そよ吹く風が、さらりさらりと花々を揺らす。
豊かな色彩の花弁が左右に踊ると、まるで虹色の水面が波立っているようだった。
自然の美しい庭園から続く一角。
鮮やかな花園に囲まれた、一軒のカフェがある。
テラス席のあるそこは、咲き誇る秋の花を間近に感じることが出来る。雄大な皇帝ダリアに可憐なビオラ、秋桜や秋薔薇、撫子を始め、あらゆる色の花が満開で──その景色が訪れる人々を惹きつけた。
勿論、店のメニューも人気の理由。今は旬の柿を使ったスイーツが人気で、秋めいた風味に舌鼓を打たせる。
無限の色彩を持つ花々で目を楽しませながら、琥珀色の果実を味わって。人々はゆったりと秋の幸せを楽しんでいた。
と、そこへ空からふわふわと漂うものがある。
それは謎の胞子。花園の一端に舞い降りて、秋桜の花に取り付き一体化していた。
独りでに蠢いたそれは、巨花となって花園を抜け出していく。破壊の本能に染められたかのように、獰猛に、凶暴に。
人々は逃げようとするけれど、それは儚き望み。花の怪物と化したそれに喰らわれて、命を散らせていく。
「秋の花が綺麗な時期になってきましたね」
イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は集まったケルベロスへそんな言葉をかけていた。
けれど、そんな花々が美しい庭園で攻性植物が発生することが予知されたのだという。
「現場は大阪市内になります」
爆殖核爆砕戦の影響が未だ続いているということだろう。
放置しておけば人命が危機に晒される。周辺の景色にも被害が出る可能性もあるので、確実な対処が必要だろうと言った。
「戦場となるのはカフェのすぐ傍となります」
攻性植物はそこにある花園から這い出て人々を襲おうとするだろう。
ただ、今回は警察や消防が避難誘導を行ってくれる。こちらが到着して戦闘を始める頃には、丁度人々の避難も終わる状態になるはずだといった。
「皆さんは到着後、討伐に専念すれば問題ありません」
それによって周囲の被害も抑えられるはずだといった。
ですから、とイマジネイターは続ける。
「無事勝利できた暁には、皆さんもカフェに寄っていってはいかがでしょうか」
花を眺めながらスイーツを味わえるのが特徴なのだという。
今の時期は柿を使ったメニューが人気で、パウンドケーキにコンポート、コンフィチュールを添えたアイスや、ケーキやパフェとどれも美味らしく……秋らしい時間が存分に楽しめるはずだと言った。
「そんな憩いのためにも。ぜひ、敵を撃破してきてくださいね」
参加者 | |
---|---|
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462) |
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550) |
リーズレット・ヴィッセンシャフト(碧空の世界・e02234) |
癒月・和(繋いだその手を離さぬように・e05458) |
ディオニクス・ウィガルフ(否定の黒陽爪・e17530) |
クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671) |
深風・眞尋(静寂の黒花・e27824) |
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629) |
●秋風
花薫りが爽籟に乗って、風に秋の色彩を加える。
季節の移り変わりは寂しくもあるけれど、新しい季節との出会いもまたいいものだと─カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)は兎耳を仄かに揺らし、涼しさを頬に感じていた。
「もうすっかり秋ですねえ」
「あァ、実りの時期だ。恩恵を受け、味わい尽くしてェモンだな?」
と、シルバーアクセをじゃらりと鳴らし、尾を上機嫌にうねらすのはディオニクス・ウィガルフ(否定の黒陽爪・e17530)。
地を崇める者の一族として、実りの秋たる景色に高揚を隠さなかった。
それ故に、景色に交じる違和を決して見逃さない。
切れ長の視線を向けた先。
