太陽が僕らを逃してくれない

作者:久澄零太

「ガッデムホット!!」
 わけのわからないシャウトで始まった今回のビルシャナさんは、九月も折り返し彼岸の頃合いだというのに、ブーメランパンツ一枚……分かるか? こいつ、水着なんだよ……!
「今や世間はすっかり秋! 町に出れば紅葉が彩り、スーパーに入ればキノコの大安売り、そして喫茶店ではマロンフェア!!」
 かーらーの、温度計バァン!
「しかし見よ! 気温は未だ夏日に等しい!! だというのに秋服だの、まして冬の先取りなぞあってよかろうかいやあるまい!」
 叩きつけた衝撃で亀裂が入った温度計を投げ捨てて、鳥オバケは叫ぶ。
「いくぞ同志達! たとえ秋でも、暑い以上は水着OKなのだぁあああ!!」
『イェスホット! ゴースイムウェア!!』

「みんな変た……大へ……」
 ぷるぷる、言葉を飲み込もうとする大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)だったが、最終的には。
「変態だったよ……!」
 机に崩れ落ち、コロコロと地図を広げてとある町外れの神社を示す。
「ここ、もう使われてないんだけど、暑い以上は水着を着たいってビルシャナが現れて、信者を増やそうとするの!」
「なんで水着……?」
「涼しいと思っちゃったんじゃないかな……」
 黒地に白い輪形の花の刺繍が入り、タイヤに見えなくも無い浴衣姿のクロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)が首を傾げる。トップは水着? 細けぇこたぁいいんだよ!!
「と、とにかく、信者は水着以外の涼しそうな格好を見せて、語れば目を覚ましてくれるよ! あと、暑いから水着を着たいって言ってるから、体を冷やす方法でもいいのかも?」
 小首を傾げつつ、ユキは四夜・凶(泡沫の華・en0169)を示して。
「今回は凶がついてくから、なんかいい感じにこき使ってね!」
「いやまって、俺がいて大丈夫なの?」
 収納できるとはいえ、地獄化した翼を持つ凶が震えるが、ユキは構わず続けて。
「敵に攻撃されると、水着姿にされちゃうから気をつけて! 当日はすっごいいい天気で暑くなって、水着姿にされたら日焼けが凄いことになっちゃうからね……!」
 番犬達に日焼け止めを渡し、ユキは拳を握る。
「確かに秋って感じはしないくらい暑いけど、負けずにバシッとやっちゃって!時間が余ったら、帰りに近くの商店街で秋スイーツを食べて来てもいいかも?」
 肌では感じられない秋を、舌で感じるのも悪く無いかもしれない……。


参加者
ルーク・アルカード(白麗・e04248)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
除・神月(猛拳・e16846)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)
クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)
ノアル・アコナイト(黒蝕のまほうつかい・e44471)
ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)

■リプレイ

●文字数足りない(切実)
「ありのまま起こったことを話すよ……」
 クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)は現場に向かう太陽機の窓に向かって呟いた。
「涼しくさせて秋の味覚を楽しむ依頼だと思ってたら脱ぐ脱がないの話になってたんだ。どういうことなの……」
「わ、私は脱ぎませんからね!必要なときにしか!」
 何かと肌面積の広いノアル・アコナイト(黒蝕のまほうつかい・e44471)ですら脱いでない枠。つまり?
「ななななんでそんな格好してるんだ!?」
 モフモフ系獣人であるが故に、赤面が分かりにくいルーク・アルカード(白麗・e04248)。しかし両手で顔を隠してるから初心なのが全く隠れてないのは秘密だ!
「敵の教義を聞いて思ったのです。シャツを着るよりかは水着の方が涼しい、しかし涼しさを求めるならば、もっと布地面積は減らすべきであると……しからば、ここは私がお手本を見せなければなるまいと」
 本日の元凶、シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)さんです。なんかもう、分かるだろ、話の流れ的に。
「暑くてしょーがねぇって言われたら、もう脱ぐしかねーよナァ!」
 除・神月(猛拳・e16846)!明言するんじゃない!そしてここで脱ぐな!!
「……これは、ユキちゃんも脱ぐ流れ?」
「ふにゃっ!?」
 エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)の迷言に白猫が振り向くと、手にはフリルをあしらった白いブラウスにコルセットタイプのハイウェストスカート。
「携行簡易更衣室もあるよ」
 キリッ。キメ顔のエヴァリーナだが、ユキは苦笑。
「サイズがあってないよ……?」
「あっ」
 じー、エヴァリーナはユキの胸を見るも、当の白猫は赤面しつつ。
「身長の話だよ!?」
 まあ十四センチ差はさすがに、ねぇ?
「着ないのー?」
 不満気な白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)がむくれつつ。
「まぁしょうがないか……今度、サイズが合った服を着た可愛いユキちゃんを見せてよん」
 珍しくノーセクハラな永代に疑念の眼差しを向ける白猫へ、永代は商店街のフェアのチラシを差し出し。
「ああ、ユキちゃん。秋スイーツお土産に買ってくるけど、どれいる?」
「全部」
 返答までコンマ数秒。この猫にスイーツの話をしたのが間違いである。
「そ、そっかー……頑張るよん」
 キラキラした期待の眼差しに圧を感じつつ、永代が降下していく……。


