シネマ・シネマ・シネマ

作者:星野ユキヒロ


●ノスタルジックシネマ
 名画座、というものがある。新作として公開を終えた映画や過去上映された映画を格安で見せてくれる、そんな方式の映画館だ。
 神奈川県にあった小さな名画座がひとつ惜しまれつつも閉館。そこで使われていた映写機は支配人の実家が借りていた貸し倉庫にしまわれていた。おじいさん支配人が趣味でやっていたい名画座だったため、彼が故人となった今だれも使い方はわからないし、そもそももう壊れている。
 多くの思い出を送り出してきた映写機の眠りを妨げるものが、そこに忍び寄りつつあった。それは、ダモクレス!
 虫のような動きで潜り込むと、中枢部分を乗っ取った!
『カミングスーーーーーーーーーン!!!!!』
 乗っ取られた映写機は脚を生やしてひと吠えすると貸し倉庫を破壊して、そのまま歩き出した!

●映写機ダモクレス討伐作戦
 神奈川県の貸し倉庫に映写機のダモクレスが出没することを鉄・冬真(雪狼・e23499)は懸念していたという。
「冬真サン、的中ヨ。皆さんには予測のとおり、映写機のダモクレスを倒しに行ってもらうネ」
 クロード・ウォン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0291)が今回の事件の概要を話す。
「現場は住宅街ネ。貸し倉庫とかそんなのばっかりあるところだカラ、もともとそんなに人通りは多くないヨ。警察に頼んで人払いしてもらってあるのことだケド、このままじゃ誰かしら殺されてグラビティチェインを奪われてしまうね。そんなことになる前になんとかするヨロシ」

●映写機ダモクレスのはなし
「このダモクレスは映写機に足が生えた形のダモクレスヨ。かつて映写していた映画の音声を出しながら歩き回っているようね。映像を照射する機関が変化してしまって、皆サンの使っているバスターライフルの役目をしているネ。歩き回るバスターライフルがどれだけ厄介なものか想像してもらうとそのタチの悪さが分かると思うヨ」
 クロードは手持ちのモバイルで市街地の航空写真を見せて戦闘区域を説明した。
「ここからここまで、警察に封鎖と避難をお願いしたアル。だから人払いは気にせず、純粋に戦闘頑張っチャイナ」

●クロードの所見
「今の若い人は名画座と言ってもピンとこないかもしれないけど、安く映画を何本も見ることに青春を捧げてた人だって昔はきっといて、そういう人たちに寄り添っていた機械のはずヨ。だから、そんな映写機が人を傷つけるなんていつもながらに悲しいコト。皆サンに終わらせてあげてもらいたいネ」


参加者
鉄・千(空明・e03694)
フィー・フリューア(歩く救急箱・e05301)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
御影・有理(灯影・e14635)
鉄・冬真(雪狼・e23499)
 

■リプレイ

●予告編
 ヘリオンから降りたケルベロス達はかすかに聞こえる映画の音声を頼りに住宅街の路地裏を急いでいた。
「冬真さんは目のつけどころ完璧でしたな、貸し倉庫に住宅街、人々の大切なものが心や思い出と共に眠っているところだからこそ、といったところですかな」
「そう、きっと沢山の人の大切な記憶と一緒に眠っていたのだろうと思ったんだ」
 イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)が駆け足で進みながらも鉄・冬真(雪狼・e23499)の的中をねぎらう。相箱のザラキが小走りで後をついてきていた。
「うーん、持ち主、映画がほんとに好きなおじいさんだったんだろうなぁ。昔の映画ってさぁ、観た頃の思い出とか色々な気持ちが一緒にあるものだと思うから」
「しまわれていた映写機は、たくさんの想いを映し出して人々へ届けてきたんだろうね」
 フィー・フリューア(歩く救急箱・e05301)と御影・有理(灯影・e14635)は映写機の働いてきた歴史に思いを馳せた。リムは今回は食べ物じゃないのでピンと来てないようで、よくわからないという目をしてパタパタと羽ばたく。
「映写機さん、待っててくださいのだ。千達がお休みさせてあげるからな! かみんぐすーん、ですのだ!」
 鉄・千(空明・e03694)がかみんぐすーん! かみんぐすーんなのだ! と繰り返す声に、次第に標的の叫びが重なって聞こえてきた。
『かみんぐすーーーーーーん!!』
 一行の前に、件の映写機ダモクレスが姿を現した!

