城ヶ島制圧戦~鉄甲竜カルコス

作者:椎名遥

 集まったケルベロスたちに一礼して、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は机の上に地図を広げる。
 その地図が示すのは、神奈川県は三浦半島の南端、城ヶ島。
 今はドラゴンに占拠され、竜の巣窟となっている島であり――先日、ケルベロスたちが強行調査を行った場所である。
「城ヶ島の強行調査の結果、城ヶ島の白龍神社に『固定化された魔空回廊』が存在することが判明しました」
 地図上の一点を指さして、セリカは調査の結果を読み上げる。
 デウスエクスが、地球の拠点である『ゲート』から各地へ転移するために使用する転移通路『魔空回廊』。
 この異次元の転移通路を通ることで、デウスエクスは日本各地に襲撃をかけることができているのだ。
 ――だが、便利な移動手段である魔空回廊には、リスクも存在している。
 その一つが、地球の拠点である『ゲート』からしか繋げることができないということ。
 つまり、
「この固定化された魔空回廊に侵入して内部を突破する事ができれば……ドラゴン達が使用する『ゲート』の位置を特定する事が可能となります」
 魔空回廊が『ゲート』からしか繋げることができない以上、回廊の出口は必ずゲートに繋がっている。
 そして、『ゲート』の位置さえ判明すれば、その地域の調査を行った上で、ケルベロス・ウォーによって『ゲート』の破壊を試みることができるようになるだろう。
 『ゲート』は、ほとんどの主星に1本しかないピラーを改造し、莫大なグラビティ・チェインを消費した上で長い時間を掛けて作り出されるもの。
 そのため、『ゲート』を破壊されたデウスエクスは地球に侵攻する手段を失い、新たな地球侵攻を行う事ができなくなるのだ。
「つまり――」
「はい。城ヶ島を制圧し、固定された魔空回廊を確保する事ができれば、ドラゴン勢力の急所を押さえる事ができます」
 ケルベロスの言葉に頷いて、セリカは言葉を続ける。
「強行調査の結果、ドラゴン達は固定された魔空回廊の破壊は最後の手段であると考えているようです。ですので、電撃戦で城ヶ島を制圧することができれば、魔空回廊を奪取する事は決して不可能ではないものと思われます」
 仲間たちの築いた橋頭堡から城ヶ島公園に向けて進軍し、相手が最後の手段をためらっている間に素早く島を制圧することで、破壊する時間を与えずに回廊を奪い取る。
 言葉とすればそれだけの作戦である。
 進軍の経路はヘリオライダーの予知によって割り出してあるために、それに従って進めば上手くドラゴンと遭遇することができる。
 そして、戦い、倒してドラゴンの戦力を大きく削ぐことができれば、魔空回廊を奪取できるだろう。
 だが、相手は究極の戦闘種族とまで言われるほどに強力なデウスエクスである。
「ドラゴンの巣窟となっている城ヶ島での戦いは、非常に厳しいものになると思われます」
 ですけれど、と、セリカはケルベロスたちを真っ直ぐに見つめて言葉を続ける。
「ドラゴンによる、これ以上の地球侵略を阻止するために、どうか力を貸してください」
 頷きを返すケルベロスに小さく笑顔を向けると、セリカは地図を指さして説明を続ける。
 その指先は地図の上をなぞり、城ヶ島大橋を渡ったすぐそばの「P」と書かれた場所を指して止まる。
「皆さんにお願いするのは、こちら……城ヶ島公園の駐車場に陣取るドラゴンの撃破です」
 100台近くの車を収容できる広さを持つ駐車場だけあって、戦いの邪魔になるような障害物は無い。
 止めてあっただろう車も……このドラゴンの腹の中。
「この個体は駐車場に止めてあった車の金属分を取り込んだのか、鎧の様な鉄板で体を覆っており高い防御力を得ています」
 通常のドラゴンが持つ鱗よりも丈夫な鉄の鎧を纏ったドラゴン――鉄甲竜、とでも呼ぶべきか。
 その鎧による高い防御力を相手にすれば、長期戦は避けられない。
 そして、長期戦の中で小さいミスの積み重ねから生まれる隙を、このドラゴンは狙ってくるのだ。
