●戦うなら酔いはさますべき
海風には夏の名残もなく、肌を撫でる感覚は少し冷たい。
気が向くままに海辺を訪れたシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)は、囁く波音をBGMに夜風を楽しんでいた。
「静か、ですね」
薄い笑みを浮かべて暗い海に言葉を投げるシフカ。
ただし全裸である。
この女、性懲りもなく、再び海辺で全裸であった。
「誰もいないのですから服を着る必要はありませんね。いや素晴らしい」
そう言って、シフカは清々しい笑顔で砂浜を駆け回った。
既視感がハンパない。
ついこないだ経験したばかりの『裸で海辺を散歩してたら敵に襲われた』ルートを寸分違わず辿ってやがった。
「しかし、そんなシフカさんでも思います。夜中とはいえ人の気配がなさすぎなのではないかと。誰に気兼ねする必要もないのはむしろ歓迎すべき状況ですが、それにしても不思議なほどにココは無人ですね」
その時の地の文まで口頭で語りだす始末である。
これほどのフラグが立つ機会というのはそうは訪れないだろう。ここまでくるとシフカのそっくりさんも再びの登場を果たすのではないか。期待すら抱いてしまいます。
――しかし、再放送はここまでだった。
「うい~~っく♪」
「……あれは?」
地続きの遠くに見える人影に、目をこらすシフカ。
影はどんどんこちらに近づいてくる。よたよたと左右にブレながら。
「あひゃひゃひゃひゃ♪ ちょっと酔っちゃったかしら~?」
鳥だった。
右手にビールジョッキ、左手に一升瓶の日本酒を持った雌の鳥だった。
酔っぱらってるらしき鳥さんはゴキゲンで、身を覆う和装はすっかりはだけて胸元がきわどくなり、フットワークは完全に千鳥足である。
「ビルシャナですか……」
「あら、あなた涼しそうな格好してるわね~。おねえさん嫌いじゃないわ!」
「それはどうも」
けらけら笑う鳥さんに会釈するシフカ。
「服なんていらないってね、私も思うの。だって……人生にはお酒と、お酒を飲むためのコップさえあれば十分だもの!!」
鳥さんがグッとサムズアップ。
その姿はまさに単なる酒飲み。なんなら気さくで付き合いやすそうとすら思える。
だが、そんな鳥さんもやはりただ遊びに来たわけではないようだった。
「……? なんだか目がぎゅるぎゅる……?」
シフカが頭を押さえてふらつきはじめる。
視界がぐるぐると回り、喋る舌もよく回らない……まるで泥酔したかのように。
「こ、これは~……?」
「ふふふ……ごめんなさいね。実はおねえさん、あなたを殺すために来たのよ!」
「し、しまった~……?」
不覚――シフカはすでに鳥さんから何らかの攻撃を受け、前後不覚に陥っていた。
武器である鎖を出そうとするが指がうまく動かない。その間にも鳥さんは着実に迫ってきており、シフカは己の死を覚悟した。
が。
「ふふふ」
眼前まで近づく鳥さん。
「ふふふ」
横を通り過ぎる鳥さん。
「ふふふ」
そのまま歩いてく鳥さん。
「?」
シフカは朦朧としながらも、後ろを振り返った。
すると――。
「シフカちゃん、お命はいただくわ!」
浜に打ち上げられていた流木に向かって、鳥さんが啖呵を切っていた。
……こいつも前後不覚に陥ってるじゃねえかァァァァ!!!
