城ヶ島制圧戦~六華のスクァーマ

作者:柚烏

「先日行われた城ヶ島の強行調査により、城ヶ島に『固定化された魔空回廊』が存在することが判明したよ」
 エリオット・ワーズワース(オラトリオのヘリオライダー・en0051)は真剣な表情で、集まってくれたケルベロス達に報告を行う。エリオット曰く、この固定化された魔空回廊に侵入し内部を突破する事が出来れば、ドラゴン達が使用する『ゲート』の位置を特定する事が可能になるとのこと。
「この『ゲート』の位置さえ判明すれば、その地域の調査を行った上で、ケルベロス・ウォーにより『ゲート』の破壊を試みることも出来る筈なんだ」
『ゲート』を破壊する事ができれば、ドラゴン勢力は新たな地球侵攻を行う事ができなくなる――そう続けて、彼は翡翠の瞳をゆっくりと瞬きさせる。
「……つまり、城ヶ島を制圧し、固定された魔空回廊を確保する事ができれば、ドラゴン勢力の急所を押さえる事ができる」
 強行調査の結果、ドラゴン達は固定された魔空回廊の破壊は、最後の手段であると考えているようだ。故に電撃戦で城ヶ島を制圧し、魔空回廊を奪取する事は決して不可能ではない。厳しい戦いになるだろうと前置きした上で、エリオットはぎゅっと拳を握りしめて絞り出すような声で告げた。
「ドラゴン勢力の、これ以上の侵略を阻止する為にも……どうか、皆の力を貸して欲しいんだ」

 ――そっと一呼吸おいてから、エリオットは今回の作戦についての詳細を説明していった。彼らケルベロス達に課せられた使命は、城ヶ島公園のドラゴンの巣窟へと進軍し、ドラゴンと一騎打ちして撃破することだ。
「今回の作戦は、仲間の築いてくれた橋頭堡から、ドラゴンの巣窟である城ヶ島公園に向けて進軍する事になるよ。進軍の経路などは全て、僕たちヘリオライダーの予知によって割り出しているから、その通りに移動して欲しいんだ」
 故に戦場までの道程については特に対策を講じる必要は無く、本番の戦闘のみに集中することが出来る。しかし固定化された魔空回廊を奪取するには、ドラゴンの戦力を大きく削ぐ必要がある為、確りとした作戦で挑まねばならないだろう。彼らは強敵ではあるが、必勝の気概で挑んで欲しい。
「皆が戦うことになるドラゴンは、微かに蒼のいろを滲ませた白い竜だよ。その鱗はまるで溶けない雪のようで、氷柱のような角にはまるで、華が絡みついたような紋様が刻まれているみたいなんだ」
 全体的に細身で優美なそのドラゴンは、何処か女性的な印象を抱かせるようだ。その外見通り、氷の吐息を吐き出して攻撃してくるようで――彼女は凍てついた氷のように冷酷で、また己を傷つけたものには容赦しない、執念深い性質も合わせ持っているらしい。
「外見から、とりあえず『六華』と呼んでおくことにするけれど……究極の戦闘種族とも言われるドラゴンの一体を相手にするんだ、どうか万全の態勢で挑んできてね」
 強行調査で得た情報を無駄にしないためにも、この作戦は成功させたい。もし敗北すれば、魔空回廊の奪取作戦を断念する場合もありえるだろう。作戦の成功は皆の力にかかっている――エリオットは説明を終えて、静かに一礼した。
「悲劇を繰り返したくない、それは勿論だけれど。僕は皆が無事に帰って来てくれることも、それ以上に願っているからね」
 ――いってらっしゃい、と彼は囁く。それは『おかえりなさい』と皆を迎える為に必要な、はじまりの言葉だった。


参加者
ゼロアリエ・ハート(妄執のアイロニー・e00186)
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)
セレナ・アウラーンニーヴ(響命の刃根・e01030)
八千代・夜散(濫觴・e01441)
エル・エルル(アウラ・e01854)
御伽・姫桜(悲哀の傷痕を抱え物語を紡ぐ姫・e02600)
天見・氷翠(哀歌・e04081)
御巫・朔夜(シャドウエルフのガンスリンガー・e05061)

