『赤ずきん』再誕計画~魔女のスイーツ

作者:絲上ゆいこ

●冥府の海
 深い深い、冥府の海の底。
 長い鼻を持った緑色の大きな大きな魔女が、言いました。
「『赤ずきん』や、ようやく準備ができたよ」
 大きな大きな魔女の前には、三人の可愛らしい魔女達。
 そして、沢山の南瓜を模した化け物達!
「このハロウィンが、『赤ずきん』を蘇らす事ができる最後のチャンスだ」
 三人の魔女達は、お行儀よく大きな魔女の言葉を聞きます。
「あたしがハロウィンの魔力を死神に渡せば、ジュエルジグラットは今度こそ終わりになるだろうさ」
 沢山の南瓜の化け物達もお行儀よく並んで、うにうにうにうに。
「だけど構いやしない。あんたを見捨てたジュエルジグラットなど、何度でも捨ててやるのだから」
 大きな魔女――ポンペリッサが言い捨てる様に言葉を紡げば、三人の魔女達と南瓜の化け物――南瓜うにうに達はふっとその姿を掻き消しました。
 最後に残ったポンペリッサも少しの間、海の中で漂っていましたが、その姿を消してしまいます。
 あとに残ったのは、しんとしてものさびしい海底だけ。
 だれもいない、デスバレスの静かな海底だけ。

●ハッピー・ハッピー・トリック
 机の真ん中には、チョコレートの泉が絶え間なく流れていた。
 周りに並べられたお菓子達は、きらきら、ぴかぴか。
 流れ星みたいなチョコレートに、南瓜のプディング!
 黒猫のケーキを柔らかなクリームでおすましさせれば、それに付き従うように沢山の小さなケーキ達がまるで兵隊のように胸を張って立ち並ぶ。
 甘いケーキだけじゃお口が疲れちゃうから、軽食だってばっちり完備。
 南瓜にお化けに、可愛い吸血鬼。
 様々な仮装に身を包んだ人々には、笑顔が溢れ。
 ――スイーツビュッフェの会場は、華やかな賑わいを見せていた。
「……うふふっ」
 立ち並ぶスイーツの前で、丸い眼鏡の魔女の姿の少女は忍び笑い。
 彼女に合わせて、カボチャを模した大きな帽子の上でジャック・オ・ランタンもにっこり笑顔。
「感じる、感じるわ!」
 そうしてもう一度周りを見渡した少女は箒を構えて、高らかにヒールを響かせて。
「ハロウィンの魔力の高まりを感じるわ!」
 魔力を膨れ上がらせた少女――、死神・アナスタシヤ・バーバヤガーは花の様な笑顔を浮かべた。

●ハッピー・ハッピー・トリート
「よーう、月での戦争お疲れさん。しっかし、月の中身があんな事になってたのは驚いたよなァ。……ま、お前達の活躍で地球の危機も救われた事だ、ゆっくりして欲しい――と、言いたい所なんだが、なァ」
 がり、と頭を掻いたレプス・リエヴルラパン(レポリスヘリオライダー・en0131)がケルベロス達を見やると、小さく肩を上げて。
「もうすぐハロウィンだろう? 毎年何かしら起こっちゃァ居るが、今年も起こる様でな」
 ハロウィンを狙って、死神に合流したポンペリポッサが仕掛けてくると予知に出た、と。
 レプスは少しばかり申し訳無さそうに、ケルベロス達へと告げる。
「ポンペリペッサは三人の魔女死神と徒党を組んで、数百体の死神の群れを引き連れ。ハロウィンパーティーを襲撃して――季節の魔力『ハロウィンの魔力』を奪おうとするぞ」
 以前、寓話六塔戦争の結果、ケルベロス達は『赤ずきん』の撃破に成功した。
 しかし。
 ドリームイーターの力の源泉――『季節の魔法』を使って、ポンペリポッサは『赤ずきん』を蘇らせようとしているようなのだ。
「ポンペリポッサ達は、もっとも盛り上がっていそうなハロウィンパーティーにあらわれて、ハロウィンの魔力を強奪しようとするンだ。――つまり」
 ケルベロスハロウィンをもっとも盛り上がっているパーティにする事で、敵をおびき寄せる事が出来るぞ、なんて、レプスは瞳を眇め。
「っつー訳で、お前達には3会場に分かれてスイーツビュッフェを盛り上げてもらうぞう」
 地図を掌の中に現しながら、彼はケルベロス達に向かって悪戯げに笑った。