「たとえ秋でも、暑い以上は……」
「全裸ですね」
『教祖様ー!?』
 鳥さんが教えを説いてるのに、シフカが踏み潰して続きを横取り。両手を広げるも、謎の怨霊が隠してくれるから全年齢対象です。
「布地で覆われる面積が広ければ広い程暑くなる、つまり布地面積がゼロになる裸は水着よりも涼しい!……我ながら完璧な考えだと思うのですが、どうでしょうか?例え秋でも、暑い以上は全裸OKだと思いませんか?」
『アウトでしょ!?』
 シフカの問いかけに信者が総ツッコミ。
「何故?涼しければ水着でもいいのでしょう?」
「脱いだら服も下着もないだろ!?」
 騒ぐ信者達を黙らせたのは、シフカの隣に降下(鳥さんは犠牲になった)した除。
「たかが布の話でうるせぇナ。着てようと脱いでようと、体そのものが冷えないと意味ねーだロ?」
『確かに』
 核心を突いたコメントする全裸パンダに、もしや新手の信者なのだろうかと思ったのも束の間。
「やっぱ『死の恐怖』が一番冷えるんじゃねーかと思って提供しに来たゼ!」
 何言ってんの?って顔した信者の髪を、拳圧が揺らす。頬を掠めた除の拳に赤い線を残された信者が尻餅をついた。
「どうダ?涼しくなったカ?」
「体よりも肝が冷えたんだけど!?」
「駄目だよそんなの!」
 エヴァリーナがビニールプールを示して。
「水着を着たなら水で涼まなきゃ!」
「空気と水では熱の発散率が全く違っていてね?」
 遠回しに「風邪ひくわボケェ!?」とのたまう信者を、潤んだ瞳でチラッと見つめて。
「水も滴る恰好いい信者さんも……見たいな?」
「くっ……!」
 違う意味で心が折れた信者がプールに入った瞬間、気づいた。
「待ってこれただの水じゃな……」
「どーん!」
「ぷびゃぁああああ!?」
 エヴァリーナに突き飛ばされて水に落ちた信者が半狂乱で大暴れ。周りに飛び散る水がかかった信者は理解する。
「これハッカだ……」
 確かに涼感は得られるものだが、これ絶対濃度がおかしい。具体的には濃すぎて体感上は氷水レベル。
「やはり女は恐ろしい……!」
「水とお化けって相性がいいから、綺麗な幽霊さんがお嫁にきてくれたりするかも?」
「「待て」」
 エヴァリーナの一言でプールに向かった信者の肩を他の信者が掴む。
「放してくれ!俺はもう……もう……!」
「運が悪かっただけだって!」
「弄ばれたって言っても、高々数十万で……!」
 エヴァリーナさん。
「はい」
 信者の地雷ぶち抜いたけどどうすんのコレ?
「……エへ♪」
 笑ってごまかすんじゃねぇ!!
「毎度お馴染みのシャナはゴーイングマイウェイだな。秋の嗜みであるマロンフェア巡りの邪魔をするんじゃない」
 呆れて首を揺らすルーク。シフカと除という露出狂が二人いる関係で、顔を上げられない彼は地面に視線を落とし、忍装束のポケットに手を入れた立ち姿のまま。
「人の目が多い場所でそんな格好はいかがなものか。涼しげなオータムファッションもあるんだぞ」
「お前が言うなよ、何で忍者っぽい格好で堂々と姿を見せてるんだよ」
 全裸痴女二名を見ない為、顔の側面に手を添えて、結果信者達からは髪をかき上げるような動作に見えつつ。
「(これが戦闘服だから)着替える必要がないから、かな……」
「野郎ひん剥いてやる!」
「イケメン死すべし慈悲はない」
「何故だッ!?」
 裁ち鋏を構える信者一同に対し、痴女直視防止用サングラスをかけたルーク曰く。
「スキニーパンツにトップスにオープンカラーシャツとかどうだ?着熟し次第では大人びたかっこよさもだせるぞ」
 引き締まった黒のズボンに白いシャツ、その上からブラウンの襟元が開いたシャツを重ねてシックな装い……の、写真が載った雑誌を開くルーク。
「ほら、すぐそこに商店街もあるんだし、ファッションに拘ってもいいんじゃないか?」