■リプレイ

●竜の巣にて咲く六華
 先の強行調査により、城ヶ島に固定化された魔空回廊があることが判明――これの確保に向けて、ケルベロス達は城ヶ島制圧戦を開始した。向かうのは、城ヶ島公園に作られたドラゴンの巣。此処を住処とする彼らを一騎打ちで倒し、その戦力を大きく削ぐことが目的だ。
「俺らが相手にすンのは、確か『六華』とやらか」
 握りしめた武器の感触を確かめつつ、八千代・夜散(濫觴・e01441)が獣じみた冷酷さを隠すこと無く呟いた。六華――雪の意を持つ竜と対峙する者に相応しく、彼の瑠璃色の双眸もまた、凍てついた輝きを宿している。
「冷たく凍りつき、決して溶けぬ雪のような竜……冬の季節には、おあつらえ向きだけれど」
 淡々と言葉を紡ぐエル・エルル(アウラ・e01854)は、雪のように無垢な白の髪をそっと揺らし――一方でゼロアリエ・ハート(妄執のアイロニー・e00186)は、精緻な美貌に満面の笑みを浮かべて気合を入れた。
「でも、細かいコト考えずに今目の前に居る敵を倒す! 絶対全力撃破の構えだよ!」
 予知によって割り出された経路を辿り、彼らが辿り着くのはドラゴンの巣窟だ。一歩一歩、標的へと近づくにつれ、セレナ・アウラーンニーヴ(響命の刃根・e01030)の胸は高鳴っていく。それは緊張以上に、気分の高揚によるものであり――柔らかな物腰に反し猛々しい気質を持つ少年は、戦に逸る心を抑えるのに苦心していたのだった。
(「こんな強敵に挑めるなんて、喜び以外の何があるというのでしょう」)
 ――だからこそ、勝利のために出来ることを過不足なくやり尽くさねばとセレナが誓う中、御巫・朔夜(シャドウエルフのガンスリンガー・e05061)は涼しげな相貌とは裏腹に、静かに憤りを滾らせているようだ。
「オーク共の事件に、ドラグナーに……。魔空回廊の存在には、随分と悩まされてきたからな」
 彼女が関わって来た戦いでは、女性が食い物にされようとしていたこともあり――それらの存在を従えるドラゴンに一矢報いることが出来るのならば、願ってもない機会と言えよう。
「いつまでもドラゴン勢力の好きにさせる訳には行かない。ここで確実に叩く」
(「グラビティ・チェインが枯渇した戦乱の世界……。枯渇する前は、彼らも穏やかに暮らしていたのかな……」)
 戦いは避けられないし、戦わなければならないことは分かっている。それでも天見・氷翠(哀歌・e04081)は、彼らデウスエクスの境遇を思わずにはいられなかった。潮のかおりを含んだ冬の風が、彼女の長い青の髪を靡かせて――髪を飾る雪柳の花をふわりと揺らす。
「……そうするしか生きられなかったのだろうとは思うけれど……。共に生きる道も、あるのにね……」
「……と、どうやらお出ましのようだ」
 公園の一角、其処で悠然と佇む優美な白のドラゴンを認め、御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)の纏う常識の衣が静かに剥がされていった。状況が許せば奇襲をと思っていたのだが、竜の巣に乗り込むケルベロス達の存在に、彼らがいつまでも気付かぬ訳が無い。――しかし白陽が覚悟していた、先に一撃を食らう可能性も無いようだった。
「ええ……ならばいざ、氷雪を討ち春喚ぶことといたしましょう」
 恐らく六華は、此方をじっくりといたぶり加虐心を満たそうとしているのだろう、とセレナは思う。何処か艶めいた素振りで六華は身を捩らせ、氷細工のような翼を広げて咆哮を上げたが――其処へセレナは、戦のはじまりを告げる矢のように、三対の翼を聖なる光で覆って飛び込んでいった。
「吾、一振の天剣なり……斬ります!」
 彼の勇ましい声に続き、白き大鎌を手に前線へと躍り出たのは御伽・姫桜(悲哀の傷痕を抱え物語を紡ぐ姫・e02600)だ。傷ましい過去の痕を笑顔で包み込み、乙女は艶やかな花々が蔦のように巻き付いた鎌を閃かせる。そのあたたかな灯のような彼女の瞳は、絶望の冬へ果敢に立ち向かう、いのちの輝きを宿していた。
「その溶けない氷の華を、私の心に灯った暖かな炎で溶かしてみせましょう」
 ――どんな氷も、決して溶けないことはないのだからと姫桜は呟き、花綻ぶようにその可憐な唇を和らげたのだった。

