『赤ずきん』再誕計画~緑の好奇心は、赤の恐怖の為に

作者:柊透胡

 生命の死を司る冥府の海――デスバレスの水底に、巨大なる影。
「『赤ずきん』や、ようやく準備ができたよ」
 しわがれた老婆の声が、万感込めて呟く。
 ジグラットゼクスの一塔にして「緑の好奇心」を喚起するもの――ポンペリポッサ。その周囲には、何百体もの……ハロウィン仕様の巨大パフェ(?)がうにうにと蠢いている。そして、カボチャ色の装いも鮮やかな3体の魔女死神の姿も。
「このハロウィンが、『赤ずきん』を蘇らす事ができる最後のチャンスだ」
 その言葉からして、緑の魔女が季節の魔力の1つ『ハロウィンの魔力』を奪おうとしているのは明白だ。そして、その目的も。
「あたしがハロウィンの魔力を死神に渡せば、ジュエルジグラットは今度こそ終わりになるだろうさ。だけど構いやしない」
 ポンペリポッサの横顔に、ドリームイーターの本拠地を喪う事への躊躇いなど全く無い。
「あんたを見捨てたジュエルジグラットなど、何度でも捨ててやるのだから」
 苦々しい言葉と共に、3体の死神の魔女と数百体もの「南瓜うにうに」の影が失せる。最後に、ポンペリポッサの姿も消え――元の静かな海底に戻った。
 
「まずは、『暗夜の宝石』攻略戦の勝利、おめでとうございます」
 ケルベロス達に慇懃に会釈して、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は先日の戦勝を祝う。
「私のヘリオンも、皆さんの凱旋を手伝いましたが……あのような極限の環境でも戦えるケルベロスの皆さんは、本当にすごいと思います」
 月――暗夜の宝石を巡る慌ただしさを経て、気が付けば10月も末。戦争が終わって間もなく、ハロウィンが来る。
「今年のハロウィンはつつがなく……となれば、良かったのですが。死神と合流した寓話六塔が一、ポンペリポッサの襲撃が、ヘリオンの演算により判明しました」
 ポンペリポッサと3体の魔女死神が「南瓜うにうに」数百体を率いて、季節の魔力の1つ『ハロウィンの魔力』を強奪しようとしているのだ。
「ポンペリポッサの目的が、『赤ずきんを蘇らせる』事なのは間違いありません。ポンペリポッサと死神の魔女を撃破し、彼女らの目論見を撃ち破って下さい」
 ポンペリポッサ達は、最も盛り上がったハロウィンパーティーの場所に現れて、ハロウィンの魔力を強奪しようとしている。
「つまり、ケルベロスハロウィンが大いに盛り上がれば、ポンペリポッサ達はケルベロスハロウィンの会場に現れる事になります」
 ケルベロスハロウィンの会場に敵を誘き寄せる事で、一般の人々への被害を抑えた上で、有利に戦う事が出来るだろう。
「まずは、ケルベロスハロウィンの会場を盛り上げてハロウィンの魔力を高め、敵を誘き寄せなければなりません」
 創が案内する会場は『パレードロード』。出現するのは『ポンペリポッサ』だ。
「最も盛り上がった場所には、ポンペリポッサが直截乗り込んできます。すぐ戦闘になるでしょう」
 それ以外の場所には、ポンペリポッサと死神の魔女達によって生み出された『南瓜うにうに』という死神の群れが12体出現する。
「この『南瓜うにうに』の群れを素早く撃破して、ポンペリポッサと戦うチームの援護に向かって下さい」
 ポンペリポッサは『目の前』のケルベロスを全て撃破すると、高められた大量のハロウィンの魔力を奪って撤退してしまう。その為、ポンペリポッサと最初に対決するチームが全滅する前に、援軍に向かわなければならない。
「『南瓜うにうに』は、ハロウィンの魔力が大好物です。パーティーが大きく盛り上がった場合、ハロウィンの魔力を集めるのに夢中になって、自分がダメージを受けるまでは戦闘に加わらないようです」
 この特性を利用すれば、各個撃破も叶うだろうし、戦闘に加わらない『南瓜うにうに』は、最悪、無視する事も出来よう。
「援軍に向かう事を優先するならば、無理に殲滅しなくても良いかもしれません」
 援軍を優先するか、『南瓜うにうに』の撃破を優先するかは、各チームの作戦次第となる。
 ビルシャナ大菩薩の次にポンペリポッサとは……デウスエクスの攻勢が途切れる様子もなく、情勢は常に慌ただしい。
「ケルベロスの皆さんが一息つく間もありませんが……楽しいハロウィンパーティーを悪用しての『赤ずきん』再誕計画は、到底看過できません」
 又、ポンペリポッサだけでなく、『魔女の力を得た死神』も、本来はドリームイーターが持つ『季節の魔力』を操る力に目覚めつつあるようだ。
「可能な限り、襲来してきた敵を撃破できるよう……皆さんの健闘を祈ります」


