●凶星のビジョン
九月三十日の夕方。
「まさか、小学三年にもなって『将来の夢』なんてベタなテーマの作文が宿題に出るとは……」
「僕、とりあえず『サッカー選手になりたい』とでも書いとこうっと」
「俺は迷ってんだよなー。ガキンチョだった頃は宇宙飛行士一択だったけど、今はケルベロスとの二択なんだ。どっちにしよう?」
鹿児島県肝付町。帰宅途中の三人の少年がケンジツ的にしてゲンジツ的な将来設計について語り合っていた。
「だったら、ケルベロス兼宇宙飛行士になればいいじゃん」
「なるほどー! 冴えてるな、マサトシ!」
「……」
サッカー選手を目指す(頭に『とりあえず』が付くが)少年がいきなり黙り込んだ。足を止め、ぽかんと空を見つめている。
友の異変に気付いた他の二人も足を止めた。
「どうしたんだ、ヤスヒト?」
「……」
「おーい」
「そ、空に……鳥がいる……」
ヤスヒトと呼ばれた少年は、自分が凝視しているものを指さした。
「はぁ? なに言ってんだ?」
「空に鳥がいるのはあたりまえじゃん」
呆れ返りながらも、二人の少年は空の一角に目を向けた。
そして、絶句した。
なにか大きなものが淡い光を発していたからだ。
鳥ではない。
だが、鳥のように見える。
暫しの後、少年たちはその『鳥』の正体に気付いた。
本来ならば、太陽の東側で細い弧線を描いているはずのもの――月だ。
●音々子かく語りき
「月がビルシャナに見えるという怪現象が世界各地で報告されたので、それについてNASAおよびJAXAが調査したのですが……とんでもないことが判明しました」
ヘリポートに緊急召集されたケルベロスたちの前でヘリオライダーの根占・音々子が語っていた。興奮を抑えていることが一目ならぬ一耳で判る(つまり、ちっとも抑えきれていない)声音で。
「なんと、月がビルシャナ大菩薩化して、軌道を変え始めているんですよー。約一箇月で地球への衝突コースに入るそうです。もちろん、これは人知の及ばぬ大宇宙の自然現象じゃなくて、ビルシャナどもの仕業ですよ!」
そこにビルシャナがいるかのように何度も足で地面を踏みつける音々子。興奮を抑える努力は放棄したらしい。
「大菩薩化した月が地球にぶつかったら、もう大惨事なんてレベルでは済みません! 大々々々惨事ですよー! 何十億もの人たちが命を落とし、膨大なグラビティ・チェインが大菩薩に吸収されてしまいます! そんなことは絶対に阻止しなくてはいけません! そう、絶対に!」
幸いなことに、音々子が言うところの『大々々々惨事』を食い止められるアイテムをケルベロスは既に持っている。
竜十字島から持ち帰った『月の鍵』だ。
月の裏側にあるマスター・ビーストの遺跡に行き、そこで『月の鍵』を用いれば、月の軌道は元に戻るらしい。
「というわけで、今回の任務地は月です! ケルベロス・イン・スペース! 『どうやって月まで行くの?』という疑問や不安を抱いているかたもいらっしゃるでしょうが……ご安心くださーい。こんなこともあろうかと、当局はヘリオンの試作型宇宙用装備をアメリカ合衆国で開発していたのです。ちなみに開発費の大半はこの前のケルベロス大運動会の収益で賄われているんですよー」
摩天楼を全力疾走して跳ね回ったり、大砲で打ち出された挙げ句に大きなハンバーガーでバウンドしたり、空にそびえる無数のホットドッグの間をくぐり抜けたり、倉庫で頭を悩ませたりしたのは無駄ではなかったらしい。
「さて、作戦の概要をご説明しますねー。現在、月の裏側には大量のビルシャナどもが集まっており、月を落下させる儀式をおこなっています。その儀式の場の中央にマスター・ビーストの遺跡があるんですよ。ビルシャナどもは没頭というか集中していますから、直接的な妨害を受けない限りは儀式をずっと継続するでしょうね。そこに宇宙仕様ヘリオンで乗り込むわけです」
まず、ケルベロスたちが宇宙仕様ヘリオンから月面に降下し、遺跡周辺のビルシャナたちを蹴散らし、突破口を開く。
次に、『月の鍵』を持った突入チームが突破口から遺跡内に進撃。
そして、突入チームと同数の防衛チームが突破口に入り、ヘリオンも遺跡内に強行着陸。突入チームが帰還するまでの間、防衛チームはヘリオンを守るべく、ビルシャナたちを倒し続ける。