●開幕
 映写機ダモクレスは、倉庫の近くの路地でうろうろしていた。
「うろうろ歩いてる……映画館で頑張ってた映写機さんをこんなふうに起こしちゃうダモクレスは許せないな、いくのだ!」
 バンと翼を広げた千が電光石火の蹴りの構えのまま映写機ダモクレスに突っ込んでいく!
『上映中はお静かに!』
 蹴りを受けた映写機ダモクレスは自分を取り囲んでいるケルベロスたちに気がついたようだ。
「あんまりウロウロされたらヤバいよねー、しっかり囲んで逃がさないようにしようか」
 フィーの提案に、一行はすばやく陣形を展開していた。そのままドラゴンの幻影を放つフィー。路地裏にべろべろと炎が這い、ダモクレスを焼いた。
『まだ中に人が!! だめだ! あんたまで死んじまうぞ!!』
 災害ものの映画の音声なのか、場違いな言葉を叫びながら凍結光線をフィーに向かって撃ち返す映写機ダモクレス。
「消火には過ぎた冷気ですね!」
 飛び出したイッパイアッテナがフィーをかばって飛び出し、流星の煌きと重力を載せた蹴りを放ち、攻撃を相殺して打ち消した。相箱のザラキも飛び出し、まとわりついてがぶがぶと噛み付く。
『ぼくは犬だけはダメなんだ!』
「いままで上映し続けた映画の音声をながし続けているんだね、知らない映画だけど……悲しい思いを映させはしない……」
 噛み付いたザラキをぶんぶんと振り回す映写機ダモクレスを轟竜砲で撃つ有理。リムもタックルで加勢する。
「僕はこの映画知ってるよ、ジェネレーションギャップ感じちゃうな……」
 妻との五歳の差を感じつつ、スターゲイザーで足止めにかかる冬真だ。
 ここからあまり遠くへ行かせないために、足止めを繰り返す。その戦法が功を奏しているのか、映写機ダモクレスは同じ場所でくるくると回りながら音声を流していた。
「ずいぶんくるくる回るな! 映写機って同じところにじっとしてるものじゃないのか? えい、じっとするのだ!」
 千が指天殺をちょあちょあと繰り出し、映写機ダモクレスをじっとさせようとする。
「BS耐性つけとくよー!」
 フィーのライトニングウォールが前衛を包み、耐性を付与していく。
『どいつもこいつも、しっちゃかめっちゃかにしてやるぞ!』
 映写機ダモクレスは動きを封じられ、苛立つかのように巨大な魔力の奔流を前衛のケルベロスたちに放出した!
 映写機の前に巨大なエネルギーの光を感じて素早く動いた冬真とリムが千とイッパイアッテナをかばって前に出る。クラッシャーのザラキはそのまま魔力の攻撃を受けた。
「大地の力を今ここに――顕れ出でよ!」
 列攻撃を受けたイッパイアッテナがすかさずグラビティを籠めた刃を大地に突き立て周囲の仲間に癒しを与えた。攻撃を受けた三人の傷が癒されていく。ザラキは武器を具現化し向かっていった。
「何処に在す、此処に亡き君。鎮め沈めよ、眠りの底へ。形無くとも、届けと願い。境の竜よ、御霊を送れ」
 有理は映写機に込められた想い、喪失の哀しみを核とし掌から幻影竜を具現化させて鎮魂の響きを紡がせる。その響きは映写機ダモクレスに麻痺を施した。リムのブレスがさらにデバフを蓄積させていく。
「名画座か……有理と行ってみたかったな」
 妻たちの攻撃を後押しするかのように、冬真も半透明の御業に炎を乗せて放つ。
 喜びと悲しみを積んだ映写機は炎に巻かれながら、それでもまだまだシネマの音響を響かせ続ける。

