『赤ずきん』再誕計画～魔女のトリート

■リプレイ

●パーティータイム
　――ハッピーハロウィン！
　楽しげな声が響くスイーツビュッフェ会場にて。

　♪真夜中ぼくら飛び出して
　　　お化けのパーティにぎやかに
　　　　寝たらダメだぜまだまだこれから！

　特設ステージ上から流れる歌は輝島・華（夢見花・e11960）と玩具のロボのキキを抱えた隠・キカ（輝る翳・e03014）のデュエット。
　お揃いのハロウィンカラーの衣装に身を包む彼女達の歌は賑々しい。
　二人が紡ぐ歌に耳を傾けながら明るい手拍子を送るのは、魔法使いと魔女の衣装で合わせた茶菓子・梅太（夢現・e03999）とメロゥ・イシュヴァラリア（宵歩きのシュガーレディ・e00551）だ。
「おしゃれかわいいハロウィンスイーツに楽しい歌、わくわくしてきちゃう」
「うん、俺も。ね、ね、このスイーツ、もうたべた？」
「ううん、まだよ。梅太もこれ、ひとくちいかが？」
　メロの魔法がかかっていますよ、なんて告げつつメロゥと梅太は互いに見つけてきた黒猫のマフィンとかぼちゃおばけのカップケーキを差し出しあった。
　楽しげな様子のメロゥと甘味を写真におさめ、梅太はSNSにアップロードしていく。
　そして、フランケンシュタインの仮装をした結城・レオナルド（弱虫ヘラクレス・e00032）と件のアナスタシヤと同じ格好をした村雨・ベル（エルフの錬金術師・e00811）もスイーツを堪能していった。
「おっと、たてがみにクリームが！」
「うーん、これはカロリーの味付け♪　罪深い！」
　アナスタシヤちゃんはどこの会場にあらわれるかな、と周囲を見渡すベル。少なからず縁がある相手だと思うと気になるもの。
　されど、まだどの会場に敵が現れるのかは分からない。
「せっかくだから楽しんでいこうよ！」
　カロン・レインズ（悪戯と嘘・e37629）は今はそうするのが一番だと告げ、自分が主催するハロウィンギャンブルの催しを始めていく。
「お代は要らないよ。勝負してくれたらお菓子を、君が勝ったら玩具もあげよう」
　どうかな、と客に呼び掛けるカロンは実に楽しそうだ。
　黒猫又メイドの仮装の刈安・透希（透音を歌う黒金・e44595）は盛り上がっていく会場での給仕を行いながら、周囲を見渡す。
「ぉお……すごい沢山種類があるんだな……」
　付け耳と尻尾がひょこひょこと揺れる中、キカと華の歌が終わった。そして透希は黒猫の仮面を被り、歌のパフォーマンスに入る。
「さぁ、ショータイムだ！」
　ステージで歌われていくのは妖しき宴――Monsters Party.
　男性のような低音に女性のような高音を混ぜたロック調の曲。この日にぴったりな闇夜と不思議なお祭りを歌う曲は妖しくも凛々しく響いていった。

