城ヶ島制圧戦~The Last Stand

作者:伊吹武流

●強行調査を終えて
「皆さん、お疲れ様っす」
 ダンテは集まったケルベロス達を前に口を開く……が、その表情や口調は、普段と違って何処となく固いものが見受けられた。
「……実は、先日に行なわれた、城ヶ島の強行調査で、城ヶ島に『固定化された魔空回廊』が存在する事が判ったっす」
 地球側の拠点であるゲートから伸ばす事の出来る異次元の転移通路。
 それが『魔空回廊』だ。
「そして、この固定化された魔空回廊に侵入して、その内部を突破する事が出来れば……ドラゴン達が使っている『ゲート』の位置を特定する事だって出来るかも知れないっす」
 確かにダンテの言う通り『ゲート』の位置が判明すれば、その周辺地域の調査を行なった上で、ケルベロス・ウォーによって『ゲート』の破壊を試みる事が可能かも知れない。
 その上で、『ゲート』を破壊する事が出来れば、ドラゴン勢力は、新たな地球侵攻を行なう事が出来なくなる。
 つまり、城ヶ島を制圧し、固定された魔空回廊を確保する事ができれば、ドラゴン勢力の急所を押さえる事すら可能なのだ、とダンテは語ってから。
「強行調査の結果によれば……ドラゴン達は、この固定された魔空回廊を破壊する事を、最後の手段であると考えているみたいっすね……だったら、電撃戦で城ヶ島を制圧し、魔空回廊を奪取する事も、決して無理ゲーなんかじゃないと思うっすよ」
 そして、地球上でそれが出来うる存在は、たったひとつ……ケルベロスのみだ。
「だからこそ、ドラゴン勢力のこれ以上の侵略を阻止する為にも、今回も皆さんの力を貸してもらいたいっすよ」

●城ヶ島制圧戦
 そう言い終えたダンテは、今回の作戦についての概要を説明していく。
 今回の作戦は、警戒の薄い城ヶ島の西部から、水陸両用車部隊が侵攻、市街地のオークを制圧して橋頭堡を確保した後、本隊が島の西側から、固定化した魔空回廊のある島の東側にある城ヶ島公園の白龍神社へと攻め寄せる手はずとなっている。
「だけど……この作戦を成功させる為には、どうしても解決しなければならない問題があるっす」
 それは、三崎工場に集められている竜牙兵の大群だ、とダンテは語る。
 強行偵察の結果、この竜牙兵は『島への侵入者に反応して自動的に迎撃する』行動をするらしく、その総戦力は……かなりのものとなっている様だ。
「そこでなんっすけど、皆さんには、城ヶ島大橋から城ヶ島へ進軍してもらって、この竜牙兵の攻撃を引き受けてもらいたいっすよ……ぶっちゃけ、囮任務、ってやつっすね」
 そんなダンテの言葉に、どうやって大軍を抑えるのか、と誰かが問いを発すると。
 城ヶ島大橋は、そんなに広くない戦場っすから、2つのチームが隣り合って戦闘をすれば、竜牙兵を抑える事は十分に出来るっすよ」
 と、彼は答えてはみたものも、
「……ただ、竜牙兵は倒しても倒しても後続が現れるんで、敵を倒す事よりも、出来るだけ長い間、戦いを継続させる事を目指して欲しいっす」
 と、付け加えてから。
「今回は……左右の戦場に、それぞれ、第一陣、第二陣、第三陣って感じで、3つのチームを配置するっすから、それぞれのチームが30分ずつ、合計で1時間30分の間、竜牙兵の攻撃を抑える事が出来れば……きっと、何とかなると思うっすよ」

