『赤ずきん』再誕計画~パレードロードの南瓜と老夢喰

作者:沙羅衝

●デスバレス海底
「『赤ずきん』や、ようやく準備ができたよ」
 ここはデスバレスの海底。そう呟きを放ったのは、寓話六塔が一人『ポンペリポッサ』である。辺り一面には、デコレーションケーキの上に、南瓜の皮を目や口の形状に穴を開けた『南瓜うにうに』が数百体が集まっている。
「このハロウィンが、『赤ずきん』を蘇らす事ができる最後のチャンスだ。
 あたしがハロウィンの魔力を死神に渡せば、ジュエルジグラットは今度こそ終わりになるだろうさ」
 ポンペリポッサの周囲には、南瓜うにうにの他に、3体の魔女の姿もあった。ポンペリポッサのその言葉は、彼女たちに伝えているのかどうかもわからない。ただ、ポンペリポッサは準備を進め、作業を止めることはなかった。
「だけど構いやしない。
 あんたを見捨てたジュエルジグラットなど、何度でも捨ててやるのだから」
 最後にポンペリポッサがそう呟いたとき、3体の死神の魔女と、数百体の南瓜うにうには消えた。
 そして、静かなデスバレスが再現したとき、ポンペリポッサの姿もまた、消えていたのだった。

●ケルベロスの集う場
「みんな、月での戦い、ようやってくれたで!」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)がケルベロスを前に、口を開いた。ケルベロス達は月面での『暗夜の宝石』攻略戦に勝利した。その事に絹は笑顔でケルベロスを褒め称えた。
「で、実はやねんけどな……」
 絹は暫く盛り上がるケルベロスの様子を見た後、話を進めた。
「うちは皆が月面に行っている間、そっちの事やない別の準備をしとったんや。ちゅうのも、ハロウィンの事や」
 ひょっとすると、絹の表情を見たケルベロスの中で、彼女がただハロウィンのお祭りの準備をしていたわけではない事が分かる者も居たかもしれない。絹はケルベロス達の視線に頷きながら、話を続けた。
「もうすぐハロウィンや。皆も仮装の準備とかもしてくれていると思う。うちも勿論参加するけどな。で、実は……の続き。そのハロウィンを狙ってポンペリポッサが死神と合流して仕掛けてくる事がわかったんや。
 ポンペリポッサと3体の魔女死神が、数百体の死神の群れを率つれて、ハロウィンを襲撃、季節の魔力の一つ『ハロウィンの魔力』を強奪しようとしてるっちゅう事がわかった」
 タブレット端末を見ながら、情報をケルベロスに正確に伝える絹。ケルベロス達は驚きもしていたが、季節の魔力と言えば、前回は七夕にもそれはあった。そういう事実から、頷くケルベロスも存在した。
「ポンペリポッサの目的はハロウィンの魔力。どうやらそれを『『赤ずきん』を蘇らせる』事に使うという事で間違いなさそうやねん。
 せやから、今回の敵はポンペリポッサと『死神の魔女』。彼女等を撃破して欲しい」
 絹の説明を聞き、流石のケルベロス達にも衝撃が走った。様々な反応を前にして、絹は少し皆が落ち着くのを待った。そして、少しそれが収まった頃、絹はまた話を続けた。
「まずや、ポンペリポッサ達は、最も盛り上がったハロウィンパーティーの場所に現れて、ハロウィンの魔力を強奪するって事が一番の大きな目的である事を理解してな。
 で、こっちはそれを少し逆手に取るで。ケルベロスハロウィンを大きく盛り上げれば、ポンペリポッサ達は、ケルベロスハロウィンの会場に現れる事になる訳や。ちゅうことはや……」
「おびき寄せ……」
「正解や!」
 一人のケルベロスに、絹は頷く。
「相手がそれが目的ならば、会場に集中させる事が出来るわけやな。そうしたら一般の人の被害は抑えれるし、相手が向かってくる事がわかってれば、それなりの準備もできる。せやから、まずはケルベロスハロウィンの会場を盛り上げて、あえてハロウィンの魔力を高めるで」
 少々攻めた作戦ではあるが、チャンスに変換する事が可能である事は、ケルベロス達には理解できた。
「で、いろんなチームが同時に動いてくれるわけやけど、うちらは『パレードロード』で、『ポンペリポッサ』を迎え撃つで!」
「……マジ、か」
 一人のケルベロスが、そんな声を出す。恐らく、いきなりそんな大物が出てくるとは思っていなかったのだろう。
「せや、マジや。最も盛り上がった場所には、ポンペリポッサが直接現れる。勿論、このパレードロードには他のチームもおるから、その全員で取り掛かる事になる。ポンペリポッサやない所には、ポンペリポッサと死神の魔女達によって生み出された『南瓜うにうに』っちゅう死神の群れが12体出現する事がわかってる。せやから、ポンペリポッサのチームの援軍に向かう為にも、この南瓜死神を素早く倒す必要があるで。
 この南瓜死神は、ハロウィンの魔力が大好物やねんな、で、パーティーが大きく盛り上がった場合は、ハロウィンの魔力を集めるのに夢中になって、自分がダメージを受けるまでは戦闘に加わらへんっちゅう特徴がある。せやから、この特性を利用して各個撃破が可能や。最悪戦闘に加わらへんヤツは無視も可能やから、そのへん、よう考えて作戦頼むで」
 ポンペリポッサは寓話六塔である。相対した事がある物は、その強さが良く分かるはずだ。当然1チームだけでは敵うはずが無い。臨機応変な対応が求められそうだ。
「南瓜も生き延びてしもたら、後々厄介になるかもしれんから、可能な限りは倒して欲しいけど、そのへんは、現場の判断に任せるな。ほな、よろしくな。そんで、ほんまもんのハロウィンを楽しむで!」


