くっ! ダモのせいでマヨネーズが飲み放題に……!

作者:星垣えん

●とてもマヨマヨしている
 深夜。
 都会の喧騒届かぬ郊外にあるマヨネーズ工場は、当たり前だが静まり返っていた。せっせと卵を蓄えて、パカパカと割ってゆく巨大な割卵機はひとときの休息に入っている。
 そんな静寂の工場の裏手――廃棄物が雑多に置かれた一角に、鈍く銀色に輝く物体があった。
 ごくごく小さな割卵機だ。
 簡素な卵受けと、1度に5個程度しか卵を保持できないアーム類。それはとても大量生産には向かなくて、どうしてマヨネーズ工場のゴミ置き場に在るかさえわからない。
 もしかしたら、創業当時に小さな会社を支えた割卵機だったのかもしれない。
 工場が大きくなり、生産量に合わせて引退した割卵機だったのかもしれない。
 もはやなぜ残っているかも忘れられて、廃棄された割卵機なのかもしれない。
 歴史も真相も知る術はない。
 しかしひとつだけ、わかることがある。
 空からひらひらりと舞い降りてきた超小型ダモクレスさんが、そのまましゅるーっと小さな割卵機の中に入りこんだことだ。
 つまりである。
「マヨォォォォォーーーーーーーー!!!」
 割卵機さんが現代に大復活しました。
 サイズも立派になって体幅5mにもりっと拡張。卵受けはふんわりオーラで満たされて大量の卵も優しく受け止めてくれるだろう。アームなんて数が10倍ぐらいになってる。毎時何万個と割卵してくれる雰囲気しかない。
 しかし嗚呼、なんという悲劇。
 割卵機さんはただの1個も卵を与えられていない!
「マヨォォォ………………!!!」
 割卵機さんもといダモさんの悲しい呻きが、深夜の工場にひっそりと響く。
 卵がなければマヨネーズを作れない。
 その絶望に打ちひしがれて、ダモさんは独り夜空に「マヨォ」と呟きつづけるのだった。

●飲み放題ですってよ
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)から大体の予知状況を聞くと、空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)は小さく唸った。
「割卵機だなんて、またマニアックなものに取りついたな……」
「世の中にはいろんな機械がありますよね」
「……まあそうだな。人間の探求心たるや、という感じだろうか」
「欲望が進化を生むんです!」
 何かわからん間に人間論まで飛躍するモカとねむ。
 そんな2人に「はよ説明せい」という視線を送ることで、集められた猟犬たちはようやくまともな説明を受けることができた。
「マヨネーズが飲み放題です!!」
 まともじゃない!
 ぴょこっと拳を突き出してるけど、ねむちゃんの発言がまともじゃねえよ!
「卵1個を持っていくだけで、市販のチューブ20本分はいけるらしいぞ」
 モカさんもまともじゃねえよ!
 買ってきたマヨ1本持ってるのが明らかにまともじゃねえよ!
「巨大化した割卵機さんは今は静かですけど、いつ人々に害を及ぼすかわかりません。だからみんなには急いで工場に向かい、マヨネーズを持って帰ってきてほしいんです!」
 あるべき文章の繋がりとか無視して、くわっと言い放つねむ。
 到底まともな説明が期待できそうにないので、猟犬たちは自ら現在の状況を整理した。
 たぶん、割卵機と合体したダモクレスを倒してこいっていう依頼だと思う。
 そうに違いない。
 情報を呑みこんだ猟犬たちが、ひとつ確かに頷いた。
 それを見ておもむろに口をひらくモカ。
「割卵機はもともとマヨネーズ工場にあった物だからか、卵を投入するとなぜか大量のマヨネーズを作り出してくれるそうだ」
 かなりどうでもいい話だった。
 せっかく正常な方向に引き戻したつもりだったのに、また話題がマヨに逆戻りだよ。
「ちなみに卵をあげると喜ぶから、しばらくは安全になるだろう。その間にマヨネーズを存分に味わうことができるわけだな」
「もちろんマヨネーズに合わせる物は、ねむたちで用意してあります!」
 がさっ、と大きなビニール袋を無数に置く。
 中身は卵、新鮮な野菜や、ツナやらといった食品類。あとジョッキ。
 一部ツッコミどころが見えるそれらは、明らかに近所のスーパーとかで買ってきたっぽかった。予知してから店が閉まる前にせっせと買ったのかなと思うとちょっとだけ頭が上がらなくなる一同であった。
 これで、すべての準備は整った。
 モカはびしっと、これから昇るべき夜の空を指差す。
「では行くか。マヨネーズが我々を待っている」
「今夜はマヨネーズパーティーですね!」
 ぱちぱちぱち、と拍手を響かせるねむ。
 ――かくして猟犬たちは、深夜マヨネーズという大罪を犯すことになりました。