●城ケ島大橋の戦い
 城ヶ島大橋は片側1車線の比較的狭い橋である。
 だからこそ、少人数での封鎖は可能なのだ、とダンテは説明してから。
「皆さんには、橋の右手側の三番手のチームとして、5体の竜牙兵と一度に戦いながら、敵を橋上で抑えてもらう事になるっす」
 つまりは、最後の守り手として、時間ギリギリまで竜牙兵と戦い続けねばらない、という事になる……そして、恐らく此方の損耗は、激しいものとなるに違いない。
 だが、竜牙兵は幾ら倒そうが次の竜牙兵に入れ替わるだけで、敵陣の戦力は低下しない。
 ならば、如何にして、この猛攻を耐え抜き、戦闘を長引かせるか。
 それこそが、この戦いの鍵となる事を誰もが感じ始め、気を引き締めようとした時。
「あ、それとっすけど……もしも竜牙兵との戦闘で押されて、三浦半島側に押し込まれちゃうと、後から来る竜牙兵の一部が、城ヶ島公園方面へ移動してしまう恐れががあるっすから、そのあたりも注意して戦う必要もあるっすよ」
「厳しい戦いになる、という事か……」
 ダンテの言葉を聞いたケルベロス達の一人が、簡単に言ってくれるな、とばかりに苦笑いを浮かべると、その表情を見て取ったダンテは、何時にもなく真剣な眼差しで、その場に立つ者達を見渡してから……。
 「ぶっちゃけ、これだけの人数で竜牙兵の大群と戦う、って事は、すっげー大変な事だと思うっす。けど……ケルベロスの皆さんが協力して戦えば、きっと大丈夫だって、自分は……自分は信じてるっす!」
 ――信じている。
 その言葉を特に強調しながら、ダンテはケルベロス達へと向き直ると。 
「強行調査で得た情報を無駄にしない為にも、この作戦は絶対に成功させなければならないっす。どうか、ケルベロスの皆さん、よろしくお願いするっす!」
 と言って、深々と頭を下げた。


参加者
祭礼・静葉(サイレン堂店主・e00092)
岬・よう子(金緑の一振り・e00096)
葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)
ミチェーリ・ノルシュテイン(フローズンアントラー・e02708)
レフィス・トワイライト(灰色ノ死神・e09257)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
ケイト・クリーパー(焦熱乙女・e13441)
常葉・メイ(刀剣士・e14641)

■リプレイ


 かつて東洋一を誇った優美な海橋の上では、多くの剣戟と弾丸、そして魔力が奏でる戦いの調べが鳴り響いていた。
「予想以上に、押し込まれている様だな」
「ええ……かなり厳しい戦いになりそうですね」
 橋の中央部から戦場の様子を観察していた岬・よう子(金緑の一振り・e00096)の冷静な言葉に、常葉・メイ(刀剣士・e14641)は淡々とした口調で言葉を返した。
 だが、そんなメイの声には、大きな戦いに向けての緊張と決意の表れの所為か、小さな震えが混じっていた。
 そんな彼女の様子に気付いたのだろうか。
「まあまあ、もっと肩の力を抜きなって。所詮は竜牙兵、大した事ないさ」
「そうそう! ま、何とかなるって!」
 けだるげそうに祭礼・静葉(サイレン堂店主・e00092)が軽口を叩くと、葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)もキャトルマンのつばをくいっと上げながら、うんうんと頷く。
「皆様、そろそろお時間の様でございます。ご準備は宜しいですか?」
 そう言いながら、ケイト・クリーパー(焦熱乙女・e13441)が、愛機のライドキャリバー、ノーブルマインドから淑やかに降り立つと、その場にいた者達は揃って頷きを返した。
「皆さん、此処が最終ラインとなります。つまり、此処を超える事は許されない、という事です」
 フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)が、橋の中央、300m地点に引き終えたチョークのラインを指で指し示す。
「色んな方々が関わっている、この作戦……意地でも失敗させる訳には行かないね」
 そのラインを見ながら、レフィス・トワイライト(灰色ノ死神・e09257)が、そう決意を口にすると。
「ええ。ですが、私達に英雄的行為は求められていません。地味でも確実に守り切りましょう!」
「ええ、耐える戦いこそ鎧装騎兵の本領。目にもの見せてやりましょう」
 続くフローネの言葉に、ミチェーリ・ノルシュテイン(フローズンアントラー・e02708)も頷きを返す。
 そして、彼女達が互いを気遣おうと口を開きかけた時……。
 一同の視線の先に、発炎筒の発した赤く鮮やかな輝きが見えた。
「来た! 交代の合図だよ!」
「その様だね! よし、行こう!」 
 唯奈とレフィスの発した言葉に、ケルベロス達は弾かれた様な勢いで戦場へと駆け出していった。

