深夜0時の大阪市街地。上空に突如、魔空回廊が開き姿を現したのは全長7mにもおよぶ巨大な攻性植物『サキュレント・エンブリオ』。
街の灯りに照らされて、サキュレント・エンブリオは不気味に佇む。
その巨体からナイフの様な根を一本振るえば、たちまち建物が薙ぎ倒されていく。降り注ぐ瓦礫に、人々の悲鳴。突如の出来事に、其処彼処でパニックが起きる。
逃げ惑う人々に狙いをつけると、サキュレント・エンブリオは根を伸ばし一人、また一人と捕らえていく。そして、根から養分を吸い上げるかのように、捕らえた人から命を吸いとるのだった。
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セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の招集に応えたケルベロスたちは、会議室に集まっていた。
「爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出したようです」
メンバーが集まったのを確認したセリカは話を始めた。
攻性植物たちは、大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしているようで、大阪市内で事件を多数発生させて一般人を避難させ、大阪市内を中心として、拠点を拡大させようという計画なのだろう。
「大規模な侵攻ではありませんが、このまま放置すればゲート破壊成功率も『じわじわと下がって』いってしまいます」
それを防ぐ為にも、敵の侵攻を完全に防ぎ、更に、隙を見つけて反攻に転じなければならない。
「今回現れる敵は、サキュレント・エンブリオと呼ばれる巨大な攻性植物です。皆さんには大阪市民と市街地に被害が出る前に、サキュレント・エンブリオの撃破をお願いします」
このまま放置すれば、予知の通り大量の被害者が出てしまう。そんなことさせるわけにはいかない。
「サキュレント・エンブリオは1体のみで、配下はいません」
予知によって出現位置は確認されている為、出現後の市民の避難などは、警察・消防の協力を得ることが出来る。
「市街地での戦闘となる為、市街の被害はどうしても出てしまうでしょう」
被害を少しでも減らす為には、短期決戦での撃破が望ましい。建物や電柱、街中のあらゆるものを利用し、戦場である市街地を立体的に使う事ができれば、有利に戦う事が出来るだろう。
「皆さんの警戒のおかげで、事前に敵の動きを察知することが出来ました。被害が出る前に何としても、敵を撃破してください」
参加者 | |
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フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172) |
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550) |
機理原・真理(フォートレスガール・e08508) |
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330) |
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654) |
フェルディス・プローレット(すっとこどっこいシスター・e39720) |
レシタティフ・ジュブワ(フェアリー・e45184) |
ブレア・ルナメール(魔術師見習い・e67443) |
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深夜0時、既に夜中だというのに大阪の街には明かりが溢れていた。日中ほどではないが人の通りはそこそこある。こんな場所にいきなり7mもの大きさのサキュレント・エンブリオが姿を現したら、パニックが起こるのは簡単に想像がつく。
不測の事態に備え、街の地図を確認するブレア・ルナメール(魔術師見習い・e67443)。
「戦うものとして、作戦に齟齬があれば事だからな」
まずは作戦のすり合わせを行う、とレシタティフ・ジュブワ(フェアリー・e45184)が皆に声をかける。道の端で集まるケルベロスたち。夜中に端っこに集まる集団……怪しい事この上ない。
不審者扱いされる前に、手早く話を済ませ。各自動き始める。
「避難指示は任せたぜ」
「よろしくお願いします」
集まってもらった警察と消防に頭を下げる、相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)と折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)。サキュレント・エンブリオが現れるよりも先に避難を始めていればパニックも少なくなるだろう。
スムーズに避難が進む中、上空に魔空回廊が開きサキュレント・エンブリオが姿を現した。その大きさに避難していた人々から悲鳴が響く。
パニックが起き始める中、ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)が『プリンセスモード』を発動。服の上に次々と部分鎧が現れる。
