琵琶湖の東に沈む牙狼の魂

作者:刑部

 滋賀県米原市……滋賀県の北東部、湖北地域に属するこの都市にある米原ジャンクション近くの林の中。
 深夜、人気の無いそ林の中に開けた場所を、体長2m程の怪魚が3体……ゆらゆらと泳ぎ回っている。
 青白く発光する怪魚が周遊するその軌跡が、まるで魔法陣の如く浮かび上がると、その中心で土の中から引っ張り上げられる様に、肌にべったり貼り付く様な赤黒い体毛をした狼のウェアライダーが現れる。
 怪魚達はデウスエクス・デスパレス……死神の一種で、第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスの残滓を掻き集め、持ち去ろうとしていたのだ。
「うるぐぅぅぅぅぅ……殺……グルルゥゥ……」
 現れたウェアライダーは凶気をはらんだ瞳を辺りに向けて吼える。
 そのウェアライダーは野獣の如く咆哮を繰り返し、辺りの大樹の幹をその爪で薙ぐ。その周囲を怪魚の姿をした死神達が踊る様に回るのだった。

「滋賀県米原市で、死神の活動が確認されたで!」
 杠・千尋(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0044)はケルベロス達を前に口を開く。
「死神ゆーてもかなり下級の死神……空中を泳ぎ回る怪魚姿をした、知性を持たないタイプ……下っ端やな。
 怪魚型死神は第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスを、都合のえぇよーに変異強化した上でサルベージして、じぶんらの戦力として持ち帰ろうとしとるみたいや。
 他のデウスエクスの死体をサルベージする事で、戦力増やそうって魂胆やろうけど、そうは問屋が卸せへんわな。しょーもない企てはちゃちゃっと阻止したろか!」
 と千尋が笑う。

「現場は米原市の林ん中の辺りや、ほっかりと林の中で拓けたとこがあるから直ぐに判ると思うで。向こうが動いとるんとヘリオンが着く時間考えたら、丁度真夜中になるのと、林の中っちゅー事も考えると、死神らの居るところはかなり暗いから気ぃつけや。
 死神の数は2m級の魚タイプが3匹、怨霊弾放ったり噛み付いてきたりしよる。ほんで死神がサルベージするんは、肌にべったり貼り付く様な赤黒い体毛をした獣人型の狼ウェアライダーや。
 なんや知らんけど両腕に鎖が巻きついとって、それを振るって叩き付けきよるわ。あ、ハウリングも使えるみたいやけど、知性を失ってるっちゅーか、本能のまま動いてるーって感じがするわ。
 考えへん分、力任せに襲ってきよるから、周りの明るさも含めて十分気ぃつけや」
 千尋は地図に示された米原市の、ジャンクション近くに広がる林の辺りを指し、説明を続ける。

「第二次侵略期以前の奴やから、ウェアライダーのんも引っ張りだせるんやな……ウェライダーのみんなも今まはもうこっちの仲間やし、色々面倒くさい事になってもアレやから……ちゃちゃーっと片付けてしまおか」
 と千尋は八重歯を見せる。
「そうですね。ここは巧遅より拙速を尊ぶべきでしょうね。……非才不徳の身ではありますが、私も参りましょう」
 千尋の話を聞いた桐生・冬馬(レプリカントの刀剣士・en0019)も、大きく頷いて千尋に賛意を示したのだった。


参加者
大神・由宇(濡鴉・e00052)
クオン・テンペスト(黒炎天使・e00165)
ペテス・アイティオ(ぺてぺて・e01194)
夜乃崎・也太(ガンズアンドフェイク・e01418)
社守・虚之香(地球人の降魔拳士・e06106)
近宮・一情(清楚系火力上等お嬢様・e12977)
アリス・ヘルキャット(深愛・e13233)
イルザ・ウィンフォーン(駆け出し鹵獲術士・e19161)