そこに風に依らず揺らめく秋桜があった。
美しくも奇怪な狂花──攻性植物。
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)は藍玉の瞳を伏せ、気品も崩さぬ吐息を零す。
「この時期なら秋桜の攻性植物も現れるとは思っていたが」
「綺麗な花にはなんとやら、っていうけどさすがに花に襲われるのは遠慮したいね」
と、小首を傾げる癒月・和(繋いだその手を離さぬように・e05458)も、顎に指を当てそれを見つめる。
マルティナも頷き、すらりと刃を抜いた。
「──この場には無粋というものだな。手早く片付けて、カフェを楽しむとしようか」
「勿論だ、全力でやらせてもらうぜ!」
勇壮な声で士気を高め、敵へいち早く迫るのが相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)。
涼風下にも身軽な格闘家スタイルを崩さずに。己の身一つあれば戦うには十全だと、敵の至近で地面を踏みしめ回転。
「──旋風斬鉄脚!」
風を巻き込み烈しい衝撃。光の弧を描く強靭な回し蹴りで一体を後退させた。
そこへきらりと星空のワンピースが揺れる。
こつんと一歩歩み出て、星の欠片で出来た杖を握るクローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)。
「行くよ、お師匠」
白の仔犬が応えて秋桜へ斬撃を与えてゆくと──自身も深翠の髪を踊らせて、柔く回転。星屑の光を発射して花の根元を縫い止めてみせた。
他の花が花弁を放ち反撃するが、クローネ自身がそれを防御すれば──。
「じゃァ、治療ついでだ」
ディオニクスが銀色に煌く粒子を風に乗せ、皆の意識を澄み渡らせる。
時を同じく、リーズレット・ヴィッセンシャフト(碧空の世界・e02234)は棘の鞭の如き深青の鎖を振るっていた。
黒のフードをふわんと揺らし、踊るように鮮やかに、勇烈なまでに大振りに。眩い魔法陣を描き、その輝きで戦線を強固にしている。
「マルティナさん! 防御力アップも付けとくぞ! ガンガン殴ってくれ!」
「助かる!! 礼を言うぞリズ!!」
背中で応えたマルティナは、既に深く踏み込み剣を突き出していた。流体を纏って輝きを得た刃は、その刀身の先にまで流麗なる斬閃を伸ばす。
花弁が鋭い一撃に貫かれれば、和もその間隙に仲間へ月光の祝福。
「これで、いい感じかな」
「ありがとうございます、ね」
静かな声音を返すのは深風・眞尋(静寂の黒花・e27824)。
花を揺蕩わせるように、はらりと魔導書の頁を開くと、その一節をそっとなぞり。
髪がゆらりと魔風に揺れたその直後。黒色の水面が波打ったような、昏き波動が敵陣を浚った。
狂花達の動きが鈍ると、カロンも走りゆく。
「さあ、始めよう!」
声に応え、光を零しながら駆けるのはミミックのフォーマルハウト。星屑の幻をばら撒いて、綺羅びやかさに花の心も惑わせた。
そこへカロンが冬の星の如き、明滅する氷気を生み出して三体の足元を凍結させると──和がすぅと息を吸い、咆哮を響かせ威嚇。
ディオニクスも手のひらに暗色に明滅する球を顕現させていた。
「黒い太陽だ、誂え向きだろ?」
刹那、暴風にも似た衝撃波を放ち敵陣を転倒させる。
弱った一体に歩み寄るのは、眞尋。
瀕死ながらも獰猛に足掻く異形の本能を見て、瞳を少しだけ閉じていた。
「秋の花にとりついて暴れる……だなんて、お行儀が悪いですね。折角、皆さんが秋のカフェを楽しんでいたのですから……邪魔はいけません」
黒絹のような声音が響いた瞬間、艷やかな花の薫りが漂った。
「私も、カフェを営む者として……皆さんの憩いの場所を守ってみせましょう」
うねり生長するのは、血を媒介にして伸びる棘。
『抱擁の黒薔薇』──鋭利なる漆黒の慈愛が躰を貫き命を喰らう。それを糧に鮮烈な黒薔薇が咲き誇る頃には、その一体は消え失せていた。
●花戦
空気は澄んでも、静謐には遠く。
自然の音を掻き消すように、堕ちた秋桜は凶暴な嘶きを上げていた。鮮やかな色を持っているだけに、その様相は何処までも歪で。
「花は人の心を和ませるもの。人を恐怖に陥れるものではないのだぞ」