「――ここに集まってもらったお前達に盛り上げて貰うのは、3つ会場の存在する『スイーツビュッフェ』の中でも、この会場だ」
 レプスが指先で空中に丸を描くと、ほどほど近くにある3つのビュッフェ会場の一つに赤丸が記され。
「ンで、おびき寄せる予定の魔女は『アナスタシヤ・バーバヤガー』って名前のようだなあ」
 パーティを全力で楽しむ事で、アナスタシヤは現れる。
 ――もしアナスタシヤが現れなかった場合も、ポンペリポッサと死神の魔女達によって生み出された『南瓜うにうに』という死神の群れが12体出現するだろうという予知がでているそうで。
「幹部と戦う事になったチーム以外は南瓜うにうにをサッと撃破して、アナスタシヤと戦うチームの援護に向かってもらうぞー」
 アナスタシヤは、8人のケルベロスが束になろうが敵わぬほど強敵である。
 そして目の前で対峙したケルベロス達をすべて倒すと、パーティーによって高められた大量の『ハロウィンの魔力』を奪って撤退をしてしまう。
 ――全滅せずに強敵である彼女の撃破を狙うには、他チームの協力が不可欠という訳だ。
「楽しいだけのハロウィンパーティーを頼めなくて申し訳無いが――、『魔女の力を得た死神』は撃破をしなければ厄介な存在になりそうでなァ」
 首を傾いだレプスは真っ直ぐにケルベロス達を見る。
「楽しい気持ちを利用して『赤ずきん』を蘇らせるなんてバカバカしい計画は、絶対阻止してくれよなァ」
 無事に戻ってきたら菓子の一つもやるからよ、と。レプスは頭を下げた。


参加者
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)
月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)
宝来・凛(鳳蝶・e23534)
ステラ・フォーサイス(嵐を呼ぶ風雲ガール・e63834)

