●城ヶ島制圧戦
「よくぞおいでくださいました。こたびは城ヶ島の一件にございます」
戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)は、伏し目がちな眼差しの内奥に、深い緊張感を封じながら、淡々とケルベロス達に語りかけた。
「三浦半島南部、城ヶ島をドラゴン勢力が制圧し、拠点と化して居座っている件に関して、皆様も少なからずお聞き及びでしょう。
ドラゴンに支配され、要塞と化した城ヶ島に、先だって百名を超えるケルベロス有志が潜入を試み、強行調査を実施されました。
結果、城ヶ島に『固定化された魔空回廊』が存在することが判明いたしたのでございます」
これまでも魔空回廊を通じてデウスエクスが出没する事件は、各地で散発していた。しかし、事件の状況や魔空回廊の性質など、様々な要因が重なって、魔空回廊そのものを調査することは難しいとされてきた。
「今回存在が確認された巨大な魔空回廊は、完全に固定化されたものであり、敵側もおいそれと閉じる意図はない様子。この魔空回廊へと侵入を果たし、内部を突破する事ができれば、ドラゴン種族が使用する『ゲート』の位置を特定する事が可能となりましょう。
『ゲート』の位置さえ判明すれば、その地域の詳細な調査を行った上で、ケルベロス・ウォーを仕掛け、『ゲート』そのものの破壊を試みる事も叶いましょう」
『ゲート』はデウスエクスにとって地球侵攻の要。ここが機能しなくなれば、ドラゴン勢力は、新たな地球侵攻を行う事ができなくなる。
すなわち、城ヶ島を奪還し、固定された魔空回廊を確保する事は、ドラゴン勢力の急所を押える事と同義なのである。
「先に申し述べました通り、強行調査の結果、固定された魔空回廊の破壊は、ドラゴン達にとっては最終手段であると考えられます。
このため、電撃戦を仕掛け、城ヶ島を制圧、もって魔空回廊を奪取する事は、決して不可能ではございません。
ドラゴン勢力のこれ以上の侵略を阻止する為にも、皆様にお力添え頂きたく存じます」
●撃破目標、ドラゴン
耳を傾けるケルベロス達が誰一人立ち去らぬことを見届けると、鬼灯はようやく淡い笑みを口元に刷いた。
「では、作戦の概要を説明いたします。
こたびの作戦では、他のケルベロスの皆様が築いてくださった橋頭堡から、ドラゴンの巣窟となっている城ヶ島公園に進軍して頂く事となります」
進軍の経路などは全て、ヘリオライダーの予知から割り出されているため、ケルベロス達はその通りに移動すればいい。
問題は、作戦目標。ドラゴンの巣窟に踏み込むのだから、答えはおのずと見えている。
「……魔空回廊奪取の為には、ドラゴンの戦力を大きく削ぐことは必定。
皆様にお願いいたしますのは、ドラゴン一体の撃破でございます」
敵は究極の戦闘種族。強敵ではあるが、作戦全体を成就させる為にも、必勝の気概で挑むことが望まれる。
●『灰迅』
「皆様の標的たるドラゴンを、これより『灰迅<かいじん>』と仮称させて頂きます」
『灰迅』はいぶし銀を思わせる光沢の鱗に覆われた、野性的で雄々しいドラゴンだ。両眼は銀色。針状の結晶体めいた、細く鋭い透明な角を持つ。
戦いを好む半面、性格は至って冷静。鍛え抜かれた肉体で、俊敏に立ち回る。
「ブレスは白い雷。遠くを一払いにし、麻痺の効力がございます。
手足の爪では近くの者一人を攻撃し、呪的防御を打ち破ります。
尾による攻撃は近くを一薙ぎにし、相手の足止めを行います。
ブレスによって後衛を妨害しつつ、尾による攻撃で前衛の回避を下げ、爪による攻撃で、前衛の最も脆くなっている者から一人ずつ潰していく……といった戦術を組み立ててくるものと思われます。
ポジションはキャスターに相当いたします。命中、回避ともに優れております。
能力は敏捷に特化。ブレスと爪がこれに対応いたします。代わりに、頑健と理力に対してはあまり適性がございませんので、ここが付け入る隙ともなりましょう。