参加者
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
ノイアール・クロックス(菫青石の枯草色・e15199)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)

■リプレイ

●どっから持ってきた
 これは果たして何らかの遊具だろうか。
 そう思えるほど雄大な割卵機を、ノイアール・クロックス(菫青石の枯草色・e15199)と柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)は見上げていた。
「マヨネーズ飲み放題と聞いて!!」
「あれだな、食いもんにかけて食う白いあれだな。分かるぜ」
 マヨネーズのことしか見えていなかった。
 ノイアールのミミック『ミミ蔵』はもうダモさんの銀色ボディに齧りついているし、鬼太郎のウイングキャット『虎』もぐるぐるとダモさんの周りを飛んでいる。早くマヨネーズを出すんだと言わんばかりに。
 だが鬼太郎は、はたと思った。
「酒のつまみには使えそうだが、直飲みは俺には考えられねえぜ」
「や、自分も飲まねえっす。ミミ蔵は浴びるほど飲むっすけど、マヨネーズ」
 きっぱり答えるノイアール。
 その後ろで空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)もまた首肯している。
「マヨネーズは飲み物だと言ったな。あれは嘘だ」
 一般常識を語っているとは思えない涼やかな目つきで、モカは言った。
 周りの返事はない。常識だから。
 モカの咳払いが静かに響く。
「いやほら、マヨネーズなんてそんなゴクゴク飲める物じゃないよ。ゴクゴク飲める物と言ったらほらアレだ、ビールだ!」
「ビールか。地球には『トリアエズナマ』という精神が根付いているようだしな、俺ももちろん付き合おう」
 酒の話になるなり秒で反応する鬼太郎。その両手にはすでにビール瓶とジョッキが持たれており、モカは無言で拳をぐっとやる。
 悪い大人しかおらんやないか。
「まったく、何をしているんだお前らは」
「玉榮殿」
 鬼太郎がその声に振り向いたのは、玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)。
 黒豹の獣人はクールな大人の顔つきでダモさんを見上げると、両手に持った袋をモカと鬼太郎に見えるように持ち上げた。
「宴会と聞いて持ってきた」
「「こ、これは!」」
 がさっと中身を覗いた2人が驚愕する。
 ほくほくの潰した南瓜、スライスしたアボカド、そして下味のついたラム肉が、袋の中で宝物のように眠っていた。
 陣内も悪い大人やないか。
 漂いはじめる濃厚な酒盛りのにほひ。なんでかダモさんも「マヨォ!」と気合の入った雄叫びを上げる。
「ダモ氏もやる気みてーダナ。ウチもやる気だゾ!」
 がらがらと工場からドラム缶を転がして登場するアリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)。持参した山のようなポリバケツに横付けすると「フー」と額を袖で拭った。
「これで沢山持ち帰れるナ!」
 上機嫌のアリャリァリャさん。
 しかし、そこで気づく。
「……よく考えたラ、肝心の卵がそれだけの数を用意できネー……ゴメンナ」
「まあそれはしょうがないっすよ」
 しょんぼり肩を落とすアリャリァリャを、ぽむぽむ慰めるノイアール。
 そう、いくらダモさんが超性能だとしても、原料がなければマヨは作れない。
 毎時数万個のスペックがあったとしても、それに見合う量の卵を用意できなければ宝の持ち腐れなのである。
「マヨォ……」
 アリャリァリャの落胆を受け、ちょっとしんみりするダモさん。
 ――だがそこへ。
「皆さん! お待たせしました!」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)の明るい声が響いた。
 野暮用がある的なことを言ってヘリオンを途中で降りたミリムが、ようやっと仲間たちと合流したのである。
 その背後に「ずごごご」とクソでかいタンクローリーを引きずりながら。
『……』
 もう何か言葉もない一同。
「さあ、準備は万端です!」
 なぜか胸を張るミリム。
 果たしてこれに詰めこめるだけの卵があったかなあ、と思うしかない仲間たちだった。

