城ヶ島制圧戦~毒竜双牙

作者:秋月諒

●城ヶ島制圧作戦
「集まっていただき、ありがとうございます。早速ですが状況の説明をさせていただきますね」
 レイリ・フォルティカロ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0114)はそう言うと、真っ直ぐにケルベロス達を見た。
「先に行われた城ヶ島の強行調査により、城ヶ島に『固定化された魔空回廊』が存在することが判明しました」
 この固定化された魔空回廊に侵入し、内部を突破する事ができれば、ドラゴン達が使用する『ゲート』の位置を特定する事が可能となるのだ。
「『ゲート』の位置さえ判明すれば、その地域の調査を行った上で、ケルベロス・ウォーにより『ゲート』の破壊を試みることもできるでしょう」
 そして『ゲート』を破壊する事ができれば、ドラゴン勢力は、新たな地球侵攻を行う事ができなくなる。
「城ヶ島を制圧し、固定された魔空回廊を確保する事ができれば、ドラゴン勢力の急所を押さえる事ができます」
 簡単な事を言っているつもりはありませんが、とレイリは一つ息を吐きーーケルベロス達を見る。
「ですが、強行調査の結果、ドラゴン達は、固定された魔空回廊の破壊は、最後の手段であると考えているようだと情報を得ることもできました」
 電撃戦で城ヶ島を制圧し、魔空回廊を奪取する事はーー決して不可能ではないのだ。
「厳しい戦いになるのは事実です。ですがーー今だからこそ出来る戦いです。ドラゴン勢力のこれ以上の侵略を阻止するためにも、皆様の力を貸してください」
●毒竜と白き刃
「今回の作戦は、仲間の築いてくれた橋頭堡から、ドラゴンの巣窟である城ヶ島公園に向けて進軍する事になります」
 進軍の経路などは全て、ヘリオライダーの予知によって割り出しているので、その通りに移動してください、とレイリは言った。
「固定化された魔空回廊を奪取するには、ドラゴンの戦力を大きく削ぐ必要があります」
 言い切って、レイリはケルベロスたちを見た。
「ドラゴンは強敵です。ですがーーどうか、勝ってください」
 
「皆様が戦うことになるドラゴンは、紫色の鱗を持つ素早い竜です。その身には滴る毒を纏い、動きも素早いです」
 赤い瞳を持ち、その爪は美しい白銀をしている。両足の爪に見える刃紋は、毒の双剣を持つ剣士を喰らった折に手に入れたものだ。
 刃のように鋭い爪による攻撃と、素早い近接攻撃の技術。
 その身に纏う毒は触れて毒になるという代物ではないが、攻撃には毒が付きまとうとレイリは言った。
「口からは毒のドラゴンブレスを吐きます。鋭い爪による連続攻撃は強力です」
 近接攻撃での動きは特に素早いのだとレイリは言った。
「それと……、性格は残虐です。己の毒で獲物を弱らせ、嬲るのを好みます。怪我をした方や弱っている方を集中的に狙われる可能性が高いので、どうか注意してください」
 見事に性格悪いやつって感じですね、と言ってレイリは集まったケルベロスたちを見た。
「長くなってすみません。ですが……、聞いてくださってありがとうございます」
 重要な作戦になります、とヘリオライダーは言う。
「強行調査で得た情報を無駄にしないためにも、この作戦は成功させましょう」
 敗北すれば、魔空回廊の奪取作戦を断念する場合もありえるのだ。
「相手は強敵。……簡単な話ではないと、分かっています。ですが、皆様を信じています。勝って、それでいてちゃーんと帰ってきてくださると」
 勝利を、そう言ってレイリはケルベロスたちを見た。
「では行きましょう。皆様、幸運を」
 


参加者
ルヴィル・コールディ(ドラゴニアンの刀剣士・e00824)
立花・恵(カゼの如く・e01060)
キシュカ・ノース(眼鏡のウェアライダー・e02557)
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)
バルドロア・ドレッドノート(ガンシップドラグーン・e03610)
セルジュ・マルティネス(グラキエス・e11601)
ルル・キルシュブリューテ(ブルーメヘクセ・e16642)
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)

