『赤ずきん』再誕計画~しゃいにぃぱんぷきんふぇす☆

作者:質種剰

●深奥の企て
 デスバレスの海底。
 いかに死神の母星といえども普段は静かな筈の海の底が、何やらおどろおどろしい雰囲気に満ちていた。
 辺り一面にたむろしているインテリア——否、死神の姿からして異様である。
 昏い墓場と白く張り巡らせた蜘蛛の巣を模したグラスの上には、虹色のモザイクに包まれたビスケットが敷き詰められ、美味しそうなホールケーキが鎮座している。
 ケーキの頂には、魔女のとんがり帽子を被ったジャックオランタンが、不気味に目を光らせていた。
 このハロウィンらしいパフェの姿をした死神『南瓜うにうに』が、数百体にも及ぶ大群で集まって、上位の死神からの指令を待っているのだ。
「『赤ずきん』や、ようやく準備ができたよ」
 上位の死神——ポンペリポッサが口を開く。
「このハロウィンが、『赤ずきん』を蘇らす事ができる最後のチャンスだ」
 ポンペリポッサの背後には、これもハロウィンっぽい仮装に身を包んだ3体の死神の魔女が黙して控えていた。
「あたしがハロウィンの魔力を死神に渡せば、ジュエルジグラットは今度こそ終わりになるだろうさ」
 愉悦に口元を歪めるポンペリポッサ。
「だけど構いやしない。あんたを見捨てたジュエルジグラットなど、何度でも捨ててやるのだから」
 ポンペリポッサが言い終わると同時に、死神の魔女3体や南瓜うにうに数百体が忽然と姿と消す。
 やがてポンペリポッサの姿も消え、海底は元の静けさを取り戻したのだった。


「皆さん、『暗夜の宝石』攻略戦の勝利、ほんとにおめでとうございますっ!」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・cn0031)が興奮冷めやらぬ様子で皆を労う。
「まさか戦争でお月様へ行くなんて思いもよらなかったでありますけど、祝勝会を楽しめて良かったでありますね♪」
 かけら自身、ケルベロスの復路のために例の試作外装を石英にも着けてもらえてご満悦であった。
「そんな戦争が終わったばかりですが、ハロウィンももうすぐでありますよね」
 ともあれ気持ちを切り替えて説明を始める。何故なら『ケルベロスハロウィンを狙って、死神に合流したポンペリポッサが仕掛けてくる』事を予知したからだ。
 ポンペリポッサと3体の魔女死神が数百体もの死神の群れを率いて、ケルベロスハロウィンを襲撃し、季節の魔力の一つ『ハロウィンの魔力』を強奪しようとしているのだ。
「ポンペリポッサの目的は『赤ずきん』を蘇らせる事に間違いなさそうであります」
 どうかポンペリポッサと『死神の魔女』を撃破して、敵の目論見をも撃ち破って欲しい。
「ポンペリポッサたちは、最も盛り上がったケルベロスハロウィンの会場に現れて、ハロウィンの魔力を強奪せんとしてくるであります」
 つまり、ケルベロスハロウィンを大きく盛り上げれば、ポンペリポッサたちはケルベロスハロウィンの会場へ確実に現れる事だろう。
「ケルベロスハロウィンの会場へ敵をおびき寄せられれば、一般の人々への被害を抑えつつ有利に戦えるでありましょう♪」
 その為にはまず、重ねて言うが、ケルベロスハロウィンの会場を盛り上げてハロウィンの魔力を高め、敵をおびき寄せる必要がある。
「皆さんに盛り上げて欲しい会場は『ストリートステージ』。誘き寄せる敵幹部は『祭り乱しの『パンプキラー』』であります」
 最も盛り上がった場所にはパンプキラーが直接現れて、すぐ戦闘へ入れる筈だ。
 それ以外の場所へは、ポンペリポッサと死神の魔女達によって生み出された『南瓜うにうに』という死神の群れが12体出現する。
「祭り乱しの『パンプキラー』は、手にした鎌や周囲に浮くランタン、時には被っている帽子を使って攻撃してくるであります」
 パンプキラーと直接戦うチーム以外は、この死神の群れを素早く撃破して、パンプキラーと戦うチームの援護に向かって欲しい。
 パンプキラーは、目の前のケルベロスを全て撃破すると、高められた大量のハロウィンの魔力を奪って撤退してしまう。
 なので、敵幹部が出現した会場以外のチームも、戦っているチームが全滅する前に、援軍に向かう必要がある。