■リプレイ

●スイート・ハッピー・ハロウィン!
 わーーっ、すごい。すごいですよ!
 スイーツがいっぱい!
 甘い物には目が無い方だ。内心の大興奮を、心の声に押し込めて。
 狼で赤ずきんな衣装を纏った深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)は、口以上に物を言う銀色の尾を上機嫌にぱたぱたと揺らし。写真をパシャパシャ。
 そんな彼女が撮影するのは――。
 クロカンブッシュのお山と、わた飴の雲。
 スポンジケーキの煉瓦の敷かれた床には、マシュマロの街路樹が立ち並び。
 カラーチョコの噴水に彩られたフルーツが、クッキーのお家の前を彩っている。
 お菓子の街の真ん中にそびえ立つのは、おばけマシュマロ達が屯するロールケーキタワー!
 様々なお菓子で彩られた色鮮やかなお菓子の街並みに、マジパンで作られた人もお化けも大騒ぎ。
 それはビュッフェと平行して、番犬達の提案した手作りお菓子の街作りだ。
 ルティエの相棒、ボクスドラゴンの紅蓮も炎の尾をゆらゆら。彼女とおそろいのマカロンネックレスを跳ねさせて、お菓子の街をパクリとつまみ食い。
 帯には鯛焼きと黒猫飾り。肩上には黒猫のチロちゃんの尻尾がゆらゆら。
 絞り細工の花をふんだんにあしらった和装猫又、月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)が、マジパンの人形の配置に唸っていると――。
 猟銃を持った狩人服のテレビウム、帝釈天・梓紗と如何にも小人っぽい三角帽子を被った白ウサギがクレープをもって駆けて行く。
 その様子に悪戯げに縒が瞬きを重ねて、にんまり笑顔。
「えいっ」
 ――トリック・アンド・トリート!
 銃型クラッカーの引き金を引くと、大きな音を立てておかしも悪戯もいっしょくた。コウモリとお菓子が溢れて、梓紗はお顔に!マークを浮かべるばかり。
「フフフよいよい、めちゃカワじゃないの!」
 そんなテレビウムに与えられたお菓子を、ひょいと拾って。
 逆手にはアップルパイを持って随分最強になっている白雪姫、片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)は口の横にりんごの欠片をつけたまま。
「合わせのスイーツモチーフアクセも連帯感出まくりねっ、何ともお菓子が進むわ!」
「あら、そのアップルパイ美味しいの?」
「もちのろんよ!」
 トングを片手に。パリッと帽子屋モチーフの男装を纏った橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)の帽子にはキャンディケインが飾り付けられ。ビュッフェのケーキを摘まんでは一口。もぐもぐ。
 相づちを打つ白雪姫は、めっちゃリンゴ食べてる。
「んー♪ リンゴも美味しいけれど、こっちの南瓜も美味しいわねー」
「そうやってお菓子を戴く姿もバッチリ決まっていてよ! もう眠ってる暇なんてありゃしないわね!」
「あら、ありがと」
 芍薬のスイーツショットを激写した芙蓉はリアルイイネのお墨付き。写真をパシャー。
 ティポットを被ったテレビウムの九十九が、頭上に芍薬特製スペシャル盛り付けビュッフェ皿を掲げて主の後ろを、てててとついて行く。
「さあ、お嬢様。こちらをどうぞ」
「おーっほっほっほ! よくってよ、後は血のように真っ赤な紅茶を淹れて貰えるかしら!」
「勿論、仰せのままに」
 丁寧に盛り付けられたスイーツの皿を片手に。
 恭しく礼をした執事服の七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)と、如何にもな貴族吸血鬼のお嬢様になりきっているステラ・フォーサイス(嵐を呼ぶ風雲ガール・e63834)は、一際目立っている様に見えた。
 なんたって真っ赤なブラッドオレンジジュースのグラスをくゆらせるステラは、もう心まで貴族吸血鬼になりきっているようだから。
 使い魔として蝙蝠の羽をつけられたライドキャリバー、シルバーブリットもシートにトレイを載せて。
 西へ東へ、少しばかりグロテスクでポップで可愛いスコーンを配膳中。
 そこを通り過ぎる、もう一人の赤ずきんの姿。
 ――勿論、今復活を望まれて奮闘されているドリームイーターでは無く。
 その正体は、お菓子の街におばけマシュマロを華やかな笑顔で並べている宝来・凛(鳳蝶・e23534)である。
 ――平和に楽しむ心を利用して災いを招こうと言うなんて、言語道断。
 だからこそ、凛は全力でこのパーティーを楽しむつもりでいた。
 うん、だからこの味見も仕方が無い事。
 ぺろりと親指から、生クリームを舐め取っていると。
 そんな彼女とよく似た白い翼が、悠々と空を駆けてくる。
 それはおそろいの猫のアイシングクッキー風のペンダントを揺らした翼猫、瑶だ。
「……わっ?」
 ぱら、ぱら、ぱら。
 そうして。
 尾に引っかけた籠をひょいと傾けると、瑶はぱらぱらと空上からお菓子の街に金平糖の雨を降らして、雨のトリックアンドトリートをお裾分け。
 金平糖の雨を一粒ぱくり。
 久々の白衣を纏ったリリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)は、パンプキンキャンディを胸元に飾り付けて。
 さっき駅前で売ってたキャンディバッジにそっくりだが、あまり深く突っ込まない方がきっと良いのだろう。
「はぁい、どんどん運んでくるから、どんどん食べてね!」
 白衣なのに無闇なまでに怪力を発揮するリリーは、両腕一杯のチョコバーを抱えて並べて。
「――ああ、食べ過ぎちゃった子もアタシの所に来てね、こう見えて元ウィッチドクター。きっと死にはしないわ!」
「び、微妙に信用できない……、これも悪戯なのでしょうか……?」
 ルティエがリリーの言葉に首を傾ぐ。
 いやー、どうでしょうねえ。
 ――羊ならぬ執事でかつ兎だからね。高く跳ぶのはお手の物だよ、なんて。
 優雅な動きでダブルジャンプを重ねた瑪璃瑠は、上空から撮影した写真を早速確認。
「まあ! 中々あたしの街も出来上がってきたようね!」
 ふふんと執事の撮影した写真を覗き込み、お嬢様ポーズでステラが笑った。
 その瞬間。