■リプレイ

●鴆毒の担い手
 吹き荒む風の中、足音が重なった。崩れた花壇を飛び越え、ぐるりと伸びた枝がーーふいに、落ちた。ここまで来て容易に驚きもしまい。此処はドラゴンの巣窟だ。
「……いた」
 キシュカ・ノース(眼鏡のウェアライダー・e02557)の呟きが、風に乗る。
 紫の鱗を持つドラゴン。その身に毒を滴らせ、砂埃舞う大地をひた、ひたと己の色に染めるーー毒竜。
(「この作戦を成功させれば被害を受ける方は少なくなります!」)
 少女は、息を吸う。
(「失敗するわけにはいきません……が焦らず堅実に戦いましょう」)
 目指すのは勝利、なのだから。
「これからの被害を出さないためにも頑張ろうっ!」
 気合を入れる為に、ふわり、とシエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)は翼と、花を出す。薄紅色の二対と共に咲かせるのは勿忘草。
「ついにドラゴンとの戦いか……負けられねぇな」
 吹く風に、靡く髪をそのままに立花・恵(カゼの如く・e01060)は息を吐く。すい、と向けた視線の先、見えたドラゴンがゆるり、とその頭をあげた。
「ようこそ」
 くつり、と毒を纏うドラゴンは笑う。
「我が糧となるもの達よ」
 瞬間、風が止んだ。
 渇いた風はその身を潜め、静寂と共に空気が戦場のそれに変わる。ピン、と張り詰めた空気に、常と変わらぬ声でバルドロア・ドレッドノート(ガンシップドラグーン・e03610)は告げる。
「目標を視認した。これよりドラゴン討滅を開始する」
 始まりを。勝利への道筋を。
 描き、駆け上がるその為にーーケルベロスたちは地を、蹴った。