●げきとうのよかん
「シフカがまた全裸散歩していた」
帰ろうかな。
ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)の第一声を聞いて、猟犬たちはそう思った。帰ってもいい気がした。
シフカの命ガー連絡ガーとか王子は話し続けていたが、基本的に一同は脱力していた。
「敵の名は『お酒があれば人生幸せ明王』。
その名のとおり酒飲みでな、目の前に注がれた酒は絶対に飲む主義らしい」
さらにどうでもいい情報が追加された。
猟犬たちは言葉を返すことができなかった。無理もない。注いだ酒は絶対飲むウーマンだと言われても、そもそも敵に酒を注ぐ機会などあるわけが――。
「ちなみに酔えば酔うほど弱くなるらしい」
あった。
「ぐいぐい飲ませてどんどん酔わせれば……まあすぐに片付くだろう」
ワンパンもありえる、と拳を握る王子。
しかしその作戦には弊害もあるようで――。
「奴は自分の酔いを周囲の者に伝播させるという面倒な特性があるのだ。そのせいでシフカもボロ酔いになっている」
それは厄介な能力だ、と猟犬たちがざわつく。
ケルベロスであれば酔った程度で戦えなくなることもないだろうが、それでも大きなリスクを伴うことに変わりはないからだ。キャラ崩壊的な意味で。
すごく、くせんするきがしてきた。
「いちおうヘリオンに酒は積んだが……現地での行動はおまえたちに一任する。念のために言っておくがシフカが危ないのは事実だからな、しっかり明王は倒してきてくれ」
王子はそう言うと、皆をヘリオンへと導いた。
かくして猟犬たちは、全裸女と酔いどれバードが待つ海へと出立したのだった。
参加者 | |
---|---|
モモ・ライジング(神薙桃竜・e01721) |
四辻・樒(黒の背反・e03880) |
月篠・灯音(緋ノ宵・e04557) |
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532) |
除・神月(猛拳・e16846) |
エディス・ポランスキー(銀鎖・e19178) |
朱桜院・梢子(葉桜・e56552) |
八刻・白黒(星屑で円舞る翼・e60916) |
●肌寒くても関係ない
夜に沈む砂浜は、波の音しか聞こえないほど静かだ。
――と思うじゃん??
「くらくらすりゅ。ねむたい」
「さあシフカちゃん! 年貢の納め時よー!」
互いに背を向けて1ミリもかみ合わないシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)と鳥のおかげで、そこは静寂とは程遠かった。
モモ・ライジング(神薙桃竜・e01721)は一瞬、言葉を失う。
(「私が戦った酒飲みのビルシャナは何だったのだろうか……」)
以前に遭遇した酔拳使いは紛れもない強敵だった。しかし今回の明王はひたすら流木を攻撃して吹っ飛ばしている。
そりゃ立ち尽くしますよね。
が、除・神月(猛拳・e16846)の反応はまるで違う。
「酒が好きらしいじゃねーカ? 話の分かるビルシャナは助かるゼ」
「あら、いい飲みっぷり!」
ウイスキーボトルを持った神月は、豪快なラッパ飲みで明王の好感を得ていた。お互い肩組むぐらいには一瞬でマブだった。
「もう出来上がってる……まあこれでシフカさんは安全ね」
不安になるモモだが、神月の仕掛けで明王の注意は逸れている。今のうちに下がらせるべきかとモモはシフカ(全裸)のほうへ目を向けた。
すると。
「やぁだ、シフカさんったら素っ裸なんて破廉恥ねぇ……嫌いじゃないけれど!」
「おさけくしゃい」
けたけたと笑う朱桜院・梢子(葉桜・e56552)が、シフカの肩をぺしぺししていた。
事前に酔っておけば大丈夫。そう豪語してヘリオンで飲みまくった梢子さんはすでに酔っぱらっていた。
そんな梢子さんをガシッと制止するエディス・ポランスキー(銀鎖・e19178)。
「梢子! シフカが困ってるからいったん離れましょ!」
「えー? そうかしらー?」
「シフカ! 貴方はお洋服きましょうね!」
「やだ!」
「えぇっ!?」
同性とはいえ赤面しちゃうエディスが被せたローブを、瞬時に脱ぎ捨てるシフカ。「いっぱい人いるから」とエディスが何度着せても、そのたびにシフカは「やだ!」と一瞬でパージした。
露出狂は泥酔しても露出狂だった。
月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)は四辻・樒(黒の背反・e03880)に目配せし、シフカを指差す。
「樒、あれなのだ」
「なるほど。全裸で酩酊状態となると、益々ダメ度が上がってしまうな」
「だから早く着せるのだ!」
使命の炎を燃やしてセーラー服を持ち出す灯音。
シフカが全裸ってるところを見るのは初めてではない。つい先日も奴は脱いでいた。
そして灯音はそのときシフカに服を着せるミッションを失敗している!
