月面大菩薩決戦~試作型宇宙用装備搭載型ヘリオン発進

作者:雪見進

 ここは、とある天文台。通常の観測で月を見ていた観測員が呟く。
「……なんだか変じゃないか?」
「ちょっと疲れているのか?」
 別の観測員も異変に気付く。それほどの異常事態。
「おい、なんだこれ!? 俺の目がおかしくなっちまったのか? それとも俺の頭がおかしいのか?」
「おいおい、現実だと言うなら機械が故障している事にしてくれよ」
 世界各地で、その異変は確認された。月が自ら発光しているように輝き、その光がまるで鳥のように見えるのだ。
 本来、月が光を放つ事は無い。地球の人間が見えるのは、太陽からの光が反射して見えているに過ぎない。しかし、今の月はどう見ても、自ら発光しているように見える。
 その異常は世界各地で確認されていた……機械の故障などではないのだ!

「皆さん、緊急事態です。空の月を見てください!」
 チヒロ・スプリンフィールド(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0177)は観測台にリアルタイムで送られてくる映像を公開しながらケルベロスたちへと説明をしていた。
「あの月が、ビルシャナ大菩薩化し、地球への衝突コースに入ろうとしている事が判りました」
 続く説明は、月が自ら発光している以上に、理解しがたい言葉。相変わらず『常識』を無視するビルシャナ。今回が、月がビルシャナ大菩薩化して、地球へ迫っているのだ。
 NASAとJAXAの調査によれば、このまま月の軌道が変化し続ければ、約1か月で地球との衝突コースに入ってしまうようとの事。
 もし、月が地球に衝突するような事があれば、人類の存続が危ぶまれるような大惨事となるだろう。
「そんな事が起きれば、その惨事により死亡した人々のグラビティ・チェインがビルシャナ大菩薩に吸収され、世界はビルシャナ大菩薩によって支配されてしまう事でしょう」
 しかし、その説明をしているチヒロは絶望している様子は無い。つまり、対策があるのだ。
「しかし、これを阻止する方法があります」
 その阻止の鍵は、文字通り、竜十字島から持ち帰った『月の鍵』だ。この鍵を使えば、月の軌道を元に戻す事が可能だと分かったのだ。
 しかし、それを行うには、月の裏側にある『マスター・ビーストの遺跡』まで『月の鍵』を運ばなければならない。
「非常に危険な任務となりますが、地球人類の為、どうか、この任務を成功させてください」
 そこまで説明をして、一度深呼吸してから、詳細な説明に移るチヒロだった。
「月面までの移動は、アメリカ合衆国で開発していた『試作型宇宙用装備』を取り付けたヘリオンで向かう事を説明してください」
 手元のメモを見つめるチヒロは気づかなかったが『試作型宇宙用装備』という単語に、一部のケルベロスの目が輝いた。
 ……が、それはともかく説明を続けるチヒロ。
「その装備を付けて……」
 しかし、説明を続けるチヒロに何か違和感を感じたチヒロは言葉を言い直す。
「えっと……『試作型宇宙用装備搭載型ヘリオン』に搭乗して、私も一緒に宇宙へ向かいます!」
 言い直した言葉に、一部のケルベロスたちが満足そうな顔になる。その表情に、とりあえず頭に疑問符を浮かべながらも、説明を続けるチヒロ。
「その月の裏側なのですが……」
 しかし、一部のケルベロスが喜ぶ名称はともかく、現場はかなり危険。月の裏側は、ビルシャナによって制圧されている。
 そして、ビルシャナ達は、ビルシャナ大菩薩化した月を地球に落下させる儀式を行っており、その儀式の中心に『マスター・ビーストの遺跡』がある。
 しかし、遺跡に突入する為には、周囲のビルシャナを撃破して突破口を開かなければならない。
「まずは、『試作型宇宙用装備搭載型ヘリオン』から月面に降下、遺跡周辺のビルシャナを撃破して、突破口を開いてください」
 突破口が開いたら、『月の鍵』を持った突入チームが遺跡に突入し、『試作型宇宙用装備搭載型ヘリオン』は遺跡内部に突入して緊急着陸します。
「皆さんには、その『試作型宇宙用装備搭載型ヘリオン』の防衛をお願いします」
 チヒロが説明するケルベロスたちには、その防衛を担ってもらう事になる。突入チームが帰還し脱出するまで、何としても、『試作型宇宙用装備搭載型ヘリオン』を守らなければならないのだ。
 個々のビルシャナは、戦闘力は高く無く、一度に襲ってくる数も多くありませんが、無尽蔵に数がいる為、防衛し続けるのは困難。
「ヘリオンの防衛を第一としつつ、別途の対策が必要かもしれません」
 集まってくるビルシャナに対して突撃を行うなどして、敵の動きをかく乱させる必要があるかもしれない。
 また、消耗の多いチームを一旦後方に下げて休ませるといったローテーションを行う事ができれば、長期間戦い続けられるかもしれない。
 とにかく、初めての宇宙での戦いで、どこまで出来るか分からないが、このまま月が地球に衝突するのを放置する訳にはいかないのだ!
「いきなり宇宙で戸惑う人もいるかもしれませんが、失敗する訳には行かない作戦です。皆さんの力を貸して下さい」
 突然の宇宙という事で、説明しているチヒロもちょっと現実感が無い様子。とはいえ、今回はヘリオンが現場で待機するので、チヒロも作戦に参加する。
 説明を終え、チヒロは自分のヘリオンを最終確認するのだった……。