「あれの相手はボク達が。皆は慌てず指示を受けて退避してね」
戦う姿勢を見せ、一般人たちに安心するよう呼びかける。
「ふむ……やはり大きいですね」
「ふん、それだけいい的ってことだ」
興味深そうに見上げるブレア。その横でレシタティフが不敵に笑う。
「大阪城勢力の影響圏拡大は絶対ぇ阻止しねえとな。何としてでも奴をここで仕留めるぜ!」
半裸に裸足と格闘家然とした姿の泰地は宣戦布告の意味を込め拳を突き上げた。
「またまたまたですわねぇー。今回は秋の夜景としてはー、少々趣が気になりますのでー。紅葉のように紅くー、彩ってみましょうかー」
赤さが足りないですよ、とフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)は冗談めかして笑う。
「暫くぶりの出現……種切れだったのか何か変わったのか、確かめさせてもらうわ」
「記憶が正しければ、半年ぶりくらいに見ますね」
久しぶりの出現に迷惑そうな顔をするヒメと茜。
「サキュレント・エンブリオ……久しぶりに見ましたね。まだ大阪をウロウロしてたのですね」
感心するように呟くフェルディス・プローレット(すっとこどっこいシスター・e39720)。
「こうやって大阪に来るの、久しぶりなのですね。充電期間だったのか知らないですが、何回来たって負けないのですよ」
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)はサキュレント・エンブリオを見上げ、気を引き締める。
武器を取り、サキュレント・エンブリオの進行を止める為、ケルベロスたちは行動を開始した。
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「余裕のあるうちに支援しておこうかしら」
可愛らしい機械妖精の姿をしたドローンの群れを操り、最前列へと展開していくヒメ。
戦闘に入りフラッタリーの前頭葉の地獄が活性化、愛用のサークレットが展開し見開かれた金色の瞳がサキュレント・エンブリオを見据える。先程までのおっとりとした表情は鳴りを潜め狂笑を浮かべるフラッタリー。額の弾痕からは地獄が迸る。
「ドンナ奴ダロウト、吹キ飛バシテヤル」
ドラゴニックハンマー『曼荼羅大灯籠』を砲撃形態に変形させて構えるフラッタリー。上空のサキュレント・エンブリオ目掛けて竜砲弾を放つ。
それに合わせて真理の『神州技研製アームドフォート』が火を噴いた。砲弾が次々と命中する中、ライドキャリバーのプライド・ワンは炎を纏いサキュレント・エンブリオの根を焼きながら駆けあがっていく。
サキュレント・エンブリオの直上へと『ダブルジャンプ』を駆使し移動する泰地。落下する勢いを乗せ両腕から放たれる一撃。
「ぐああああっ!」
攻撃を浴びせ、地上へと落下する瞬間、振るわれた1本の根が泰地の身体をビルへと叩きつける。
もちろん振るわれていた根は1本だけではない。攻撃を受け倒れていたフェルディスは起き上がると、ゲシュタルトグレイブを握りしめ走り出した。
「私は皆さんを庇い、敵を惑わし、両立してみましょう。変幻自在の妖銃士とは私のことです! ……今考えたんですけどね」
稲妻を帯び空気を裂く音を発するゲシュタルトグレイブをサキュレント・エンブリオの根目掛け突き出す。槍から根へと稲妻が走り根の表層を切り裂いていく。
「ぶっ――すり潰れろっ――!」
フェルディスの攻撃の隙に、茜はサキュレント・エンブリオの真下へと移動していた。
頭部へとグラビティを集中し硬化させると、垂直にジャンプ、更に空中を蹴り2度目のジャンプ。真下から受ける頭突きの衝撃に、サキュレント・エンブリオは1mほど浮かび上がった。
サキュレント・エンブリオの様子を遠巻きに眺めていたブレアは、ガネーシャパズルを取り出すと力を込める。パズルから現れた光の蝶はヒラヒラとレシタティフの周りを舞い始めた。
「この距離で大丈夫ですか?」
「わたしにかかれば、この程度の距離問題ない」
不敵な笑みを浮かべると、レシタティフは詠唱を開始する。手に現れるのは不可視の球体。狙うはサキュレント・エンブリオ上部の胎児の様な花びら。
攻撃が命中し花びらが揺れる……。
「ばかな、狙いは正確だった……。とすれば距離か? いや、直前で狙いを外された……? とにかく、場所を変える。捕まれ」
「わかりました」
レシタティフはブレアを抱えると、光の翼を展開し飛び上がった。
サキュレント・エンブリオの根目掛けて走り出すヒメ。その手には『緑麗』と『緋雨』2本の斬霊刀。すれ違い様に空の霊力を乗せ刀を振るう。
「環Zeン無欠ヲ謳オウtO、弧之金瞳w∀綻ビヲ露ワ仁ス。其之ホツレ、吾gAカイナデ教ヱヤフ」
フラッタリーが獄炎の縄を飛ばし、サキュレント・エンブリオを縛り付ける。
その間に真理はドローンを操り仲間を回復していく。
「旋風斬鉄脚!」
ビルを蹴り、更に空中でジャンプをして泰地は再びサキュレント・エンブリオの上へ。グラビティの力を全身に込め、高速の回し蹴りが上空から放たれる。