●白竜の狩り手たち
 相手は強敵――究極の戦闘種族である、デウスエクス・ドラゴニアだ。ならば皆が一丸となってこれに立ち向かい、確りと連携を取らねば勝利は叶わないだろう。
「蒼の滲む白い竜。確かに優美、ね。でも……」
 白を纏う六華にエルは微かに眉をひそめ、不快感を露わにしたが――大地を蹴って真っ直ぐに繰り出される蹴りは鋭く、微塵の躊躇いも無い。摩擦を活かして脚に纏う炎は、雪の一片すら残すまいと言うように、激しく燃え盛り大気を震わせた。
「……私は人派だけれど、気分悪いから摘み取ってあげる」
 渾身のエルの蹴りが六華に叩きつけられると同時、夜散の手に握られた爆破スイッチが遠隔地――六華の身体を爆破する。その瞳が憎悪の光を放つのを見て、朔夜が前衛を守ろうと、ドローンの群れを放ち警護を行った。
「私達は、ただ搾取されるだけの存在ではない……。この世界の平穏を守る、それを脅かすものへは容赦などしない」
「私も、合わせるね……」
 朔夜があかあかと苛烈に燃え盛る炎ならば、氷翠は誰かの傍らでそっと路を照らす灯火だろうか。地面に黒鎖を這わせて守護魔法陣を描く氷翠は、付与の行き届かなかった者たちを護るように、祈りをこめて囁く。
(「もう二度と、滅亡の未来を迎えさせないように……」)
 ――しかし其処へ、六華の尾のひとふりが襲い掛かった。サーヴァントを含め盾となる者が多い為、その威力は落ちていたものの――やはり、その一撃の威力は十分な脅威だ。軋む身体に力をこめて立ち上がるセレナは、直ぐに光のヴェールを広げて傷ついた仲間たちを包み込んでいった。
「味方を倒されることなく、勝つまで戦い続けること。それが此度わたしが目指すところです」
 ボクスドラゴンのフィル・ヒリーシュへも、盾となりながら回復を主に動くようにと指示している。全ては仲間が役割に専念出来るように――フィルはみゅん、と愛らしい鳴き声をあげて、真珠色の羽毛に相応しい羽属性を注入し、姫桜の傷を癒していった。
「黒曜の鳥籠、荊となりて敵を閉じ込めて」
 謡うように姫桜は言の葉を紡ぎ、巨大な縛霊手を振るい標的を網状の霊力で絡め取ろうとするものの――その一撃を、六華は優雅な動きでひらりと躱す。
「行っけぇ!!」
 しかし其処へ、畳みかけるようにゼロアリエがアームドフォートの主砲を一斉発射し――更に白陽が一瞬で間合いを詰めて、旋刃を思わせる電光石火の蹴りを六華の胴へと喰らわせたのだった。

