ミッション破壊作戦~剣斬刀樹

作者:銀條彦

 ミッション破壊作戦に必要なだけの数の『グラディウス』がまた再使用可能になったのだと笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が告げる。
「こんどは攻性植物のミッション地域に出撃おねがいしますっ!」

 呼びかけに応じたケルベロス1人1人に『グラディウス』を手渡した後、パンダ耳のヘリオライダーは改めてこの兵器や長きにわたって継続され続けて来た作戦について説明した。
「えっと、このグラディウスは超巨大ダモクレス『ゴッドサンタ』から手に入れたデウスエクスにとっての決戦兵器の1つです。ちょっと見ただけだとただの光る小剣ですけどただの武器じゃないのです……と、いうかこれは武器としてさっぱりまったく使えませんっ!」
 だが――ただの武器として以上の意味がこの『兵器』には在った。
 この70cm程の小剣には各デウスエクス勢力が地球での拠点として設けた『強襲型魔空回廊』を破壊する力が秘められているのだ。
 そんな『グラディウス』を用いてのミッション破壊作戦は此れまで幾度と実施され、少しずつではあるが着実に、各デウスエクス陣営による地上侵攻へ楔を打ち込みつつある。
 ただしその代償にこの『グラディウス』はひとたび使用するつどグラビティ・チェインが枯渇してしまい、吸収の後また使用できる状態に戻るまで多くの日数が必要とされる。
「だから……みんなが、ここだっ! って思える地域を選んでくれればねむもせいいっぱいお手つだいするのです!」
 えいえいおーと小さな拳を元気よく振り上げた後、ヘリオライダーの少女の説明は『グラディウス』の具体的な使用方法へと移る。

 目標となる『強襲型魔空回廊』はいずれもミッション地域の中枢である為、通常の正攻法で辿り着く事は極めて困難である。
 強行して貴重な『グラディウス』とケルベロスの人命を無駄に危険に晒す愚は冒せない、故に『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』の形で当作戦は行われる。
 『強襲型魔空回廊』の周囲を覆う半径30m程のドーム型バリアに『グラディウス』を触れさせるだけで良い為、高空からの降下であっても充分に攻撃が可能なのである。
「8人のケルベロスが、めいっぱいの魂こめて極限にまでグラビティを高めたグラディウスでバリアを集中攻撃するんです。みんなならきっと一撃粉砕も夢じゃないのですっ!」
 ねむが言うような1度での破壊は困難だとしても、ダメージは蓄積していく為、どれほど堅牢な地域であっても最大で10回程度の降下作戦が行われれば確実に回廊破壊を達成する事が出来るだろう。
 侵攻拠点の中枢地にあたる『強襲型魔空回廊』周辺には強力な護衛戦力が配備されている筈だが、高高度からの降下攻撃に限るならこれらの存在は無視してよい。
 着地後もしばらくの間ならば『グラディウス』攻撃時に発生する雷光と爆炎が『グラディウス』所持者を守り、立ち込めるスモークによって防衛担う敵精鋭部隊から完全に覆い隠してくれるので、それらを利用して撤退を行う事となる。
「グラディウスはだいじな兵器だからそれを持ち帰ってくることも今回の作戦のだいじな目的なのです。でも……」
 ヘリオライダーの危惧は撤退にあたり障害となると予知されている強敵の存在であろう。
 先にも述べた通り回廊の護衛部隊は『グラディウス』の余波でほぼ無力化できるのだが、どの地域においてもそれが通用しない敵との交戦は避けられないのである。
 幸いにして混乱する敵陣の内にあって孤立するその強敵が他と連携を行うような事は無く素早く撃破すればそれ以上の障害はもはや存在しないだろう。
 だが撃破できたとしても時間が掛かり過ぎてしまった場合、ケルベロス達が敵地から離脱するよりも早く敵に態勢を整えられてしまったらその時は降伏、あるいは暴走に踏み切っての強行突破しか道は残されていない。