リーズレットは言って聞かすよう、獣の如き花も怯まず見据える。
無論、言葉は届くまい。
それを知っているからこそ、クローネは金色の瞳をそらさない。
今、できることは。
「綺麗な秋桜が人々を傷付ける前に。ぼく達の手で、止めなくちゃ」
「ああ。此処の穏やかな空間を取り戻す為に全力で倒させて貰う。そして秋カフェを皆で楽しむんだ!」
リーズレットの明朗な意志に、泰地も頷き気合いを十全に湛えて。
「大阪城勢力の影響圏拡大だって、阻止ししねえといけねえからな。きっちり止めさせてもらうぜ!」
疾駆し敵の懐に入り込んで見せる。別の一体がそれを阻止しようとしてくれば──。
「させないよー」
和がすかさず雷光を奔らせ牽制。その狂花を寄せ付けない。
その隙に泰地は眼前の一体を掴んでいた。
大阪城勢力相手に戦い、どれくらい経つだろうかとふと考える。当時はただ勢力拡大阻止の為であったろう、でも今は。
(「ここまでやってると大阪にも愛着が湧くな」)
だからこそ守りたい、と。泰地は二連の拳で茎をへし折ってみせる。
秋桜はそれでも蔓を伸ばす、が、マルティナが一刀を突き出して受け止め、もう一刀で斬り落としてみせた。
「正面の立ち合いで譲るつもりはないぞ」
刹那、滑らす斬撃で弧を描き、淀まぬ次撃に繋げていく。
洗練さを体現するような連続の剣戟。
鍛え抜かれた剣術は機能美に留まらぬ、鋭い美しさを兼ねる。二刀から放つ衝撃波は鮮やかに、熾烈に、花弁を寸断していた。
藻掻く狂花は、決死に反撃しようとして──星を見た。
きらりと流れる光が瞬いて。
花の心も碧天を夜天と空目しただろうか。
「空を、見てごらん」
それはカロンの視せる『望遠観測のポラリス』。宝石のような光に吸い込まれるように、その一体は消滅していった。
残る一体は幻粉を撒く。けれどリーズレットが麗しき耀のヴェールを揺らがせると──。
クローネも、こつり。ビジューの光るレースアップブーツでステップを踏んで、星下の花園の如く、淡く光る花弁の嵐を起こして皆を治癒していく。
仲間が万全となれば、リーズレットは『ローズ・バイン』。青藍の薔薇を這い出させ、蔦を鞭のように撓らせ秋桜を縛った。
「よーし、今のうち!」
「それなら、ぼくが」
と、クローネがそっと空に喚びかけて、厳寒の風を吹かす。『北風の牙』──吹き荒れる鋭き疾風で敵を裂いていく。
「畳み掛けるとしようか」
和が呟けば、傍らの箱竜りかーも応えて飛翔、水流の如きブレスを見舞った。
りかーが飛びつくように戻ってくれば──和は『千重波・炯華』。その瞳で敵の姿を捉えることで、吸い込んでしまうようにその動きを止めた。
その機を逃さず、眞尋は小さく一節を唱え、魔術の耀を瞬かす。
茨のような軌道で宙を奔るのは黒色の雷光。弾ける火花は花の欠片の如く。鋭く突き抜けた衝撃は異形の秋桜を貫いて、その躰を麻痺に陥らせていく。
「……最後は、お願いします」
「任せろ」
応え、焔纏う爪を燦めかせるのはディオニクスだった。
深い踏み込みと共に斬撃を奔らせ、流し込む絶望の獄炎によって敵の精神を蝕んでいく。
──その命糧と成れ。
『魘獄煉爪夢』──植物の魂をも苛む過日の幻は、その命を喰らい尽くすように花を消滅させていった。
●秋の琥珀
秋空の下に、長閑な静寂が帰る。
自然の花だけがさわさわと鳴る中で、眞尋は周囲を見回し危険がないと確認すると、皆へ振り返る。
「お疲れ様でした」
「ああ! お疲れ様ー! ぱーふぇー! すいーつー!」
朗らかに応えるリーズレットは、ふと歩み出す眞尋に視線をやる。
「って、あれ? 眞尋さん、一般の人呼び戻しに行くのか?」
「ええ。人々も不安でしょうし──いってきますね?」
「ならば私も同行しよう! 2人で呼び掛けた方が早く終わるだろう?」
リーズレットも並んで歩むと、眞尋は柔らかく微笑んだ。
「おや……ありがとうございます。リーズレットさん。助かります」
それから避難していた人々へと声をかけていく。
泰地も警察、消防に連絡。無事に勝利できたことと避難の解除を伝えた。
「これで、やるべきことは出来たな」
「さて、お楽しみのスイーツタイムだな」
マルティナも周囲のヒールをして──賑わいを取り戻した景色の中、花園のカフェに歩んでいった。