●マヨうめぇ
「「乾杯!!」」
 夜の工場敷地に、ジョッキを打ち鳴らす高い音が響く。
 そのまま腰に手を当ててぐいーっと黄白色の液体を口に流しこむのは、アリャリァリャとミリムである。ジョッキ1杯を飲み干した2人は口の周りにマヨヒゲを作り、ぷはーっ。
「やっぱりできたては美味しいですね!」
「あぁ。やめられネー止まらネー! オカワリ!」
「あ、じゃあ私、卵入れてきますね!」
 とりあえずもう1杯、とダモさんのマヨ排出口に走るアリャリァリャと分かれて、卵の投入口に立つミリム。ねむから頂戴した卵をぽいっと放るとダモさんはぶるっと震える。
「マヨォォォ!」
「どうですかー? アリャリァリャさーん?」
「スゲー! どばどば出てクル!」
 ダモさんからたっぷりと放出されるマヨネーズを見て、ジュルリするアリャリァリャ。
 すると彼女はジョッキにシリアルと生卵を入れ、そこに湧き出るマヨネーズをなみなみと注いだ。締めにバニラアイスを乗せれば――立派なパフェの完成だった。
 もちろんアリャリァリャは一気飲みした。
「プハーッ! マヨの酸味がイイゾ!」
「す、すごいものを食べますねアリャリァリャさん……」
「食うカ?」
「い、いえ! 私はマヨネーズで十分です!」
 ぐいっとジョッキマヨネーズを飲むミリム。濃厚な口当たりは罪の味がして、明日を思えば憚られるが、しかしできたてマヨの前ではミリムも我慢が利かなかった。
 一方、その横では。
「ミミ蔵もたんと飲むっすよー」
「――!」
 がぱっと口を開けたミミ蔵の上で、ノイアールがマヨ入りのジョッキを逆さまにしていた。
 どろりと落ちてくるそれを受け取ったミミ蔵は一瞬で吸収。少しだけ喜びの小躍りをすると再びあーんと口を開けてくる。気まぐれで与えたマヨネーズをすっかり気に入ったミミックは、もはやマヨがないと文句を言ってくるぐらいにはマヨラーだった。
「ほらもう1杯っすよー」
「――!」
 狂乱のマヨ飲みを繰りひろげるミミ蔵。
 陣内と鬼太郎は、それを座りながら眺めていた。
「すごい世界だな」
「ああ。胸やけしてしまいそうだぜ」
 ぐっと厚い胸板を押さえる鬼太郎。その足元で虎がマヨをぶっこんだツナ缶にがっついているのは見ても大丈夫だったが、直飲みにはさしものオウガも圧倒されてしまった。
 このままでは胸がつらい。
 ということでナチュラルにジョッキにビールを注ぐ鬼太郎。
「ここはビールを飲むしかあるまい」
「異存ないな」
 ガン、と黄金色に輝くジョッキを鳴らす悪い大人たち。ぐいっと呷ってジョッキを離した口には見事な泡ヒゲがくっついているが、堂々と拭いもしない2人を見てるとなぜか勲章みたいに見えてくる不思議。
 それを、隣からジトッと見つめるモカ。
「勝手に始めているとは、お前たちも薄情だな」
「いやちゃんとモカの分も用意してるぞ」
「おう。キンキンに冷えたやつをな!」
 当然とばかりにビールのジョッキを掲げる鬼太郎。モカは肩を竦めながらそれを受け取ると、自分の目の前のものに視線を落とした。
 炭火コンロに乗せた合わせ鉄板。ホットサンドメーカーである。
「そろそろ頃合いだろうか」
 火から上げて鉄板をひらくモカ。
 すると中から熱気が迸り、その気が晴れた先に……熱々のホットサンドができあがっていた。
「ひとまずこいつをつまみに飲もう」
「それはいいな」
「鉄は熱いうちに打て、飯も熱いうちに食えだな!」
 鬼太郎の意味不明な格言をスルーしてホットサンドを食べるモカと陣内。プレスしたパンに挟まれているのは明太マヨであり、まろやかにして強烈な濃い味はビールですっきり洗い流すには最高だった。
「「美味い」」
「ああ、こいつは美味い」
 むぐむぐしては、ぐいっと呑む3人。
「あっ、美味しそうな匂いですね」
「ウチも食べるゾ!」
「ホットサンドっすか。自分もひとついいっすかね?」
「もちろん」
 ミリムやアリャリァリャ、ノイアールも香ばしさにつられて寄ってくると、モカは追加の調理に取り掛かる。食パンを大量に持ってきたのは正解だった。
 すると、そんなモカの視界にすっと袋が滑りこんできた。
 陣内だった。前を向いたまま、持参した食材を無言でこちらに押しやってくる。
「……これは?」
「もう下拵えは済んでいる……あとはわかるな?」
 情報屋と接する諜報員みてーな空気で、ぐいぐい袋を押し付けてくる陣内。
 説明しよう!
 彼は可愛い恋人に食材を用意してもらっただけで!
 料理とかはてんで出来ない男なのである!

