『赤ずきん』再誕計画~サクリファイス・ハロウィン

作者:朱乃天

 此処は冥府の海の、その深淵。
 生命の死を司るデスバレスの海底に、巨大な夢喰い魔女の長――ポンペリポッサの姿が、そこにある。
 そして彼女の周囲には、数百体もの、ケーキに南瓜の頭が乗った死神らしきモノたちと、三体の死神の魔女が一同に集い、『とある』計画の準備を行っていた。
「『赤ずきん』や、ようやく準備ができたよ。このハロウィンが、『赤ずきん』を蘇らす事ができる最後のチャンスだ」
 ポンペリポッサの悲願――死神の力を借りてでも、『赤ずきん』を再び復活させる。
 その為ならば手段は厭わず、大きな犠牲を払ってまでも、彼女は望みを叶えるつもりだ。
「あたしがハロウィンの魔力を死神に渡せば、ジュエルジグラットは今度こそ終わりになるだろうさ」
 ――だけど構いやしない。
「あんたを見捨てたジュエルジグラットなど、何度でも捨ててやるのだから」
 憎悪を孕んだその言葉と共に、三体の死神の魔女と数百体の死神の群れが消え――最後にポンペリポッサの姿も見えなくなって、眠りに就くかのような静けさが、再びデスバレスに戻るのだった――。

 月面を舞台に展開された『暗夜の宝石』攻略戦の勝利に沸き立つケルベロスたち。
「本当に皆、よく頑張ってくれたね。こうして無事に地球に戻って来れたのも、キミたちのおかげだよ」
 玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)は戦争の成果を労いながら、彼らと喜びを分かち合っていた。
「ところで戦争が終わったばかりだけど、恒例のハロウィンももうすぐだよね」
 毎年この時期は、ハロウィンが開催されて盛り上がる頃である。
 だが過去には必ず邪魔をしてくる勢力が、いつも出現していたことも思い出される。
 それは今年も例外ではなくて。ハロウィンを狙って、姿を消したポンペリポッサが、死神と協力して仕掛けてくる、と。
 シュリが予知した事件を伝えると、ケルベロスたちは勝利の余韻も程々に、気を引き締め直して話に耳を傾ける。
「ポンペリポッサは三体の魔女死神と、数百体の死神の群れを率いて、ハロウィンの襲撃を企んでいるんだ。そうして季節の魔力の一つ『ハロウィンの魔力』を強奪するつもりみたいだね」
 おそらくポンペリポッサの目的は、『赤ずきん』を蘇らせる事に間違いないだろう。
「そこでキミたちは、ポンペリポッサと死神の魔女を撃破して、敵の目論見を阻止してほしいんだ」
 ポンペリポッサたちは、最も盛り上がっているハロウィンパーティーの場所に現れる。
 つまり、ケルベロスハロウィンを大きく盛り上げ、敵をそちらの方に誘き寄せれば、一般人への被害を抑えつつ、有利に戦うことができるだろう。
 その為にも、まずはケルベロスハロウィンの会場を盛り上げながら、ハロウィンの魔力を高めることが必要になってくる。
「キミたちには『パレードロード』の会場に参加してほしいんだ。そこは多くの人の仮装行列で賑わう、メインストリートだよ。そしてここに出現するのは、今回の計画の首謀者でもある、ポンペリポッサということになるね」
 一番の強敵を迎え撃つ以上、このパレードロードは最多の10チームが振り分けられる。
 しかしその全てのチームでポンペリポッサと戦うわけではなく、他にも彼女が引き連れてきた『南瓜うにうに』という死神の群れの相手もしなければならない。
 従って、ポンペリポッサと直接戦闘するチーム以外は、12体の南瓜うにうにと交戦し、それらを素早く倒して、ポンペリポッサと戦うチームの援護に向かうことになる。
「ポンペリポッサは目の前のケルベロスを全て撃破し終えると、大量のハロウィンの魔力を奪って撤退してしまう。そうさせない為に、救援に回るチームも急いで援軍に向かってほしいんだ」
 南瓜うにうには、戦闘力はそれほどでもないが、数の多さが厄介だ。
 また、ハロウィンの魔力が大好物の為、パーティーが盛り上がった場合はハロウィンの魔力を集めるのに夢中になって、自分がダメージを受けるまで戦闘に加わることはなく、そのような南瓜うにうには、最悪、無視をしても構わない。
 援軍としての加勢を優先するなら、そうした敵の性質を利用しながら、無理せず避けるというのも、作戦の一つであると言えるだろう。