「でも月ちゃんは諦めないのだ! 服を着せれるのは月ちゃんしかいないのだ!」
「だがなぜセーラー服なんだ?」
「セーラー服は可愛いのだ!」
くわっ、と言い放つ灯音。
セーラー服が可愛いからセーラー服を着せたい。それは決定事項だった。
「月篠様、張りきってらっしゃいますね」
「あ、白ちゃん。今日はよろしくなのだー!」
声をかけられた灯音が挨拶を返したのは、八刻・白黒(星屑で円舞る翼・e60916)。
白黒は全裸で幼児退行しているシフカを20秒ほど無言で見つめると、灯音たちにくすりと微笑んだ。
「セーラー服を着せる間、鳥のことはお任せください」
「頼もしいのだー!」
「頼むぞ、八刻」
どうにか事態を打開しなければ、と意気込む3人だった。
●必殺仕事人たち
砂の上に座り、対峙する鳥と猟犬。
両者の間には張りつめる緊張感が――。
「やっぱ酔ってこその人生だよナァ?」
「うふふ、まったくそのとおりだわ!」
「乾杯しましょ! かんぱーい!!」
なかった。
笑いあって酒を飲みかわす神月と明王と梢子に、緊張感などありはしなかった。
鳥に酒を飲ませ、弱らせる。
そういう体で猟犬たちは盛大な酒盛りにその身を投じていたのである!
「ほれどんどん飲め飲メ! 酒ならたっぷり持ってきたゼ!」
「ほら明王さん、こっちは薩摩の芋焼酎よ! ささ、ぐぃっと!」
「やぁねぇ! こんなにお酒が飲めるなんて幸せ!」
げらげらと盛り上がる明王。
神月の手拍子に心を乗せられ、梢子がなみなみと注いでくる芋焼酎を一気に煽る。そうしてコップを空にすると、今度は神月がどかっと紹興酒を溢れるほど注ぐ。
どう見ても単なる酒宴だった。
「やっぱり大勢で飲むお酒はいいわね!」
「そうよねぇ! わいわい騒ぐのって最高!」
エディスもコップ片手に明王の隣に座り、ともに酒を喉に流しこむ。
ビルシャナとお酒を飲むなんて初めて、と少し構えていたのも今は昔。エディスさんは完全にいい気分になっていて、ぐいぐい日本酒を飲んでいた。
だが無論、空きっ腹に液体を落としこむばかりではない。
「ほら鳥さん、これも食べてみなさい?」
「むぐ……これは美味いわね!」
ネギソースが絡んだチキンチャーシューを口に放り、明王が目を輝かせる。エディスが持ってきたつまみはよく酒が進んで、明王の箸は止まることがなかった。
「貴方はお酒以外いらないっていうけれど、つまみを食べる事でよりお酒が飲めるでしょ?」
「そうね……考えを改めるべきかしら!」
「シフカおねえちゃん、こっちは?」
「あ、それは鶏皮ときゅうりよ!」
赤ちゃんハイハイで寄ってきたシフカに振り返り、彼女が指差す小鉢の説明を始めるエディス。シフカはそれをぱくっと食べると、ごくっと適当な酒を飲みこむ。
「おいしい! エディスおねえちゃんだいすき!」
「ふふ、ありがとうねシフカ! でもお洋服着ましょうね!」
「やだー!」
「あっ、シフカー!?」
抱き着いてきたシフカが『お洋服』の一言でぴゅーっと逃走する。猛ダッシュだった。
「シフカちゃんはやんちゃねぇ」
「そうね。あ、そんなことより明王さん、ブランデーでもいかが?」
「洋酒? もちろんOKよ!」
全裸女を見送った明王が、存在感あるブランデーボトルを見せてきたモモにサムズアップ。
差し出したコップにブランデーを注いでもらい、ビールでも飲む勢いでガッと煽る。
「お酒の後味をお酒で流す……最高だわ!」
「さすがね明王さん。ところでツマミにチョコレートは如何ですか? ナッツも入った私の手作りよ!」
「いただくに決まってるじゃない!」
返事より先に手羽が動き、チョコをつまむ明王。
だいぶ酔いが回ってきた彼女は、その場にごろんと寝転んだ。
