●月はあたかも鳥のごとく
9月30日の夜は明るかった。
そして、多くの人々が、その理由を目撃した。
幹線道路を行く無数の車。片側だけ交通量が多いのは、おそらく家に帰ろうとする者が多いからだろう。
とある車に乗った4人家族の場合、最初に気づいたのは幼い弟の方だった。
「ねえ、兄ちゃん」
「んー?」
携帯ゲームから顔も上げずに兄が答える。
「お月さまに、鳥さんがいるよ」
「なに言ってるんだよ。月にいるのはウサギだろ?」
「だって、いるんだもん、鳥さん」
そこで、ようやく兄はゲームを一時停止して、窓の外を眺めた。
「うわっ! なんだあれ!」
少年が声をあげる。
月が、まるでみずから光を発しているかのように輝いていたからだ。
そして、その光は鳥の形をしているように見えた。
「本当ねえ。鳥みたいに見えるわ。大丈夫かしら」
兄弟が騒ぎ始めたのに気づいた母親が言う。
「もしかしたらデウスエクスの仕業かもしれないな。早めに帰ろう」
父親はそう言ってアクセルを踏み込む。
同じような会話が、そこら中の車の中や、あるいは歩道でかわされていた。
だが、月が地球へ向けて落下しようとしていることは、まだ誰も気づいていなかった。
●番犬たちよ、月へ飛べ!
「緊急事態です」
いつも通り落ち着いた様子で石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は告げた。
「空の月を見てください。月がビルシャナ大菩薩と化して、地球への衝突コースを向かおうとしていることがわかりました」
NASAやJAXAなどの調査によれば、このまま軌道変化を続けると1ヶ月ほどで地球への衝突コースにはいるという。
月が地球に激突すれば、ケルベロスやデウスエクスは平気としても、人類は存続すら危うい。
「そして、その大惨事で死亡した人のグラビティ・チェインはビルシャナ大菩薩に吸収され、世界は大菩薩によって支配されてしまうことでしょう」
けっして見過ごすことのできない事態だ。
「しかしながら、まだ阻止する手段は残っています。ケルベロスの皆さんが先日持ち帰ってくれた『月の鍵』です」
鍵を用いれば、月の軌道をもとに戻すことができるのだという。
ただし、そのためには『月の鍵』を月の裏側に存在する『マスタービーストの遺跡』まで持っていかねばならない。
「非常に危険な任務ですが、人類を救えるのはケルベロスの皆さんだけです。どうか、力を貸してください」
芹架はケルベロスたちに頭を下げた。
「月面への移動についてですが、先日開かれた『ケルベロス大運動会』の収益を使って、アメリカで開発された『試作型宇宙用装備』を取りつけたへリオンで向かいます」
芹架のへリオンにももちろん装着済みだ。
「専用装備で宇宙に行くなんて、ちょっと映画みたいな気分ですね。もっとも、主役は皆さんですけれども」
それから、芹架は月にたどり着いてからのことについて語り始めた。
「月の裏側は、すでにビルシャナによって制圧されています。そして、目指す遺跡は大菩薩化の儀式を続けるビルシャナたちの中心にあります」
ビルシャナたちは儀式を妨害しない限りそれに集中し続けるようだが、遺跡に入るためには交戦が避けられない。
ケルベロスたちには『遺跡に突入するチーム』と『遺跡までの突破口を開き、作戦終了までそこを防衛するチーム』に分かれてもらうと芹架は言った。
「ここにいる皆さんに引き受けていただくのは、後者の役割になります」
まずはへリオンから月面に降下し、儀式を行うビルシャナたちと戦って遺跡までの突破口を開く。
その突破口から突入チームがへリオンごと遺跡に入って着陸することになるが、そこで仕事が終わるわけではない。
「ビルシャナたちの追撃を防ぎ、突入チームが帰還するまでへリオンを守らなければなりません」
月に集まっているビルシャナたちはけっして強いわけではない。
また、1度に襲ってくる数も多くはない。
「しかし、ビルシャナたちはどうやっても倒しきれないほど大量の戦力を揃えています」
無尽蔵の増援と正面から戦い続ければ、いずれ力尽きることは確実だ。
「へリオンの防衛を第一にしつつ、ビルシャナの群れに突撃してかく乱したり、ローテーションで休息を行う態勢を整えるなど、なんらかの工夫を行う必要があるでしょう」
芹架はそう言って、説明を終えた。
「たいていの方は宇宙に出るのははじめてでしょう。慣れない環境での長期戦になりますが、月の衝突を阻止できるのはケルベロスだけです」
マスタービーストの勢力であるソフィステギアがグランドロンと共に月に向かっているという情報もある。
十分に注意して戦ってほしいと芹架は最後に付け加えた。
参加者 | |
---|---|
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547) |
シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257) |
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707) |
グレイン・シュリーフェン(森狼・e02868) |
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) |
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606) |
尾神・秋津彦(走狗・e18742) |
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176) |
●輝く月へと飛べ
おそらく真空中で音が聞けたなら、周囲には轟音が響いていたのだろう。
ロケットエンジンを搭載したヘリオンは、地球の重力を飛び出してまばゆく輝く月へと向かっている。
到着まで問題なく過ごせるよう、ヘリオンにはエンジンだけでなく様々な改造が施されているようだった。
「まさか本当に落ちてくる事になるとはな、もちろんそんな事はさせやしねえが」
呟いたのはグレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)だった。
竜十字島で対決したデウスエクスから月が落ちてくると聞いたメンバーの1人だ。
悪趣味な冗談とも取れる言い方だったが、真実はすでに明らかだ。
「ビルシャナはなかなか理解しがたい存在ですが、まさか月をビルシャナ化とは……」
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)は幼さの残る顔に落ち着いた表情を浮かべて言った。
「おかしい奴らだとはわかっていたが、まさか本気で人類を滅ぼしにかかってくるとは思ってなかったぜ」
不機嫌を隠そうともせずに言うのはハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)だ。
普段は快活な彼だが、ビルシャナに対してはなにか複雑な想いがあるようだ。言葉の端々に覗く敵意を隠す様子もない。
「み、みなさん、頑張りましょうね……!」
シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)は震える声で仲間たちにそう呼びかけた。
穏やかそうな顔だちをした修道服の少女の言葉を聞いて、赤毛をツインテールにした少女がその横に並ぶ。
「ええ。もしも地上に落ちればどれほどの被害となるか恐ろしいです。絶対に止めねばなりません! 頑張りましょう、シルフィディアさん」
ウィッカにそう声をかけられて、シルフィディアは頷いた。
鳥の形に輝く表側から月の裏側に抜けると、遺跡を中心に大量のビルシャナたちがいた。
表側と同様に岩肌が広がっているはずの地表はすべて剥ぎ取られ、漆黒のなにかがむき出しになっている。
まるで黒い宝石が宇宙に浮いているようにも見えた。
「んもー! ボク達の綺麗な月を奪うなんて許せない! ぎったんぎったんにしてやるんだから! ぷんすか!」
儀式を続ける敵を見て、平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)が怒りの声をあげる。
あのビルシャナたちを突破し、遺跡までの道を切り開くのが彼らの役目なのだ。
黒い宝石には、よく見ると瑪瑙のような縞があった。その縞の一角にビルシャナたちが集まっているのが見える。きっと中に入ろうとしているのだ。
「あれが入り口だな。準備はいいか?」
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)の冷静な声がケルベロスたちへと行動開始を促した。
「問題ない。いつでも行ける」
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)が彼女に答えた。
まるでロボットのような外見をした彼も、今はまだ普通の男性のような声を出している。
ケルベロスたちは順にヘリオンに備え付けられたエアロックから外へと顔を出した。
「ここが月――。小生、満月の晩にはつい遠吠えをしてしまうのですが」
はじめて見るこの空間に視線を巡らせるのは羽織を身に付けた少年だ。
「……いざ月に来てもそういう気分にならないのが不思議であります」
尾神・秋津彦(走狗・e18742)は首をかしげて見せるが、しかしその理由を考えている暇はない。
他のチームもそれぞれに月表面へと降下をはじめたようだ。
ケルベロスたちはヘリオンから飛び出した。
その降下を防ごうと、一部のビルシャナたちが動き出したのが見えた。
●薙ぎ払え!
