天高く乙女肥ゆる秋

作者:星垣えん

●ベラドンナさんの10月はいつだってヤバい
「うぅ、急がないと……!」
 陽が暮れた街を、ベラドンナ・ヤズトロモ(はらぺこミニョン・e22544)が走る。全力で走っているのだろう、涼しくなってきたにも関わらずその額には汗が滲んでいた。
「早く! 早くー! 全力疾走だよキラキラー!」
 頭上を飛ぶボクスドラゴン『キラニラックス』に叫んで、地面を蹴るベラドンナ。
 朝昼晩と違う場所で働いている勤労少女は、遅刻の危機にあった。昼間に働いている図書館を出るのが遅くなってしまい、次の古物店『隠しの月と黄昏星』に定時に就けるかマジでギリという状況だったのである。
「お店に出る前におゆはん食べたかった……! でもそんなこと言ってる場合じゃない!」
 すかすかのお腹を撫でながら、歯を食いしばって駆けるベラドンナ。
 だがそのとき、ふと彼女は視界の端に気になるものを見つけてしまった。
 夜の暗さの中に温かなオレンジ色の光を灯す木造の荷車――。
 いや、屋台である。
「おいしいものの匂い!」
 秒で90度ターンし、路上屋台に突っこむベラドンナさん。自身が遅刻の瀬戸際にあるということをスポーンと忘却し、立派な10人掛けぐらいの座席にセットオン。
 きっと空腹が彼女の思考を狂わせたのだろう。そう信じたい。
「すいません! おいしいものください!」
「ふふふ、いいですよ」
「あっ、ビルシャナさんだ! やった!」
 屋台に立っていたのは寺の住職みたいな格好をした鳥さんだった。ふっくらもちもちのまんまるボディの鳥さんは手を布巾でふきふきして、すぐに調理を開始する。
 そしてそれをベラドンナは鼻歌とか歌いながら眺めている。
 何かおかしい気がするけど、それも空腹のせいだろう。そう信じたい。
「お待たせ。唐揚げ山盛りよ」
「からあげ!」
「あと豚の生姜焼き定食も10人前」
「ぶたのしょうがやき!」
 ことっ、と置かれた皿を見て、ベラドンナの瞳がキラキラと輝いた。ついでにキラキラことキラニラックスもしっかり主人の隣に座り、同じくお目目キラキラさせている。
 大きく喉を鳴らしてベラドンナは割り箸を取った――が。
「い、いや待って待ってわたし……! こんなの食べたら大変なことになるんじゃ……!」
 割り箸を持つ右手を左手で押さえこむベラドンナ。
 推計1kgの唐揚げと10人前の豚の生姜焼き定食などという超カロリーを摂取してしまっては、乙女として危ない。辛うじてそれだけは察した。
 ベラドンナが掴んだ右手をじりじりと下げる。
「ごめんなさい……よく考えたらごはん食べてる時間もないし今日は……」
「はい。和牛100%のハンバーグよ」
「はんばーぐ!!!」
 熱々できたてハンバーグで、すべてが崩壊した。
「いただきまーす!」
「どうぞどうぞ。美味しいものはね、好きなときに好きなだけ食べちゃっていいのよ? お仕事とか体重とかは忘れて、思う存分に食べちゃいなさい、ベラドンナちゃん!」
「はーい!」
 鳥さんの甘い誘惑に抵抗すること能わず、はむっとハンバーグにかぶりつくベラドンナ。
「おいしい!!」
「ほら、こっちの唐揚げも食べて食べて」
「うん! ありがとう、ビルシャナさん!」
 ベラドンナは勧められるまま、もぐもぐと食べまくる。
 これは間違いなく危ない。そう確信できるほど、気持ちのいい食べっぷりだった。