●#ハロウィン　#南瓜行列　#スイーツパーティー
　賑わう様子が番犬や客を通してSNSにあげられていく。
　それはこの会場が盛り上がっていると外に伝えるためのものだ。しかし、その中でカロンはふと疑問を感じていた。
（確かに盛り上がってるけれど……これってもしかして、ここじゃなくて『外』に魔力が拡散されているんじゃないのかな？）
　ハロウィンの魔力と呼ばれるものは確かに此処にあるが、インターネットを介してしまえばどうなるのか。文字通り、拡散されてしまうのではないだろうか。
　嫌な予感が巡ったが、最後まで楽しむことを忘れてはいけない。番犬達は今の自分達ができることをしようと決め、其々にパーティーを賑わせていった。
　キカは歌い終えた余韻に浸りながら、華と共にスイーツ巡りを始めてゆく。
「あまあま、おいしい……。皆でもっともっと、食べて歌って笑おうね」
「はい！　写真も沢山撮りましょうね、キカさん」
　今日という日の思い出を形に残すために、ぱしゃぱしゃと軽快な音が響き、たくさんの写真が撮られていった。
　様々なタグや写真、動画で彩られたSNSの画面は賑やかだ。
　レオナルドは自分達だけではなく客にも話しかけ、タッチペンでみんなに手書きのコメントを求める。そんな中で子供が彼に寄ってきた。
「あー、ライオンの怪物さんだー！」
「飾りのボルトは焼き菓子で出来てるんです、面白いでしょ」
「いいショットが撮れそうですね。はい、チーズでーす」
　その光景をベルが写真に収め、自らも甘いものを食べながら自撮りしていく。スイーツ全制覇目指して派手に遊ぶベルはすっかりパーティーに夢中だ。
　そんな中、透希は辺りの様子を注意深く確かめていった。
「さて、そろそろ時間か？」
　パーティーが始まってから暫く、楽しいだけではない雰囲気が感じられはじめたのだ。梅太は持っていたスイーツの皿をテーブルに置き、メロゥを呼ぶ。
「準備、しようか」
　ええ、と答えたメロゥは手にしているロッドを振りかざして、魔女になりきりながら怪しい雰囲気がする場所をびしりと示す。
「とっておきの魔法、篤とご覧あれ！」
　そして、ケルベロス達は奇妙な気配のする方へと目を向けた。
　此処から戦いが始まる。そんな予感を覚えながら――。

●南瓜の出現
　その瞬間、不意に周囲の空気が変わる。
　床に魔方陣が現れたと思うと、其処から南瓜うにうに達が現れはじめた。魔女ではないということは別の会場が更に盛り上がっていたということだ。
　しかし、番犬達は怯まずに敵を見据える。
「来ましたね……！」
「アナスタシヤちゃんじゃないみたいですね」
　レオナルドが身構え、ベルは軽く肩を落とした。カロンや透希が即座に周囲の人々を素早く避難させていく。指示と行動はスームズに行われ、一般への被害は抑えられた。
　南瓜達は会場の楽しさにつられてきているので、自然とお菓子のテーブルに吸い寄せられている。
　されど半数は此方に向かってうにうにと蠢き、襲いかかろうとしていた。
「ブルーム、行きますの！」
「悪戯しかしないハロウィンの使者は遠慮したいな。フォーマルハウト、お願い」
　華はライドキャリバーに呼びかけながら爆風を巻き起こし、カロンもミミックに皆を護るように告げてから調律魔法を紡ぐ。