「『南瓜うにうに』はハロウィンの魔力が大好物でありますから、パーティーが大きく盛り上げる事ができたら、ハロウィンの魔力を集めるのに夢中になって、自分がダメージを受けるまでは戦闘に加わらないであります」
 この特性を利用すれば、敵の各個撃破を狙うのも容易だろう。
 戦闘に加わらない『南瓜うにうに』は、最悪、無視する事もできる。
「もし皆さんが援軍に向かう事を優先なさるなら、無理に撃破しなくても良いかもしれないでありますね」
 かけらはそう補足してから、皆を激励する。
「楽しいケルベロスハロウィンを利用して『赤ずきん』を蘇らそうという邪悪な計画を企てるポンペリポッサも許せませんが、『魔女の力を得た死神』も生き延びれば厄介な存在になるかもしれません。どうかご武運を」


参加者
ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)
愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)
アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)
月白・鈴菜(月見草・e37082)

■リプレイ


 ケルベロスハロウィン用ストリートステージ。
「Love you! ミライです☆」
 まずは、狐っ子衣装を着た愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)がふさふさ尻尾をピコピコ跳ねさせながら、簡易舞台へ登場。
「ミオリともうします」
 続いてミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)も、やはり狐耳尻尾のついた和服を身に纏い、舞台へ上がってきた。
 ミライの衣装が淡い紫系統の色味に統一して品の良さを感じさせるゴスロリ着物なのへ対して、ミオリは着物の形や生地の落ち着いた風合いという伝統を守る一方、可愛らしいモダンな花柄で流行も意識している模様。
「さぁ、楽しいハロウィンを始めましょうか……!」
 まずは記憶に新しい『忍法カミガカリの術』で観客を引き込んでから、ヘリオライト、幻影のリコレクション、片翼のアルカディアと和楽器メインのアレンジが続く。
 PUZZLE、スカイクリーパー、そしてアンコールにまたヘリオライト。
「月の灯が僕を照らすように〜」
 ミライがサッとマイクを観客の方へ向ける。
「遠い未来へ届くように〜」
 観客達が大合唱で応じる。
「つよくーひかーりをーはなてーたら~」
 2人の可憐な歌声に加えて、やはり狐の仮装が目を惹いたらしく、観客は大盛り上がり。
 狐デュオのライブが終わるとすぐ、次の舞台の設営が始まった。
「脚立や梯子無しで高所の作業ができるのは、やはり楽ですね」
 演者たちが慌てて衣装に着替える中、裏方に徹する予定のラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)も照明を取りつける合間に他班の様子を窺ったりと、忙しく立ち働いていた。
 ラーナ自身、ハロウィンという事で仮装——スラッとした体型に合わせて少なめに綿を入れた雨蛙の着ぐるみを着ている。
「赤ずきんや。森の奥のおばあさんの家へ、白パンとワインを届けてくださいな」
 パッとスポットライトを浴びつつ、豊かな胸を張って声を響かせるのはシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)。
 お決まりのセリフから赤ずきんの母親役とわかるが、その衣装はシフカ自前のチャイナドレスと網タイツの組み合わせの上から申し訳程度に白い前掛けを締めたもので、相当大人の色香を漂わせている。
 こういったお祭り事ではあまり目立ちたがらず、出番をなるべく減らしたがるシフカが、何故わざわざ官能的な格好をしているのかというと、勿論理由がある。
「ええい。仕方がない。自棄だ。自棄酒だ。自棄に狂えば世界は幸せだ。収穫祭に恥じらいは不要。私は私の殻を脱ぎ捨てて、めぇめぇ」