●助けてあげてください
「ベラドンナに(乙女的な意味で)危機が迫っている」
 ヘリポートに猟犬たちを集めたザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は、いつもと変わらぬ真剣な顔でそう告げた。
 対して猟犬たちも「なんだって!?」という感じでマジ顔になり、ベラドンナに連絡がつかないとか一刻の猶予もないとかっていう説明に聞き入る。
「このままではベラドンナの(乙女的な意味での)命が危ない。すぐ救援に向かってくれ」
 王子の依頼に、一様にこくりと頷く猟犬たち。
 言葉が少し足りないだけでこうなってしまうんだな、って勉強になるシーンだった。
「ベラドンナを襲撃するのは『福良』というビルシャナだ。
 奴は(美味しそうな屋台という)巧みな罠でベラドンナを捕まえ、凄まじい(カロリーの)攻撃で(乙女的な意味で)殺しにかかっている。確かな(料理の)腕を持つ強敵だということを頭に入れて、奴の排除にかかってくれ」
 敵の詳細を聞いてなお、猟犬たちはやはり真剣な顔で頷く。
 誰かに誤解なく伝えるためには言葉数を惜しんではならない、って教訓になるシーンだった。
「よし、ではすぐにベラドンナの(乙女的な意味での)救出に向かう! 福良の(精神)攻撃は恐ろしいものだが……おまえたちならばその(精神)攻撃を退け、奴を倒すことができるだろう。信じているぞ、ケルベロスたちよ!」
 ヘリオンへ向かい、颯爽と歩いてゆく王子。
 かくして、猟犬たちは美味しいものをたくさん食べさせてくれる屋台へと出発した。


参加者
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858)
七星・さくら(しあわせのいろ・e04235)
志場・空(シュリケンオオカミ・e13991)
ベラドンナ・ヤズトロモ(はらぺこミニョン・e22544)
ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)
朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)
帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)
武蔵野・大和(大魔神・e50884)

■リプレイ

●こうかつなわな
 1人のケルベロスに危機が迫っている。
 そう告げられた猟犬たちは空を翔け、地を駆け、彼女のもとへと到着していた。
「ベラドンナさん、助けにきました!」
 勢い込んで現れたのは、武蔵野・大和(大魔神・e50884)。
 しかし、彼が目撃したのは予想だにしない光景だった。
「からあげー。さくさくじゅーしーおいしー」
 ベラドンナ・ヤズトロモ(はらぺこミニョン・e22544)が、唐揚げに踊りを奉納していた。
 両手をバンザイさせ、うにょうにょしていた。
「これはいったい……?」
 対面する事態に首を傾げる大和。
 その横を朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)と七星・さくら(しあわせのいろ・e04235)が慌てて走ってゆく。
「さくらさん! ベルさんが!!」
「また発作を起こしてしまったのね! べるちゃん!」
 血相変えて走る割には発言内容がしょーもない2人。
「落ち着くのよべるちゃん!」
「はーい……あ、席つめつめしなきゃ。おねえちゃん、おとなりきてー」
「既に二歳児になって……るッ!」
 席を詰めてぺちぺち隣の座面を叩くベラドンナを見て、結はさっそく戦慄した。
 そしてヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)は直立していた。
「……何だこれは、何だこれは」
 妻の妹を救うために来てみれば、その義妹は幸せそうに唐揚げを頬張っている。
 茫然自失も仕方なかった。
 屋台の主――福良はそんなヴァルカンに笑いかける。
「ほら、あなたも座って座って」
「ビルシャナにそう言われてもな……」
「そんなことを気にしている場合じゃありません! さぁ、ご飯を食べ……ヤズトロモさんを助けましょう!」
「……」
 颯爽と横を通って着座する帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)を見て、言葉を失うヴァルカン。
 完全に食う気満々だった。
 そしてそれに続く緑色の塊。
「formulant! 今日は思う存分食べるですの!」
 と、心躍らせて着座したのはシエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858)である。全身を攻性植物に覆われてるがシエナである。
 食費が浮く。
 身に宿した攻性植物のおかげで財政が逼迫気味のシエナさん、完全に燃えております。
「皆さん、何で何事も無いように入っていくんですか?」
「……もはや考えても無駄だろう」
 席についてゆく仲間たちに戸惑う大和に、首を振るヴァルカン。
 福良は袖をまくった。
「それじゃあ腕によりをかけなきゃね」
「あの、ビルシャナさん」
「?」
 声をかけられた福良がそちらへ向くと、志場・空(シュリケンオオカミ・e13991)が立っていた。
「もしよかったら下ごしらえとか手伝わせてもらえませんか。家族増えるので多くつくる時のコツ知りたいんです」
「まあ、それはおめでたいわ。どうぞこっちへ入って」
「ありがとうございます!」
 福良に手招かれ、屋台の内側へ入る空だった。