●上映中
 映写機ダモクレスはなかなかしぶとく、ケルベロス達も苦戦を強いられていた。
「てやーっ!!!」
 千がルーンアックスを振り上げ、光り輝く呪力と共に振り下ろすが、映写機ダモクレスは体をひねってそれを避ける。
『残像だ』
「むむーっ! 残像なんか全然出てないのに! わかっててもなんか腹たつのだ!」
「千さん、熱くなったら負けですよ、ただの録音です」
 イッパイアッテナがぷんこぷんこと地団駄を踏む千をなだめつつ、千の与えられなかった飛び上がりざまの斧のダメージを映写機ダモクレスに与える。さらにザラキのガブリングが畳み掛けると、突然映写機ダモクレスがぐわっと振りかぶった!!
『甘く見られたものだ、まだまだ若いものには負けんぞ!』
 巨大な魔法光線が、上から飛び降りた慣性がまだ残っているイッパイアッテナに命中した!! じゅうと灼ける音と共に、衝撃で吹っ飛ぶイッパイアッテナ。
「藍は静謐と調和を齎す色。夜空の抱いた輝きは君が為……、ってね。イッパイアッテナさん、大丈夫かな」
 素早く反応したフィーが放り出され、地面に叩きつけられたイッパイアッテナの周りに藍色の液体を撒き、魔方陣を呼び出して加護を施す。焼け焦げ、脂肪がぶくぶくと沸騰したイッパイアッテナの皮膚が再生していく。
「ああ……助かりましたフィーさん、感謝します」
 頭を振って立ち上がると、イッパイアッテナは戦線に戻る。
「――終焉を」
 仲間の大怪我に少し動揺しながらも、冬真が哭切で映写機の頸部のつなぎ目を貫く。映写機は首をかしげてぶらんとバランスを崩した。
「そのままっ!」
 有理の古代語詠唱によって放たれた光線が映写機ダモクレスに当たり、そのアンバランスな姿勢で固定される。すかさずリムがブレスを放った。
『ネコチャンカワイイ! おじいちゃんは嬉しいぞぉ!』
「だんだん音声がバグって来ているような気がしませんか、なんでここで『ネコキャワの翁』?」
「首が曲がったのが原因かな」
 イッパイアッテナと冬真がひそひそと話す。アラサー同士知っている映画の音声らしいが他の若手のケルベロス達はポカンの顔。
「そんな作品があったなんて知らなかったな」
 新鮮、と有理が呟いた。
「ぬわーっ! かわいくないのだ! ほんとの可愛いネコチャンを千が見せてやるのだ!! 唸れ、らいおん丸!!」
 千がやる気をみなぎらせたライオン、通称「らいおん丸」の幻影を召喚! 千の両のこぶしに集まり、「にゃんグローブ」に変形する! 強力なパンチの弾幕をてんこてんこと連続で繰り出した!
 パンチの衝撃でどどどど、と映写機ダモクレスの外殻が肉球の形にへこみ、変形していく。
『ひじき! あびる! LOVE!』
 映写機ダモクレスの音声のバグりがどんどん加速していき、もはやなんの映画の音声なのかもわからなくなってきていた。もう少しだ。
「せめて、少しでも早く安らかな終焉を!」
 ちぎれかけた頸部に、再び冬真の哭切が突きたてられ、ちぎれた映写機は地面に叩きつけられてガシャンと潰れた。
『……fin……』
 最後に一言つぶやくと、ちぎれた映写機は煙をあげて動かなくなった。
「今の映画、僕知ってるよ。ちゃんと最後まで映写機だったよ」
 フィーが見下ろすそこにあるのは、確かにひとつの古い映写機だった。

●エンドロール
「怪我はない? 大丈夫?」
 まるで映画のクライマックスのように冬真が有理を抱き寄せる。
「私は大丈夫だよ、あなたがいつでも守ってくれるから」
 抱き寄せられながら、有理も冬真の傷を確認する。他のケルベロス達の怪我も気になったが、フィーがいるなら大丈夫かと任せたようだ。
「よーし、ちゃっちゃとヒールしちゃおうか!」
「みんなだいじょぶかー? 怪我ないかー? フィーがお片づけするなら千も手伝うぞ」
「貸し倉庫や道路に被害が残らぬよう、みんなでヒールしましょう」
 残りの三人もお互いを気遣い合い、後始末をした。
「ねえねえ! 名画座とは言わないけどさ、ミニシアターとか行ってみない? レトロな雰囲気が楽しめるかもよ? じゃーん、ちなみにこれが割引券」
 作戦終了の報告を終えたフィーがどこからともなく取り出した割引券に一同わっと沸き立つ。
「えっ、割引券。そんなものどうして?」
「内緒のツテで用意してもらっちゃった。おすすめは『大正浪漫御桜綺譚』だよ」
 フィーに感謝しつつ券を受け取ると、冬真は有理に向き直り、手を差し出した。
「有理、映画デートしませんか?」
「喜んで……」
 盛り上がる夫婦を尻目に、千にも券を渡すフィー。
「僕は千ちゃんと一緒にファンタジー冒険ものにしようかな! イッパイアッテナさんも一緒にどう?」
「むふー! ファンタジー冒険もの! わくわくである!! 映画の世界へごーなのだ! ポップコーンとコーラあるかな! 千もフィーと映画見たい! イッパイアッテナとザラキも一緒に行こう!」
「冒険映画? よいですな。お言葉に甘えてご一緒しましょう。あっフードメニューは私が!」
 ミニシアターの前で二手に別れ、各自の映画のホールに向かう。最後の音声、千も聞いたことあるかもしれないのだー、懐かしのアニメってテレビでやってましたのだ、などと喋る千の声とお別れして、冬真と有理は大正浪漫の世界へ赴く。

●妻よ、恋人よ、そしてシネマは続く
 フィーおすすめのレトロ映画はエモーショナルでなかなかにムードがあり、有理は大きな画面と重厚な音声に引き込まれ、冬真の手を握ったまま瞳を輝かせて見入っている。
(映画に没頭している妻の横顔は可愛い、けど、焼きもちを焼いてしまいそうだな……)
 冬真は自分も映画を見逃したくない気持ちよりも愛妻に「君のヒーローはここにいるんだぞ」と気を引きたい気持ちが勝って来ているのに気がついていた。
 チュ……。
 頬への感触に驚き有理が横を見ると、夫の妙に幼いいたずらっ子の顔と対面する。
(もう……冬真ったら……)
 有理は、スタッフロールに入ったら頬にキスのお返しをしてやろうと心に決める。そんな気持ちで迎えるクライマックスのキスシーンは、普段よりも心にぐっと響くものだった。

作者:星野ユキヒロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年9月26日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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