『赤ずきん』再誕計画~パンプキンは燃えているか

作者:土師三良

●魔女のビジョン
 海の底で異様な光景が繰り広げられていた。
 ジャックオーランタンが乗ったカラフルなケーキかパフェのごとき姿をした者たちの群れの中で、巨大かつ醜悪な老女が語りかけているのだ。
 今は亡き者に向かって。
「『赤ずきん』や。ようやく準備ができたよ。このハロウィンが、おまえを蘇らすことができる最後のチャンスだ。あたしがハロウィンの魔力を死神に渡せば――」
 ケーキもどきの群れの中には、人間に似た三人の娘もいた。ただし、似ているだけだ。人間ではない。
「――ジュエルジグラットは今度こそ終わりになるだろうさ。だけど、構いやしない。あんたを見捨てたジュエルジグラットなど、何度でも捨ててやるのだから」
 老婆が語り終えると、三人の娘が消え、ケーキもどきの群れが消えた。
 そして、老婆自身も消え去った。
 海底に静寂が戻る。
 死の世界に相応しい静寂。
 そう、ここは生者はいない。
 デスバレスの海底なのだから。

●音々子かく語りき
「『暗夜の宝石』攻略戦の勝利、おめでとごうございまーす! 真空や低重力などの慣れぬ状況での戦いは大変だったでしょう。本当にお疲れさまでした」
 ヘリポートに並ぶケルベロスたちに祝いと労いの言葉を送ったのは、自身もまた月面に赴いていたヘリオライダー根占・音々子。なぜか、腰の後ろに手をやっている。
「皆さんにはゆっくり休んでいただきたいところなんですが、そうもいかないんですよー。去年と同様、ドリームイーターの大きなお婆ちゃん『ポンペリポッサ』がハロウィンによからぬことをしでかすみたいですから」
 七夕の戦いでからくも逃げ延びた寓話六塔の一柱――魔女ポンペリポッサ。彼女はいまだに死神たちと手を結んでいるらしい。あの『赤ずきん』を復活させるために。
 今回、ポンペリポッサが率いる手勢は、三体の死神の魔女。そして、ハロウィン系の死神『南瓜うにうに』なる者たちが多数。
「季節の魔力の一つであるところの『ハロウィンの魔力』を奪うため、ポンペリポッサと三体の魔女は南瓜うにうに軍団とともに各地を襲撃します。この場合の各地というのは、ハロウィンの魔力が非常に高まった場所のことですよー。言い換えると、『ハロウィンパーティーがめっちゃ盛り上がった場所』ですね。なので――」
 音々子は腰の後ろから三連クラッカーを取り出し(隠し持っていたつもりなのだろうが、大半のケルベロスは初見で気付いていた)、空に向かって鳴らしてみせた。
「――皆さんはハロウィンのイベント会場でパーティーを盛り上げてくださーい! 結果、ハロウィンの魔力も自然に高まり、敵が誘き出されるはずでーす!」
 このチームが担当する会場は『ストリートステージ』。歌やダンスや大道芸やライブアートなどのパフォーマンスを披露/観賞できる場所。小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が召集したチームとアーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)が召集したチームも同会場の別のエリアでパーティーを盛り上げる。その三つのうちで最も盛り上がったエリアに幹部格の敵が現れるのだという。
「予知によりますと、誘き出される幹部は死神の魔女『パンプキラー』です。可愛い女の子の姿をしていますけど、油断は禁物ですよー。大きな鎌でぶった斬ったり、ジャックオランタン型の爆弾を投げたり、ガジガジと噛みついてくる帽子を飛ばしたり……と、凶悪な攻撃をしてきますから」
 おそらく、一チームだけでパンプキラーに対処するのは難しいだろう。
「パンプキラーが現れなかった残りの二つのエリアには十二体の南瓜うにうにが襲撃してきます。二チームの方々はそいつらをかたづけて、パンプキラーと戦っているチームの援護に向かってください」
 パンプキラーは目の前のケルベロスをすべて倒すと、ハロウィンの魔力を奪って撤退してしまう。よって、対パンプキラー戦をおこなっているチームが全滅するより早く、他の二チームは戦いに加わらなくてはいけない。
 そのためには、南瓜うにうにたちを手早く倒す必要があるのだが――、
「――南瓜うにうにはハロウィンの魔力が大好物なんですよー。ハロウィンが盛り上がった場合は魔力を集めるのに無我夢中になりますから、自分が攻撃されるまでは戦闘に加わりません。その特性を利用すれば、簡単に各個撃破できるかもしれませんねー。あと、どうせ戦闘に加わらないのだから、『南瓜うにうにのことは無視して、さっさと援護に向かう』という選択肢もあります」
 自チームが担当しているエリアにたとえパンプキラーが現れなかったとしても、ハロウィンをしっかり盛り上げてさえいれば、各個撃破や無視といった有利な作戦を取ることができるのだ。
 つまり、今回の任務でなによりも重要なのは、ハロウィンを盛り上げること。
「というわけですから、思い切り盛り上げちゃってください! はっぴーはろうぃーん!」
 音々子はどこからか二つ目の三連クラッカーを取り出し、盛大に鳴らした。