参加者
大義・秋櫻(スーパージャスティ・e00752)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)
羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)

■リプレイ


 『試作型宇宙用装備搭載ヘリオン』
 特徴的なのは、従来の回転翼による飛行ではなく、ロケットエンジンによる推進システムに変更されている点だろう。試作型だからか、他のヘリオンに搭載されているロケットエンジンに差異があるものの、その性能はほぼ同じ。他にも、各種断熱及び気密対策が取られている他、無重力に対応した各種設備に変更されている。
 その『試作型宇宙装備搭載ヘリオン』に搭乗し、向かうのは宇宙。
「マヒナに行くことになるとは思わなかったなぁ……」
 そんな月へ想いを馳せながら呟くのはマヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)。そんな彼女の腕の中では、シャーマンズゴーストのアロアロがガタガタと震えている。
 そもそもマヒナとは、ハワイ語で月を意味する言葉。つまり、マヒナがマヒナに行く事になるのだ。そんなマヒナの肩にそっと触れるのはピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)。彼はマヒナの婚約者。彼なりに、マヒナの想いを察し、力になりたいと……悲しむ結果にしたくないと願い、気持ちを強める。
「旅行で来られたら、きっと胸が踊ったんでしょうけど……」
「こんな形で宇宙に出るとは思わなかったよ」
 羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)と影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)が呟く。これから向かうのは月。しかし、それは地球の危機を救う為。
 正直、実感の湧かない者もいるだろうが、それでもやるしかない。
 そんな中で張り切っているのは愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)。
「なんせケルベロス指折りの宇宙っ子です。誰よりも宇宙対策を!」
 宇宙っ子を名乗る彼女。様々な装備で、対策は万全……だが、腰にある『purge』のレバーが何か気になる。
「今回は仲間が帰還するまでの、長い長い防衛戦です」
 そんなミライの隣で、作戦を再確認するフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)。今回は全部で12機12班のケルベロスたちが参戦している。この班の役割は、遺跡突入班が戻るまでヘリオンを防衛する事。敵の数は統率が取れて無いとはいえ、万を超えるほどのビルシャナの群れ。その群れから長時間ヘリオンを守らなければならないのだ。
「大丈夫です。正義は絶対に負けません」
 そんな厳しい戦いになるのは間違い無いのに、淡々と言い切るのは大義・秋櫻(スーパージャスティ・e00752)。その身体は鋼鉄、表情は鉄面皮。しかし、皆は知っている。その体躯内とココロに静かな熱い正義の心がある事を。
 そんな仲間たちの言葉を背中で聴きながら、周囲へと視線を向ける瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)。
「本物の月、か……。宇宙を飛んできた時もだが、実際に見ても、非現実的というか……」
 ヘリオンの窓から見える光景に言葉を探すが、今の自分の気持ちを表す言葉が見つからない。
「なんか浮足立っているんだよな」
 そんな自分の気持ちを引き締めるように声に出す灰。それは他のケルベロスたちも同様だろう。
 そんな灰たちの視界に広がる月の現状はいわゆる『月の表側』。地球から天体望遠鏡から観れる月面。そこから、ヘリオンのロケットエンジンで移動すると驚愕する光景が広がる。
「これは……?」
 遺跡があるとされる月面の裏側にまわると、ビルシャナによってだろうか、岩石が全て破壊され、漆黒の宝石のような表面が露出しているのだ。
「オニキスが宇宙に浮いているみたいです……」
 フローネが呟く。オニキス……ブラックオニキスと言った方が聞いたことがあるだろうか。宝石の一種で、美しい漆黒の宝石。それが、宇宙空間に浮いているように見える。
「綺麗……なのかもしれないけどな……」
 灰が口を開くも、それは賛辞の言葉ではないのかもしれない。宇宙空間に浮かぶ漆黒の宝石。それは大きさなど、具体的な理由を抜きにしても、不気味さを感じさせ、同時に今が夢幻であるかのような気持ちになってしまう。
「もしかして、月自体が暗夜の宝石だったのかな?」
 リナが呟くも、それに対する答えは今は全く分からない。ただ、現状の情報として繋がるのは『暗夜の宝石』くらいだろう。ただ……その漆黒の宝石から、何か力を感じる事は無い。それが、不気味さを増している。
 そんあ不思議な漆黒の宝石を観察するケルベロスたち。
「その模様に、少し違和感があります」
「そうだね、あそこ少し変だね」
 その一部が不自然にゆがめられている。ここは月から1000メートル上空。もう少し近寄らないと分からない。警戒しながらも違和感を感じる場所を目指して移動する。
「あそこにビルシャナが集まっているようだねぇ」
 すると、その場所に、大量のビルシャナが居る。目的の場所はここで間違い無い。他のヘリオライダーやケルベロスも気づいたのだろう。その歪みを感じるポイントへとヘリオンを向かわせるのだった……。