 炎の息と爪での引き裂き、尾による薙ぎ払いに加えて、鎧は4つ目の武器ともいえるだろう。
「決して楽な戦いにはならないですし、場合によっては魔空回廊の奪取を諦めることになるかもしれません」
 語るセリカの表情は、いつになく硬い。
 それが、この作戦の難度の高さを物語っている。
 だが、
「強行調査によって得られた……仲間の暴走と引き換えに得られた情報を無駄にしないためにも、この作戦を成功させましょう!」


参加者
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)
コクヨウ・オールドフォート(グラシャラボラス・e02185)
水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)
桐屋・綾鷹(蕩我蓮空・e02883)
レオナール・ヴェルヌ(軍艦鳥・e03280)
アンジェラ・ブランカ(紫煙の・e04183)
橘・志(符剣士・e09921)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)

■リプレイ


(「……あの時の個体では……ない、ですね」)
 駐車場の中央に立ってこちらを見つめるドラゴンの姿に、水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)は小さく息をつく。
 彼の脳裏に浮かぶのは、先日の強行偵察で遭遇し、倒すことのできなかったドラゴンの姿。
 もしかしたら、という期待が無かったわけではない。
 ――それでも、
(「どちらにせよ、同じ場所での再戦。今度は必ず倒します……!」)
 その決意とともに、アンクは己の地獄を開放する。
 手袋とコートの袖を焼き焦がし、白炎を噴き出し敵を滅ぼさんと燃え盛る右腕こそが彼の地獄。
「クリスティ流神拳術……参ります!」
 身構え、戦意を高めるケルベロスたちを前に、ドラゴンは体勢を低くしてじっと彼らを見据える。
 戦いの邪魔になるような障害物がない……奇襲に使えそうな物陰もない戦場の中央で待ちかまえられては、正面から挑む以外に道はない。
 それはこのドラゴンの性格なのか、それとも余裕の表れか。
 どちらであっても、この戦い――この作戦は、引くわけにも失敗するわけにもいかない。
 ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)の胸によぎったのは、先日の戦いの記憶と一人の面影。
(「あの子の為にも……今度はしくじったりしない」)
「光の雨がここに降るから――」
 視線を鋭してドラゴンを見つめるウォーレンの声に応えるように、輝く雨が戦場を濡らす。
 青く晴れ渡った空から降り注ぐ天気雨がドラゴンとウォーレンを包み込み、ドラゴンの目から彼の姿を覆い隠して。
 次の瞬間、
「――ずっと僕のことだけ見ていて?」
 雨の中から浮き出るように、ドラゴンの目の前に現れたウォーレンが、小さく笑みを浮かべて右手でドラゴンの額に触れて魔力を流し込む。
 その手は魔力を宿してきらきらと光り輝き、その光を受けた雨もまた光を散らして輝きを放つ。
 光り輝く天気雨。怒りのような熱情のような、衝動を与えて思考を縛る悪魔の嫁入り。
 一瞬だけ生まれたその輝きが褪せるよりも早く、雨の中を駆け抜けたレオナール・ヴェルヌ(軍艦鳥・e03280)とアンクがドラゴンの左右の脚へと破鎧衝を叩き込む。
「受けろ!」
「はっ!」
 鎧を砕き、破壊する一撃がドラゴンの両脚を覆う鋼鉄とぶつかり、轟音を上げる。
 その一撃は、確実に鋼鉄の鎧を越えてドラゴンへと衝撃を撃ち込み……。
「――温い――!」
 直後、ドラゴンの尾が鋼鉄の鞭と化してケルベロスたちを薙ぎ払う。
「くっ!」
「危ない!」
 とっさにアンクをかばったレオナールが尾を受け止めるも、その衝撃に耐え切れずに弾き飛ばされる。
「たかが8人。その程度で勝てるとでも思ったか!」
(「相手は最強の竜種……まともに戦ってどうにかなる相手じゃない」)
