ザザザ……。
背の高い樹が、突如として枝を切り落とされた。
その樹はとても高く、高枝切り鋏等では無理なのに。
『テイクオフ!』
ブロロ……。
回転する音を立てて、樹の上からナニカが飛び立った。
そいつは暫く航空を飛んでいたが、エネルギーの消耗を避けるためか、それとも効率の為か……。低い軌道に高さを変える。
『発見。攻撃開始』
そいつは街の近くまで来ると、車を見付けて射撃し始める。
バラバラと弾丸を撃ちまくるその姿は、まるで昔の飛行機の様であった。
●
「森の中で放棄……捨てたれというよりは、壊れて無くしたらしき玩具がダモクレス化する事件が起きることに成ります」
「昔流行ったラジコン飛行機かしら? 今だとドローンなのでしょうけれど」
セリカ・リュミエールの説明に、情報提供者であるカトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)は補足を付け足した。
彼女が回った場所の一つらしいが、昔は貴重だった空飛ぶ玩具が今では簡単に手に入るのは、時代と技術の変遷であろうか。
「このダモクレスは複葉機の形状をしているようです。その為か、回転するブレードと機銃を備えて居る様ですね。もしかしたらミサイルもあるかもしれません」
「形そのままですのね。とはいえプロペラで物は切れない筈ですが、そこはダモクレスですわね」
「燃料タンクがミサイルになっているとか、その辺は形状だけ真似たんでしょうかね」
セリカがダモクレスの能力を説明し始めると、その機能を聞いてカトレア達は苦笑した。
モデルにしただけでダモクレスの能力・武装を当てはめただけなのだろうが、元の複葉機を知って居ると複雑である。
「敵は予知によると、途中で道なりに移動し、車を発見する様です。ですから途中の道に待ち構えれば問題無いでしょう」
「ダモクレスを街にやって被害を出すわけにも参りませんわ。倒してしまうとしましょう」
セリカの言葉にカトレア達は頷き、地図や資料を元に相談を始めるのであった。
参加者 | |
---|---|
エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486) |
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568) |
クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189) |
燈家・陽葉(光響射て・e02459) |
ミステリス・クロッサリア(文明開華のサッキュバス・e02728) |
颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841) |
ティリア・シェラフィールド(木漏れ日の風音・e33397) |
元永・倭(仮面を纏う剣士・e66861) |
●
「音が……」
森に向かって歩いていた元永・倭(仮面を纏う剣士・e66861)は、顔を上に向けた。
その様子を見てその場に居た数人がつられて顔を上げる。
「例のラジコン飛行機のダモクレスですか?」
「多分だけどね。他に人いないから、当たりだとは思うけど」
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)が注意を振り向けると、確かに何かの音がする。
特に能力を倭は使っていないので、音に注意していた分の差だけ、彼の方が早く気が付いたのだろうか。
「確かに機械の音だね」
クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)もその音を聞きつけており、四方を探って場所を確かめている。
「見えないのは葉っぱに隠れているだけ……だよね? ちゃんと気を付ければわかると思う」
そう言いながら、クリムは反響を起こすような場所でないことに気が付き、方角を三分の一程度に絞った。
彼と倭の両方が間違うこともあるまい、同じ場所を向いていることもあり、そちらであるとだけは分かる。
「今時というか、何年も放置されたのが見つかっただけなのでしょうけれど、危惧していた場所で事件が起きるとは……」
カトレアも彼らを見習い探っていたが……。
パサリと何かが落ちる方向がしたので、そちらに向けて走り出した。
「まぁ、こんな機会ですし、私が責任もって相手してあげましょう」
「じゃあ道路に出る前に終わらせないとね」
カトレアの足は速かったが、いつもと違う武骨なブーツは足跡を残す。
それを追いかけていたティリア・シェラフィールド(木漏れ日の風音・e33397)は、大地を撫でるように手のひらを着いた。
「森の神様よ、私達に道を分け与えて下さい!」
するとどうだろう、ティリアが触った場所から草木が分かれた。