目に見えるビルシャナたちは、雲霞のごとくという表現が似合うほどの数だった。
いちおうトランシーバーを用意してきているが、例によって通信装置の類はなんらかの手段で妨害されてしまっているようだ。
ティーシャとマークが片目をつぶって視線を交わし、ほぼ同時に首を横に振る。
どうやらアイズフォンも通じないようだ。正確に言えば、アイズフォンそのものは発動しているが、接続すべき電話やネットの回線が無効となっているということだ。
「ハンドサインで連絡を取り合うしかなさそうだね。準備しておいてよかった」
「はい。なんとかしましょう」
和やウィッカが手を動かしてサインで意思疎通を図る。
通信できないのは予想できたことで、動揺するケルベロスはもちろん1人もいない。それに、動揺している時間もありはしない。
ゆっくりと降下していく和は、己の知識を見上げてくるビルシャナの1体へと錬成する。
「知恵を崇めよ。知識を崇めよ。知恵なきは敗れ、知識なきは排される。知を鍛えよ。知に勝るものなど何もない。我が知の全てをここに示す」
数多の知識が結実し、一冊の本として月へと顕現する。
その本が果たして何ページに及ぶのかは和自身とてわからない。
ただ、1つだけ言えることは――月の弱まった重力下においてすら十分に凶器としての効果を発揮する、質量を持っているということだ。
脳天に書物が突き刺さり、ビルシャナの1体が月の大地に倒れ伏す。
「やるな。けど、油断は禁物だぜ。しっかり守りも固めていこう」
盾を構えたままハンドサインで合図を送り、ハインツはケルベロスチェインを操る。
彼自身や和、そして他の前衛のメンバーたちを守るように鎖の結界が展開し、防御力を高めていく。
「紅き死の雨、天より降りて焼き尽くせ! この世を煉獄へと変えよ!」
魔術の力を込めたガーネットを天へと投げあげる。
微弱な重力を容易く振り切った赤い宝石が空気のない天空で千々に砕け散った。
漆黒に姿を変えられた月へと紅い雨が降り注ぐ。
鋭利な破片となったガーネットは、空気がない中でも激しい炎を発してビルシャナの一団へと降り注ぐ。
空から襲いかかったその後は、漆黒の宝石のごとき月の大地からも爆発が起きた。
だが、それは敵を攻撃するためではなく、前衛に立つ仲間たちを鼓舞するためのもの。
「それにしてもこんな風に月に来る事になるとは思ってもみなかったぜ」
グレインは爆破スイッチに指先をかけたままで呟いた。
「自分、遠距離攻撃の手だてがござりませぬゆえ、一足先に行かせていただきますぞ」
空中を蹴って猛然と降下した秋津彦は、愛用する天狗切の大太刀でビルシャナの1体を深々と切り裂いた。
「火力を集中して一気に片を付ける!」
ティーシャが多重ロックオンしたレーザーで敵を薙ぎ払う。
「月の景観壊してんじゃ無いですよ……鳥モドキのゴミが……!」
シルフィディアは怒りを込めて呟いた。
穏やかそうな少女はもういない。
全身を覆う防具で全身から噴き出る地獄の炎を覆い隠し、彼女は怒りを込めて敵へと狙いをつける。
「跡形も無く何もかも燃え尽きて死ね……!」
オラトリオの翼が地獄の炎に包まれる。その炎が漆黒へ変わり、羽根がビルシャナへ向かって飛んでいく。
光が、炎が乱舞する中を、マークが重量感のある動きで着地した。
脚部装備に仕込んだパイルを漆黒の地面に突き立てて体を安定させると、彼は軍用のガトリングガンを傷ついた敵へ向けた。
交差するように放つ2丁のガトリングガンが傷ついた敵を粉砕する。
赤熱する銃身から無数の薬莢が排出された。重力の弱い月面でそれらは落下せずに空間へと広がっていく。
敵は反撃を繰り出してくるが、ハインツの守りがその威力を軽減しており、大きな打撃は受けない。