色彩の花々を望めるテラス。
席やテーブルも小さな花飾りに彩られたその席へ、リーズレットと和が座る。お誘いを受けた眞尋もまた同席した。
「お誘い、ありがとうございます。お邪魔します」
「うん。一緒のほうが楽しいからな!」
笑顔のリーズレットが早速メニューを開くと、マルティナもまた品々の写真を見つめる。
「柿のスイーツなど初めてだ。楽しみだな」
「わぁ……どれも素敵なスイーツです」
眞尋も思わず、ほわりと声を零してしまう。
リーズレットはそんな面々を見回していた。
「みんな、何を頼むんだ?」
「うーん、この柿のコンフィチュールも気になるよね」
と、和が少々悩ましげにしていると、和に寄り添って甘噛みしていたりかーがふと視線を上げる。
丁度隣席に、ディオニクスが着いていたのだ。
「お疲れサン。よーぅ、なごさん」
「あ、ディオさん。お疲れ様」
「りかーも元気そうじゃねェか。お前もお疲れ。頑張ったなァ?」
ディオニクスが顔を近づけると、りかーは少々誇らしげにひと鳴きして応えた。
そんな様子に微笑みつつ、和はディオニクスに視線を戻す。
「ディオさんは何食べる?」
「そうだな。メニューは見る限り全制覇出来ンだよな……」
恵みを存分に活かして彩りを加えたスイーツ達。それを見つめるディオニクスは上機嫌だ。とは言え、どれか一つを選ぶとすれば──。
「今回はケーキにするか」
「私は……パウンドケーキ、食べてみようか……?」
眞尋は視線を迷わせつつも、熟考の後決めていた。それから視線を巡らす。
「……皆さん、決まりましたか?」
「──うーん……」
と、腕組みするオラトリオが一人。
リーズレットはパフェにするつもりだったけれど……皆が頼むのを見て、本気で悩み始めていた。
「マズい……決まらない……」
「ならば、皆でシェアしようか? レディ」
そう目を向けたのは、マルティナ。
「実を言うと、私も少しシェアしたい、なんて気持ちもあったしな。……ああ、勿論皆が良いならだが」
「……!」
ぱあ、と天啓を得たようにリーズレットは顔を輝かせ。それから満面の笑みを作った。
「イケメン王子の降臨だ! やったー! 是非、喜んでっ」
「私も、もちろんいいですよ。皆さんで美味しい物、わけあいましょう」
眞尋も応えて、皆の分もまとめて注文する。
テーブルが華やかさと甘い香りに満ちると、マルティナはおお、と感心の色だ。
「どれも、美味しそうだな」
マルティナが頼んだのはパウンドケーキにコンポート、そして紅茶。
パウンドケーキは香ばしさの中に、柿に特徴的な上品な甘い芳香が混じっている。仄かに橙色を含んで鮮やかなのも目を惹いた。
コンポートは甘く煮られて薫り高く、見た目もつやつやで宝石のよう。
紅茶は秋にクオリティシーズンの訪れる茶葉を使っているということで、フルーティな薫りが鼻先を擽っていた。
早速パウンドケーキを一口食べると、柔らかな食感で──果実も含まれていて果汁も広がり美味。
マルティナは思わず頷いている。
「うむ、美味だ」
「こっちも最高だぜ」
と、ディオニクスが食べるのはケーキ。たっぷりの生クリームとふわふわのスポンジで形作られたそれは、柿がふんだんに使われている。
甘すぎない果実がクリームとの相性がよく、風味を高めていた。
実りを工夫し楽しませる。そんなスイーツを見事だと、ディオニクスは飾り気なく思った。
「しっかし、モフモフ小動物の可愛らしさだよな」
と、見つめているのは、和の頼んだものをつまんでいるりかーだ。
和はそんなりかーを撫で撫でしつつ、自身もコンフィチュールを一口。
形を残しつつも柔らかくなった果実は、つるりと喉を通って深い甘みを伝える。んー、とその美味に和は少々ほっぺを押さえていた。
それから視線を横へ。
「そういえば、深風さんも喫茶やってるん?」
「ええ。紅茶や珈琲をお出ししています」
応える眞尋はパウンドケーキを頂いているところ。
フォークで刺して口に運ぶと、ほわほわとした軽さがなんとも心地よく。生地に果実が練り込まれているのだろう、ふわりと甘みが口に広がるのだ。
「……美味しい。柿の優しい味だ」
思わず笑みを浮かべて。それから和にも尋ねる。
「和さんも、お店を持たれているんですよね」