■リプレイ


「うるぐぅぅぅぅぅぅグルルゥゥ!」
 滋賀県米原市。夜の林の中で獣の咆哮が木霊する。
 その咆哮した『者』が居る林の拓けた場所に、次々と蛍光塗料の入ったカラーボールが落ちてきて爆ぜ、辺りを仄かに照らすと、体にランプなどを付けている為、とにかく明るいケルベロス達が降下してきた。
 腕に巻き付いた鎖をじゃらじゃらと鳴らし、肌にべったりと張り付く様な赤黒い体毛をした狼のウェアライダーが咆え、その周りの宙を3体の怪魚が、踊る様に回遊している。
「あんなけったいな魚でも死神とか、人は見た目によらないってのの典型よねえ。死人引っ張り出して満足してるのか能天気に泳いでるけど、……すぐに微塵斬りにしてあげる」
「死者を愚弄する行為を赦す訳にはいかん……ウェアライダーが相手だがもう一度眠ってもらおう……」
 死掠殲装【黒】の裾を翻した大神・由宇(濡鴉・e00052)が言うや否や泳ぐ怪魚の内、一番近い個体を狙って時空凍結弾を放つと、片翼と地獄の炎の翼で飛ぶクオン・テンペスト(黒炎天使・e00165)も、上から別の怪魚を時空凍結弾で狙い撃つ。
「同族……でも骸なら容赦なくいかせて貰うよ」
「死神さん、色々動き回ってるみたいですけど、そうそう思い通りにはさせませんよ!」
 その間に、ウェアライダーを一瞥したアリス・ヘルキャット(深愛・e13233)が残る1体の怪魚に拳の一撃を叩き込み、翼を広げてクオンの隣を抜けたペテス・アイティオ(ぺてぺて・e01194)が、カンテラを戦場の周囲に撒き、戦場の明るさの確保に回る。
「せっかく眠っていたのに呼び起こされて迷惑だよな? サクッと倒して楽にしてやるぜ」
「続きますよー。これでも喰らえー!」
 夜乃崎・也太(ガンズアンドフェイク・e01418)はペイントボールをぶつけたウェアライダーへ一気に距離を詰めると、振るわれた鎖を掻い潜りその腹に蹴りを見舞い、続いた社守・虚之香(地球人の降魔拳士・e06106)も逆サイドからウェアライダーに蹴りを繰り出す。
 そして天が輝いた。一向に先だって米原ジャンクションに降り立った近宮・一情(清楚系火力上等お嬢様・e12977)の放った照明弾だ。小さな太陽の如きその照明弾は、ゆっくりと降下しながらケルベロスと敵達を照らす。
「鳳仙花! 皆様の援護に向かいますわよ!」
 跨った一情を乗せたライドキャリバーの『七五式鳳仙花』は、戦場に向かって林の中を疾駆する。
「わわっ、皆さん速いです。私は……」
「イルザさん落ち着いて。戦場で焦りは禁物です。自分の成すべき事をやればよいのです」
 いきなり戦闘状態に突入した仲間達を見て、初の依頼と言う事もあり萎縮するイルザ・ウィンフォーン(駆け出し鹵獲術士・e19161)に、宥める様に声を掛けた桐生・冬馬(レプリカントの刀剣士・en0019)は、怪魚達の飛ばす怨霊弾を斬って捨てる。
「は、はい。フィルはみんなを。私は……」
 ウイングキャットの『フィル』に対し、前衛陣に羽ばたきで邪気を払わせたイルザは、魔導書を紐解くと怪魚に向かって混沌たる緑色の粘菌を招来する。
「グルルゥゥアァァァァア!」
 ウェアライダーの魔力を込めた咆哮に前衛陣の足が止まると、死神達が次々と怨霊弾を飛ばし攻勢に出てくる。照らされた暗き林の中、相容れぬ者達の牙と爪と刃が交錯する。


「ついでに燃えとく?」
 濡れた鴉を思わせる黒翼を羽ばたかせた由宇の前に半透明の『もの』が現れ、牙を剥いて襲い掛る怪魚に炎の弾を飛ばす。それを受け燃える怪魚に間髪入れず、後ろにアイコンタクトを飛ばしたクオンが、
「魚では話にもならん、もっと上の死神を連れてくるんだな」
 と至近距離から二刀を薙いて衝撃波を放って急上昇すると、先程までクオンが居た場所を貫く形で、多数の礫が飛来し怪魚の体を穿つ。呻く様に体を反らして逃げ戻る怪魚を見て、
「うーん、いつもの銃なら今ので仕留めれたのかな?」
 2本のチェーンソー剣を下げたアリスは、手で礫を弄びながら小首を傾げる。
 他のケルベロス達もその怪魚に追撃を仕掛けようとするが、別の2体とウェアライダーが出張って来た為、それらを迎撃する形になる。
 その迎撃するケルベロス達の後ろから、次々と眼鏡が飛んできて蛍光塗料をばら撒く。
「世界に眼鏡を、眼鏡に光を! この眼鏡的な支援で任務が成功します様に」
 鯖江万歳と書かれた幟を掲げたメリッサ・ニュートンが、明るさを確保する為、後方支援を続ける中、
「負けないわよ!」
 ウェアライダーが天を仰いで上げた遠吠えに呼応する様に。突っ込んで来た怪魚にアリスが音速の拳を見舞う。
「よし、出てきよった。躱さないと、死ぬわよ」
 アリスの拳に怪魚の1体が足止めされた事で、最初に一撃を見舞った個体が周遊し、再度前線に出てきたのを見た由宇が、素早く凍結弾を放つと、
「クオンさん!」
 と声を上げ、
「言われなくても……避けれるものなら避けてみせろ……」
 8翼で宙を舞うクオンが一気に降下し、連続の斬撃を怪魚に見舞う。
 怪魚は牙を剥いた口を開いたまま、黒い体液を撒き散らして地に落ち、土埃を上げてのたうつが、直ぐに動かなくなりその体が掻き消えた。