「万が一の時は無理しないで欲しいのです。何よりのいちばんはみんなの無事ですっ!」
 ケルベロスの無事をその純真で心から祈りつつ――、
 それでも、ヘリオライダーの少女は敵地の空へと彼らを誘う。
 デウスエクスの前線基地となった地を人類の手へと取り戻す為の『魂』の戦いは、今日も此処に繰り返されるのであった。


参加者
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858)
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)
結城・勇(贋作勇者・e23059)
田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)
副島・二郎(不屈の破片・e56537)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ


 北海道苫小牧漁港埠頭上空――降下ポイントへと到った1機のヘリオン。

「ここの漁港は一年通して豊富な海の幸に恵まれるええ漁港やったんですよ」
 そこに今シーズンを迎えた漁場があると分かっていて近寄る事さえ出来なくなった地元漁師達や関係者達の無念はいかばかりかと憤る田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)が寄せる想いの強さは降下前から既にグラディウスを全開にしてしまいそうな勢いである。
「今日でその悔しさを終わりにできたらええんやけど」
 そして彼女の言葉は決して只の感情任せではないと、無言のまま時折頷くばかりの副島・二郎(不屈の破片・e56537)は知っている。
 仲間と共に撤退経路の最終確認も欠かさない、そんなマリアの仕事ぶりは顔見知り程度の二郎にとっても信頼に値するものであった。
「できればマスター・ビーストって野郎の尻尾の一つも掴んどきてぇところだが……この街、壊されるのを黙っては見てられねぇんだよなぁ」
 結城・勇(贋作勇者・e23059)がさらりと口にしたその単語に機内何人ものケルベロスが扉へと向かう足を止めピクリと反応を見せた――が、当の勇はと言えば、
「俺ぁ映画もドラマもアニメも好きでね。そういうロケ地になってたりすんだよ、此処」
 ニヤリ笑ってこの話題はそれっきり。
 そして居並ぶ仲間の虚を突くタイミングでグラディウスを翳して真っ先に駆け出した彼は作戦開始の口火を切るのだった。

 さしずめこれは勇者の剣か――凡才もそれを補う魔術回路もこの一振りの前では等しく意味は無い。
 問われるは『魂』。などと言われても勇にはあまりピンと来ない。
 ただ、彼は黙ってはいられなかったのだ。
「聖地巡礼ってわけじゃねぇが……」
 画面越しに見て綺麗だと思った数々の光景が蹂躙されるさまだけは。

「そろそろ壊すのは良いだろぅよ? ここでも失敗しときな、ロキ!」

 勇者の様に――刹那、それすらも忘れて一心に振るわれたひかりのつるぎは聖なる白銀の炎そのものと化して悪しき障壁を穿たんとする。
 続く二郎にとってのその剣は「ただの武力」――己と同様に。
 だがそれを振るう原動力たる、怒り。そして……。
(「貴様らが壊した場所、追い出した人間、弄んだ命……戻らんものも多かろう……だが、まだ間に合うものもきっとある」)
 その怒りの根源たる、人を守りたいという感情。それらは、足下に今も響く潮騒の如く、決して鳴りやまず彼の魂の奥底に在り続ける。

「――さあ、この場所を返して貰おうか」

 巻きつけられた包帯の下へと閉じ込めた青黒き混沌が俄かに漣立ち、振り下ろされた一撃は烈しき波濤へと加速しながら解き放たれてゆく。
 人にとってその怒りは永らく正義と呼びならわされたものこそが最も近しいのだろう。
 そしてフィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)の怒りもまた。
「その呻き、痛かろうよ、苦しかろうよ……だがこの地にお前達の場所はない!」
 誇り高き白銀の双翼をはためかせ、吹きつける風さえ従えて天より降臨した竜戦士は断罪を咆哮する。

「お前達が死をこの地にもたらし続ける限り、お前達がこの星を愛する事すらできない限りは! 早々に去るがいい!」

 そんな竜女の叫び轟く空にみたび舞い戻り、咲き誇るは真紅の薔薇纏う長き緑髪の乙女。
 シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858)をこの戦場へと突き動かし続けるものもまた怒りである。
 だが……魂からの発露たるそれの源泉は人ならざるものにとっての正義だ。