●トリック・オア・トリート!
 番犬達の背に怖気が走った。
「……!?」
 慌てて振り返れば、床に輝く五芒星。
 光が円を描いて魔方陣を描き出し。弾ける星光。
「うふふ、ふふふ、感じる、感じるわ」
 丸眼鏡の魔女姿。
 カボチャを模した大きな帽子の上でジャック・オ・ランタンをりんと揺らして。
「ハロウィンの魔力の高まりを感じたわっ!」
 こん、とヒールを高らかに響かせた少女――死神魔女、アナスタシヤ・バーバヤガーが、花のように微笑んだ。
「トリック・オア……やっぱりトリックっ!」
 魔女が大きく箒を振り回すと、星彩が散り。
 咄嗟に槍を手にした凛と瑶。そしてシルバーブリットが仲間や客を庇う形で割入った先に、吹き荒れるはお化けとコウモリの群れ。
「お帰り下さいませ、お客様っ!」
 その後ろで地を踏みこめば、虹が跡引き。九十九を抱いた芍薬が、魔女の頭上に虹舞う飛び蹴りを叩き込むと、同時に投げ出された九十九が凶器を振り下ろした。
「赤ずきんなら此処におるよ、……なぁんて!」
 痛みにも笑み浮かべて、凛が炎の花散らして。
 ――さぁ、遊んどいで。
 炎の胡蝶が舞えば、魔女へ留まって業火の花咲く。
「フフフ来たわね、楽しそうな雰囲気に釣られてまんまとやってきたわね!」
 ぴょこぴょこ跳ねる梓紗が応援動画を流せば、芙蓉がいつもの調子で笑った。
 そうして気合一発。
 白雪姫と合わせの小人帽子を被った白ウサギ達が仲間へと、加護を抱えてばびゅんとかっ飛んで行く。
「やだ、痛ーい、あなた達騙したのね。ひっどーい!」
「まあまあ、アンタもお一ついかが?」
 ぷくっと頬を膨らせた魔女が頭を撫でると、白衣を揺らしたリリーが肉薄していた。
「――まあ、喰らわせるのはコレだけどねッ」
「――お前達の思い通りになんかさせてたまるものか!」
 柔く笑んだリリーがお菓子代わりの蹴りに星屑散らすと同時に、ルティエの冴え冴えと月光めいた黒鉄が、縦一閃で追撃をかけ。
 主の気迫に応えるように、紅蓮は炎の加護の魔力を散らした。
「そういう訳ね、ふうん。でもね、罠だろうとハロウィンの魔力は本物! 集めちゃえば一緒よ!」
「なら、この執事がご主人さま達の為にも阻止させて頂くんだよ!」
 箒をガードに上げた魔女が、弾き飛ばされながら。片手を地に着いて体勢を保持すると、頭上へと降り落ちて来たのは、瑪璃瑠の撃ち放った巨大な霊弾。
「おーっほっほっほっ、あなたにはトリックしか与えなくてよ!」
 加護の葉っぱを散らしながら、ステラはお嬢様吸血鬼のまま高笑い。
「うん! 楽しい気持ちを悪さに使うなんて、許さないからね!」
 肉球を模した竜槌を砲へと変形させ。
 一般人への避難を呼びかけ終えた縒が地を蹴って大きく跳躍し、魔女へと突進するように爆ぜ飛べば、砲を叩き込み放った。

●仲間を信じて
 ――詠唱圧縮。境界は既に、失われた。
「門よ開きて、夢現を繋げ!」
 瑪璃瑠の加護の癒やしが放たれ、痛む身体が急激に癒やされる感覚。
 ――重なる剣戟、打ち合いは幾度と無く続き。
 息も吐かせぬ攻め立てに、番犬達は防戦気味と成りつつあった。
 しかし、仲間達が援護に来る事も理解している。
 だからこそ番犬は仲間を信じ希望を捨てる事無く、攻めあぐねながらも防御と癒やしを重ね続けている。
「えいっ!」
 戦いとは有利である時は楽しい物だ。
 魔女が楽しげにステップを踏んで箒を振った、その瞬間。
 空より降り落ちて来たのは、大口を開いた巨大な南瓜ランタンやお化けたちだ!
 主達を庇おうと、九十九と瑶が前へと駆け寄り――そのまま、ぱくりと喰らわれ。
「わーっ、シルバーブリット!」
 仲間を助けて、と。
 ステラの声掛けに駆けたキャリバーが、ランタンにガトリングを放ち寄り――。
 ぱくり、咀嚼された。もぐもぐ。
「し、シルバーブリットー!!」
 ステラの慌てた声に合わせて、鋭く駆けたルティエの刃が煌めき。
 その刃に真っ二つになったお化け達より、サーヴァント達がぽーいと投げ出されて地を滑る。
 ファンシーな攻撃ではあるが、こう見えてとても痛いもので。サーヴァント達はくらくらぴよぴよ。
「一人で会場中の魔力を集めよう、と言うだけあってしぶとい……!」
 鋭く息を吐き、刃を握り締めたルティエは瞳を眇め。
「そうね、向こうさんも本気って訳、ねっ!」
 リリーがこっくりと頷いて、磁気嵐を放った。
 刹那。
 重なるように世界に星明かりが満ち、瞬く煌めきが嵐に混ざった。
「!」
 同時に身体に満ちる、癒やしの暖かさ。
「……お待たせ」
 加護の陣を展開した梅太がぽつりと呟き。
 金糸雀色の髪を揺らして、メロゥは柔らかく笑んだ。
「あれがアナスタシヤね。メロたちも一緒に戦うわ」
「まぁ、おおきに。頼もしい限りやわ、よろしくね!」
 仲間達の到着に自らを気合で奮い立たせながら、凛は頼もしき増援に花のように笑み。
「んじゃ、景気付けにドカンといきましょうかっ♪」
 両拳をこつんと叩き合わせた芍薬が強く地を蹴って、爆ぜるような赤熱の拳を叩き込んだ!
「皆大丈夫っ?」
 ステラが慌ててガジェットから加護を宿す蒸気を放てば、梓紗がぴょーいぴょいと応援動画をピッピッピ。
「めちゃカワ要員が増えたわね! フフフよいよいの極みかしら、こうなれば大判振る舞いの構えよっ!」
 大盤振る舞いはこういった真似を致します。
 芙蓉がばびゅんと御業の白ウサギを撃ち放てば、最初からウサギが居座っていた人にはうさうさだし、いなかった人にもうさうさと加護と与えて。
 星を散らして。加護に力を貰った縒が、一際大きく跳躍した。
「皆と一緒なら、絶対に負ける気はしないもんね!」
 縒の頭上には白ウサギがぴょっこり。
 上半身をぐっと捻って、解き放つように流星の蹴りを叩き込み――。
「まあ! 沢山集まって魔力を増やしてくれるなんて優しいのね!」
 縒の蹴りをその腕で受け止めた魔女は、笑って大きく箒を薙ぎ払った!
「みゃっ!?」
「おーっとっ! 大丈夫?」
 薙ぎはらいの勢いに跳ね飛ばされて。地へと身体を打ち据えられそうになった縒を、その身体で受け止めたのは凛。
 そして――。
「間に合ったようであるな」
 地に斧槍を突き立て、その身で箒を受け止める一十の姿。
 並ぶシアもオーラを纏い、攻撃の余波を抑え込むように腕を振るって。
「さあ、参ります! 怖い魔女は竈へ押し込んでしまいましょう!」
 そう、これで――。
「……全員集合、だねっ!」
 全チーム集まったのだと。獣の耳をぴっとたてて、縒が笑った。