●酒うめぇ
「さぁ、出来上がりましたよ! 皆さんどうぞ!」
 カセットコンロに構えていたフライパンから、料理を皿に移し替えて、ミリムが仲間たちににっこりと笑いかけた。
 皿の上にあるのは、優しいオレンジ色のマッシュパンプキン、少し火を通したアボカドのスライス、そしてじっくり焼き上げたラム肉。
 面倒くさがったモカを経由して渡された、陣内の食材である!
「美味いな」
「ああ、何もせずに食べる肉は美味い」
 出されたものをぱくぱくと食い、酒を飲む陣内とモカ。特に陣内は、南瓜にスライスアーモンドやダイスカットチーズが入っているのに気づいて、くすりと笑ってしまった。
「ちゃんとお土産に持って帰らないとな」
「おや、お熱いことだ」
 そっと土産分を包む陣内を見て、こちらもくすりと笑うモカ。
 彼女の視線から逃げるように、陣内は立ち上がると、食材とは別に持ってきた荷物に手をかけた。出てきたのはカクテルグラス、酒、その他!
 手慣れた所作でグラスにライムと黒糖(沖縄産)を投じる陣内。潰しながら(庭で彼女が育てた)ミントも入れ、ダークラムと炭酸水を注いで瞬く間に3杯のカクテルを用意した。
「モヒート、一丁あがり」
「み、見事なお手並み!」
「酒だけはできる、というのはろくでもない男な感じがするがな」
「まあそれは今は気にすることじゃねえだろう。いただくぜ玉榮殿」
「ああ。あたたかいほうがよければ言ってくれ」
 コーヒーと牛乳をちらつかせてキリッとする陣内。そんな陣内の前でミリム、モカ、鬼太郎はモヒートを味わい、アボカドやラム肉を口に放ってはまた飲んだ。
「至福の時とはこのことか」
「美味い酒と美味いアテ。最高じゃねえか」
「あ、缶チューハイも飲みたいので缶チューハイもらえますか?」
「あるよ」
 そっとミリムに缶チューハイを差し出す陣内。
「マヨと混ぜ混ぜして私もカクテル作りましょう」
「えっ」
 思わず声を上げた陣内の前で、マヨカクテルを作り出すミリム。ジョッキに入れたマヨネーズをチューハイで溶かしたものをぐいっと飲むと、ミリムさんは「くーっ」と声を絞り出した。
「おかわり!」
『……』
 ダモさんに駆けてゆくミリムを見送る陣内たち。
 と、そこで空気を変えるように、鬼太郎は瓢箪と徳利を持ち出した。
「最近は九州の方の酒も旨いのが出てるらしいからよ、持ってきてみたぜ。こっちは冷酒で、こっちは熱燗で飲もうや」
「日本酒か。それもいいな」
「ほら、お猪口」
 しゅぱぱっと動き出すモカと陣内。鬼太郎が火を借りて焼いた卵焼きにマヨを添えて出すと、3人はそれをつまみに日本酒をぐいっと。
『ふぅ……』
 3人の空気がまったりする。
 それはとてもダモクレス退治に来た者の顔ではなかった。
 何の気なしに風景を眺める3人。
 変わらずマヨを出しつづけるダモさん。
 そのダモさんに齧りついてマヨを直飲みしてるミミ蔵。
 マヨを注いだポリバケツに頭を突っこんでるアリャリァリャ。
 マヨを詰めた細長いチューブを怖いほど夢中に舐めている猫(陣内のウイングキャット)。
 そんなカオスを微笑を湛えて観賞している陣内、モカ、鬼太郎。
 ――まったりしすぎである。
「皆さん、タマゴサラダ食べるっすか?」
『あっ』
 ノイアールに声をかけられて、しばらくぶりに我に返る3人。
 見れば、ノイアールが大皿に山盛り(高さ50cm)にしたタマゴサラダ、ポテトサラダ、マカロニサラダを置いていた。計3皿。
「作り立てのサラダっすよ! たくさんあるから、好きなだけ食ってってほしいっす!」
「サラダか」
「こういうのをしっかり食べるのも悪くないな」
「お言葉に甘えて、ご相伴にあずかるとするぜ」
「せっかくのマヨパーティーっすからね! がんがん食うっすよ!」
「サラダですか? 私も食べたいです!」
 ぐっとサムズアップするノイアール。マヨふんだん使用の家庭料理は酒のアテとはまた一味違って、なぜだか結構箸の進む3人。そこにミリムも帰ってきてサラダに飛びつく。
 宴は最高潮だった。
 あとは満足したらダモさんを破壊して帰るのみ。
 そう思った、直後だった。
「ウチも御馳走を用意したゾ!」
 てけてけ駆けてきたのは、炭火コンロのほうでゴソゴソやっていたアリャリァリャだった。
 その手にあるのは大きな耐熱皿。焦げたチーズが被さっているのは、マヨに混ぜ込んだ小切りの食パンやフルーツで、バターの香りも相まって実に食欲をそそる。
 そしてそれを、溶解したプラスチックチューブが台無しにしていた。
「チューブとチーズがイイカンジに溶けあっテウマー。皆も好きに食っていいゾ!」
 もっしゃもっしゃと口を動かすアリャリァリャが、どんっと耐熱皿を皆の真ん中に置く。
 数秒の沈黙の後――。
『さあ、仕事だ』
 と、マヨ作りに勤しむダモさんを見たのは言うまでもない。