「皆さんの担当は防衛チームです。集まってくるであろうビルシャナどもをやっつけちゃってください。敵はザコばかりですし、一度に襲ってくる数も多くないと思いますが、後から後から次から次へと無尽蔵にわらわら涌いて出てきますから、けっこうキツい戦いになるでしょう。でも……大丈夫です! 皆さんなら、できます!」
ヘリオンを守ることを第一としつつ、時にはこちらからビルシャナ勢に突撃をおこなうなどして、敵を攪乱させる必要があるかもしれない。また、長期戦になる可能性が高いので、消耗の激しい班を一時的に後方に下げて休ませるといったローテーション方式なども考慮に入れておいたほうがいいだろう。
「おっと、大事なことを言い忘れてました。マスター・ビーストの勢力であるソフィステギアもグランドロンとともに月に向けて移動を始めたみたいなんですよー。あいつらが増援として現れたら、ただでさえキツい戦いが更にキツいものになりますね。でも――」
宇宙へと旅立つ戦士たちを見回して、音々子は先程と同じ言葉を繰り返した。
「――大丈夫です! 皆さんなら、できます!」
参加者 | |
---|---|
ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352) |
エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486) |
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709) |
機理原・真理(フォートレスガール・e08508) |
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921) |
ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397) |
副島・二郎(不屈の破片・e56537) |
薬袋・あすか(彩の魔法使い・e56663) |
●機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
今、私はヘリオンに揺られ、任務地に向かっています。
ケルベロスにとって、ヘリオンでの移動は日常茶飯事。
でも、今日のフライトは日常からかけ離れています。
地球からも離れています。
このヘリオンはロケットエンジンで宇宙を翔けているのですから。
見慣れたはずの兵員室も様変わり。気密および断熱仕様になり、ハッチにはエアロックが設けられ、窓にも手が加えられて……。
先程までは、宇宙に浮かぶ地球の美しい姿をその窓から覗くことができましたが、今はもう見えません。
月の裏側に回り込んだからです。
「むぅ!? 面妖な……」
声をあげたのは、窓の一つに顔を近付けていたサキュバスのユグゴトさん。
私や他の皆も窓に近付き、外を見ました。
新月が明けて間もない頃に地球を発ったので、月の裏側はまだ昼の時間帯。太陽の光が照らしています。
月面を覆う漆黒の宝石を。
確かに『面妖』な光景ですね。
「ビルシャナたちめ。月を宝石で舗装したのか? ……いや、違うな」
顔に包帯を巻いた男性――チームの黒一点である二郎さんが独白し、すぐさま自分の言葉を否定しました。
「月の表面を壊して、中身を露出させたように見える」
「もしかすると、『暗夜の宝石』というのは修辞的な命名ではなかったのかもしれないな」
レプリカントのモカさんが言いました。私がそうであるように、彼女もまた竜十字島でズーランド・ファミリーと戦ったケルベロスの一人です。
「なんにせよ、ビルシャナたちは許せない。あの人が笑って見つめていた美しい月を汚すなんて……」
同じくレプリカントのアウレリアさんが静かに怒りを吐き出しました。『あの人』というのは、傍にいるビハインド――亡き旦那様のことでしょう。
「よく見ると、この宝石は真っ黒じゃないね。瑪瑙みたいに縞模様がある……あ! ほら、あそこ!」
ゴッドペインターのあすかさんが宝石の一角を指さしました。
彼女が言ったように宝石には縞模様があるのですが、指し示された先では、その模様が不自然に歪められています。
そして、そこには無数のビルシャナが立っていました。
●副島・二郎(不屈の破片・e56537)
狭いエアロックの中で降下の時を待つ。
「長丁場になるだろうな」
「持久戦、ばっちこいよ!」