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
西水・祥空(クロームロータス・e01423)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
ヴィヴィアン・ローゼット(びびにゃん・e02608)
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)
黒住・舞彩(鶏竜拳士ドラゴニャン・e04871)
タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)

■リプレイ

●パレードロードの魔王軍と勇者たち
 ここはハロィンのパーティ会場、パレードロード。人々は思い思いの姿で、パーティを盛り上げる仮装をしていた。
 勿論、この盛り上がりはケルベロス達の作り出したものであった。集まったケルベロスの班は、それぞれにパーティを盛り上げ始めていた。
「よくぞきた、勇者達よ! 私こそが魔王、竜王である!」
「くくく……魔王様ぁ! もう我慢できないぜぇ。殺してしまいましょう……!」
 派手に口上を上げたのは、黒住・舞彩(鶏竜拳士ドラゴニャン・e04871)扮する魔王。なにやら演出上、地獄の炎を纏っている。そして、怪しげなフードを被りながら、怪しいミミックと共に、いやらしい嗤いを創り出す、タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)。彼はその瞬間、派手な闇の光を打ち出しながら、白騎士へと変わる。
「魔王様、戦力はまだまだ御座います。ここは数の暴力を見せ付けるというのは、如何ですかな? それに、此方にはまだまだ戦力はございますからねえ!」
 そして、魔王舞彩と、闇騎士タクティの背後から、炎をちろりと見せながら曲がりくねった棘や骨をつけた鎧と襤褸マントの死霊騎士ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)が背後から大量のマネキンを魔王軍に見立てて、動かした。
 すると、周囲で様子を見ていた子供たちが、くるなー、あっちいけーなどと、声を上げてくれたが、ラーヴァは益々派手に振舞った。
 ケルベロス達は、『魔王軍VS勇者一行ショー』を演じていたが、簡単な打ち合わせの後の割には良く演じることが出来ていた。
 それに、彼らにはグラビティという能力がある。演出はより良いものと映るだろう。
「魔に属するものを倒すのは我が役目! 魔王軍よ、覚悟なさい!」
「ふふっ! わたしも居るよ! みんなのピンチに魔法使いのわたしも参上だよっ」
 すると、周囲でヒールをかけ、お菓子を配っていた陰陽師姿の燈家・陽葉(光響射て・e02459)と魔法使いの東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)がお供のボクスドラゴン『マカロン』を連れて現れた。
「おおっ……、これは助かります。さあ勇者鬼人さん! 戦いの時です!」
 東方の僧侶である西水・祥空(クロームロータス・e01423)が、周囲にヒールを放ち、より一層幻想的な空気を創り出した。
「鬼人! あたしがあなたを愛する気持ちは、世界よりずっと大きいわ! だから……!!」
 迫真の演技をするのは吟遊詩人ヴィヴィアン・ローゼット(びびにゃん・e02608)。隣には同じく煌びやかなマントを羽織ったボクスドラゴンの『アネリー』が、飛び跳ねる。
「俺も同じだ、ヴィヴィアン!」
 そして、最後に登場したのが、勇者に扮した水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)が、剣を手に持って、ゆっくりと現れた。
 来たー。勇者だー! という子供たちの声が、会場の空気を最高潮に盛り上げていく。
「君への思いがある限り、魔王の誘惑なんかには惑わされない!」
 その声を聞いたからか、元々恥ずかしさなど無いのか、堂々と愛の告白を行う勇者鬼人。
「ほざけぇ!」
「来い! 受けて立つ!」
 ギ! ギン!
 魔王と勇者の剣が交錯し、火花が散る。そして、周囲の仲間達や魔王軍が入り乱れていく。
 当然演技なのではあるが、ケルベロス達の殺陣など、素人目には本気で切りあっているようにしか見えない。
 何せ演出の為とはいえ、グラビティを交えているのだ。盛り上がらないはずが無い。
 そして、幾度かの打ち合いの末、魔王舞彩が膝を付いた。
「く……これが、愛の……力とでも言うのか……」
 見ると、勇者と吟遊詩人が抱き合い、魔王を見下ろしていた。
「……勇者達よ、完敗だ。お幸せに!」
 こうして、魔王軍は敗北し、フィナーレが始まっていった。
『今日はハロウィーン お化けがお菓子をもらいに行くよ 魔女の力にかかれば カボチャも愉快に踊り出す ほらこの通り!』
 吟遊詩人ヴィヴィアンが歌う歌声に乗せ、出演者たちが見てくれた子供たちに、握手をしながらお菓子を配る。拍手と歓声が起こった。
 どうやら、劇は大成功に終わらせる事が出来たようだった。

