『赤ずきん』再誕計画～魔女のトリック

■リプレイ

●Happy Halloween!
　輝く南瓜のランタンに、切り抜かれた蝙蝠の群れ。魔女の帽子をかぶった白い幽霊が、ようこそとばかりに手招きをする。宣言代わりにクラッカーが一つ鳴れば、パーティの始まりだ。
　スイーツビュッフェの会場たるこの場所は、既にケルベロス達によって大きく手を加えられている。開けたところに設営されたステージを中心に、衛星のように配されたテーブルが八つ。そのテーブルの一つ一つは、それぞれ別のテーマに沿って彩られている。さながらテーマパークのようになったその会場を、ぐるりと順に巡ってみよう。
　そうすれば最初に目につくのは、やはりお菓子の家だろうか。テーブル中央に据えられたクッキー生地の小屋の周りには、オレンジだの緑だの、ビビッドで妖しい色合いの飲み物やお菓子が並んでいる。そちらに迷い込んだお客は、紺色のローブにとんがり帽子、木通の編み篭を手にした魔女――シア・ベクルクス（花虎の尾・e10131）に迎えられることになる。
「あらあら、まあ。ようこそ魔女の住処へ！」
　柔らかな笑みと共に振舞われるお菓子。けれど、その篭いっぱいに詰められたシュークリームには秘密がある。
「これが欲しいの？　でしたらどうぞ、召し上がれ」
　ご注意なさい、悪戯好きの魔女は、その中にピリリと辛いロシアンシュークリームを混ぜているかも？
「――そうそう、お菓子の家と言えば、あちらにも立派なものがあるのですよ？」
　そうして魔女が示した先、一つ隣のテーブルは、それこそ一つの大きな小屋になっている。残念ながらこれは模型のようだけれど、写真撮影にはもってこいだろう。そしてその小屋の秘めたる仕掛けは、遊びに行けばきっとわかるはず。
「お客様じゃな？　すこーし待っているのじゃぞ」
　入口に据えられた呼鈴をならせば、ウィゼ・ヘキシリエン（髭っ娘ドワーフ・e05426）の声と共に、ポストから袋詰めのお菓子がぽとりと。時折煙突からは綿あめがもこもこと発生し、庭の蛇口を捻ればジュースだって出てくるはずだ。
「ふむ、結構中の人というのは大変じゃのう」
　それらを忙しく、人力で実現して見せながら、魔法少女のコスプレをしたウィゼは髭を撫でる。

　そんなお菓子の家を二軒抜ければ、今度はお菓子の城が目に入る事だろう。
「ハッピーハロウィン……吾輩の城はいかがかな？」
　影絵の城――そんなデザインのガトーショコラに似合いの、格調高い吸血鬼姿をした瀬入・右院（夕照の騎士・e34690）が、含みを持たせたような笑みで迎える。彼の担うテーマはノーブルハロウィン。黒い城の周りを彩るお菓子は、味も確かなものながら、また高貴さを意識して。苺のミニタルトは薔薇の花を象り、果汁グミは無造作に散りばめられた宝石のように輝いている。そしてグラスに注がれた葡萄ジュースは、まるで真っ赤な血のようで。
「存分に、楽しんで行きたまえ」
　ついでにそちらにカメラを向ければ、ARで影を舞う蝙蝠の群れが現れるぞ！
　役柄を崩さないよう、ちょっと固い調子ながら、右院はそう言ってグラスを傾けた。
　そんな形で漆黒のチョコレートの城を抜けていけば、今度は茨とカボチャで彩られた城と直面することになる。
　テーブルに据えられたお城の周りには、12枚の金のお皿に、クッキーやキャンディ、そして南瓜のお菓子が盛り付けられている。中でも一際目を引くのは、特徴的な紡ぎ車を模した飴細工のお菓子だろうか。テーマは言うまでもなく、『茨姫』。その城を訪れた客は、薔薇の攻性植物を絡ませたお姫様――イズナ・シュペルリング（黄金の林檎の管理人・e25083）が迎えてくれるだろう。
「えへへ、お菓子もどうぞー☆」
　パーフェクトボディ効果も含めてきらきら輝く彼女は、眠たげながらもにこやかに、スイーツを振舞ってくれるはず。
「一緒に写真を撮るのはどう？　そうしたら、王子様に会えるかも」
　彼女の言うようにカメラをそちらに構えれば、ARで回る紡ぎ車と……やがて訪れる王子の影が見つけられることだろう。
　さて、こうした童話をモチーフにしたイズナの隣のテーブルには、一風変わった世界観が展開されている。
「ようこそ、機械仕掛けのハロウィンへ」
　エルス・キャナリー（月啼鳥・e00859）の担当するこちらのテーマは、なんと『スチームパンク』である。背中に発条飾りを、翼に歯車と機械装置を、そして鍵の杖とお菓子の籠を持ったエルスは、テーブルの傍らに佇む。
　同じ方向性の小物と花を模した一口スイーツに囲まれて、ゴシック風の幻想的なお菓子の城が据えられる。カメラ越しにそれらを覗けば、城を巡回する機械人形達の姿を垣間見ることができるだろう。
　そんなテーマの飾りの一つ、人形めいた風情で立った彼女は、ARに夢中になったり、お客が油断したところを見計らって、すっとお菓子を差し出して見せる。
「トリックアンドトリート♪」
　びくっと体を震わせた来客達に、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、彼女はお菓子を配って行った。