俺の呟きに応じて声を張り上げたのは、シャドウエルフのウィッシュスター。その横では、羊の着ぐるみをまとったテレビウムが凶器らしき物の素振りをしている。
「盾の真髄、見せてあげるわ!」
盾の役として気負う者がいる一方で、剣の役として気合いを入れている者もいる。
馬の獣人型ウェアライダーのスコルークだ。
「ビルシャナどもを狩り尽くして、鳥鍋にしてやりますわ!」
いや、ビルシャナの鍋は遠慮したいな。
「……絶対、守らなきゃです」
アームドフォートのチェックを終えた機理原がぽつりと漏らした。
なにを守るのかは尋ねるまでもないし、彼女が思い浮かべているであろう光景も察しがつく。この下にある瑪瑙モドキなんかよりも宝石と呼ぶに相応しい星――往路でヘリオンの窓から見た地球だ。ああ、絶対に守らないとな。
エアロック内の照明が赤に変わった。減圧完了。外部ハッチが開く。
そして、俺たちは宇宙に……いや、月の空に飛び出した。高度、約一千メートル。ちなみに全員が酸素ボンベ等の装備を用意してきたので、呼吸に支障はない。
実を言うと、今回の任務に参加することが決まった時から、俺は少しばかり胸を躍らせていた。遠足前日の小学生みたいにな。なにせ、月に行けるのだから。
しかし、ヘリオンから飛び出した瞬間に小学生じみたワクワク感は消え去っている。大気が薄いので、太陽の光が容赦なくダイレクトに照りつけてくるんだ。
まあ、グラビティじゃないから、焼け死んだりはしないが。
●アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
灼熱地獄のような月の空をアルベルトとともに舞う。
生前の彼は『月は綺麗だけど、君はもっと綺麗だよ』なんてことを恥ずかしげもなく言うような人だったけど、ビハインドと化した今は無言。喋ることができたとしても、ほぼ真空だから、声は聞こえないけど。
空にいるのは私とアルベルトやチームの面々だけじゃない。五十人近くの仲間たちがいる。今回の任務に動員されたヘリオンは十二機で、うち六機からケルベロスが降下したの。
これだけの数の敵が降ってくる様は脅威のはずだけど、ビルシャナたちは見向きもせず、儀式を続けている。この程度では『儀式を妨害した』と見做されないのかしら?
だったら、本格的に妨害させてもらいましょう……と、思ってる間にモカが両手を突き出し、指先から針のような物を乱射した。
他の人たちも次々と遠距離グラビティを撃ち込んだ。狙いをつける必要はない。辺り一面、ビルシャナだらけだから。矢、弾丸、砲弾、ミサイル、魔法の炎、混沌の水……ありとあらゆるものが地表に降り注ぎ、あちこちで小さな爆発が置き、ビルシャナが吹き飛ばされいく。
これが映画なら、爆発の度に派手な効果音が響くのでしょうね。でも、前述したように音は聞こえない。無音の戦場というのは不気味。
当然のことながら、私たちも声を交わすことができないので、ハンドサインか防具特徴の接触テレパスに頼るしかない。
早速、真理がハンドサインを示した(私も彼女もレプリカントなのだけれど、案の定というかなんというか、アイズフォンは通じなかった)。右目にあてた単眼レンズ型の照準器を片手で操作しながら、もう片方の手で地面を指さしている。どうやら、遺跡の入り口を見つけたみたい。
それから、真理は二本の指を立てた。
入り口の近くに二体の敵がいるのね。
●エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)
こちらが浴びせたグラビティの嵐を儀式の妨害と見做したのか、ビルシャナたちは炎撃や氷輪を次々と撃ち出してきました。
でも、その程度のことで怯んでいてはケルベロスなど務まりませんわ。対空砲火などにかまうことなく、私たちはグラビティを発射しながら、次々と月面に降り立ちました。
低重力ゆえのスローモーションじみた動きで着地すると、白灰色の砂煙がモワっと巻き起こる――そんなカッコいい光景を期待したのですが、それは叶いませんでした。砂も石も岩も一掃されて、宝石のような大地が剥き出しになっていますから。
『向こうに遺跡の入り口があるわ。ザコっぽくない二体のビルシャナが扉をこじ開けようとしているみたい』