●南瓜の群れとケルベロス
 その時、巨大な影が魔方陣と共に現れていく。
「出たね」
「皆、下がってね」
「じゃあ戦闘準備に切り替えるねっ」
 陽葉がいち早くその出現を察知し、ヴィヴィアンが子供たちに避難を呼びかけると、苺がオウガメタルを出現させて、マカロンに指示を出した。
 ポンペリポッサであった。そして、絹の説明にあった『南瓜うにうに』が大量に湧き出てくる。どうやらポンペリポッサは、こちらの道からは反対の方向に現れたようだった。
「強い強いハロウィンの魔力が満ちていると思えば、お前達かい。
 ということは、これは、罠なんだね。
 だけど、罠だろうと構うものか、ここにあるハロウィンの魔力は本物さ、これだけの魔力があれば、赤ずきんは蘇る。
 なら、このばばあの命など、いくらでもくれてやろうじゃないか」
 ポンペリポッサはそう言って、目の前のケルベロスと会話をしているようだ。しかし、此処からはそれ以上の様子は分からない。
「じゃあまず、此方から片付けていきましょう!」
 舞彩がそう言って、目の前に現れた南瓜うにうにと対峙した。
「分かったわ! 皆、いくよ!」
 ヴィヴィアンが前衛の背後に炎を出現させた。それが、戦闘の合図だった。

 ケルベロス達は、確実に南瓜うにうにを撃破していく事を選択した。目の前のうにうには12体だ。
 ラーヴァがオウガ粒子を拡散させ、前衛の鬼人、祥空が、同時に1体を葬り去る。
「そうらよっと! だぜ!」
 そしてタクティが騎士装甲のまま殴りつけ、ミミックがかぶり付く。
 戦いは苦戦する事無く、次々に南瓜うにうにを消し去っていくことが出来た。数は多いが、準備万端なケルベロスに敵う敵ではなかったのだ。
 ケルベロス達はそれでも、確実に南瓜うにうにを撃破しにかかった。
 苺が弾き、放物線を上げて陽葉の方向に向かってくる南瓜うにうにが彼女によって蹴り砕かれた時、殲滅は完了したのだった。