●猛攻は冬嵐の如く
「……厄介だな、格上の敵はこんなものかもしれねェが。躱しもするし、確実に当ててきやがる」
 後方より戦況を見据える夜散は、六華の実力を肌で感じ取り、十分に気を付けるよう仲間たちに促す。自身の放つ弾丸は、確実にその火力を削いでいっているものの――此方の命中に気を配り、攻撃が当たるよう足止めも行うべきだったか。
「任せて、それなら私が……援護をするから」
 囁き、ひらりと風の精霊のように舞い踊るのは氷翠。軽やかな輪舞と同時に展開される魔法陣は、清涼な風を運んで――その恩恵は濁りを払うに留まらず、仲間たちの感覚を研ぎ澄ましていく。
「やっぱりドラゴンの一体を相手にする以上、決して楽な戦いじゃない……けど!」
 冬の嵐のような冷気のブレスを浴び、凍りついた深紅の髪をくしゃりとかき上げて、ゼロアリエは叫んだ。こんな激戦の中でも、彼は笑顔を忘れない。
(「皆と出来るだけ長く前線に立ち、敵に攻撃し続ける」)
 その闘志は微塵も衰えることは無く、ゼロアリエは黒のロングコートを翻して、六華から更なる熱を奪おうと長大な銃身から凍結光線を放った。
「例え圧されても、最後まで決して屈しない!」
「そうだな……人間の意地を思い知るがいい」
 冷然と告げて、戦場の地形を立体的に捉えつつ縦横に駆け巡るのは朔夜だ。魅惑的な肉体がしなやかに躍動し、二挺拳銃を器用に操る彼女は、遠近の間合いを問わず標的を追い詰めていく。氷のような彼女の瞳が細められた刹那――黒影の弾丸が六華を穿ち、その身を侵食していった。
「竜退治なんざ英雄の役割だ。怪物の身には似合わないが、殺れるなら文句は言わんさ」
 自身を怪物と称する白陽もまた、人型の悪夢となって軌跡すら見せず、戦の渦中に身を投じている。常時足を止めず、立体的な機動を心掛け――六華の攻撃、そして回避行動の終端などを積極的に突こうと白陽は狙うが、やはり敵の方が上手のようだった。
(「簡単に隙は見せないか……」)
 自由な動きを阻害し、心理的優位を与えないようにと動くものの――彼の刃より速く六華は体勢を立て直し、息吐く暇も与えずにブレスを吐きだした。立て続けに攻撃に晒された前衛は踏み止まれず、果敢に攻撃をし盾となっていた姫桜のボクスドラゴン――シオンが、遂に力尽きる。
「……集まれ蝶々、踊り散れ華」
 それでも姫桜は軽く唇を噛み、蝶が舞うように軽々と大鎌を操り六華へ立ち向かった。死をもたらす忌まわしき刃は、回転しながら六華を切り刻み――そうして己の手元に戻って来た鎌を、姫桜は優雅な手付きで受け止める。
「……っ……」
 一方、自身が標的になっているなら利用し、より攪乱を重視――意図的に接近し注意を引き付ける白陽を、六華は嗜虐に揺れる瞳で睨みつけて迎え撃っていた。自身に挑む愚か者を存分にいたぶろうと、六華の爪が唸りを上げて白陽を切り裂く。
「……させません」
 容赦なく振るわれる六華の力に、次第に白陽は耐えられなくなり膝をついた。セレナは疲弊した前衛を立て直そうと回復を施し続けるが、列全てに作用する回復しか持ち合わせておらず、サーヴァントを従える影響で回復力も落ちている。回復に専念するには、彼の力は不足していたのだ。
「こうなったら、俺が狙いを逸らして……」
 ゼロアリエも口の端に滲んだ朱を拭って武器を構えるが、前衛全てを巻き込む攻撃を叩きこまれるならば他の仲間も巻き添えを食う。
 ――ただ、真正面から挑むのでは多大な犠牲が出てしまう。それでも。
(「皆と声を掛け合って、耐え抜く……それしかない!」)