「うん。うちはハーブメインでやってて、ハーブティーとか出してるんだ。そろそろ新メニューも、なんて考えてるけど……」
と、少々カフェ談義を交わしつつ、甘みを楽しんで言う。
リーズレットも自身が頼んだパフェを楽しみつつ、皆に分けつつ自分もシェアしてもらう。
「コンポート、美味しそうだ……」
早速一つを頂くと、目をくりっと見開いて煌めかす。
煮るのに白ワインを使ったのだろう、気品ある薫りが含まれていて……それでいて果汁を含んだシロップが深い甘みを運んだ。
更にケーキにパウンドケーキ、アイスも少しずつ頂いていく。
「どれも甘くて美味しいな……!」
「ふふ、リズの嬉しそうな顔が見られて何よりだよ」
軽く頬杖をついてそんなことを言うマルティナに、リーズレットはマルティナさんと皆のおかげだよ、とまた笑顔。
和もそんな様子に頷いた。
「戦いの場でも食事の場でも、マルティナさんはやっぱり格好いいね!」
「余り褒められると……照れてしまうが」
と、マルティナは目を伏せつつ食事を進める。
「ワイワイやってる様子見てンのも好きなんだよなァ……あー、和む」
呟きつつ、ディオニクスはそんな皆をほのぼの眺めているのだった。
クローネはそよ風の快い一角に着いて、メニューを見ている。
たくさん動いたらお腹も空いたし、と。甘みを楽しんで一休みしていくつもりだった。
お師匠が行儀よく傍らに控えるのに微笑みつつ、一つ一つ品の名前を見ていく。確かに柿のメニューが豊富で、どれも美味しそう。
「皆は何が気になる?」
「私はパウンドケーキにコンフィチュール……それにアイスとパフェも頼みたいです」
カロンは瞳を星のように輝かせ、期待感を浮かべる。勿論、フォーマルハウトの分も含めてだ。
泰地も品書きを眺め、一つ頷く。
「俺は折角だから、一通り堪能したいところだな」
これだけ揃っているのだから、全部味わいたい、と。
そう言われるとクローネもまた少し迷ってしまう。
「パウンドケーキとコンポートもいいけれど……あ、でも、パフェも美味しそう」
元より柿のスイーツは、あまり食べた事がなかったので興味津々。
悩んだ結果、店員さんに話を聞くと……パフェは秋の味覚満載でおすすめだとか。
ならばそれも一緒にと注文すると──彩り豊かな甘味達がやってくる。
「本当だ。どれも美味しそう……」
クローネはパフェに乗る柿や、艷やかな巨峰にマロンと、どれも瑞々しく薫り高い果実達に、静かに声音を華やがせた。
実食すると柿はしっとりとしていて果汁が多く、美しい翠の巨峰とも相性抜群。マロンとクリームで濃厚な甘みを楽しむと、自然と瞳も細まっていた。
「お師匠も食べる?」
それに鳴き声を返すお師匠の横で……カロンもフォーマルハウトと共にパウンドケーキをはむはむ。
口に入れると溶けるほど軽いのに、果実の甘味はしっかりとしている。コンフィチュールを添えると風味ととろみが増してなんとも贅沢だった。
コンポートは強い甘みに、快い渋みが負けていなくて趣深い味だ。
「美味しい?」
フォーマルハウトはカロンの言葉にかしかしと蓋を鳴らしつつ、アイスのひんやり感を堪能していた。
「良かった」
笑みつつ、カロンも一緒にアイスを食べていく。
泰地もパフェにケーキにと、どれも違った美味を愉しんでいた。
ものによって硬めの柿の歯ごたえが小気味よかったり、熟した果実の芳醇さを味わえたり、柿を一から十まで網羅した気分だ。
「9月はマロン、今月は柿と。秋の味覚のスイーツを堪能できているこの状況、嬉しい限りだ、うん」
「お土産も買って帰ろうよ」
クローネは家でもこの幸せなスイーツ達を味わおうと。パウンドケーキにコンフィチュールのアイス添えを持ち帰り用に買っていく。
まだまだ実りの季節は続く。
それを告げるように、秋の風に一層甘い香りが乗っていた。
作者:崎田航輝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年10月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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