『赤ずきん』再誕計画~捨てる覚悟、拾う覚悟

作者:廉内球

 デスバレスの仄暗い海底に、漂う光があった。その数、十、二十、いやその程度では済まない。数百を超える光――パンプキンパフェを想起させる存在が、集まっている。
 中央には緑の肌を持つ老婆のドリームイーター、ポンペリポッサ。そして魔女型の死神が三体、控えていた。
「『赤ずきん』や、ようやく準備ができたよ。このハロウィンが、『赤ずきん』を蘇らす事ができる最後のチャンスだ」
 ポンペリポッサは赤い瞳で周囲の南瓜うにうにを見渡した。
「あたしがハロウィンの魔力を死神に渡せば、ジュエルジグラットは今度こそ終わりになるだろうさ。だけど構いやしない。あんたを見捨てたジュエルジグラットなど、何度でも捨ててやるのだから」
 その言葉に、魔女型の死神がうっすらと微笑んだような気がした。そして、南瓜うにうにと魔女死神の姿が消える。そしてポンペリポッサの姿も消えると……そこには、元から何も無かったかのように、暗い静寂のみが残るのだった。

「まずは月面での戦い、お疲れ。素晴らしい戦果だったな。それにしても宇宙で戦い勝利するとは、流石はケルベロスだ」
 『暗夜の宝石』攻略戦に見事勝利を収めたケルベロス達を、アレス・ランディス(照柿色のヘリオライダー・en0088)はねぎらう。
「さて、大きな戦いも終わり、ハロウィンの季節だな。ハロウィンと言えば、毎年の仮装パレードと……」
 そこでアレスは大きなため息を一つ。
「……季節の魔力を集めるドリームイーターなんだが、今年も事件だ」
 多くのヘリオライダーが予知したポンペリポッサの策を、アレスもまた予知したという。曰く、数百の死神の群れを引き連れて季節の魔力を奪い、『赤ずきん』を復活させようとしているらしい。
「『赤ずきん』といえば、ジュエルジグラットの戦いでお前達が撃破したドリームイーターだが……ハロウィンの魔力がデウスエクスの復活まで可能にするとはな」
 とはいえ、こちらも楽しいハロウィンを邪魔されるわけにはいかない。ゆえに、ポンペリポッサの企みを挫き、ハロウィンを守り抜かねばならない。
「まず、重要なのはハロウィンを盛り上げることだ。ポンペリポッサたちは最も盛り上がるハロウィンパーティーの会場に現れる。それがケルベロス・ハロウィンであれば、連中はお前達ケルベロスのど真ん中に現れることになる」
 つまり、パーティーを盛り上げポンペリポッサ達をおびき寄せることで、一般人への被害を抑え、かつ現場へは急行しやすくなる。一石二鳥というわけだ。
「このチームは『パレードロード』を盛り上げていく担当になる。上手くいけば『ポンペリポッサ』本人が現れるはずだ」
 ポンペリポッサがすぐそばに現れなかった場合、近くには南瓜うにうにと呼ばれる死神が十二体出現する。これらへの対処を行ってから、ポンペリポッサと戦うことになったチームと合流することになる。ポンペリポッサは戦う相手がいなくなると現地から離脱してしまうため、素早い合流が鍵となるだろう。
「南瓜うにうにが現れた場合、これを倒さねばならんのだが、奴らはハロウィンが盛り上がればその魔力に夢中になるだろうから、戦う気のなさそうな奴は最悪無視してしまっても構わん」
 魔力に夢中の南瓜うにうには、攻撃を受けるまで戦闘に加わらない。全個体に無視させるのは不可能だろうが、援軍に向かうことを最優先とするのであれば、向かってこない南瓜うにうにを撃破する必要は無いだろう。もっとも、その分魔力は回収されてしまうということは、念頭に置かなければならない。
「もはや恒例だが、今年のドリームイーターの動きによっては大事になりそうだ。是非とも、阻止してもらいたい」
 アレスはそこまで真面目な顔で言ったあと、ケルベロス達に向けて笑顔を作る。
「それはそれとして、ハロウィンは是非楽しんでもらいたい。作戦の一環ではあるが、年に一度の祭でもあるのだからな」