●おとめのオーダーではない
 美味しそうな匂いが漂う屋台。
 その席にしっかり座るさくらは、組んだ手に顎を乗せて思考に沈んでいた。
「おかしい。わたしは超ベリーキュートでラブリーなマイシスターことべるちゃんの命が危ないと聞いてダッシュで来たのに、どうして屋台の席に座っているのかしら……ハッ!」
 カッと開眼するさくら。
「もしやこれがザイフリート王子が言っていた巧みな罠ってやつ!?」
「さくら、落ち着け」
 ぽん、と肩に手を置くヴァルカン。
 だが愛する妻の正気はそれしきでは戻らず、結とベラドンナを率いて怒涛の注文攻勢を開始する。
「こんな強敵と戦うのならしっかり腹拵えしないとね……すいませーん! 和牛ハンバーグを目玉焼き乗せで!」
「あ! はい! 私もハンバーグください! 後、大皿山盛りで唐揚げもください! だよ!」
「わたしもおかわりー」
「でも夜は冷えるからあったかいシチューも……」
「オムライスもください! それとね! 秋刀魚! 秋刀魚の塩焼き!」
「わたしもおなじやつたべたいー」
「いや、待って! 熱燗とおでんと焼き鳥も捨て難いっ!」
「あ、おでんは私も! あと南瓜の煮つけと鮭のホイル焼きも欲しいんだよっ!」
「いまいったのぜんぶー」
「ええと待ってちょうだいね? ハンバーグと唐揚げとシチューと……」
 さくらたちのマシンガンオーダーを、いそいそと書き留める福良。
「…………」
 あまりに潔く、食欲を隠さない3人の姿にヴァルカンは眉間を押さえて俯くしかなかった。
 そこへ、すすっと前にスライドしてくる空。
 エプロンと頭巾まで装備している彼女は、すっかり看板娘のようになっていた。
「ヴァルカンはどうする?」
「…………日本酒。それと天ぷらと揚げ出し豆腐を」
「了解だ!」
 ずばばば、と注文をメモる空。料理の技を盗むべく福良に弟子入りしている彼女は、早く調理に持ちこみたいがゆえに完璧にサポートをこなしている。
「翔と大和は何を食べるんだ?」
「カツカレー大盛りで!」
「僕は牛丼をお願いします」
「ふむふむ」
「ただのトンカツじゃいけませんよ!」
 空がメモにペンを走らせだすと、翔はすかさず立ち上がる。
「国産高級黒豚のトンカツです! カレールーも、一晩煮込んだ濃厚なものです! あと僕は大食いですから、最低でも十人前はください!」
「国産高級黒豚で十人前……」
「僕は具材とご飯は特盛、つゆだくでお願いします」
「牛丼はつゆだく……」
 大和の希望も書き留めて、2人の前を去る空。ちゃんと注文できた翔は満足して座り、大和も行儀よく待機。
 その傍ら、シエナは福良に向かって手を振る。
「commander! 今までの注文を10人前追加でお願いしますの!」
「10人前ね。うふふ、たくさん食べるのは良いことよ」
「ええ、この子たちが食べたがってますの!」
 シエナを覆い隠す攻性植物たちがうねうね蠢くさまに、福良は微笑み、さっそく調理に着手するのだった。
 で、大体ものの数分で作り終えるのだった。

