紅染の宵に

作者:崎田航輝

 はらりと舞い落ちる葉は、鮮やかな紅色だった。
 藍色の夜にも色彩が映える程、木々が濃密な色を得る深い秋。明るい時分にも賑わいを見せる紅葉の公園に、今宵多くの人々が訪れていた。
 それは夜にだけ行われる紅葉祭りが催されているから。
 公園と木々は優しい灯りにライトアップされ、紅葉の美しさを崩さぬまま、並木の遊歩道を仄明るく照らしてくれる。
 その道を歩んでいけば、屋台のある通りにも出て、夜風に温かな美味を楽しめた。
 静かに景色を眺め、食を味わって。人々は秋の宵をそれぞれに過ごしている。
 と──そんな公園の、ずっと奥。
 木々と落ち葉の間に、一つの小さな照明器具が埋もれていた。
 今宵の祭りに使われているものではない、ずっと旧い型。おそらくもっと以前に使われて、そのまま忘れ去られてしまったもの。
 そこに、かさりかさりと近づく影があった。
 コギトエルゴスムに機械の脚が付いた、小型のダモクレス。
 その壊れたライトに近寄って、内部に入り込み一体化。人型にも見える形へと姿を変えて俄に動き出している。
 そうして落ち葉を踏んで、木立を抜けて──人々の気配に惹き寄せられるように、或いは優しい灯りに引き付けられでもしたかのように。
 命を得た機械は、祭りの只中へと踏み出していった。

「ダモクレス、か。放ってはおけないね」
 そよ風の吹くヘリポート。
 秋らしい気候の中で、影守・吾連(影護・e38006)はそんな声を零している。
 ええ、と応えるのはイマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)だ。
「人々も楽しんでいる最中のことですから。憩いの時間が無くならないようにしたいですね」
 話は、とある公園にてダモクレスが出現してしまう事件のことだった。
 木立の中に放置されていた照明器具があったらしく──そこに小型ダモクレスが取り付いて変化してしまうのだという。
「このダモクレスは、人々を襲おうとするでしょう」
「そうなる前に、対処しないとね」
 吾連が声音に力を込めると、イマジネイターも頷いた。
「現場は公園の奥部といった場所です」
 人がいる場所から離れているわけではないが──今回は避難が事前に行われる。こちらが到着した頃には、周辺の人々も逃げ終わっていることだろう。
 こちらは戦闘に集中すればいい。
 景色を傷つけずに終われる筈ですので、とイマジネイターは続ける。
「勝利した暁には、皆さんもお祭りに寄っていってはいかがでしょうか」
 夜の紅葉が綺麗で、遊歩道や広場など各所で景色が楽しめる。
 公園内を流れる川は木舟で渡ることも出来て、水面に浮かぶ紅葉や周りの眺望もゆっくり味わえると言った。
「屋台も沢山ありますし、食べものを楽しむことも出来ますよ」
「楽しそうだね。そのためにも、しっかりと敵は倒さなくちゃ」
 吾連の言葉に、イマジネイターは頷いた。
「皆さんならば勝利できるはずですから。ぜひ頑張って下さいね」


参加者
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
副島・二郎(不屈の破片・e56537)
 