「ドリームイーターはいつもそうだけど、今回も『赤ずきん』を蘇らせる為だけに、楽しいハロウィンパーティーを襲って悲劇を生むような、そんな行為は決して許せるものではないと思うんだ」
 淡々とした口調で語るシュリではあるが、隠し切れない憤りを言葉の端に滲ませる。
 もしもまた、ポンペリポッサを逃せば更なる被害を招くことになり、『魔女の力を得た死神』も生き延びたとなれば、ケルベロスたちにとっても厄介な存在になってしまう。
 ――だから魔女の願いは、醒めない夢のままで終わらせたい。
 後はよろしく頼んだから、とシュリはケルベロスたちに全てを託し、パーティー会場に赴く彼らの無事を祈るのだった。


参加者
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)

■リプレイ

●パレード・ロードに忍び寄る影
 ハロウィンの魔力を奪おうと、パーティー会場を襲うデウスエクスたち。
 そんな魔女たちの目論見を阻止する為に、敵の注意を引き付けようと、ケルベロスたちはそれぞれに仮装しながらパーティーを盛り上げていた。
「ハッピーハロウィン! 魔法使いのお兄さんから、子供たちにお菓子のプレゼントだよ」
 ローブを纏って『魔法使い』に扮した日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)が、何も入っていないはずのローブの中から、隠したお菓子を魔法のように取り出し、集まった子供たちに手渡していた。
「ほら、お菓子だったらまだいっぱいありますよ」
 ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)はとんがり帽子やマントを身に付け、南瓜や蝙蝠などで装飾されたハロウィン風の『魔女』として、蒼眞と一緒にお菓子を配る。
 その後ろでは、ケルベロスたちが乗った2台の人力パレード車が牽引されて、パレード会場を練り歩く。
「映えな写真撮れるヨ、どう?」
 蝙蝠翼を生やした黒いスーツ姿のキソラ・ライゼ(空の破片・e02771)は、『悪魔』の仮装でニコリと笑い、参加者たちに呼び掛ける。
 片や車を引っ張るサイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)は、大きな南瓜を被ってマントを羽織り、『ジャックオーランタン』の恰好をしながら、身振り手振りのコミカルな動きで参加者たちを和ませていた。
 もう1台の車を引いているのは、『狼男』に扮したノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)。
 普段は引き籠っている自分みたいな人間が、ハロウィンで仲間と仮装している事実に驚くノチユ。けれどもそれで被害を減らす助けになるなら、と。楽しむ参加者たちに笑みを送って、一緒においでと手招きをする。
「今日はミンナが主役だからな。さぁ、ステージに上がって来いよ」
 ティーポットのミニクラウンを頭に飾ったレンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)が仮装するのは、『紅茶の精』だ。
 大きなティースプーンを手に掲げ、その立ち振る舞いは淑やかなれど、ラフな声掛けとのイメージギャップで、人を魅了し、惹き付ける。
 人々の仮装で賑わう会場に、どこからともなく祭囃子の音色が響き渡る。
 『牛若丸』に扮した翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)が、軽やかにスキップしながら笛を吹き、シャティレも無邪気に飛んで回ってパーティーの雰囲気を盛り上げる。
「ふふ。こうして楽しんでいると、作戦のことも忘れてしまいそうになりますね」
 フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)の仮装は、華美な着物姿の『お姫様』。
 風音の笛の音色に合わせて、楽しそうに摺鉦鳴らして。子供たちが興味深げに集まれば、目線を合わせるように身を屈め、お団子の入った小袋をあげて、にっこり優しく微笑んだ。
 ケルベロスたちの努力によって会場中が大きく盛り上がりを見せる中、ハロウィンの魔力が次第に高まり、いよいよ『時』が訪れようとする――。

