うどん自販機のエレジー

■リプレイ

●うどんの香り
　関東平野特有のどこまでも続く平地に降下したヘリオンから、ケルベロスたちは降り立つ。
　秋の気配を感じるさわやかな風にうっすらとかつおの出汁の香りが混じっていた。
「自販機型のダモクレスがこうも集中するとか……っ！」
「またよろしくね」
　直近で自販機ダモクレスの事件に関わったばかりの小柳・玲央（剣扇・e26293）とピジョン・ブラッド（銀糸の鹵獲術士・e02542）は不思議な縁に苦笑いの顔を見合わせていた。サーヴァントのマギーは画面をピカピカさせている。
「おうどん自動販売機……聞いたことはあるけど初遭遇なのである！」
「食べ物を売っている自動販売機は面白いね。現役の時に会いたかったな……残念」
「うどんの自販機……確かに珍しいね。どんな仕組みなのか気になるなぁ」
　鉄・千（空明・e03694）、鉄・冬真（雪狼・e23499）、そして影守・吾連（影護・e38006）の三人はうどんの自販機の物珍しさに惹かれるものがあるようだった。
「しかし、ゲーセンでうどんか……居心地の良い場所だったのだろうな……」
　人数は多いほうがいいだろうと助太刀に駆けつけたディークス・カフェイン（月影宿す白狼・e01544）は自販機が稼働していた頃のゲーセンに思いを馳せる。ブラックスライムの闇蜥蜴withが足元をくるくると回っていた。かつおの匂いに興奮しているのかもしれない。
　件の廃ゲーセンが近づいてくるに連れ、確かに出汁の匂いは強くなってくる。そして、駐車場でうろうろしているうどん自販機ダモクレスを発見したのだった。

●だし香る戦い
『きつねうどん！』
　うどんダモクレスは生えた足をどこどこしながらうどんの種類を叫んでいた。
「これは……移動うどん販売機？　新たな可能性が見えた気がしますのだ！」
　千がエアシューズ天駆から流星の煌きと重力の蹴りを繰り出し、戦いが始まる！
『たぬきうどん！』
　驚いたうどんダモクレスが振り返った時にはもうケルベロス達の陣形は出来上がっていた。
「ピジョンさん、付与するよ」
　冬真のパズルから現れた光の蝶がクラッシャーのピジョンの第六感を呼び覚ます。
『かまたまうどん！』
　攻撃に驚いたのか、うどん出汁のビームを千に浴びせかけようとするが、ディフェンダーの吾連が代わりに浴びた。
「あちち……移動おうどん自動販売機……なるほど、何処でも買えたら便利そうでも、このまんまの性能だと流石に危険すぎるなぁ」
「熱いうどん汁を溢した記憶なら、ない事も無いが……香りだけは悔しい程に良い」
　ドラゴニックハンマー、晶樹の手鎚によるスマッシュを繰り出すディークスが、いい匂いを撒き散らしている吾連を尻目にひとりごちる。
「うー、びしゃびしゃ。でも負けないぞ、激しいののお返しだ」
　うどんつゆの匂いを振りまきながらも吾連は激しい雷を放つ。
「んー、本当はこういう変わった道具は壊したくないんだけどね……ウォリャー！！」
　先程命中率をかさ上げしてもらったピジョンが駆け寄って思い切り殴る。マギーも続いてテレビフラッシュを試みたがうどんダモクレスは避けてしまった。
『ちからうどん！』
「自動販売機、シンパシー感じるけど、なるべく早く終わらせてあげたいな」
　玲央の散布した紙兵が前衛に耐性を施した。
　だし香る戦いはまだ始まったばかりだ。