●さようならマヨ
 どっごぉぉぉぉーーーん!!!
 ――という清々しい爆炎が上がった数秒後には、単なる鉄くずと化したダモさんが上空からばらばらと落ちてきた。
「ありがとう。ダモさん。そしてさようならだ」
「工場で働けタラ良かったんダケドナ……ちゃんとマヨつけて食べてやるからナ!」
 爆破スイッチをポケットに仕舞うモカ。その周辺を駆け回るアリャリァリャは、ダモさんのパーツを拾ってはマヨにディップして、ゴリゴリと咀嚼する。
 かくしてダモさんは散り、危険の芽(?)は摘まれた。
「いやあ、楽しめた。あとは片付けて帰るとするか」
「そうだな。だいぶ散らかしたし」
 ゴミ袋をひろげる鬼太郎に、こくりと頷くモカ。
 しかし、そんな雑用が残っていても、猟犬たちはほんのり笑顔だった。
 なぜなら、これから大量のマヨネーズを家に持ち帰るという楽しい楽しい仕事が待っているのである。
「だいぶ確保できたな」
「そーダナ!」
「こらミミ蔵。これは今はダメっすよ。家に持って帰るっす」
 マヨが詰まった容器を眺めて、しかと頷くモカとアリャリァリャとノイアール。アリャリァリャだけポリバケツ数個分で明らかに量がおかしかったけど、そこにツッコむ者は誰もいなかった。
「さあ、ねむさんのお土産も確保しましたし! お店の分も孤児院の分も確保しましたし! いざおうちに帰りましょう!」
 ずごごごご、とミリムがタンクローリーを駆って颯爽と帰っているからね。
 もう量の感覚が狂ってる猟犬たちだったよね。
 ミリムを見送る一同の肩を、陣内はポンと叩いた。
「……飲み直そうぜ」
 強く頷く一同。
 アリャリァリャとノイアールはソフドリだったけど、割と仲が深まった夜だった。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年10月24日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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