絡みついた雑草が手を放し、竹が風に揺れたかのように身をよじる。
海が分かれていくようではないか。
そこに見えたナニカに向けて、ケルベロス達は方向を転換する。
「飛行機だね。……ずいぶん昔からあるって聞いたけど、あのラジコン飛行機はいつの時代の物なんだろう?」
「少なくとも二十年……いや三十年前かな? 今じゃあドローンが主流になっているから、ああいう懐古的な物も趣き深いね」
ティリアの言葉に倭が首を傾げながら答えた。
彼が地球にやってきたのは、ついこの間だが生まれた時から居たとしても見たことはあるまい。
そのくらいにラジコン飛行機が流行ったのは昔である。知らないがゆえに興味が湧くといってもいい。
「もっとも、空飛ぶ飛行機や川の戦艦は金持ちや趣味人の遊びでもありましたわ。車型に比べて細く長く愉しまれていた可能性もありますけどね」
その会話に先頭の方から声だけが加わった。
よく見れると風で空間が曲がっており、誰かが先行している。
「逆に車型の方は、強力なライバルの出現でサークル縮小。あるいは別系統になってしまった場所も多いそうですが」
それはエニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)だ。
姿を隠しても注視すればある程度は分かるものだが、彼女は念のために隠密用のギリースーツ(もちろん都市迷彩ではなく森林迷彩)を着込んでいた。
注視しても風の向こうが緑・茶の系統では、紛らわしくてよく見えないのだ。
「モーターだけで動く子供の玩具の出現なのねっ。ワンコインだったから、当時は数万円もしたラジコン・カーを駆逐してしまったのよ」
そこでミステリス・クロッサリア(文明開華のサッキュバス・e02728)がなぜか胸を張りながら割って入る。
キャリバーの上でふんぞり返り、風で胸が揺れているけど気にしてはいけない。
子供の玩具という矛盾ありそうな言葉を訪ねるのは、もっとイケナイ。
「数万円と500円じゃ大違いだもんね。でもソレ……昔の値段だよね?」
同じく、颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)が並走しながら口をはさんだ。
なお、同じというのはキャリバーに乗っていて、会話に割ってはいたっという意味だ。
胴体のサイズの話ではない。
「ちはるちゃん、ラジコンとかドローンとか触ったことなくて……。今いくらなの? あれって組み立てとか操作とか結構難しいのかな?」
「ふふっふー。動くだけ飛ぶだけならニッキュッパで買えちゃうのね」
ちはるの疑問にミステリスが自信満々に答えた。
別に彼女が開発したわけじゃないんだからねっ。驚くと思って真実を伝えただけなんだから。とか言ってみる。
「さすがにその値段だと大したことはないんだろうけど。安かったら買うの?」
「うーん。ちょっとこう、なんとかしてちふゆちゃん改造して飛ばせないかなって、思ってるんだけど……。でもそのサイズじゃ無理だよね」
口をはさむ気のなかった燈家・陽葉(光響射て・e02459)が驚く。
ちはるは半分くらい冗談だと口にしているが、安いのが2980円だと聞いて考慮し始めたようだ。
あれは半分くらい本気かもしれない。キャリバーのちふゆは、抗議のブレーキをしたようだけどれども。
「そのくらい安すぎるとダモクレスにならなくて返って安全なのかな? でもまぁ、ダモクレスだしね。それでも不法改造したり、戦える形状に改造しちゃうのは、当然と思った方がいいかな」
そんな風に言いつつも、陽葉は雑談を打ち切る。
なぜならば、もう直ぐ戦える位置に近づくからである。
●
森の中を進み、空を飛ぶダモクレスの前にケルベロス達は飛び出す。
お互いに進路が交差し合う中、奇襲をかけたケルベロス側が先制に成功した。
「今の時代ドローンが主流ですわよ。時の流れにそぐわぬご老体には退場願いますの」
エニーケはギリースーツを脱ぎ捨てると、ケルベロスコートに隠した鎧とドレス姿を披露する。
そして両腰に下げた砲塔を、脇いっぱいに持ち上げ対空砲座として機能させ始めた。
「今ならいけそうだねっ」
「攻撃される前に、そのグラビティを、中和してあげますわ!」
陽葉は明るい明日を夢見るように、目を閉じてギターをかき鳴らした。
その曲に乗ってカトレアは重力弾で砲撃をかける。
ドンドンとグラビティの砲弾が対空射撃を開始し、敵の移動先に振動が発生し始めたではないか。
「大艦巨砲主義が信条の私が相手して差し上げますわ……」
エニーケは己がいつか辿り着きたいと思う、騎士としての究極系。
人々を守る浮沈城塞、我こそ正義最後の砦という憧憬を両腕に込めた。
「歯を食いしばりなさい!」
右手と左手を交差させ、十字に組んだ腕より想いの力が迸る!