 次いで舞台へ歌いながら上がってきたのは、ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)。
 仮装は手作りの黒山羊の着ぐるみで、ぐるぐるお目々が本人の酩酊状態によく合っていてポップな可愛さがある。
 狐ライブの間は演奏を手伝う傍ら、やたらと恥ずかしがって顔を隠していたユグゴトだが、赤ずきんミュージカルの番になってようやく吹っ切れたのか、舞台上に酒瓶と盃を持ち込んでは手酌でガンガン呑みまくっていた。
「あなた、まだ赤ずきんが居るんですから家まで来ちゃダメって言ったでしょ」
 慌ててシフカがユグゴトを押し返すようにして、共に舞台袖へ掃けていく。
 妙に色っぽい格好と狼狽えた様子から、赤ずきんの母親と黒山羊はどうやらただならぬ関係にあると言外に匂わせる——これが、シフカの出番が短いながらも衣装に拘った理由である。
「わ、わかりました。いってきます」
 赤ずきんの衣装で再び舞台に立ったミオリは、上手く呆れ果てた声を出して所在無さげにバスケットを掴むと、森へ向かって歩き出した。
 ここで照明が離れた所にあるおばあさんの家のセットへと移る。
 何せストリートの範囲内なら自由に舞台を組める為、暗転してセットの組み替えをする必要がない。
 とはいえ、台詞や歌詞のボードを出したりBGMのキーボード演奏をしたり観客へ歌詞カードを配ったりと裏方のミライやラーナ、ユグゴトは大忙しのようだ。
「がおーっ、食べちゃうぞー!」
 ミライ作曲の伴奏が流れる中、次にスポットライトを浴びたのはアストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)。
 狼の着ぐるみやセリフからも判る通り、紛う事なき狼役である。
「あ~~れ~~〜」
 一方、アストラ狼にガバッと襲いかかられ、ベッドの中から焦って逃げ出そうとするのが月白・鈴菜(月見草・e37082)。
 白いナイトキャップとひらひらレースのネグリジェ、そしてレトロな丸眼鏡が可愛い、赤ずきんのおばあさん役である。
(「……ロリBBA……?」)
 一体どこで覚えてきたのか気になる単語を思い浮かべて、首を傾げる鈴菜だがそこはそれ。
「ほーら、プリンと一緒に食べちゃうぞーっ!」
「お助け~~……」
 アストラ狼ががぽっとプリンの被り物を被せてくるのへ合わせて、鈴菜おばあさんも食べられる演技をしっかりこなしてみせた。
 主とお揃いの狼着ぐるみを着たボックスナイトが、プリンへ齧りついているのも微笑ましい。
 そして、まんまとおばあさんに成り代わったアストラ狼と、家へ辿り着いたミオリ赤ずきんとの有名なやり取りが始まる。
「赤ずきん、洋服を脱いで一緒にベッドへ入ろうよ」
「脱いだ服はどうするのですか?」
「暖炉へ焚べてしまえばいいよ」
 素直に上着を暖炉へ放り込む赤ずきん。雰囲気作りではあるが当然服は着たまま話が進む。
「おばあさんのお鼻はどうしてそんなに長いのです?」
「お前の匂いをよく嗅ぐためだよ」
「おばあさんのお口はどうしてそんなに大きいのですか?」
「それは……お前を食べるためさ! がおーっ!」
 アストラ狼がつい正体を現して、哀れ薄着の上からプリン着ぐるみを着せられたミオリ赤ずきんは、ぺろっと平らげられてしまった。
「あのクソ狼……」
 そして、その様子を窓の外から伺っては怒っている人物がいた。
 テンガロンハットを被って狩人役になりきった日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)だ。
「おばあさんだけでなく赤ずきんまで」
 蒼眞の激昂は尤もだが、それにしては不審な点がある。
 何故、おばあさんが食べられたのを知っていながら、赤ずきんまで食べられるのをみすみす止めなかったのか。
 そこが狩人の狡猾さである。
「……そろそろ良いか」
 ご満悦なアストラ狼が高鼾で昼寝を始めたのを見計らって、家へ乗り込む蒼眞狩人。
 実は、狩人はおばあさんのストーカーだったのである。
 常々おばあさんの家の中を覗いていた蒼眞狩人だが、うっかり目を離した隙に狼がおばあさんをいただいてしまったため怒り心頭。