「これじゃ、降下は無理だな」
 不自然に歪んだ場所に遺跡に近づくも、そこには無数のビルシャナ。このまま下降してはヘリオンが危険に晒される。
「ここから降下します!」
 遺跡上空1000メートル程度で、ヘリオンから下降し、同時に攻撃を仕掛け足場を確保する作戦だ。
「ここで響かないようじゃ、銀河の果て……ましてや宇宙の果てまで歌を届けるなんて夢のまた夢……」
 気合いを入れるように声に出すミライ。真空対策及び低重力対策を施した装備を背に、歌を響かせ始める。
「君に出会うことを知ってたこの窮屈な鳥籠の中から、ずっと君を眺めていたから♪」
 ここが真空だろうと、ミライには関係無い。宇宙に響かせると想いを込めた歌声は、空気を伝わるという音の概念すら超え、皆の耳へと歌を届ける。
「占いが当たったかのような、予知が現実となったような〜♪」
 歌を響かせるミライだが、やはり準備した装備が少々邪魔の様子。そのまま歌を止めずに腰のレバーを引くと、保護ゴーグル、酸素供給装置、ジェットパック等が綺麗にパージされ、ヘリオンへと収容される。
(「邪魔なので、ぽぽいのぽーいなのです!」)
 歌を止めずに、身軽になりそのまま歌声を響かせ続ける。
「ふふ、さすがミライさんです」
 ミライの覚悟と歌声を背に、一番に飛び出したのはフローネ。地球の六分の一の重力とはいえ、1000メートルからの自由落下。
「この紫水晶の輝き、貴方に無視できますか?」
 自由落下に身を任せながら、周囲へとアメジストドローンを展開。自身のアメジストシールドと同調させながら、アメジストシールドを展開し、交互に光を点滅させ、注意を引くと同時に、紫水晶の光を矢にし、ビルシャナの集団へと降り注がせる。
「行こう、必ず止めるわ」
 頼れる仲間であるフローネを追うように、結衣菜もヘリオンから飛び降りる。仲間の身を守る擬似肉体を作った後、追尾する矢を放ち、攻撃密度を増加させる。
「月を絶望に染めたりなんかさせないよ」
 続けて、月へと降下するリナ。
「風舞う刃があなたを切り裂く」
 ケルベロスに低重力や真空など関係無い。リナが生み出した魔力と幻術が混じり合った無数の風刃が、月面のビルシャナを切り裂いて行く。
 他のケルベロスたちもオーラを放ち、落下しながら攻撃を繰り出し、地上のビルシャナを攻撃して、少しでも数を減らすのだった……。