 戦線は200m地点を僅かながら越えてしまっていた。
 前衛達は、第二陣の後衛と交差する様にして、前線へと躍り出ていく。
 長い髪を地獄化させた小柄なオラトリオの女性が、苦痛に眉を寄せながら声を掛けて来る。
「……申し訳、あり、ません……! 皆さんに、託し、ます……!」
「謝らずとも良い。貴殿等の願い、確かに受け取ったぞ」
 小さな声を振り絞りながら懸命に想いを託そうとする彼女へ、よう子は労いの言葉を返すと、黄金色の髪を風になびかせながら敵前へ駆けていけば。
 更に並ぶ様にして、フローネとミチェーリ、そしてケイトが駆け抜け、後衛達がそれに続いていく。
 そんな彼女達と入れ替わる様に、役目を終えた第二陣のケルベロス達は、第三陣の者達へと願いを託しつつ、速やかに戦場より離脱していく。
 その間、敵勢に押し込まれた距離は……約20m。
 彼らが引き継いだ戦場は、最終ラインまで僅か75mの地点にあった。
「残り四分の一まで押されちゃうと……ちょっと交代は難しそうだね」
「いいねぇ。正に燃える展開、って奴じゃないか」
 唯奈の言葉に静葉も薄く笑い、揃った様に抜き撃ちの構えを取る。
「さぁ、この戦いもいよいよ佳境でございますね! 繋げて頂いた皆様の為にも、無様は晒せないでございますよ!」
 そしてケイトも、アームドフォートとガトリングガンを軽々と構えて意気込んでみせる。
 そんな彼女達の頼もしき姿は、この戦場に立つ全ての者達の決意を代弁しているかの様だった。


 竜牙兵達は新たに対峙したよう子達を即座に侵入者と認め、それを迎撃すべく押し寄せてくる。
「シカクケイ! アンタ、しっかりやりなさいよ!」
 静葉が彼女のミミックを嗾けながら浮遊する光の盾を具現化する。次いでレフィスがバイオレンスギターを掻き鳴らして仲間達を奮起させれば、フローネも紫光の盾を展開させて仲間達の守りを固めていく。
 そして他の者達は、戦闘前の打ち合わせ通りに竜牙兵へと攻撃を仕掛けていく。
「まずは……相手の足並みを乱すとしましょうか!」
「後ろにも横にも同胞の並ぶ、これ程までに奮い立つ戦場があろうか……さあ、此処で終わらせてやろう」
 ミチェーリが敵陣へと猛烈な突撃を見舞い、よう子も舞い踊るかの様な華麗なステップを踏みながら、敵の目を奪う様に二振りの白刃を閃かせる。
 そんな二人を援護すべく、メイは伸ばした猟犬の鎖で敵を締め上げ、ねこの羽ばたきが邪気を祓う。
 更にはケイトとノーブルマインドが弾丸の雨を敵へとばら撒き、唯奈の放った銃弾が戦場を跳ね回る。
 対する竜牙兵達も、各々の武器を掲げ、前衛に立つ者達へ強烈な打撃をお返しする。
 そんな応酬が3分間続いた後、メイの放った影の弾丸を受けた竜牙兵が長剣を落とし、地へと倒れた。 
「1体目、撃破っ!」 
 この調子ならいける。戦場に立つ彼らは、そんな手応えを感じ取っていた。

 作戦開始より7分。竜牙兵とケルベロス達との攻防戦は更に激しさを増していく。
「変幻自在のこの弾丸、避けれるものなら避けてみな!」
 唯奈の拳銃から撃ち出された魔法の弾丸が有り得ない軌道を描きながら、2体目の竜牙兵を撃破する。
 そして、攻防が激しくなれば、ダメージは確実に蓄積されていく。
 そして、作戦開始より10分が過ぎた事を、よう子が合図した矢先。
「申し訳ありません! 一時後退させて頂きますわ!」
 戦力を温存すべく、深手を負ったケイトが後衛へと退くと、彼女の代わりを務めようとシカクケイが前衛へと進む。
 それに対して、敵勢は負傷などまるで意に介さぬのかの様に、変わる事無く圧力を掛け続けてくる。
 何故ならば、敵は幾ら倒されようが、新たな竜牙兵を補充し続けられるからだ。
 そして、その数の力を頼りに、戦線をじわじわと押し込んでくる。
「既に、250m地点を突破されだか」
 続く様にしてねこと配置を交替したよう子も、流石に苦い顔を見せる。
「そろそろ12分……」
 一同は互いに声を掛け合いながら、状況を確認していく。
 現在位置、260m地点。倒すべき竜牙兵は……あと6体。