と、隣に着地したアウレリアさんが肩に手を置いて語りかけてきました。真空なのに声が聞こえるのは、お肌の触れ合い会話……じゃなくて、接触テレパスを使ったからでしょう。
『そちらには慧斗のヘリオンのチームと芹架のヘリオンのチームが既に向かっている』
と、ローレライさんも接触テレパスで声を送ってきました。
『入り口の確保はその二チームに任せて、我らはザコをかたづけよう』
ローレライさん、口調が変わっているような気が……まあ、いいですわ。彼女の言うとおり、ザコを掃討しましょう。
「月を落とすなどというSFじみたことを企む鶏肉ども!」
周囲にいるビルシャナたちに視線を巡らせて、私は叫びました。聞こえていないことは承知の上です。
「ケルベロスが伊達ではないことを教えてさしあげますわ!」
●空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
低重力下で姿勢を制御するため、私は宝石のような地面にケルベロスチェインの錘を打ち込んだ。
そして、爆破スイッチを押した。
「――!」
音なきブレイブマインの爆風を背に受けて叫びながら(手を離したので、声は聞こえない)、エニーケさんが足を振り上げた。足先で保持されていた斬馬刀のようなゲシュタルトグレイブが飛び、空で分裂し、ビルシャナたちに降り注いでいく。ゲイボルグ投擲法だな。
「――!」
あすかさんも叫びながら(やはり、聞こえないが)、ゲイボルグ投擲法で混乱をきたした敵の群に斬り込んだ。いや、蹴り込んだと言うべきか? カポエイラを思わせるアクションでグラインドファイアを放ったのだ。
それに続いたのがユグゴトさん。創造と破壊の入り混じった混沌のような……なんだか、よく判らないグラビティで一体のビルシャナにとどめを刺した。
他のチームもビルシャナに攻撃を加えている。レーザー系のグラビティを使っている人もいるようだが、ほぼ真空なので、光の軌跡は見えない。
『視認できない光線というのはサイコフォースと見分けがつかないわね』
後ろから声が伝わってきた。アウレリアさんが後方の敵を攻撃しながら、背中合わせの状態で接触テレパスを使ってきたのだ。
私の視線の先で、彼女の伴侶にしてサーヴァントたるアルベルトさんが一体のビルシャナにビハインドアタックを仕掛けた。更にテレビウムのシュテルネが凶器で追撃し、ライドキャリバーのプライド・ワンがガトリングを掃射。
サーヴァントがこんなに奮闘しているんだ。私たちも負けていられないな。
●ユグゴト・ツァン(パンの大神・e23397)
この面妖なる地に第一歩を刻んでより十分弱が経過。ヘリオンが着陸できるだけの領域は確保できたが、攻撃可能な範囲にはまだ少数の鳥人間が残っている。
そのうちの一体が孔雀炎を放ってきた。間違いなく、標的は私。しかし、それを受けたのはローレライ。己が身を盾にしたのだ。これで何度目か? 『盾の真髄を見せる』という誓いは偽りではなかったらしい。
『大丈夫か?』
と、接触テレパスで声をかけてきたローレライであったが、私の返答を待たずに地を蹴り、空中で妖精弓を射た。放たれたのは、七色の宝石を鏃とする矢。それで胸を刺し貫かれると、ビルシャナは消え去るようして逝った。
傍にいた別のビルシャナがローレライを攻撃しようとしたが、両者の間にあすかが割り込んだ。舞踏とも武道ともつかぬ奇妙ながらも華麗な動きで。
「――!」
叫びとともに腕を突き出すあすか。真空ゆえに声は聞こえなかったが、酸素供給装置の透明のマスク越しに唇の動きが読めたぞ。曰く『ク・ラ・イ・ツ・ク・セ』。
そして、黒い魚が……否、魚の形を取ったブラックスライムが現れ、召喚者の命令通りにビルシャナを食らい尽くした。
「――」
あすかはこちらに目を向けて、遺跡の入り口がある方向を指さした。
見ると、慧斗のチームと芹架のチームがやってくる。扉を開けようとしていた二体のビルシャナは始末できたらしい。
ヘリオンも着陸態勢に入ったようだ。これで私たちの任務は終了……とはいかぬ。見よ、鳥人間どもがまたどこからか沸いて出てきた。遺跡への突入チームが使命を果たすまでの間、奴らを倒し続けなくては。
来るがいい、糞っ垂れの鳥人間ども。我が存在を冒涜する輪郭。悉くを暇(いとま)だと嘲る連中が。
改めて私の名を伝授しよう。我こそが黒山羊、全なる母、豊穣の神だ。
さあ、抱擁の時間だ! 愛すべき我が仔たち!
