ティトリートの誕生日~装具の章

作者:吉北遥人

 ある日、レイ・ウヤン(地球人の光輪拳士・en0273)が任務に赴こうとヘリポートに訪れたとき。
 ヘリオンの横でティトリート・コットン(ドワーフのヘリオライダー・en0245)が倒れていました……。

「ど、どうされたんですかコットンさん! 大丈夫ですか⁉︎」
「ん……やあ、レイ……」
 自らを抱き起こす少年に、生気の抜け切ったような声でティトリートは応じた。塩をかけられたナメクジの方がよほど元気かもしれない。しおしおと異様に皺の寄った顔の中、開いてるのか開いてないのかよくわからない細目でレイを見返す。
「すまないけどキミ……何か由緒ある武器は持ってないかな? あれば、ボクにそれについて教えてほしいんだ……」
「武器? 由緒、ですか?」
 唐突な振りに面食らいながらも、レイは真面目に自分の武装を思い返した。
「私の武器といえば阿頼耶識ですが、これは長年修行を重ねたすえに顕現したもので、特に逸話があるというわけでは――ああいえ、その!」
 まるで数十年分いっきに老けるように目に見えてシワシワになっていくティトリートの顔に、レイは悪手を悟った。視線をさまよわせつつ、とっさに自らが着る黄衣をつまんで見せる。
「この法衣ですが実は歴史がありまして! 多くの武勲を残す伝説的な僧兵が纏っていたものと言われてるんです! その武勲というのは――」
 暴れる獣を一撃で沈めた、百を超える拳士たちをたった一人で圧倒した、といったエピソードをレイは思い出すかぎり並べ立てた。実のところ、この法衣が本当にそんなたいそうな代物なのか怪しかったし、そもそもそんな僧兵が実在したのかも疑わしいのだが、今はこの眉唾な話にすがるしかない。
「――ありがとう。素晴らしい伝説だったよ」
 そしてレイの努力はどうやら報われたらしい。いつの間にかティトリートの顔はいつも通りのハリツヤを取り戻していた。
「実は持病の伝説欠乏症の発作を起こしてしまってね。でもキミの防具のおかげで助かったよ」
「じ、持病? というか、あんな話で良かったんですか?」
「もちろんだよ! ああそうだ、今のを忘れないうちにメモしておかないと」
 立ち上がって手帳を開いたティトリートだったが、指先からペンがこぼれ落ちた。ヘリオンに手をついて寄りかかる。
「いけない、また発作が……伝説が足りないんだ……」
 肩で息をしながら、ティトリートが苦痛に歪む眼でレイを見た。
「レイ、ほかのケルベロスたちを……リビングレジェンドたちを呼んで来てくれないかい。勝手な願いとはわかってるけど、どうか……」
「わ、わかりました!」
 苦しむティトリートを置いて行くのも気が引けたが、レイは踵を返して駆け出した。とにかくケルベロスたちに来てもらわねば。
 ヘリポートを後にしながらレイは思った。
 そういえば私、何をしにここに来たんでしたっけ。


■リプレイ

「ティトリートさん、お誕生日おめで……」
 祝いの第一声は困惑とともに途絶えた。ヘリオンにもたれて座るティトリートにシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)が目を疑う。
「 ……なんか、干からびかけてるけど、大丈夫?」
「やあシル……大丈夫さ。絶好調だよ……」
 なぜか強がるしわしわミイラに、ぽんとペットボトルが手渡された。
「とりあえずペットボトルのお茶でよければどーぞ。ティトリートの分」
 自身も口をつけながら勧めたのは比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)だ。ありがたく水分補給しつつ、薄目でティトリートがヘリポートを見やる。そこにはシルとアガサを含め、総勢十二名のケルベロスたちが集っていた――各々の誇る装具とともに。
 彼女にとって慈雨にも等しい光景に、ティトリートから感動の溜息がこぼれる。しわしわの頬に涙がひとすじ流れた――。
 とまあ、そんなふうに聴く態勢が整ったところで、装備の紹介が始まる。