『灰迅』は脚力を活かして地上を素早く立ち回ります。翼で飛行することも可能ですが、腰を据えて戦闘する際には好みません。
また、勝敗にはとことんまで白黒をつけることに拘り、戦いの中で死ぬ事を良しとする、一種の美学のような行動原理を擁しております。それゆえ、生命の危機を感じても逃亡を企てず、肉体が滅びるまで戦い続ける事でしょう」
鬼灯は一つ一つの情報を、自分の内で確かめるように言葉に置き換え終えると、伏し目の眼差しを上げ、ケルベロス一人一人の顔をしかと見つめた。
「作戦の成否は、皆様お一人お一人にかかっております。魔空回廊の奪取を成功に導く為、強行調査で成果を得た有志の皆様に報いる為にも、勝利を得て無事ご帰還される事を、わたくしは切に願っております……」
参加者 | |
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ハンナ・リヒテンベルク(舞謳う薔薇乙女・e00447) |
燈・シズネ(迷い猫・e01386) |
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526) |
神楽・凪(歩み止めぬモノ・e03559) |
朝倉・くしな(鬼龍の求道者・e06286) |
月夜・夕(昼行灯の人狼探偵・e07867) |
千歳・涼乃(銀色の陽だまり・e08302) |
白嶺・雪兎(魔閃徹剣・e14308) |
●進軍
城ヶ島は騒乱のさなかにあった。
先行部隊の確保した橋頭堡を起点に、城ヶ島公園襲撃チームは島内を横断していく。
時折、彼方に響く竜鳴や、北へ進軍する大量の竜牙兵の気配などに神経を尖らせる場面もあったが、指示された経路の通りに進むケルベロス達は、敵の警戒網を苦も無くすり抜けていった。予知はもちろん、大橋で敵を引き付けてくれている他部隊の貢献も大きいのだろう。
「ドラゴン……か。前の戦争で厄介な奴らを相手したのに、もうデカブツとの戦いになるとはな」
戦地に近づくほどに慌ただしくなる気配に、蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)は厳しく眉をひそめて前方の空を睨んだ。
「いつまでも我が物顔されるのも困る。そろそろお引き取り願おうか」
気だるげに煙草を斜に咥えて、感情の昂ぶりを隠しながら、月夜・夕(昼行灯の人狼探偵・e07867)がぼやいた。作戦行動中とあって、火をつけるのは自重している。
「竜退治。世に名を馳せる大役の代名詞ですね」
朝倉・くしな(鬼龍の求道者・e06286)は自信に満ちた表情で、勇者の種族たるドラゴニアンらしく胸躍らせている。
「森羅万象の斬滅を目指す身としては、先駆けに竜を斬るのも一興でしょうか」
紳士然と同調する白嶺・雪兎(魔閃徹剣・e14308)も、両眼にぎらつく昂揚を隠しきれていない。
「陽動作戦、時は、手負いのドラゴン、討伐できた、けど、今回は フェア、ね……気、引き締めましょ」
心持ち真面目な顔つきになって、ハンナ・リヒテンベルク(舞謳う薔薇乙女・e00447)が独白のように呟く。
うんうん、と大きく頷き同意するのは、燈・シズネ(迷い猫・e01386)。
「同志達が強行調査で得たこの機会、負けるわけにはいかねぇよな……! ドラゴン相手でもオレらで連携すりゃなんとかなるぜ!」
クールそうな外見に反して、口を開けば熱血バカそのものであった。
「今後のことを考えればこの程度乗り切れねぇとな。ドラゴンどもに一泡吹かせに行くとするか」
きつい目つきをさらに細めて、神楽・凪(歩み止めぬモノ・e03559)が見やる先には、城ヶ島公園の入り口駐車場の案内看板。敵はいよいよ間近だ。
「今回の作戦を成功させるためにも、必ず『灰迅』は倒します!」