　敵の一派が狙うのは赤ずきん復活のための魔力集めだ。
　死んでしまった人は決して元には戻らない。ポンペリポッサが復活を企む気持ちは分からなくもないが、それは世の理だ。
　メロゥは敵を見据え、星の光を一体に向けて落とす。其処にキカが続き、光弾を射出していった。
「ごめんなさいね、メロたちは行かなければならないの」
「きぃたちね、あなたにかまってる暇はないの」
「魔女の、気配……あっちだね」
　メロゥとキカの攻撃が南瓜に直撃する中、梅太は仲間に盾の守護を展開する。同時に別の会場から感じた強大な気配を示した。
　ああ、と頷いた透希は早々に雑魚達を倒すと誓い、獣化した拳爪を突き放った。
「人々の楽しみを邪魔するな！」
　此処に襲撃予測がなければあのまま楽しいパーティーが続いたはずだというのに。透希の一撃は南瓜を貫き、大破させる。
　其処で仲間達は察した。
　回復や援護にまわる者以外が全力を振るえば、襲いかかってきている敵を最速で屠ることが出来る。
　レオナルドは頷くと同時に居合いの構えを取り、高速の斬撃を二体目に放った。
「今です！」
「はい、決めてしまいましょう」
　仲間からの合図を受け取り、華とブルームが吶喊していく。振るうのは天照による鋭い一閃。其処に炎が重ねられ、二体目の南瓜が地に伏した。
　だが、残るうにうに達も黙ってはいない。
　オレンジ色の魔力が番犬達に放たれ、鈍い衝撃が身体に巡った。
「いけない、癒やしますね！」
　ベルは即座に紙兵を散布して仲間を癒やしていく。回復に専念すると決めているベルとイージーエイトさんに援護を任せ、梅太とカロンは次なる標的に目を向けた。
「……そこ、だね」
「静寂と狂乱の交響曲を聴かせて差し上げましょう」
　梅太は氷の魔力を解き放ち、カロンは調律の魔法を響かせていった。静寂と狂乱の力が巡る中でミミックも敵に齧り付く。
　透希もその隙を狙い、仲間と標的を合わせていった。
　喰霊刀を掲げた透希は其処に霊体を宿らせ、ひといきに敵を切り放つ。
「これでどうかな！」
「決めてみせるわ」
　其処にメロゥによる凍結弾が解き放たれ、南瓜うにうにが倒れた。
　それから更に戦いは巡る。
　レオナルドの一閃が新たな一体を屠り、ベルとシャーマンズゴーストの癒やしが皆を支え、華とブルームや、カロンとフォーマルハウトの連携攻撃が敵を穿ってゆく。
　数分後、残るは敵一体となった。
　戦いに加わっていない南瓜はまだお菓子に群がっている。そして、他の会場からは強い魔力の余波が感じられた。
　早くこの一体を倒して魔女の居る場所へ向かわなければ。
　キカはちいさな決意を胸に秘め、地面を大きく蹴り上げた。其処から放たれたのは流星を思わせる鋭い蹴降下。
「ハロウィンの魔法は、悲しいことになんか使わせないよ」
　――だいすきな人がよみがえらなくても、生きていかなきゃ。
　言葉にはしない思いと共に、キカの一閃が敵を貫いた。そして、ケルベロス達は即座に踵を返す。残したうにうに達はそのまま魔力を持ち帰ってしまうだろう。だが、今はアナスタシヤと戦う者達の助けに向かう方が優先される。
「行きましょう、皆さん！」
「アナスタシヤちゃんに会いに向かいましょう」
　カロンの呼びかけに皆が答え、ベルも魔女の気配を辿って駆け出した。