「Rageant! 宝が欲しいならもっとこっそりやるですの!」

 攻性植物を慈しみその行く末こそを真っ先に憂う。それもまた彼女という特異な『作品』がレプリカントと化しケルベロスと成った後も引き継がれた性質。
 とはいえレプリゼンタ・ロキの強欲と身勝手に憤るシエナから湧き上がる闘争心に嘘偽りは無く結果として人類にも益するであろう。
 四肢に代わり天戦ぐヴィオロンテの蔓いばらに身を委ね、ゆっくりと紅光燈し始めたグラディウスの切っ先は攻性植物勢力の回廊取り巻くバリアへと向けられる……。
 ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)と彼の相棒フィストは、グラディウスを固定する金具の強度を確認し合った以外はとりたてて会話も無く、ただ1度、視線を交わしたきりであった。
 気心知れた、それだけで通じ合える相棒の後を追ったヴィクトルはヘリオンから空中へと一気にその身を跳躍させると迅速な姿勢制御からのエアボーンを敢行する。
 手に馴染むガジェットを今はしばしグラディウスへと持ち替えた鼠貌の青年は、鋭き眼光のもと、近付く大地の上にエインヘリアルすら圧倒するサイズ感で蠢く『巨人』の姿を見て取った。
「ロキもとんだ置き土産をしてくれたな、これが『ガジェット』とはな!」
 彼の内側で急激に膨れ上がった熱。掌中で共鳴を始める光剣。
 歴史の陰で失伝者が連綿と伝え継いで来た殺神の悲願と尽きせぬ浪漫と――それら全ての『魂』が穢されたにも等しい、創神の手慰みに冠せられたその呼称はヴィクトルにとって、到底看過できるものではなかった。

「爺ちゃんを通して流れたこの血が言ってる……ガジェットはガジェットでも、『有ってはならない』ガジェットはこの地からなくなれよ!!」

 『魂』が発したその灼熱は雷鳴を喚び、ヴィクトルと剣を中心に迸る稲妻はいつしか空を裂く蒼き翼を清冽に浮き上がらせてその叫びを肯定する。
 一方で――血から血へと継ぎ伝えられたものが必ずしも誇りを伴うとは限らない。
 ヴィクトルと同様に獣人型ウェアライダーである玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)は種族特有の重度狂月病に長らく苦しめられてきた。
 満月の夜ともなれば自室に固くひきこもるしか処置の無いこの病の所為で彼は此処までに多くを耐え、そして遂には姉を喪った。
(「『マスター・ビースト』……どんな手がかりでもいい、手に入れたい。だが調査するにはこの地を解放しなければ」)
 『猿の手』擁するかの『最終生存体(レプリゼンタ)』が漏らしたと伝え聞くその単語こそが彼をこの地へと導いたのだ。
 ロキにはガジェットと称されズーランド・ファミリーからは失敗作呼ばわりの此の『巨人』自体に陣内の執心は無い。だが「何故、此処を?」という疑問は残された。
 月さえなければ、と恨みがましく見上げるだけの日々はもう終わらせる――必要とあらばあの月にさえ手を伸ばして鎖を断ち切ってやるのだ。
 其の渇望を叶える為にもこの苫小牧の地は必ずや人類の手に取り戻さなければならない。
 ……だから……、

「そこを、退け!」

 深き疵刻まれ慟哭を続ける『魂』から絞り出された叫びの一滴は、正気のまなこに映したいと彼が夢焦がれ想い描いた十五夜の輝きをグラディウスに宿し……その色の意味に気付いた男は掻き毟らんばかりに立ち塞がる障壁へと膨れあがる『月』を叩きつけた。
「この漁港は恵みの場所、あんたらが踏み荒らしてええ場所やあらへん」
 全国各地を、文字通り、飛び廻り続けてミッション地域の解放にと奮戦するマリアは医者である。
 今や彼女はウィッチドクターであると同時に、この日本の国土そのものとその上で続けられる筈だった人の営みを、在るべきかたちへと回復させる癒し手と呼んでも過言では無い。
「あんたらが来てからは漁師さん達は海に出る事もできへん。海の幸があるんが分かっとって漁に行けへん皆の悔しさ、命の糧を掴めない辛さがどれほどか!」
 既に十を超えるミッション破壊へと挑んだマリアはその想いの丈すべてを包み隠さず叫びの言葉として紡ぐ事を何ら躊躇しなかった。
 問われるは『魂』。だが問われずとも彼女は常に真摯にその魂を燃やし続ける。
 ただただ、彼女は黙ってはいられないだけなのだ。