進軍経路と目的地を余念なく確認しながら仲間達を先導してきた千歳・涼乃(銀色の陽だまり・e08302)は、両手の拳をぐっと固めて、決然と園内へと足を踏み入れるのだった。
●接触
すでに戦火は上がっていた。
他班が各々の標的とするドラゴンと切り結ぶ修羅場を横目に、ケルベロス達は詳細に定められた順路をひた走った。駐車場脇の歩道に沿って東進し、正面ゲート横の隘路を経て、ようやく公園内の本線遊歩道へ。間近に爆音が轟こうが、足元が不安定に振動しようが、わき目もふらず目的地へと急ぐ。
やがて遠くに現れる、二層構造のテラスを擁する展望台を目印に、ケルベロス達は左手に広がる『うみのね広場』へと駆け込んだ。
季節柄、どことなく物寂しい色調の景色を、ケルベロス達が見渡す余裕はなかった。いずこかより飛来した巨体が空を遮り、瞬く間に八人を影で覆ったのだ。
翼持つ巨大な爬虫類。全身を覆う鱗は、燻した銀の光沢。鋭利な角は透明。
『灰迅』に違いなかった。
暴力的な存在感を発する巨体は、悠然と羽ばたきながら、陣形を整え身構える八人の眼前に降り立った。視界がぶれるほどに、大地が揺れる。
「対峙してみると一際恐ろしい感じがしますね……」
唾を呑み込み、慄くように涼乃が呟いた。だからこそ、なんとしても。魔導書を胸元に掻き抱きながら、思いを新たにする。
「武人な灰迅さん、楽しみましょう? 《鬼》龍人、くしな。いざ参ります」
様子見をしているらしい『灰迅』を誘うように、くしなは早、魔人降臨で禍々しい呪紋を全身に浮かび上がらせた。
「ああ、この時を待ち望んでいました。最強種族と謳われるその力、存分に味わわせてもらいましょう!」
いよいよ胸に迫る高揚感を抑えきれずに、陶酔にも似た声を上げながら、雪兎がステルスリーフを身に纏う。
その間にも、『灰迅』はゆっくりと首を揺らして八人を睥睨していた。傲然と物色するような視線がひとめぐりしたのち、正面に首を戻し――あたかも凶悪な笑みを浮かべるように、牙が剥かれた。
八人を、敵と認めたのだ。
ひといきに膨れ上がった殺気に、ケルベロス達の背を戦慄が駆け抜けた。皆、咄嗟にグラビティの予備動作に入るが、ドラゴンの速度はそれを優に凌駕した。雷のブレスが打ち付けられ、鋭利な衝撃に後衛が悲鳴を上げた。
「いきなりやってくれるな……! せっかくの死合いだ、楽しもうぜ?」
即座にルナティックヒールを涼乃に投げつけるシズネ。隠していたはずの猫耳と尻尾が、戦闘への昂揚のために、露わになってしまっている。
「さて、殺し合いと行こうか」
夕は後衛の回復をウイングキャットの銀に託し、皆を守るように歩を踏み出すと、軽やかな身のこなしで巨体の足元へと肉薄した。駆け抜け様の縛霊撃が、緊縛の霊力で敵の機動力に網をかける。
「……ハンナ・カタリナ・フォン・リヒテンベルク……参ります。《主に乞い、願う。清かな煌き、謳い給う……》」
愛らしい仕草でドレスを摘まんで、マナー通りのお辞儀をするハンナ。薔薇乙女の祝福を歌い上げ、後衛に強化を施す。
「長いこと島に居座って好き放題してくれたんだ。その駄賃くらいは、きっちりと払って貰うぞ」
真琴は特殊なダブルセイバーを掲げて、熾炎業炎砲で圧倒的火力を叩き付けた。肩を焼いた炎の威力に、『灰迅』はあからさまにのけぞった。
「まずはその爪、封じさせてもらう!」
前衛の動きに合わせ、凪が古式武術の構えで深く意識を集中し、サイコフォースで爆破をしかける。
続けざまに涼乃のペトリフィケイションが撃ち込まれ、雪兎のレゾナンスグリードへと繋ぐ。的確な連携が『灰迅』の足を徐々に重くしていく背後で、くしなの鬼龍人変化の型により、後衛は万全に近い形にまで立て直していく。
自慢の素早さをねじ伏せるような攻撃の連続に、『灰迅』は、やってくれたなとばかりに喜色の浮かぶ視線を返してくる。それは余裕ではなく、闘争本能。骨のある戦いへの予感が、竜とケルベロス達の双方の精神を昂ぶらせていく。
