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草臥れた靴の底を擦り付けるように、夜の閑散とした道を歩く。
新作のゲームに浪費した休日から、また一週間が始まる。鬱屈としながらも、しかし、帰りついてゲーム機のスイッチを入れる快感を夢見て、彼は夜空を見上げる。
それになんの意味も無かった。
ただ見上げただけ。
だが、見上げた空を捕らえた目は、脳はその違和感を如実に訴えかけてきた。
月が明るい。
自ら光を放っているかのように、その顔を地球へとまっすぐに向けて、地面に影を映し出している。
擬人法を用いた自分の感想に、彼はまたしても首を傾げた。
まるで、実際に空に浮かぶだけのそれが明確な意志を持っていると、言い知れぬ確信が胸に去来する。
人ではない。
しかし、それは無機物ではなく、何かの生物のように。
しいて言うならば、それは。
「……鳥?」
のように見えた。
彼は暫く空を見つめ、そうして、目頭を押さえて頭を振るう。
疲れているのか。週初めからこれでは一週間持ちそうにも無い。ゲームは諦めて、寝るか。と、彼はまた、家へとその疲れた足を引きずっていく。
気づきもしない、考えもしない。
そんな毎日の崩壊が、もうそこにまで迫っていると言う事には。
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「月が落ちてきます」
端的にダンド・エリオンは告げる。
月が落ちてきそうな夜、等という言い回しはあるが、それが比喩でもなんでもなく、現状を表している。
更に、彼は突拍子もない言葉を畳みかけていく。
「ビルシャナ大菩薩化し、地球への衝突コースに入ろうとしている事が判りました」
このまま、月の軌道が変化し続けば、約一か月で地球との衝突コースへと突入してしまう。
ビルシャナ大菩薩と化した月の衝突。それは、地球が文字通り崩壊する、というだけにとどまらない。
地球上の人間、衝突によって命を失う人々のグラビティ・チェインを全てビルシャナ大菩薩が吸収したとなれば、世界は、ビルシャナ大菩薩に支配されてしまう。
「ですが、これを阻む手段が、我々の手の内にあります」
『月の鍵』、それは先の作戦で竜十字島から持ち帰った、いわば戦利品だ。
この月の鍵を使えば、月の軌道を元に戻す事が出来る。
「……月の裏側にある『マスター・ビーストの遺跡』まで『月の鍵』を運びこむことが出来れば、ですが」
月。
現在、ビルシャナ大菩薩と化して、接近を試みているとはいえ、それは紛れも無く天体だ。
ドラゴンの飛ぶ上空、等とは比べ物にならない程に遠い。
だが、そこへと至る道は既に用意されているという。
「試作型宇宙用装備をヘリオンに装着し、月へと向かいます」
既に、それらは装備を済ませている。
「月の遺跡には、マスター・ビースト配下の獣人型デウスエクスが待ち構えています」
ビルシャナではなく、マスター・ビーストの勢力。
月の鍵、宇宙用装備、それらがケルベロスに舞い込んだ途端の、この事件。宇宙用装備は、完成とは言えぬ試作段階でしかないが、それでも何かの思惑を感じさせる事の運びだ。
だが、その裏にいかなる策略があろうと、出来る事は変わらず、することも変わらない。
「当然、マスター・ビーストの配下が大人しく我々を通してくれるとは思えません」
内部の地図などは無いが、月の鍵が導いてくれる。中心部まで、月の鍵を奪われる事無く運び込むことが、最重要となる。
それを成功させるために、ケルベロス達を複数の班に分ける事を提案した。
一つは、月の遺跡の制御までに宇宙装備を施したヘリオンを護衛する班。
一つは、月の遺跡の内部へ侵入し、妨害を乗り越え遺跡の制御をおこなう班。
「皆様には、突入の班として参加していただきます」
脱出口を仲間へと委ね、彼らが消耗しきる前に制御し、衝突を回避する。
敵の増援も予知されている。二度目は無いかもしれない。
ならばそれが来るまでに、脱出までを行わなければいけない。
「複雑、かつ、重要な任務となります」
月のビルシャナ大菩薩化。
マスター・ビーストの妨害。