 遠くの方が突如眩しく光ったその瞬間――巨大な影が光の中から姿を顕わす。
「漸くお出ましみたいですね……ポンペリポッサ!」
 ウィッカが見つめる視線の先には、事件の元凶でもある夢喰い魔女の長。
 ポンペリポッサが出現したのは、ウィッカたちより離れた別のチームの場所だった。
「ここは危険だ! 一刻も早くこの場所から逃げてくれ!」
 パレード中も一般人の動向を観察していたキソラが、声を張り上げながら避難を促す。
「後は僕たち、ケルベロスに任せてくれれば大丈夫。だから安心して逃げて」
 恐怖に怯える人々を、落ち着かせようとノチユが優しく声を掛け、一般人に被害が行かないよう、すぐに戦闘態勢を整える。
「――来ます! アメジスト・シールド、最大展開!!」
 子供たちが会場を走り去っていくのを見届けた後、フローネは敵の気配が近付いてくるのを察知して、決戦用の戦闘スーツに変更しながら、紫水晶に輝く光の盾を即座に展開。守りを固めて魔女の配下の死神たちを迎え撃つ。
 ケルベロスたちの前に出現したのは、12体の『南瓜うにうに』だ。
 どうやらここはパレードがかなり盛り上がっていたからか、その半数ほどがハロウィンの魔力を集めることに夢中になっているようである。
「へっ、やっと出て来やがったかよ」
 お待ちしておりましたと言わんばかりに、サイガが被り物を脱ぎ捨てながら舌舐めずりし、瞳の中に討つべき敵を捉えて一直線に飛び掛かる。
 鞭のように撓る脚から繰り出されるのは、刃の如き鋭い蹴撃。南瓜うにうにの一体に、電光石火の蹴りが見事に決まり、戦いの幕開けを告げるのだった。
「とりあえず、攻撃してくるヤツだけとっとと倒してしまおうか」
 ポンペリポッサと戦う仲間の援護に早く向かうべく、蒼眞が攻撃寄りに配置を変えて、跳躍からの重力を載せた飛び蹴りを、南瓜うにうに目掛けて炸裂させる。
「ああ、前座はパパッと捌けるもんだぜ」
 戦い易いよう、身軽な魔女の衣装に着替えたレンカが、巨大な鎌を振り翳す。
 その一閃は酔い痴れるほど、妖しいまでに美しく。南瓜うにうにの、ケーキの身体に乗った南瓜の頭部を分断させて、刎ね飛ばす。
「まずは一体。この調子で早く会場を抜けましょう」
 風音は腕に巻き付く攻性植物に、魔力を注ぎ、宿した黄金色の果実が光を発し、悪しき力を祓いし聖なる加護を付与させる。
 この状況で何よりも優先すべきは、ポンペリポッサと戦う仲間たちへの援護であると。
 死神たちとの戦いを最小限に留めて、ケルベロスたちは先を急ごうとする――。

●ハロウィンの贄
 番犬たちの前に立ち塞がり、襲い掛かってくる南瓜うにうにの群れ。
 早く仲間の許に駆け付けるには、行く手を阻むモノたちを、排除しながら道を切り拓いていくしか術はない。
「こちとら急いでるんだ。邪魔するんじゃねェ!」
 キソラが真白き骨の大槌を、高く翳して南瓜の頭上に振り下ろす。冷気を纏った超重力の一撃は、敵を凍てる氷の檻に閉じ込める。
「ここは通らせて頂きます」
 ウィッカが杖に魔力を籠めると、埋め込まれた四大元素の魔石が輝き帯びて、杖は一直線に伸びて敵を突き、凍った南瓜うにうにが粉々に散る。
 新たに一体を倒して、優位に戦う番犬たちの勢いは、尚も留まることなく増していく。
「――僕を、見たな」
 宵闇色に星影煌く外套を、靡かせながらノチユがくるりと振り向くと。彼の鋭い視線が南瓜うにうにに突き刺さり、殺意に慄く死神は、身を強張らせて動けなくなってしまう。
「悪りぃが、てめえら雑魚の相手をしている暇はねェ」
 全身をオウガメタルの鎧で覆ったサイガが、溢れんばかりの鬼迫を籠めて、南瓜うにうにに鋼の拳を叩き込む。その衝撃に、うにうには烈しく吹き飛ばされて、二度と動くことなく息絶える。
 残った死神たちも、彼らの連携力を活かした戦いぶりにより、苦戦することなく半数を撃破。ハロウィンの魔力集めに興じるモノは放置して、遂に突破を果たすのだった。
 戦場を駆け抜けながら、脇の方へと目を遣れば、別のチームも同じタイミングで合流するのが確認できる。
 先ずは第一陣の救援として、2つのチームがポンペリポッサと戦う仲間の許に辿り着こうとした時だ――彼らはそこで、信じられない光景を目の当たりにする。