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
巽・清士朗(町長・e22683)
田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)

■リプレイ

●ケルベロスハロウィン!
 10月31日――巷が、ハロウィンで浮き立つこの日。季節の魔力を奪おうとしているのは、「緑の好奇心」ポンペリポッサ。
「ぽんぺり……ぽんぽんぺいん??」
「ポンペリポッサ」
「ぽ、ぽんぺ……よくわからないのだ!」
 だが、最も盛り上がった会場に現れるなら、ケルベロスハロウィンに誘き寄せれば良い。
 ポンペリポッサが出現するのは『パレードロード』。故に、ケルベロス達もあちこちで仮装行列を繰り広げる。
 とある一角――耳にも麗しい音楽が流れ、何事かと足を止める人々の前に。
「ああ、大丈夫ですよ、観客席の旦那様、お嬢様方」
 執事服にソフト帽、白手袋にモノクル。そして悪魔尻尾に巻き角、蝙蝠羽根――悪魔で執事な巽・清士朗(町長・e22683)が悠然と抱えるのは。
「こちら本日のメイン。ケルベロス諸氏による魅惑のパレードで御座います」
 何と巨大コンテナ。その上に、様々な仮装をしたケルベロス達が――正に、怪力無双の賜物だ。
「ハッピーハロウィン!」
 平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)は、羽衣天女の扮装。領巾をひらりと翻して守護星座を描けば美しく輝いた。華やかな演出は、スターサンクチュアリだ。
「トリックオアトリート、お菓子はこの子達から貰って」
 自らは狼の仮装で、にこやかに碧眼を細めるマキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)。
 事前に犬カフェのワンコと仲良くなって、一緒に参加した。お菓子を配るのに協力して貰っている。
「2匹の犬と私、合せて三つ首のケルベロス、なんて……あなたも素敵な仮装ね。楽しそうだわ」
 茶目っ気を覗かせて微笑み、マキナは大人と談笑する。
「あなたの姿は、拘りを感じます。その仮装を選んだ切っ掛けは?」
 イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)も、周囲に明るく話し掛ける。
「いいモチーフですね。何処から迷い込んだのでしょう?」
 祝う事こそハロウィンの魔術師の楽しみ。宙を跳ね、褒め称える声を響かせる。傍らのミミック――相箱のザラキは、エクトプラズムフル活用でキラキラと。お宝一杯の宝箱のようだ。動くけど。
「マリアさん、豪華ですね! 篠葉さんは可憐な陰陽師だ」
「おおきに、それから、はっぴぃはろうぃん。イッパイアッテナも、カッコええね」
 はんなりと笑む田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)は、かぐや姫。艶やかな黒髪はウィッグで、十二単の中にこっそり武器を隠している。
「皆さんも、はっぴぃはろうぃん。心行くまで楽しんで」
 ステージから降りる時、ドラゴニアンの翼でふわり。笑顔で子供達に和菓子をプレゼント。変わり種に吃驚したり楽しそうだったり、素直な表情が嬉しい。
「え、可憐? ありがと! 御礼に、今日もじゃんじゃん呪っていくわよー!」
 袴スカートの丈は短く、水干に烏帽子、高下駄とちょっぴり歌舞いた遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)は、ふっさり尻尾と大きな狐耳がチャームポイントだ。
「お菓子配りも怪異退治も陰陽師にお任せあれ!」
 呪符を手に宙に清明紋を刻めば、あら不思議! お菓子が降ってきた! ……断じて、袖に隠していた訳ではない。
「怪しい夜には、呪いが似合うわよね!」
 ……確かに、10月の晦日は、人外の化生が集まる夜だけれど。
 一角では、不思議の国のアリスとマッドハッターが、追いかけっこの隠れんぼ。月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)と四辻・樒(黒の背反・e03880)だ。
(「パレードを盛り上げて誘き出す、か……灯と楽しむ心算だったし、否はない」)
 しっかり盛り上げようと、花火の刺さったケーキを運ぶ樒。
「トリックオアトリート!」
 悪戯なら花火を、お菓子ならケーキをプレゼント。サイリウムも撒きながら、帽子屋はアリスを探す。
「お菓子、ばら撒くのだ!」
 一方、アリス扮する灯音は小走りに巡る。通行人を巻き込み、他の参加者の陰に隠れたり。
(「自分が楽しくなければ、他も楽しめないのだ!」)
 そのポリシーはきっと正しい。アリスの楽しげな様子に、周囲も自然と笑み零れる。
「灯、捕まえたぞ」
 景気よくお菓子を振舞っていたら、背後から捕まえられた。満面の笑みを浮かべたアリス=灯音は、帽子屋=樒に抱き付かんばかり。というか、背中にぶら下がっている。
「ハッピーハロウィン」
 スキンシップを心地好く思いながら、樒が手品のように取り出したのは――馥郁と香る薔薇の花。そっと渡した花の陰で唇を寄せた。