これらの最終目的はまだ見えない。
「ですが、人々を守るこの戦い」
文字通りに、間接的などではなく、直接的に地球を守る戦い。
「勝利しましょう」
ダンドは、微笑んでいた。
参加者 | |
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神崎・晟(熱烈峻厳・e02896) |
ルーク・アルカード(白麗・e04248) |
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112) |
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753) |
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079) |
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490) |
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007) |
香月・渚(群青聖女・e35380) |
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月。
そこに抱く感情は、きっと同じウェアライダーでないと理解のできるものではないのだろう。
剥がれた月の表皮から覗く漆黒の宝石。
群がるビルシャナ。それを撃破していく制圧班を見ながら、ロケット噴射によって進むヘリオンの中で、玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)は、拍子抜けするほどに落ち着いた自らに驚いていた。
気を狂う程に、焦がれた月だ。それだというのに、同じヘリオンに乗り込んだウェアライダーと目を見合わせて、互いに正気を確かめ合う。確かめ合う程に、正気を保っている。
「……」
互いに困惑の表情から言葉を発しようとした、その瞬間に。
ご、と衝撃がヘリオンを襲い来た。
「穏やかな着艦など期待はしてなかったが」
荒々しく着地か着弾か、という到着をしたヘリオンから神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)が咳を放ちながら、月へと降り立ち、遺跡へと向かう。
「……随分と」
「気持ち悪いねえ」
と、言葉を濁らせた晟に香月・渚(群青聖女・e35380)が続く。
「ちょっとワクワクしてたけど」と、月に立てば何を思うのか、などと馳せていた想いは、現実感という五感の働きと、目の前の遺跡の異様に攫われていた。
宝玉の表面に脈打つ肉の芽ともいうべき何かが食い込んでいる。内部に入れば、その脈動が遺跡全てが生きているかの如く続いている事が明明と知れた。
「ああ、酸素ボンベ、外さない方がいいでしょう、ね」
苦しみ悶えたいなら、別ですが。と晟が用意した酸素ボンベを確認しながらウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)が、連れたウイングキャットが酸素ボンベを外そうとしないのを見て肩を竦めた。
ここの空気は毒性でもあるらしい。でなければこの猫は煩わしいボンベ等すぐに放り出すだろう。
「……そうだな。さあ、行こう」
遺跡の禍々しさに恐々としている暇も無い。ルーク・アルカード(白麗・e04248)が発した言葉に、誰ともなく首肯しては、敵の足止めを担う班が先頭にケルベロス達は遺跡の中を進みだした。
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「左方から敵!」
「僕が!」
発せられた言葉に即応して、カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)が展開した氷の刃を異形へと突き立てた。
次元圧縮。この空気に含有する成分も知らないが、大気があるのであれば、それらは全て彼の術によって刃となる。