■リプレイ

●夜紅
 仰げば淡い明かりに映える朱。遠くを見れば藍空と溶け込んだ紫。
 季節の彩を帯びた紅はどの角度でも美しく、公園へ入った藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)は目を惹かれないではいられない。
「木々が色づく頃になると秋を実感しますね」
 黒髪を揺らす涼風も、巡る時節に相応しい温度。
 だからこそこんな秋には、共に紅葉を愛でられたならば良かったのですが、と。
 景臣はそこで木立の奥に瞳をやった。
 そこに──かさり、と。
 一つのシルエットが動く。
 それは人型にも似た形を得た、旧い機械のダモクレス。
 副島・二郎(不屈の破片・e56537)は仄かに混沌を揺蕩わせる脚を止め、瞳を細める。
「照明器具、か。ダモクレスも色々なものに目をつけるのだな」
 声音には感心の色もある──無論、すぐ後には剣を抜いていたけれど。
「何であれ、暴れさせるわけにはいかんからな」
「そうですね。まだ人々に被害が出る前で良かったです」
 だからこそ確実な撃破を、と。
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)も美しき細剣を手に取り、碧の瞳に戦意を込めて。
「行きますよ。折角の紅葉祭り──滅茶苦茶にしようとするならお仕置きです!」
 気合十分、まずは先手を取ろうと剣を振るう、が。
「ぬわっ!? 眩しいっ!」
 スカッ。その照明人形が発光と共に避けると、予想外の眩さに手元が狂った。
「足元を少々、固めさせて頂く必要がありそうですわね」
 と、まろぶ花のような柔い声音と共に、ひらりと降り立つのはシア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)。
 新緑の髪をふわりと揺らがせ、花薫る爽風を吹かせていた。
 それは花々の幻を顕す『轍花』──その素朴な美しさに魅了されたかのように、敵は足元を見て一瞬動きを止めた。
「お願いしますわね」
「ん、任せて」
 応えてそこへ飛翔するのは空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)。
 深色の翼で風を切り、木々を縫いながら加速して──握るのは星天鎗アザヤ。
 夜空を思わす重槍をくるりと廻転、遠心力を抱かせると、放つ一撃は強烈。金属音を響かせて敵の体を軋ませていく。
 破片を零した照明人形は、それでも自らの存在を示すように光を瞬かせた。
 見るものを焦がすほどの光量、けれど。
「灼かれやしない」
 醒めた声音が炎まで払ってしまうように。
 ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)は明るい光の中でも冥い瞳のまま、星剣を滑らせ星粒を振りまいていた。
 溢れ出た煌きは冬の星座を模って、加護を齎しながら冷たく炎傷を浚ってゆく。
 同時に二郎も剣を掲げて守護星座の煌きを降ろし、後衛にまで護りを広げて戦線を憂いなくしていた。
「これで準備はいいだろう」
「ならば、わしは攻めるのじゃ!」
 熊耳と熊尻尾を可愛らしく揺らしながら、すたりと駆けゆく影が一人。
 端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)。敵の明かりで目が眩まぬよう、照明を周囲に起きながら──照明人形へ接近。
 細腕でも膂力を発揮して引き寄せて、強打。真っ直ぐの拳で敵にたたらを踏ませると、視線を横へやった。
「お次は頼むのじゃ!」
「──ええ」
 直刃を抜く景臣は、眼鏡を外した菫青の瞳に紅の獄炎を揺らがせて。
 藤色の朧でしかと敵を見据えて接近。敵が光彩を燦めかせても、刃で受け流して斬撃。獄炎を抱いた一閃で深い傷を刻みつける。
 鈍い音を立てながら、照明人形はそれでも反撃を試みるが──ノチユが既に斧を扇形に振るっていた。
「壊れた道具はちゃんと捨てなきゃな」
 だから壊れていろ、と。箒星にも似た焔の残滓を刷いて、機械の体を薙いで転ばせる。
 そこへミリムが踏み込み、剣に花風を纏わせた。
「今度こそ行きますよ! 準備万全なら今度はこの剣、外しません!」
 花弁の吹雪が風に踊る、流麗な剣撃。突き通す一閃が照明人形を深く貫いてゆく。