「ふぅ……なんだか眠くなってきたわ」
「そうか。それは大変だ」
歩いてきた樒が鳥のそばで足を止め、そこに腰を下ろす。
あと、ポリタンクも置く。
中身は――海から汲んできた海水である。満タンに詰めてきたそれを空のコップに注ぐと、また別のコップに酒を注ぎ、樒はコップの二刀流に。
で、それを絶賛お休み中の明王の嘴に突っこんだ。
「ぐべべっ!?」
「通の酒飲みは塩をつまみにして飲むらしい、塩はないが幸い海の傍だからな。塩には事欠かないだろう」
「いやそれ塩ていうか潮ォォーー!?」
交互に注ぎこまれる酒と海水をくらい、じたばたと脚を暴れさせる明王。にも拘わらず無表情で液体を注ぎつづける樒さんの背中は間違いなく拷問者のそれである。
だが当然、止める猟犬はいない。
というかむしろ灯音が加勢した。
「樒、こうすれば楽なのだ」
「ふげっ!?」
ズゴッ、と嘴に漏斗をぶちこむ灯音。
とても注ぎやすくなったその口に、灯音は容赦なく一升瓶を逆さまにして酒を落とす。
「あばばばばばばっ!?」
「さすが灯、確かに楽だな」
「好きならじゃんじゃん飲むがいいのだー!!」
拷問者が2人になった。
と、そこへぬるっと現れる白黒。
「月篠様、四辻様、私もお手伝いしますね」
そう言った白黒が抱いているのは大型の水鉄砲。たぶん水圧とか半端ないだろうそれには、いっぱいの酒が装填されている。
察した2人が、場所を開ける。
「どうぞどうぞなのだ」
「この鳥もそこまでしてもらえれば本望だろう」
「ええ、頑張ります」
2人に微笑みを返した白黒が、水鉄砲の銃口を下ろし、鳥の嘴にはまった漏斗にあてがう。
もう、おわかりいただけるだろう。
「ぐぼぼぼぼぼぅ!!?」
「酒は呑め呑め、呑むならばぁ、酔いどれ鳥の御首を、呑み取るほどに呑むならばぁ……これぞ真のケルベロスなり」
トリガーを引き、ダイレクトアタックを敢行する白黒。
むせ返った明王がその純米吟醸をまき散らして大変だったのは、言うまでもない。
●宴が終わらない件
ところで忘れているかもしれないが、明王には自らの酔いを周囲に伝える能力がある。
つまり。
「ほらほらぁ、もっと飲みなさい」
「いやぁ、私、下戸なんでぇ……普段もノンアルしか飲まないんでぇ……」
明王に満杯のコップを押し付けられているモモが、朦朧とした意識の中で拒否を示す。
ナッツ入りのチョコを食べたり、オリーブオイルを混ぜたミルクを飲んだり、と酔わぬよう対策をしたモモだったが、明王の酔いが半端なかったのでガッツリ酔っていた。
下戸のモモさん、もはや行動不能です。
「つまらないわねぇ」
「鳥さんの背中、ふわふわのベッドみたいね……」
「エディスちゃんも結構ぐでんぐでんじゃない」
明王のふわもふ羽毛ボディにもたれかかっているのは、ブランデーグラス片手に絶賛泥酔中のエディスである。
酔うと甘えたがりになってしまうエディスは、包容力ありすぎの羽毛の虜になっていた。
「鶏肉の酒蒸しも絶対美味しい……」
「鶏が好きなのねぇ、エディスちゃん」
器用に背中に手羽をまわし、エディスの頭を撫でる明王。
一方、ひとしきり明王と酒を楽しんだ神月は、絡む矛先をシフカに向けていた。
「しっかし毎回全裸ってヨー、酒のアテにしちゃ刺激が強すぎねーカ? マ、あたしは好きだけどサ♪」
「うん」
シフカの肩に腕を回し、豪快に揺さぶる神月。
ちなみに全裸である。
シフカは全裸だし、神月も全裸である。
酒盛りでしっかり昂ってしまった神月さんだった。
「火照った体にゃちょーどいいナ! どうだシフカ、このまま海でも泳ぐカ!」
「うん」
ほぼ反射的に返事をしながら、ぎゅっと神月に抱き着くシフカ。
説明しよう! シフカもまた酔うと甘えたがり傾向になってしまうのだ!