●お祭りの後は、いつも寂しい
 番犬達が揃ってしまえば、魔女の優勢は脆く崩れ去る。
「しぶといなあ、そろそろ倒れちゃいなよ!」
 焦り滲む表情で、箒を振り上げた魔女は円を描く様に。
「えーいっ」
 放たれるは、蝙蝠にお化け。怖くて可愛い物を詰め込んだ光閃だ。
 しかし番犬達は、堪え、庇いあう。
 近づく終わりに向かって――。
「大丈夫、あたし達が回復するよっ!」
「フフフお任せなさい!」
 銀の粒子を加護としてステラが皆を癒やすと、芙蓉が満月に似たエネルギーをぶち当て。
「猫の牙、侮ったら後悔するよ!」
 縒が獣のようにしなやかに跳ねれば、見えぬ牙が敵を喰らい捉え。
 重ねて飛び込んできたルティエが、身を捩って低く構えた。
「――あなた達の思い通りには、させません!」
 解き放つようにルティエが刃を振るえば、右腕の地獄が飛龍と化し。
 大顎を開いて喰らいつく!
「そう。この服は伊達じゃないんだ。――皆へと尽くす力を、受けるんだよっ!」
 砲台と化した瑪璃瑠の腕より、魔女を追撃する弾が撃ち放たれる。
「さぁて、終わりよ」
「色々事情がありそうだけど、――だからといって見過ごせないのよね!」
 星と虹を散らしたリリーと芍薬が一気に魔女へと肉薄すれば、交わす形で蹴りを叩き込み。
 燃える胡蝶を揺らした凛が、右目に地獄の炎花を咲かせて真っ直ぐに魔女を睨め付けた。
「あんたらの赤ずきんに会いたいなら、会わせたげる」
 ――悪いけど、再会は冥府の海の底で、ね!
 番犬達の重ねられる猛攻。魔女は目を丸くして、箒をぎゅっと握り締めて。
「これはまずい、まずいわ! さっさとここから逃げ出さなきゃ!」
 慌てて、その踵を返そうとするが――。
「逃しませんの!」
 番犬が、喰らいついた獲物を逃す筈も無い。
 華が掲げた掌より数多の花弁が舞い、魔女を呑み込んだ。
「そんな、せっかく集めた魔力、が……」
 花嵐が収まり。
 もう動かなくなった彼女の傍へとベルが立ち尽くす。
 華やかに彩られたパーティ会場は、今や戦の跡地として荒れ果てて。
「――……おやすみ」
 凛がぽつりと呟くと、静けさを増した会場にどこか冷えた音で響いた。
 ケルベロス達の活躍によって、ハロウィンの魔力は確かに守られた。
 ――赤ずきんが復活する事は、確かに無くなったのであろう。

作者:絲上ゆいこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。