「本当に暑い地域だとむしろ肌を隠すほうが涼しいんだってさ!体験してみよう!」
 手作りの熱帯地域体感キットを起動するクロウは、逃げるように機材の後ろへ。
「エアコンの要領で、周りの熱を吸収して送り出す仕様だから、後ろは涼しいんだ……」
 涼しいそよ風を受けてにゅるーんと溶けるクロウ、その反対側で。
「あちぃいいいい!?」
「てかライト眩しいんだけど!?」
「服があれば、布地があれば多少はダメージや熱を防げたというのか……!」
 何も見えない為しれっと信者に混ざり、地獄で信者を炙る永代が布面積の重要性の話をするも。
「日本でんなことしたら死ぬよ!?」
「暑い地域って、直射日光で肌が火傷するから厚着してるだけじゃないか……!」
 ここは日本であり、クロウの持ち出した例は国外の物。信者にしてみれば、「だからなんやねん」。
「私はこういう暑い時は翼を出して日陰を作ったり、尻尾でうちわを持って扇いだりしてますね~」
 などと微笑むノアルはベージュの肩出しワンピースニット&紫のストール&黒のガーターストッキングと、オータムファッション。怨霊たちもニット帽やマフラーで冬を先取り……これがまずかった。
「防寒具が浮いてるー!?」
 見えない信者にしてみれば、怪奇現象でしかないよね!!
「あえて熱いお茶を飲むと血流の流れが良くなったり発汗作用があったりでかえって涼しくなると聞いたことがあります!というわけで用意しました~」
 ガクブルし始めた信者へ湯気が湧きたつお茶をニッコリと給仕。どうみても火傷待ったなしなそれを前に信者が身構えるのだが。
「あれ、一杯多い……」
「やだなあ、後ろにもう一人いらっしゃるじゃないですか」
『!?』
 信者が一斉に振り向くが、そこには古びた神社。
「な、なんだ、驚かせやがって……」
 信者達が向き直る中、一人だけ違和感を覚えてジッと見つめていると。
「……」
 スッと、何か通った。
「い、今なんか……」
「何言ってんのさ同志、暑さでやられちゃった?」
 気配に気づいてしまった信者を、永代がプールに向けてシューッ!
「あびゃぁああ!?」
「まずは頭を冷やさなきゃダメダメねん」
 やれやれと永代は首を振るが……何かがおかしい。