 死神優先で撃破を狙うケルベロス達の中で、ウェアライダーの抑えに回ったのは虚之香。それに冬馬とレオ・ラグナハート。
「死してなお戦わせられるなんて、ボクはまっぴらゴメンだけど、キミもそうだよね?」
「笑顔を壊そうとするならたとえ……」
 振るわれる獣拳を2本の斧で受けた虚之香の視線が、感情を宿さないウェアライダーの視線と交差し、レオも虚之香への圧力を逸らそうと斬り掛る。
「……どう思っていようと、在らざる姿で蘇った以上、ここで屠らせて頂きます」
 その虚之香の後ろから、レイと逆側に踊り出た冬馬が斬霊刀で斬り掛るが、ウェアライダーが逆手の拳を振るうと、急に鎖が伸び、遠心力を加えた一撃が冬馬を弾き飛ばす。
「ガアァァァ!」
 そのまま冬馬に襲い掛かるウェアライダーだったが、林が光ったかと思うと次の瞬間横合いからの砲弾がウェアライダーに爆ぜ、鳳仙花を駆った一情が飛び出して来た。
「すいません、遅れました」
 鳳仙花が機銃を掃射し再度林の中へ消えてゆく中、そう言って転がる様に飛び下りた一情は、体勢を立て直すが早いかバスターライフルを撃ち放つ。
「いいよいいよ、ナイスタイミング近宮さん」
 不意の攻撃に気勢を削がれたウェアライダーに対し、笑顔を見せ攻勢に転じる虚之香。冬馬も加わり後退するウェアライダーに、
「おっと、お客様をタダで返すなが黄金竜一族の掟よ、逃がさねぇぜ」
 今まで光源の確保に動き、金鱗を輝かせたガロンド・エクシャメルが、一情と虚之香にウインクし戦列に加わり、
「再度照明弾を発射します。皆様、お気を付け下さい」
 一情の声と共に、少し距離をとった鳳仙花から照明弾が撃ち上げられた。

「死神は死神らしく主星のデスマーチに戻って、年末に泣きながら仕事してろです! デスマーチは終わらないです!」
「それはデスマーチの意味が違うぜ、単なる個人的な不満だよな?」 
 叫びながら愛用の巨大スマホ『カーディア・クローウィ』で、怪魚を斜め45度で殴るペテスにツッコミを入れた也太が、フィルのキャットリングに撃たれ、スマホの角の一撃でちょっと凹んだ怪魚に虎の拳を叩き込む。その一撃に跳ね上げられた怪魚に纏わり付く粘菌。
「どう……ですか?」
 その粘菌……無貌の従属を強いたイルザは、魔導書のページから顔を上げ、漆黒の瞳で怪魚を見つめる。その視線の先で怪魚は見えない何かに喰らい付く様な動作を見せ、ケルベロス達に無防備な横っ腹を晒した。
「イルザさんのトラウマが効いているのです。今の内に一気に行きますよ」
「あぁ、畳み掛ける……っと、そうはさせないぜ!」
 ペテスがスマホの画面上で素早く指を動かす中、距離を詰めようとした也太だったが、ウェアライダーが不意に伸ばした鎖でイルザを狙ったのを見ると、横っ跳びに飛んでイルザを庇いその一撃を受ける。
「あぁ夜乃崎さん」
「大丈夫、大丈夫。さっさと片付けるぜ」
 謝ろうとするイルザに掌を向けて制し向き直った也太は、ペテスによって降って来る無人飛行に潰された怪魚を見て、フィルに癒されながら残る1体の方へと更に顔を向ける。
「あ、倒せた様です」
 イルザが言う様に、怪魚の残る1体も由宇の一撃によって地面に落ちるところだった。