●すさまじいせいしんこうげき
「ぜんぶおいしいね、おねえちゃん! ゆいちゃん!」
「うん、美味しいー! 大根おろしとポン酢で食べる秋刀魚は最高だね!」
「ヴァルカンさん、このハンバーグ肉汁がしゅごい!」
「そ、そうか……」
 ハンバーグで頬を膨らませるベラドンナが喜びの共有を図れば、結は秋刀魚を食べてふりふりと尻尾を動かし、さくらはベラドンナと同じ頬を作ってヴァルカンに呆れられていた。
 至近距離にビルシャナがいるとは思えないほど、満喫である。
 もちろん、それはベラドンナたちに限らない。
「これは……衣はサクッとしてるのに中は柔らかで、口の中に肉汁がたっぷり染み渡る!」
 強烈な香りを放つ熱々のカツカレーを一口食べた翔は、数秒ほどもぐもぐするとグルメ漫画っぽく背景に電撃を流していた。
「そしてカレールーは一晩じっくり煮込んだ味! 旨味が凝縮されている! 最高のトンカツと最高のカレー! 二つが調和して美味しさが増しています!」
「……ビルシャナさん、このカレーのレシピも教えてもらっても?」
「構わないわー。その手帳に書いてあげるわね」
「ありがとう!」
 ほわわん、と悦に浸る翔を放置して、福良印のカレーレシピをゲットする空。
 福良が惜しみなく教えてくれるため、彼女の手帳はだいぶ充実しはじめている。
「これで本格的な家庭料理も作れる気がしてきた」
「頑張ってね!」
 感じ入る空の両肩に手羽を置く福良。
 1時間と経っていない師弟関係だが、その眼にはうっすら涙すら。
 抱き合う福良と空――をスルーして牛丼を食べきった大和は、丼をどんと置く。
「ごちそうさまです」
「お粗末様でした。おかわりはいる?」
 丼を回収しながら福良が尋ねると、大和は少し考えて。
「いえ……他にも丼物ってあります? あと牛皿は出来ますか?」
「もちろん大丈夫よ。丼なら色々作れるけど……親子丼とかどう?」
「じゃあそれをお願いします」
 新たなオーダーを告げるなり、再び待機モードに入る大和。
 特盛牛丼を食ったの男の顔は平然としている。焼肉ならば20人前、おにぎりならば50個は朝飯前の大和にとっては1杯の牛丼など寝起きの水に過ぎない。
 そしてそれはシエナも同様である。
「落ち着いて食べるといいですの」
 腹を空かせた猛犬がごとくハンバーグやカツカレーをカッ喰らうヴィオロンテたち(攻性植物)を諫めつつ、自身も牛丼や唐揚げを喰らうシエナ。
 日本酒を楽しんでいたヴァルカンは、そんな少女の食いっぷりを見て驚いた。
「よく腹に入るものだな。大丈夫なのか?」
「supplement……万年やせすぎ判定を受けていると言っておきますの」
「ふむ……それは羨まれるかもしれんな」
 優雅に口元をふきふきするシエナから、隣に目を向けるヴァルカン。
 そこでは――。
「おいしくてお箸が止まらない……くっ! わたしやべるちゃんや結ちゃんを、二度と乙女として立てなくするつもりね!」
「ベルさん、気を付けてね! 乙女であることを忘れないでね!」
「おとめ? 知ってる知ってる、あのおいしいやつだね!」
「ベルさん!!」
 さくらたちが乙女として終わろうとしていた。
 少なくともベラドンナは崖っぷちだった。
「その、みな程々にな……」
 日本酒を煽り、小皿の揚げ出し豆腐を口に運ぶヴァルカン。
 すると電流、奔る!
「むう、美味い……このビルシャナ、できる……!」
 戦慄を覚えながら、はむっともう一口頬張り、ついでにホッケの開きにも箸をつけるヴァルカンさん。
 そのどれもが素朴ながら深い味わいで、彼の酒はどんどん進んだ。

