛る。
「だが!」
 その鎖を力任せでふりほどき爪を硬化させ狙うのはアレン。さきほどから集中しアレンを狙い攻撃している。
「狙われておるようじゃな」
 仲間の支援を受けながらも戦線を維持するアレン。そんなアレンを庇うようにギルボークが天空から無数の刀剣を召喚し、老竜を貫く。
「ゆっくりだけど、老竜の弱体化は始まっているようだな」
 泰明は隙を見て静かに老竜を観察しながら戦っていた。丁寧に観察しないと分からない事だが、ゆっくりと弱体化が始まっている様子だった。
 しかし、元が強いから能力低下に伴う戦況の好転に至るには時間が必要だった。

「私のラブをうけてね!」
「こまめに回復するであります」
「助かる!」
 ラトウィッジからの強引な緊急手術やフィーアからの薬液の雨で傷を癒しながら戦うアレン。
「焼き切れ!」
 アレンの構えた日本刀が炎に包まれ、老竜に炎斬撃を放つ。その攻撃を真正面から受け、そのまま鋭く超硬質化した爪でアレンを貫く。
「無念……」
「貴様が最初に倒れるのは、強いからだ。決して弱いから最初に倒れたなど愚考するな」
 静かに倒れるアレンに言葉を贈る老竜。その言葉通りならば、強敵だからこそ最初に倒したという事になる。
「次は……貴様だ」
 そのまま、口を開くと同時に後衛のラトウィッジに向かって放つのは雷撃のブレス。今度は癒し手を狙うという宣言だろう。
「アタシ、最後まで立ってなきゃいけないから」
 そのブレスで受けた傷を紫色の霧で癒し覚悟を決めるラトウィッジ。
「アタシのラブとアナタのブレス、どちらが強いかしらね」
「先に言っておこう。我のブレスに倒れたからと言って、それが貴様の愛に勝るなどと思うつもりはない」
 そんなやり取りの間に、アレンを後方へ下げる。現状でも老竜の戦闘力は一割ほど低下している。それでも強敵な状態。厳しい状況だと、歯を食いしばるケルベロスたちだった。

 ギルボークは天空より無数の刀剣を召喚。その刀剣を鶴翼の陣形に一糸乱れず整列させる。
「ヒメちゃんはボクが護るんだ!」
 そして言葉と共に刀剣を戦場に解き放つ。
「誰かに捧げた想いと共に戦うか、美しいな」
 無論『ヒメちゃん』が誰なのか知るはずもない老竜。だが、荒れ狂う刀剣に晒されながら、その覚悟と気迫を感じ取っていた。
「かなり厳しい状況でありますな」
 薬液の雨を降らせながらフィーアが呟く。それでも癒しきれない後衛に泰明も心身を奮い立たせ、溜めたオーラを玲に注ぎ傷を癒す。
「舞いましょう、更に戦い続ける為に!」
 それでも癒しきれない傷にルチルが愛刀を主軸にした剣舞を舞う。舞を彩るように愛刀のシルエットが周囲に浮かび上がり、それがルチルの剣舞の相手として共に舞う。
「見事な連携よの」
 感服する老竜。そこへ織が精神を極限まで集中させ、老竜の立つ地面を爆破する。
「むむ!」
「享受せよ!」
 地面が爆破され体勢を崩したところへラトウィッジは息を吐き出す。その息が蟲の幻影、ウスタビガの幻影となり、老竜に遅いかかる。
「全て、断ち切る」
 さらに、そこへ玲が放つのは心の迷いを薙ぎ払うような斬撃。研ぎ澄ませた心重ね、全てを込めた一太刀を放つ。
「見事……」
 その一撃で、一瞬老竜の動きが止まる。しかし、それは大きく息を吸い込む強烈なブレスの予備動作。
「避けろ!」
 誰かが叫んだのか分からない声と同時に、戦場を雷撃の嵐が吹き荒れる。
「っく!」
 その激しい雷撃嵐がラトウィッジ、フィーア、玲を同時に包み轟音響き荒れ狂う。
 雷撃の嵐が収まった後、地面に倒れたのは玲とラトウィッジ。
「死力を尽くしたが……すまない」
「私のラブを上回るなんてね……」
 二人にはもう立ち上がる力は無かった。
「……これであと5体か……」
 静かにゆっくり悠然と動くその姿には、まだ余裕が見えた。しかし……。
「まだ戦えます」
 その判断を下したのはルチア。彼女には見える。その悠然とした動きが緩慢にしか動かぬ身体を見せぬ工夫である事。そして、さきほどのブレスの後に老竜の戦闘力がかなり低下した事に。
「貴方の命が尽きるまで戦い抜かなければならないと……感じてしまいました」
 同じ様に気づいたギルボークも最後まで戦う覚悟を決める。
「……そうか」
 その様子に何かの覚悟を決め、静かに笑みを浮かべた。
(「ああ、今日は良き日だ……」)
 静かに老竜の胸中によぎる想いは戦死への渇望。自身に致命的とも言える弱点を抱えた老竜は、最後の戦いを臨んでいた。礼節を守らぬ相手でも良かった、卑怯であっても良かった。ただ、老竜は戦場での死を願った。
 足手まといとして、戦場から拒絶される前に良き相手に出会えた運命に感謝していた。
 そんな老竜の胸中を知る術など無いケルベロスたちだったが、何か感じたのか一呼吸、時間を取る。
「いきましょう!」
 ルチルのかけ声で、攻撃を開始したケルベロスたち。ルチルと泰明の鎖が老竜を縛り、そこへ踏み込むフィーアが放つは二本の雷撃杖にて放つライトニングコレダー。
「ぐああああ!」
 その叫びは老竜があげた最初の悲鳴。そこへギルボークの斬撃が老竜の鱗を削る。
「……」
 そこへ距離を詰めたのは織。
「流石、強いなぁドラゴンってのは! あんたみたいな武士と戦えて良かった!」
 そんな言葉に老竜は再び笑みを浮かべた……ような気がした。
 次の瞬間、織の螺旋の力によって開かれた空間の歪みからグラビティチェインが現れ、それが老竜を貫く。
「……我が首を撃った事を誉れとせよ」
 すべての時間が停止したかのような沈黙が流れる。
「……」
 そんな動きを止めた老竜の指にそっと触れる織。それはまるで握手のよう。次の瞬間……まるでその場に何も無かったかのように崩れ、そして消えた……。
 ケルベロスたちの勝利だった。


「長い戦い、お疲れ様」
 泰明に肩を借り立ち上がりながら、誰ともなく呟く玲。
「お疲れさん……皆も、老公も、な」
 目を伏せ、静かに残りの部隊の無事を祈る泰明。
「戦いに臨む貴殿の姿勢、忘れないよ。さぁ、ゆっくりお休み下さい」
 そして、老竜の消えた場所に再び視線を向ける。
「これは……?」
 その視線の先で、一つだけ地面に落ちていた光の欠片。それは老竜の鱗だった。それが唯一の生きた証拠とばかりに、最後の光を放っていたのだった……。
 そんな鱗を見つめながら、勝利を実感するケルベロスたち。他の皆も無事だと……負けはしないと信じながら、この場を後にするのだった。

作者:雪見進 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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