参加者
ニケ・セン(六花ノ空・e02547)
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)
皇・絶華(影月・e04491)
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)
セラフィ・コール(姦淫の徒・e29378)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)
クレア・ヴァルター(小銀鬼・e61591)

■リプレイ

●ハロウィンライブに向けて
 時は、ハロウィンの夜。パレードロードの横に、小さなライブ会場が設立されていた。ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)はアイテムポケットから機材を取り出して一息つく。あとはボクスドラゴンのボクスと共に機材をセッティングが残っている。
「この構造だと……ここを通ってもらえば良いだろうな」
 皇・絶華(影月・e04491)がライブ会場を追加した見取り図を見て最適な避難経路を割り出し、ケルベロス達に共有。逃がすべき一般人の為の通り道も合わせて設営する。
 地図を手に取ったオニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)はその構造をよくよく記憶しようとにらめっこを開始する。どこにポンペリポッサが現れても素早く駆けつけられるように。一方クレア・ヴァルター(小銀鬼・e61591)はオウガの怪力を活かして手際よく機材を運んでいく。
 準備は整った。さあ、楽しいハロウィンナイトだ!

●パレードロード・ライブ!
 いつもは暗い、ケルベロスハロウィンの会場。その夜だけは煌々と明かりがともり、様々な仮装をした者達が通り過ぎていく。その一角で華やかな衣装を纏い、歌を披露するのはセラフィ・コール(姦淫の徒・e29378)。祭のオーラと自身の魅力で観客達を虜にしていく。その裏方ではある理由により徹夜で作業を行った死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)があくびをかみ殺しながら音源をいじっていた。
「はい、お菓子も配ってるっすよ!」
 セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)が客引きを行えば、たちまちライブ会場は人だかりが出来る。流れる曲は名曲に流行の歌、そして最後はもちろんあの歌――ヘリオライトだ。
「皆も歌おう!」
 狐稲荷の仮装をしたニケ・セン(六花ノ空・e02547)が割り込みヴォイスで声を上げれば、サビは会場一丸となっての大合唱。裏方のケルベロス達もステージに上がり、祭の盛り上がりは最高潮を迎える。
 そして曲が終わると同時、刃蓙理の徹夜の成果・お菓子バズーカが観客にお菓子を届けたその瞬間、南瓜うにうにがライブ会場に現れたのだった。少し遠くの巨大な魔女の姿も、ステージの上からならよく見える。
 観客がそれに気づき、演出ではないと判断する前に、ケルベロス達は避難誘導を行う。
「落ち着いて、指示に従って!」
 ニケらが事前に定めたとおりに避難誘導を行う。一般人の対比がスムーズに行われる一方、残るケルベロス達は南瓜うにうにと相対していた。

●蹴散らせ、南瓜うにうに
 ケルベロスに気付き向かってきたのはおよそ予知の半数、六体。他の六体はまるで気付かずハロウィンの魔力の回収を始めている。
「来たな……」
 配っていた日乃屋印の菓子を置き、ビーツーらは各個撃破の態勢に入る。作戦通りに、と互いに目配せし合い、最初の一体に向かって一斉に躍りかかった。
 ミミックが幻影の黄金をばらまき目をくらませた隙に、次々と足を止めるグラビティを繰り出すケルベロス達。ボクスドラゴンのボクスがタックルで吹き飛ばして南瓜うにうにを消滅させる。間髪入れずに次の標的に狙いを定め、集中攻撃。
「さあさあ、道を空けるっすよ!」
 今度はセットのドラゴニックハンマーが火を噴き、南瓜うにうにを消滅させていく。一体を倒せば、次の目標に集中攻撃だ。
「邪魔だっ!」
 空中から鋭い蹴りを浴びせたクレアが南瓜うにうにを撃破。三体目の南瓜うにうにが消滅し、残りは半数。
「ぼくも攻撃に回るよ!」
「ならば吾が援護しよう」
 セラフィが投げつけたトラウマボールを、オニキスがチェーンソーで切り裂いて分裂させる。何かに怯えた南瓜うにうにはそのまま消滅してしまった。
 ケルベロス達の作戦により、次々と撃破される南瓜うにうに。ハロウィンの魔力集めに夢中な南瓜うにうに六体は仲間がやられたことにも気付かず魔力集めにいそしんでいる。最小限の六体を撃破したケルベロス達は、残る南瓜うにうにの間を突破して、魔女のもとへと走る。