横合いから襲い来た異形の人型に八つ展開した剣を突き立て、更に三閃、氷刃を薙ぎ払いその体を四分割していく。
ヒト、というものを一度完全に溶かしきり、ひとまず無造作に人の形に流し込んで固めたとでも言いたげな、気味の悪いチョコレート菓子のような異形の敵。
「ここは、マスター・ビーストの遺跡ではないのですか」
カルナが疑問を呈する。恐らく、この場の誰しもが考えている事だろう。
現れる敵は、とてもではないがウェアライダーの姿をしていない。これはもっと、それよりも残酷に、強大に、そして、冒涜的な何かだ。
「……」
蟠る疑念に、しかし、進む足取りは留まらない。
洞窟を抜けていくように、曲がりくねる道をただ只管に進んでいけば、20分ほどか、雰囲気が変わっていく。
気味の悪い脈動は、いまだ続き、否、ともすれば大きくなり、まるで何かの体内へと潜り込んでいる様な錯覚さえ感じる。
そうして、視界が開けた。
「……ぁ?」
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)は、そうしてたどり着いた場所をその目に映して、それらが何であるかを理解するのに、思考に空白が生まれる。
そうして閉口する。それが一体何か、その答えが明確に脳裏に浮かび、そして口にする事を憚る。
同時に、スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)も同じ結論を得る。
恒温動物の体内であるかのように、安定した気温。
鼓動を止める事無く脈動する施設。気味が悪く、しかし、どこか懐かしいうねる道。
そうして、眼前に現れた、動物の死骸やら、何かの肉が浮かぶ水槽。いや、試験管。プールか。
そういった物。
神造デウスエクス。
ウェアライダー。
神に造られた、デウスエクス。
ならば、それが造られた、造り出した場所。
――実験場。
「……っ」
進むにつれ、その姿は進化図を遡るように変わっていく。図鑑でしか見たことのないような動物までが水槽の中に、死して浮かび始め。
地球上から絶滅したはずの動物の死骸。一つとして生きている物は無く。
背筋に寒いものを感じながらも、しかし、状況はそれに浸る事を赦さない。
どずん、と床を叩く音に振り返る。そうして、やはりここは、マスター・ビーストの遺跡であることを悟った。
「……来るぞ」
絶滅したはずの動物。その姿を象ったような姿のデウスエクスが目の前に現れていた。
神に造られたデウスエクス。絶滅し生まれたモノ。三体の敵。
八人の目の前に現れた、三体の内の一体。それは、さながらカイギュウの姿をした、ウェアライダーだった。
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その動きは、言ってしまえば単純であった。
その質量を利用した突進や、部位を使用した鞭の攻撃。単純であり、そして、そうであるが故に。
個としての力が最も発揮される。
「回復、お願いっ」
防御を固めようとそれすらも踏み砕かんばかりの力に、渚がボクスドラゴンへと言い放ちながら、駆ける。
流星の輝きを纏いながら、暴圧そのものとなるカイギュウへと跳ねた。いつもより体が軽い。踏み込んだ足が床を離れる時間が早い。背負ったボンベが無ければもっとバランスを崩していただろう。
「……っ」そんな気晴らしの感想すら、思考に押し流されていく。まずい、と。弾丸の如く放たれた渚が、超速の蹴りを打ち放ってカイギュウの体を弾き飛ばす。
クリーンヒットだ。だが、どのような重量なのか。この低重力下ですら、軽く足を浮かせるだけのカイギュウは、頭部から生えた部位を振るい渚の体を打ち払い、その体は相反するように、吹き飛んでいった。
だが、彼女が作った隙へと、ルークがその身を躍らせる。ずずん、と沈むこむように着地したカイギュウへと両手に構えた惨殺ナイフを煌めかせて、その表皮を裂かんと迫る。
「――っ」
だが、その刃がその皮に届くその前に、体を旋回させたカイギュウの頭部のぶちかましが大型トラックの衝突が如く、横合いからルークへとぶつかり。
ルークの姿が木っ端微塵に砕け散った。血の一滴すら、肉片の一つすら残さず、ルークの分身は、本体へ活路を開いて消え失せた。