願いはグラビティとして現れ、大砲と化して大空を撃った。
それは青天の霹靂を越え、九天を鳴らす勢いである。
「フィールドカード発動、”森”!!!」
ミステリスは楽しそうに森の一角を指し示し、『ヒールドロー! ン発動なの!』と声を上げた。
「よし、あの調子ならば大丈夫だな。私達にとっても特殊な状況だけど皆の力があれば大丈夫だ」
森の中を飛ぶドローンは木々に当たることなく飛んでいき、その姿を見ていたクリムは拳を握って闘志を固める。
「緑漲る森林を傷つけることなんてダモクレスにはできるわけないの!!!」
ちなみにグラビティは木々では止まらず、ダモクレスのボディは森では降りてこないことをミステリスは言ってるだけだったりする。
プロペラが木々に絡まるとエネルギーロスなので、ダモクレスが機動戦を選ばないこともあり当てることは難しくないのだ。
空を飛ぶ相手には自分も飛ばない限り近距離戦は挑めないが、全員が遠距離攻撃を持っていれば攻撃可能だ。
何にせよ、この状況ならばケルベロスが有利なことには間違いがない。
「ちふゆちゃんはみんなのカバーをお願いー! 当たるまでガトリングで撃ち続けてて」
ちはるは何気に無茶をキャリバーにお願いしながら、ハンマーを振って衝撃波を打ち上げた。
そこへもう一発、同じような空気砲が飛んでいく。
「アンコール♪ さて、まずはその素早い動きを封じてあげないとね!」
それはティリアが放ったモノであり、彼女もまたハンマーを振るって衝撃波を撃ち込んだのだ。
「ひとまず当たらない人はいないかな? ならこのまま攻撃するとしようか」
「任せる。私も防壁を撃ちあげて、皆を守らせてもらう」
倭が皆の攻撃を伺っていると、クリムはドローンを放って防壁を築いた。
今にも機銃を撃ち込もうとする敵に対し、防御陣を築いてはじく予定だ。
「さぁ、この鎖でその機体を絡み取ってやるよ」
そして倭が鎖を解き放った時、逆襲するようにバラバラと音が空中で鳴る。
『反撃開始』
キュンキュンと木々を突き抜け、ドローンに弾かれながらも何発かが抜けてくる!
そこへケルベロス達が立ち塞がった!
「やらせはしません!」
「十九も負けずに止めるのね!」
陽葉は弓を鳴らして音波を使ってダメージ軽減を狙う。
同じようにミステリスも発明品を撃ちあげて軽減を狙いつつ、キャリバーの十九にはジャンプして壁に成れと無体な命令を出した。
こうして戦いは砲撃戦を繰り返しながら始まったのである。
●
戦いは次第に激化し、上空からは弾丸だけではなくミサイルまで降ってきた。
だがこれに負けるケルベロスではないし、相手は枝が邪魔になって動き回れないのも大きい。
森を選んで戦ったことが、次第に有利になり始めた。
「またミサイルだ。散開……いや、この状況なら隠れるべきだな」
「止めるよ!」
後方のクリムが指示を出すと、陽葉が手拍子を打って音魂を盾にする。
威力を半減させてからカバーし、他の盾役と共に防ぐことに成功した。
「やっちゃえ! 当たらなければ回復を兼ねて援護するから」
「大丈夫っ。凍てつけ!」
倭が傷の度合いを見ながら確認すると、陽葉は弓を引き絞りながら答える。
火の神の名前を持つ弓に、雪の霊力を込めて放つ技。
相反するイメージを一つに束ね、周囲に漂う炎を吸収するくらいの勢いで解き放った。
「一斉発射ですわ、これで吹き飛んでしまいなさい!」
「倍返しですわっ! 嵐の中で輝いてッ!消え失せなさいッ!!」
カトレアとエニーケはともに重砲撃をかけた。
一人は大砲を構えて速射し、もう一人は盾をスタンドに敷いて固定する。
ドンドンと空中で弾け、戦争映画さながらにダモクレス側も回避しようとしていた。
「逃しませんわよ。そこにはっ!」
「ちはるちゃんがいるもんね! 忍法・魂縛音叉の術」
エニーケはただ撃ち込んでいたのではない。
印を組んだちはるが、大きく息を吸い込んで反対側から発声練習。
不可視の鎖と化して飛び込んだソレは、砲撃と挟み撃ちすることでお互いを必中と化す。
「負荷はこっちでなんとかする」
「防壁をもう何枚か追加するのね。罠カードを設置なのよ!」
クリムが手術の準備を始めると、ミステリスは既にドローンを打ち上げていた。