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
神崎・晟(異世界召喚に手を染める竜王・e02896)
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
一之瀬・白(闘龍鍛拳・e31651)
金剛・小唄(ごく普通の女子大学生・e40197)
リリベル・ホワイトレイン(堕落天・e66820)

■リプレイ

●MONKEY MAGIC
 十月三十一日の夜。
「ごぉ~ん♪」
 様々なアーティストが様々なパフォーマンスを披露している大通りの一角で、鐘の音が……いや、鐘の音を真似た声が響いた。
 その声に興味を引かれて通行人たちが立ち止まると、オラトリオのリリベル・ホワイトレイン(堕落天・e66820)が現れた。
「太古、天地人獣の境、いまだ分明ならざる頃。東勝神州は花果山の山頂、奇怪な石猿が誕生いたしました」
「ム゛ォォォーッ!」
 リリベルのナレーションに雄々しい咆哮を被せて、『奇怪な石猿』が降下してきた。
 その正体はゴリラの獣人型ウェアライダーの金剛・小唄(ごく普通の女子大学生・e40197)。体毛を金色に染め、孫悟空の仮装をしている。
 地面に両手と片膝をつくというアメコミヒーロー映画でおなじみの着地ポーズを観客(もう『通行人』ではない)に数秒間ほど見せつけた後、小唄は立ち上がった。
 そして、活人画のごとく静止。
「ごぉ~ん♪」
 鐘の音がまた響き、京劇の衣装を纏った青い竜派ドラゴニアン――神崎・晟(異世界召喚に手を染める竜王・e02896)が現れた。
「私は四海竜王が一柱、青竜王敖広。『斉天大聖』と称する不遜なる石猿めの暴挙の数々を天帝に訴えたく、罷り越した次第」
「ごぉ~ん♪」
 静止していた小唄が動き出した。
「ここが青竜王の宝物庫か。さて、俺様に相応しい武器はあるかな」
 乱暴な男言葉を使っているが、あくまでも演技である。見た目はゴリラでも、心は乙女なのだ。
「うむ。あの棒が気に入った!」
 小唄はのっしのっしと歩き出した。
 ダンボール製の台に鎮座している物干し竿に向かって。
「石猿が目をつけたのは、太上老君が作り出した神器。その名も如意金箍棒」
 天帝ならぬ観客たちに対して、真顔で解説する晟。物干し竿ではなかったらしい。
「待てーい! 孫悟空とやら!」
 と、小唄の前に立ちはだかったのは赤い竜派ドラゴニアンの据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)。晟と同様、京劇の衣装を身に着けている。
「如意金箍棒が欲しくば、儂と勝負しろ!」
「この男もまた四海竜王が一柱、紅竜王敖欽」
 と、晟が赤煙を観客に紹介した。
「おもしれえ! やってやろうじゃねえか!」
 剛腕を『ブン!』と鳴らして身構える小唄。
 威嚇するかのように両腕を広げる赤煙。
 両者が今まさに激突せんとしたその時――、
「ごぉ~ん♪」
 ――鐘の音が鳴り、オラトリオの大弓・言葉(花冠に棘・e00431)が降り立った。
 詩人ならば、その登場を『流星の輝きとともに現れた』と表現するかもしれない。事実をありのままに書く者ならば、『スターゲイザーを放ちながら降下してきた』で済ますだろうが。
「えーん! 悟空ぅ~!」
 小唄にすがりつく言葉の衣装は煌びやかなドレスとガラスの靴。ただし、靴を履いているのは片足だけ。
 そう、彼女はシンデレラなのだ。
「……何故にシンデレラ?」
 と、目をテンにする小唄に構うことなく、言葉は涙目になって(目薬だが)訴えた。
「鐘撞きの牛魔王に騙されて、ガラスの靴の片方を取られちゃったのぉ。お願いよ、悟空。取り返してぇ」
「ごぉ~ん♪」
 無情な鐘の音が響く中、言葉は泣き崩れた。普段からキャラを装っているということもあって、この手の演技もお手のもの。灰被り姫ならぬ猫被り姫である。さりげなくオラトリオヴェールを発動させて、自らを神々しく彩ることも忘れていない。
「きゅー!」
 と、シンデレラの友達のネズミAも涙を流した(目薬だが)。演じるはボクスドラゴンのぶーちゃん。
「ちゅー!」
 ネズミBも泣いた。こちらの演者はリリベル。エキストラを買って出たのだ。