体を回したカイギュウの開いた首へと、彼の握る惨殺ナイフが深々と突き立つ。間髪入れず、突き立てたナイフを、宛ら扉を開く如く、左右へと肉を引きちぎれば、カイギュウが咆哮を上げる。
確かな手ごたえ。傷の深さからも、確実にダメージを与えた事を理解しながらも、しかし、耳に入る言葉に体を即応できずにいた。
「離れろ!」
ああ、分かってる。
痛みにか、暴れるままにその体がルークへと突っ込んでくる。振るわれた体は、その大質量を持ってルークの体を打ち据える瞬間を、緩慢にルークは感じていた。
腕を押し付け、胴ごと体がひしゃげる。視界が回る。旋回した体が地面へと叩きつけられて、見上げた先に今に振り下ろされる足。
起きようとして、腕が動かない。左腕が拉げている、鎖骨からして微塵に砕かれたようだ。彼の頭蓋を踏み抜いてなお余りあるだろう、そのカイギュウの脚が振り下ろされるその瞬間。
轟音が鳴り響いた。
「撃て撃て撃て撃て! なのじゃよ!」
その声は鍵輸送班の護衛班、その一人。そうして、二班、十六人が参戦し、戦場が加速していく。
●
「……うん、助かるよ!」
爆炎の尾を帯びるドリルの群と共に放たれた、協力の言葉に渚が間髪入れずに歓迎する。
彼女自身、目の前の脅威に押されている自覚は明確にあった。
3班でもって一体ずつを確実に撃破していく。その中でも特に強敵そうだったカイギュウを最優先に。
陣内も、その案に異論はない。
多重攻撃による、轟音と衝撃の嵐の中を駆け抜ける猫にカイギュウの視線を誘導させた先へ、水鏡を召喚する。
「……見たな」
そこに映る者が何かは知らない。だが、その視線が動きが一瞬、静まったのを陣内はしかと見止める。
「貰うぞ、陣内君」
グラビティの嵐の中、注意を一点に向けたその無防備に、晟が一気に距離を詰めていく。
鎚というには歪な、錨に柄と鎖を繋げた超重の先で竜が蒼雷を纏う。水鏡を解いた飛沫を散らし、ドラゴニアンの巨躯が空へと駆けあがり、そして羽ばたき、壁を蹴る。
「壊れるのは、困りますから、ね」
上ではなく、下。
カイギュウの背後から忍び込むように接近したウィルマが、大地を無視するように現れた柄を握りしめた。宛ら、地面に大半を沈めたような大剣は、定めた以外は契約外とばかりに触れる事すらしない。
だが、溢れる蒼炎は確かにそこにある。
脱力したようなまま、ウィルマがそれを打ち上げる。と同時に晟が降り立つ。
蒼雷と蒼炎が上下からカイギュウの胴体を打ち抜いた。
青い光が瞬く、二人がカイギュウから離れた瞬間にも他の班の攻撃が折り重なっていく。
消耗はしていないのか、問われれば、答えるまでも無い。と返すだろう。自らにも蓄積されていく傷に、ランドルフは焦燥を覚えずにいられなかった。
「これで、仕留める……!」
いいや、仕留めなければ。
攻撃の猛襲、ハンナの蹴撃にカイギュウが怯みを見せる。その瞬間を見逃す事も無くランドルフは、リボルバーの照準をカイギュウへと向けていた。
決して逃してはいけない隙。そこに差し込むのは彼の最大の火力。通常の弾丸であれば届くはずのない距離であっても、グラビティチェインと気によって生成した弾丸は瞬く間にその距離を走り抜け、着弾。
「――ッ」
轟音と衝撃が、周囲に舞う。
カイギュウの体を穿った弾丸が爆発したのだ。そのまま、猛威を振るったカイギュウは力を失い、ようやく倒れ伏した。
●
一瞬の安堵が場を埋める。
奇しくも、三体のウェアライダーが倒れたのは、ほぼ同時であった。
「……休んでは」
いられない。そんな声は、背筋を走る悪寒に失われる。
言語野を失ったように、代わりに、聴覚が異様に発達したように、その音が重々しく響く。
発生源は三つ。そのどれもが、先ほど打ち滅ぼしたという実感を得ていたそれらが横たわる、横たわっているはずの場所だ。
いや、視界に見えている。浮かぶそれに、見間違いであれと、目を見張る。
傷がふさがり、立ち上がるウェアライダーの姿がそこにはあった。
「――」
声。それがウェアライダーたちの声だと、すぐに知れた。
刹那。
それを聞いたカルナの脳裏に、疑惑が浮かぶ。