●静闇
 横たわる照明人形は、かさりと落ち葉を踏んで立ち上がる。壊れかけでも光を明滅させる様は、まだ耀きたいと言っているかのようで。
「この照明も、かつて頑張ってお祭りの賑わいを支えてくれた道具であったのじゃろうな」
 括は見つめながらふと呟いている。
 シアもそっと瞑目した。
「ええ。その昔はきっと──いっとう良い場所で紅を眺めていたのでしょうに」
 けれどそれがもう叶わないと知っている。
 故に無月も、ん、と小さく声を継いだ。
「自分が人を照らしたいのか何なのか、知らないけれど。人を守らないと、ね」
 あの灯りはもう、人にとっては眩しすぎるものだから。
「──ダモクレスは倒すよ」
「うむ、人の為にあってくれたからこそ。ダモクレスの悪逆に利用しようなぞとは捨て置けぬのじゃ!」
 誰も傷つけさせずに終わらせる。
 その意志を体現するよう、括は六発の弾丸に御業を込めて分身と為し、連携して射撃を敢行。銃弾で輝く陣を描いた。
 『七生報心・黄泉津括』──それは生と死を分かつ結界。そこへ最後に撃ち込む弾丸は耀きと共に照明人形の命を削り取る。
 よろける敵へ、無月も慈悲を与えない。
 地を蹴って加速度を得ながら、ぱり、ぱり、と。槍へ纏わせるのは氷の霊力。厳寒の冷気となったそれは矛先を氷で覆い、一層の鋭さを宿させる。
 凍てつけ、と。
 その矛で繰り出す一撃は『烈凍槍』。突き抜ける衝撃が照明人形を貫通し、その全身を冷気で縛っていた。
「このまま、畳み掛けて」
「ええ」
 小さく応えるシアも、静かに、けれど手加減なく敵へ攻撃の手を向ける。
 閃かせるのは、火花が花弁のように散りゆく鮮やかな雷光。烈しい衝撃を与えながら、しかし景色には傷一つつけないのは──。
(「散る葉も綺麗でしょうけれど。本当の貴方が、きっとそれを望んでいないから」)
 旧い灯りが嘗て照らした木々を、そのままに、と。
「せめてこの美しい紅葉の中で送ってさしあげましょう」
 それが唯一の出来ることだと、瞬く光で敵だけを的確に灼いてゆく。
 苦しむ照明人形はそれでも一層光るけれど、ミリムはもうその眩さに惑わない。
「皆さん、今すぐ治します!」
 光を浴びた仲間へと、大地から魔力を引き上げて。柔らかな薄明かりで優しく包んで皆を治癒していく。
「幽子も頼むのじゃ!」
 と、括が云えばこくりと頷くのは巫山・幽子。治癒の光を盾役へ投与し助力する。
 時を同じく、二郎も胸部と腹部の混沌を強く揺らがせていた。
 二郎が己が体を治療の為の力とすることに躊躇わないのは、自身のことを「ただの武力」と言って憚らぬからでもある。
 けれど同時に、人を守りたいという意思も確かに存在しているから。その力は一層強く仲間を治癒し、体力を万全としていた。
「……これで不安はないだろう」
「では、反撃に出ますよ!」
 溌剌と奔るのはミリム。
 剣を握り直すと、鮮やかな緋色の闘気を纏いながら。花を描くよう、剣閃を踊らせて『緋牡丹斬り』。痛烈な衝撃を重ねて敵の四肢を刻んでいった。
 倒れ込みながら、それでも照明人形は灯りをちかり、ちかりと明滅させる。
 ノチユは小さく首を振り刃を掲げた。
「そんな風に瞬いたって、お前にはもう価値はないんだ」
 もう役目を終えたんだ──だから眠れ、と。与える一撃は『冥府に消ゆ』。灯りの無い世界へその魂をいざなってゆく。
 光が消えても、その人形は藻掻いて動く。
 けれど景臣が静かに立ちはだかって。
「この場所を、別の赤で彩られては困ります。ですから──どうかお許し下さいね?」
 静謐の声音から、抜き打つ一閃は疾風のごとく。
 正確に急所を両断する斬撃は文字通りの『葬送』。照明器具が手に入れた魂を断ち切り、その命を奪った。

●秋紅
 静寂の中に、はらりと紅色の葉が落ちる。
 戦いを終えたそこはもう、穏やかな木立。シアはゆっくりと見回していた。
「紅葉に傷がつかずに、済みましたわね」
「ああ」
 二郎も視線を巡らせ、明媚な景色を確認する。木々には被害が及ばず、紅葉は変わらず鮮やかな色を見せていた。
 ただ、地面だけは少しばかり荒れていたからミリムはヒールを始める。
「ここだけ直して行きましょう!」
「手伝う、ね」
 と、無月も修復に助力することですぐにその場は元通り。
 避難も解除されれば、人々も戻り始めて再び祭りの空気に満たされた。
「さあ、私たちも紅葉祭りを楽しみましょう!」
 ミリムが言えば皆も頷いて。紅色の景色をそれぞれに歩み始める。

 夜に彩られた紅葉は、どこか昼とはまた違う気品がある。
 濃い紅は鮮やかだけれど、そこに藍色と涼風のヴェールがかかって静やかだ。
 ゆったりと歩みながら、景臣はそんな色彩を愛でていた。
「宵の紅葉も……趣があるようで」
 そっと手に握るのはスマートフォン。機械に疎い景臣ではあるけれど、漸く慣れ始めてメールとカメラくらいならば扱える。
 レンズをそっと上方へ向けて、数枚。夜空と紅が調和した写真を撮ることが出来た。
 遊歩道からは川も見える。ひらりと舞う落ち葉につられてそこへ視線を落とすと、艷やかな水面が窺えた。
「……おお、これはこれは」
 川面には、川沿いの紅葉が映り込んでいる。それはもう一枚夜の衣を羽織ったような色合いで、思わず景臣に写真を撮らせた。
「皆さんがカメラを用意する気持ちも分ります」
 その美しさを暫し堪能しながら、景臣はまた歩を進め出す。