着地点付近にいた敵をすぐに殲滅したケルベロスたちは、入り口方面にいる敵を蹴散らして前進していった。
●強敵出現
全員が準備してきた酸素供給装置による呼吸の補助もあって、安定した戦いぶりで8人と1体は月面を突き進んでいく。
幾度も現れるビルシャナたちを、次々に蹴散らしながらケルベロスたちはヘリオンの侵入ルートを切り開いていた。
上空から見えていた通り、遺跡の入り口にも敵がいた。
巨大な2体のビルシャナが遺跡をこじ開けようとしているのだ。
もっとも目標である遺跡のずいぶんと禍々しい印象だ。まるで美しい宝石に真っ黒な肉の芽が食い込んでいるように見える。
「……気をつけろ!」
ハインツがそうハンドサインを送ったのを、果たして何人が見ただろうか。
ケルベロスたちの接近に気づいたビルシャナの一方が素早く振り向いて後光を放ってきたのだ。
火花を散らす勢いで無言で急加速し、マークが和をかばう。ハインツも秋津彦の前に飛び出していた。
蹴散らしてきた相手とは大違いの実力を持った敵。
「大量にいれば、中には強いのも混ざってるってことだねー」
改めて、和が警戒をうながすハンドサインを中衛や後衛たちに送った。
その間に、グラビティの防護膜が月面に輝き、前衛のケルベロスたちを包んだ。マークが展開した重力装甲だ。
もう1体もいつの間にか別のチームと交戦し始めているようだ。
強力な攻撃を繰り出してくるビルシャナだが、遺跡の前にいるのでは放っておくわけにいかない。
「突破して終わりではありませんから、ここは初手から回復に回っておくべきでしょうね」
冷静に判断したウィッカは、フェアリーブーツで戦場を美しく舞い踊る。
漆黒の地面に花びらが降ってきて傷ついた仲間たちを癒していく。
ビルシャナの攻撃は、最初人数の多い前衛へ主に向けられていた。
狙撃役の2人はその間に、敵の体力を確実に削っていく。
「でかい面してのこのこ突っ立ってるんじゃないですよ……! ゴミらしく潰れててくださいよ!」
己が地獄を基に作り出したハンマーから火を吹きながらシルフィディアが痛烈な打撃を加える。
「強敵なら、まずは確実に足止めからだ」
ティーシャも砲撃戦用に作ったハンマーを変形させて、竜砲弾で動きを止めていた。
宇宙戦用の調整を加えた装備は適切に機能し、ビルシャナを捉えている。
後光や真空中でも聞こえる経文はケルベロスたちを攻め立てるが、たやすく倒れる彼らではない。
ウィッカの回復はもちろん、グレインが引き出した自然のエレメントによる守りの影響は大きかった。
「こんな場所でも自然は俺達の味方みてえだな」
あるいはこんな場所だからこそか。岩肌を削り取られ内部を露出させられた月を見回しグレインは呟く。
ハインツと共に仲間を守っているオルトロスのチビ助が、エレメントの力を借りた球形の守護に包まれる。
予想外の強敵とはいえ、ケルベロスたちが力を合わせて倒せぬほどの相手ではない。
傷ついた敵は打撃役の秋津彦を炎で狙ってきたが、マークがとっさに攻撃に割り込む。重量級の彼にとって、むしろこの低重力下のほうが動きやすいのではないかと思わせるほど。
ハインツが黄金の蔦を伸ばして火傷を包みこむ。
「これで大丈夫だ、あと一歩頑張ってこうぜ! トイ、トイ、トイ!!」
激励する言葉は真空中で聞こえていないが、マークは軽く頷いて謝意を示した。
その間に和と秋津彦、2人の打撃役が止めを刺しにいく。
「これで終わりだ、月に代わってぶっとばしちゃうぜー!」
斜め上から空中を蹴って弾丸のごとく移動しながら、和が伸ばした如意棒でビルシャナを貫く。
「地上と違い飛び跳ねられないのが難点ですが。狼の猛々しさは損なわれておりませぬ」
秋津彦は黒不浄の穢れを太刀にまとわせて地を蹴った。
「存分に牙の味を馳走致しますぞ」