　会場の折り返しも済んだ所で、現れるのはキョンシーが二人、揃いの衣装に身を包んだ一之瀬・瑛華（ガンスリンガーレディ・e12053）と名雪・玲衣亜（ルーキー・e44394）だ。
　テーブルの上は少しばかりダークな雰囲気。お墓のようなオブジェが立つ中、ケーキの上には食べられる素材の可愛い蜘蛛が添えられて、ショートケーキにかける苺ソースは、あえて流血やら血飛沫やらを連想させるつけ方がされている。
「……若干おどろおどろしいですかね」
「いやー重いよえーかサン、超重い」
　首を傾げる瑛華の様子に、隣のテーブルから覗きに来た玲衣亜が笑顔で言う。
「まぁ、映えということで……」
　良しとして欲しい、と答えつつ、瑛華は玲衣亜のテーブルの方へと視線を向けた。玲衣亜の担当したそちらはどうかと言えば、見事に瑛華とは対照的で。
　お墓のようなデザインのホールケーキはともかく、周りにはカラフルなおばけやカボチャのプチケーキでポップに彩られている。もちろん血糊とかはない。
「……こちらも、食べると美味しいと思いますよ」
「ウン、口に入れちゃえばおんなじかも」
　色合いは大きく違うけれど、対比とすれば丁度良いだろうか。そんな風に笑った玲衣亜は、自分のテーブルの方に人が集まってきているのに気づく。写真の撮影なんかも始まっているようだが。
「アタシも一緒に写ってこよーっと。えーかサンもどう？」
「いえ、私はそういうのは……」
「はい、しゅっぱーつ」
　瑛華の手を引いて、玲衣亜は撮影している人々に混ざって行った。

　そんなこんなで、二人並んだ写真を撮ってくれた彼に、瑛華が礼を言う。
「ありがとうございます」
「ああ、お安い御用である」
　カメラを返した彼、もう一つ隣のテーブルを担当しているサンタクロースはそう言って微笑んだ。
　……もう一度言う。サンタクロースだ。
「季節間違えてない？　あわてんぼう？」
「勿論、間違えてはいないさ、メリー・ハロウィン！」
　玲衣亜の問いに、南瓜色のサンタクロース……奏真・一十（無風徒行・e03433）は、謎の呪文で答えた。
　もちろん、趣旨はきっちり理解している。彼のテーブルに据えられたツリーは、リースや星ではなく蝙蝠羽根や南瓜で飾られ、プレゼント箱はお菓子でいっぱい。ブッシュドノエルに見えるそれも、ちゃんと南瓜風味にできている。
　ARで見えるのは雪ではなく、白いシーツのお化け達。
「魔女もおばけもよい子の仲間、愉しんだ者勝ちである」
　赤と白ではなく紫と橙に飾られたテーブルで、トナカイ角をつけられたサキミが満足そうにお菓子を吟味していた。