●まけるかもしれない
「この牛肉のたたき……美味い!」
「口に合ってよかったわ。はい、これ御所望のサラダよ」
「ありがとう! 肉料理にはどういうサラダを出せばいいのか、わからなかったんだ」
 エプロンと頭巾を脱いだ空が、福良の料理に舌鼓を打ちながら、やはりメモを取っている。
 あらかたレシピを教えてもらった空は今度は食べる側として、味を学んでいた。
「しかしつまみも美味しいな。何かコツを教えてもらえると嬉しいのだが……」
「コツねぇ。あくまで私流だけど――」
 2人、顔を突き合わせて話しこむ空と福良。
 その隣で、大和は食べ終えた親子丼の器をどんっとやるデジャヴを見せる。
「とろとろの半熟卵とジューシーな鶏肉がベストマッチな親子丼、美味しかったです。豚丼も肉厚の豚に甘辛なタレが絡んで……どうにかパンに応用できないでしょうか」
 頬にご飯粒をひっつけたまま、頭を捻る大和。
 パン屋とて同じ料理人。何とか福良の料理を己の血肉に変えようと、ノンアルのビールを飲みながらうんうんと唸った。
 それを、彼と同じ親子丼をもぐもぐしながら眺める翔。
「武蔵野さん、真剣な顔をしていますね……」
「そのようでしゅの」
 むしゃむしゃと攻性植物に肉を食わせていたシエナが、大和の顔を覗きこんで頷く。
 何を考えているんでしょうね、などと言いながら翔は親子丼(5杯目)をカラにして、ふぅとひとつ息をついた。
 ――が、気づく。
「……でしゅの?」
 ぴくりと眉根を寄せた翔が、シエナのほうを向いた。
 シエナはぼーっとした顔で、ゆらーりゆらーり左右に揺れていた。
「せかいがまわってましゅの」
 呂律も怪しいシエナ。
 見ると彼女の攻性植物たちが酒の入ったコップに根を突っこんでいる。
「ぐりゅぐりゅでしゅの」
「ジャルディニエさん? しっかり!」
 ぐでーっとのけ反って倒れかけたシエナを何とか抱え起こす翔。しかしシエナは脱力しきっているしヴィオロンテたちは荒ぶるしで、翔さんもなかなか大変な目に遭ったという。
 一方、さくらとヴァルカンはおでんをつまんで仲良く酌を交わしていた。
「はい、ヴァルカンさん、あーん」
「う、む……」
 というかあーんしていた。
 ノリノリの妻に押されるまま、夫はその竜の口をちょこっと開けていた。
「次はどれにする? 玉子? 牛すじ?」
「では牛すじを……」
「はーい♪」
 嬉しそうにおでんを探るさくら。この後ビルシャナを倒す仕事が、とヴァルカンは言いそうになったが、彼女の表情を見ればそんな野暮は腹の奥に引っ込んでしまう。
 と、夫婦が仲睦まじくやっている隣では。
「ハコー! 唐揚げだよー! はい、オムライスもー!」
「え? キラキラおかわり? うんわかったー」
 結とベラドンナが、興奮気味のボクスドラゴンたちに料理をあげていた。
 ハコは結のほうへ向いて口を開け、ざざーっと大皿から流し落とされる唐揚げをごくんごくんと丸呑みしていて、キラニラックスはベラドンナの手からローストビーフを強奪して夢中でがっついていた。
 2体が満足げに「けぷっ」と息を吐くのを見て、結はベラドンナに向けて笑う。
「今日は美味しいもの食べられてよかったね、ベルさん!」
「うん。つぶあんおはぎもおいしい。ゆいちゃんしってる? おはぎをたべるとまたからあげがたべたくなるんだよ」
「ベ、ベルさん……」
 当惑する結を横目に、言葉通りに唐揚げをつまむベラドンナ。
「わたし、びるしゃなさんちのこになる。やたいにすむ」
「ベルさん、もうたべちゃダメー! ほら保存容器いっぱい持ってきたから、お持ち帰りしよ? 今日はもうダメー!」
 そろそろ鳥さんを倒さないと、心を決める結だった。

●ピンチがおわらない
 数分後。
 福良はあっさりと消滅していた。
「あなたの料理は私の中で生き続けます……」
「今日はありがとうございましたでしゅの」
「ちょうどいい食後の運動でしたね」
 主の消えた無人の屋台の前で、空は手帳を握りながら合掌。シエナはてんで方向違いのところに頭を下げ、翔はそれを屋台に向け直してあげながら仲間たちに笑いかける。
 だが、ベラドンナは落ち込んでいた。
「びるしゃなさん……」
「ベ、ベルさん元気出して。お持ち帰りいっぱい貰えたから、ね?」
「そうよべるちゃん。カレーと煮物は明日のほうが美味しいわ!」
「なるほど!」
 結とさくらが掲げたタッパーで、ベラドンナが1秒で元気になった。
 しかし、だ。
 3人はお腹を撫でて、ちょっと考えこむ。
 今日はちょっと食べ過ぎたのではないだろうか、と。
 そんな彼女らの不安を感じ取ったヴァルカンは、
「気になるならば素振りを1000回ほどやってみたらどうだ。私も修行メニューの一環だがいい汗がかけるぞ」
「修行ですか。それは良さそうですね」
 横で聞いていた大和が、修行という単語に釣られて顔を出す。
 素振り1000回――それは確かに効くかも、しれない。
「べるちゃんゆいちゃん、一緒に頑張りましょ!」
「そうだね、さくらさん!」
「修行のあとのカレーはきっとおいしい!!」
「「……」」
「え? ちがう?」
 さくらと結の無言の視線に、きょとんとするベラドンナさん。
 それからしばらく、勤労少女が体重計に乗れなくなったのは言うまでもない。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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