 残り時間18分を迎えると、一同は当初の予定に従い、作戦の変更へと移った。
 ミチェーリがクラッシャー、レフィスがスナイパーの任に就き、攻撃重視の態勢へと移行する。
 だが、ポジションを変更する間、攻撃に参加する事は出来ない。
 結果、敵への攻撃も一時的に弱まってしまう。
 そして、戦う為に生み出された竜牙兵は、戦う為の知性を持っている。
 だからこそ、敵勢はその手薄な瞬間を見逃しはしなかった。
 敵は前衛へと苛烈な攻撃が浴びせ続け、みるみる体力を奪っていく。
 その勢いに負けじと、静葉とフローネが前衛達を回復させるも、痛打を浴びたシカクケイが動きを止める。
 代わる様にノーブルマインドが前衛に進むが、そこへも敵の攻撃が容赦無く襲い掛かってくる。
 それでも、一同は怯む事無く攻撃を集中させ、3体、4体と確実に竜牙兵を撃破していく。
 そして、作戦開始より19分。
 作戦の変更時に押し込まれた距離を取り返すべく、ミチェーリが長剣を構える竜牙兵へと肉薄する。
「ミェルズロータ! 凍えて割れろ!」
 彼女は可変式ガントレットを強制冷却させるや、そのまま渾身の打撃を放つ。
 凍土の名を冠したその一撃は、竜牙兵の身体を瞬時に凍結させ、次いで粉々に打ち砕いた。
「これで……5体目!」
 そんなミチェーリを好敵手と取ったのか、新たに現れた闘気を纏う竜牙兵が音速の拳で彼女を吹き飛ばそうとするも、その一撃は傍らで戦うフローネの展開した紫水晶の盾に阻まれ、彼女には届かない。
「流石です! 次、来ますよ!」
 二人の鎧装騎兵は互いに背を預ける様に立ち並び、新たに現れた大鎌の竜牙兵と対峙した。


 あと10分、との声がケイトとよう子から発せられる。
 敵の猛攻を耐え続けていたケルベロス達の疲労の色は濃い。
 既に彼らのサーヴァント達は全て倒され、それぞれが受けた傷も完全には癒し切る事が難しくなってきた。
 ならばとばかりに、ケイトとよう子がクラッシャーへ、静葉もスナイパーへとポジションを変更する。
 が、そんな彼らの状況を見て取ったのだろうか。
 何と竜牙兵達は、ポジションを変更した3人へと、その攻撃を集中し始めたのだ。
 そして、真っ先に狙われたのは……よう子だった。
 初手から敵の注意を一心に惹こうと振舞っていた彼女は、あっという間に橋の欄干へと追い詰められていく。
 それでも、よう子の気高き魂が肉体の限界をも凌駕せよと叫び続ける限り、彼女は決して倒れない。
 だが、遂に。
「天上におわします神々よ、汝の僕を討ち滅ぼす、人間の独り立ちを見届け給え……」
 よう子は最後の力を振り絞ると、神々への崇敬の言葉と口にしながら斬霊刀を大上段に構えると一気に振り下ろす。
 彼女の刃が、眼前の竜牙兵をばっさりと両断せしめた次の瞬間、更なる攻撃をを受けた彼女の身体は力を失って、海面へと落ちていく。
「吾輩は……此処まで、か……」
 そう小さく呟き、彼女がそっと瞳を閉じた時。
 ――誇るが良い、汝は成すべき事を成したのだから。
 薄れゆく意識の中で、そんな言葉を聞いた様な気がした。

 作戦開始より22分が過ぎ、ケルベロス達は6体の竜牙兵の撃破に成功していた。
 だが、敵勢に押し込まれた距離は275m地点を越えつつあり、戦局は正念場迎えていた。
 よう子が倒され、戦力を大きく削がれながらも、彼らは持てる力で竜牙兵へとぶつける。
 対する竜牙兵も各々の武器を掲げ、ケルベロス達へと押し寄せる。
 その勢いは、押し寄せる波の如く、幾度押し返そうが、それを超える勢いで押しやられていく。
「……このアタシが、追い詰められるとはねえ」
 そう皮肉げに笑った静葉の姿は、幾度も投げ付けられた大鎌の攻撃を受け、満身創痍の状態だった。。
 幸いにもペインキラーの効果で苦痛から逃れてはいるが、回復より攻撃を優先してきた事もあり、体力は既に限界を超えていた。
 だが、攻撃の手を緩める訳にはいかない。
「しゃーない! アタシもカッコ付けてあげるよ!」
 そう言い放った彼女は、飛来する大鎌を避けようともせず、竜牙兵の懐に飛び込む様にして、己の身体ごと敵を欄干へと突き飛ばす。
「命達に呼びかけん、御言立ちて呼びかけん、三言にて命太刀、断てッッ!」
 次の瞬間、彼女の紡いだ呪言より生み出した『斬り裂く』概念が、6体目の竜牙兵を微塵にする。
 そして、橋の欄干へと身体を預けた静葉は、指で挟んだカードを軽く振ってみせてから。
「後は……上手く、やりなさいよ……」
 その身をぐらりと傾かせ、橋上から滑り落ちていった。