「……ふむ、そろそろショーの時間であるか」
「ホント？　じゃあ音楽かけよー」
　中央ステージの方へと視線を向けた一十に従って、玲衣亜はそちらに足を向ける。会場のド真ん中に据えられたステージで行われるのは、そう、ハロウィンの仮装をお披露目するファッションショーだ。
「えーかサンも出るよね？」
「え？」
「良いから良いから、さーパリピの遊び方を教えちゃうぞー」
　冗談でしょう？　という反応に構わず、彼女は軽やかな足取りでパーティへの中心へ歩んで行った。

●うにうに
　八つの卓を用いたスイーツの競演、そして仮装を活かすためファッションショー。多数の来客と共に盛り上がりを見せたパーティは、ついに佳境を迎える。
　会場の地面に魔法陣が輝き、現れたのは――。
「これが……南瓜うにうに？」
　南瓜の乗ったスイーツのような見た目のそれに、イズナが小首を傾げる。
「去年のやつとはまた違うんじゃのう」
「此れだけ毎年やってくるなんて、ハロウィンの魔力はそれ程魅力的なのかしら」
　ウィゼの呟きにそう返しながら、シアは市民の避難誘導を開始する。
「はいはい、慌てず急いでこっち来てー」
「動かない者もいますが、近寄らないように気を付けてください！」
　割込みヴォイスを駆使した玲衣亜に、エルスがそう付け加えた。多数現れた南瓜うにうにだが、その内数体は、ハロウィンの魔力の回収に夢中になり、市民もケルベロスも目に入っていないように見える。
「だったら、動く者から仕留めましょ」
「はい、一体ずつ確実に行きましょう」
　瑛華の如意棒の一撃、そしてエルスの空間を抉るような魔術が手近な一体に向けて発動。だが一部の敵が味方を庇うような動きを見せて、狙いとは別の者が受け止めてしまう。
　敵のポジションが一部判明した形だが、どちらにせよ方針は変わらない。
「さあプレゼントだ、受け取りたまえ」
　オレンジ色のサンタが上空から大斧を振り下ろすと、髭の魔法少女も落下の勢いを乗せた魔法少女キックを放ち、敵の体力を削る。
　南瓜うにうに達が反撃の体勢を整える前に、ケルベロス達は敵を追い詰めていった。
「それじゃ最初は、君かな？」
　イズナの符より出でた【氷結の槍騎兵】が、抵抗する南瓜うにうにの身体を串刺しにする。反撃に伸びた蔓を一十が絡めとり、サキミがブレスで追い打ちをかける間に、冷気に包まれたその対象を皆が狙う。
　シアの放つ星が放物線を描いて、右院がその斬霊刀を一度、閃かせた。
「まずは一つ……だな」
　身体上は問題ないが、その中の魂を両断され、南瓜うにうにの一つが完全に停止した。
「次はこっち！」
「よーし、それじゃ行ってこーい！」
　イズナの螺旋を描く氷と共に、『テキトースローイン』、玲衣亜の使い魔のハリネズミ君がぶん投げられていく。
「こんなところですか」
「これならすぐにでも片付けられそうですね」
　敵の抵抗も、油断しなければさほどではない。追撃をかけながら瑛華とシアがそう言葉を交わす。
「そうすると……」
「他班が心配じゃのう」
　右院とウィゼの視線は、自然と他の現場へと向けられていた。
　ほどなく、ケルベロス達を狙っていた動く南瓜うにうには全滅。一行はまだ戦っている会場へと急ぎ、足を向けた。