「しょーがねーナ……今だけ姉ちゃんになってやるゼ!」
「うん」
夢中で神月に抱き着くシフカちゃん。
そこへそっと、灯音と樒は後ろから近づいた。
セーラー服を持って。
「今がチャンスなのだ、樒」
「さっさと着せてしまおう」
目を合わせて頷く2人。
シフカが「うん」しか言わないのを利用して、ちゃっかり着させる作戦だった。
ということでセーラー服をあてがう灯音。
「ほらシフカさん。可愛いセーラー服なのだ」
「そのままでは風邪をひくぞ。真冬だと凍死するだろうし、着たらどうだ?」
「やだ」
一瞬で作戦が瓦解した。
うん、しか言えないほど酩酊しているくせに、服だけは断固拒否だった。
ふぅ、と覚悟を決める灯音。
「セーラー服がダメそうなら網タイツバニーにするのだー!」
「灯、私が脚を押さえる」
「やだー!」
「やめろお前ラ! シフカに着せるってんならまずあたしに着せロ!」
「そもそもなんで神月さんも脱いでるのだー!」
灯音&樒、シフカ&神月の構図で壮絶バトルを始める4人。
わーわーと響く喚き声。
それをBGMにして、梢子や白黒は明王と普通に酒を飲んでいる。
「明王さん、おつまみも色々あるけど……私はその中でもすいーつをおすすめするわ!」
ばばん、と梢子がひろげた風呂敷に乗っかっているのは、彼女が厳選して持ってきたスイーツたちである。
その中からぽいぽいとピックアップして、梢子は明王に差し出した。
「焼きどーなつや、とっておきのおはぎも! それにたい焼きも色々! お酒のおつまみにどう? こっちのお菓子にはお酒が入ってるし、絶対に酒にも合うわよ!」
「甘味……それも美味しそうね!」
ウイスキーボンボンや、ブランデーを含んだケーキ等々……風呂敷の上のスイーツを見て涎を垂らす明王。梢子と一緒にスイーツを味わうさまは完全に女子のノリだ。
だが、そこは酒飲みの席。
生ぬるい女子会ではない。
「塩気の利いたおつまみをいくつか持参していきますが、いかがでしょう?」
「白黒ちゃん、気が利くわねぇ!」
「あら美味しそう!」
白黒が披露したタッパーを見て、目をきらっきらにする明王&梢子。
タッパーの中身は、薄切りにしたサラミと味噌を強めに塗りこんだ焼きおにぎり。しっかりした塩気はスイーツとのコントラストも利いて、自然と食べ続けてしまう。
「これはお酒が進むわぁ!」
「乾杯しましょ! これは乾杯するしかないわ!」
「ふふふ……ええ、もちろん私もお付き合いしますね」
かんぱーい、とカチンとコップを合わせる明王、梢子、白黒。
その後ふらりとやってきた神月が「一本締めで締めとくカァ!」と明王にパンチをぶっこむまで、3人の宴は続いたとか。
●飲んだあとはつらい
ざざーっと往復する波。
その波音に紛れて、梢子さんは人知れず海に吐いていた。
「気持ち悪い……飲みすぎた……」
『……』
地獄の苦しみを味わう妻の背中を、優しくさする葉介(ビハインド)。全裸女がいたため独り浜辺を散歩していた葉介は、きっと『参加しなくてよかった』とか思っていることだろう。
「皆ー……気分悪いから、後はよろしくねー……」
「んー……ねむぅい……」
横たわって動かないのはモモとシフカである。
程度は違えどともに酒に弱い2人は、もはや死んでいた。
「こういう時に、即効性のある酔い覚ましがないのは本当に面倒だな」
「酔いは、ヒールでさめるでしょうか……?」
モモたちに水を飲ませてやっている樒の横で、白黒はぐるぐる回る世界の夜空を見上げている。ちなみにヒールしても世界は回りつづけたらしい。
一方、2人の後ろで灯音は悔しげに砂を叩く。
「服を……着せれなかったのだ!」
戦いには負けたらしい。
「ならもういっそ……月ちゃんも脱ぐのだ!」
「灯、そこまでだ」
服の裾に手をかけた灯音を、がしっと止める樒。
愛する伴侶の裸身をほかの人に見せるわけにいかない。眼差しは鉄のように強固だった。
「なァ、お前ラ! まだまだ呑みたりねーよナァ!?」
酔いで消沈する中で快活に声をあげたのは、神月だ。いまだ元気な彼女はぐるりと仲間たちを見回した――が、返事は1つもない。
反応したとすればエディスぐらい。
「……お酒はともかく、拉麺は食べに行きたいわね」
「仕方ねエ! じゃあとりあえずラーメン行くか!」
エディスの肩を捕まえて、夜の街へ繰り出す神月。
その背中が完全に見えなくなる前に――シフカはすやすやと寝息を立てながら、呟いた。
「んゅ……みんな……ありがとう……」
寝返りを打つシフカの腕の中には、いつの間にか明王の遺した酒瓶が抱かれている。
一滴でも泥酔するほど弱いくせに、どうしてちゃっかりゲットしてるんや。
作者:星垣えん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年10月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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