「全裸こそが至高、全裸こそがクールなのです!」
「脱がす時の恥じらいとかがなくなるじゃん、そいつはちょーっと面白くないからねん」
「そうだゼ、どうせならひん剥いてやる方が面白いしナ!」
 シフカと永代の間で論争が勃発。喧嘩の気配に除まで悪ふざけして、水着派の信者が宥めるという有様。
「お前らはプロのヌーディストだとしても、そんな一握りの人しか生きられない世界の教えに誰がつき従うと思……」
「プロのヌーディストですか……斬新ですね。いえ、ある意味原点回帰とも言えるのでしょうか?原初の人類は着衣という文化はなかったみたいですし」
「ん?」
 信者が振り返るもそこには誰もいない。土下座したら全裸になってくれそうな女の子ことノアルの方を向くも。
「脱ぎませんよ!?というか、私は術の発動の為に肌を晒す必要があるから衣服を再構成しているだけで……!」
 多分違う。
「気のせいか……」
「みみみ見たんだ、神社の中に白い女が……」
 一方、こちらは完全に凍えて……もとい、怯えて膝を抱えた信者。
「口の端から血が零れてて、長すぎる黒髪がくっついて……!」
「まぁ落ち着きなよ」
 ポンポンとクロウが慰め、ワカクサが一発芸、『ピザの斜塔』を見せるも震えが止まらず話にならない。
「確かにあそこに……」
 示そうと、神社を見たときだった。じっと見つめる影が……。
「うわぁああああ!?」
 信者は逃げ出し、お巡りさんに捕まりパトカーへ。
「いきなりどうしたんだろう?」
 クロウが神社を見るも、ただの古びた社でしかない……。
「全く、何て連中だ!」
 クナイと鋏で格闘し、鎖帷子にダークスーツになってたルークと、栗の着ぐるみに進化した信者。
「何度切っても直しやがって……」
「ていうかなんで俺たちの水着が栗に?」
「ヒールすると幻想化するからなぁ……」
「既にマロンフェアで頭が一杯な証拠では?」
 最後のツッコミに互いの顔を見合わせて、三人とも喋ってない事を確認すると後ろを向く。が、誰も居なくて向き直ると。

 ――しくしく……私の事が見えないのですね……。

「「ぎゃぁあああああ!?」」
 突如聞こえた嗚咽に信者が逃げてしまった。
「やはり出るのか?結婚願望はあったけど嫁に貰われなかった娘の霊が……!」
(あの人は怖がってくれなさそうですね……)
 一人だけ荒ぶる信者を眺め、幽霊役として潜んでいたベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)は眉間にしわを寄せる。
「というか、そういう経緯があったのですか?」
 本物の地縛霊さんに確認を取るベルローズだが、幽霊さん曰く。
「ここ、元々はお寺でね……」
 話が長くなるから大雑把にまとめると、お坊さんに恋をした幽霊さんは実は両想いであったにも関わらず、一人で最期を迎えたとか。
「それが歪んであのような事に……」
 うわぁ……って顔のベルローズだが、信者が社に向かってくるではないか。
「いけない、一旦隠れないと……」
「あ、そこ床抜けるから」
「えっ」
 ズドォ!
「もっと早く言ってください……!」
「あなた細いから大丈夫かなって……」
 経年劣化した床を踏み抜き、足が嵌ったベルローズ。その背後で、ピシャッ。戸が開かれて。
「結婚しよう」
「えぇっ!?」
 ガッ!と肩を掴まれ、驚愕と恐怖からベルローズの目がぐるぐる。
「大丈夫、透き通るような白い肌も、銀に輝いて見えるグレイの瞳も、たおやかな体も……」
 ちらと、ベルローズの体を見た信者。
「り、立派な体も、昔ならいざ知らず、今なら凄く魅力的だから……!」
「今どこを見ました!?というか、私はまだ生きて」
「白無垢とは話が速い。いざ、式場へ……!」
「話を聞いてくださいー!?」
 肩と膝に手を回されて、抱き上げられたベルローズ。そのまま攫われていった……。