●決戦、魔女ポンペリポッサ
 戦いの現場に駆けつけたケルベロス達が見たのは、ポンペリポッサとの激闘を繰り広げる仲間達の姿だった。南瓜うにうにを倒してきた第二陣が来るとみるや、怪我の酷い者を背負って撤退してくる。すれ違う刹那、倒れた仲間を背負った白髪の青年の声が届く。
「あの長っ鼻には気を付けろ。それとソーセージを千切って投げてきやがる。威力もご覧の通りの有様で、トンデモないがその反面、ヤツの攻撃は自分自身も痛めつけている」
「!?」
 自分自身を傷つけるほどの苛烈な攻撃。クレアは息をのむ。これからそれを受けきって味方を守らねばならない。
「なに? 以前の戦いとは異なるな。気を付けなくては」
 絶佳が思い起こしていた寓話六塔戦争の時とは異なる戦い方だ。自分自身すら傷つけるとは、それだけ魔女が本気でケルベロスを叩き潰しに来ている証左だろうか。
「我等は攻撃を! ポンペリポッサを逃がしてはならぬ!」
 他方向から合流してきたチームのアイコンタクトを受け、彼らに撤退支援を任せようとオニキスは仲間達に叫ぶ。
「いくら沸いて来ようと、全て倒してしまえば問題ないんだよ。赤ずきんや、必ず助けてあげるから。うがぁぁぁぁ」
 攻撃に出たケルベロス達がポンペリポッサのソーセージ爆弾に吹き飛ばされ、地に倒れる。かろうじて立ち上がるものの、たった一撃で身体が悲鳴を上げる。攻撃らしい攻撃は、絶華の手から離れた心に込もるバレンタインチョコレート(キョウキヘミチビクフカキシンエンヨリキタルモノ)がポンペリポッサの口に入ったのみ。その絶望的な力の差に、セラフィはおののく。
「……ッ! ぼく一人じゃ支えきれない!」
 その時、後方から歌が届く。メドレーの如く次々と切り替わる歌に、ケルベロス達は勇気づけられ、身体に力が戻るのを感じる。
「ボクスッ……!」
 ビーツーが相棒の名を呼ぶ。それだけでボクスは理解し属性の力を注ぎ込み、立て直しを図る。攻撃を続けられるほどの余裕はない。使いうる手数の全てを回復に回さねば瓦解しかねない。
「俺達とて、負けられんのだ!」
 裂帛の気合いと共に叫び、ビーツーが立ち上がる。
「ここで終わるわけにはいかないんだ!」
 クレアの気合いの一声が自身を鼓舞する。まだだ、まだ倒れるわけにはいかない。幸いにしてもう一撃程度なら耐える力は残っている。次は何が来るか、味方をかばう準備を整えておく。
「一矢報いてみせる!」
 オニキスもまた立ち上がり、きしむ身体に無理を聞かせて高く跳び、流星の軌道で蹴りをたたき込む。同時にミミックが愚者の黄金をばらまき目をくらませて支援する。その間隙を縫い、ニケの構えたバスターライフルからゼログラビトンが発射される。
「今のうちに……!」
 セラフィは「紅瞳覚醒」を歌いあげ、味方の防御を確かなものにする。ポンペリポッサの出現タイミングと撤退していった人数を考えれば、まだ増援は来るはずだ。それまで、耐える力を。そして、攻撃し続けるだけの力を。
「支援します!」
 刃蓙理もまたオウガ粒子を解き放ち、輝きによって超感覚を覚醒させる。いくらか傷の癒えた前衛陣は再び攻勢に回るだけの力を得る。
「演算速度最大、同調生体制御開始! 傷も不調も、全部見逃さないっすよ!」
 セットはヒールドローンを展開、その演算能力をフル活用して自身の治療を試みる。次の攻撃からは守ってみせる、その覚悟と共に。
 ポンペリポッサの長い鼻が振るわれ、ボクスの姿が消える。絶華をかばったセット、そしてクレアも後方まで吹き飛ばされてしまった。その傷の程度は確認できない。だが、立ち上がる気配が無いことを見ると、相当な怪我を負ったのだろう。
「ここは、下がるしかないね」
 ニケが後退を提案する。幸いにして後詰めはいる。先ほど歌を届けてくれたチームは健在のはずだ。間髪入れずにソーセージの雨が降り出す中、ニケ達は引き下がって行く。入れ替わりに前に出たチームが爆撃にさらされるのを治療しながら、耐えること一分。