 嫉妬に狂いそうになりながらも咄嗟に機転を利かせると、孫を狼から助けておばあさんに恩を売り、モノにしようと目論んだのだ。
 じょきじょきじょきじょき。
 動機はともかく、大きなハサミを持った蒼眞狩人がアストラ狼の腹を掻っ捌いて、無事に赤ずきんとおばあさんを救出。
「ありがとうございます。狩人さん」
 ミオリ赤ずきんが純粋無垢な瞳を向けて感謝するのを余所に、
「狼なんかに無理やり食われてさぞ怖かったろう。今夜はボディーガード代わりに泊まっていこうか?」
 蒼眞狩人は鈴菜おばあさんを夢中で口説きまくるのだった。
 めでたし、めでたし。
 演者たちの熱演や色々酷い脚本がウケて、会場の盛り上がりは最高潮だ。


「……こうなることはわかっておりましたとも、ええ!」
 童話らしからぬディープな展開にがくっと脱力するミライ。犯人も明らかだ。
 とはいえ、狩人のターゲットがおばあさんになったのは、『たまには自分と仲良くする台本にしろ』と鈴菜が主張した為で、蒼眞の独断ではないようだ。
「こんな内容なら私も出たかったですね」
 ラーナが細い目を更に細めて言う。
「ボックスナイトもよく頑張ったね……ぎゃあ、噛まないで!?」
 アストラはボックスナイトの着ぐるみを整えてあげていたが、ふと会場の異変に気づいて喜色を浮かべた。
「みんな、うにうにがこっちへ向かってくるよ!」
 ハロウィンの魔力を集めにきた南瓜うにうにたちが、そこかしこでランタンの目を光らせていた。
「魔力を奪取するなど言語道断。収穫祭は皆の為。仔の為に在るのだ。勝手気儘に手繰る輩は仕置の対象よ。抱擁せねば」
 早速ユグゴトが近くにいた個体へ肉薄、『病的かつ暴力的な神々しい混迷とした切れ味を誇る、不変的な鉄塊剣のような』で斬りつける。
 単純かつ重厚無比な一撃を脳天に喰らい、南瓜うにうにの硬そうなランタンが真っ二つに割れた。
「反撃を受ける機会を大幅に減らせるのは楽だな」
 光の尾たなびく重い飛び蹴りで、負傷したうにうにのホイップケーキを叩き潰すのは蒼眞。
「戦闘準備完了……では、行きましょうか」
 シフカは両腕に巻きつけた縛神白鎖『ぐlei伏ニル』を器用に操り、負傷したうにうにへ神速の突きを見舞う。
 雷の霊力帯びし鎖がうにうにの墓石を一瞬にして貫き、粉々に吹き飛ばして死に至らしめた。
「去年までは辛うじて名前ついてましたのに、なんで今年はこんな!」
 ミライは、南瓜うにうになる単純な命名を哀れがりつつも、決して手心はを加えず2体目を攻撃。
 翼で増幅した光を手から放つや、うにうにを構築する『超ひも』の振動を停止に至るまで追い込んだ。
「無粋なお邪魔虫さんたちの登場ですね、オープン・コンバット」
 シロガネの刃先で地面へせっせと何やら描くのはミオリ。
「星域結界展開」
 完成した守護星座が眩い光を放って、前衛陣の異常耐性を高めた。
「そういえば、前回はオオカミな赤ずきん相手でしたね」
 ラーナは、相変わらずの笑顔に見える表情のまま、2体目のうにうにへ躙り寄る。
「相変わらずイベントの邪魔というか、利用がお好きな人たちです」
 そして、ルドラの子供達含めた2本のロッドでボッコボコに殴りつけ、墓石へ莫大な雷を流した。
「この大きな南瓜の数……今年もハロウィンがやってきた感じだね」
 改めて奮起するや、明日から本気出すという誓いを溶岩へ変えるアストラ。
「パーティーも楽しみつつ悪者を退治だね」
 うにうにの足元から一気に噴き上げた溶岩が、2体目の全身を燃やし尽くして引導を渡した。
「初代ジグラットゼクスの赤ずきんと……さっきのミュージカルの主役は、違うのよね?」
 鈴菜は劇で陥ったらしい混乱を引き摺りつつも、3体目のうにうにへ狙いを定めて氷結輪を射出。
 うにうにの南瓜頭を切り裂くと共に、強い冷気でケーキを凍てつかせた。


 南瓜うにうにとの戦闘開始から5分。
 8人は順調に計12体を殲滅させると、急いで他班とパンプキラーの戦場を目指した。
「お待たせいたしました……加勢します」
 既にパンプキラーと戦っている2班へ、シフカが駆け寄って声をかける。
「待ってましたー!」