●想い、護り、繋ぐ
「お誕生日おめでとうございますの!」と寿いだ黒馬の騎士、エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)が装着しているのは、白銀に輝く甲冑だった。
 翼飾りの付いた額当てに、胸元から腰回りをドレス状に覆う胴鎧、太ももから足先まで隙なく包む脚甲。
 どこか見覚えのあるようなと小首を傾げるティトリートに、エニーケが「わかりますのね」と微笑む。
「私が今身に着けているこの【妖精甲冑『タイタニア』】は、交流のある知人からお誕生日プレゼントとして頂いたものです。グリゼルダたんのお召しになられている鎧と寸分違わぬ造形となっているのですよ」
「ああ、グリゼルダの……!」
 既視感の正体を悟りつつ、『タイタニア』にそっと触れさせてもらう。冷たく硬い、確かな質感が指先に伝わってきた。
「上質な鋼を材料に作られているので、コスプレ用とは思えない程に防御力もあります。きっとヴァルキュリアの加護が込められていますのね」
 実物を見てからだとコスプレという用途の方に驚いてしまう。それほどまでに実戦向きな甲冑だ。
「この装備で、その知人とグリゼルダたんの三人で馬で野駆けしたり、闘技優勝時のケルベロスカードにしてもらったりと、実に想い出が深いですの。なので、今でも大切に使っていますわね」
 誇らしげにそう語るエニーケの横顔は、駆ける馬上に吹く風のように、爽やかだった。

 ティトリート、誕生日おめでとう――そう進み出たティアン・バ(此処に咎あり・e00040)は風呂敷を携えていた。
「気に入りのもの、大事にしているものはいくつかあるけれど、 ティトリートが好きそうなのというのなら、これはどうかと思って持ってきた」
 風呂敷を開き、中身を拡げて見せる。現れたのは、眩しいほどに白い絹の装束だ。いくらか綻びが散見されるが、襟を飾る大小の真珠の輝きは見る者を惹きつける。
「綾織物かい? とても綺麗だね」
「ティアンの故郷に長く伝わった神楽舞の装束だ。己もよくこれで舞った」
 『真珠飾りの白綾』を撫でるティアンの目は遠くを見ているようでいて、穏やかだった。
「元々ティアン達の先祖は、とある封印竜の封印を監視するために、 封印のある無人島――すなわちティアンの故郷に住みだしたんだ。この装束は先祖のふるさと、アスガルドだか地球のどこだかは知らないが、とりあえずどこかの流れを汲んでいるらしい」
 模様の削れてしまっている箇所をティアンは指でなぞる。
「……故郷が無人になって数年の間に、幾らか傷ませてしまったが。 でも、今年ようやく故郷に帰れて、折角回収できたから、少しずつでも、直せたらいいと、思って」
「うん……ボクもそのときを待ってる。いつか見せてよ、ティアンがそれを着て舞う姿を」

「さて、今日のわたしはプレゼンターっ♪ 紹介するのは……」
 じゃじゃん! とシルが一回転して、着用するジャケットを示す。
「【蒼翼装『シルフィード-Feather-』】。大切な恋人さんからプレゼントにもらった防護服だね。 ジャケットとワンピースからなっている防護服だけど、仙術の力が込められていて、とっても軽いんだよ」
 蒼色の翼のデザインが特徴的なそれを揺らして、シルがぴょんぴょん跳ねる。防護服だけでなく、まるで心まで軽やかになっているかのようだ。
「これ着て、ほんといろんな戦場に行ったなぁ……リザレクト・ジェネシス、築地の屍隷兵決戦、なにより、つい最近の月での戦いもこれのおかげもあって何とか潜り抜けられたしね。ほんととっても大切で、かけがえのない相棒。それに……」
 激戦を指折り数えていたシルの笑顔が、ほんのりと赤みを増す。
「それに……これ着ていると、恋人さんの事をずっと感じられるから、ね?」
「それはもう、これ以上の特別ったらないよ、ね。このこのー」
 防具への想いには、防具そのものに対するものと、それ以上のものがある。
 によによと頷いて、ティトリートはシルを肘で突っついた。