●南瓜うにうに
「外れか……」
 襲来は唐突。南瓜うにうにの出現に、清士朗は残念そうだ。ついでに、ポンペリポッサの戦場は、かなり遠い位置に在るようだ。
 ともあれ、12体の南瓜うにうにの内、6体はハロウィンの魔力収集に夢中。
「デウスエクス出現! 皆さん、ここから離れてください! デウスエクス出現です!」
 声を張って敵襲を報せる和。内心で息を巻く。
(「赤ずきん復活なんて、絶対に失敗させてやるんだから! ぷんすか!」)
 メディック担当故に、和は戦場全体が見渡せる立ち位置を念頭に。
「現れたわね、魑魅魍魎! 調伏してやるから覚悟なさい!」
 篠葉も強気の声を張る。火力重視なら近接攻撃。文字通り、ハウリングフィストが唸る。
(「ハロウィンの魔力をドリームイーターが狙うのは、恒例になっているわね」)
 取り急ぎわんこ達を逃がし、マキナは「CCP A.I.M」を発動。
(「まずは赤ずきん復活を阻止、死神やドリームイーターの動き、探りましょうか」)
 敵が動けば、他のデウスエクスの動きまで見えてくる――自らの視界にターゲットスコープを付与し、ターゲッティングを補助するマキナ。その姿は狼の仮装のままだ。
(「仮装のまま、果敢に戦う様子を見せて、世界を勇気付けましょう」)
「ハロウィンは一夜限り。夢は覚めるものだ。だからお前達の好きにはさせない」
「樒の言う通りなのだ!」
 ナイフを構えて戦闘態勢の樒に呼応し、灯音も巫術を編む。斬撃と御業が相次いで迸る。
 ――――!!
 南瓜うにうには、各々パンプキンヘッドで喰らい付き、南瓜の蔓で薙ぎ払う。
「全てを撥ね返す力を」
 すかさず、護り言葉を発するイッパイアッテナ。闘志奮い立つ言葉は頑健を暗示し、肉体をも保護する言霊だ。ザラキは応酬にエクトプラズムの武装を振う。
(「ドリームイーターと言えど、仲間想うなら……否、地球に犠牲強いる計画は許さない」)
 そして、革ホルスターに下げた日本刀を抜くや、清士朗は空の霊力帯びた斬撃を振う。スナイパーの位置から狙い澄まし、一撃一撃、痛打を狙う心算だ。
(「皆さんの助けになるよう、確実に」)
 マリアはバスターライフルを構えるや、フロストレーザーを放つ。十二単はその実、プリンセスクロスで戦うのに支障はない。
 襲い来る南瓜うにうには、確実な各個撃破に努め、攻撃を集中させるケルベロス達。一刻も早くポンペリポッサ戦の援護に向かうべく。