 周囲に展開しているビルシャナに強敵は居ない。しかし、着地までに全てのビルシャナを倒せた訳ではない。
「シィネェェ!」
 フローネが着地した瞬間を狙い、有象無象のビルシャナが光臨を放つ。
「させません! フェイズ起動確認3、2、1」
 そこへ、速度を上げ、着地したのは秋櫻。
「演算装置、フル可動可能!」
 ビルシャナの攻撃を真紅のマントを翻し、弾き飛ばす!
 空気が無い月面でマントが翻るはずがないと思うかもしれないが、そこはケルベロス。そんな常識など、彼女の前では意味を成さない。そのまま、重武装モードへと換装し、声を上げる。
「スーパージャスティス参上! 正義は絶対に負けません!」
「そうです。紫水晶の輝きは消える事はありません!」
 秋櫻の重武装モードと共に紫水晶を輝かせるフローネ。強い印象を与える二人に群れて襲いかかってくるビルシャナを虹色に輝く蹴りで撃退する。
「やはり、いつもより体が軽い。思い切り過ぎて、宇宙へ飛び出さないように気をつけよう」
 その後に着地した灰が、指輪を光らせると共に、マインドシールドを展開する。これからの戦いは長くなる。その備えだ。
「夜朱も上手くやれよ」
 相棒のウイングキャットに声をかけてから、ヘリオンの降下ポイントを確保するように隊列を形成する灰。
「月に来れたのは嬉しいけど、ビルシャナー!」
 月の着地を喜ぶ暇も無く、仲間の援護に動くピジョン。テレビウム・マギーのスタイリッシュなMV応援動画を背に、喰らいつくオーラを放つ。
「絶対止めなきゃね!」
「うん!」
 マヒナやミライに視線を送りながらビルシャナを倒していくピジョン。そして、それに答えるマヒナ。
「頭上注意、だよ?」
 マヒナは背中をピジョンに任せながら、接近するビルシャナにヤシの木の幻影を作り出し幻惑する。同時に、地面の窪みにケミカルライトを投げる。月面では地面の凹凸が分かりにくい。それを防ぐ処置だ。
 そんなマヒナに攻撃を合わせるピジョン。
「これが産業革命斬だ……!」
 マヒナの作り出したヤシの木を蹴り勢いを付けたピジョンのグラビティを込めた斬撃。さらにマヒナが追撃し、その頭上へとココナッツを落として、ビルシャナを消滅させる。
(遺跡の説明追加)
 そんな連携を取り戦うケルベロスたち。有象無象を倒すうちに、遺跡では状況が進んでいた。
「遺跡の扉が!」
 周囲のビルシャナを掃討しながら、遺跡の様子を見ると、二体にデカくてタフな力持ちっぽいビルシャナが、遺跡の入り口をこじあけようとしている。
「お任せします!」
 明らかに他の有象無象のビルシャナとは違う強敵に、ケルベロスの二班が撃破及び入口の確保へと向かう。
 それを歌声で見送りながら、ケルベロスたちは周囲のビルシャナを掃討し、ヘリオンの安全確保に努める。
「それにしても、禍々しい雰囲気だよ」
 戦いながら、周囲に目を配るリナ。マスタービーストの遺跡は、形容しがたいモノ。まるで、その姿は漆黒の宝石を侵蝕しようとする異物のような存在。
「……どんな参事になるか、想像もしたくないよ。この恵を以って、あなたを癒すわ」
 遺跡の禍々しさを感じながらも、周囲に注意を配り、ダメージを負った仲間の傷を癒す結衣菜。
「しかし、今は目の前の敵を葬りましょう!」
 この班の役割は遺跡へ突入する事では無い。別班の遺跡突入を支援し、そして帰る場所を守る事だ。
「この月が落ちるなんて、嘘だと思いたいけど、とにかく全力で阻止しないとだよね」
「そうだね。月には思い入れがあるし、地球にとって月はなくてはならないものだから、大菩薩化なんて絶対嫌!」
 状況が分かってくるにつれ、考える事が多くなるが、リナとマヒナは一瞬だけ言葉を交わした後、目の前の状況を一つ一つクリアするべく、戦いへと集中するのだった……。