●魔女のトリック・スイーツ・トリート
　やがて――。
　向かう先、遠くの空中に南瓜のランタンやおばけが舞い踊る様が見えた。
　それがアナスタシヤ・バーバヤガーの力だと察した番犬達は、戦場となっている会場に一気に飛び込んでゆく。それと同時に梅太が加護の陣を展開した。
「……お待たせ」
「あれがアナスタシヤね。メロたちも一緒に戦うわ」
　メロゥは彼に守護を任せ、魔女と戦っていた者達の前に立ち塞がる形で布陣し、敵に向けて星の魔力を紡いだ。
「まぁ、おおきに。頼もしい限りやわ、よろしくね！」
「んじゃ、景気付けにドカンといきましょうかっ♪」
　そのような返答が向こうの仲間から聞こえ、レオナルドは確りと頷きを返す。増援に気付いたアナスタシヤはくすりと笑み、更なる力を振るおうと魔力を練り上げる。
「まあ！　沢山集まって魔力を増やしてくれるなんて優しいのね！」
　だが、此方とて後れを取る気はなかった。
　華は士気を高める爆風を散らし、透希は憑霊の力を放ってゆく。ベルは変わらず癒やしに専念しており、カロンも古代語魔法を用いて敵の動きを止めようと狙う。
　キカは華からの援護を受け、轟竜の一撃で魔女を穿った。
　しかし、アナスタシヤはまだ余裕の表情を見せている。
　箒を薙ぎ払い、此方に与えてくる衝撃は全周囲に被害が及ぶものだった。メロゥは痛みに耐え、レオナルドも地獄の炎弾を放つことで力を吸収して堪える。
　だが、番犬達を庇ったブルームとフォーマルハウトは地に伏し、イージーエイトさんも衝撃に耐えきれずに散った。
　そして、更に魔女の箒が薙ぎ払われようとした――その瞬間、増援が到着した。
　地に斧槍が突き立てられたかと思うと、一閃が彼らによって受け止められる。
「間に合ったようであるな」
「さあ、参ります！　怖い魔女は竈へ押し込んでしまいましょう！」
　頼もしくも感じられる声が掛けられ、新たな八人の仲間が戦場に布陣していく。
　これで役者は揃った。
　攻撃は激しいが後は皆で魔女を追い詰めていくだけ。癒力も攻撃手段も十二分にある。誰も倒れぬよう立ち回り、脱落者が出ないようにするだけ。
「トリックオアトリート！　お菓子をくれても悪戯するぞ！」
　激しい戦いで癒やしが必要な為に攻撃には回れない。それでもベルは思いの丈を言葉に乗せ、皆を支えていった。
　魔力が巡り、攻防が繰り広げられる中で魔女は更に動く。
「もう一度、南瓜はいかが？　えいっ！」
「させません！」
　再び南瓜とおばけの乱舞が解き放たれたが、レオナルドが得物で受け止める。獣王無刃の一閃で反撃に移った彼に続き、透希が妖しき宴に誘う歌を響かせていった。
　その歌は戦場に舞う南瓜を落とし、敵の力を縛っていく。
「……まだだ、負けたりしない！」
「このまま押し切りましょう！」
　透希の声に頷いたカロンが不確定性のインシデントを重ねる。響きあう音と音は戦場に広がり、徐々に敵の力を削っていた。
　其処から更に他の仲間達の攻撃や援護が巡ってゆく。
　対する魔女も形成の不利を感じてきたのか、一気に勝負をつけようとしてきた。
「しぶといなあ、そろそろ倒れちゃいなよ！」
　構えた箒から解き放たれるのは全方位に向けたきらきらひかるビーム光線だ。
　蝙蝠のように羽撃く光が番犬達を貫き、抗えぬ痛みを与えてきた。メロゥが思わず倒れそうになるが、梅太がその身体を支える。
「……大丈夫、だよ」
「そうね、最後まで一緒に……！」
　心安らぐような声から紡がれる癒やしを受け、メロゥは掌を握り締める。そして、闇を照らす星を喚ぶ。ひかりが煌めく中、キカも閃光を呼び起こしていく。
「動いちゃだめだよ、もっと痛いから」
　光の槍に貫かれるような幻覚が敵に齎され、其処に仲間達の怒涛の攻撃が重ねられていった。それによってアナスタシヤの体勢が大きく揺らぐ。
「これはまずい、まずいわ！　さっさとここから逃げ出さなきゃ！」
　敵は逃げ出そうとしているが、これは紛れもない好機だ。とっさに動いた華が掌を掲げ、魔力を集わせる。そして――。
「逃しませんの！」
　紡いだ言葉と共に数多の花弁が戦場に舞い、アナスタシヤを一気に包み込む。そうして花弁の嵐が晴れた時、ハロウィンの魔女はその場に伏し、戦う力を失っていった。
「そんな、せっかく集めた魔力、が……」
　魔女は息絶え――やがて、戦場には静けさが満ちてゆく。
　賑わう日の中、楽しい心から作り出される魔力が持ち帰られることは阻止できた。倒れ伏した魔女を見下ろし、仲間達はゆっくりと息を吐く。
　誰もが傷つき、倒れる寸前まで疲弊していた。しかし番犬達の裡に巡るのはハロウィンを守りきったという感慨。
　支えあう梅太とメロゥは微笑みあい、華とキカも頷きを交わす。透希とカロン、そしてレオナルドも安堵の気持ちを抱いていた。
　確かに勝利したという事実が巡る中、徐に踏み出したベルはそっと地面に手を伸ばす。激しかった戦いで千切れたらしいジャック・オー・ランタン付きのリボンを拾いあげ、ベルは魔女の名を呼んだ。
「アナスタシヤちゃん……」
　呼びかける言葉に答える者はおらず、その声は静かな風に乗って消えていった。

　こうして、ケルベロス達はハロウィンの魔力が集められることを阻止した。
　これで赤ずきんの復活という企みも阻止できるだろう。自らの力を死神に捧げてでも愛しい赤ずきんを蘇らせようとしたポンペリポッサ。
　命を賭した彼女に最期の刻が訪れるのもきっと、間もなくだ――。

作者：犬塚ひなこ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年11月13日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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