 無月は早速、屋台のある通りにやってきていた。
「たくさんある、ね」
 紅の瞳を巡らせて見回すと、店はよりどりみどり。甘い匂いに芳ばしい香り、どこも賑やかで人気のようだった。
 その中から、無月は暫し迷ってから林檎飴を購入。食べつつ歩むことにする。
 綺麗な紅色が紅葉に似て、甘くて美味。味わいながら景色を眺めると、一層木々が鮮やかに見えた。
「……ん」
 おいしかった、と。
 林檎飴を食べきると、次はたこ焼きを買って。次は川沿いを歩みながら、涼風と並木を楽しむことにした。

 夜風に優しくミモザを揺らしながら、シアは歩みゆく。
 紅色の並木を抜けると、今度は朱の提灯が明るい屋台通りに出る。
「まあ、皆さん楽しそう」
 行き交う人々に溢れる笑顔。
 そんな眺めにシアも表情を和らげながら……揚げ餅を購入。ころころと可愛い一口サイズで温かな湯気が魅力だった。
 お酒は弱いので、飲み物はお茶を用意して。シアは並木沿いのベンチに腰掛けてゆるりと過ごすことにする。
「とても、美味ですわ」
 さっくりとした歯ごたえと、快い温かさの餅を味わって。お茶を一口含んで瞳を細めながら紅葉を仰ぐ。
 印象的な赤は、夜天と相反するはずなのに不思議と相性がよくて。
 藍に溶け込む紅が一枚、木々から落ちてくるとそれをつかまえて、シアはほんのりと微笑んでいた。

 括は雑踏に紛れつつ、屋台の並ぶ一角へやって来ていた。
「うむ、賑やかじゃのぅ」
 人々の営みがしかと戻ったことを実感して頷きつつ──目線は店々へ。いい匂いに惹かれて見回す。
「どんなものがあるかのぅ」
 そこでおや、と見つけたのはたい焼きのお店。
 大好きなものを見つけてまずは一も二もなく購入。ほかほかの温度を手に抱いて満足していると……さらにもみじ饅頭の屋台も発見した。
「流石紅葉祭りじゃ」
 折角だからとそれも買ってみる──だけでなく。
「甘いの食べたらしょっぱいのが欲しくなるのも道理じゃしー……」
 ついでに焼きそばも見つけて調達。それらを手に遊歩道をぶらりと散歩することにした。
 たい焼きは焼き立てで外はかりっとして、中はたっぷりの餡が美味。もみじ饅頭は柔らかで、白餡が風味豊かだ。
 焼きそばの塩気が更に食を進めて、括は上機嫌。
 暗い夜空に照らされる紅葉、それも山や杜ではまず見られないものだから。
「紅葉、賑わう人々、それにおいしい食べ物。言うことなしじゃな」
 頷きつつ、ゆっくりと時間を堪能していく。

 さらさらと木々を揺らす宵風は、秋の薫りがする。
 二郎はその中の遊歩道を暫し散策していた。
 人通りの戻った公園は和やかで、過ぎゆく人々が皆楽しげな表情をしている。
「……良かった」
 小さく呟くのは、守るべきものを守ることが出来たという実感を覚えたからだ。戦いに勝利していなければこの時間は訪れていない。
 だからそれに寄与できたことには静かな喜びを感じてもいた。
 木々も元の姿のままで傷ついていない。故に人々がこれからもここで過ごしていけるだろうと思える事が良かった。
「何か、買っていくか……」
 それから一つ二つ、屋台で食べ物を買いながら──静かな川沿いへ。はらりはらりと落ちてくる紅葉を眺めて、歩んでいった。

 夜の紅葉の間を、宵が歩んでゆく。
 ノチユは仄明るい屋台通りで、少し買い物。甘いものを中心に、後で皆にも食べてもらえるようにと人数分を見繕っていた。
 同時に、先刻からずっと周囲を見渡して人探し──というのも。
(「……居た」)
 幽子が迷っているのではないかと思ったから。
 公園に戻ってきた人々に流されてしまったのだろうか。予想通り、人波の中で幽子がうろうろしていた。
 ノチユが近づくと──星屑煌めく黒髪を見つけ、幽子がほっとした顔を見せる。
「エテルニタさん……会えてよかったです」
「ここ、人多いから抜けようか」
 ノチユがそっと手を差し出すと、幽子はそれに触れて道の際まで出て、お礼を言った。
 そこで丁度、ミリムも歩んでくる。
「巫山さん、探しました! 一緒に出店へ行きませんか?」
「お店、行きます……」
 というわけで幽子はミリムと共に歩んでいく。
 ノチユは一人座って、景色を暫し眺めた。
 いつまで経っても人混みは慣れなくて。ちらりと視線を動かすとまだ幽子の姿が見える。
「……」
 少し遠くで眺める彼女はやっぱり綺麗で──日本の風景がよく似合うと、そう思った。