●強奪の竜
 ゴウ、と戦場に炎が放たれる。バルドロアのアームドフォートの主砲を一斉発射だ。
 ——だが、ドラゴンは身を飛ばすようにして一撃を避ける。
「いいぞ! 一打を以って告げる。我が戦いに相応しい!」
 四肢を低く構え、顎を開きーードラゴンは笑う。
「さあ踊れ踊れ! すべて我が糧としてくれよう! ケルベロス!」
「来るぞ!」
 警戒を告げる声が、重なり響く。高く響く咆哮と共に撃ち出されたドラゴンブレスが、前衛陣を打ち抜いた。
「——っ最初から、まぁやってくれるな」
 は、とセルジュ・マルティネス(グラキエス・e11601)は息を吐く。ナイフを握る腕が熱を帯びた。毒か、と冷静な頭で思う。痛いというよりは、熱かった。——けれど、動けない程ではない。
 同じように、毒を被ったルヴィル・コールディ(ドラゴニアンの刀剣士・e00824)が息を吐く。
「ここで失敗するわけにもいかないよな~」
 エメラルディア、とルヴィルはビハインドの名を紡ぐ。後衛に、と告げて前をみた。息吐き笑うドラゴンは、その爪で公園のタイルを割っていた。
「失敗、か。何、失敗ではあるまいさ。我が糧となるのだからな」
 くつくつと、ドラゴンは笑う。その余裕を、笑えはしまい。強敵だというのは相対した今、よく分かる。
「シャドウエルフのサガか、侵略戦争っていう響きがあんまりいけ好かなくってね」
 やっこさんらを一斉に叩けるならまたとない好機。だが半端ないくらい強敵であることは疑いようがない、とセルジュは思う。
「全力で油断なく、立ち向かうとするか」
 呟いて、視線をあげたセルジュはそのまま地面を蹴った。た、と早く、身を前に飛ばせば口の端をあげていたドラゴンがこちらに気がつく。
「は、我が気がつかないと?」
「まったく性根の腐った野郎だ。……その根性叩きなおしてやるぜ!」
 ふぅ、と息を大きく吸い、しっかりと手入れした武器に手をかけて恵はそう言った。は、と顔をあげたドラゴンがこちらに視線を向けるよりも早くーー飛ぶ。流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りが、毒竜の翼に沈む。
「ぐっ……!」
 息を飲む音が一つ、どけと叫ぶドラゴンの腕を避けるように恵が着地すれば、間合いに飛び込むのはセルジュだ。
「俺とお前さんの知恵比べ、根性比べと行こうか」
「!」
 ローラーダッシュの摩擦を利用し、た、と浮かせた体で、蹴りを叩き込んだ。
 硬音が高く響き、一撃をその身に受けたドラゴンが身を起こす。は、と笑う声をリコリス・セレスティア(凍月花・e03248)は聞く。
(「戦いは不得手ですが……人々を守る為、私も武器を手に取ります」)
 シャーマンズカードを手に、リコリスは戦場を見据える。
(「それがケルベロスとしての務めであり、数少ない、私に出来る事ですから」)
 リコリスの放つ炎が、ドラゴンを打つ。炎が翼に触れ、唸るような音と共に赤い瞳がこちらを向いた。
「炎か」
 吐き捨てるドラゴンの足が、リコリスに向く。だが、その足が地面を蹴るよりも早くルヴィルが斜線へと踏み込んだ。
「人数的にはこっちが上! 勝負だぞ~」
 炎を纏う蹴りを叩き込み、着地と同時に身を飛ばす。大きな翼を避ける、というよりは戦場を常に見渡す為だ。この身はディフェンダー。守り手であれば、その身は、その視線は仲間を守る為に、使う。
「花は命、お菓子は正義!」
 ルル・キルシュブリューテ(ブルーメヘクセ・e16642)を中心に、その風は生まれた。重い空気を払うように、風に乗ってひらひらと光を帯びた花びらが舞う。
 甘色花吹雪。
 ふわりと香る甘い匂いが、仲間を癒しーーそして、一つ力を与える。
 うん、と戦う仲間たちを見ながらルルは息を吸った。戦況は、未だドラゴンに有利であった。素早い動きに加え、攻撃が重い。くる、と軽く身を揺らし、踏み込んだバルドロアとセルジュに尾が叩き込まれる。ドォン、と重く響いた音のわりに、膝をつくものがいないのは庇いに入ったセルジュとシエラシセロがいたからだ。
「絶対護るから! だからこんな怪我なんて平気だよ」
 血を流し、それでもシエラシセロは言う。
「帰りを待ってる人のためにもボクらはここで負けられないから」
「は、ならばその憂ごと、我が喰らってやるわ!」
 嘲笑うドラゴンにも、傷はあった。叩き込み、引き裂きいれた傷。だが、敵の動きは変わらない。その足を、止めるにはまだ足りぬのだ。
(「……分かってる」)
 ひら、と紙兵を散布しながら、キシュカは前を見る。前衛へと送った紙兵は回復というよりは、耐性、だ。奴から振りまかれる毒への対応策。故に、キシュカは目立たぬように付与に専念していた。結果として、前が薄くなるのは理解している。
 だが、これはーー打てる手だ。
 ドラゴンの攻撃を、動きを奪い勝利を掴む為に。そう思った時だった。
「ほう、足りぬと思えば……そこで何をしている?」
 光が、キシュカの目に映った。