●ポンペリポッサと24人
 南瓜の群れを撃破したケルベロス達は、パレードロードの先で繰り広げられている爆音や剣戟のほうを一斉に確認する。巨大なポンペリポッサに、ケルベロス達が立ち向かっている。どうやら既に、大きな傷によって戦線から離脱している者もいるようだ。
「みんな、行こう!」
 陽葉が言うと、全員が頷いて駆け出した。少し距離はあるが、それ程までに時間はかかりそうになかった。
 しかしその時、舞彩が一つの動きに気が付いた。
「皆、ちょっと待って!」
 舞彩の視線の先には、一人のオラトリオ、マヒナ・マオリが小さな手を此方に振って合図を送っていたのだ。
「皆、無事?」
 彼女がそう言うと、彼女の班の仲間達が駆け寄ってくる。
「そうね。こっちは上手く行ったところよ。被害も、最小限って所かな」
 舞彩が此方の情況を手短に説明すると、マヒナの所もまた、同じような情況であるとの情報交換が出来た。すると、巽・清士朗の班が、二人の会話の途中で合流する。
「こちらも戦闘不能等はないな……だが、流石は寓話六塔。今はケルベロスも上手くチームをローテーションして持ち堪えているが、それも時間の問題だろう」
 彼はそう言い終えると、戦闘音がする方角を見据えながら情況を説明した。
 ポンペリポッサとの戦いの音が激しくなっていく。一刻も早く救援に向かうべきだが、祥空が丁寧に、しかしハッキリとした言葉で、この場にいる24人に伝わるように声を発した。
「一つ、提案があります。此処から確認できる限り、今のところ勝負は互角でしょう。しかし、このまま正直に我々が参戦しても、効果が薄い可能性があります」
 全員の反応を確かめるように、ただ、躊躇いはしない。
「……我々で、背後を突きましょう」
 祥空は、今戦っているケルベロス達が激しく戦闘を行っている事が、チャンスと見たのだ。
「了解したわ。やりましょう」
「うむ、異論はない。……急ごう」
 マキナ・アルカディア、そして櫟・千梨が同意する。
 頷くケルベロス達。そして行動はすぐに実行に移される。ポンペリポッサに気付かれないように、建物などの死角を利用し、息を潜める。
 激しい音がまた響き渡っている。その中には悲鳴も混ざっていた。
 しかし、ケルベロス達は、その機会をじっと待った。確実なダメージを与える為に。
「もう少し、もう少しだよ、赤ずきん。このばばあがこのばばあが……、がうぁぁぁぁ」
 ポンペリポッサ激しい攻撃を受けて、叫びを上げた時、鬼人が腰の日本刀『越後守国儔』の柄を握り、飛び出した。
「行くぞ!」
 簡単な合図。しかし、それがトリガーとなる。
 一切の無駄が無い動き。鬼人が駆け抜けると同時に抜刀する。
『…刀の極意。その名、無拍子。』
 キンという音と共に、鞘に刃が収められた。それと同時に、次々とグラビティがポンペリポッサに向けられた。
「さあ、最後の舞踏を踊りましょう」
「灯、一緒に行くぞ」
「おっけい、なのだ!」
 他班、アウレリア・ノーチェが後方から続き、四辻・樒と月篠・灯音が同時にグラビティを放つ。
「鬼人、援護するわ! アネリー!!」
 ヴィヴィアンが放つ網状の霊力とアネリーのブレスが重なる。
「此処は全力攻撃だよね! マカロンっ!」
 すると今度は苺のオウガメタルの拳が地をも断ち割るような一撃を繰り出し、マカロンもブレスで近くにいる主をサポートする。
 そのうちに、他班からの波状攻撃がポンペリポッサを襲う。
「覚悟も経も要りません。食らいなさい!」
 祥空がアームドフォート『ワイルドハントリーダー・ヘカテー』の砲門を開き、掃射すると、タクティもそれに呼応する。
「おっと、じゃあこっちも行くか! なんだぜ!」
 タクティのミミックがガブリと噛み付くと、タクティ自身もドラゴニックハンマー『ligula desire』を叩き付ける。
「まいあ。一緒にいけるかな?」
「準備OK! いつでも!」
 陽葉が妖精弓『阿具仁弓』の弦を引くと、舞彩は地獄の炎を纏った二つの剣を両手に出現させて、突っ込んだ。
『響け、大地の音色』
『竜殺しの大剣。地獄の炎を、闘気の雷を纏い二刀で放つ!』
 陽葉が地面をその衝撃で砕くと、舞彩がその二つの剣で滅多切りにする。
 三班24人の同時攻撃が、容赦なく降り注いでいく。
「仕上げです!」
 そしてラーヴァが巨大弓『Bow with Flame & Infinity』に炎の矢を番え、引き絞る。
『我が名は熱源。余所見をしてはなりませんよ』
 そしてその矢を、上空に撃ち出した。
 天に向かって撃ち放たれたその矢は、唸りを上げて昇る。炎が上空で拡散し、急降下を開始すると、撒きあがっている塵や、空気を巻き込み、唸りを上げて加速する。
 ボゥ!!
 ラーヴァの放った炎が一つとなり、滝の如くポンペリポッサに突き刺さった。その地獄の炎はこれまでケルベロスが与えた傷を抉り、広げ、また喰らう。連鎖的な炎の激流がポンペリポッサを飲み込みんでいくのだ。
「これで終わりだよ――ポンペリポッサ!」
 クラリス・レミントンの星型オーラが炸裂した時、遂にはポンペリポッサの腹に大穴が開き、片腕がボトリという音と共に落ちたのだった。