●死神の魔女
　目指すは、死神の魔女の居所。駆けた彼等が最初に目にしたのは、思い切り箒を振り回すアナスタシヤ・バーバヤガーの姿だった。
　薙ぎ払うそれが、既に交戦中のケルベロス達を襲うそこに。
「間に合ったようであるな」
　地に斧槍を突き立て、一十がその身で攻撃を受け止める。また、身の周りにオーラを纏わせたシアも共に、攻撃の余波を抑え込むように動いていた。
「さあ、参ります！　怖い魔女は竈へ押し込んでしまいましょう！」
「……全員集合、だねっ！」
　縒の声に一同が応える。ここまで耐え忍んだ仲間達と共に、アナスタシヤを包囲するように布陣して、ケルベロス等は反撃にかかった。
「ねえねえ、攻撃当たりそー？」
「ええ、強敵ではありますが――」
　敵わない相手ではないはず。そんな右院の答えに頷いて、玲衣亜が念のためにと金属粒子を散布する。
「我が魂は破軍の邪炎、常世の悪を焼き尽くさん――」
　エルスもまたダメージの蓄積した仲間に向けて、再生のための黒炎を呼び起こす。状況を立て直せば、あとは攻め手の出番だ。
「行くよ！」
　イズナの放つ氷の奔流が足元を凍らせるのに合わせ、右院の斬霊刀が敵の傷口をなぞる。さらに後ろで、瑛華の砲が火を吹いた。
「……あまり、防御は考えていないようですね」
　遠間からの砲撃に対する反応から、彼女はそう判断する。敵の立ち位置は攻撃に寄っており、その見立て通り、ケルベロス達を蹴散らすように、アナスタシヤは前へ進む。
「もう一度、南瓜はいかが？　えいっ！」
　彼女が指先を振れば、大口を開けたカボチャが牙を剥いて降り注ぎ、舞い踊る幽霊がケルベロス達の気力を奪い去っていく。
「耐えてください、もう少しです」
　戦況を冷静に分析しながら、エルスが星の聖域を展開、傷付いた前衛達を踏み止まらせる。彼女の見立てでは、ギリギリのその一歩が、必ず勝機に繋がるはず。
「南瓜の扱いなら負けないのじゃ」
「いたずらする魔女にはお仕置きだよっ」
　いつぞやのハロウィンボムっぽいもので反撃するウィゼに続いて、イズナが秘石を煌めかせる。盛大な爆発の中で災厄のルーンがその力を示し、他のチームのグラビティと共に、敵を追い詰めていった。
「しぶといなあ、そろそろ倒れちゃいなよ！」
　声に焦りを滲ませたアナスタシヤが、再度箒を大きく振るう。先程の物理的な一撃とは違う、光の奔流が、箒の先から発射され、ケルベロス達を薙ぎ払った。
「サキミ……！」
「これはちょっと、シャレになんないカナー？」
　衝撃と苦痛、凄まじい威力の攻撃に、玲衣亜の声が緊張を孕む。
「……！」
　戦いにおける役割だと分かっていても、それは少々許しがたい――反射的に鋭く踏み込んだ瑛華の鎚が、敵の横っ面に叩き込まれた。
「ここは本物の死神が来る処ではない。なんたって、君たちの悪戯はたちが悪いのだ！」
　続けて、一十の斧が振り下ろされ、ウィゼのエアシューズが炎を生み出して敵を包み込む。右院の刃が傷も残さず霊体のみにダメージを与えるのに続き。
「さあ、もっと青く」
　シアが指を向ければ、華やかな色のアナスタシヤの衣装に、煌めき凍える花の青が、上塗りされていく。
　怒涛の連続攻撃に、踵を返そうとしたアナスタシアを、ケルベロスの放った数多の花弁包み込み――。
「そんな、せっかく集めた魔力、が……」
　魔女はその企みを阻まれ、地に伏した。

●決着
　パーティと、そして襲撃者との戦いを終えて、ケルベロス達は各々に傷を癒す。
「今日は付き合ってくれてありがとー！　なんか新鮮だった！」
「……ほんとうに、困った娘ですね」
　記念にもう一枚撮ろう、という玲衣亜に、瑛華が微笑んで返した。
「他の会場はどうでしょうね」
「無事だと良いんじゃがのう」
　エルスとウィゼが彼方に視線を向ける。きっと、そちらも無事であると信じて。

　ハロウィンの魔力を巡る戦いは、こうして終わりを迎えた。

作者：つじ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年11月13日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 2／キャラが大事にされていた 5
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