●しこしこの戦い
「夜を照らす月神よ　恵みの灯を齎し　闇に抗う魂へ祝福を与え給え」
「ありがとう冬真さん！　いっくぞー！」
　冬真の月神の祝福がさきほど攻撃を受けた吾連を癒す。吾連はそのまま再び雷を放ちにむかった。
「うう～お腹空くのだ～、吾連が出してるおだしの匂いがいい匂いすぎるのだ……」
『味噌煮込みうどん！』
　おだしの残り香をくんくんしていた千にうどんダモクレスが放つうどん玉の塊！
「ああっ！　おうどん来たのだ！　おうどんだけ来ても食べられないのだ！　ちょわーー！！」
　千は指天殺でそれらを一つ一つ撃墜して相殺した。
「なるほど、うどんとつゆが別々に入っているのだな……此方は簡単には調理できんぞ？」
　ディークスはうどんの進化可能性を奪い、氷のインパクトを自販機に与えた。
「氷かあ、じゃあ僕も氷の攻撃で行かせてもらおうかな、マギーも今度は当てにいこう」
　ピジョンは達人の一撃で続けて氷の攻撃を与え、マギーもさっきよけられたテレビフラッシュでうどんダモクレスの怒りを誘うことに成功した。
『たまごとじうどん！　たまごとじうどん！』
　うどんダモクレスは怒っているようだ。
「怒ってるね、今のうちに後ろに耐性増やしておくよ」
　マギーがヘイトを集めているあいだに玲央の紙兵が後衛に耐性を増やしていった。
　戦いはまだまだ続く。

●うどんはおいしいもの
　激しい攻防戦が続いた。あちあちおうどん攻撃はびしゃびしゃとだしを撒き散らし、美味しい匂いでケルベロス達の集中力を散漫にさせつつ体力を削る。
「うーん！　自販機さんにはゆっくり休んで欲しいのだ！　そして、終わらせたあとはおうどん食べに行きたいのだ！！　唸れ！　らいおん丸！！」
　叫びとともによだれをびゅわっと出しながら千が巨大ならいおん丸の幻影を召喚、千の拳をにゃんグローブへと変化し、覆う。千は食べたい気持ちを両拳に込め、渾身の連打！！
「忍ばせておこうか」
　重ねた怒りでマギーに興味が向いているうどんダモクレスの様子を見て、玲央はマギーに青き花の香りを纏う不可視の覆いを施した。
『明太釜たまうどん！』
　さっきまでずっとマギーを集中的に攻撃していたうどんダモクレスだが、自販機の蓋をがばっと開いて、前列に熱々のうどんを一気に放出してきた！！
「危ない！」
「守って見せる！」
　クラッシャーのディークスとピジョンの前にディフェンダーの玲央と吾連が飛び出し、熱いうどんを全身に浴びた。美味しそうな匂いと共に、じゅうじゅうと熱い蒸気が二人から立ち上る。
「ブレイブマイン！」
　冬真がすかさず二人の背後にカラフルな爆発を起こし、士気を高めつつ傷を治していく。溶けてただれた二人の皮膚が綺麗になっていった。
「可能な限りダメージを与えてきたが……もったいないけどそろそろ終わらせたいね。あんなのを一般人に浴びさせられない」
　ピジョンが体内のグラビティチェインをぶつけ、マギーの何度目かのフラッシュが光った。
「……お前に、視えるか？」
　フラッシュに隠れるように飛び出したディークスは呼気一吐、神速の踏込みから対象急所各部位への連撃を打ち込む。重力と獣の力により強化された手脚の鋭い打撃に加え、力強い尾の一撃がうどんダモクレスを追い込む。そろそろ締めだ。
「ゲーセンにずっと一人で、きっと寂しかったよね。お客さん達に代わって、美味しくて楽しい時間をありがとう。おやすみなさい！」
　吾連の掌からドラゴンの幻影が飛び出す。
『鍋焼きうどーーーーーん！！！！！！』
　幻影の炎は、うどん自販機ダモクレスを思い出ごと焼き捨てていくのだった。
　かつおだしの匂いに彩られた奇妙な戦いは幕を閉じた。