 跳ね飛ばされたレオナールを受け止めて、ドラゴンを睨む渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)の表情に緊張が満ちる。
 続けざまに撃ち込まれたケルベロスたちの攻撃。
 そのことごとくを強靭な鉄甲の鎧によって受け止めて、尾の一振りで幾人ものケルベロスを薙ぎ払う。
 これがドラゴン。強きものの代名詞であり恐怖の象徴たる存在。
 1人はおろか、8人でもなお勝利は遠い。
 ――だが、だからこそ挑む価値がある。
「お前を殺し、俺の有用性を証明してやろう」
 強敵を前に、昂る胸の鼓動を闘志に変えて、コクヨウ・オールドフォート(グラシャラボラス・e02185)の振るうチェーンソー剣がドラゴンの鎧を傷つけ、
「締めるとこ締めて掛かればビビる事ァねーわな。男8人竜退治、ムサ苦しく行きますかね」
「では皆さん、お願いします!」
 軽く肩をすくめてアンジェラ・ブランカ(紫煙の・e04183)が生み出した黄金の果実と、橘・志(符剣士・e09921)のブレイブマインが傷ついた仲間を癒す。
「俺達には仲間が命懸けで集めてくれた情報がある。負ける訳にはいかない!」
 癒しとともに与えられた加護を身に纏い、流星の輝きを宿した数汰の蹴撃がドラゴンの脚を撃ち抜き。
 その衝撃がドラゴンの動きを鈍らせた瞬間を逃さず、二振りの斬霊刀を振るう桐屋・綾鷹(蕩我蓮空・e02883)が、斬撃とともに空の霊力を送り込んでドラゴンに宿る呪縛を倍加させる。
「てめぇの鉄甲が幾ら硬てぇか知らねぇが、ぶった斬ってやんよ」
 たとえ遠くとも、勝利は決して届かないものではない。
 隣にいる仲間と、先に強行調査に挑んだ仲間と。
 何人もの仲間たちが共にあるのだから――。


「ふっ!」
 前足を狙ってコクヨウがチェーンソー剣を振るい、同時に飛び上がったアンクが蹴撃をドラゴンに見舞う。
 だが、チェーンソーの刃は突き出された爪に阻まれ、冷気を纏った蹴りも跳ね上げられた尾によって阻まれて本体までは届かない。
 そのまま、ドラゴンは勢いをつけた尾を振り回して周囲を薙ぎ払おうとするも、
「させない!」
「そらよ」
 まっすぐにマインドソードを打ち込む数汰と、舞うように変幻自在の剣を振るう綾鷹。
 二人の剣に意識を乱され、送り込まれた呪縛に動きを縛られて、振るわれた竜の尾はケルベロスを捉えることなく空を切る。
 動きを鈍らせたドラゴンに、再度降らせた天気雨の中でウォーレンが魔力を送り込み……。
 直後、輝く雨の残滓を吹き散らして、炎の息がケルベロスたちに襲い掛かる。
「くっ!」
「まだだ!」
 とっさにアンクをかばって高熱を受けたウォーレンは大きく肩で息をつき、入れ替わるように前に出たレオナールが虚の力を纏った鎌を振るってドラゴンから生命力を奪い傷を癒す。
「こっちは任せな。アンタは他のやつを!」
「すみません、まだ頑張ってください……!」
 魔術的な緊急手術でウォーレンを癒すアンジェラに頷きを返して、志の広げるブレイブマインが仲間たちに纏わりつく炎と足止めを消し去ってゆく。
 積み重ねられた呪縛はドラゴンを縛り、爪の鋭さも鎧の守りも、開戦時よりも数段劣るものとなっている。
 ――だが、それでも相手はドラゴンなのだ。
 鈍らされてなお、振るわれる爪が受け止めたウォーレンに浅くない傷を刻み込み、
 弱められてなお、その身を覆う鎧が綾鷹と数汰の連撃に耐え抜き深手を拒む。
 深手を負った仲間には重点的な回復を、浅くとも複数名が受けた手傷には列回復を。
 過剰な回復を避けるために声を掛け合い、的確に回復を行うアンジェラと志の二人がいたからこそ、戦線は崩れることなく維持することができている。
 攻め手、守り手、癒し手……誰が欠けても、この戦線は崩壊するだろう。
 細い綱を渡るように、薄氷を踏むように、ケルベロスとドラゴンの戦いは続いてゆく。
「……ちっ、頑丈な!」
 ドラゴンの爪めがけてコクヨウが弾丸を撃ち込むも、掌を覆う装甲によって阻まれて爪を穿つことはできずに弾かれる。
 幾度となく攻撃を阻む鎧の硬さに、コクヨウは小さく舌打ちをする。