 戦闘が始まってから、時間は5分と経っていないはず。それなのに、仲間はポンペリポッサに成す術もなく、次から次へと倒されて――彼らが到着した時にはもう、誰も立っている者はいなかった。
「まさか、これほどまでの強さとは……」
 想像を絶する力に、風音は言葉を失い、立ち竦む。そんな彼女をシャティレが宥めるように寄り添って、その温もりに、風音も勇気を貰って自身の心を鼓舞させる。
「ポンペリポッサ! 申し訳ありませんが、今回も成就させる訳には参りません! 何度行おうと、耐え切ってみせます!」
 七夕決戦時にも対戦経験のあるフローネは、魔女の脅威に一歩も怯まず凛然と、高らかに叫んでポンペリポッサに宣戦布告する。と同時にもう1つのチームから、フローネの声と重なるように砲撃音が鳴り響く。
 直後に夢喰い魔女の老婆が赤々とした眼球で、ギロリと一瞥した後、怒りを吐き出すようにケルベロスたちに言い返す。
「まだ、あたしの邪魔をするのかい? そんなに、赤ずきんが憎いのかい? 赤ずきんがいたからこそ、ジュエルジグラットは今程度で済んでいたというのに。誰もかれも、なぜ恩を仇で返すのだよ」
 これまで幾度となく妨害してきた番犬共に、抱く憤怒の心は既に限界すらも超えている。
 赤ずきんを蘇らせる為、決死の覚悟で臨む魔女の長との対戦は、こちらも相応の犠牲を払わなければ、目論見を阻止することは困難だ。
「舐めるなよドリームイーター……。うにうにたちに関することなら、俺に一日の長があるというのを思い知らせてやる!」
 先手を奪った蒼眞が、召喚術を素早く展開。頭上から、時空を割くかのようにぷるぷる震える得体の知れない巨大な物体が、落下してきて真下のポンペリポッサに圧し掛かる。
 その巨体と物量で、敵を潰して倒す蒼眞の召喚術の極意。この攻撃を皮切りに、ケルベロスたちが火力を集中させて攻め立てる。
「たった一人の為に他を捨ててもイイってか。その独り善がりさ……まさしく魔女だな! 気に入った。敬意を表して全力で相手してやるぜ!」
 自身も魔女を冠する者として、その考え方には共感できると頷くレンカ。
 ならばこそ、魔女の力で葬り去ろうと、今は亡き師が与えてくれた名に賭けて、唱える魔法は禁忌の秘奥の、その一つ。
「――Ich bin jetzt sehr gluecklich」
 魔法によって花嫁姿に変わったレンカが、純白ドレスを翻し、羽搏く白鳩の幻影が、ポンペリポッサの目玉を狙って襲い掛かる。
「七夕の時は逃しましたけど、今度こそ、ポンペリポッサを撃破します!」
 ウィッカの細身の戦槌に施された魔術刻印が、輝きを纏って集束し、ポンペリポッサに向かって放出された、大きな光の帯が魔女の鼻頭に命中すると、派手な爆発音が轟いた。
「サイガ、俺らもいっちょヤッてやろうじゃねぇか」
 キソラが友たる男に合図する、彼の言葉にシャドウエルフの青年は、不敵な笑みを浮かべて力を溜める。
 二人の間に交わす言葉は必要ない――最初は自分から、とキソラが先に動いて力を発動。
「――咆えろ、」
 彼の周囲に風が吹き、礫を孕んだ風の音は、不快と不安、錯誤と恐怖を呼び起こし――次第に嵐となって渦を巻き、魔女の振るう力を阻まんとする。
「祭は楽しい方がイイのは道理だ。喜べ、フィナーレはてめえに飾らせてやる」
 次いでサイガが無骨な鉄の巨剣を担いで高く跳び、ポンペリポッサの頑強な皮膚に、腕力のみの力任せの一撃を、押し込むように刻み込む。