「治療の時間はこっちで稼ぐから、回復に専念してあげてね。……炎の螺旋よ、敵を焼き尽くせー!」
ティリアは上空の大気を操って、黒炎で敵を取り巻いた。
竜巻のごとき炎が敵を覆い、同時に味方への斜線を妨害する。
「よし。これで良いはずだ。腕は問題なく動くだろう」
「うん。良い感じ。治りきってない場所も、戦いが終わってちゃんとは休めば大丈夫だと思う」
クリムの手術は陽葉の腕を癒し、火傷の痕を治療した。
衝撃やスタミナの問題で直しきれない場所もあるが、それはいつものことなので時間に任せるしかない。
「最新型の兵器の実力を、見せてあげるよ」
治療が終わるころには倭の攻撃が命中。
これまでは外れることもあったが段々と当たるようになり、砲撃戦は優位に終盤へ突入する。
●
戦いは倒すためのものから、逃がさないための物に移行していた。
「使い慣れないなら、こういうやり方もある!」
クリムは仲間の傷が回復するほどではないこともあり、大鎌に青き魔力を灯して投げつけた。
最初は三日月のようだった鎌は、回転するたびに新円を描いて満月のようになって飛んでいく。
窯が直撃したところで、その周囲に金属の輪が無数に待っているのが見えた。
「こんなところだね。動きは止めさせてもらう」
金属の輪がぶつかった瞬間、多場面られて鎖と化す。
それを握って捕まえるのは倭だ。
『反撃』
「そうはさせないのね! 十九!」
撃ち込まれる機銃をミステリスのキャリバーが防ぐ。
「トドメはお願い!」
「任されましたわ!」
陽葉が矢を放って曲射すると、カトレアはその間に木々を蹴って上空へ。
忍者のようにはいかないが、それでも巨大ダモクレス戦で鳴れているから十分。
炎のカカト落としを決めてダモクレスを打ち砕いたのである。
「終わりましたかね、皆さんご無事でしょうか?」
「戦い済んで焼け野原……戦争は悲惨です」
カトレアが下りてくると、エニーケは肩をすくめて周囲を見渡した。
機銃はともかくミサイルの爆撃は大変だ。
本心からいえばダモクレスだった機械を直ぐにでも焼き払いたいくらいなのだが。
「……人々を守る為とはいえ、この傷を作り出したのは私達。ならば癒し、治すことも私達の使命であり役割だ」
クリムはいまだに燃えている場所に鎌を投げて火を落としつつ、薬剤の雨を降らせて鎮火していく。
「森、結構荒れちゃったかなー……ヒールヒール、と」
「手分けしてヒールしようか」
ちはるも分身たちを送って修復やら残骸整理。
ギターを取り出して陽葉は曲を奏で始める。
「あっちも直さないとだな。魂よ、森に宿り、その力を引き出してくれ」
「私たちはラジコンが出たあたりに行ってみるね」
倭が上の方を武装に宿した魂にやらせることで修復していくと、ティリアも移動しながら薬剤の雨を降らせた。
しばらくすると手分した甲斐もあってなんとか終わったようだ。
「こんなところかな? 上も大乗だとは思うけど」
「そのようですわね。お疲れ様ですわ」
倭が終わったことを確認すると、カトレアがドローンから伝わる情報をもとに頷いた。
「では早速、あちらも……あら?」
「すでに処分済みなのね!」
エニーケが隔離した残骸を焼き払おうとすると、ミステリスが何かを処分している姿だった。
ちなみにラジコンの残骸は隠してお持ち帰りで、今処分しているのは、その辺で見つけた廃棄家電だ。
「みんな私の夜の玩具になってもらうのね! 人の欲望の慣れの果て! 否!欲望に果てなんてないの! 完成品なんて進化の通過点でしか……」
「だってさ。あっ、ちふゆちゃんさっきの敵のプロペラ付けてみない? 嫌?」
ミステリスがぶつぶつ言いながら周囲で見つけた戦利品(廃棄家電)を眺めていると、ちはるはくすっと笑って妹分のキャリバーに話しかけながら帰還した。
作者:baron |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年10月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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