 攻撃を直撃させることができれば貫くことはできるのだが、守りに長けたドラゴンの動きはそれをなかなかに許さない。
「……一体何台の車を食べたんでしょうねぇ……まぁでも、価値ある物を溜め込むという意味では竜らしいのかもしれませんね」
 10メートルはある体を覆い包む鎧。その素となった自動車を思って志は小さくため息をつく。
 古来より、ドラゴンは巣穴に宝を集めている存在と伝えられている。
 このドラゴンであれば、宝はその身を覆う魔法の鎧といったところだろうか。
 ――だがそれは、このドラゴンがそれだけの人々の暮らしを喰らった証でもある。
 島に暮らしている人を。観光に訪れた人を。
「……どれだけの人の暮らしが、此処にあったと思っているんだ。それを、お前達は……!」
 かつて守ることができなかった人々の姿が、今また手の届かない場所で奪われた人々の姿に重なって、レオナールの胸に冷たい痛みが走る。
「返して貰うよ……この地を……!」
 彼の言葉に応えるように、周囲の風が唸りを上げてレオナールの手に収束する。
 その唸りは怒りをはらむかのように、低く、強く、鳴り渡り、
「……大気の鉄槌を其の身に受けろ!」
「――ぬぅ!?」
 撃ち出された風圧の爆弾は振り下ろされたドラゴンの爪にぶつかり、その内に束ねた風を開放する。
 その風はレオナールの怒りを映したかのように激しく、爆ぜる勢いに押し返されてドラゴンの体制が大きく崩れる。
 その機を逃さず距離を詰めた志は、マインドリングを剣状に変化させると腰だめに構え、口上とともに一閃する。
「吹き払ふ気、神と成る。号を級長戸辺命と申す。亦は級長津彦命と申す。是、風神なり」
 唱える詠唱は風神・志那都比古神(シナツヒコノカミ)への祈り。
 風を司る神の名を受けて放たれる斬撃は、唸りを上げる周囲の風をも巻き込んで烈風の刃となってドラゴンの胸元に深い爪痕を刻み込む。
 その爪痕を狙って、踏み込んだアンクと数汰が拳を撃ち込む。
「そこです!」
「鉄ならこれでどうだ!」
 白炎を纏ったアンクの拳と氷を纏った数汰の拳。
 対極ともいえる二つの魔力を受けて、鎧は大きく軋みを上げる。
 そして、
「絶対強えやつには絶対治らねえ一撃……ってのは、当たり前だろ? ぶった斬ってやんよ、その鉄甲」
 舞うような動きから宙に溶け込むように姿を消した綾鷹が、無音の斬撃で以って周囲の空間ごと鎧を切り裂く。
 続けざまに加えられる攻撃に鎧の軋みは大きくなり、ついには砕けて下に隠れていたドラゴンの生身を露出させる。
「貴様等ァ!」
 自分の鎧を砕かれたことにドラゴンは激高の声を上げて、怒りのままに爪を振るう。
 その爪が狙うのは、一撃を加えた後に残心を保ったままに距離をとろうとするアンク。
 尾での薙ぎ払いや炎の吐息による範囲攻撃は、ウォーレンとレオナールによって阻まれながらも、全てを防ぎきることはできずに少しずつアンクの体に傷を刻んでいる。
 そして、唯一のクラッシャーであるアンクが倒れたならば、たとえ綾鷹がポジションを変えて対応するとしても一手番の間は最大火力を封じることができる。
 だからこそ、
「駄目だよ。ちゃんと見ているから、ね」
「――小癪な」
 その爪は、ドラゴンの狙いに注意を向け続けていたウォーレンのチェーンソー剣にそらされて空を切る。
 憎々しげにウォーレンを睨むドラゴンの声には、戦闘前の余裕はすでに無い。
「随分と余裕がなくなってきたみてーだなァ」
「ああ、ならば――プランBだ、ベル。お前の有用性を証明しろ!」
 アンジェラの言葉に、ふっと笑みを返してコクヨウは手にしたファミリアロッド『ベル』を振るう。
 それに応えるようにドラゴンの周囲に続けざまに爆発が起こり、飛び散る破片が鎧の隙間からドラゴンの体を抉ってゆく。
 これがコクヨウの持つ次善策、プランB――
「プランB?」
「あぁ? んなモンねぇよ!」
 ――ではない。
 爆発も破片での攻撃も一つの形でしかない。
 研ぎ澄まされた本能が下す最適解による攻撃こそがその本質なのだ。
 それ故に、
「邪魔だ!」
(これは、かわせないな。――ならば!)