●薬袋・あすか(彩の魔法使い・e56663)
『長丁場になると言ったのは俺だが――』
接触テレパスで語りながら、二郎さんが青黒い水のようなワイルドスペースを放ち、僕の傷をヒールしてくれた。
『――予想以上に長くなりそうだな』
うん。長くなりそう。ヘリオンは十二機とも無事に着陸して、突入チームが遺跡に入ったんだけど……まだ、出てくる気配はない。
僕らのチームがいる場所はヘリオンの傍。戦闘から離脱したけど、べつにギブアップしたわけじゃない。ユカリとチヒロとゼノのヘリオンに乗ってたチームとローテーションを組み、順番に休んでいるんだ。そうでもしないと、体力が保たない。
やがて、休憩時間の十分が過ぎ、別のチームがこちらにやってきた。
彼らや彼女らと入れ替わりに戦場に戻る僕たち。
『思想や信条は個人の自由だ。私だって、推したいものもあれば、受け入れられないものもある。しかし、ビルシャナたちは――』
モカさんの肩が触れ、声が伝わってきた。僕に聞かせるつもりじゃなくて、ただの独り言なのかもしれないけど。
『――自己中心的に思想をゴリ押しするだけではないか。その上、月を地球に落とすだと? ……させるものか!』
モカさんの両手の指から沢山の針が飛び、ビルシャナたちに突き刺さっていく。
その攻撃を免れたビルシャナもいたけど、そいつにはユグゴトさんが斬りかかった。二本の鉄塊剣で。
「――」
なにか言いながら(きっと、僕には理解できないことを言ってるんだろう)、タルタロスクラッシュを決めるユグゴトさん。
その横を弾丸が通過し、別のビルシャナの眉間を撃ち抜いた。アウレリアさんがクイックドロウを披露したんだ。
『夜を照らす月の光に貴方たちの存在は不要よ。くだらない企みもとろも、夜の果てへと散りなさい』
リボルバー銃を持った手が僕に触れ、ビルシャナに向けた言葉が接触テレパスで伝わってきた。
皆、燃えてるね。
もちろん、僕も燃えてるよ。儀式は絶対に止めるし、ヘリオンは守り抜く。覚悟しろ――、
(「――怪鳥ども!」)
心の中で叫びながら、僕はグラインドファイアを放った。
●ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)
作戦開始から一時間以上が過ぎた。
摂氏百度を超える暑さの中、際限なく沸いてくるビルシャナどもと戦い続けて、さすがの我ももう限界……などということはない。最初に宣言した通り、『持久戦、ばっちこい』である。
もちろん、我以外の者たちも意気軒昂。
例えば、エニーケだ。
斬馬刀型のゲシュタルトグレイブを回転させて――、
『アハハハハハハ! 弱い! 弱すぎますわっ!』
――数体のビルシャナの首を一度に刎ね、高らかに笑っている(攻撃の拍子に体が触れ、声が伝わってきたのだ)。頼もしいが、恐ろしい。もしかしたら、降下前に言っていた『鳥鍋云々』というのは冗談ではなかったのかもしれないな。だとしても、相伴にあずかるつもりはないが。
『おい』
と、別の声が聞こえてきた。二郎が接触テレパスを使ってきたのだ。混沌の水を纏わせたゾディアックソードを大地に突き立てて姿勢を制御しながら。
『殴り込み部隊のお帰りだ』
遺跡の扉に向かって顎をしゃくる二郎。
そちらに目をやると、遺跡から出てくる突入チームの面々が見えた。
成否を確認する必要はない。成功したからこそ、戻ってきたのだろう。人数を確認……するまでもなかった。戦場を疾走していたプライド・ワンが急停止して、青いライトを点滅させたから。真理も素早く人数をカウントしたらしく、親指を立てた。『脱落者なし』ということか。よかった。
さて、あと一踏ん張りだ。
妖精弓に宝石の矢を番えて、我はビルシャナに向き直った。
作者:土師三良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年10月18日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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