「よし! よく判んないけど、その牛魔王とかいう靴フェチ野郎をブッとばしてやるぜ!」
 赤煙のことは脇に押しやり、小唄は打倒牛魔王を誓った。無意識のうちに発した『よく判んないけど』というフレースが彼女(や観客)の心情を雄弁に物語っているかもしれない。
 すると、これといったドラマもないまま――、
「貴様ごときにブッとばされる俺ではなーい!」
 ――件の牛魔王が登場した。だが、おなじみの『ごぉ~ん♪』はない。なぜなら、その音を舞台裏でずっと発していたのは他ならぬ牛魔王だから。
 代わりに響いたのは、牛魔王を背負っている白馬の嘶き。
「ひ、ひ、ひひ~ん!」
『背負っている』ということからも判るように本物の馬ではない。着ぐるみをつけた、白い竜派ドラゴニアンの一之瀬・白(闘龍鍛拳・e31651)である。嘶き声が苦しげなのは、十三歳の少年である白にとって、牛魔王を演じる四十二歳のアジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)が重すぎるからだ。ちなみにアジサイも竜派ドラゴニアンである。
「この男こそ、牛魔王」
 と、晟がアジサイを指し示した。
「しかし、それは世を忍ぶ仮の姿。真の名は――」
「――黒竜王敖順よぉーん! でも、このことはクラスの皆にはヒ、ミ、ツ(はぁと)」
 アジサイが白から降り、名乗りをあげた。なぜか、オネエ言葉で。
「こうして、四海竜王のうちの三竜がここに……」
「ひひ~ん!」
 晟の語りに白が割り込み、自己アピール。
 目を半眼気味にして彼を見つめながら、晟は静かに訊いた。
「あー……もしかして、おまえは白竜王敖閏か?」
「ひひ~ん!」
「原典では、馬に化けるのは敖閏ではなく、その息子なのだが……まあ、いいか」
 そもそも、原典で白馬に乗っているのは牛魔王ではない。
「こうして、石猿と紅竜王と牛魔王による三つどもえの戦いが……」
「ちょっと待ったぁーっ!」
 またもや晟の語りに割り込んできた者がいる。平安貴族めいた衣装に身を包み、フローレスフラワーズを踊って、花弁のオーラを降らせながら。
 サキュバスのエヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)だ。
「こんばんわ。なよ竹のかぐや姫です」
 エヴァリーナは踊るのをやめて、ぺこりと頭を下げた。
「ほほう。かぐや姫か」
 髭をしごきながら、赤煙がニヤリと笑う。
「面白い。日仏中を代表する古典がここに集い、バトルロイヤルを……って、ないわぁーっ! なんで、かぐや姫が出てくるぅー!?」
 その渾身のノリツッコミを無視して、エヴァリーナは自らの目的を告げた。
「私、蓬莱の玉の枝だの火鼠の裘だのといったお宝を探しに来ました。自分で宝物をゲットしちゃえば、もう結婚しなくてすむから。竜王さん、お宝をちょーだい」
「あげるわけないでしょ! お宝はアタシのものよぉ!」
 黒竜王がかぐや姫に襲いかかった。
「いや、儂のものじゃ!」
 紅竜王が戦いに加わった。
「そもそも、ここは私の宝物庫という設定なのだが……」
 青竜王が竜神らしく雨を降らせ始めた。ホースを使って。
「ひひーん!」
 どしゃ降りの雨の中を白竜王が走り回った。
「もう、わけわかんなーい!」
 シンデレラも混乱に身を投じた。
「とにかく、全員まとめてぶっとばーす!」
 悟空も暴れ始めた。
「おっやまのぉ、てっぺんのぉ、いわからうまれたっ♪ せっかいでぇ、いっちばん、イカしたおさるっ♪」
『西遊記』と聞いて多くの者が思い浮かべるであろう名曲に日本語の歌詞を強引に乗せて、リリベルが歌い出した。
 そして、釈迦如来に扮したウイングキャットの点心(尻尾に『大猩猩的乙女、到此一遊』と記されている)が菓子を撒きながら、観客たちの頭上を飛び回った。
 ……カオスである。
 だが、観客たちは(わけが判らないなりに)楽しんでるようだ。
「おさるのまほう♪ おさるのまほう♪ おさるのまほう♪」
 と、例の歌のサビを合唱するほどに。
 やがて、盛り上がりが最高潮に達した時――、
「うぉぉぉーっ!?」
 ――観客の歌声はどよめきに変わった。
 光り輝く怪しげな魔法陣が地面に浮かび上がったのだ。