 戦闘開始より25分が経過し、遂に現在位置は280m地点へと到達した。
 全てのサーヴァントと2名もの仲間達を失いながらも、残された者達は押し寄せる竜牙兵の群れへと必死の抵抗を見せていた。
 だが、彼らは等しく手傷を負い、中には深刻なダメージを負っている者さえ出始めている。
 ――このままでは、一気に押し切られ兼ねない。
 そんな不安が、ケルベロス達の脳裏を過った瞬間、不可思議な事が起きた。
「!? 敵からの圧力が……弱まった……?」
 仲間を援護しようとしたレフィスが、敵勢の動きに僅かな違和感を感じたのだ。
 しかし、それが何を意味し、何故起きたのかを考えている余裕など……今は無い。
「今だ! 諦めずに押し返そう!」
 銃口を向ける様な仕草で大鎌を構える竜牙兵を指差したレフィスに導かれた様に、フローネとミチェーリが渾身の一撃を同時に叩き込む。
 更にケイトの重火器が唸りを上げ、唯奈の銃弾が死角より襲い掛かり、メイの黒き鎖が敵を縛り上げていく。
 その猛攻を受け、敵がぐらりと体勢を崩した瞬間。
「お前の成した罪を、此処で断罪するッ!」
 レフィスが指先から、死の瘴気で形作った黒き弾丸を解き放つ。
 その弾丸は竜牙兵の身体を貫き、その魂と精神をも破壊し尽くした。

 残された距離は、20m。
 だが、あと1体、敵を倒さねば……これまでの全てが水泡に帰す。
 それは分かってはいる。だが、容易い事では無いのだ。
 そんな焦りの中、敵の放ったオーラの弾丸を避けたメイの足が、何かを踏んだ。
 彼女はそれに気付き……叫ぶ。
「これは……最終ライン!」
「!?」
 恐れていた状況。だが、一同は決して諦めはしなかった。
 皆、覚悟を決め、守りを捨て……必死の思いで敵の一体を追い詰めていく。
 そして、苦痛に喘ぎながらもアームドフォートを構え、ケイトが吠える。
「これで最後……食らいやがれっ! ですわっ!」
 その瞬間、凄まじい咆哮を上げて撃ち出された砲弾が、竜牙兵の上半身を跡形も無く吹き飛ばす。
 だが、同時に限界を迎えた彼女自身も、どさりと地へと倒れ伏す。
 これで撃破数は8体、現在位置は290m。
 あと1分間、次の猛攻さえ凌ぎ切れば……。
 しかし、その希望を嘲笑うかの様に、竜牙兵達は容赦無い攻撃を浴びせ続ける。
 それでも彼らは、永劫に続くとも思える苦痛に耐え続ける。
 そして、最後まで仲間達の盾であり続けたフローネが、次いでミチェーリが敵の凶刃を受け、折り重なる様にして倒れ込む。
 そして……アラーム音が鳴り響いた。
「これで援護は十分だよ! みんな、撤退だ!」
 唯奈の切羽詰まった声が響く。残された3人は倒れた仲間達を抱え上げると、必死の思いでその場を離脱する。
 幸いにも、竜牙兵達は傷付いたケルベロス達を追っては来なかった。
 そして、まるで波が退くかの様に、城ケ島方面へと撤退していったのであった。
 作戦時間30分経過、最終位置295m地点。
 彼らは多くの者達から託されたものを、遂に護り抜いたのだった。

 撤退後、意識を取り戻したケイトのアイズフォンに、海へ落ちたよう子と静葉は他の者達によって救助された、と連絡が入った。
「今回は……ギリギリでしたね」
 そう言って安堵の息を漏らしてから……メイは、赤く塗られた大橋の中央部を眺める。
「ええ。そして僕達の役目は此処まで……後は突入部隊の方々の無事を祈るだけですね」
 レフィスは彼女の言葉に頷きつつも、橋の向こう。いまだ激闘の最中であろう城ケ島へと視線を飛ばす。
 多くの者達が犠牲を払って稼いだ時間は、決して無駄にはなるまい。
 ――必ず、勝利する筈だ。そう、信じよう。
 そんな思いを抱きつつ、彼は彼方にある島を見詰め続けるのであった。

作者:伊吹武流 重傷:祭礼・静葉(サイレン堂店主・e00092) 岬・よう子(金緑の一振り・e00096) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 13/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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