●雪解とさよなら
 前衛の仲間が集中的に狙われる危機に、立ち上がったのはエルだった。自分を含む後衛に届く、六華の攻撃はブレスのみ――そのことに素早く思い巡らせた彼女は、敵の気を此方に向けようと狙いを定める。
「あなたの誇りに思う場所は、此処かしら?」
 敵に喰らいつこうと放たれた気咬弾は、狙い過たず六華の角を貫いて――華の彫刻が施された氷柱の如き角が、無残にもひび割れた。
 ガアアアァァァ――痛みからと言うよりは、自慢の角が傷つけられた怒りによって六華は咆哮を轟かせ、その瞳に狂気めいた殺意が宿る。執念深い六華は狙い通り、己の誇りを傷つけたエルを標的に選んだのだった。
「……今だ」
 敵の注意が逸れたところで、朔夜は仲間たちに目配せをして、波状攻撃を行い一気に攻めようと動く。妨害行動を行う朔夜によって、既に六華は炎と毒に蝕まれており――其処へ更に、彼女は稲妻の魔弾を放ってその動きを封じようとした。
「雷よ、我が弾丸となりて敵を撃て!」
「今の内……私が、みんなを支える、ね……」
 麻痺により六華の行動が封じられた隙に、指輪を翳した氷翠は浮遊する光の盾を具現化、傷ついた白陽に加護を与えていく。そしてセレナと、エルのボクスドラゴンであるフルートも、懸命に疲弊した仲間たちの回復に努めていった。仲間のサポートを意識し、攻守共に上手く立ち回っている愛竜へ、エルはよしよしと言うように頭を撫でて褒めてやる。
(「大分、攻撃が凌ぎやすくなってきましたか……此方も消耗していることに、変わりはないですが」)
 汗で額にはり付いた髪を優雅にかき上げつつ、セレナはそっと安堵の吐息を零した。夜散は徹底的に六華の攻撃力を削いだ上で、魔力をこめたファミリアを放ち更に異常の蓄積を行っている。そして前衛が追い詰められる中、効果的な挑発を行って注意を逸らしたエルの作戦も功を奏していた。
「その凍てついた心……私の心の灯で溶かして差し上げましょうか?」
 再度、吹き付けられる氷の吐息をその身で庇いつつ、姫桜の細い指先からは無慈悲な光弾が放たれた。幾度冷気に晒されようとゼロアリエの闘志は消えず、アームドフォートの主砲が火を噴き――白陽は空の霊力を帯びた刀で、六華に刻まれた傷口を更に斬り広げていく。
「氷の華、『永遠』を約束された枯れることのない華。でも、私たちと相見えたのが運の尽き」
 ――更に其処へと狙いを定めるのは、非情な射手の一撃だ。宵の宝珠の如き瞳を細め、エルは巨大なガトリングガンを苦も無く操り、無数の弾丸を放って標的を蜂の巣にしていった。
「あなたに『永遠』をあげる。だから華々しく砕け散って」
 それは、決して溶けない筈の六華の鱗をはらはらと散らせ、遂に氷柱の角は粉々に砕け散る。六華はブレスを吐こうと牙を鳴らすが、痺れがその身を戒めて――苦しげに喘ぎ、矮小なひとを忌々しく睨む六華へ、終わりを告げたのは夜散だった。
「女子供には優しくしてえが、生憎お前には出来ねえンだ。……護りたい、悲しませたくない奴が他に沢山居るからな」
 ――ほんの一時、生死を懸けた戦いで邂逅した男と女。夜散が囁いた言葉は奇妙なほどに甘く、そして残酷だった。
「だから、此処でお別れだ。いい子で新たな生を受けたら逢おうぜ、六華」
 その言葉が放たれるや否や、夜散は急激な集中状態を作り出して主観認識速度を加速――音速に迫る速度で、目前の竜へと銃弾を無数に叩き込んでいく。
「死ぬにはいい日だ。――……笑えよ」
 魔弾の射手は、六華の眉間を正確に貫いていた。呟きと同時に、白き竜はひとこえ啼いて天を睨み――ゆっくりと力尽きて地に伏していく。
「……あ」
 安らかな眠りを願い、そっと氷翠は竜の骸に寄り添って。自分と近しいいろを持つ彼女をそっと撫でると、六華はまるで春の雪解けのようにはらはらと、その姿を消滅させていった。
(「おやすみなさい……」)
 ――そしてどうやら、他のケルベロス達も首尾よく任務を終えたようだ。どうか無事で居てくれと、夜散は大事な奴の大切なひと――夜が似合う竜の娘の姿を、無意識の内に探していた。
「……悲しむ顔は見たく無ェ」
 呟いた声は、冷たさを増した冬の空に溶ける。そうしていつか――戦いの跡も、空から降る雪が優しく包み込んでくれるのだろう。

作者:柚烏 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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