サキュレント・エンブリオは攻撃後で身動きの取れない泰地目掛けて、鋭い根を伸ばしてくる。
「させません……ぐっ!?」
泰地を突き飛ばす茜。鋭い根が茜のわき腹を掠める。
フェルディスがパイルバンカーの螺旋力をジェット噴射させ、落下していく茜とすれ違いそのままサキュレント・エンブリオへと突撃する。
着地した茜に駆け寄りブレアはすぐさま回復を行う。
ブレアを下ろしたレシタティフはサキュレント・エンブリオの上空まで飛ぶと翼を収め、自然落下に身を任せる。ケルベロスチェインが伸ばされ、花びらへと絡みつく。
――ぐしゃり。
落下に合わせて引かれた鎖が花びらを締め付けると、花びらは水風船の様に破裂し液体をまき散らした。
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「間に合って」
進路を塞ぐように倒れてきた建物に向かって、機械妖精を飛ばすヒメ。倒壊を免れた建物の下を通り抜けていくヒメたち。
「援護、するですよ!」
真理の操るドローンがレシタティフの元へと、サキュレント・エンブリオの行動を解析、伝達する様飛び回る。
フラッタリーの放った竜砲弾が花びらに命中し爆発を起こす。そこへ空を蹴り光輝く左手をかざす泰地。聖なる左手の引き寄せる力で自身の身体をサキュレント・エンブリオの元へ。サキュレント・エンブリオを射程内へと収めると、漆黒を纏った闇の右手を叩き込んだ。
「エンブリオ……私の名前を言ってみろぉ!」
フェルディスの問いにもちろんサキュレント・エンブリオは答えない。答えても答えなくても、どっちみちやる事は一緒なのだ。フェルディスはサキュレント・エンブリオに銃弾の雨を降らせる。
地上からチェーンソー剣を振るい根を切り裂いていく茜。
「さぁ、惨めに死にさらせ。蛆虫め」
上空からはレシタティフ。花びらの一つに抱擁をする。小柄な体躯で大きなサキュレント・エンブリオの花びら。抱擁というよりはしがみ付いているように見えてしまう。レシタティフが囁く様に詠唱をすると、首から下げている魔導水晶が爆発を起こし、花びらを破壊する。
サキュレント・エンブリオの反撃の根が、フェルディスを捉える。
「ああああああああああああああっ!」
腹部を貫かれ、激痛に叫ぶフェルディス。だがこれで終わりではなかった。
「あ……ぐ……ちか、ら……が……」
突き刺した根から、サキュレント・エンブリオが生命力を吸い上げていく。根が抜かれ、腹部から大量の血を流し、その場に崩れるように倒れるフェルディス。地面に血溜まりが広がっていく。
「いけない。しっかりしてください。命の炎の輝きよ……再び」
慌てて駆け寄るブレア。詠唱と共に生みだした生命の炎で包み込む。テレビウムのイエロも回復の手伝いを行う。
「大丈夫、まだ繕える――」
ヒメの魔力が淡く輝く翠風となって、フェルディスを包む。
「私も手伝うですよ」
真理も加わりフェルディスの治療が続く中、サキュレント・エンブリオ側のビルの屋上に立つフラッタリー。
「aァアAaA嗚呼ア!!! 根付ク宙莫ク!! 喰ラフ糧失kU!! 塵渺ヲモ焼キ果Teヨ!!!!」
狂気の叫びと共に獄炎の縄を生みだし、サキュレント・エンブリオの根一つ一つを絡めとっていく。
詠唱を終え、サキュレント・エンブリオ直上から虚無球体を放つレシタティフ。
右側からは泰地、左側からは茜がそれぞれ空を蹴り、サキュレント・エンブリオへと迫る。
「旋風斬鉄脚!」
「ぶっ――すり潰れろっ――!」
回し蹴りが、頭突きが、左右から同時に叩き込まれる。強烈な衝撃にサキュレント・エンブリオの花びらに大量の水泡が生まれ、一斉にはじけ飛ぶ。力尽きたサキュレント・エンブリオは一瞬にして枯れ爆散した。
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ヒールドローンを操り、真理は壊れた建物を修復していく。
安全を確認し、泰地は警察と消防に討伐完了の報告をした。徐々に避難していた人々が戻ってくる。少しでも安心できるように、『隣人力』を駆使して人々に声をかけていく。
「……しかし、なぜ今? 最後の観測からだいぶ日が経っているが……」
歩きながら考え事をするレシタティフ。
「まあ、見送るしかできませんかね」
上空に舞う胞子の様なものを見上げ茜が呟いた。
「本当にそうだろうか?」
「それってどういう……?」
「なに、独り言だ」
レシタティフはじっと胞子の飛んでいく方向を観察していた。
「もう大丈夫なのですか?」
「皆のおかげだよ」
真理の言葉に、答えながら微笑むフェルディス。傷も塞がり何とか歩けるといった所。
後始末を終え、一息つくケルベロスたち。賑やかさを取り戻した街並みに、護ることが出来たと実感がわいてくる。
短い休憩を終え、ケルベロスたちは本部へと帰還するのだった。
作者:神無月シュン |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年10月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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