●うどんが食べた過ぎてやばくないか？
「みんな怪我はないかな？」
「吾連怪我だいじょぶか？　みんなもヒールするぞ？　並ぶのだ並ぶのだ！」
「千こそ大丈夫？皆も怪我は無い？」
「こういう変わった道具は面白かったんだけどねえ」
「自販機か……」
「無事にすんでよかったじゃないか」
　戦いおわって、任務遂行の連絡を入れると、冬真とどらごにあんずはみんなのヒールにかかった。ピジョンはマギーに周辺のリカバリーを頼んでいる。出汁の染み込んだみんなの服をクリーニングする玲央はなんだかアンニュイだ。ディークスはそんな玲央に気を使って声をかけていた。
　元通りになった廃墟のゲーセンは、誰もいないゲーセンなのにうどんの出汁の香りだけが漂ってまるでさっきまで誰かがうどんを食べていたようで、ケルベロス達に何とも言えない郷愁を植え付けるのだった。
「ううん……みんな……千はずっと思っていたのだが……うどんが食べた過ぎてやばくないか？」
　沈黙を破ってだれもが思っていたがなんとなく言えないでいた一言を千が漏らす。
「確かにお腹がすいたな……ね、みんなでおうどん屋さんに寄っていこうよ！」
「うどん屋か……いいね、温まって帰ろう。奢ってあげるから好きなの食べなさい、皆も良かったら一緒にどうかな？」
　吾連の提案を受け、冬真は千と吾連の頭をぽんぽんと叩きながら一同も誘ってみた。
「よければ一緒に行ってもいいかい？」
「じゃあ僕もご一緒しようかな」
「秋なら茸かな？」
　ディークス、ピジョン、そして玲央もお言葉に甘えてご相伴に預かることとなった。近くのうどん屋をモバイルで検索してみんなで向かうことにする。

●こころおどりうどん
　廃ゲーセンよりもすこし街に近くなった道沿いにうどん屋があったので、みんなでそこに入る。そこは基本のうどんに好きなトッピングをいろいろ足せるシステムで、なかなかテンションがあがるはからいだった。
「打ち上げおうどんなのだ！　何にしようかな。しみしみじゅわーのおあげが乗ったきつねうどんは絶対食べたいし、天ぷらもステキ……」
「俺、きつねうどん食べたいなぁ。でももっと入りそう…ね、千。分けっこしようよ！」
「ふぉ！半分こいいアイデアであるな吾連！　ぜひぜひなのだ！　きつねうどんは確定で、天ぷらうどんは何乗せよ……海老、舞茸、茄子……吾連は他に何かおうどん頼むか？」
「きつねうどんは外せないよね！　千は天ぷらかぁ、俺はもう一品どうしようかな。悩むけど……よし、今日は明太釜玉にしよっと！」
　ふぉ、明太釜玉…！　千食べたことないのだ！おいしそうな予感である！　などと二人でやいのやいのしているのを見て、冬真は微笑んだ。
「僕は卵とじうどんにしようかな。みんなはどんなのを頼んでいるのかな」
「俺は肉うどんにかしわの天ぷらを付けたい」
「僕も肉うどんにしようかな」
「山菜うどんなら茸も入ってるかな？」
　ディークス、ピジョン、そして玲央の大人三人も、未成年たちほどあれもこれもとはいかないもののそれぞれ自分の好みのうどんを堅実に注文しているようだった。

●うどんはやっぱり美味しい
「はあっ……出汁の香りがたまらないんだよな」
　一口すすって思わず声が出るディークスのとなりで相棒の闇蜥蜴withも小鉢にわけてもらったうどんをマイペースにちゅるちゅると食べている。
「味のしみた肉ともちもちしたうどんの食感がいいよね」
　おなじ肉うどんを注文したピジョンも一口食べて感想を漏らす。
「旬の茸ももちろん、山菜がシャキシャキしてたまらない」
　お腹があったまった玲央のアンニュイも収まったようで、今は山菜うどんをリズミカルにすすっている。
「そうだ、天ぷらとかトッピングが持ち帰りできるなら妻に買って帰ろう。家族で一緒に食べたいしね」
「お土産いいね。流石、冬真さんだ。絶対喜んでくれるよ！」
「ありがとう吾連、喜んでくれるといいな」
　冬真と吾連がほっこりと笑う横で。んー！　おー！　おいしすぎるのだーっ！　などと言っている千の声をバックに一同はうどんのつゆを最後まで飲み干した。
『うん！　うどんはやっぱり美味しい！！』

作者：星野ユキヒロ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年10月24日 難度：普通 参加：6人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 3／キャラが大事にされていた 1
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