 振るわれたドラゴンの爪がかわせないと判断したコクヨウは、本能の命じるままに杖を振る。
 結果、ドラゴンの爪はコクヨウを抉って吹き飛ばし――引き換えに、コクヨウが起こした爆発はドラゴンの体を揺らがせて大きく体勢を崩れさせた。
「これで決める!」
 その隙をついて、コクヨウが作り出した好機を無駄にするわけにはいかない、と気合とともに数汰が手にしたナイフをドラゴンの胸元へと突き出す。
 迫るナイフを鎧で受け止めようと、ドラゴンは身をくねらせる。
 ……だが、胸元の鎧はすでに砕かれて無くなっている。
 鎧を頼ろうとしなければ、よけようとしていれば、ドラゴンにもまだ目はあったかもしれない。
「金属を取り込んだのが仇になったな!」
 避けるタイミングを逃したドラゴンの胸元にナイフが突き刺さり、
「我が手に宿るは断罪の雷霆――その身に刻め。裁きの鉄槌を!」
 突き刺さったナイフに落ちる雷が、刃を通してドラゴンの体を駆け巡る。
 体中を焼く雷の衝撃にドラゴンは身をのけぞらせて苦悶の叫びをあげながらも、息を吸い込み炎を吐き出す。
 その息は本来よりも数段火勢を弱めていながらなお、周囲を焼き払う炎の壁を作り出し――その炎を突き破って、両腕に白炎を纏わせたアンクが超高速の乱打をドラゴンに振るう。
「これが今の私に出来る全力……! クリスティ流神拳術壱拾六式……極焔乱撃(ギガントフレイム)!」
 鎧を砕き、肉を打ち、アンクの連撃を受けて、もはや気力だけで立っている様を見せるドラゴン。
 その姿にアンジェラ小さく息をつくと、ライフルを向けて一発の弾丸を放つ。
 それは止めか、それとも介錯か。
 アンジェラの放った真っ赤に塗られた弾丸は、ドラゴンの胸元へと吸い込まれるように突き刺さり……。
「運が良けりゃ、天国で会おうぜ」
「……ふん。お断りだ」
 その言葉を最後にして、ドラゴンはその動きを止めた。


「これがドラゴン……確かにその強さも桁違いだった」
 戦いの緊張から解放されてそれまでの消耗を実感したのか、数汰は糸が切れるように膝をついて荒い呼吸を繰り返す。
 見れば、傷を受けていない仲間はなく、誰もが例外なく消耗をしている。
 それでも、目的を果たすことはできたのだ。
「そんじゃ、邪魔になる前にさっさと帰るぜ」
「周りの様子も騒がしくなってきているみたいだから、ね」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
 ドラゴンの巣窟に長居は無用と、周囲を警戒する綾鷹とウォーレンの言葉に頷きつつ、アンジェラは懐から出した煙草に火をつけようとする。
 ……が、ライターのオイルが切れているのか、繰り返しても火が付かない。
「お疲れ様でした。良ければどうぞ」
「ああ、あンがとな」
 アンクから火をもらって漸く人心地をつけて、それまでの自分の焦りを実感しつつアンジェラは破顔する。
「悪いが、こちらにももらえるか」
 振り返った先には、レオナールと志に肩を借りたコクヨウの姿。
 アンクから火をつけてもらった煙草をコクヨウは一度深く吸い込むと、残りをドラゴンの横にそっと置く。
「ドラゴン、お前は確かに強かった。安らかに眠るがいい」

作者:椎名遥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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