「コットン様お誕生日おめでとうございますわ!」
 同じぬいぐるみを持った三人――琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)、リーズレット・ヴィッセンシャフト(碧空の世界・e02234)、久遠・薫(恐怖のツッコミエルフ・e04925)のうちそう呼びかけたのは淡雪だ。
「ところで……お誕生日繋がりで私は自作のぬいぐるみを親しい方のお誕生日に送っているんですけど、このまいあちゃんぬいぐるみ可愛いと思わない!?」
 清楚から一転、圧が増した。ぐぐいっと差し出された『まいあちゃんぬいぐるみ』をティトリートが受け取る。
 火を吹く姿が愛らしいぬいぐるみだ。両手で抱きやすく、触り心地も優しい。これを自作というのはかなり凄いのでは。
「うん、可愛いね!」
「でしょう!」
 淡雪がリーズレットの持つ『まいあちゃんぬいぐるみ』をひょいと取り上げ、頬ずりする。
「あまりに可愛すぎてプレゼント以外に販売も始めちゃった位ですわ! 炎の吐き出すイメージもそのままに本当に素敵な逸品となっておりますので、興味を示して下さった方は、是非ホテルスカイクロウでお買い求め下さいまし」
 画面下に電話番号メールアドレスが表示されそうな勢いの鮮やかな宣伝だった。お問い合わせはこちら!
 薫が自分の持つぬいぐるみを淡雪に預けた。
「ん、そうですね。由緒ある品物でも伝説の品物でも何でもないのですが」
 加えて言えば武器ですが、と前置きした薫が腕をゆるやかに振った次の瞬間、その手には簒奪者の鎌が握られていた。飾り気の一切ない、切断と恐怖喚起のために研ぎ澄まされたような大鎌だ。
「わたしの昔から使っている『咎人の救済』という大鎌なんですが。骨だろうとなんだろうとゴリゴリと削り落とすことができるのですが、今まで一度も研ぎ直しに出したことがないのですよね。それでも、切れ味が落ちた感覚が無いので、もしかしたら何か自己修復があるのかもしれませんね」
 鋭利な刃はまるで今まさに造り上げられたかのように美しい。
 思えば自己修復能力というのは伝説の武器や防具にときおり見られる特徴だ。『咎人の救済』をガン見するティトリートのテンションが人知れず上がる。
「あとこれは関係ないかもしれませんが、夜中にたまにカタカタ音が聞こえてきたり、なんて」
「え、ひょ、ひょっとして生命ある武器?」
 ホラー思考は頭にないのか、ティトリートが闘牛よろしく薫に詰め寄る。
「あの、ホテル『スカイクロウ』、今夜空いてる? 泊まりに行っていい? それでその大鎌と同じ部屋で」
「ティトリートさん、落ち着いた落ち着いた」
 荒ぶるヘリオライダーをリーズレットがなだめる。興奮冷めやらぬティトリートだったが、リーズレットの立ち姿に違和感を覚えた。片脚の膝が少し曲がっている。さらにその下、彼女が履く靴は……。
「ちっちゃくないよ!!」
「わっ、びっくりした!」
「ふふーん! よく気付いたな。どうだどうだ? この二人から貰った靴!」
 自慢げにリーズレットが示すのはシークレットブーツ。着用者を長身の美女に見せる!
 だが底上げの高さが問題だった。右足の高さ10cm、左足は15cm。
「リーズレットさんが最近誕生日だったので、このみーちゃんと一緒に靴をプレゼントしようって話になったのですよね」
「それでちっちゃいリズ様のために靴を作ってみたんだけど、不思議に(?)高さが微妙に違いますわね……」
「ちっちゃくない!! いいんだ気に入ってるから! 改めて二人ともありがとう!」
 ダン、と台に片足を乗せて、リーズレットが波止場で海を臨んでるようなポーズをとる。
「ちょっと高さが違うが、こうすればカッコいいのでは!?  歩きづらさを除けば割とイケるのでは?」
「そうですわねー。カッコいいというより、これだとポンコツ気味のリズ様がよけいポンコツになってよけい可愛く見えてしまいますわ! 不思議ですわー!」
「まぁ可愛らしくていいのではないでしょうかね?」
「なんだ!? 二人共その顔は! やめるんだ!!  薫さんとか言い方に心が篭ってないのでは?! では?!」
 小動物を見守るような淡雪と薫に、リーズレットが涙目になる。その目がぐるんとティトリートに――背が低い者に向いた。
「ティトリートさんも誕生日プレゼントに……この靴、欲しい? 背が高くなるぞ!」
「……いらないかな」
「えっ」