●加速舞踏の演目者
「キシュカちゃん!」
 叫ぶ声は、ルルのものだ。反射的に、キシュカは身を横に飛ばす。さっきまで立っていた場所がドラゴンブレスに焼かれていた。
「大丈夫です」
 さすがに、全く気がつかないようにとはいかないか。それでも一撃を避けた彼女に、毒竜は、ほう、と息を吐く。
「抗うか!」
 吐き捨てられた言葉に、恵は銃口を向ける。
「地獄の夜明けを……呼んでやるよ!」
 銃弾に込めるのは闘気。超高熱の弾丸が、ドラゴンに向かって放たれた。
「この程度……!」
 銃弾をその身に受け、は、と笑ったドラゴンの翼にて、生じるのは爆発だ。着弾と同時に生まれた炎が毒竜を包む。
「っち」
 苛立ちに似た声を響かせ、ドラゴンは間合いをとる。その苛立ちは、今までドラゴンに無かったものだ。それは刻み込んだ傷の数とーー用意を、終えた事実を示す。
「散れ!」
 セルジュの一撃を身に受けながらドラゴンは踏み込む。白銀の爪を露わに、舞うような斬撃がバルドロアに迫る。
「——」
 その斬撃を、身に受けながらもバルドロアは息を詰めることは無かった。流れた血に薄く笑いーーアームドフォートがその銃口を擡げる。
「っち、貴様!」
 攻撃に気がついて、ドラゴンは身を飛ばす。——だが、こちらとてそれを知らぬわけではないのだ。
「流石に疾いな。だが……墜とす!」
 バルドロアの放つフォートレスキャノンが、ドラゴンを穿つ。
「ぐ、ぁあ……!」
 衝撃に身を大きく揺らした竜へと、ケルベロスたちは動く。
 戦場は苛烈さを増していた。
 キシュカが攻撃手に加わり、前衛の攻撃への足がかりをつければ幾ら素早いドラゴンとはいえ、届く。鱗が落ち、こぼれ落ちた血と毒で地面が染まる。だが、その中にはケルベロスたちの血もあった。叩き込んだ分、それ以上に受けた傷は多い。
「あなたが皆様を害する毒ならば、私はそれを癒す薬となります…!」
 戦う仲間へ回復をリコリスは紡ぐ。ルルと二人、小まめに行う回復が戦場に満ちる。
「我が毒に耐えきるというのであればその身、その力、食らって我が最強に至ってやる……!」
 暴れるような毒竜の咆哮が、響いた。狙うはーー後衛か。ひゅ、と息を飲んだリコリスの前、シエラシセロが飛び込んだ。
「——っ」
 庇いきるには、だが一撃の方が重かった。く、と息を詰めた少女は膝をおる。考えるよりも先に、体が動いてしまったのだ。己を呼ぶ仲間の声が響く。追撃を狙うように動く巨体に、セルジュはこっちだと声をあげる。
「絶対に、護って言ったのに……ごめ」
 ディフェンダーとして。
 きつく拳を握ったシエラシセロの耳に、否が届く。
「これは……」
 低い声で。
「機会だ」
 やつの隙を、作った。
 踏み込みと同時に、バルドロアは敵の死角から蹴りを叩き込んだ。真正面、シエラシセロだけを見ていた敵は気がつけまい。その足を止める為に動くものがいるなど。
 駆ける仲間の姿を目に、少女は意識を失う。これ以上、攻撃を受けることがないようにリコリスはシエラシセロを抱いて、後ろに下げる。
「前に出るね」
 ルルの言葉に静かに頷いたリコリスは真っ直ぐに戦う仲間たちを見ていた。
 戦場は加速する。駆け抜ける足で、振るわれる尾を飛び越えて、吐き出されるブレスをその身に受けながらも前に出てーー届かせるのだ。一撃を。
「回復を」
 リコリスが地面に描いた守護星座が光る。うん、と頷いたルルはその身を戦場に飛ばす。地面を蹴り、少女の放つドラゴンの幻影に、毒竜が呻く。鱗は一瞬、炎に包まれ、踏み込む足が僅かに傾ぐ。
(「これは……」)
 若しかして、と紡ぐセルジュに、頷くように恵のサイコフォースが発動する。
「ぐっぁ……!」
「見つけた」
 刻んだのは理力の一撃。踏み込む足の動きが、鈍る。
「そこが、弱点か」
 暴き出した一点。舌を打つドラゴンにキシュカは銃口を向けた。