●後背を突く
「灯、大丈夫か?」
「うん! 樒と一緒だから、平気なのだ!」
 南瓜うにうに襲来は残らず平らげ、ケルベロス達は急ぎポンペリポッサの戦場へ向かう。
「他のチームは、大丈夫でしょうか?」
「何か、すっごい遅れた、かも……?」
 緑の魔女の狂乱はすぐ知れた。イッパイアッテナと和は心配そうに眉を寄せる。
「……うん。急ごう」
 「魔女より狐陰陽が呪いパワーが上って証明する!」とライバル心を燃やしていた篠葉も、心なしか青褪めている。
「待ってください」
 だが、戦線へ加わろうと駆け出す直前。マリアが指差す先――シャーマンゴースト伴う白き女神が手を振っている。彼女のチームともう1チームの合流が見えた。
「皆、無事?」
「そうね。こっちは上手く行ったところよ。被害も、最小限って所かな」
「こちらも戦闘不能等はないな……だが、流石は寓話六塔。今はケルベロスも上手くチームをローテーションして持ち堪えているが、それも時間の問題だろう」
 遠目から戦況を読んだ清士朗だが、本陣への合流は急かさない。
 この3チームが恐らく最後の戦力。となれば。
「1つ、提案があります。此処から確認できる限り、今のところ勝負は互角でしょう。しかし、このまま正直に我々が参戦しても、効果が薄い可能性があります」
 東方の僧侶に扮した気難しげな青年が、丁寧ながら明瞭な言葉で提案する。
「……我々で、背後を突きましょう」
 ポンペリポッサは、目の前のケルベロスに集中している。これは――好機だ。
「了解したわ。やりましょう」
「うむ、異論はない。……急ごう」
 肯いたマキナの言葉は、チームの総意だ。笠地蔵に扮した巫術士の青年のチームも同じく。そうして3チーム、総勢24名のケルベロス達は静かに、素早くポンペリポッサの背後に回り込む。
 いつでもグラビティを放てる態勢で、24名はその時を待つ。全員の攻撃を一斉に、巨大なる魔女へぶち込むタイミングを――。
「もう少し、もう少しだよ、赤ずきん。このばばあがこのばばあが……、がうぁぁぁぁ」
 理性を削ぎ落した雄叫びが、パレードロードに響き渡ったその時。
「行くぞ」
 勇者に扮した青年の藍の眼がポンペリポッサを見据え、勇ましく飛び出していく。
 それを合図に、ケルベロス達は雪崩打って動く。
「灯、一緒に行くぞ」
「おっけい、なのだ!」
 妖精の加護を宿した追尾する矢を樒が放つと同時、灯音の熾炎業炎砲がその一矢に寄添い天翔ける。
「ザラキ、もうひと頑張りです!」
 勇者を追って突撃するイッパイアッテナは、一見何の変哲もない杖をヌンチャクのように振り回す。遠心力で威力増した一撃を、ミミックのエクトプラズムも又、同様の武装を模った。
「失礼マダム。少々、そのバカでかいおみ足が邪魔かと」
 慇懃な執事の口調は変わらず、ポンペリポッサの死角から強襲する清士朗。すり抜けながら、流星も斯くやの蹴りを炸裂させた。
「楽しいハロウィンを恐ろしい光景に変えるなんて、これ以上許さへんよ!」
 十二単の袖ごとドラゴニックハンマーを担ぐマリア。竜砲弾爆ぜる轟音が、戦場に響く。
「そうだよ、折角のお祭りなのに……赤ずきん再誕なんて、許さないんだから!」
 今はメディックであろうと全力攻撃! 身の内のグラビティ・チェインも破壊力に変えて威力を上乗せする。和はゾディアックソードを力一杯叩きつける。
(「……守るわ。私に心を与えてくれた地球と人々を」)
 その思いは、ウィッチドクターとして、鎧装騎兵として、マキナと共に在り続ける。意気強くオーラの弾丸を放てば、美しい弧を描きポンペリポッサに喰らいついた。
「そこのアナタ! 呪いお1つ如何ですか?」
 怖い魔女、皆でヤレば怖くない――篠葉は、構えたバスターライフルからこれでもかと凍結光線を浴びせ掛けた。
 ――――!!
 24+αの猛攻を容赦なく畳掛けられ、ポンペリポッサの苦鳴すらグラビティに掻き消される。
 全力攻撃の果て――ポンペリポッサの巨大な腹は大穴が開き、片腕もちぎれ落ちていた。