「もう少し、もう少しだよ、赤ずきん。このばばあがこのばばあが……、がうぁぁぁぁ」
 魔女が悲鳴を上げる。衝撃は後方から来ているようだ。十重二十重の攻撃、そして最後に炎の雨が降り注いだ結果、魔女の片腕が吹き飛び、胴に大穴が開けられる。
「どうやら、あたしはもう終わりのようだね。だけど、最後まであきらめないよ」
 うずくまるポンペリポッサ。もはや攻撃する力は残されていないらしいが、さりとて死を与えられるでも無く、何かを行っている。
「あれは……まさか、デスバレスに魔力を送っているのでしょうか」
「だとすれば止めねば! 身内を助けたいと思う意気やよし、だが許すわけにはゆかぬ!」
 刃蓙理の指摘を聞いたオニキス達は最後の力を振り絞る。
「雪げぬこの血の呪い、汝にも分けてやろう。祟れ、捕喰竜呪!」
 自身の呪われし血と混沌の水との混合物を、巨大チェーンソーを振り回すことでポンペリポッサへと弾き飛ばすオニキス。刃蓙理もまた、暗黒魔法デモニックフレイム・デスロード(デモニックフレイム・デスロード)を用い、炎の道の軌跡を残しながらポンペリポッサに突撃、魔女を焼き尽くさんとする。その炎の真ん中に、ライトニングロッドが突き刺さった。
「……重なる火の真価、炎が持つ力を、存分に味わうといい」
 ビーツーの【トラロックロッド】だ。刺炎突打(ピアシングヒート)による追撃がポンペリポッサにさらなる打撃を与えていく。
「こうなったら、ぼくも攻撃に回る! さあ、Let's Play! 『魔女』の妄念に終止符を!!」
 もはや回復は不要。セラフィのトラウマボールがポンペリポッサに叩きつけられる。
「ハロウィンは楽しい夜のままでね」
 ニケのフロストレーザーがポンペリポッサの身体を打ち抜く。弾痕は凍結し魔女が魔力を送る度に氷がその身を蝕んでいく。
「力比べはこちらの勝ちのようだな」
 ポンペリポッサを【霊剣「Durandal Argentum」】で切り刻む絶華。ただでさえ強力な相手、それが捨て身の攻撃を仕掛けてきた、恐ろしいまでの力を持った相手であった。しかし味方に守られたからこそ、仲間の力があればこそ、絶華達が上回ったのだ。
 戦う力の残っているケルベロス、その全てによる一斉攻撃を受けたポンペリポッサの巨体はやがてぼろぼろと崩れ落ち、ハロウィンの空へ消えて行く。
「ごめんよぉ、赤ずきんや。これっぽちの魔力じゃ、あんたを生き返れないよねぇ」
 ポンペリポッサは愛する赤ずきんを想ってか、おいおいと泣いている。涙に濡れる老婆の赤い目。その間にも身体は消滅し、魔女は死へと引き寄せられていく。その時。
 それは夢か、それとも幻か。魔女の瞳に、ひときわ赤い頭巾が映る。彼女が愛してやまなかった赤ずきん、その姿。
「おぉ、赤ずきん。最後にばばあの所に来てくれたのかい? あんたはやさしいねぇ。あぁ、あぁ、そうだね、あたしらのような犠牲はもうたくさんだよねぇ。
 お前達、ジュエルジグラットには気を付けるんだよ。
 ジュエルジグラットの秘密を暴かなければ、モザイクが晴れる事は決して無いのだから」
 ジュエルジグラットに気を付けろ。その言葉を残し、ポンペリポッサは消えていく。身体が、ソーセージが、そして長い鼻が消え――その目は最期まで、赤ずきんを映して。

作者:廉内球 重傷:セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228) クレア・ヴァルター(小銀鬼・e61591) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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