 小柄な金髪オラトリオが笑顔を向けてくれた。
「新たなお邪魔虫さん……敵性存在を確認、オープン・コンバット」
 ガジェットを弄りながら臨戦態勢で駆けつけるのはミオリだ。
「マイクロウェーブを照射します」
 そのままミオリは人体自然発火装置を着けたガジェットを作動させて、パンプキラーを突如燃え上がらせた。
「今すぐここで死に絶えろ……!」
 シフカも負けじと廃命白刃『Bluと願グ』を抜き払ってパンプキラーへ斬りかかる。
 滾る殺意をぶつけるかのように、空の霊力宿った刃で奴の傷跡を凄絶に斬り広げた。
「頼れる仲間が来てくれる。そう信じていたから――私たちはヒールで時間稼ぎしてたんだよ!」
 パンプキラーを呼び寄せた班のゴリラ獣人女子が、魂喰らう拳でパンプキラーを撲りつけながら、安堵に声を弾ませる。
「やはり、斉天大聖には癒し役よりも暴れ役のほうが似合うな」
 伸ばしたオールらしき武器でパンプキラーを突き飛ばしているのは、蒼いドラゴニアンだ。
「貴様の物語を否定する」
 きっぱりとパンプキラーの存在を『否定』して、証明を混濁させるのはユグゴト。
 パンプキラーと名のつく『もの』は混濁に蝕まれて自身の在り方を見失い、回避すら放棄して己が物語の連続を危うくしている。
「舐めるなよドリームイーター……うにうに達と関わってきた期間なら俺の方が遥かに長いんだぜ……」
 口では格好良い事をのたまう蒼眞だが、何の迷いもなくパンプキラーのおっぱい目掛けて顔面から飛び込んでいる辺り、もはや救いようがない。
 それでも一応巨大なうにうにを奴の頭へ落っことして、圧倒的な巨体と質量で押し潰すのは忘れなかった。
「蒼眞……もう一度訊くわ……キックオアトリート……?」
 そんな蒼眞へ鈴菜が冷たい声を投げる。
 もう一度、とは石英からの降下時にいつもの如く蹴落とした事を指すに違いない。
「日に何回、胸へ飛び込めば気が済むのかしら……」
 痴話喧嘩めいた文句を続ける傍ら、竜語魔法を詠唱、掌から『ドラゴンの幻影』を浴びせて、蒼眞ごとパンプキラーを焼き捨てようとする鈴菜だ。
「お菓子の代わりにこれでも食ってればぁ?」
 パンプキラーは、最初こそ勝ち誇った嘲笑いながら、ランタンボムを乱射していた。
「弾幕薄いよ、なにやってんの!」
 愛用の改造スマートフォンを2台持ちして、アストラがコメントの弾幕を超スピードで送信。
 役に立たないコメントや煽りコメントも多少混じっているものの、心を動かす真摯な応援コメントの大半が、前衛陣の火傷を癒していく。
 戦闘開始から数分。
「調子に乗ってんじゃないよ! 雑魚の数がたった三倍になっただけじゃん!」
 パンプキラーとてケルベロスたちの猛攻に到底無傷でいられる訳がない。
 それもあってか内心焦る気持ちをひた隠しに、黒い口裂けシャッポをひょいっと投げつけてきた。
「嗚呼、世界が回る。ぜぇはぁぜぇはぁ」
 流石に戦闘中までは酩酊していないユグゴトが、咄嗟にシフカを庇って三角帽に噛みつかれた。
「こころを望んだ彼女は、きっとサルベージなんて願っていないから」
 オウガメタルのクッキーちゃんを『鋼の鬼』へ変化させ、拳を白銀で覆わせるのはミライ。
 ——ゴスッ!
 そのまま全身全霊をかけたパンチをお見舞いして、パンプキラーの透け透け南瓜パンツを打ち砕いてみせた。
「trick or treat、範囲の超えたイタズラにはこちらもお返しいたしましょう」
 B・B・B・A・右・右・左——とラーナはうろ覚えのコマンドを頼りに足技を繰り出す。
 テキトーではあるもののしっかり力の籠った蹴りがパンプキラーの肋骨へ決まって、メキッと嫌な音が足から伝わってきた。
 その後も激しい戦いが続いて、
「光よ、彼の敵を縛り断ち斬る刃と為せ! 銀天剣・零の斬!!」
 最後は桜を咲かせたオラトリオが光を集めた刀と翼より解き放った光刃の大群によってパンプキラーを斬り伏せ、ついにトドメを刺したのだった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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