●緑の好奇心、潰える
 半身抉られて尚――緑の魔女は、生きている。
 魔女への奇襲を契機に、防戦一方だった正面のチームも反転攻勢に出た。前後からの猛攻に、魔女の身体は更に損なわれていく。
 苦悶を叫ぶポンペリポッサ。ギョロリとケルベロス達を睥睨する。
「どうやら、あたしはもう終わりのようだね。だけど、最後まであきらめないよ」
 死に物狂いの反撃が嘘のように、ボロボロの身体を丸めて蹲った。
 明らかに無防備の呈――ならば、何を『あきらめない』のか。
「……ああっ!?」
 マリアは思わず息を呑む。ポンペリポッサの目的は、最初から変わっていない。
「ポンペリポッサは、ハロウィンの魔力をデスバレスに送り続けよります! 一刻も早く、撃破せんと!」
 この期に及んで、赤ずきん復活の危険は冒せない。ケルベロス達のグラビティが、更に勢いを増しポンペリポッサに殺到していく――。
「その厄介な動き封じます」
 焦る気持ちを堪え、マリアが狙い定めて撃ったのは神鎖抑制閃弾。グラビティチェインを抑制する光、対デウスエクス用麻酔弾だ。
 無言で視線を交わし、灯音と樒は同時に動く。
「さて、縫い留めようか」
 巫術で黒針を幾つも作り上げ、幾重にもポンペリポッサを縫い付ける灯音。
 樒は、闇を映したような漆黒のナイフを振う。ただ、一心に全てを切り裂くのみ。
 魔女の頭蓋を叩き割らんと。イッパイアッテナは力一杯、絆の戦斧を振り被る。同時、ミミックのザラキが大口開けて喰らい付いた。
 ドラゴニックハンマーの砲塔を構え、マキナは竜砲弾を放つ。耳を聾する轟音が響き渡った。
「いまだ! 渾身のー……てややー!」
 それは、和の全知識を以て錬成された1冊の本。敵の頭上に出現し、その質量で痛恨の一打と為す。無論、角で。正に、全知の一撃。分厚い事典は――もはや凶器である。
「冥府より出づ亡者の群れよ、彼の者と嚶鳴し給え」
 そして、篠葉が唱えるのは、怨嗟嚶鳴之呪。大地に隠潜する怨霊を強い拘束の呪とする。
 例えば、最近老けてない? なんて聞かれる呪いとか。博打で人生賭けたら大負けする呪いとか――トンチキな内容だが、前者は兎も角、後者はポンペリポッサの現状からして、洒落になってないかもしれない。
 照りもせず 曇りもはてぬ春の夜の――。
 天真正伝鞍御守神道流剣術 朧改 逆鱗――一切の先触れなく、ポンペリポッサの背面へ飛び移るや、延髄目掛けて愛刀「大磨上無銘 玄一文字宗則」を突き立てる。
「――おぼろ月夜に しく物ぞなき」
 急所を穿つ事のみに特化した一撃を繰り出し、清士朗は静かに詠う。
 ケルベロス達の猛攻撃は留まるを知らず、何度も何度も、魔女の巨体が震えた。
「ごめんよぉ、赤ずきんや。これっぽちの魔力じゃ、あんたは生き返れないよねぇ」
 とうとう限界に達したか。ポンペリポッサは俄かに崩れ始める。おいおいと泣く緑の魔女の前に――まさか、赤ずきんの幻が現れようとは。
 ――――。
 警戒するケルベロス達を余所に、何事かポンペリポッサに囁く赤ずきん。
「おぉ、赤ずきん。最後にばばあの所に来てくれたのかい? あんたはやさしいねぇ」
 まるで孫娘と祖母のやり取り――総てを伝え終えたか、赤ずきんはポンぺリポッサの前から消えていく。
「……あぁ、あぁ、そうだね、あたしらのような犠牲はもうたくさんだよねぇ」
 ギョロリ、と緑の魔女がケルベロス達を見回す。
「お前達、ジュエルジグラットには気を付けるんだよ」
 ジュエルジグラットの秘密を暴かなければ、モザイクが晴れる事は決して無いのだから――魔女の遺言の間にも、その巨体はどんどん崩れていく。
 ――――!!
 或いは、介錯とも言えようか。ケルベロス達の一斉攻撃が、ポンペリポッサを跡形も無く滅ぼした。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。