 というわけで突然の戦闘シーン!
「オラオラオラ、オラァ!」
 左右のフックで異形の頭を揺らし、アッパーで顎を打ち上げ胴体を蹴り飛ばす除。裸体にドラゴンタトゥーを走らせて、局部を黄金の光で隠し、瞳はケダモノの如く引き絞られる。
「テメェには武器すらもったいねェ……」
 輝く黄金は翼を形成、そこから武具を顕現させるも、その場に落し。
「私の拳で十分ダ!!」
 一足で既に拳は敵の腹の中。抉り込まれた拳圧に、嘴から血を噴き出して。
「こいつが私の仏恥義理ダ……オメェはブッ飛びなァ!!」
 振り抜いた拳に弾き飛ばされて、異形は空の彼方へ……。
「恐ろしい敵でしたね」
 ヴェルたん、と書かれたスク水姿でシフカは頷く。
「我々に水着を着せてくるとは……それを脱ぎ捨てる除さんにも驚きましたが」
「焼けましたよー」
「え」
 パッと、振り向くシフカにヘイドレクは思う。野菜に反応したのか、甘味に反応したのか……彼女が喜んでくれたのなら、それでいいか、と。
「ふふ、こんなにおっきくなっちゃって……」
 サツマイモがね。
「一体どれほど溜め込んだんでしょう……」
 栄養の話よ?
「いただきます」
 皮を剥いて、口に咥え込むシフカ。口内で暴れる熱に荒い吐息を溢しながらも、舌で搾り取る様にして味わい……食事シーンの詳細が気になる方は今後アトリエに並ぶ事を期待しましょう。
「確かにおっきい……」
 両手で支えた焼き芋を前に、感嘆の声を漏らすクロウ。口にすればジュワッと口内に甘味が広がる。繊維質のはずなのに、クリームか餡子のような舌触り。噛んだそばからとろけるそれは、果たして本当に芋なのかと疑いたくなるほどで。
「……て、ワカクサ!ちゃんとホイルと皮を剥いて!ペッしなさい!!」
 ふやけていたクロウの顔が、銀色に染まったワカクサを見て元に戻る。叱られたワカクサが吐き出したのは、銀色のミニワカクサ。
「ワカクサ……変な所で器用だよね」
 ジッと見つめていると、ミニワカクサは「やぁ」と前足を上げた。
「本当にいいお芋ですねぇ……こんなの、どこで手に入れたんですか?」
 二つに割った焼き芋の艶やかな黄金に目を輝かせるノアル。かぶりつき、ハフハフと白い吐息を見せれば。
「流通する中でも一際栄養を蓄えた大きいサイズを譲って頂いてまして。スカーレットオラトリオという品種だそうで」
「ほへ~……はうっ!?」
 気が付いたら食べ終えていたノアル。皮を見てフルフル。
(は、半分は四夜さんにあげるはずがー!?)
「あ、失礼」
「え?」
 ノアルの頬に、凶が触れる。ギュッと目をつぶるが、すぐに彼の手は離れて。
「ついてましたよ?」
「!?」
 焼き芋の欠片を取られ、赤面。欠片を凶が口にして。
「あ、これ早かったな……」
 焼き加減に眉を潜めた途端。
「……きゅう」
 キャパオーバーでシャットダウン。と、そこへ走って来たのは死装束からウェディングドレスにお色直ししたベルローズ。割と本気で逃げてきたらしき彼女は、荒ぶる呼吸を整えつつ。
「大学芋をお願いします……」
 既に戦闘が終わった事だけは理解した。一方その頃食べ歩き組は。
「モンブランにタルト、パルフェ……どれにしようか迷うな……」
「葡萄のレアチーズケーキと紅茶とか良いよねん。柿と南瓜とか、旬の食材を使ったプリンの詰め合わせとかもよさそー」
「よし!端から端までいこうか」
 永代が開くマップを覗き、迷った時間、わずか二秒である。ルークは商店街入り口のこじんまりした店に入っていく。
「ここ、大丈夫カ……?」
 除よ、マイクロビキニに呪紋浮かべて服に見せてるお前よりは大丈夫だ。狭い店内で待っていた一同の前に現れたのは。
「これが……モンブラン……だと?」
 ルークが驚きを隠せないのも無理はない。モンブランと言えば美しい線状のクリームに覆われて、栗がちょこんとのった可愛らしい物である。だが、目の前の物はどうだろう。スポンジの上に歪なクリームがどーん。
「美味しければいいよね!」
 固まる一同の中、エヴァリーナがもきゅ……一口で食べて、固まった。
「何これ……」
 クリームの歪さの正体は粗びきの栗。あえて雑に砕き、栗を甘さ控えめのクリームと一体化させながら栗自体の甘さとホクッとした食感を損なわない仕上がり。
「しかも和風ケーキになってる!」
 黒蜜を染みこませた抹茶ケーキは濃厚な甘味と深い苦みを持ち、栗クリームの淡い甘味を支え、より強い刺激を持つ甘味でありながら栗の香りを引き立たせる……。
「まるで、モンブランに栗を使うんじゃなくて、栗の為にモンブランを作ったような……」
「分かるか青二才」
 震えるルークに、鳥っぽい店主がギロリ。
「若ェ連中はケーキとアートを勘違いしてやがる。俺たちパティシエは、食材を輝かせる事を第一にしなきゃならねぇのにな……」
「だからひっでぇ見た目なんだナ」
「でもそれでお客さん入らなかったら意味ないよねん」
 除の言葉に微笑むおっさんだったが、永代の一言で撃沈するのだった。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年9月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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