●激闘
そこからの『灰迅』は速かった。前脚を軸に回転して、前衛を一薙ぎにすると、すぐさま身を翻して距離を取る。凪のフォートレスキャノンが逃すまいと追撃するが、手応えは心もとない。
「弱点、突いても、命中、甘いと、当たらない、かも」
「状態異常を十分に付与すれば通用するはず。まずは確実に当てていきましょう……!」
『灰迅』の動向を注視していたハンナは、前衛にスターサンクチュアリを付与しながら、戦場を広く見渡し把握に努める涼乃は、禁縄禁縛呪で確実に敵を阻害しながら、今は我慢のし時であると皆に声を掛けていく。
スナイパーの雪兎が月光斬で斬り込み、夕は命中に不安のある指天殺を降魔真拳に切り替えて打ち込む。シズネはあくまで後衛の強化に努め、真琴もポジショニングで自身の命中を強化。銀の清浄の翼とくしなのヒールドローンが前衛の守りを強固にする。
強化を盤石にしたケルベロス達に、『灰迅』が瞬く間に肉薄し、爪を振り上げる。早くかかってこいと言わんばかりの強烈な一撃は、やはり治癒無効ダメージの大きいクラッシャーを狙ってきた。真琴は咄嗟にかざした左腕で攻撃を受け止めるも、衝撃の重さに跳ね飛ばされてしまう。
「回復はお任せを!」
「手伝うぜ!」
即座に、くしなのマインドシールドとシズネのルナティックヒールが、回復と強化で真琴のダメージを立て直す。間を繋ぐようにハンナが時空凍結弾で大量の氷を撃ち込み、涼乃が侵食させた無貌の従属が重いダメージを叩き出す。
「どうした戦闘狂、アンタの敵はまだ死んでないぞ?」
「もう体が重いかよ? まだまだいくぜ!」
挑発を加えながらの夕の縛霊撃と、気合を込めた凪の指天殺が、なおも動き回る敵の機動力を大幅に削っていく。
「数多の生き血と悲鳴を啜り、人々より忌み嫌われた紅蓮の波刃よ、今こそ我が手に来たれ!」
雪兎の裂傷剣・煉獄紅刃が、敵の傷口を焼き広げる。確実に足を取られたその瞬間を逃さず、真琴のレゾナンスグリードが『灰迅』に襲い掛かった。
「お返しだッ!!」
ここ一番のダメージに、『灰迅』は初めて苦痛の咆哮を上げながら、大きくのけ反った。
かと思えば、瞬時に首を返してブレスを吐きつけてくる。後衛に衝撃と痺れが走った。
が、抜かりはあった。一人、すり抜けるように雷撃を免れたくしなは、ブレスの名残にぶつけるようにヒールドローンを展開する。
「捕縛効果が効いてきているようですね……ここからが押し込みどころでしょう」
「っしゃあ! その首、狩らせてもらうぜ!」
意気揚々と斬り込んだシズネの絶空斬が、傷だらけになった『灰迅』の表皮を、さらに無残に切り刻んだ。
ケルベロス達は相手の行動を阻害することを主眼に、辛抱強く攻撃を重ねていった。幾重にも絡みつく捕縛や武器封じ、石化、パラライズが『灰迅』の手足を鈍らせ、属性を抑えたケルベロス達の攻撃は余さず的中していく。時折凄まじい大打撃を叩き出す者もあり、『灰迅』は目に見えて消耗していった。炎、氷、トラウマの蓄積も馬鹿にならない。
しかし、攻撃の命中精度に粗が見え始めたとはいえ、一撃の重さはさすがの手ごわさ。ケルベロス達は即座に回復で立て直し、そつなく総崩れを防いでいくが、疲労の色は隠しきれない。
●終結
シズネは武人らしい『灰迅』の性質を気に入っていた。そういう相手と戦うのは純粋に楽しい。けれど、仲間達に気を払うことも決して忘れてはいなかった。
幾度かの応酬ののち、再び振り下ろされた爪から、我が身をなげうち真琴を背に庇った。盾にした腕を激しく切り裂く衝撃に歯を食いしばりながら、しかし即座に月光斬の反撃を加え、『灰迅』を牽制する。
「回復はいい! 畳みかけろッ!」
即時応えたのはハンナだった。冷静に戦況を見つめてきた結論として、シズネの判断を是と導き出したのだ。
「やっぱり強い、ね……でも、負ける訳、いかない、から……まもる、の」