●老夢喰が見たモノと遺したこと
 三班の一斉攻撃の後、まだ動ける他班のケルベロス達も、一気に追撃をかけていく。その攻撃の量は、凄まじいと言うほか無かった。
「これで……どう、かなっ?」
 苺がグラビティの奔流が晴れるのを確認しながら、少し前に出ようとする。
「待って、まだ気を抜くのは速いわよ」
 しかし、それを舞彩が止めた。
 ポンペリポッサは、まだ立っていた。かなりのダメージを受けているのにも関わらず、だ。
「どうやら、あたしはもう終わりのようだね。だけど、最後まであきらめないよ」
 そう言うや、ポンペリポッサはうずくまり始めた。
「……何をしようとしている?」
 鬼人が、怪訝な表情で、刀の鞘を持ち、柄に手をかける。
「あれは、今まで貯まったハロウィンの魔力を、転送しようと……!?」
 祥空がポンペリポッサの意図を見抜いた。それと同時に、タクティとラーヴァが動く。
「そんな事は、させないんだぜえぇ!!」
「その企みごと、燃やし尽くすまでです!!」
 動いたのは、彼等だけではない。他の班もそのポンペリポッサの目的に気が付いたのか、一斉に攻撃を仕掛けていく。
「タフだね。……執念、とでも言うのかな?」
 陽葉はそう呟き、また弓を構える。一度の総攻撃でも、彼女は崩れない。すかさず、第二陣の一斉攻撃が火を噴いた。
「ヴィヴィアン! 一緒にいくぜ!」
「わかった! 七夕寓話六塔決戦でのつらい記憶も、二人でならきっと克服できるよ。戦いも、ハロウィンも全力でいこう!」
 鬼人とヴィヴィアンの息のあった攻撃を、他のメンバーも支え、共に穿つ。
 すると、ポンペリポッサの体が崩れ始める。恐らく陽葉の言う通り、執念としてこの場に居るのだろう。命を懸けて、この作戦を実行しているのだ。しかし、その執念に肉体は応えきる事は出来なかったのだ。
「ごめんよぉ、赤ずきんや。これっぽちの魔力じゃ、あんたを生き返れないよねぇ」
 彼女はおいおいと泣きながら、崩れ落ちようとしていた。
「蘇らせたいって気持ちについては、わかるわ。こちらに犠牲が今と未来ででない形なら手伝ってもいいぐらいには。なんてね。
 ……でも、そう上手い話はない、かしらね」
 舞彩がそう、呟いた。恐らく彼女には届いてはいないだろう。泣く老夢喰を見ながら、彼女は言った。そして、これ以上の台詞は無意味だとも悟った。
「止めを……あげましょう」
 ケルベロス達は最期の攻撃に、全力を注ぐ。その攻撃は、せめてもの慈悲なのかもしれなかった。この場にいる全員が攻撃を打ち込むと、とうとうポンペリポッサは消滅を開始したのだ。
「あれっ? ポンペリポッサが、何かを見ている?」
 苺がそう気付いた。確かに消え逝く彼女は、目を見開き何かを見ているようだった。
「おぉ、赤ずきん。最後にばばあの所に来てくれたのかい? あんたはやさしいねぇ。あぁ、あぁ、そうだね、あたしらのような犠牲はもうたくさんだよねぇ。
 お前達、ジュエルジグラットには気を付けるんだよ。
 ジュエルジグラットの秘密を暴かなければ、モザイクが晴れる事は決して無いのだから」
「幻……か? でも、そういう事もあるのかもしれないんだ……ぜ」
 タクティはそう言うが、真相は分からない。ただ、ポンペリポッサはそう遺し、消滅していったのだった。

 こうして、ハロウィンの企ては潰えた。
 ポンペリポッサの想いは、叶ったのだろうか。そう思わずにはいられない最期だった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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