絶対的な生命力。それを皮切りに、施設の異常。奥の実験場。それらの姿が、情報が繋がっていく。
「……まさか」
「マスター・ビーストにより産み出された最高傑作たる」
侵略期に滅んだ筈の動物の水槽に浮かぶ死骸。その絶滅した動物の姿をしたウェアライダー。
それは、ウェアライダーであり。
そして、種族最後の一体、と言えるのではないのか。すなわち。人為的、否、神為的に造られた。
――神造レプリゼンタの我らは滅びる事は無い。とそれは言葉を紡ぐ。
「神造、『レプリゼンタ』……っ」
性質の悪い冗談だ、と笑えたならばいいが、しかし目の前に立ち上がったカイギュウが示すのはその言葉が真実だと言う事実だ。
驚愕が度を越え、呆れにすら至る。その思考の揺らぎが、その初動を僅かに乱した。
そのカイギュウの突進をケルベロス達がはっきりと認識したのは、正にそれがルークの目の前に達した瞬間だった。
「……っ」
だが、その攻撃がルークを襲うことは無かった。青い鱗が飛沫く血に染まる。宙を駆け、割り込んだ晟がその突進を受け止めていたのだ。
だが、無事ではない。晟の体内で暴れ狂う衝撃に内腑が血を吹く。押し潰された肺から吐き出した息に鉄の味が混ざるが、激痛を叫ぶ体を奮わせ、声を上げる。
「行け!」
カイギュウは止まらない。その先へと、檳榔子黒の杖を盾へ変じさせてスズナが立ちふさがる。
「っ、ここは任せて、皆は先へ!」
スズナが叫ぶ。不滅の相手に時間を取られる訳にはいかない。この作戦において最重要、最優先は、鍵の輸送だ。
「さ、行って!」
晟の妨害に勢いの衰えた攻撃を盾に受け、しかし、宙に舞いながら、彼女は笑顔を作って見せる。
鍵護衛班は逡巡を見せながらも、即座に行動へと移っていく。背に去っていく彼らを見送り、彼らは向き合った。レプリゼンタへと。
再度、戦いが始まる。
絶望的な戦いが、始まる。
●
どれほど戦ったか。体感時間は狂い、正確な分数などは分からないが、その終わりは唐突に訪れた。
カルナは、限界をとっくに迎えているはずの体を動かして、次の一手を放とうとしていた。だが、それが紡がれることは無く、力なくその手に現象が具現化することはない。
「……っ」
もはや、氷の一つすら紡げない彼に、しかしカイギュウは攻撃を仕掛ける事は無かった。
そこに静かに佇んでいる、かと思えば、緩慢な動きで肉の壁へと歩み寄ると、呑まれる様にその中へと沈み込んでいった。
「……、終わった、のでしょうか……?」
スズナが、あまりにも唐突な終幕に、痛みすら忘れて呆然と声を零した。
八人、誰一人声を漏らすことなく、ただ敵拠点の只中である事と、戦闘による脳内麻薬の分泌で、繋ぎ止めていた意識が、急速に離れていく感覚を抑えて、近づいてくる気配を感じ取った。
先へと行った班が戻ってきたのだ。
「……っ、まだ倒れるなよ!」
「ああ、そう、だな……っ」
恐らく、最も攻撃を受けていた晟がルークの声に、眩む世界を睨みつけ、その体を動かす。
余裕のある者など、ここにはいない。倒れ伏せば、置き去る事はないが、きっと共倒れる。まだ誰一人として、倒れる事は出来ない。
遅々としていては、敵の応援が来てしまう。
「……、帰ろう」
ランドルフが告げる。走り出したケルベロス達は、ヘリオンを護衛していた班とも合流し、そして、ヘリオンによる脱出を成功させた。
ただ、その帰路で、月への想いを募らせる余裕は無く、やがて全員が揺れる加速の中で、眠るようにその意識を手放していった。
作者:雨屋鳥 |
重傷:神崎・晟(熱烈峻厳・e02896) ルーク・アルカード(白麗・e04248) カルナ・ロッシュ(刻渡る銀宵星・e05112) スズナ・スエヒロ(涼銀狐嘯・e09079) 香月・渚(群青聖女・e35380) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年10月18日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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