●HAVOC IN HEAVEN
 カボチャを模した服を着て、口のある帽子を被り、大きな鎌を持った少女が魔法陣から現れた。
 死神の魔女、祭り乱しのパンプキラーである。
「いい感じにハロウィンの魔力が貯まってるじゃん。上出来、上出来」
 薄笑いを浮かべて、パンプキラーは周囲を見回した。
 その憎々しげな視線に追い立てられるようにして、観客たちが我先にと逃げ出していく。これが劇の演出ではないことに気付いたのだろう。
 しかし、当然のことながら、ケルベロスたちは逃げなかった。
「なんで、デウスエクスってのは――」
 言葉がスターゲイザーを放った。詩人でさえも『流星云々』という表現を使うことを躊躇するほどの怒気を込めて。
「――毎年毎年、私の誕生日に暴れに来るのよー!」
 解説しよう。言葉は十月三十一日生まれなのだ。
「いや、あんたの誕生日なんか知らないっての!」
 蹴りを受けながら、パンプキラーは叫び返した。
 そして、鎌を一閃。標的は着ぐるみ姿の白。不条理な怒りをぶつけてきた言葉を狙いたかったのだろうが、彼女は鎌の射程外にいた。
 しかし、ボクスドラゴンのラグナルが白の前に飛び込み、八つ当たりじみた攻撃を代わりに受けた。そのラグナルの主人である晟は冷静に観客たちを避難誘導している。
「ラグナルくん、ありがとう! 言葉さん、おめでとう!」
 パンプキラーめがけて簒奪者の鎌を放つ白。
 その間に他の者たちは自身や仲間にエンチャントを施し、守りを厚くしていた。アジサイはライトニングウォール、赤煙はメタリックバースト、小唄はサークリットチェイン。
「ちょ、待って……」
 パンプキラーは当惑に眉をひそめた。
「アンタら、切り替えが早すぎない? さっきまで、おちゃらけてたくせに!」
「ええ、そうよ。本来、ハロウィンというのはおちゃらけて気楽に遊べる日なの」
 リリベルがブレイブマインを爆発させた。その爆風を受けて、ライドキャリバーのホワイトふぁんぐがパンプキラーに突撃。
「それなのに、デウクスエクスのせいでケルベロスの仕事が入っちゃって……絶対、許さねえー!」
「私も許せない」
 悲しげな顔をして、エヴァリーナが呟く。
 いったい、なにが許せなくて、なにが悲しいのかというと――、
「――南瓜うにうにが食べられるかどうか試したかったのにぃーっ!」
 言葉のそれよりも不条理な怒りをプラズムキャノンに込めて撃ち放つエヴァリーナであった。