 ミリムは幽子と共に屋台通りへ。
 色々な店がある中、見回して振り返る。
「甘いお酒とか、一緒にどうですか?」
「ウィアテストさんが宜しいのでしたら……」
 幽子が言って頷くので、ミリムはでは行きましょう、と買い物へ歩み出す。
 勿論食べ物も一緒だ。焼きそばに焼きとうもろこし、苺飴に綿あめも買い込んで、両手いっぱいに準備。
 最後にお酒を揃えてベンチで飲み食いをしようということになった。
「お酒は好きなの選んでくださいね」
 と言った通り、果実酒からカクテル、甘口の日本酒まである。幽子は果実酒を頂きつつ、ぱくぱくと苺飴を食べ始めた。
 ミリムもカクテルを飲みつつ、焼きそばを啜る。
「お祭りでしか味わえない味、いいですね」
「美味しいです……」
 ミリムの言葉に幽子も静かに頷く。
 焼きそばは濃いめだが、こういう場所はそれが美味。ソースの焦げ目までもが美味しく……焼きとうもろこしも醤油の薫りが食を進めさせた。
 ミリムはよく食べる幽子に感心しつつ言った。
「今日はご助力ありがとうございました!」
「こちらこそ……皆さんのおかげで、私も助かりましたから……」
 幽子も応えて──暫し酒盛りと食事は続く。

 その後、幽子と散策に出たミリムは……ライトアップが一層美しい広場を見つけた。
「綺麗ですね……!」
 こんな場所を見ると、何か形に残したくなってくる。
 すぐに思いつくと、特に紅葉が映える一角を見つめた。
「せっかくの機会です。皆さんを誘ってあそこで記念撮影しましょう!」
「……おや? 記念写真、それは名案ですね」
 と、声を向けたのは付近を歩んでいた景臣。
 丁度近くに他の仲間達も見つけ声をかける。
「では皆さんも入りましょう」
「それじゃ、折角だから」
 言って頷くのは無月。とことこ歩んで、ミリムが三脚を立てたその先で止まる。
 シアもそこへ通りかかる。ミリムが誘うと手をぽんと合わせて笑顔で応えた。
「まあ、記念撮影? よろこんで!」
「さあ、こちらへ」
 と、景臣がやんわり手招くのは二郎。
 二郎はこういったものにも関わろうとする気持ちはあれど、陰気なものがいていいのかと自分の中で思っていたけれど……。
「では、邪魔しよう」
 最後には招かれるままに参加。
「ほらほらコッチ、いきますよ!」
 ミリムがカメラのタイマーをセットすると、そこにノチユも頷いて参加。更に括もそこへ加わった。
「全員集合じゃな」
「……あ、屈んだ方が良いでしょうか?」
 景臣が気遣いつつ、皆が入るようにすると──パシャリ。
 鮮やかな紅葉と数片舞う落ち葉、そして皆の姿──秋に残る思い出となろう一枚を収めることができた。
「いい感じです! 皆さんに配りますね!」
 ミリムが笑顔で確認していると、ノチユは皆に買った食べ物を提供した。
「もし小腹空いてたら」
 皆がそれぞれ受け取ると、幽子もクレープにチュロス、スイートポテトともくもく食べていく。
 ノチユはそれを見つめてから、ふと自身に考えが及んで目を閉じた。
 自分はこうして必ず会いに来るけれど──そのくせ何も伝えない辺り拗らせていて馬鹿らしい、と。
 ただ幽子が食べてる姿が今日も嬉しくて……また少し眺めていた。
 括も食べ物の手土産は持っている。
「わしもたっぷりと用意してあるのじゃ」
「それじゃあ改めて皆さんで食事しましょう」
 ミリムが言うと、無月も、ん、と頷いて。
 シアも秋の花のような上品な笑顔を見せていた。
「こういう日も、素敵ですわね」
 そうして皆でまた歩いてゆく。その姿を見守るよう、紅の葉がそよいでいた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年10月23日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
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