 不思議な話だ――九十九折・かだん(食べていきたい・e18614)が取り出したのは、一見、何の変哲もないポットだった。
「……予知、覚えてるか。憩によく似た。日々割れ、だったか」
「うん……記憶に新しいよ」
 今年の春、かだんはドリームイーターの空間に囚われた。
 敵は精巧にかだんの日常に擬態していたが、珈琲の味が唯一違っていた。
「これはあいつが遺したもの、なんだ」
 倒せば全て消えるはずだった。
 なのに、たったひとつ消えなかった。
「敵に情なんざ、湧かせるもんじゃないとは思うが、あれは、私のために入れてくれた珈琲だったし、それのおかげもあって、私はこうして無事だ」
 向こうからしたら、皮肉でしかないだろうがな――かだんが『I'm a little teapot』を傾ける。
「何の変哲も無いが『ひび割れない』『帰ってこれる』……そんな験担ぎには十分なってるよ。命を繋いだ一杯、と言えば、ティトにもお気に召すかな」
 飲むか? と、カップに満ちた芳香をティトリートが受け取る。
 こんな不思議なら。平凡な奇跡なら。
 何杯でも。

「ワタシが紹介したいのはこのプリンセスクロス」
 マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)が纏うのは黄色のワンピースだった。マヒナの褐色の肌と合わさり互いを引き立てている。
「すごい伝説がある、ってわけじゃないんだけど、ワタシの大切な人が作ってくれた服なの。その……婚約者、なんだけど」
「ほう。ほほう」
 詳しく聞こうか、とティトリートが身を乗り出す。
「その人、仕立て屋さんやってて、服作ってくれることになって……ワタシ黄色いオフショルダーのワンピースがいいって言って、そこからデザイン起こして作るのも全部やってくれたんだ。この裾の星空の刺繍がすごくお気に入りなの。ワタシ星が好きだから」
 裾を摘まんでマヒナがくるりと回る。『ミモザ咲く春の夕べ』の黄天の星々が合わせて踊る。
 その星空がぱっと輝いた。次の瞬間には、スカートの裾が伸び、ワンピースはAラインドレスへと変わっている。
「プリンセスモードも、キレイでしょ?」
 その可憐ぶりに息を呑むティトリートへと、マヒナははにかんだ。