●いざ鮮やかに
「跳ね回れ!」
 展開された理力の力場に、銃弾が跳ねる。は、とドラゴンは顔をあげるがーーそれよりも遥かにキシュカの弾丸は早い。
「貴様らぁああ!」
 一撃をその身に受け、毒竜は吠える。だん、と地面を蹴り、一気に身を飛ばす。強襲の一撃は、だが踏み込んだルヴィルによって防がれた。斜線に飛び込み、振り下ろされる爪を受けた青年が、は、と息を吐く。
「つ、強いな~」
「ならばそのまま我が糧となれ!」
 毒竜は吠える。その身の苛立ちを示すかのように。だが、振り下ろされる牙は守り手を切り崩すには今一歩足らず、続くバルドロアの一撃が届く。
「くそ……っケルベロス風情が……!」
 舞うように、振り下ろされた牙を腕に受けながらセルジュは笑う。ぐっと、そのまま肩口さえ切り裂かんとする牙をーー嘗ての剣を青年はナイフに滑らせ、弾く。
「なかなか鋭いな。そして力強い。……だが、俺達も負けてはいないさ」
 悠然と、告げたセルジュはそのままナイフを振り上げる。ケルベロスたちの一撃、一撃は重くなっていた。その事実に、ドラゴンは気がつけない。斬撃が、深くドラゴンを切り裂く。身を飛ばし、避ける筈の体が鈍っていることに毒竜は気がつく。
「なん、だと……! っチこの、この俺が……!」
 避けられないだと、と続く言葉に恵は静かに笑った。
「避けられないだろ」
 この時の為に、やってきたのだから。
 素早く、早く、動き回るその身を大地に縫い付けるために。
「きさまらぁあああ!」
 毒竜の咆哮が響く。怒号と共に、放たれるブレスに、血がし吹く。だが、毒に侵される者はーーもういなかった。間合いを取った毒竜の、その牙の届く距離まで飛び込み、落ちる一撃よりも早く、一打を叩き込む。加速する戦場は剣戟と火花に彩られていた。
「貴様らを喰らい、俺は、俺は最強のドラゴンとなるのだ……!」
 暴れるような一撃に、それでもぐっと前に出る仲間に、リコリスは回復を送る。
「例えどんなに苦しくとも、この戦いの果てに人々の笑顔が、幸福が待っていると、私は信じております…!」
 癒しの光の中、駆ける。その身の助けとなるようにルルはバルドロアに回復と付与の力を送る。
「回復するね!」
 この地の厳しさは分かっている。けれど少女は人に不安を与えるような感情は心の中に隠して告げない。深さの違いはあれど、誰もが動く度に痛みがあり、熱を感じーーだがそれでも、動いた。
 貫き通す為に。
 この地での、勝利を。
「散れぇええ!」
「させない」
 叫ぶ声と共に振り下ろされる一撃に、キシュカの制圧射撃が届く。降り注ぐ弾丸の中、踏み込んだ毒竜の足が震える。受けた一撃は恵の放ったものであった。毒竜の弱点。抜いたそれを、恵は使う。スナイパーの命中力とーーこの先に一撃、確かに繋げる為に。
「こっちだよ!」
 告げる声と共に、ルヴィルは炎を纏う蹴りを叩き込む。守りの折に紡いだ言葉を、今は叩き込むその時に告げて。
「ぐ、ぁああ……!」
 鑪を踏む、毒竜に影が落ちる。それは空中に舞い上がったバルドロアが影。
「我らの名を畏れよ。貴様らの喉元を喰い破る、その牙の名を」
 空間が震え、竜を模ったグラビティのフィールドで己を包みこみーー。
「リミッター解除。フィールド展開、ブースター……フルドライブッ!」
 ガンシップドラグーンの名を持つドラゴニアンは残りの力を全て推進力へと変えて目標へ特攻した。
「っく……回避を!」
「いや」
 身を横に飛ばし逃げようとした毒竜にセルジュはナイフを突き刺し否を紡ぐ。
「!」
「おやすみ。いい夢見ろよ」
 傷口から血が飛沫き、ガクン、と腕が落ちる。た、とセルジュは身を飛ばした。次の瞬間、毒を纏し強奪の竜に叩き込まれるのはバルドロアの一撃。その破壊力が、身をかばうように出した翼さえ貫きーー毒竜に届く。
「ぐ、ぁあああ!」
 振り上げた腕から爪が落ちる。ガシャン、という音を恵は聞いた。刃の音だ。嘗てこのドラゴンと戦い、食われた戦士の剣。爪を失ったドラゴンはその身を大きく揺らした。
「ん、だと俺が……負け……敗者になる、など……、ありえ……な」
 鑪を踏む、その足が崩れ落ち、ドラゴンは横倒しになりーー倒れる。大地が震え、響く轟音の中、は、と息が落ちる。
「勝利だ」
 そう、告げる声が重なった。ケルベロスたちの勝利を祝福するかのように、身を潜めていた風が頬を撫でていった。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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