●魔女の舞踏会は血に染まる
 手数を重ねるケルベロスたちの攻撃に、ポンペリポッサは目障りとでも言いたげに、長く曲がった鼻を振り回し、群がる番犬たちを薙ぎ払う。
「グハッ……!? ま、まだやられるわけに、は……」
 魔女の破壊の力に耐え切れず、蒼眞はガクリと膝を突き、糸が切れたように崩れ落ちてしまって倒れ込む。
 盾役であるサイガとフローネも、辛うじて耐えたが、もう一度凌げるだけの体力は残っていないほどの深手を負う。
「――花の女神の喜びの歌。春を謳う命の想いと共に響け」
 回復役の風音が澄んだ声色で、癒しの歌を歌い上げ、ノチユも桃色の霧を発生させて負傷を治すも、焼け石に水程度でしかない。
「……例えこの身が砕かれようと、盾たる『ココロ』の信念だけは砕けません」
 どうにか持って、後一撃――覚悟を決めたフローネは、守りを捨てて剣を手にして、ポンペリポッサに勝負を仕掛ける。
「やれやれ……今度は俺が、てめえに肩を貸してもらう番ってか?」
 サイガも悪びれた口を利きながら、後は頼んだと、友にそれだけ伝えて漆黒の爪を研ぎ澄ます。
 味方の為なら我が身を犠牲にしてでも――少しでも時間を稼ごうと、突撃していく二人を残った仲間が援護射撃する。対するポンペリポッサは、首に巻かれたソーセージを千切って投げる。それは自身の身体の一部であって、己の血肉を削る行為も同然だ。
 そうして投げ捨てられたソーセージが爆散し――衝撃に呑み込まれた護り手二人は、抵抗虚しく力尽きてしまう。

 ――斯くして前衛が全て倒されてしまった今、更なる絶望的な危機が彼らを襲う。
「もう後がない、か……それでもオレは抗ってやる」
 せめて爪痕だけでも残そうと、レンカが呪文を詠唱しながらライフル銃に魔力を籠めて、引き金引いて撃ち放たれた光線は、老婆を旧き呪いの力で蝕んでいく。
「愛する娘の為に全てを裏切る魔女か……例え魔の飛び交う今夜でも、お前の『赤ずきん』は戻らないよ」
 死者は蘇ってはいけない――否、還らなければいけない、と。
 ノチユが見つめる世界は、二度と戻らぬ過去の日々。
 星屑粧う漆黒の髪を揺らめかせ、死を悼み、生命を貪る刃でポンペリポッサを斬り刻む。
 しかし番犬たちの必死の猛攻撃も、背水の陣で挑む魔女には到底敵わず。どれだけ負傷しようと形振り構わず、獰猛な長い鼻の乱舞攻撃に、レンカとノチユが餌食になって、意識を失い、地に伏せる。
「……僅か3分間で二つのチームが半壊、ですか。このままでは……」
 魔女の圧倒的な力の前に、風音が顔を顰めて奥歯を噛み締めながら、表情に焦りの色を滲ませる。
 心は恐怖に支配され、足も無意識的に後退ってしまう。もはや万事休すと、不安が過ぎる――しかし次の瞬間、新たに駆け付けてくる仲間の力強い足音が、声や姿が、耳に届いて、視界に入る。
「後は彼らに任せて、ここは一旦退きましょう。――汝、動くこと能わず、不動陣」
 援軍が到着した今は、撤退して立て直しを図るのが先決と。ウィッカがポンペリポッサの足元に、魔法結界を発生させて、描いた五芒星から放つ光が魔女の足を貫き、縫い留める。
 一瞬だけでも敵の動きを封じたその隙に、残ったケルベロスたちは速やかに、撤退行動を開始する。
 そうして入れ替わろうと擦れ違い際、満身創痍のサイガを担いだキソラが、ポンペリポッサに関する情報を、援護の仲間に伝えるのだった。
「あの長っ鼻には気を付けろ。それとソーセージを千切って投げてきやがる。威力もご覧の通りの有様で、トンデモないがその反面、ヤツの攻撃は自分自身も痛めつけている」
 云わば文字通りの命を削った捨て身の攻撃――だがそれ故に、総力戦で耐え抜くことができれば、必ず勝機は見出だせる。
 ひとまず第一陣としての彼らの役目は、十分果たせられたと言えるだろう。
 後は二陣のチームに全てを託し、強大な魔女に立ち向かっていく仲間の背中を見送った。

作者:朱乃天 重傷:日柳・蒼眞(落ちる男・e00793) サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394) レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465) フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983) ノチユ・エテルニタ(宙に咲けべば・e22615) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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