 この集まりの趣旨は自分にとって大事な防具や装飾を語る、なのだが。
「武器も防具もその辺にある奴で間に合ってる」
「お前ってやつは」
 アガサのムードブレイク発言に、玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)が深く息を吐く。“のらねこ”なアガサにはそれが『らしい』のかもしれない、が。
「まだ適当なやつばっかり使ってんのか。名前つけろ、名前。アジサイなんて、太巻きに『ナンダコラヤンノカ巻』って名付けて俺に寄越したんだぞ」
 諭すように呟いてから、陣内はかねてからの疑問が乗った視線をアジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)に送った。
「ナンダコラヤンノカ巻って、なんだよ」
「ナンダコラヤンノカ巻、それはポンパドールを模した太巻き。わはは、じっと見ちまうけどほら、美味かったろ?」
 赤い鎧のドラゴニアン、アジサイが口の端に牙を覗かせるその横で、千手・明子(火焔の天稟・e02471)が実物を想像する。
「ポンパドールってあの髪型よね。おもに不良の」
「……まさか頭に乗せる前提なのか」
 どんな太巻きだ。とにかくボリューミーなことはティトリートにも伝わった。
「……そういうのでいいなら」
 ナンダコラヤンノカ巻に興味を惹かれた顔をしながら、アガサが懐に手をやった。取り出した小さな巾着袋を開き、中身を掌に転がす。
「K&Mって両親のイニシャルが彫ってあるシルバーリング。父親から母親に贈ったやつじゃないかな。華奢な人だったから、あたしの指には入らなくて。こうして持ち歩いてる」
「すてき。サイズは直さないままなのね」
 永遠を誓う銀の輝きに、明子がうっとりと頬に手を添えた。
「あたしの指がもっと細ければよかったんだけど」
「とんでもない、そうは思ってないわ。二人のよすがなのだもの、そうやって持ち歩くのが一番よ」
「ありがと。まぁ、形見とはいえお守りには不向きだよね。ダモクレスに襲われて死んだ不運を思えば。でも、唯一残ってたのがこれだけだったから」
 他人事のように語りながら、指輪を映すアガサの瞳は遠い過去を見ているようだった。
「何しろあの時は親子喧嘩の真っ最中で、夜中に家を飛び出したところがああいうことになっちゃったから……まぁ、子供としての義務ってやつ? って、ティトリートはなんで泣いてんの」
「なんでって、もう、そういうの……わかるでしょ、キミ……」
「せっかく水分摂ったんだから、もったいないよ。ほら」
 ハンカチで顔をぬぐってもらったティトリートの目が、ふとアジサイの鎧に留まった。
「俺のはこれだ。今も着けてる防具一式。 名前はないが、赤い装甲だから『赤甲(シャクコウ)』と呼ぼう。もう十年以上は世話になってる」
 視線に気付いて、アジサイが自らの鎧をトンと叩いた。
『赤甲』――和風のこの鎧にはふさわしい名だ。
「二十歳から三十歳くらいまでは、そこらのデウスエクスに挑みかかって生きてた。勝率は酷いもんだったが、それはさておき。そんな中で会った、日本出身だっていう元鍛冶職人に創ってもらったものでね。それからずっと、今までずっと、これに守ってもらってる」
 時が刻んだ風合い。この赤の深みこそが、アジサイの戦いの歴史というわけだ。
「いい職人さんだったんだね」
「ああ……そういえば、あの人は元気だろうか」
「きっと向こうも同じこと思ってるよ」
 そう言った陣内の手にした衣服には、ティトリートは見覚えがあった。
「ああ。俺のは、これ。満月の夜はこいつで自分を縛り付けて家に引き籠ってる。ケルベロスを引き連れた月の女神さまに祈りながらね」
 重量級の鉄鎖や腕輪に首輪をアクセントとする、丈夫な皮素材の拘束服――『ヘカテーの抱擁』。
 狂月病は陣内を獣が如く豹変させる。デウスエクスとの戦いで拘束を解いたことがあったが、その凶暴性は、敵のデウスエクスすらも忌避するものだった。
「十字路の神さまでもあるらしいから――いつかどこかで、もう二度と選択を間違えないように、ってさ」
「アジサイの鎧は見慣れてたけど、たまぇさんのはまた、すごい……。暴れ出しそうな心ごと縛るなら、そのくらいのものが必要なのかしら?」
 重厚な金属音を奏でる拘束服に凄味を覚えながら、明子は手にした短刀に目を落とした。
「三人ともしっぶいの見せてくれるわね……。わたくしのは、皆とは違って古いものではないの。友達からもらった護り刀。実は茎にほくろがあるの。可愛いでしょ?」
 柄を外して現われたそれに、陣内が「揃いの泣き黒子とは、色っぽい刀だね」と軽口を叩く。それにかすかに笑みをこぼして明子は続けた。
「これをわたくしの為に見繕ってくれた子のことを思うと、帰らなくてはと思うわ。皆とは戦場を同じくすることも多いけど、戦場でだけじゃなくて、日常の場所に待っていてくれる子がいるんだって思うと胸が熱くなる……」
「――頭が下がるねぇ」
 明子に在り方に敬服する陣内。その想いはティトリートも同じく抱いていた。
 武器が敵を打ち倒すものならば、防具は身を守るもの。ひいては自分と日常を結ぶものと言える。明子の護り刀はそういうものだ。
「こう言っちゃなんだが、お前さんたちのは、道を違わぬための導に思える。決意と言うべきか」
 感じ入ったようにアジサイが頷いていた。
「ナンダコラヤンノカ巻とはえらい違いだ」
「ところで、そのヤンキーな太巻きもうないの? お腹空いたんだけど、ピザ頼んでもいい?」
「ああ、そういうことならボクがご馳走するよ。ここにいる皆の分、ね」
 携帯電話を取り出して、ティトリートがつやっつやの笑顔でアガサにウインクした。

 お礼もこめて豪勢にいこう。
 今日は誕生日なのだしね。

作者:吉北遥人 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月6日
難度:易しい
参加:12人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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