「今日こそ壊したるで魔空回廊!」

 丸い眼鏡レンズ越し、グラディウスの名医が求めるままこの海そのものが力託したかの如き眩き藍光は輝ける虹と化して大空を奔る。
「むぅ、マリアのいう通り。お前たちが海にいると漁師さんが迷惑。それだけじゃない、漁師さんが取ってくるお魚を振舞うはずのお料理屋さんだって大迷惑」
 可憐ではあるがシエナとはまた別の意味で何処か人形じみたリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)はやや眉が吊り上った以外は無表情なまま。
 しかし彼女の脳裡を占めるのは、豊かな北海道の自然に育まれた魚介の数々とそれを皆の元にまで届けてくれる多くの関係者に対する惜しみない感謝。
(「どれも美味しいよね、リリなんかには勿体ないくらいに」)
 全身全霊を掛けて世界を愛おしむ小さな彼女は、しかし、彼女自身を愛おしむ事を極めて不得手としていた。

「さっさとここから出ていけ!!」

 やや舌ったらずな言いに熱きその想い託して精いっぱいに叫んだ少女へ、まるで少女自身もまたかけがえ無き世界の一部であるのだと言い聞かせるかのように。
 光剣からこぼれた無数の光粒はやがて一斉に花ほころばせ、純真無垢に翳さす『魂』からの願いもろともリリエッタを抱擁する。

 ――そして地球の重力は砕くべき『そこ』へと彼女らを誘う。

 8つの叫びは8の『剣』となり……濃淡あい混ぜた様々な『想い』はたちまちの内に荒れ狂う爆炎と雷光の嵐を産み落としてバリアをそして魔空回廊それ自体を大きく揺るがした。
 見上げれば地鳴りにも似た悲鳴を奏でて破片撒き散らし軋み続ける守護の天蓋。その天頂で、確かに、秋空の薄青がぽっかりと直に顔を覗かせていたのだ。
 それは2度めのマリアも3度目となるシエナにとっても初めて見る光景。

 だが――しかし。
 半球状のバリアにひととき穿たれた大穴は……だがしかし、押し戻すかのような力の奔流の狭間へと呑み込まれるやみるみると復元がなされてゆき……まるで何事も無かったかの様にまた再び、攻撃前と変わらぬ堅牢を取り戻してしまっていた。


「まだまだ、足らんかったか」
 甚大な損傷を叩き込めど、解放は未だ果たせず。
 一部始終を見届けつつマリアが疾駆する先は、念入りに事前確認を繰り返した撤退路。
 後は速やかな脱出あるのみ、というのがこれまで繰り返されて来たミッション破壊作戦の踏むべき定石であり、今回の戦いもまたその方針に何ら変わりは無い。
(「マスタービーストのガジェット……融合実験体。俺達ガジェッティアが操るガジェットとは別物。 ……少なくともあの兎の道化師はそう言っているようだった」)
 先の竜十字島救援での遣り取りを思い返すヴィクトルの耳へ、煙幕立ち込めるこの戦場内の程近くからまるで喚き叫ぶかのような慟哭が轟き始める。
「ふんっ、やっぱり無傷で撤退とはいかねぇか!」
 殊更にぶっきらぼうに言い放ちながら抜刀しじりじりと剣の間合いへ詰めてゆく勇。