強行調査から続くドラゴンとの因縁に、今、決着を。愛刀のElfenliedが舞うように『灰迅』の鱗を切り裂いていく。
夕は最後までやる気がなさそうな振舞いを崩さない。けれど、冴えない目つきの両眼の奥に宿る闘争心は、『灰迅』をまっすぐに捉えて離さない。
「龍の角か俺の牙か……勝負と行こうか」
瞬く間に獣化した腕が、怒涛の連打を繰り出し、硬い表皮を突き破る衝撃を打ち込む。
鬼龍人くしなの本性は、力と名声を追い求める勇者の卵。回復役を務めることに不満はなかったが、いざ最強種族相手に己が力を解放するとなれば、いやがうえにも興奮は高まる。
「≪鬼≫龍人の力、その身に受けるがいい!」
好戦的に豹変する口調は未熟さの表れか。固定砲台から発射された主砲は、全弾が敵の巨体へと吸い込まれ、爆発音を連鎖させる。
凪には油断も慢心もなかった。強敵を前にして昂ぶる心を制御し続けてきた。しかし最高潮を迎えたこの瞬間ばかりは、血の滾るままに、己の全てを秘拳に込めてぶちかました。
「吼え猛る狼牙は残響を残す。ぶっ飛べ!」
連続で打ち込まれる左右の拳。最後の一打が加えられた瞬間、体内に響いた衝撃に、『灰迅』がよろりと姿勢を傾がせた。
真琴は自身がチームの最大火力である自覚を持って立ち回った。予定していた行動をいくつか繰り上げ、攻撃に集中できたのは仲間達のおかげだ。感謝は胸に秘め、左腕の傷から滴る己の血を呪符に吸わせる。
「天地を動かせるのは自分達だけだと思うな」
宙に展開したいくつもの符が、風を動かし、大地を揺るがす。万象の蠢きに、『灰迅』が飲み込まれていく。
雪兎は紳士と剣鬼の二面性を、戦闘において十全に活かした。凶暴な戦闘狂の本性は強敵を恐れず、紳士としての思考は仲間達との連携を怠らず、勝機を決して逃さない。
「貴方がどんなに強かろうと、私たちは必ず勝利してみせる!」
炎を帯びて波立つ刃に全身を切り裂かれた『灰迅』が、どう、と地に伏す。その様は、もはや満身創痍という表現も生ぬるい。
しかし、まだ息はある。縦に割れた銀色の瞳に、戦意は消えていない。
「……さすがドラゴンと言ったところでしょうか。でも私達もケルベロスです!」
涼乃の招来した混沌なる粘菌が『灰迅』を強襲する。彼女にとってこの戦いは、島への上陸さえ叶わなかった強行調査の雪辱戦でもあった。魔導書に魔術を籠める手にも、自然と力が入る。
……『灰迅』はおそらく、自身がケルベロスに敗れることなど想像だにしていなかっただろう。しかし、己を覆い尽くさんとする粘菌に死を悟ってなお、その眼差しに後悔などおくびも表さなかった。
むしろ、その表情は、笑っているようでさえあった。
煙草に火をつけ、一呼吸。黙祷代わりに紫煙を吐き出し、夕が呟く。
「……悪いな最強、俺たちの勝ちだ」
凪は胸を撫で下ろすように吐息をつき、頭を掻きながらぼやく。
「ここは何とかなったが……向こうはしくじってねぇだろうなぁ」
「ここからではわからないな。ゲートの方は、無事なんだろうか……」
さっそく撤退準備に入る真琴は、周囲を警戒しながらも、東へと目を向けた。さすがに白龍神社の様子まではうかがえない。
「まもるべきものの、ため……誠意尽くした、あなたを……忘れない、わ」
瞬く間にかき消えていく『灰迅』の残骸へと、ハンナは丁寧に十字を切り、踵を返す。そして、決して振り返らなかった。
「誇り高き竜よ、感謝します。おかげで私はさらに強くなれた」
雪兎もまたしばし黙祷する。瞼を上げる頃には、戦闘の衝撃で砕け落ちたらしい、透明な角の先端部分だけが、視界に残されていた。
作者:そらばる |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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