死、そのものである呪いが真空の月面を走り、不可避な速度でビルシャナへと迫る。
和が如意棒を引いたその瞬間、秋津彦の太刀が敵を両断していた。
突入組のヘリオン6機が飛来する。
月の鍵を持ったヘリオンが接近すると、ビルシャナがこじ開けようとしていた遺跡はひとりでに開いた。
●撹乱作戦
突入チームが遺跡内へ入っていった後、ケルベロスたちは迫ってくる。
撹乱を担当する予定のもう1チームと交代で、ケルベロスたちはビルシャナの注意を引くために繰り返し出撃していた。
「ウジャウジャと、生ゴミの分際で……!」
シルフィディアの怒りの叫びは真空に阻まれて届かないが、如意棒にまとった紅蓮の炎は言葉の代わりに敵を焼き尽くす。
「あまり前に出すぎないようにしてくださいね、シルフィディアさん」
怒りに燃えるシルフィディアを癒しつつ、ウィッカはハンドサインで呼びかける。
「10分たったから、次にアラームが鳴ったら交代だよ」
和がアラームで確かめた時間を、やはりハンドサインで仲間たちに伝える。
皆がサインを見落とさないように、アクロバティックな動きで和は仲間たちの間をすり抜けていった。
回復を重視した行動をしていたおかげで、大きな被害を受けることなくやがて交替の時間が来た。
「帰り道も注意するでありますよ!」
黒い地面を入り口方面へ駆け抜けざま、秋津彦は敵の1体を切り伏せていた。
もう一方の撹乱担当チームと交代し、ケルベロスたちは治療と休息を行っていた。
酸素供給装置を用意してきたのは成功だったと言えるだろう。窒息によるダメージは受けないが、ずっと息が詰まったままでは精神的に厳しい。
休む間、ティーシャはゴーグルと双眼鏡で戦闘の状況を確かめていた。
幾万ものビルシャナが黒い宝石の上をひしめいている。
(「月そのものが、暗夜の宝石と言うことなのか? ――今考えることではないか」)
突入チームが戻るまで、ヘリオンを守りきらねばならない。
やがてまた交替の時間が来て、皆は戦場に戻った。
ケルベロスたちは幾度かの休息と撹乱を繰り返した。
『Alert! 残弾僅少!』
戦術AIが警告を発するのを聞きながら、マークはガトリングガンの引き金を引き続ける。
「守り続けるのも楽じゃないな。だが、ビルシャナなんかにやられないからな、チビ助!」
ハインツは叫んで自らを鼓舞しながら、オルトロスを撫でてやった。
ディフェンダーであるハインツとチビ助、それにマークは回復できない傷がだいぶ蓄積してきている。もちろん他の者たちも無傷ではない。
それでもビルシャナには絶対に負けられない。そう考えて、ハインツは拳に力を込める。
真空の冷たさから守ってくれているのは、きっと防寒服だけではない。
突入チームが負傷者を抱えて戻ってきたのは、およそ一時間もしてからだろうか。
最後の力を振り絞って、ケルベロスたちは彼らがヘリオンに乗り込むのを支援する。
そして、防衛チームのメンバーたちもヘリオンへ急いで乗り込んだ。
「これで終いだ!」
牡牛座のゾディアックソードからグレインが星座の幻影を放ち、ヘリオンに接近してくるビルシャナを蹴散らす。
他のケルベロスたちも追いすがる敵を遠距離攻撃で打ち落としていた。
月が落ちるのを阻止できたのか、確かめている暇はない。ただ突入した仲間たちを信じて、ケルベロスたちは輝く月から撤退していった……。
作者:青葉桂都 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年10月18日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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