「扉の確保が完了したようです」
 遺跡の扉を無理やり開けようとするビルシャナ二体を別のケルベロスたちが撃破し、扉を確保。同時に、周囲のビルシャナを掃討し、ヘリオンの降下ポイント確保に成功する。
「ヘリオンは絶対守るから、遺跡はよろしくね」
 『月の鍵』を手に、ケルベロスが近づくと、招き入れるかのように扉が開き、次々にケルベロスたちが遺跡の中へと突入していく。
「皆が戻るまで、ここを守らなないとだよね」
 見送りながらも、周囲の警戒を怠らないリナ。遠くには、別のビルシャナたちが近寄ってくるのが見える。
(「頼れる仲間だって居る。フローネさんも付いてる。私だって仲間を支えられる!」)
「……必ず、勝とう!」
 想いを短く口に出し、仲間に声をかける結衣菜。
「もちろんです♪」
「正義は絶対に負けません」
 ミライの歌声と秋櫻の堂々とした様子が仲間を力づける。
(「ココロの内側から、闘志が溢れてきます」)
 そんな仲間たちの様子に、胸の奥から溢れる闘志から強い輝きを感じているフローネ。その輝きを紫水晶の盾として強く光輝く。
「皆さんの帰還まで、護り切ってみせます!」
 遺跡の入り口付近にヘリオンを移動させ、防衛戦の開始だ!


「ビルシャナがいくら押し寄せても、作戦が成功するまでは倒れるつもりは更々無いぜ」
 何度目かの襲撃を撃退した灰が自身に気合を入れ直すように声を出す。
 六班のケルベロスが行う防衛戦。
「交代時間です」
 ローテーションを組み、交代で休憩を取る。いくらケルベロスとはいえ、永遠に戦う事は出来ない。しかし、この月面にいるビルシャナは万を超える。
 対策として、交代で休憩を取り、継戦能力を損なわない作戦だ。
「交代の時間ですよ」
「……そうか」
 月面という通常とは違う環境。途切れる事の無い増援。それは、時間などの様々な感覚を狂わせていく。
 体感的に、どれほど時間が流れたのか分からないが、状況の変化は突如訪れた。
「突入班の方々が脱出してきました!」
 突如遺跡の方向からケルベロスたちが脱出してくる。作戦の詳細は分からない。しかし、絶望の表情をしている訳ではないから、最悪の状況になってる訳ではないのだろう」。
「怪我人はこちらへ!」
「無事な人は、こっちへ!」
 事前に用意していた脱出プランに従い、遺跡から脱出してきたケルベロスたちをヘリオンに収容し、同時にビルシャナからヘリオンの防衛を行う。
「これで最後です!」
「了解です!」
 最後の一人がヘリオンに乗った事を確認すると、防衛班のヘリオンも飛行を開始する。
「最後です! こうなることを分かってた。信じてた♪」
 ミライの歌声を背に、ケルベロスたちが最後の攻撃を繰り出す。フローネの紫水晶の光が瞬き、マヒナとピジョンの矢と気が敵を追尾し貫く。
 灰のパズルから現れた怒れる女神がビルシャナたちを狂乱へと陥れ、リナの放つグレイブが天空で無数に分裂し、ビルシャナへと降り注ぎ、結衣菜の具現化した黒太陽が絶望の黒光を照射する。
「どんな過酷な環境下でも、皆を守り必ず帰還させる」
 相変わらずの無表情に秋櫻がマルチプルミサイルをばら撒かれ、爆発が巻き起こる。
 それを背に、ヘリオンが離陸。爆発と共に月面上空へと向かう。
「振り切った?」
「たぶん……でも、油断しないで」
 ケルベロスたちの一斉攻撃で近くのビルシャナは蹴散らした。そのまま、ロケットエンジンを点火し、月の重力圏から離れるヘリオン。
 詳細は地球に戻った後に聞く事になるだろうが、最悪の事態は避けられたようだ。
 今は、仲間の無事を喜びながら地球へと帰還するケルベロスたちであった。

作者:雪見進 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年10月18日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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