「Bon appetit……わたし達が、終わらせて差し上げましょう」
 シエナが巨人へと滲ませた憐憫に反応したのは彼女の杖たるブナの攻性植物だった。
 伸び踊る枝々は巨人へと迫るや肉食獣の牙へと化し、齧りついた片脚には癒え難き傷跡が刻まれる。
 バリア攻撃時には出番の無かったフィストの『テラ』や陣内の『猫』も共に前衛の壁として飛翔し指示された役割を健気にこなしてゆく。
「融合実験体、か」
 マスター・ビーストに思い馳せるフィストも加え盾3枚の布陣は短期決着を目指すからこそ火力の欠落を出さぬ為の備え。
 虚ろな双眸に映る全てを呪い、爪掻き毟るようにして振り降ろされた獣型巨人の豪腕はケルベロスの体すら容易く吹き飛ばすのだから。
 冷静沈着なメディックとして仲間へのヒールや命中率強化に徹する二郎の尽力なくばこの難戦は容易く瓦解もしくは長期化を余儀なくされていたに違いない。
「ディフェンダーに位置してなおこの威力か……」
 敵ポジションを確信した陣内は、また同時に、獣の機敏すらも備えるこの巨敵撃破の為にはまず攻撃手を積極援護すべしと彼自身の戦闘方針を定めた。
 それにしても――残霊ですら別格の強さ誇るレプリゼンタ・スルトには遠く及ばぬ巨人だった点は不幸中の幸いである。
 プトラナ台地の悪夢をこの苫小牧の地で再現などされる訳にはいかないのだ。

「手堅く、皆さんの為にも」
「リリが蹴っ飛ばしてやるんだよ!」
「感謝する、マリアの嬢ちゃんにリリエッタの嬢ちゃん。 ――Take zat you fiend(こいつでもくらえ)!!」
 氷付与と足止めに注力する女性スナイパー陣からの支援のお陰で、クイックドロウ以外の命中率に苦心していたヴィクトルの攻撃精度は格段に上がった。
 大胆というかミニスカートの裾に無頓着なリリエッタの行儀作法についてはとりあえず後回しだ。
「お前が女型になってんのは御主人様の趣味かい? どうやら巨乳好きみてぇだわなぁ?」
 連携時の呼吸が合わず出遅れがちな事も、圧倒的不利を弾き出す眼力も物ともせず。
 勇は喰らいつくようにして最前衛で剣を振るい術を紡ぎ、それでいて圧倒的な敵に対して裸体部位を冷やかすいつもの軽口を忘れなかった。

 キオネーの自惚れ囁く陣内からの呪いが、可愛らしく構えられた水鉄砲(型バスターライフル)よりピュンと飛び出すウォーターカッターが――そして精霊魔法に魔法剣、ハンマー、イガルカの凍気と……血の気を全く感じさせない青白き肌へケルベロス達がかわるがわる重ねた【氷】攻勢は、惨殺の刃運びでジャマーの本領を発揮した陣内によって氷結地獄の如き様相を呈していく。
 敵の数的優位を封じ込めるスモークが晴れる前の早期決着を目指す番犬達の戦いぶりが。見事、実力差と堅守を乗り越えたのである。

 遂には獣型巨人の喉奥からたびたび苦悶の呻きが漏れ始めるに到り――。
 優美な白鱗に闘気纏うたフィストは突如、相棒たるヴィクトルの体を突き飛ばし、穢れし獣角の突進を引き受ける。
 脇腹から鮮血が噴き出すのも構わず微笑む竜女の眼差しは何処までも澄み切っていた。
「フィスト……解った」
 ヴィクトルがやるべきは、ただひとつ。
 血の導くままガジェットの銃へ――兄の詩集の名を持つ祖父の遺品へと己がグラビティ・チェインを注ぎ込み、さ迷えるこの獣の命屠る機獣形態を取らせることである。
「コイツにとって俺は哀れなネズミだ。 ……お前さんもな」
 手負いの『獣』にはもはや窮鼠の余力すらも残されてはいない。
 機械仕掛けの猫の爪は『有ってはならない』ガジェットを引き裂いて無へと帰した後、変形を解除しまた銃としてヴィクトルの手へと収まった。

 ――障害取り除く為の激戦に勝利した彼らが次になすべき事は当然、脱出行の再開だ。
 かくして。
 輝き尽くして眠りにつく8振りのグラディウスを手に、ケルベロス達は誰1人欠ける事なく生還を果たすのであった。

作者:銀條彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年10月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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