 3体の怪魚型死神を片付けたケルベロス達が、蘇った哀れなウェアライダーを囲む。
「サーチ眼鏡オンです。逃がしませんよ」
「ガアアァァァアァアアアアアアア!」
 メリッサが巨大眼鏡のレンズで照らす中、何が込められていたのだろうか? 今までで一番大きな咆哮が皆の耳をつんざく。
「煩いです。そのお口を封じて上げましょう」
「いくら咆えても無駄よ。うちは貴方の生き様や死に様は知らないけど……自分の意思に関係なく死後も操られるなんて嫌でしょう? ……だから終わらせて上げる。天をも斬り裂き雷と成す、神滅の刃閃此処に有り―どう? カッコいいっしょ?」
 耳を押さえたペテスがその翼から聖なる光を放つ中、由宇の声は咆哮に掻き消され、当人の耳に届いたかは分からないが、すうっと舞い上がると、その言葉を刃に乗せ迅雷の如き勢いでウェアライダーに突っこむ。
「続きます」
「ここが要諦か、避けれるなら避けて見せろ……お前の魂、重力に捉えたぞ」
 突っこんだ由宇を、鮮血と肉片を散らし、歯を軋ませながら受け止めたウェアライダーを見て、冬馬が駆けるとクオンも続く。
 次々と煌めく刃の閃光がウェアライダーの血によって翳り、フィルと七五式鳳仙花もクオンに続く。
「キミには悪いけど、全力でいかせて貰うよー」
「………あんたに恨みはない。だけどな…このまま死神に、元同業者の遺体が利用されたままってわけにはいかないんだ。……許しは請わないぜ、恨めよ!」
 アリスが時空の狭間からエクレールを撃ち出しでウェアライダーを穿ち、続いて斬撃を叩き込んだレオに、カウンター気味に鎖を叩き付けるウェアライダー。
「まだそんなに動けるのですか!?」
 致命傷にも思われた由宇に穿たれた傷口から、どす黒い体液を垂らし腸の様な物をはみ出しながらも、果敢に鎖を振るうウェアライダーに目を見開いたイルザが、緋色のリボンで留められたポニーテールを躍らせ時空凍結弾を放つ。
「操られる者の悲しさだよね。……ボクがその操り糸を断ち切ってあげるんだよ」
「てめぇにくれてやるものは一つとしてねぇよ、とっとと帰りやがれ!」
 その時空凍結弾と共に距離を詰めた虚之香が、-デクレス-と*クレッシア*、左戦士と右乙女の異名を持つ2本の短斧で薙ぎガロンドも続くと、更に肉片と体液が飛び散るがそれでもウェアライダーは倒れない。
「哀れな……その全てを吹き飛ばして差し上げます! 恨み辛みは死神へとお申し付け下さいましね?」
 仲間の攻勢の間に準備を整え、狙いすました一情の51.3cm連装砲【鉄風雷火】が火を吹く。その砲火はウェアライダーの右肩に命中し、肩から先を消し飛ばされ倒れるウェアライダー。
「グゴ……ガ……コ、ル……ベリ……」
 ……が、どん! と前脚を出し、呻きながら倒れるのを堪える。
 その周囲が闇に包まれ、その闇の中に浮かぶは金色の双眸。
「闇の中で獣と対する恐怖。その身で味わえ……これがお前を喰らう獣さ」
 その瞳に射竦められた様に棒立ちになったウェアライダーの体が痙攣したかと思うと、糸が切れたかの様に膝から崩れ落ち、自らの体液と肉片の中へと崩れ落ちる。
(「……やばい、俺渋カッコいい」)
 闇が晴れた中、その双眸の主……也太は一人密かに悦に浸るのだった。

 イルザが魔導書を抱えてへたり込み、フィルが宙返りしてその傍らに立ち毛繕いを始める。
「皆様、お疲れ様です。……あら、社守様? 如何なされましたか?」
「魔方陣とかは残らないんだね。他にも昔のデウスエクスが、色んな所に埋まってるんだろうね」
 頭を下げた一情に問われた虚之香が小首を傾げる。
「あの礫のタイミング絶妙だったね! 前衛助かったよ!」
「偶々だ……何回もできるものでもないだろう……」
 ニッと笑うアリスにぶっきらぼうに返すクオン。
「キミ素直じゃないねぇまぁ次も一緒になったらよろしくね」
 とアリスは腰に手を当て嘆息する。
 こうしてケルベロス達は米原市での死神の暗躍を防ぎ、哀れなウェアライダーを解放したのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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