●STEPPIN' INTO YOUR WORLD
 戦闘開始から数分後。
 ケルベロスたちはパンプキラーの攻撃に押され気味であったが、こまめにヒールしているため、脱落者は一人もいなかった。
「女子力、フルチャージ!」
 小唄の放出した女子力が可愛い白馬と白竜のぬいぐるみに変わり、前衛で奮闘する白の周囲を駆け回り、あるいは飛び回って、状態異常を消していく。
 その小さなパレードに、妖精の群れを思わせる無数の光が加わった。エヴァリーナがグラビティ『小妖精の祝福(リル・イン・チェリッシュ)』を用いたのだ。
「動くぬいぐるみに妖精たちか……ハロウィンらしい戦場だな」
 アジサイがライトニングロッドの『救雷』を振り、何枚目かのライトニングウォールを築いた。光の妖精たちも治癒と防御の効果を有する紗幕に変じ、前衛陣の前に展開。
 途端、その二種の防壁が消し飛びそうなほどの(ブレイクの効果がないので消し飛ばなかったが)爆発が起きた。パンプキラーがジャックオーランタン型の爆弾をぶつけてきたのだ。
「ホント。ふぁんたすぃ~なグラビティばっか使ってくれるもんだから、ハロウィンの魔力は上がりっぱなしじゃん。感謝、感謝」
 爆煙の残滓の向こうでパンプキラーが笑った。
「でも、もう充分。そろそろ、自主的に退場してくんない? そうやってヒールしまくって時間稼ぎをしたところで、アンタらに勝ち目なんかないよ」
「言われなくても、最初から判ってるよー」
 と、リリベルが余裕の笑み(作り笑いだったが)を浮かべて応じた。
「自分たちに勝ち目がないってことはね。だけど、この場合の『自分たち』っていうのは、うちのチーム限定だし。他のチームが駆けつけてくれば――」
『――話は別だよ』と言い終える前に何者かが割り込んできた。
「お待たせいたしました……加勢します」
 声の主は、銀髪をポニーテールにした女戦士。
 現れ出たのは彼女だけではない。他に十六人の男女と数体のサーヴァントがいた。
 そう、南瓜うにうにと戦っていた二チームである。当然、彼らや彼女らも仮装していた。ゾンビ、狼、赤ずきん、などなど。
「待ってましたー!」
 余裕の笑みを安堵の笑みに変えて、リリベルが歓声をあげた。
「新たなお邪魔虫さん……敵性存在を確認、オープン・コンバット。マイクロウェーブを照射します」
 狐の耳をつけた着物姿の少女がガジェットを操作し、パンプキラーの体を燃え上がらせた。
 そこに銀髪の戦士が斬りかかる。
「今すぐここで死に絶えろ……!」
「うっ!?」
 斬撃を浴びてのけぞるパンプキラー。
 その前にゆらりと立ったのは小唄だ。
「頼れる仲間が来てくれる。そう信じていたから――」
 女子力ならぬ筋力を爆発させ、降魔真拳を叩きつける。
「――私たちはヒールで時間稼ぎしてたんだよ!」
「やはり、斉天大聖には癒し役よりも暴れ役のほうが似合うな」
 如意棒を持たぬ斉天大聖こと小唄(例の物干し竿は路傍に転がっていた)に代わり、晟がオール型の武器『瀾』で如意直突きを繰り出した。
 他の者たちも次々と猛攻を加えていく。
 さすがのパンプキラーも、三倍もの人数に膨れ上がった敵と対等に渡り合うことはできなず、徐々に追い込まれ――、
「光よ、彼の敵を縛り、断ち斬る刃と為せ!」
 ――ついにとどめを刺される時がきた。
 光り輝く刀を満身創痍の魔女に叩き込んだのは銀髪のオラトリオ。刀ばかりではなく、背中の翼も光を帯びている。
「銀天剣、零の斬!」
 翼の光が何十本もの刀身に変わり、パンプキラーの体を刺し貫いた。

「今年も私の誕生日を守り切ることができたわねー」
 満足げに笑う言葉。ぶーちゃんから『だから、誕生日とか関係ないっすから』という思いを込めた眼差しを送られていることには気付いていないようだ。
「ひひーん!」
 着ぐるみ姿の白が体を反らし、前足(両手)で激しく宙をかいた。
「お菓子をくれなきゃ、蹴飛ばすぞー! みんな、僕より年上なんだから、お菓子くれるよね?」
「お菓子をあげるのは吝かではありませんが、その前に――」
 紅竜王の衣装を整えながら、赤煙が視線を巡らせた。
 いつの間にか、また周囲に一般人が集まっている。
「――中断を余儀なくされた劇をちゃんと終わらせませんか」
「うん」
 と、エヴァリーナが頷く。
「ギャラリーも戻ってきたことだしね」
 そして、カオスな『西遊記(+シンデレラ+竹取物語)』が再開され、『おさるのまほう』の合唱が大通りに谺した。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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